『大丈夫か?』
『ああ、問題ねえ』

むくりと立ち上がる。
周りには、学ランを着た高校生が四人、伸びているところだった。

『つーか、見てるんだった手伝え』
『俺は私闘はしない主義でな。鍛錬は積んじゃいるが』
『よく言うぜ、悪人みたいな面してるくせに』
『これでも仏に仕える身なんでな』
『胡散臭えなあ……』
『よく言われるよ』

短く刈り上げた髪を掻きながら笑って肩を貸してくれる。

『……あんた、名前は?』
『俺か?俺の名前は―――』















Intruder
25.REencounter 2^in desert^
















ギリギリと【月詠】の刀身と、萌黄色のオーラで構成された防御壁とがぶつかり合う。

【跳んで……】
「え?―――うわっ!!」

ブンッと音がして体が思い切り吹き飛ばされた。
空中で体勢を立て直しつつ着地。
再び刀を構え、対峙する。 

「喧嘩っ早いのは変わってないな、真夜」
「先に喧嘩売ってきた奴が言うセリフかよ?」
「違いない」

そう言って光陰が笑う。
いつもとは変わらない笑みで、声で。
しかし―――……

「光陰!今日子!お前たちもこっちに―――」

喜びの表情を浮かべ、二人のもとに悠人が駆け出そうとする。
それを俺は襟首を掴んで引き戻した。
そしてそのまま詠唱に入る。

「馬鹿野郎、近付くな!!<高速詠唱スペルアクセル>我を守護する盾と成せ――――《ルナティック・アイギス》!!」
「《ライトニングブラスト》………」

轟音と盾が生み出されるのはほぼ同時。
マナを消費し、言霊を削って形成された《ルナティック・アイギス》と、機械的な声で岬が撃ち出された雷撃とが衝突する。
紫電と霧散するのと、月光色の盾が消えるのも、ほぼ同時だった。

「止めとけ今日子。今日のところは挨拶だって言われたじゃないか。大将にまだ仕掛けるな、と言われているだろ?」
「な……!今日子、何で!?」

困惑したように悠人が言う。
だが、俺には分かった。
というよりも、それしか理由が見当たらない。

「………神剣に、飲まれたのか」
「!!」
「頭の回転が速いのも相変わらずか。その様子じゃ、鈍いとこも変わらずか?」

【…正解】
(うるさい)

「ま、そうゆうことだ。だから悠人、真夜。大人しく……死んでくれ」

身の丈はあろうかという光陰のダブルセイバーに、萌黄色のオーラフォトンか集結していく。
これは……

「悠人、共鳴いくぞ!個々の力じゃこの威力は耐えられない!!」
「そんな…光陰が、今日子が……敵だってのかよ……?」
「早くしろ!!それともお望み通り死んでやるのか!?」

光陰は神剣を器用に回転させると、切っ先を俺たちに向けて固定した。

「永遠神剣第五位【因果】の主、光陰の名において命ずる……」
「全員下がれ!!<高速詠唱>我を―――!!」
「………マナよ、我が求めに応じよ―――」

共鳴してる暇は無い、全力全開で防御するしか!!
しかし、それを見た光陰はフッと笑うと【因果】をおろす。
集まっていたマナも、霧散してしまった。

「言ったろ?今日のところは挨拶だって。それに、俺たちはずっとお前等の戦いを見てたわけだし、それじゃあフェアじゃない」
「見逃してくれるってか?」
「安心しろ、来るところまで来たら嫌でも相手をしてやる」

そう言うと構えを解き後ろを向いた。
それと共に、気配が掻き消えていく。

「じゃあな、悠人、真夜。これからは敵同士だ……恨みっこなしだぜ」
 
光の波紋が広がってゆく中、光陰達の身体が透けてゆく。
 
「…次は……す」
「それとこれは忠告だ。不用意に近付くと、痛い目に遭うぞ」

その岬と光陰の声と共に、完全に気配も姿も消えてしまった。







砂漠に腰を下ろしたまま打ちひしがれる悠人に、静かに言う。

「行くぞ、進軍しなけりゃどうにもならない」
「……真夜は、平気なのか?光陰が、今日子が敵なんだぞ!?」
「じゃあどうする!このままここでへたり込んでるつもりか!!?」

