『早く上がれよ、何やってんだ?』
『えと……お母さんの許可とかは取らなくていいんですか?』

もろもろの事情を話したエリシアが、目の前の少年「神凪・真夜」に尋ねる。

『お袋は来月まで帰ってこないし、親父に限っちゃ何時帰ってくるかも、生きてるのかも分からん。問題ねえよ。』

いそいそと中に入ったエリシアは、前を歩く少年を見る。
歳は十歳ぐらいだろうか。
こんな子供が一人で住んでいるのか、この一軒家に。

『何で、泊めてくれるんですか?見ず知らずの私のために』
『決まってるだろ。』

台所に入った少年が、身の丈に合わないエプロンを手に取りながら言う。

『あんたは困ってた。だから助ける。当たり前の事だ、子供でも出来る。』
『は、はあ』

ずいぶん生意気な子だなあ、と今更ながら思うエリシアだった。















Intruder
29.超絶技巧演習曲
















「到着っと」

時刻は既に九時を回っていた。
あれからほぼぶっ通しでイリスとの稽古が行われ、文字通り見も心もボロボロになった俺は、二人を連れて自宅へと帰還していた。

「お呼ばれするのは二度目ですね」
「覚えてないがな」

そう言って玄関のドアを開け―――

「おっかえりーシンちゃん♪お風呂にする?ご飯にする?それとも、わ・た『バタンッ』」

すぐさま閉めた。

「……あのお、今誰か」
「目の錯覚だ」
「でも声も」
「幻聴だ」

背を向けて元来た道を歩きだす。

「仕方ない、今日はあの教会で寝るか。そうしよう、そうするべき―――」
「何で逃げるのー?」

ガバッと後ろから能天気な声と共に抱き付いてくる。
黒い髪に金の瞳、そして髪と同じ―――

「ええーい抱きつくな!あと服を着ろ服を!!」

黒のキャミソールとパンツだけという姿の女性。
信じたくない、信じたくないが……

「いいから早く離せ、この身内の恥!!」
「いいじゃない、久しぶりの再会なんだしー」

我が母、神凪・朔夜その人だった。







「というわけで、これが俺のお袋だ」
「シンちゃんのお母さんの、神凪・朔夜で〜す!よろしくね♪」
「は、はい……」
「………」

あいも変わらず服を着ないバカタレに、エリシアは目をパチパチさせ、イリスに限っては完全に無言。
そりゃ驚きもするだろう。
息子の俺も血のつながりを疑いたくなる。

「……あのお、お姉さんじゃなくてお母さんなんですよね?」
「あら、そんなに若く見える?シンちゃんシンちゃん、褒められちゃった〜♪」
「はいはいよしよし」

嬉しそうに頭を撫でられる母。
エリシアが疑うのは無理はなく、見た目は二十代前半なのだ。
昔(無理矢理)見せられた十年ほど前の写真と、今の姿がほとんど変わっていないのには我が母ながら恐ろしい。

「それで、この子達はだれ?まさかシンちゃん、二人一度に……」
「殴るぞ」

とはいっても、どう説明したらいいのやら。
まさか「実は俺異世界に行っててさ、そこに戻るためには二人の力が必要なんだ」などという電波な理由を話す訳にはいかない。

「え、えーと……実はこいつ等留学生でさ、家であずかる事になったんだよ」

こ、これも十分苦しいか?

「へー、そうなの。あなたたち、お名前は?」

あまり深く考えない性格だったのが幸いだった。
お袋は取りあえずこれで納得したらしい。
むしろ全部話しても「そうなの〜」と言いそうだが。

「エ、エリシアです」
「……イリスです」
「エリシアちゃんにイリスちゃんね?それにしても可愛いわー、お姫様みたい」

そう言うとエリシアを抱きしめ始める。

「あわわわわ!」
「やーん、ほんとおに可愛い!!あなたこのままうちの子にならない?」
「止めてやらんか、困ってるだろう」
「まあまあ、シンちゃんも抱いてみない?」
「せん」







それから夕食にし(予想通り俺が作らされた)、先に風呂に入りリビングに入った。
ソファーにはお袋が座っている。

「おかえり〜」
「風呂に行ってただけだぞ」
「いいの、滅多に『おかえり』なんて言えないもの」

そういえば……

「何で、こっちに帰ってきたんだ?帰ってくるのは来月のはずだったろ?」

ある程度母のスケジュールは把握している。
父の方は分からない、というより何の仕事をしてるのかすら知らないのだ。

「あのね……笑わない?」
「話によるな」
「こうゆうときは嘘でも笑わないって言うものなの!」

人差し指を伸ばし、「メッ!」のジェスチャーをする。

「分かった分かった。笑わないから言ってみろ」
「あのね……?今帰ってこないと、もうシンちゃんに会えない様な気がしたの」

どきりとする。
こうゆう感は鋭いのだろうか、何時もそうだった。
俺がどうしようもなく淋しい時、誰かの手を握っていたい時必ず母は帰ってくる。

「……馬鹿、んな訳ないだろ。」
「親にバカって言わないの!」
「兎に角、大丈夫だって。ちょっと今ゴタゴタしてるけどさ、全部片付いたら帰ってくるから」

保障は無い。
ファンタズマゴリアに戻れるか分からないし、戻れたとして全部終わったあとこちらに帰ってこれるかも分からない。
それ以前に、俺が“鬼”に打ち勝てるかどうかも分からないのだ。
それでも、それだからこの人に心配かけたくない。

