叩き潰せ!!!









日常とは何だ?
戦い、戦い、戦い続ける我らにとって、戦いこそが日常なのか?














Intruder
35.smash up!!!















「お~!これが城下か、初めて来たぞ!」
「そういやマリアは一回も降りたことなかったんだっけか?」

黒のワンピース姿の(恐らくレスティーナから貰ったのだろう)アズマリアが前を歩く。
場所はラキオスの城下町。
マロリガンとの戦いも終わり、サーギオスとの緊張状態に入ったとは言え、俺たちに出来ることはあまりない。
訓練はいつも通り消化すれば終わりだし、それが終わった後は特にすることもなく暇なものだ。
そして事務の仕事も一通り終え、暇を持て余していた俺に、アズマリアが声をかけた

『シンヤ、私は城下に行ってみたいぞ!』

それまでレスティーナの私室と詰所の行き来だけしていたお姫様は、とうとうそれにも飽きてしまったらしい。
そこで丁度手持ち無沙汰だった俺がここまで連れてきたのである。

「うむ、賑やかなものだな。イースペリアの頃も何度か行った事はあったが、ここはそれにも負けん」
「まあここら辺は一番賑わってるとこだからな。って、一人でウロチョロすんな」
「うん?そうだな、ここで迷うと私は帰れそうにない」

てっきり子ども扱いして怒るのかと思ったのだが、案外簡単に俺の言うとおりにする。
と、アズマリアが腕を絡めてきた。

「これで大丈夫だな」

少しだけ顔を赤らめ、アズマリアは俺に笑いかける。
……これが狙いか、とは思ったが口には出さない。
野郎なら話は別だが、女に腕を組まれて嫌がるほど、まだ俺は人間が出来ていない。
まあ傍から見たら兄妹ぐらいにしか見えないだろうし。

「………アレは何だ、シンヤ」
「ん?ああ、ヨフアルだよ。知らないか?」
「ラキオスの代表的なお菓子であろう?レスティがよく町に降りたときに買ってきてくれる」

知ってるならなんで聞くんだ?と一瞬思ったが、その視線ですぐに分かった。
食べたいんだろう、でもそれを素直に言うことができない。

「レスティは、焼き立てが一番だと言っていたな……」

聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声でそういうアズマリアに、苦笑してしまった。

「俺腹減ってきたんだけど、あそこのヨフアルでも買うか。アズマリアはどうする?」

極めてわざとらしい事この上ない。
だがそんな台詞にアズマリアは一瞬顔をほころばせた後、慌てて言った。

「そ、そうか?シンヤがどうしてもと言うなら食べてやらんことはない」
「はいはい」
「べ、別に私が食べたいわけではないからな!?」
「分かってるよ」

む~、と唸るアズマリアの頭を撫で、屋台の前に立つ。
そしてそこに立つ小太りな親父に声をかけた。

「親父、袋いっぱい貰えるか?」
「はいよ!……ん?そこの子は妹さんか?」

指をさされたアズマリアは偉そうに腕を組みそれに答える。

「違う。真夜は私を守る騎士だ!」
「ほうほう。そんじゃ騎士に守られたお姫様にはサービスしないとな!」

その様が気に入ったのか、屋台の親父はいっぱいの袋にヨフアルを二つのせる。

「い、いいのか?」
「きちんとあっちの兄ちゃんと分けて食べな」
「うむ!ありがとう!きっとこの店は繁盛するぞ!!」

そりゃありがたい、と笑う親父に俺は金を支払う。

「あんた、エトランジェだろ?」
「……?そうだが」
「あの子もかい?」
「いや。……問題あるのか?」
「いやいや、そうじゃない」

少しだけ睨みつけた俺に、親父は慌てて被りを振る。

「いや、そうじゃないなんて言えねえな。少し前までは俺もスピリットやらエトランジェには抵抗があった」
「………」
「でもな、レスティーナ様の言ってることが今はよく分かる気もするんだよ。俺たちと同じとは言えんかもしれんが、それでもあの娘達は根っ子の部分は俺たち人とかわらねえ。あんたを見てるとそう思うよ」
「………俺?」
「人とは違う。スピリットとも違う。それでもあんたらは、スピリットと一緒になって俺らを守ってくれてる。あんたらに出来て、俺らに出来ねえ理屈は無いわな」

