セカイノオワリ
「アタシ、殺しちゃったよ!スピリット達、一杯!一杯だよ!!それに人だって……!!!佳織ちゃんのためとか、そんなんじゃなくて!唯!自分のために!!!」
「だったら、償えばいい」
未だ鳴り止まない【求め】の声にあがらいながら、悠人はゆっくりと今日子に向けて告げる。
「俺も、殺したよ。屍で山ができるほど。最初はこう思ってた。“佳織を救うためには仕方が無いんだ”って」
だけど、と続ける。
「佳織のためって、自分に言い訳するのは止めたんだ。そんなの殺された奴等には関係ない。今日子も俺も違わない、唯の殺戮者だ。………だけど、だから、償っていこうと思う。犯してきた咎の数だけ」
傷がしみる。
空が赤らんできた所為か、気温も少し落ち着いてきた。
「気張るなって。俺も光陰も、真夜だっている。どうしても辛くなったら、寄りかかってきたらいい。……だからさ、戻って来い」
口に出して気付いた。
ああ、こんなにも俺は優しい言葉で話せるのか。
そして、今日子は、こんなにも弱かったのか。
だが、悠人の言葉に反応したのか、今日子の周囲のマナが急速に集束していく。
「駄目……、ごめんね悠。ちゃんとアタシを、殺してね」
ドンッと轟音がして、大気を紫電が切り裂く。
閃く空が晴れた頃、今日子の目には理性が宿っていない。
しかしその表情には、僅かな焦り。
予想以上の今日子の心のゆれに、【空虚】が焦って意識を引き戻したのだ。
「時間だ、神の裁きを受けるがいい」
「………いくぞ、バカ剣」
【……諦めたか?】
「冗談……我が求めに答えよ!!!」
己の中の留め金を、静かにはずしていく。
オーラは常時の数倍に膨れ上がり、制御しきれない力を抑え付けようと、体中が唸りを上げる。
たった一撃、目の前の敵を倒すために。
集束するオーラが剣を覆い形を成していく。
刀身はオーラによって視覚での認識が不可能になり、その代わり白のオーラがまるで両刃の刃のようになる。
それに対し、【空虚】は剣を頭上に掲げた。
紫電が瞬き、咆哮を上げ、一つの形へとなっていく。
それは紫電で作り上げられた一振りの剣。
須らく大地を平らかにする神の雷(いかずち)。
「Unlimited Ability 【over skill】!!!」
「Unlimited Ability 【blust skill】……」
悠人についで今日子が告げる。
戦いの終焉たる一撃の名を。
「“クラウ・ソラス”!!!!!」
「“カラドボルク”!!!!!」
Intruder
33.WORLD END
「生きってか、岬?」
「おかげさまで」
前に会ったときにつけていた装甲―これは恐らく悠人との戦闘で弾き飛ばされたのだろう―は今は外れ、所々傷を残してはいるが、岬は悠人によって助けられたようだ。
顔色もあまりよくは無いが、体自体にほとんど問題は見られない。
「悠人も、大丈夫か?」
「ああ。でも……」
すまない、と仰向けに倒れたまま悠人が謝る。
「今日子を助けるので、もうすっからかんだ。立つのも辛い」
「十分だ。来た時終わってなかった、何て事があったら流石にきつかったが」
残り時間は……?
【持って後30分ぐらい】
「時間は無いな。急ぐか」
背中に意識を集中させ、オーラを展開していく。
翼のように広がるそれは、全て前に進むために。
「【裂空】……」
広がる両翼が力になる。
残存マナを考えると、神剣魔法は使えて一回といったところか。
【Unlimited Ability】はマナを大量に使う。
仕方が無い、無理矢理リミッターを外して限界以上の力を行使する代物だ。
無理をすれば死にかねない。
「そんじゃ、行ってくる」
「すまない、任せた」
任された、と言って駆け出す。
全てを止める為に……
・
・
・
・
・
【マスター…こっちに向けて、誰かが意識を繋げようとしてる……】
「誰か分かるか?」
【多分、髪の白い人の剣】
「イオだ、名前ぐらい覚えとけ。繋げるか?」
【うん…今や『シンヤ様!?聞こえますか、シンヤ様!!!??』うるさいの……】
キィ―――――――ンッ!!!
