PAST―「秋」
「ま、まてお前ら。落ち着け、落ち着いて話し合おう……」
「十分落ち着いてるよ〜?だからシン君、覚悟を決めよ?」
どんな覚悟だよ、と思いながら周囲を囲む女子たちを見る。
その中の一人、静音に助けを求めようとして―――
「……がんば」
「くそう、神も仏もいないのか……!」
360度どこを見回しても敵だらけ
これが四面楚歌か、と思う暇も、無かった
「いや、やめ!い〜〜〜や〜〜〜〜〜〜!!!!!」
before「Intruder」
PAST
〜autumn〜
Festival!!!
「うううう………」
「泣かない泣かない。似合ってるわよ神凪君」
「嬉しくねえよ!!」
またまたぁ、と笑う我がクラスの学級委員(自分からなるやつを始めて見た)北原・真耶は肩を叩いてくる。
『文化祭』、中学高校とあるそれはもう一週間と差し迫ってきていた。
もちろん俺たちのクラスも何かをしなければいけないわけで(面倒臭え)姫花、静音という超強力戦力が居るうちは、所謂「メイド喫茶」なるものを開くことが決まった。
わざわざ言うつもりは無いのだが、この学校の教師たちはそれを止めようとしなかったのだろうか。
………姫花と静音のメイド服見たさか。
とまあそれはいい。
いや、いいのかは分からんが、とにかく俺はかわいらしい服を着た女子目当てにワラワラと寄ってくる漢たちに、材料費の数倍に金額設定されたコーヒーや、簡単な料理を作っていればいいだけだ。
……その筈だったのに
「な・ん・で!!俺がメイド服を着にゃならんのだ!!?」
「いいじゃない、カツラかぶったらホント女の子と見間違うわよ。……才能あるわね」
「何のだよ!?」
クラスに溶け込めたのはいい、それは姫花たちのおかげだろう。
だが、これは少々行き過ぎではなかろうか。
「う〜ん……」
「…何だよ姫花」
「シン君って…実は女の子?」
「んな訳あるかあぁぁぁ!!!」
その時後ろから扉を開いて追い出されていた男子たちが帰ってくる。
その先頭は、あろう事か健吾。
ポカンとした表情でこっちを見ている。
「あー、健吾。これにはマリファナ海溝も真っ青な事情が……」
「………お」
「お?」
「お付き合いして下さ「やかましいぃぃぃ!!」ギャーーーーー!!」
・
・
・
・
・
「大体俺は調理班なんだから服着る必要すらないだろうが」
「う〜ん、残念。給仕する気は?」
「あると思うのか……?」
「まあそれは追々決定するとして」
やらねえよ、と言う俺をスルーして北原は続ける。
「静音ちゃんなんだけど、調理班に行きたいそうなのよ」
「………はぁ?」
とりあえず、姫花とメイド服を着たまま(因みに俺はすぐ着替えた。当たり前だ)喋っている静音を呼び出す。
「思い切りメイド服なんだが、お前調理班やりたいのか?」
無言でコクリと頷く。
「でもなあ…コーヒーっつって黒酢差し出すやつだからな……」
「……今度は、ちゃんと暖める」
「なお悪いわ!!!」
とは言え静音はうちの要の一人だ、出来れば前に出ていてほしい。
その思いを察したのか、静音は首をかしげる。
「…真夜は……私のメイド服、見たい?」
「俺はどうとして、お前のその格好を見たいやつは余るほどいるだろうな」
「その方が、真夜は助かる?」
「正直に言えばな」
いくら可愛いからと言って料理がとんでもない物だと客は寄ってこない。
それに静音は性格には少々問題があるが、見た目は雑誌に載っているモデルにも引けをとらないほど良いのだ。
しばらく考えていたようだが、ひとしきり考えた後静音は頷いた。
「…真夜が言うなら……メイドでいい」
「悪いな、今度何か奢るからさ」
甘味堂、とだけ言って静音はまた姫花のところに戻っていった。
静音の好きな和菓子屋のことだ。
「モテモテね〜、この色男!」
「んなんじゃねえよ。それより、残りの配置もさっさと決めるぞ」
Χ Χ Χ
「楽しみだね」
「嬉しそうだな、お前は」
うん!と姫花は楽しそうに飾り付けを行う。
よほど気に入ったのか、当日着るメイド服を何度も着ているようだ。
「前日まで着てきて洗濯出来なかったとか言うなよ」
「分かってるよー、私そんなドジじゃないもん!」
どうだか、と思いながら折り紙で作った飾りをまた一つ教室の壁に貼り付けた。
「みんなでこうやって何かしてるときって、すごいワクワクするんだ。シン君は違う?」
「……いや、違わない」
一年二年は準備どころか面倒で当日すら行っていなかった。
場違い、だと思ったのだ。
誰かと一緒にいろいろなところを回り、さして美味くも無い模擬店の飯を食べ、盛り上がる。
それは自分とは無縁の場所だと思っていた。
そう、これまでもこれからもずっと……
でも―――
「ありがとな」
「ん?何?」
「いや、何でもねえ」
「え〜、気になるなあ。なになに〜〜!?」
姫花が変えてくれた。
俺の世界を、俺自身を。