話が長くなっちまったな、と親父は笑った。
それにつられて俺も笑みを浮かべる。
レスティーナ、お前のやり方、間違ってないみたいだぞ。

「俺たちに出来ることっちゃほんの少しかもしれないが、頑張ってくれ」
「ああ、親父も戦争終わる前に店潰すなよ?」

遠くでアズマリアの声がする。
喧しい!と怒る親父に笑いながら、俺は手を振ってそこを離れた。




Χ    Χ    Χ




「おお…確かに美味い」
「そりゃよかった」

場所はいつだったかレスティーナが教えてくれた高台。
そこに並んで腰を下ろし、アズマリアと俺はヨフアルに口をつける。

「ふむ、レスティが入れ込むのも少し分かるな。……アレはやりすぎだと思うが」
「アレって、どれぐらい凄いんだ?」
「備蓄している」
「………は?」
「買ってきたヨフアルをな、毎回毎回少しだけ残して貯めているのだ。そして駄目になる前に食べている」
「うっわぁ………」

そこまでするか……まあしそうだな。
チマチマと残したヨフアルを隠すレスティーナを思い浮かべ、思わず苦笑する。
その時、後ろから声がした。

「あれ、真夜じゃない?」
「ホントだ。おーい!」

後ろを振り返ると岬に光陰、悠人が立っている。

「ん?どうしたんだ三人で」
「ああ、俺と今日子はここら辺疎いからな。悠人に頼んで観光がてら降りてきたんだ」

と言いつつ光陰の目は俺ではなく隣にいるアズマリアに向けられている。
この真性ロリコン破戒僧が………

「うを、また可愛い子連れてるな。君、名前は?」

そういってにじり寄る光陰。
それより早く、岬のハリセンが炸裂する!!

「何やってんのよあんたはああぁぁぁ!!!」

バシィッ!!といい音を立てて光陰が吹っ飛ぶ。
しかし、今のは―――

「跳んで、威力を弱らせた!?」
「はははは!甘いぞ今日子!!俺が何時までも同じ技を受け続けると「ドラゴンバズーカァァァァ!!!!」ギャアァァァ!!!」

躊躇いなく繰り出された俺の蹴りが光陰の顔面にめり込む。

「―――悪は滅びた」
「また綺麗に飛んだな……」

余韻に浸る俺と、吹き飛ばされた光陰を眺める悠人をよそに、岬がアズマリアに話しかける。

「それで、あなたのお名前は?」
「うむ!私はアズマリア・セイラス・イースペリアだ。貴様とは初見だったな【空虚】の主」

ズバッとはっきり、アズマリアは岬にそう告げる。
……マズイ、岬が震えている。

「か、か、……」
「………カボス?」
「可愛い~~~~~!!」

そう言うとハシッ!とアズマリアに抱きついた。
嫌がるかとも思ったが、意外にもアズマリアは何も言わずされるがままになっている。
つーか、可愛いのか今のが。

「アズマリアか~。ねえねえ、そのヨフアル一つ貰ってもいい?」
「いいが……真夜の分もちゃんと残してもらわなければ困る」

大丈夫大丈夫、と言いながら一つ手に取る。
ふむ、初めての割にアズマリアも警戒していないようだし、あの二人は気が合うようだ

し~ん~や~~
「嫌なデジャヴュ!!?」

蹴り飛ばしたはずの光陰がいつの間にか俺の脚を掴んでいた。

「誰だあの子は、俺のいない間にネリーちゃんやシアーちゃん、ニムントールちゃんはおろか、あんな可愛らしい子まで手篭めにしやがって!」
「今出てきた人物をもう一度よく吟味しろこの破戒僧。手篭めにしてねえし」
「で、結局誰なんだよ?」
「………だから」







「HaHaHaHaHa。真夜、いくら俺と同じ道を歩みたくないからと言って嘘はいかんぞ嘘は」
「ホントなんだって。なあ悠人」
「……あ、ああ」
「何で歯切れ悪いの!?」

否定したいけど、と言う悠人を取り敢えず一発殴っておく。
つーかこいつは色々俺を誤解している節があるようだ。
今回の『でーと』もよくよく聞けば悠人の入れ知恵らしいし……
人のことより自分のことをやれこの鈍感野郎。

「にしてもあれが女王ねえ……」
「まあ最初は誰も信じないさ。俺も初めは何言ってんだと思ったし」
「ほう?それにしてもよく懐いてるじゃないか」
「…色々あったんだよ。色々」
「そう、イースペリアのマナ消失があったその晩―――」