「うおおう!!お、落ち着けイオ。ノイズが、ノイズが頭に響いて……」
『私、よかった、シンヤ様、生きて、シンヤ様、死んだら、どう、心配で!』
「分かったから落ち着けって。ヨーティアは?」
『いるよ』
向こうで何やら物音が起こっているが、暫くしたあと音が止み、次いでヨーティアからの声が聞こえる。
『すまんな、イオはチョッと今パニック気味だ。近頃ずっと塞ぎ込んでたからねえ……一体どこにいてたんだい?』
「帰ったら話すさ。それで、用は?」
『簡潔に言うよ。状況は最悪、今回のマナ消失が起これば被害規模は丸まる大陸を覆う。マロリガンの動力施設を止めなければ』
「みんな揃ってお陀仏か」
『理解が早くていいね。流石バカだ』
「誰がバカだ!!?」
『兎に角、何としてでも動力部にたどり着いてくれ。後の指示はそこでする』
「……了解」
通信を切り前方に意識を集中させる。
角を曲がった先には、五人のスピリット。
その瞳に理性はなく、この周囲の膨れ上がるマナに酔っているかのようにふらついている。
「どけよ……!」
逆手で【月詠】を、引き抜いた。
] ] ]
「……来たか」
「止めに来たぜ、クェド・ギン。大人しくしときゃ、殺さねえ」
大人しくか、と笑いながら懐から二つのものを取り出す。
一つはマナ結晶、一つは一振りの剣。
「どうやら俺は、とことん運命に嫌われているらしい。どう足掻こうと、世界の理は変えられんか」
「何を…言っている?」
「剣に縛られ、剣とともに生きる者よ。ハイペリアより現れ、運命に流れる来訪者よ。この世界は、剣によって“動かされて”いる。
許せるか?私は許せん」
「だから、こんな事を?」
「だが、最後まで運命は私に味方しないらしい。だからこれが、最後の悪足掻きだ。我々は生かされているのではない!生きている
だ!!!」
そこまで言って、クェドの周りに高密度のマナの嵐が巻き上がる。
―――そして、俺を倒した時は、俺の遺志を継いでくれ。
そんな言葉を残しながら。
そして嵐が止む頃に姿を現したのは、一人の白髪の少女。
「それが、あんたの選択かよ……剣を恨むあんたが!!最後に剣持って戦ってどうすんだよ!!!?」
答えは、返ってこなかった。
返答の代わりと言わんばかりに、ホワイトスピリットが詠唱を開始する。
時間も余裕も余り無い。
今はこいつを……!!
「マナよ、守りの力となれ。月光を纏いて、我を守護する盾と成せ……《ルナティック・アイギス》!!!」
発動、同時に放たれるマナの竜巻。
ミシミシと盾が軋みを上げ、力の固まりに押し流されそうになる。
「【月詠】!残りのマナは!?」
【30…ううん、20%……】
今のままじゃ夜天一つも撃てない。
このままじゃジリ貧になってしまう。
どうする、どうする、どうすれば……?
「助けが必要か?」
萌黄色のオーラが周囲を包むと共に、背後から声がする。
この声は……
「光陰!!」
「ったく、ただでさえシンドイってのに、最後の一仕事の相手がこいつか。嫌になるぜ」
笑いながら【因果】を構え、隣に立つ。
「大将は?」
「目の前のあれだ」
「……そうか」
どこか遠い目で、光陰は数メートル先にいるホワイトスピリットのほうを見る。
「それで、どうする?お前も俺もそう長く持たないぞ?」
「……障壁、任せられるか?この攻撃が止んだ瞬間、決める!!」
分かった!!、と光陰が叫ぶと【因果】の障壁が更に強固なものとなる。
それに合わせて《アイギス》を解除し、瞳を閉じた。
血が急速に沸騰するかのような感覚、膨れ上がる殺戮衝動。
静かに、しかしハッキリとそれを表に出していく。
我に仇成す者に、血と死を以って鉄槌を………
「滾れ我が血 目覚めろ 牙」
<紅鬼>解禁
瞳は赤に、心は人に。
静かに、しかし荒々しく立ちのばる赤のオーラ。
逆手に構え直した【月詠】を振りかぶり、時を待つ。
来た。
ホワイトスピリット、クェドの神剣魔法と、光陰の障壁が消え去るのとほぼ同時。
一瞬の体の硬直を、しかし真夜は見逃さず駆ける。
まず行ったのは左拳。
単純だが、しかしそれ故強烈なそれは、赤を纏ってクェドに振り下ろされる。
衝撃!!
それと共に鈍い打撃音が響き渡り、それによってクェドの体は大きく吹き飛ぶ。
それでも真夜の動きは止まらない。
更に振りかぶったままの【月詠】を更に捻り、殺到する。
「戦技・鬼牙」
振り下ろされたそれは、まず【禍根】を砕く。
そして、更にそのまま穿つように振り上げられた【月詠】が―――
ドッ!!!
