「酷いねえ、こりゃ」

凍りつく大地、氷漬けの木々。
えぐられたかのように出来上がったクレーターを見回しながら、ヨーティアは呟く。
巨大な反応が消え去るのとほぼ同時に、【月詠】の気配も消え去っていた。
地面に落ちた服の切れ端、副隊長に支給された腕章。

「ここにいた、証拠か……」
「でも、いないんです」

落ちた腕章を握り締め、セリアが搾り出すように呟いた。

「シンヤ様が、どこにもいない……!」















Intruder
27.LOST 2^You don't be anywhere^
















「嘘…だろ……?」
「私がこんなつまらん嘘をつくと思うかい?このボンクラ」

消息がつかめなくなって数日。
神剣に飲み込まれたアセリアと共にファンタズマゴリアに戻ってきた悠人。
自らの責任でアセリアが神剣に飲まれてしまったことに、酷い罪悪感を感じている時、追い討ちをかけるように言い渡された。

「真夜が…消えた……?」

聞いた話だと、真夜の戦った男はハイペリアで小鳥を襲った二人のうち、巨大な神剣を持った男、タキオスで間違いない。
神剣の反応は消え、剣も真夜自身の所在も掴めぬままだという。
それは、すなわち……

ブンブンと頭を振って、いやな思考を振り払う。
まさか、そんな筈がない。
真夜が……死ぬだなんて。
ゾクリッと体が震えた。
今まで自分は仲間が死んだ事など無かった。
そして、それはこれからも変わらないとも思っていた。
そんな保障など、どこにも無いというのに……

そうだ、他の皆はどうしているだろう、と慌てて立ち上がる。
止まっていたくなかった。
動かなければ、何かしていなければ心の中に黒い何かが浸食してきそうだったから。

「わ、悪いヨーティア。みんなの様子でも見てくるよ」

いつもより高く積みあがった本を掻き分けるように進みながら、悠人は部屋を出た。
それを見ながらヨーティアは苦笑する。
イオが掃除をしなくなってから、大分たったのかと……




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酷いものだった。
ボロボロになった訓練用の人形を見つめながら、セリアは一つ溜息、鞘に剣を収める。
いけない、今は戦争中だ。
余計な思考は振り払い、戦うことだけに集中しなければいけない。

詰所には帰りたくなかった。
五月蝿い双子は、今はいつもの覇気が無い。
ヒミカ、ファーレーン、ヘリオンは一心不乱に訓練に励み、いつも無口なナナルゥは輪をかけて口を開かない。
ニムントールはボーっとしたままだし、変わらないのはハリオンぐらいだ。
いや、それも表面だけ。
前は副隊長と二人、台所でよく一緒に調理していたが、今では一人。
料理のおかずは一品足りず、味も時々ひどい物もあった。

参っている……
初めての仲間の“消息不明”、更にその人物は皆の支えでもあった。
やや不安定ながらも戦場では一騎当千の力を発揮し、何度も危機を救ってきた存在。
なぜ自分はあの時離れたのだろう。
逆らって共に戦ったとして勝算があったかと言われれば、容易く首を縦に振ることは出来ない。
しかし、それでも自分は残るべきだったのだ。
最悪、自分を犠牲に彼を救うために。


―――それが、スピリットわたしたちの役目だというのに……


彼が聞いたら、きっと怒るだろうと思う。
奪う事を知っているから、失うことを恐れる彼に。
それでも、よかった。
彼が生きてさえくれるの―――

「貴様ら、何をボサッとしている!!」

訓練所に、大きな声が響いた。




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場所は第二詰所の食堂。
集められた皆が、唯一点を見つめる。
その先には一人の少女、アズマリアが立っていた。

「先ず皆に聞こう。貴様たちは、シンヤが死んだと思っているのか?」

ビクリッとヘリオンが震える。
ここ数日、皆が口にしなかった言葉。
「死」というキーワードは、皆の間で使わない事は暗黙の了解になっていたのだ。

「聞いている。“死”んだと思っているのか、貴様たちは?」
「……アズマリアは、どうなの?」

ニムントールが呟くように質問で返した。
いつもならたしなめるファーレーンも、今は何も言わず、ジッとアズマリアのほうを向いている。
それを聞いて、アズマリアはさも当然だというように、言った。

「死ぬ?あのシンヤが?そんな事あるはずが無かろう。」

ハッキリと、ズバッと言ってのける。

「シンヤは言っていた、全て護るために戦うと。そしてシンヤは嘘はつかない。まだ貴様たちや、私を護りきれてもいないのに、シンヤが死ぬわけが無い」

そこにあるのは、ゆるぎない自信。
全てを失った手を握ってくれた少年に対する、絶対の信頼。

「私は信じるぞ、シンヤは必ず帰ってくると。貴様たちは、どうだ?」

そう言われて、皆の顔に笑みが浮かぶ。
知っているのだろうこの幼い王女は、自分たちがどう答えるかも。
皆の返事が、重なった。




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意識が浮上していく。
腕が動く、足が上がる、今自分は呼吸をしている。
瞳を開いた

「俺は、生きてるのか?」

仰向けになった体を、上半身だけ起こし辺りを見回す。
致命傷だった傷は消え、跡形も無く消えている。
巨大な十字架が宙に吊り下げられ……十字架?
おかしい、ファンタズマゴリアにはこんなオブジェは無いはず。
そして気付いた。ここが教会であるということに。

「まさか……」
「起きましたか?」

リノリウムの床が音を立て、周囲に反響する。
影で隠れた顔が少しずつ見えてきた。
金髪のショートヘアー、青の瞳、そして見慣れた自分が通っていた高校の制服。

「………エリシア?」
「お久しぶりです、真夜君」

そこには、かつて転校してきた少女が、立っていた。

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