胸倉を掴んで立ち上がらせる。

「敵?上等じゃねえか!そんな事いう奴には、一発殴って目え覚まさせてやる!!岬も何が何でも元に戻す!!それでいいだけの話だろ!!?」

そんな事出来る根拠なんてない。
出来るかどうかもわからない。
でも、そう叫ばずにはいられなかった。
そうでなければ、こんな最悪な展開をどうやって乗り越えられるだろう。

「二人であの馬鹿達の目え覚まさせてやろうぜ」
「……ああ」




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その後、行軍中に現れた「マナ障壁」によって、進軍の道を完全に阻まれてしまった。
【月詠】の能力のおかげで死傷者はでなかったが、エトランジェ、スピリットには絶対に攻略できない難攻不落の壁によって、こちらは完全に防戦一方となってしまっている。
ヨーティアが悠人を引き連れ「マナ障壁」を発生させる装置の破壊に向かったが、報告ではそれも失敗に終わったらしい。

そんな中でいい報告もあった。
それは【 漆黒の翼 ウイング・オブ・ダークネス】の加入。
これで大陸に名をはせる三妖精のうち二人がラキオス陣営に来た事になる。
そして……

「まさかウルカと向かい合って茶を飲む事になるとはなあ」
「これも何かの縁でしょうか」

そう言って紅茶を飲み込む。
うーむ、やはりイオの淹れてくれたもののほうが旨いな。
まだまだ修行が足りん。

「それで、手前に用事とは?」
「ああ、実はさ…俺と模擬戦をしてくれないか?」
「ですが……」
「神剣が使えないのは分かってる。だから武器はお互い模擬刀で、純粋な技術だけでってのを頼みたいんだ」

今の俺は弱い。
少なくとも、光陰と戦り合えば今のままでは確実に負ける。
なら、足らない力は技術で補えばいい。
現に、ウルカや【蒼い牙ブルー・ファング】と呼ばれるアセリアは俺たちエトランジェとも互角に戦えるのだから。
そこに、紅茶のポットを持ってやって来たイオが、心配そうにたずねてきた。

「私との訓練では、いけないのですか?」
「いや、イオでも十分だけどな。やっぱ剣の形状が同じだと、教えられる事も多いかと思って」
「手前も、シンヤ殿の使う歩法を伝授していただきたいこともありますし」

“疾空”のことか。
まあ構わないとは思うけど。

「いいかな、イオ?」
「…構いません、好きにしてください。ウルカ様と訓練して来ればいいじゃないですか」

……何か、怒ってないか?

「ごめんごめん、今度掃除の手伝いとかもするからさ。そうだ、街に下りてみるのもいいかもな」
「街…ですか……?」

ソッポを向いていた首が、少しずつこちらに顔を向けてくる。
何かは分からないが興味を示したらしい。
ここぞとばかりに言う。

「そう、ヨフアルとかイオは食べたこと無いだろ?あの天才の世話でろくに遊んだ事も無いだろうしさ。今度暇ができたら一緒に行こう」
「ふ、二人でですか……?」
「?イオが嫌なら他のやつも連れ「ふ、二人がいいです!」――お、おう……」

いつもと違う、どこか必死な様子に面食らう。
そんな俺の様子を見て気付いたのか、イオは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「平和ですね……」
「全くだ」

どこか居心地の悪い空気をぬぐうように、俺は紅茶に口をつけた。
すっかり冷めてしまっていた。




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「マナ障壁」も攻略できないまま、ラキオスは防戦を繰り返していた。
もちろん現在の本拠地であるランサにいたままというわけでもない。
時には進軍し、「マナ障壁」の一杯一杯まで近づくこともある。
現に今も、俺、セリア、ヒミカ、ハリオンのメンバーがヘリアの道を歩いているところだった。

「このところ怪我が多いようですが、大丈夫ですかシンヤ様?」
「ああ、心配してくれてありがとな、ヒミカ」

帝国も参戦した現状、更に俺は訓練の密度を上げていった。
朝はウルカと、昼は進軍や事務の仕事、夜にはイオとの訓練。
きつくはあったが、次第に自分が強くなっていくのを実感でき、この生活自体は大して辛いとは感じなかった。

【マスター……】
「敵か?」
【気配が小さいけど……くる!】

それと同時に膨れ上がる神剣の気配。
上がる周囲の温度。
レッドスピリットの神剣魔法か!?