“俺”という空虚な器を、満たしてくれた。
自分でも信じられないぐらい、今の俺は変わっている。
「ほら、早く終わらせてパフェでも食いに行こうぜ」
「シン君の奢り?」
「んな訳あるか」
そう、こんな風に、この娘の隣だと笑っていられる。
俺の顔を見て、姫花がくすぐったそうに笑った。
「シン君、変わったね」
「ん、そうか?」
「うん。今のシン君、すごく楽しそうだった。私、今のシン君のほうが好きだな」
“好き”と言う言葉に、少しだけ胸がドキリとする。
えへへ、と笑う姫花を見ながら、その動揺を知られたくなくて、俺は乱暴に立ち上がった。
「そうだな…俺も、嫌いじゃない」
それが自分のことなのか、それとも隣にいる少女のことなのか。
答えは自分でも分からなかった。
Χ Χ Χ
そしてやってきた文化祭当日
「な・ん・で!!俺はメイド服で飯を作ってんだ――――!!?責任者出て来いコラア!!!」
「五月蝿いわねえ、もぐわよ?」
「何を!?」
つーか何この公開羞恥プレイ!?
と叫びたくなる状況が俺の目の前で展開されている。
「持ってくるのがメイドさん。作ってるのもメイドさん。二段構えで完璧だと思わない?」
「知・る・か!!」
「いいじゃないの、わざわざヒメとシフト合わせて上げたのよ?その対価だと思いなさい」
この学級委員長は良心と言うものを持ち合わせていないらしい。
「喋んなきゃバレないわよ。それじゃよろしくね〜」と言って給仕に戻っていった北原を恨みつつ、作業を続行する。
……見られてる、見られてるよ
「うわ、誰あいつ?あんな娘このクラスにいたか?」
いるけどいないんだよ馬鹿野郎。
「こっちこないかなあ。写真は、駄目だったよな。残念だな〜」
禁止にしてくれてホント助かったよ。
仮に撮られたとしても即破棄させるが。
「分かってる。あいつは、あいつは……だ・け・ど〜〜〜〜〜!!!」
健吾、お前は何でここに来てるんだよ。
繁盛する分は構わないが、何故か『謎のメイドさん』と話題を集めているらしく、姫花や静音ではなく俺を見に来ている男共もいるらしい。
中でも一番驚いたのが姫花のファンの連中まで俺を見に来ていることだった。
「お、俺はなぜあの女性の存在に気付かなかった……」
と言っていたファンの一人にぜひ言ってやりたかった。
女性じゃねえし、いつもは殺気を孕んだ目で見てるじゃねえか。
とにかく、この状況はなんともならない。
今はただこの苦境に耐え、終わるのを待つしか―――
ガシャ――――ンッ!!
どうやら、神は俺を見放すらしい。
思わずため息を落とした。
・
・
・
・
「えと、その……困ります」
「いいじゃんいいじゃん、暇でしょ?俺たちと遊ぼうよ?」
状況、姫花が男に腕を掴まれている。
俺たちの中学は一般公開がされているので近所の人間も入れるのだ。
見た目からして、相手は高校生だろう。
「その格好でいいからさ?いこうぜ?」
「大丈夫だって、何もしないから」
「そうそう」
数は…3か
このての奴はまだ数人仲間がいると考えた方がいい。
……まあ、何人いようと関係ないが。
「あん?何だお前」
姫花を掴む手を払い、間に立つ俺を見た金髪は、一瞬訝しげな目でこちらを見るが、すぐに下卑た笑みを見せる。
そんな目で、姫花を見たのか。
そんな笑みで、姫花に笑いかけたのか。
「何だよ、連れてって欲しいわけ?だったら早く「五月蝿い」……あん?」
「さっさと消えろ。殺すぞ」
思い切り睨みつける。
女だと思っていた相手が、男の声で喋った所為か、最初のうち金髪は驚いていたようだが、すぐに可笑しそうに笑い出した。
「ははっ!何だお前、男かよ!?何その格好!?」
「聞こえなかったか?」
血が沸き立つ感覚。
久しぶりに騒ぐ闘争本能。
忘れていた、姫花が忘れさせてくれた“あの時”の俺が表に現れようとする。
だが構わないと思った。
これでまた恐れられようと、姫花にすら嫌われても構わない。
俺が大事だと、大切だと思ったものに何かするというのなら―――
「さっさと消えろと言った筈だが?」
俺は鬼にだってなってやる。
「…面白え。1体3だが、文句言うなよ?」
「誰が一人だって?」
その時、聞き覚えのある声が聞こえた。
声の先は健吾。
そして―――
「クラス全員大集合だ。40対3だが、文句ないよな?」
俺と金髪たちを取り囲むようにクラスメートたちが立っている。
「最近は携帯も普及していい時代になりましたなあ。メール送信一発で全員集合だ。無理すんなよ真夜」
「健…吾……」
「俺とお前は親友だろ。こういう時こそ親友ってのは頼りにならないとな」
「………ありがとう」
「や、止めろ。その格好で言われると俺の精神状態が……!!」
いくぞ、と言って金髪は教室から消える。
その瞬間教室中が歓声に包まれた。
ハイタッチする皆をよそに、俺は姫花の方を向く。
「……姫花」
「ありがとうシン君」
「いや、でも俺」
パンッ!!
