それは 闇に紛れるように


















Intruder
26.overwhelming existence
















最後の一人が断末魔を上げ、黄金のマナに消えていく。
時刻は深夜、ラキオス城周辺にいた敵のスパイと思われるスピリットを撃退したところだ。

「そっちはどうだ、セリア」
「問題なし。全く、ランサの防衛だけでも大変なのに……」
「こっちの都合なんざ、考慮しないだろ」

それはそうだけど、と言いながら【熱病】を鞘に収める。
少し離れた方の反応も消えた、悠人とアセリアが倒したのだろう。

「……大丈夫?その…“紅”は」
「ああ、ここんとこは戦闘も定期的に起こるし、何より言われたとおりにしたら声も聞こえなくなった」

仮面の女性が言っていた「【月詠】を手放すな」という言葉。
それを忠実にまもったところ、本当に嘘のようにスッキリしている。
まあ、油断は出来ないのだが。
夜風が吹き、ふと夜空を見上げた

「……満月、か」
「まんげつ?」
「ああ。ああゆう風に欠けてない月のことをハイペリアじゃ“満月”って言うんだ」

そう言って振り返ってセリアを見て……直ぐにまた前を向く。
不覚にも見とれてしまうところだった。
月光に照らされた姿が、酷く幻想的で、儚くて、触れれば消えてしまいそうだった。
―――って、何考えてんだ俺は!

ブンブンと頭を振って考えを打ち消す。
あのセリアだぞ、何時も喧嘩腰で、声をかければ眉を吊り上げているような。
そんな俺の様子を怪しく思ったのか、セリアが聞いてくる。

「ちょっと、ホントに大丈夫?」
「だ、だだだだ大丈夫だ!ちょ、ちょっと考え事してただけで」
「何を?」

言えるかよ、お前の事だなんて……
つまんねえことだ、と誤魔化しながら城内に戻ろうとして―――


ドクンッ!!


強烈な威圧感に身をすくませる。
後ろのセリアも気が付いたようだ。
反射的に【熱病】に手を掛け、光輪はウイングハイロゥに変化する。
方角は、悠人のいたほうか!!

【だめ…行ったら】
「んなこと言ってられるか!セリア、急ぐぞ!!」
「分かったわ!」

神剣の力で駆け出す。
いやな予感を胸に秘めながら……







駆けつけた先、先ず見たのは光の中に消えていく悠人とアセリア。
そして、鉈のように巨大な剣を持った、見知らぬ男。
光が消えていくと共に、悠人たちの姿は消えてしまっていた。
残ったのは、恐らく威圧感プレッシャーの根源である男

「テメエ、悠人をどこにやった!!?」
「【求め】のエトランジェなら、今頃ハイペリアだろう。安心しろ、生きている。まあその先の保障はせんがな」 
「野郎……!!」

すぐさま【月詠】を抜き、構える。
感じられるのは、圧倒的な存在に対する絶望。
戦えば、骨すら残さず消されてしまうかもしれない。
噴出す汗が、震える体が止まらない。
だけど、だから―――

「セリア、お前はレスティーナのところに。『現在正体不明の敵と交戦中。【月詠】の気配が消えて、この男の気配が消えなければ、ラキオスを捨てて逃げろ』、と」
「わ、私も―――!」
「早くしろ!!悠人は帰ってくる可能性もあることも、きちんと報告しとけよ!!」

護らなければいけない。
今の俺じゃ、セリアを庇いながら戦闘できるだけの余裕なんてない。
だから、せめて……

「いいから行け!!」
「………」

暫くはそこに立っていたが、意を決したように飛び立っていく。
そうだ、それでいい。

「気丈だな。俺相手にお前一人でどうにかなるのか?」
「ゴチャゴチャうっせえよ、さっさと来やがれ!!」
「……いいだろう。俺はタキオス。永遠神剣第三位、【無我】のタキオスだ!!」
「【月詠】の、神凪・真夜だ!よろしく!!」

月光色と、黒のオーラが爆ぜた。




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【全力後進!!】

いつもと違う、切羽詰ったような【月詠】の声に応え、思い切り地面を蹴り上げバックステップする。
今いた地点には小規模のクレーターが出来上がり、その余波で周囲の木々はなぎ倒される。
そこかしこに生えている木を足場にし、木から木へ高速で飛び移る。
そして、纏ったオーラで斬りつけた。

「“死季・春風桜花”!!」

放たれる斬戟。
しかし、それはタキオスの生み出した漆黒のオーラの防御壁に阻まれる。
だが俺は動きを止めない。
地面の着地と共に“疾空アクセル”での急加速。
桜の花弁を目くらましに背後に回りこむ。

