気が付くと、そこは見知った場所だった。
商店街、学校、ゲームセンター。
そう、姫花との思い出の場所。
そこに“そいつ”はいた。
俺とは違う、赤い瞳で
俺とは違う、白い髪で
俺と同じ顔をした“そいつ”が……
『………誰だ?』
『……誰だ?何を言っている?』
“そいつ”は笑いながら、言った
『俺はお前だよ、人である我が半身よ』
Intruder
23.REencounter^White & Genius^
「エーテル技術に頼り、スピリットに頼る限り、この世界に平和はありません」
「面白いことを言う……」
マロリガンの大統領室。
レスティーナとマロリガンの大統領、クェドギンが静かににらみ合う。
「しかし、貴女が引き連れているのはスピリットではないのか?ご自分で仰っていることが、既に矛盾していますよ。それに、エーテル技術を捨ててまで何を得ようと?」
「恒久平和です」
それを聞いたクェドが笑う、心底おかしそうに。
どうでもいいが、眠い……
このところ、“あいつ”に心を奪われないよう気を張っているせいか、睡眠時間も曖昧だ。
「それは素晴らしい!ですが、生憎私はロマンチストではないのでね。世迷い言に付き合うほど子供ではないのですよ。私にはとてもではないが実現できるとは思えない」
「できぬできぬと言い続けるのも、また大人であろう。そろそろ頭の凝り固まった老いぼれは政治から退場すべきではないか?」
そこにアズマリアが割って入った。
お分かりだろうか?
俺の役目はこの子の“お守り”である。
最初にこいつを見たときは、流石のクェドも驚きを隠せなかったようだ。
『……女王殿の子供ですかな?』
『んなわけあるか!!』
というやり取りもあった。
大統領相手に思わず突っ込んでしまったこの体が恨めしい。
「大人は、いつも無知と理論に遮られ、出来ない無理だと言う。愚かしいとは思わないか?それが自らの子供たちに、己と同じ限界を与えるというのに」
「では、貴女なら出来ると?」
「少なくとも、貴様よりは可能性はあるだろう」
傍にいたスピリットが剣に手を掛ける。
クェドが侮辱されたのだと思ったのだろう。
しかし、それより速く、俺が【月詠】を抜刀し、首に刃を添えた。
「動くな、その剣引き抜いた瞬間、テメエの首をはね飛ばす」
「………!」
それを見ても、三人は誰も動じることなく話が進む。
「その覚悟を国民に強いるのはいかがなものか?国民達は、豊かな生活を望んでいるだけなのですよ。」
「そのエゴが、この事態を招いたのです。痛みは等しく味合わなければなりません。スピリット達だけに痛みを強いることが、既に戦いの本質から外れているのです」
「……どうやら話は平行線のようですね。」
「和平への道は、ないと?」
「これ以上の話し合いは無駄でしょう。我等は戦いを望んでいる。」
俺は刀を納刀し、アズマリアの隣に立った。
“あいつ”を押さえ込むには、戦いが途絶えないのが必要だが、やはり残念だ。
そして、部屋を出ようとしたとき、突然クェドに呼び止められた。
「【黄金漆黒】。貴様はどう考える?あの二人が、自らの理想を実現できると思うか?」
「……どうでもいいよ。俺はあいつ等を護るって決めてるんだ。邪魔するなら、人でもスピリットでも斬り殺す。それだけだ」
「それが、決められた道筋なのだとしてもか?」
「運命なんざ、捻じ曲げてなんぼだろ?」
そう言って部屋をあとにした。
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「どうだった?」
「戦争再開だ。マロリガンはどうしても俺らと喧嘩がしたいらしい。」
「何で……」
「知らん。だが、向こうが来る以上こっちは迎え撃たなきゃならないからな。帰って早速訓練開始しねえと」
「……真夜は、なんとも思わないのか?」
「悪いが、俺の体はそうも言ってくれないみたいなんだよ。知ってるだろ?」
悠人には報告がいっている筈だ。
俺が“紅”に飲み込まれた事も、第二詰所のみんなにまで襲い掛かった事も。
そして“あいつ”は、何かを破壊しなければ収まらないと言う事も……
「調子、よくないのか?」
「今はいいけどな。神剣の干渉より性質が悪い……気が付いたら乗っ取られるんだから」
時間が無い。
俺が俺でいられるうちに、また“あいつ”が表に出てくるのを防がなければ。
【月詠】には、そうなったら殺す気で強制力をかけろといってあるが……
「やッかいな体だな、こんちくしょう……」
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それから数日後、マロリガンからの宣戦布告があり、辺りはにわかにあわただしくなった。
訓練にも、今まで以上の強敵であるせいか、一層皆の気合が入っている。
かくゆう俺も―――
「オーラを断続的に切り離し、残像を形成………“死季・秋水舞葉”!!」
オーラで出来た残像を生み出しながら移動し、訓練用の人形の背後に回りこみ抜刀する。
対神剣魔法用に考えた詠唱破錠に特化した抜刀術。
これから戦うだろうダスカトロン砂漠は、マナが希薄な土地だ。
その中でも、赤のマナは他のマナよりも多いらしい。
自然とレッドスピリットの運用は両者とも大きくなるはずだ。
「フゥ、大分様になってきたな。後は“冬牙”だけか……」
「シンヤ様!」
そこにヒミカが駆け寄ってくる。
「ん?どうしたヒミカ」
「あの、シンヤ様にお客様のようです」
「……客?」
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言われたとおり謁見の間へ行くと、悠人もやってきている。
「遅いですよシンヤ、何をしているのです」
「悪い悪い、新技の完成がもうちょっとだったからさ。それで、客ってのは?」
そう言って後ろを向いている白い髪の女性を見る。
……白い髪?
