闇夜の翼

「目的を答える気は?」
「………ありません」

それは美しいほどのエメラルドの瞳。
だからこそそれに光陰は違和感を感じていた。
……そう、目に光を宿しているのだ。
通常サーギオスのスピリットは神剣に完璧に飲み込まれるのが普通だ。
しかし、目の前の少女はきちんと理性を持った瞳をしている。

「サーギオスであることは否定しません。ですが、あなたは私たちの目的まで理解していないと考えられます。それを考慮し、敵に情報を提供する必要性は、ありません」
「そりゃそうだ。……そんじゃ力ずくと、いきますか!!」

萌黄色のオーラを展開する光陰に対しても、グリーンスピリットは表情一つ変えない。
そして、ハイロゥを展開した。
それを見、光陰の表情が驚愕に染まる。

「何だ……それは?」
「………答える必要はないです」














Intruder
36.wing of the night sky














ゴガッ!ゴッ!ガガガガガガガガ!!ガッ!ズガッ!ガゴア!!!

衝撃で草木はゆれ、近くにいた小動物たちはそこから走り去る。
打撃音を響かせながら両者は剣を抜かずに拳を交えていた。

―――次が入ったら、きめる!!!

真夜は右拳を叩き込む。
しかし、それを黒く長いストレートヘアーを持つブラックスピリットは右手で受け止めた。
すかさず放つ左を、真夜は受け止めそして弾く。
地面に生える雑草を踏み散らしながら、両者は一旦距離をとった。
そしてもう一度前進、一気に間合いを詰めようとしたシンヤに対し、少女が行った選択は、蹴り!

―――蹴撃系なら、お袋に嫌って言うほど喰らってんだよ!!

右から来るハイキックを腕で受けとめるが、来る痛みは微弱。
と、触れた瞬間圧がかかり、少女は真夜の腕に引っ掛けた足首から力を込め、一気に回転する。
そしてその勢いのまま回し蹴りを下顎目がけ叩き込んだ。

(きまって―――……)

吹っ飛びながら真夜は仰向けに倒れ―――

(―――ない!!)

“流旋”で蹴りを往なし、地面に水平になりながらも両足で体を支え、全身の筋肉を使い一気に起き上がる。
そしてそのままの勢いで握った拳を突き出した。

「だっっっらあ!!」

風の切る音と共に二つの拳は少女の体へと叩き込まれる。
しかし、その攻撃もインパクトが無い。
バックステップで後ろに下がり、打撃の威力を逸らされたのだと真夜は知る。
そのまま少女は後ろに下がり、真夜もそれを追わず、二人の間合いが再び開いた。

【出番なし?】
「相手が刀抜いてもいないのに、こっちが抜けるか」
【……頑固】
「嫌いになったか?」
【ううん。大好き】

そりゃよかった、と言いながら真夜は構え直す。
速いし判断力もいい。
単体で来訪者と殺り合おうとするだけはある。

「流石は【狂犬クレイジー・ハウンド】と呼ばれるだけはあるわね。重い上に速い、厄介だわ」
「その二つ名嫌いなんだよ。せめて【黄金漆黒ゴールド・アンド・ブラック】にしてくれ」

分かった、と言うと少女は刀を抜いた。

「……お前、名は?」
「………【死聖獣カルテット・オブ・エレメンツ】が一、カムイ・ブラックスピリット。この娘は第六位【白誇びゃっこ】」
「そうか。まあ知ってるだろうが、俺は真夜。こいつは【月詠】だ」
【……よろしく】
「聞こえんて」
【残念なの】

フッと笑うと真夜も【月詠】に手をかける。
そして逆手で抜刀し構えを取った。
牽制しながらも、真夜はカムイに問いかける。

「ハイロゥ、展開しないのか?」
「必要があれば」
「…そうかい。じゃあすぐにでも、出させてやるよ!!」

疾空アクセル”での0加速。
一気に間合いをつめた真夜は逆手から持ち直した【月詠】を振りぬく!
 

ギャガッギギギギギギ――――!!!


それを受け、両者は鍔迫り合いへ。
それも長くは続かず、刀と刀がぶつかり合う。


ギャガガガガガガガガ!!ッガガ!ギャゴア―――!!!!


不協和音が轟き、【月詠】と【白誇】が火花を散らす。
真夜とカムイ、両者の表情は……笑みだ。

「フッ―――」
「ハハッ―――!」
「「ハハハハハハハハハハ!!!」」

高揚する心、全力でぶつかり合えることへの喜び。
両者は互いの剣戟を避わし、往なし、受け止める。
一際大きな金属音と共に、両者の間合いは再び外れる。

「強いなお前!ここまで殺り合えるスピリットも久しぶりだ!!」
「そちらこそ流石ね。こうじゃなきゃ面白くないわ!!」

そう言うとカムイは背中に意識を集中させ始めた。
瞳を閉じ、力をイメージする。

「後一つ言っておく。私はスピリットじゃないわ」
「……何だと?」
「それの一つ上を行くもの。剣の呪縛から抜け出した存在。………スペリオルよ!!」

ハイロゥが展開された。
しかし、それに真夜は違和感を覚える。
その色は黒。
闇に溶け込むような、一片の白も混じらない純粋な漆黒。
そう、だからこそおかしい。
何故“理性を残して”いる?
瞳は以前輝きを残したまま。
それにこの数秒で一気に黒くなること自体まずない。

「……どういう、ことだよ?」
「答える必要はないわね。これから死に行くあなたに!!」

黒翼を展開したカムイの姿が掻き消える。
常人には捕らえきれないそれを、しかし真夜は捕捉していた。
月光色のオーラを展開し、発動する!

