「ぜあっ!!」
「はっ!」

訓練場に甲高い金属音が響き渡る。
片方は日本刀を手にした黒髪金眼の少年。
もう片方は白髪灼眼の槍を持った女性。
ぶつかり合う刃と柄からは火花が散り、一瞬で両者の距離が離れる。
真夜が“疾空アクセル”で一気に距離を詰め、連撃を放った。

「“死季・夏日連衝・弐式”……“尖夏蓮華せんかれんげ”!!」

穿つに特化した五連撃。
しかしそれをイオは“流旋ストリーム”で器用に往なす。

「まだまだですよ、シンヤ様」
「―――だからって!!」

引いた腕からそのまま鞘に収め、残像を生み出しながら移動する。

「“死季・秋水舞葉”!!」
「いい技です……ですが」

背後に回り抜刀した真夜の剣を、“疾空”で射程外に離れ、そのまま真夜の背後に回りこむ。

「………!!」

刃先が、真夜の首筋に突きつけられた。
それを見ていたヘリオンとセリアは、感嘆する。

「し、シンヤ様も凄いですけど」
「あの人、どれだけ強いのよ……」

歩法、回避法は誰かに習ったと言っていたが、それがあのイオと言う女性だということが分かった。
それに加え、エトランジェをも上回る戦闘技術。
笑いながらイオの手を取り立ち上がる真夜の姿に、少し胸が痛むのを感じながら、セリアは自分の鍛錬へ移った。

















Intruder
24.cross sword with 2^Black and a black duet^
















「残念ながら、あんたの力にはなれそうに無いねえ」
「そうか……」

ラキオスにヨーティアが来てから数日、俺の体のことを調べてもらうため、色々と検査をしてもらっていた。
しかし、結果は上の通り。

「体に特に不備はないし、ユートと比べても変わったところは無い。」
「うーん、やっぱ戦い続けるしかないってことか」
「辛いかい?」
「今までと一緒だよ。それに戦う覚悟自体は出来てる」

そう言って制服のブレザーに手を通す。
開戦も残り数日、イオのおかげで皆の練度も上がってきているし、調子は上々だ。
ただ気がかりなのは、マロリガンが商業の中心地であるデオドガンを落とした事。
物資補給のためなのかもしれないが、あそこはソコソコの自衛力があったと聞く。
つまり……それを上回る戦力がマロリガンにはいたということ。

「あいつ等でない事を祈るよ」
「ん、何か言ったかい?」
「いや、独り言だ」




]   ]   ]




「あ〜つ〜い〜!!」
「頑張れネリー。そして暑いとか言うな、余計暑くなる。涼しいだ、涼しいと言い続ければその内涼しくなる」
「すずしいすずしいずずしいすずいあずいあついあついーーー!!!」
「だーーー!!もううるさーーい!!」
「あんたたちドッチもウルサイのよ!!少し黙ってなさい!!」
「「はい………」」

前を歩いていたセリアに叱咤され、ネリ−と二人黙りこむ。
ダスカトロン砂漠のヘリアの道。
ナナルゥやヒミカは割りと平気そうだが、ブルースピリットはこの環境はかなりキツイようだ。
現にシアーはフーフー言いながら歩いているし、セリアはさっきからピリピリしっぱなし。
背中のハイロゥも心なしか元気が無いようだ。

「シアーも、大丈夫か?」
「うん〜、だいじょうぶ〜……」

とは言いながらも、目はぼうっとしているし、足元も何か危なっかしい。
………仕方が無いな。

「よいしょ」
「ふえ?」

シアーをおんぶして歩きだす。
暑いかとかはもう限界まで暑いので大して変わらないし、重さなんてのはほとんど感じない。

「いいなー、ネリーもー!!」
「はいはい、また後でな」
「私も〜、お願いしましょうか〜?」
「いや、ハリオンは勘弁してほしいかな……」
「何でですか〜」

当たるからです、背中に。
とは口に出さず、前を向いて歩きだす。
ふと、ニムントールと目が合った。

「どうした?ニムもして欲しいのか?」
「に、ニムって言うな!それに別にニムはして欲しくなんて無い!!」
「分かった分かった、ネリーの次にな」
「〜〜〜〜〜!!」


ザワッ


「!!」

突然感じた感覚に、神経を張り巡らせる。

「だからニムは―――!!」
「静かに、どこだ……?」
【三時の方角……】

【月詠】の声の通りの方角を向き、シアーを下ろして鞘から刀を抜く。
数は……四人、うち一人はかなりの使い手だ。
砂漠の砂丘から姿を現す敵、それを見た悠人が、吼えた。