乾いた音が部屋に響く。
俺を、姫花が叩いたのだ。
静寂に包まれる教室の中、姫花が口を開く。
「喧嘩しようとしたから、これはその罰。でも、ありがとうシン君。すごい、嬉しかったよ」
「………ごめん」
「だから、もういいよ」
そう言って抱きしめると、まるで子供をあやす様に背中をポンポンと叩く。
よかった、嫌われていなくてと、純粋にそう思った。
構わないと思っていたのに、怒りがさめた瞬間怖くなった。
他の誰に恐れられても構わないと思ったのに、ただこの少女に、雨宮・姫花に嫌われると思うだけで、こんなにも自分は恐怖するのか。
はやし立てる声も、何も聞こえない。
抱きしめてくれる姫花の心臓の音だけが俺の心に響いていた。
Χ Χ Χ
煌煌と、夜の闇を炎が照らす。
中学生の文化祭には無いんじゃないだろうかと思うような大人三人分ほどの高さはあるキャンプファイヤー。
後夜祭の、学生たちだけが見ることの出来る特権だ。
「……焼き芋焼けるかな」
「ホントにやるなよ?」
ダンスに混じらず、俺と姫花は二人で草場に腰を下ろしていた。
横顔は、炎の光でオレンジ色を差している。
あれから結局俺の正体がばれ、ひと悶着あったのだが、それはまあ…いいだろう。
「終っちゃうね」
「そうだな」
ダンスも佳境だろう。
キャンプファイヤーの火も、最初ほど大きくない。
「これが終わったら、受験があって、それで……みんなバラバラだね」
静音は女子高、健吾は関西へ。
俺と姫花が行こうとしている浅見ヶ丘も、進むものが多いわけではない。
それでも……
「俺は、お前の隣にいる」
「……うん」
これが、俺が姫花に言ってやれる精一杯。
くさい台詞の一つでも言えればいいのだろうが、俺にそれだけの度胸も無い。
ただ、そうありたい。
そうでいたい。
これからも、姫花の隣にい続けたい。
この気持ちが恋なのかどうかは分からないが、それでも俺はそう思っている。
「ほら、行こうぜ」
「ふぇ?」
立ち上がって手を差し伸べる。
「中学の思い出に、一踊りでもどうだ?」
「………うん!」
小さな手が、俺の手を握り締めた。
秋、紅葉が舞い散る季節
ただその日常が穏やか過ぎて、暖か過ぎて
だから、そんな日常が崩れるなんて、思ってもいなかったんだ
姫花が倒れたのは、雪のちらつく一月の事だった
<後書き>
恐らくPAST史上最長のお話になったと思います、「過去〜秋篇〜」
残すところ最後の冬篇のみ。
Intruderともども最後までお付き合いをお願いします。
さて、今回のお話ですが……RADWIMPSの「ふたりごと」を聞きながら読んでみてください。
今回のテーマは「君と僕」、この歌にその全てが集約されています
真夜メイド化は最初から考えていたものです。
はい、馬鹿です。お願いだから石投げないで!!
春、夏、ときて大分真夜も落ち着いてきました、ほとんどIntruderと遜色ない。
ないとすればボケ要素ですね、彼は過去ではほとんどツッコミ役ですから。
というか彼にツッコンでもらわないと、ボケが流れて行ってしまう(w
心理描写にも気をつけてみました。
主人公の視点だとこの内面描写がものをいうのだと、改めて分かりました。
逆に第三視点だと全体的にものを見回せられる感じがして、個人的にはこちらの方が自分にはあっているよう。
「Intruder」は普段→真夜視点、戦闘→第三視点と分けているので、このやり方は意外とよかったかもと自分で自分を褒めてみたり(ぇー
長くなりましたが、第四章もお楽しみに。
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