一突きにされた胸から、黄金のマナが空へ消えていく。
「……ヨー……ティアに………後は…たのむと」
「ああ、言っとく」
フッと笑うと、それを最後に薄らいだ体が空へと昇っていった。
「……じゃあな、クェドのオッサン」
] ] ]
夕暮れの中、砂塵の中から二人の影が現れる。
その内金の眼をした方は、無精髭を生やした少年に肩を借りて歩いている。
光陰と真夜だ。
「これが可愛い女の子だったら文句ないのになぁ……」
「悪かったな、男でよ。もう体がほとんど動きそうにねえんだわ」
総マナのほとんどを消費し、更には“鬼”の力をも引き出した影響か、戦闘終了直後、全ての力が抜けてしまった。
【月詠】は完全に休眠状態に入り、体の節々が軋みをあげる。
【………ますた〜】
「お疲れさん、ゆっくり休め」
微笑んで真夜は柄を撫でた。
・
・
・
・
・
『うお゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛!!!!』
『遅い!!』
『グフォッ!!?』
真紅のマナを立ち昇らせ、【月詠】を振り上げようとした俺に黒塗りのバスターソード【現実】が叩き込まれる。
顔が地面にめり込み、<紅鬼>も解除されてしまった。
『痛ってえなこの!』
『体の調子は?』
『なんとも無えけど……』
『計5分、鬼化の継続時間は伸びてるみたいね』
今までと違い自分で“鬼”にならなければいけない事で、一から鬼の継続時間を延ばさなければいけなくなった。
イリスは時計に組み込まれたストップウォッチ(ちなみに時計は俺の)で測り終わると、それを投げ捨て……投げ捨てた!!?
『うおおおい!!何してやがる!?』
『五月蝿いわねえ、男が時計の一つや二つで』
『五月蝿くもなるわい!人の物投げ捨てるなんて、親の顔が見てみたいわ!!』
『その親は私なんですけど……』
後ろから声がして振り返ると、エリシアがタオルを持って立っていた。
それを受け取ってゆっくりと立ち上がる。
『調子はどうですか?』
『大分体になじんできたみたいだな。成る度に力の継続時間が伸びていく』
『ですが、気を付けて下さいね?人の体に“鬼”の力は負担が大きすぎます。時間はある程度伸ばせますが、それにも限界がありますか
ら』
そだな、と言って汗を拭き取っていると、出入り口から声が聞こえてきた。
『シンちゃ〜ん、ご飯できたわよ〜〜!あとねあとね!シンちゃんにプレゼント!!何か聞きたい何か聞きたい?正解は防弾も出来ちゃう
お母さん特製のコートよ〜!!』
『分かったから、聞く前に全部言うクセ直そうな』
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「なるほど、キツイわ。体が軋みを上げてやがる」
万全状態ならともかく、戦闘の合間に使うのはもうチョイ考えなきゃな。
そう考えながら前を向くと、前方から誰かが近付いてくるのが見える。
「シンヤ―――」
「さま〜〜〜!!!」
「ネリー、シアー!」
バフッと音を立てて二人がハイロウを展開したまま抱きついてくる。
この展開は―――……!!
「シンヤ様ーーー!!」
「フンガッ!!!」
続けて飛び込んできたヘリオンを、両足を踏ん張って抱きとめた。
同じ手を何度も喰うほど俺も甘くは―――
「シンヤーーーー!!!」
「こうなると思った!!」
顔面に飛び込んできたニムにあえなく撃沈、砂漠に仰向けに倒れる。
取りあえず泣きじゃくっている四人を下ろして、体を起こすと、そこには詰所の皆が集まっていた。
「……心配―――」
「心配なんてしてないわ。帰ると、信じてたから」
スッと、セリアが手を伸ばす。
「……そっか、ありがとう皆。信じてくれて」
そう言って皆を見渡す。
そして、セリアの手を取って立ち上がった。
「…―――救われる」
<後書き>
第三十三話「セカイノオワリ」
三章はほぼ終了、遂に四章に突入です。
気付いた方、いらっしゃったでしょうか?
そう、29話で出ていた「力」の不知火、「速」の草薙
あれと「COLORS」の不知火大河、「黒白の翼」のヨシツネは実は同じ家系だったりします。
クライマックスへ近付きつつある「Intruder」、皆さん最後まで見てあげてください。
因みに“クラウ・ソラス”はケルト神話に出てくる四神剣から「輝く剣」、“カラドボルク”は同じくケルト神話より「硬い稲光」の意を持っていま
す。
悠人の技が“エクスカリバー”だと思った奴、そんな安直な発想をこのおしょうが考えると思うな!!
……ごめんチョッと調子に乗った、反省してる(´・ω・`)
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