夜想曲
マロリガンの戦後処理を一般兵に任せて、俺たちスピリット隊はラキオスへと帰還していた。
そこで待っていたのは市民たちの歓声と歓迎。
凱旋するスピリットたちも、悠人も面食らって立ち止まってしまっていた。
「な、何か凄いな……」
「堂々としとけよ悠人、何てったって勇者様なんだからよ」
「ま、マナ暴走を止めたのはお前だろ?」
「皆さーん!ここにいるのが大陸を救った勇者様ですよー!!」
「うわっ、汚ねえ!面倒臭いの全部押し付けようとしてやがる!!!」
「はははは!何とでも言うがいいさ!!」
そう言って悠人を人ごみの中に突き飛ばす。
「この、真夜!うわ、ちょ!何処触ってんの!?」
じゃあな悠人、お前のことは忘れない。
そう心の中で呟きながら合掌していると人ごみが二つに分たれていく。
何だ?と思い見てみると、そこから一人の少女が走ってきた。
「シンヤ!!」
「アズ…マリア!?」
ドレスの裾を持ち上げながら必死に駆けてきたアズマリアが、思い切り抱きついてくる。
周囲の人たちはそれを見てニヤニヤしていた。
「お、おいマリア。ここはチョッと―――」
「よかった……」
ギュッとコートを握る手が握り締められる。
「恐かった…シンヤが死ぬわけないと……思っても、心でどこか…また、いなくなるのではないかと……カルマのように」
「……そっか、ごめんな」
そう言って俺は抱きしめ返してやる。
一瞬の羞恥も、この娘が安心できると言うなら我慢しよう。
この子を悲しませたりしないと、あのすべてが消え去った日に誓ったのだから。
「ただいま……」
Intruder
34.nocturne^end of desert battle^
「つー訳で、俺も悠人と一緒でハイペリアにいたんだ」
「なるほどねえ、イオの【理想】で居所が掴めないわけだ」
通常時の三倍は汚くなっているヨーティアの部屋で報告を終える。
足の踏み場もないというより、本が床になっているというのが正しいのが現状だ。
因みにここにいるのはアズマリア、ヨーティア、イオの三人。
レスティーナは光陰から事情聴取を行うためにここにはいない。
「すまない、心配かけた」
「私はいいんだけどねぇ……」
チラッとヨーティアが視線をよこすと、その先には……
「心配しました」
「あー、イオ。本当にごめん」
「心配しました」
「いや、だからさ……」
「心配しました」
完全完璧に怒ってる……
恐い、つーかヤバイ。
「ま、マリア。この状況を打破する秘策は?」
「地に這いつくばって謝り倒すしかあるまい」
「いや、押し倒せ。漢だったら態度で示せ」
そこに光陰が割って入った。
…………ておい
「何さり気無く登場してやがるーーーー!!!!」
「ぎゃーーー!!こ、これは伝説の卍固め!!!?」
・
・
・
・
・
「いつつつ…間接が外れるかと思ったぞ……」
「………ちっ」
「あんれ〜、いま思い切り舌打ちされた気がしたのは気のせいか?」
「ははははは。いや、いっそ外れちまえばよかったと思っただけだ」
「せめてフォローしろよ!?」
全く…と唸りながら本の椅子に座り直す。
「聴取は終了か?早いな……」
「この俺の華麗な話術にかかれば聴取なんざアッという間だ。クォーリンに任せたのもあるが」
「いや、理由は後半だろ」
【翠緑の稲妻】をそんな事に使いやがって……
「まああれだ、イオちゃんだっけか?真夜はこの通り鈍くて鈍くて今も『心配かけちまって悪かった』ぐらいにしか思ってないわけよ。酷いとは思うが許してやっちゃくれないか?」
誰が鈍いだ誰が
【……事実】
「……そうですね、分かりました」
………納得されるとどうしようもないな。
俺ってそんなに鈍いのか?ヘコむなぁ……
「それよか真夜、何なんだよあの<紅鬼>ってのは。バカみたいに殺気まき散らしやがって、ちびるぞ」
「勝手にちびれ、そして岬にでも泣きついてろ」
「馬鹿野郎、そんな醜態晒せるか。それで、どうなんだ実際?“あれ”は」
俺と光陰の会話から察したのか、前に座る三人が真剣な表情でこちらを見てくる。
まあ心配かけたし、何も言わない訳にもいかないだろう。
「何処から話したらいいんだかなあ………実はな―――」
] ] ]
「ふぅ……」
夜になってしまった黒の空を見つめながら溜息を漏らす。
取り敢えず四人にはエリシアのことを話し、イリスがイオに瓜二つであった事を除いてある程度の事は話した。
イリスの事は…正直最後まで聞くことが出来なかった。
ただ、あいつはエリシアの細胞の一部で作り出したスピリット(ミニオンと言うらしいが)であるらしい。
それ以上のことは秘密、と言うことだそうだ。
(秘密…ってことは、また会うこともあるってことか?)
エリシアが俺たち【来訪者】とは違った存在だというのは何となく感じている。
近いとすれば……そう、タキオスのオッサンだ。
自分とは隔絶した圧倒的な存在。
会った時は感じなかったが、【来訪者】である今は分かる。
あいつとサシで殺り合えば、確実に骨すら残さず消し飛ばされる。
光陰は途中クォーリンに引っ張られ聴取のためにレスティーナの元に帰り、アズマリアもここ数日寝ていないらしく暫くすると眠りこけてしまった。
今は俺一人で詰所へと帰っているところだ。
「クェド・ギン……か」
去り際の一言をヨーティアに告げると、イオに促され退室させられてしまった。
だが、あれは……
「泣いてた…よな……」
―――そして、俺を倒した時は、俺の遺志を継いでくれ。
あの時の言葉を思い出し舌打ちした。
そんなのは自分でやれ、と言ってやりたくなる。
あの男が何を知っていたのかは知らないが、確実に言えるのはアイツが俺なんかよりずっと真理に近かったと言う事だけだ。
「潔く死ぬより、這いずってでも生きろよ……」
今はいない、空へと消えた男に向けて、届きもしない愚痴をこぼす。
「格好よ過ぎんだよ、こん畜生」
冷たいく降り注ぐ月光と、空へと伸びる白のマナ蛍の光だけが、黒く塗り潰された夜空を煌々と照らしていた。
Code:3 「each fight each thought」 End
to be continued next stage ....
黒き翼が世界を覆う
【死聖獣】と【来訪者】
対峙する【求め】と【誓い】
そして、【剣聖】……
描かれたシナリオは、今終焉へと向かい行く
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