「“死季・春風桜花”!!」

大地に刀身を叩きつけ、そして溢れ出す桜の花びら。
それをカムイは避けながら、【白誇】を手に殺到する。
そして、背後に回り真夜の体を貫―――

「残像!?」

――――かない。
刺突が体を貫くと同時に、それは形を紅葉へと変える。
気配は……上!!

「<詠唱破棄スペル・ブレイク>、《夜天閃月》!!!」

詠唱をマナで削ったロスタイムゼロの超高速発動。
月光色を帯びたオーラの斬戟がカムイに殺到する。
それを漆黒のハイロゥを広げ、カムイは高速回避した。
更にこの間に詠唱を開始する。

「衝撃をもちて、彼の者を打ち倒せ。カオスインパクト!!」

放たれる漆黒の衝撃。
反応が一瞬遅れた真夜が、それに飲み込まれる。
体勢を立て直し、構えを取―――

「“死季――――……」
「―――っ!?」
「…冬牙穿撃”!!!!!!」

黒の波動を打ち払い、紅のオーラを身に纏いながら真夜が上空から刺突を放つ。
カムイはそれを回避。
そして自分がいた場所を見ると、そこには巨大な氷柱が生まれていた。
土煙から出てくる真夜は………無傷。

「…化け物………」
「知らなかったか?」

紅の瞳を輝かせ、真夜は再び構える。
“紅鬼”状態は以って数分、その前に一気に片をつける。
そう考え駆け出そうとしたとき―――

「そこまでだカムイ」

空から一人の少女が降りてくる。
その髪は青く、そして翼は吸い込まれそうな黒。

(新手か!?)

緊張を強める真夜を、しかし少女は一瞥するだけでカムイに剣を納めるよう促す。

「今回の任務は偵察だけだったはずだ。心配で来てみればこの有様か」
「レイン。これは……」
「言い訳はいい。どうせまた殺気をチラつかせて挑発したんだろう」

メルビスに止めるよう言っておくべきだったな、とレインと呼ばれた少女はため息をつく。

「この勝負、預けるぞ来訪者」
「逃げんのか?」
「挑発か?いくら【狂犬】とて二体一はきつかろう」
「………カムイ、後でこいつにも言っとけ。【狂犬】の二つ名は嫌いだ」
「分かったわよ」

そう言うと黒翼を展開し、空へと舞い上がる。

「決着はまた今度よ。またねシンヤ」
「ハッ!どっちにしろ俺が勝つさ」
「私よ」
「俺だ」

いい加減にしろ、とレインに頭を叩かれ、涙ぐみながらカムイは東の空へと消えていく。
緊張を解き“紅鬼”状態を止めると、日が西へ沈んでいることに気付いた。
……これでは追跡は不可能だな、と真夜は考える。
流石に去り際も考えているか。

「真夜!!」
「光陰、そっちは?」

【因果】を担ぎながら駆け寄ってくる光陰に真夜は問いかける。
それに対し光陰は首を横に振った。

「だめだ、いきなり赤いスピリット……いや、あいつらスペリオルって名乗ってたな。そいつが来て逃げられちまった」

超越せし者スペリオル、か。
一体何なんだ、と真夜は思考する。
しかし考えれば考えるほど仮説はありえない方向へと向かっていく。

「……取り敢えず、レスティーナに報告。そんでヨーティアに相談しよう。あいつなら何か分かるだろ」
「そうだな、あんま遅くなっても皆が心配するだろうし。……なあ、真夜」
「ニヤニヤすんな気持ち悪い」

アズマリアのことを言っているのだろう、確かにこれ以上遅くなると本気で心配する。
そう思った真夜は、首を振って一旦思考を停止した。
とにかくヨーティアのところに行こう、話はそれからだ。
一抹の嫌な予感を抱えながら、真夜は城への道を歩き出した。











<後書き>

第三十六話「闇夜の翼」

【死聖獣】登場の回。
のうちブルースピリットのレイン、ブラックスピリットのカムイ、グリーンスピリットのメルビスが登場しました。
まあ名前で大体の人数は予想できると思いますが、残りのメンバーもお楽しみに。

彼女たちの秘密も、次回明らかになる予定です。
真夜がチョッと戦闘狂っぽいですが、気にしないで上げてください(ぇー
こう「大人になりきれていない、戦いを楽しむ子供」な感じが真夜には最適だと思いこうなりました。
事実、殺す殺さないはともかく「戦うこと」は彼自身とても好きなようなので。
………それにしても初回に比べるとずいぶん変わりました。
これもいいにしろ悪いにしろ成長したんだと思います(書いてるのはお前だ

それでは次回もお楽しみにノシ

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