「セリア、バニッシュいけるか!?」
「駄目、このタイミングじゃ間に合わないわ!!」
「野っ郎、知覚範囲外からの神剣魔法なんて、舐めた真似を……!!」

すぐさま言霊を削って《ルナティック・アイギス》を発動。
向かい来る劫火を仲間を覆うように月光色の盾が防ぐ。
方角は……二時の方向岩場の影!!

「ヒミカ、ハリオン!!」
「了解!」
「分かりました〜」

ヒミカとハリオンが剣を重ね合わせ、共鳴していく。
交じり合う赤と緑のマナ。
ヒミカは右に【赤光】、左に【大樹】を握ると、体をひねって投擲した。

「熱いですよ〜?」
「唸れ焔槍―――!!」
「「ブレイズストライク――――ッ!!!」」

纏う炎を殺意に変え、ほぼ同時に放たれた二振りの剣が唸りを上げて突進する。
巻き上がる炎と共に悲鳴が聞こえた。
マナでできた糸で、ハリオンは神剣を回収していく。
そして、岩場から数人の敵が現れた。
その中には一人、人間も混じっている。

「なかなかどうして、もう共鳴剣をものにしていますか。流石はラキオスのスピリット、と言ったところでしょうか」

メガネをかけた男が、笑いながら参事を投げかける。
生理的に受け付けない、というのが第一印象だった。
目も、鼻も、口も、声も、全てが嫌悪の対象。

「三蛇首の紋章……サーギオスか」
「そう。ソーマ・ル・ソーマと申します。【黄金漆黒ゴールド アンド ブラック】の勇者殿。いや、【狂犬クレイジーハウンド】とお呼びした方がよろしいですかな?」
「帝国ではそう呼ばれてるのか?」
「はい。素手で妖精たちを殺した化物、と」

ずいぶんだな、と笑って返す。
嫌だ、こいつとはもう一秒も話していたくない。

「貴方は、最も勇者らしい勇者ですね。マロリガンのもそうですが、目が違う。すばらしいですよ。勇者とは、そうでなくてはいけない」
「勇者だの何だの、異世界から来た高校生に、そんなもん求めんじゃねえよ。<高速詠唱スペルアクセル>闇を切り裂く光となりて、彼の者に滅びを―――《夜天閃月》!!」

撃ち出されたオーラの斬戟。
しかし、それはソーマに届くことなくスピリットによって防がれた。
前に立った二人のスピリットが、夜天に裂かれ消えていく。

「おやおや、血の気が多い勇者殿ですねえ」
「うるさい、消えろ。そんで二度と俺の前に現れるな。もし今度その汚ねえ面見せやがったら。今度こそ殺してやる」

それを聞いたソーマは、一瞬表情を消したが、直ぐに笑みを浮かべた。

「いいでしょう、今回は顔見せ程度でしたから。またお会いする日を楽しみにしていますよ」

そう言うと、部下のスピリットたちを引き連れ消えていった。
気が付くと、もう直ぐ西日が消えていこうとしている。

「いったん帰ろう。」

一抹の嫌悪感を、未だ胸のうちに秘めながら元来た道を歩き出した。







<後書き>

第二十五話「再会・弐〜砂漠にて〜」

クレイジーハウンド、直訳すると「狂った猟犬」。
最初のは、光陰と真夜の初対面のシーン。
それから悠人や今日子に会っていくわけです。
<高速詠唱>ですが、あれは真夜は台詞として喋っていません。
分かりやすくしているだけで、「スペルアクセル」と言ってないんです。
次回は遂に、あの男の登場です。


ブレイズストライク

ヒミカとハリオンのシンクロ・ドライブ。
炎を纏った【赤光】と【大樹】を投擲する技です。
着弾の瞬間更に火力が上がり、周囲の敵にも攻撃を加える事が出来ます。
因みに、マナの糸で回収というのは、全グリーンスピリットが習得している技術という設定(w
一々投げたもの取りに行ってたら、その間に攻撃されますからね。

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