再び起き上がり喋りだした悠人を殴り倒す。
【再生】に誓って言わしてもらうが、俺は何もしていない。


チリッ―――――


「……真夜」
「おう」

光陰と目配せすると、そろって俺たちは立ち上がった。
それを見た岬が驚いて聞いてくる。

「ど、どうしたのよ。光陰、真夜」
「今日子。悪いがアズマリアちゃんと悠人連れて先に帰っててくれるか?」
「いいけど………何、またアタシのいないとこで悪さしようってんじゃ―――」
「ないない。真夜も一緒に行くから、頼むよ」
「……しょうがないわね」

しぶしぶ頷くと岬は寝ている悠人をたたき起こし、その場を後にしようとする。
すると、握っていた岬の手を離し、アズマリアがこちらに駆け寄ってきた。

「シンヤ、大丈夫か?」
「………安心しろ、帰ってハリオンの手伝いしてな」
「……分かった。だが、またいなくなったりはしないな?」

不安なのか、俺がまたいなくなるのかと。
それほどまで、俺はこの娘の心を占めている。
あの時俺が、ただ一人を失うことを恐れたように。

「大丈夫だよ。チョッと光陰と二人で動くだけだ。何するわけでもない」

それでも不安そうにするアズマリアに苦笑し、俺はゆっくりと抱き寄せる。
そしてポンポンっと赤子をあやす様に背中を叩いてやった。

「大丈夫だ」
「………うん」

よし!と頭を撫でてやると、未だ瞳に不安の色を浮かべながら岬の下へと駆け出した。

「人前でよくやるなあ」
「五月蝿え。それより行くぞ」

おう、と言う声と共に、俺と光陰はそろって歩き出した。




Χ    Χ    Χ




人気のない道を、真夜と光陰は歩く。
足音は二人のものだけ。
しかし―――

「数は……2人か。舐められたもんだ」
「一対一で潰すか」

2人は感づいていた。
“何か”が2人の後を追跡しているのを。
ククッと真夜は小さく笑う。
声には出さないが光陰も口には笑みが浮かんでいた。

「よかったな」
「ああ、本当に」

この顔を見たら、アズマリアはどう思うだろうな、と真夜は考える。
そして気付いた。
自分も、知らないうちに彼女の存在を気にかけていることを。
そして、内なる殺意を開放した。

「アズマリアたちを、連れてこなくてよかった」

周囲の景色が、一瞬暗くなる錯覚。
同時に放たれる殺気。
濃密で、暗く重い殺意が辺り一帯を埋め尽くす。
そう、それはまさしく“殺しの気”だ。
常人なら…いや、訓練不足ならスピリットでさえもこの空間を取り巻く圧倒的な気に当てられ、生命活動を停止させられるだろう。
そして内に秘めた闘争本能に火がつく。
光陰と真夜は目配せをすると……正反対の方向に走り出した。

「――――!!」

影は動く。
殺意の開放と共に二手に分かれた標的を追う為、こちらも分かれて行動することを選択する。
片方は、今左に折れた黒髪の少年を。

駆ける。
その先にあるのは森だ。
鬱蒼と生い茂る草木を見、そして対象を補足しようとしたところで

「――――!!!」

死角からの攻撃に影はとっさに回避行動に出る。
攻撃してきた相手は、自分が今追っていた少年。

「………誰だ、と聞く気はないの?」
「聞いて言うならそうするが?」

真夜はそう言いながら相手を観察、するまでもない。
見慣れた三蛇首の紋章、サーギオスだ。

「尋問やら何やらは光陰に任せる。俺の仕事は、向かってくる敵をブチのめす。それだけだ!!」
「…成る程、分かりやすくていいわね!!」







手にした【因果】を頭上で回し、構えをとる。
それに対し、金髪をツインテールにした少女は三又の槍を持ち替えた。

「そんじゃ、色々聞かせてもらえるかな。サーギオスのスピリットさん?」
「…………拒否します」

遠く響く打撃音を合図に、両者は動き出す。












<後書き>

四章突入直後、戦闘が始まった第三十五話「叩き潰せ!!!」

光陰と真夜のみとなりますが、その訳は2人が真剣の気配を察知したわけでなく、敵の殺気(ごく小さいものですが)を感じ取ったからです。
今日子は長い間【空虚】に飲まれていましたし、悠人は主に真剣の気配を感じ取っていますから。
対照的に、現実世界で武術を習っていた光陰や、曲がりなりにも幼少から鍛えられ、喧嘩ばかりしていた真夜だからこそ気付けたんです。
うん、そういうことにしといてください(ぇー

真夜の言っていた「デジャヴュ」は一話参照のこと。

加熱するバトルと、動き出した物語をどうぞお楽しみに。

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