「ウルカーーーー!!!」

鞘から【求め】を抜き放ち、白いオーラを爆発させる。
ウルカ・ブラックスピリット。
確かイースペリアでアセリアと互角以上に戦りあい、高嶺妹を連れ去った張本人。
大陸で【 漆黒の翼ウイング・オブ・ダークネス 】と呼ばれ恐れられている剣豪だ。

「貴様ぁ!佳織をどこに!!」
「……我が国に」
「ふざけろ!!」

立ち上るオーラがそれ自体殺意の塊と化す。
【求め】に飲み込まれている気配は無いが、それでも今の状態は危険だ。

「悠人、落ち着け」
「落ち着け?落ち着いてなんかいられるか!あいつが、あいつが佳織を『ベキィ!!』ぐはぁ!!」

間髪いれずに刀の峰で頭を殴る。

【痛いの……】
(痛覚あんのか?)
【……気分】
(ちょっと黙っといてくれ。)

「落ち着けと言ってるだろうが。瞬が一枚かんでるのは知ってるが、こいつ殺してどうなることでもないだろうが」

そう言って一歩前に出た。

「そんで、戦るの?戦らないの?」
「……【黄金漆黒】ですか?」
「そ、喧嘩がしたいなら相手になってやるよ。“漆黒”同士仲良くしようぜ」
「……いいでしょう」

そう言うと部下を下げさせて刀に手を掛ける。

「手前はウルカ。サーギオス遊撃部隊隊長、ウルカ・ブラックスピリット」
「神凪・真夜。ラキオス・スピリット隊副隊長だ。よろしく!!」




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ギャン!!と金属音が、不協和音を上げた。
そのままニ撃、三撃と黒刃と白刃がぶつかり合う。
鍔迫り合いの後、先に動いたのはウルカ。
離れあう瞬間左蹴りを叩き込む。
それをバックステップで威力を最小限に殺し、砂塵を巻き上げながら後退した。

それを追うように、ウルカは【拘束】を納刀し、真夜へと迫る。
しかし、そこで妙な違和感を感じ立ち止まった。
周囲のマナが一点に凝縮していく感覚。
そして砂塵が渦巻くように巻き上がりながら、真夜が姿を現した。
足元には、魔方陣が浮かび上がる。

「《夜天―――……」
「!!」
「―――閃月》!!!」

咄嗟にウイングハイロゥを地面に叩きつけ、横に飛ぶ。
月光色の斬戟が、地を裂きながら直進する。

「ちっ、かわしたか!!速えなあんた!!」
「そちらも、中々の腕前です」

そのとき目の前の真夜が掻き消え、そこにはオーラで出来た紅葉が舞い落ちる。

「そりゃどうも!!」

次に声がしたのは、背後からだった。

「――――“秋水舞葉”!!」




]   ]   ]




「はぁ、はぁ、はぁ……」
「ふぅーーー……」

両者が大きく離れ、息をつく。
ウルカには肩口に、俺は脇腹にそれぞれ斬戟痕が残った。
完全に背後からの奇襲だったが、それにすら反応しウルカは腰に差した神剣を抜刀したのだ。

「くっそ、きまったと思ったのによ……」
「そう簡単には、殺らせません……」

互いに微笑みながらも睨み合う。
しかし、俺は【月詠】を鞘に収めた。

「戦う気はないと?」
「あんたとの戦いは疲れる。それに俺もあんたを殺す理由は無いからな。帰って瞬にでも言っとけ『マロリガンが終わったら、直ぐにでもぶん殴りに行ってやる』ってな」