「“夏日・弐式――尖夏蓮華”!!」

全力全開、ほぼ同時に放たれた五連穿がタキオスに牙を剥く。
しかし、それすらも受け止められ、防御壁には傷一つ付かない。

「どうした?」
「うるせえよ!!」

バックステップで距離をとり、詠唱を開始する。
一発では足りない、もっと威力を!!
指先にマナを集め、文字を綴る。
刻印魔術、遥か昔言葉を話せなかったスピリットが編み出した技術だ。

「闇を切り裂く光となりて―――!」
〔彼の者に滅びを与えたまえ……!!〕

組み上がる二つの魔法。
足元と頭上に浮かび上がる魔法陣。
その二つを、同時に発動させた。

「《夜天閃月・双月刃》!!」

重なり合い、バツの字を描くように撃ち出される二つの夜天。
土ぼこりを巻き上げ、タキオスを斬り殺さんと殺到する。
強烈な爆音が響き渡った。

(決まれ、決まれ、決まってくれ……!!)

だが……

「これで終わりか?【求め】と青の妖精の方が、まだ幾分マシだったぞ」

土煙から出てきたタキオスは無傷。
未だ余裕の表情でこちらを見つめている。

「2つも3つも攻撃手段を持つ必要はない。ただ1つを鍛え上げてこそ必殺となる。」

消え―――……!!

血が吹き上がる、音がした。
力が抜けていく、足が重い、腕が上がらない。
目の前には、タキオスが立っている。
自分が斬られたと気付いたのは、体が地面へと倒れた時だった。





体が、動かない。
手も、足もまるで自分の物ではないようだ。
痛い…苦しい……寒い………寒い。

「この程度か、つまらんな」

そう言うタキオスの気配が遠くなっていく。
駄目だ、立ち上がれ。
このままじゃ皆が殺されてしまう。
お願いだ、動いてくれ俺の体……!!
ほんの少しの間でいいから!!

「…動いて……くれよ………!」














『シン君―――』














顔を上げる。
目の前には、いつもと変わらない、いつもと同じあいつの姿。

―――何笑ってやがる。こっちはボロボロだってのによ。

ゆっくりとこちらに近付き、右手を差し伸べる。
そう、そうだよな。

―――分かってるよ、頑張ればいいんだろ?

コクリ、と頷く。
体が軽い、腕も、足も動く。
まだ護れる。
まだ、戦える。

「頑張るよ」

差し出された手を、静かに、握った。




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巻き上がるオーラ、吹き上がる力。
それを感じたタキオスは、ゆっくりと向き直る。
その先に立つのは一人の少年。
傷は消え、先程まで立ち上っていた黄金のマナも、今は消えている。
更に感じる、この威圧感。

「………何者だ、貴様」
「言っただろ。神凪・真夜、エトランジェだ」

闇を切り裂く月光色のオーラフォトン、それが渦巻くように【月詠】の刀身に纏っていく。
凝縮し、膨れ上がる力は真夜自信をも傷つけた。
下がっていく周囲の温度。
オーラは月光色から青白色へ……
刺突の体勢から体を引き絞る。
それは、さながら矢を射るが如く。

「“死季”―――……」

これは対光陰戦の切り札だったのにな、と自嘲しながら……放った。

「―――“冬牙穿撃とうがせんげき”!!!

周囲の温度は一気に零度以下へ。
木々は氷漬けにされ、真夜の疾走した軌跡には氷の道が出来上がる。
防御を突き破り貫かれた左肩から、タキオスの腕は完全に凍結していた。
対する真夜は……

「……くっそ、ここまでかよ………」

すれ違いざまに振り下ろされた【無我】によって、右肩から大きく斬り裂かれた姿。
両膝をついて、ドサリと倒れこむ。
ひび割れ砕けた自分の左腕を見つめ、うつ伏せに倒れる真夜に、タキオスは言葉を投げかけた。

「素晴らしい一撃だった。もう少し後に出会えれば、より楽しめただろうにな……」

その言葉を、どこか遠くで聞きながら、真夜は瞳を閉じた。








<後書き>

第二十六話「圧倒たる存在」

ご愛読ありがとうございま(ウワナニスルヤメロ
まだちゃんと続くんでご安心を。
というより誰もこれで終わるとは思ってないと思いますが(汗

死季最後の技も出せて一安心。
次回より「黄金真紅」篇に突入です。


冬牙穿撃(とうがせんげき)

四剣技中最強の威力を持つ技です。
自らが制御しきれない程のオーラフォトンを纏い、最速で刺突を繰り出します。
その際発生したオーラは氷となり、周囲を氷原へと変えてしまう程です。
殆ど暴走状態に近いので、始めは使用者自身すら傷付けてしまいますが、成長するにつれてその制御も出来るようになります。

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