『お腹、空きました……』

公園のベンチに座り込んで少女が溜息をつく。
短めの金髪、黒のヘアバンド、青の瞳。
街を歩けば二人に一人は振り返りそうなその顔は、今は萎れてしまっている。

『今晩、どうしましょう……?』

クー、と腹の虫が鳴き、少女はもう一度溜息。
野宿かなあ、と呟く少女の目の前に、一人の少年が近付いていった。

『……何してんだ、あんた?』
『ふぇ?』
















Intruder
28.Tell you the Truth















「何で、エリシアが……?」
「えっと、何でって言われると困るんですけど」

苦笑しながら近付いてくるエリシア。

「ここは?」
「神社の近くにある教会です。真夜君、急に倒れてしまって慌ててここまで引っ張ってきたんですよ?」

まて、何を言っている。

「いま、何月何日だ?」
「十二月十八日ですけど、大丈夫ですか?熱は無いみたいですけど、変な夢でも見てたんじゃ―――」

心配そうなエリシアを他所に、俺は考え出した。
日にちは俺達がファンタズマゴリアへ飛ばされた時期と変わらない。
そういうことだ、本当に夢だったとでも……?
しかしその思考をすぐさま捨て去る。
あそこでも記憶は、確かに俺の中に残っている。
夢と言うには余りにリアルすぎる代物だ。
考えて考えた、気付いた。
僅かな違和感に。

「エリシア、お前さっき『久しぶり』って言ったよな?」

そう、確かにそう言った。
おかしいじゃないか、俺が倒れてそれを引っ張ってきたと言うなら、なぜ『久しぶり』などと言う必要がある。

「……もう少し騙せるかと思ったんですけど、やっぱり無理でしたね」

ペロッと舌を出してエリシアが笑う。

「でも、日にちは改竄していませんよ?」
「じゃあなんで、お前は俺が違う世界にいたと知っている」
「私があなたを飛ばしたからです」

何…だと……?

「許してもらえるとは思っていません。でも、必要だったんです。貴方の中の力の対処をするために」
「力って、“紅”のことか!?」

思わず立ち上がり、エリシアの肩を掴む。
何で知っている、こいつが俺の中の力のことを!

「落ち着いてください、順を追って説明しますので」
「あ、ああ……」

促されて椅子に座る。
そしてエリシアが、静かに語りだした。

「……そもそも貴方の中の力は、私たちの間で“鬼”と呼ばれています。そして、私はその“鬼”の真血」

そこから先は、ほとんど信じられないような事だった。
八年前、この世界に来たエリシアはあるものを探しており、その時俺と出会ったそうだ。
その時宿無しだったエリシアを、俺が助けたらしい。
数日、共に過ごしエリシアの探し物とやらにも手伝ったそうだ。
そして……

「私には、敵がいました。正確には私の所属する組織に敵対する者たち」

その戦いに巻き込まれ、俺は重傷を負った。
普通の人間では、とてもじゃないが回復しないような酷い傷。
だから、エリシアは自らの血を俺に注いだ。
高い回復能力をもった“鬼”の血を。
だが、それにはリスクもあった。
存在そのものが違う二つの血は、いつか必ず反発し、拒絶し合う。

「必要だったんです。貴方が貴方の中の“鬼”と戦うために……遅かれ早かれ、貴方は自分の中の“鬼”と戦う必要がありました。そしてそれは唯の人では勝ち目など無かったのです。」
「だから俺に【月詠】を与え、力をつけるためファンタズマゴリアに飛ばしたのか」

そういわれると納得がいく。
確かに、唯の人では“あいつ”には勝てないだろう。
神剣を持ったスピリットですら、素手で殺してしまうような存在なのだから。

「【月詠】には封印を施し、“鬼”の力に反応して覚醒させるように設定しました。そして【月詠】自身には、“鬼”の力を押さえ込む術式が組み込んであります」
「【月詠】持ってる間は声がしなくなったのはそのせいか」
「けれども、それも長くは持ちません。ですから」

十字架を背にエリシアが言う。

「“鬼”を、倒しましょう」




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そこから連れられて来たのは、教会の地下。
そこは広い空洞になっていて、野球場の一つは収まってしまうのではないかという大きさだった。
そしてそこには、先客が一人。
黒い髪をまとめ、青い瞳をもつ仮面の女性。

「あんた、前に会った……」
「私のサポートをしているイリスです。まずは、彼女と戦ってもらいます。」

それを聞いて驚いて反論した。

「ま、待てよ!【月詠】は!?それに“鬼”を倒すんじゃなかったのかよ!?」

『マナ障壁』の解除だってもう直ぐだろうし、このままこっちで時間を潰す訳にはいかない。

「時間がねえ!光陰たちを止めなきゃいけねえんだ!!“鬼”倒して早く帰らねえ―――」
「五月蝿いわね、心配しなくても『マナ障壁』の解除から【因果】と【空虚】との接触までまだ10日はあるわ。それにね……」

仮面の女性――イリスが【月詠】をエリシアに投げる。
そして、一振りの刀を俺に投げよこした。

「今のあんたじゃ実力不足なのよ。これから数日、私が徹底的に鍛えてあげる。ありがたく思いなさい」
「だから!それならそれで【月詠】を―――!」
「わからない餓鬼ね……」

腰に差した剣をするりと抜く。
そして、消えた。
視覚から消えたイリスが、今度は目の前に現れる。

「――――!!」
「基礎からみっちり鍛えてあげるって言ってんのよ」

剣が、振り下ろされた。
咄嗟に鞘に納まったままの刀で剣の軌道をずらす。
刃先が肩を掠めるが、全力で後退し距離をとった。
今の技は―――!

銘も知らない刀を抜き、疾駆して斬りつける。
しかし、そのすべてが往なし、回避された。

「やっぱり……“疾空”に“流旋”!何であんたが!?」
「何で?当たり前でしょ。同じ流派だからよ」

ゆっくりと、仮面を外していく。
外界に晒されたその顔は………

「イオ………?」

いや違う。
確かに外見は瓜二つだが、髪は黒いし瞳は青色。
更に言えば性格が全く違う。

「何者なんだ、あんた?」
「……そうねえ」

油断なく剣を構えながら、考える仕草をする。

「【理想】の、対極」




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【マスター……】
「心配ですか?でもごめんなさい。今は必要なんです、この戦いが」

少し離れた地点で、エリシアが【月詠】に向けて語りかける。

「今の彼では、彼の中の“鬼”に打ち勝つのには少し足りないんです。だから……」

土煙を巻き上げて、真夜とイリスが衝突する。
が、すぐに真夜が蹴り飛ばされた。

「頑張ってください真夜君。時間が無いのは確かですから」

【求め】と【因果】の接触まで、後9日と18時間36分。








<後書き>

第二十八話「語られる真実」

「黄金真紅」篇突入!
イオに瓜二つなイリス、鬼の真血であるエリシアが登場。
真夜は無事鬼を倒し、ファンタズマゴリアに帰還することが出来るのでしょうか!?

余談....
エリシアとイリスの名前の由来ですが、エリシアは「不和」や「戦い」をつかさどる翼を持った女神「エリス」から。
イリスは虹の女神、天と地を結ぶ神々の使者「イリス」からきています。

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