それを聞いたウルカは、頷くと悠人も元へと近づく。
悠人は身構えるが、ウルカに戦意が無いのを感じたのか、【求め】を下ろした。
そして、ウルカが取り出したお守りのようなものを受け取る。

「これは……」
「カオリ殿からの伝言です。自分は負けないから、ユート殿も負けるな……と」
「………そうか、ありがとう」

ギュッとお守りを握り締めたのを確認して、ウルカはハイロゥを展開する。
そして、俺の方を向いて言った。

「シンヤ殿。また戦場で」
「こっちは勘弁だ」

フッと一瞬だけ微笑むと、仲間を連れて退却した。




]   ]   ]




それから一時間ほど、更にヘリアの道を進軍する。
ちなみに―――

「らっくちん、らっくちん♪」
「なあネリー、怪我人に対する考慮とかは無いのか?」
「シアーの次はネリーだもん☆」
「『だもん☆』じゃなくて……ああもういいや、面倒臭え」

しっかりとネリーは俺の背中に負ぶさっていたりする。
いや、確かにハリオンに回復してもらったが、一応病み上がりだぞ……

「全速ぜんしーーん!!」
「できるかボケェ!!」
「ウルサイって言ってるでしょ!!?」
「「ごめんなさい」」

全く、暑いからってピリピリしやがって。
ストレスはお肌に悪いぞ。

「でも、セリアがイライラしてるのって暑いのだけが原因じゃないみたいだよ?」
「あ?じゃあなんなんだよ」
「それは、イオとシンヤ様が―――」
【落雷注意……】

その時、俺とネリーの会話に割り込んで【月詠】が警告する。
落雷?こんな何も無い砂漠で―――


ゾクゥ!!


「この感覚……!!」

突如押し寄せる悪寒に反応し、ネリーを下ろす。
驚いたような表情でネリーがこちらを見るが、今は構っていられない。
この感じ、スピリットのものじゃない!!
これは―――

「悠人、防御の神剣魔法を!!」
「分かってる!!」

悠人も悪寒に気付いているのか、【求め】を構え詠唱に入る。
こっちも対魔法防御用の神剣魔法を!!

「マナよ、我が求めに応じよ。オーラとなりて、守りの力となれ!」
「マナよ、守りの力となれ。月光を纏いて、我を守護する盾と成せ……!」

ほぼ同時に浮かび上がる、白と月光色の魔方陣。
形成された守りの力が、形を成す。

「《レジスト》!!」
「《ルナティック・アイギス》!!」

二つの盾が空を覆い、きたる衝撃へと身構える。
……きた!!

「ガッ……!!」
「これか!?」

紫電の閃光がシールドにぶつかり、稲妻の如く閃光が迸る。
【月詠】の予測道理だ。
そして、こんな事が出来るのはスピリットではない!!

紫電が止むとほぼ同時に、かすれる様な気配の方へ“疾空”を使い駆ける。
そして、そこに向かい思い切り振りぬいた。


ガンッ!!


何も無い空間に、刃先がぶつかる。
そして、空間がブレてそこから人が現れた。
二人……最悪だ。

「……久しぶりだな、真夜」
「光…陰……」

そこには、かつて毎日のように顔をあわせていた二人が、剣を持って立っていた。








<後書き>

二十四話「交わる刃・弐〜黒と黒の二重奏〜」

ウルカとの戦闘、光陰たちとの再会。
一気に話が進んでいきます。
今回は少し技が多めに登場、記載しておきます。


夏日連衝・弐式・尖夏蓮華(せんかれんげ)

従来の夏日とは違い、全ての攻撃を刺突に変化させた技。
攻撃範囲は落ちますが、その分威力は上昇しています。


ルナティック・アイギス

オーラの盾を生み出し、防御する神剣魔法。
こちらも<高速詠唱(スペルアクセル)>が組み込まれている。
マナを込めれば込めるほどその防御能力は上昇しますが、物理的な攻撃は防げません。
あくまで神剣魔法に対してだけです。



次回「REencounter 2^in desert^」

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