「真夜」
「……はい」

キッと、いつもと違う真剣な表情になる。
お袋が俺をちゃんと名前で呼ぶときは、いつも大切な話をするときだ。

「何も聞かない。詮索もしない。だけどね、自分の信じた道を唯真っ直ぐ進みなさい。生きてさえいてくれるなら、お母さんは真夜のこと、絶対に見捨てないから」
「……分かった。ありがとう」
「うん、よし!」

よしよし、と頭を撫でて立ち上がる。

「それじゃあ、エリシアちゃんたちとお風呂にでも入ってこようかな。覗いちゃ駄目よ?」
「せんわ!!」




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翌日。。。

「かわされてから次のアクションが遅い!止まっていると的になるだけよ!?」
「うっす!!」

剣と剣が交差し、火花が飛び散る。
真夜とイリスの持つ剣は、神剣とは違う。
強度だけは上げてあるが唯の剣、身体能力の向上は無い。
つまり、神剣無しの戦闘で、純粋に使い手だけの技術を徹底的に磨き上げるのだ。

「まだまだ隙が多いわね〜、甘い甘い」
「あの、はい……そ、そうですね」

そして離れた位置から見ているのは、朔夜とエリシアだ。
気付かれず家を出たつもりだったのに、教会地下の訓練場についたら「秘密基地みたいね〜」と言って隣にいたのには一同驚かされていた。

「疲労を動きに出さない!」
「う、うっす……!!」

とはいっても訓練開始から既に二時間ぶっ通しで戦い続けている。
他国との戦争だって、それなりの時間戦っているが、このように休憩無しというのは真夜にとって初めての経験だった。
息は切れ、足は動かず、剣に力がこもっていない。

「………しょうがないわね、一時間休憩。食事の後戦闘再開よ。」
「う………うっす」

音を立ててシンヤが大の字に倒れこんだ。
着ていたジャージはボロボロになり、所々に傷がついている。
それを一瞥する事もなく、イリスはエリシアたちの下へ歩き出した。
そして、朔夜に手渡されたスポーツドリンクを飲み干す。

「情けない息子でごめんなさいね〜?どう、モノになりそう?」
「…教えた事はちゃんとしますし、覚えもいいです。戦闘のセンスならかなりのものかと」

と朔夜に対して敬語で話す。
どうやら、彼女の中で朔夜は目上の存在と認識したようである。

「神凪は元々、護衛・暗殺に特化した家系だもの、あれぐらいは当然よ〜」
「そ、そうだったんですか!?」
「その中でもシンちゃんは直系だからね〜。真さんも格闘センスは抜群だったから、あの子の才能は私が認めるわ」

さらっと凄い事を言ってのける朔夜。
神凪、その家系の者は総じて金の瞳を持つ。
遥か昔から裏世界で知らぬ者はいないとも言われた御三家の一角である。
「力」の不知火、「速」の草薙、「技」の神凪とも言われ、御三家の中での戦闘技術は群を抜いていたとも言われている。
真夜はその神凪の正統後継者、本来なら家を継ぐ存在だが、朔夜は勘当当然で家を飛び出し、夫「神凪・真」と結婚したため真夜自身は自分がそのような存在だとは知らない。
現に今も

「は、ハンバーガー……一年ぶりのジャンクフードだ〜……」

とどこか感動しながら買って来たハンバーガーとコーラを口につけているところだ。

「神凪の子は一回言った事は忘れないから、どんどん強くなるわよ〜」

後姿が真さんに似てきたわねぇ、とどこかウットリしながら朔夜は真夜を眺めている。
実は真夜君って凄いんだなあ、と改めて感心するエリシアだった。
まあ、その感心の対象は

「米だ、久しぶりの米だ……!」

家から持ってきたおにぎりを、涙を流しながら食べているのだが







<後書き>

そりゃこんな親ならグレるわな(何
真夜の母、神凪・朔夜の登場です。
こんな性格してますが、実はかなり凄い人。
神凪の直系に当たりますから、戦闘技術もとんでもなく高いです。

もうお分かりかと思いますが、冒頭のは昔のエリシアと真夜の会話です。
この頃真夜は9歳、昔から親が余りいなかったせいか、こんなすれた子供でした。
因みに、朔夜は料理が出来ない事は無いです、むしろ上手なぐらい。
ただ、帰ってきたら息子の作ってくれた料理を食べるのを楽しみにしているので、余り家事をしないだけです。

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