「…相変わらず、鍛錬には余念がありませんね、シンヤ様?」
そう言って微笑む女性を、俺は知っていた。
知らないはずが無かった。
「……………イオぉ!!?」
「はい、お久しぶりです」
「え!?何で!?何しに来たんだ!?」
「取りあえず落ち着きなさい、シンヤ」
「お、おう……」
でも、何でここにイオが……
「真夜、知ってるのか?」
「剣に関しちゃ、この娘が俺の師匠だからな」
「私語は慎むように」
そう言われて悠人と俺は黙り込む。
それを見て微笑みながら、イオは頭を下げた。
「ラキオスのエトランジェ、【求め】のユート様。初めまして。私はイオ。スピリットです。出会えたことを、マナの導きに感謝します」
「えっと……エトランジェ、悠人です。こちらこそよろしく」
慌てたように悠人が頭を下げた。
「私がラキオスにやってきたのでは他でもありません」
イオはゆっくりと話し始める。
「主からの伝言を持って参りました。ラキオスの若き聡明な女王レスティーナ様と、エトランジェ、【求め】のユート様、そして頭の回転が速いバカに、と」
イオは厳重に封のされた書簡を差し出す。
あのやろう……最後のは俺のことか。
そしてイオは書簡を差し出す。
モノが帝国製というのが、いかにもあの天才らしい……
「預からせて頂きます」
レスティーナは懐からナイフを取り出し、封印を切り破って中に目を通した。
そして、火を持ってこさせ、その手紙を焼き払う。
「わかりました、イオ殿。すぐに使者を出しましょう。マロリガンとの開戦も近い。猶予はありません」
「ありがとうございます。主人も喜ぶでしょう。案内役を務めさせて頂きます」
…呼び出されたのに、置いていかれた感が否めないなあ………
と思っていると、レステイーナが俺と悠人に向けて言った。
「エトランジェ、ユート。そしてシンヤ。イオ殿と共に、ラキオスの使者として、この書簡を届けるように。エスペリアを伴うがよい」
「は、はあ……」
「……了解」
こうして何がなんだか分からないまま、謁見の間を後にすることになった。
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「という訳で、俺はこれから暫くここを空けることになった。」
「え〜!」
「どこにですか〜?」
「知らん。書簡を持って行けとしか言われなかったからな」
本当は知っているのだが……
まあ口外するべきではないというのは、あのやり取りからも分かる。
明日の朝には出発するらしいので、色々と準備もしなければならない。
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その十分後
「あの、ここにシンヤ様は……?」
ゆっくりと戸が開けられ、白い髪をした女性――イオが第二詰所に入ってきた。
それを見たハリオンが、手を止めて駆け寄る。
「あら〜、あなたですね〜?」
「シンヤ様〜、イオ様が〜、いらっしゃいましたよ〜」
相変わらずの間延び声で、階段の方へ声をかける。
すると、ドダドタという音がして真夜が降りてきた。
隣にはアズマリアもいる。
「……久しぶり」
「はい」
そんなやり取りを、どこかつまらなそうにアズマリアが見ていた。
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「つまり、貴様はシンヤの恋人ではないのだな?」
「え、ええ」
再会からおよそ十分、アズマリアはイオを座らせアレコレと質問をしていた。
「んなんじゃねえって言ってるだろ?」
「ふむ…まあいい」
どこか釈然としない表情で紅茶に口をつける。
イオも困ったような表情をしている。
まあ当然だろう、俺と恋人ではないかなどと言われては。
「ごめんなイオ、ありえないよな?俺じゃイオと釣り合う筈ないし」
「……そうゆうところは成長してないのですね」
「ん、何か言ったか?」
「いいえ何も」
そう言われると気になって仕方が無いのだが……
まあ聞いても教えてくれないだろうし、早々と会話を切り替えることにする。
「そういやさ―――」
その日はイオとアズマリアも一緒に食卓に座り、皆で夕食を囲む事になった。
最初は皆々、ホワイトスピリットという存在に緊張半分興味半分といった感じだったが、最後には皆笑顔で語り合っていた。
] ] ]
「久しぶりだなぁ、シンヤ!少し大きくなったか!?」
「親戚の叔父さんみたいな台詞だな」
およそ一週間歩き続け、ようやく例の洞窟にたどり着いた。
悠人とエスペリアは、いまだ信じられないといった表情でヨーティアの事を見ている。
まあ彼の大賢者が、こんな格好じゃなあ……
「いま失礼なことを考えていただろう」
「お前は見た目からして大賢者じゃないだろ、と思っていた」
「相変わらずだねえ」
「お互いな」
しっかし、以前にも増して汚くなってるな…と思いながら辺りを見回す。
それを察したのか、ヨーティアは溜息をつきながら言った。
「酷いもんだろう?お前さんがいなくなって以来、イオのやつどこか上の空でねえ。料理はたまに酷い出来になるし、掃除もどこかボーっとしていてねえ」
「ヨ、ヨーティア様!?」
「事実だろう?」
顔を真っ赤にしてイオが俯いてしまう。
そうか、そんなに心配してくれたのか……
「ありがとな、イオ」
「え……」
「あれだろ?出来の悪い弟子が、戦場で死んだりしないか心配だったんだろ?大丈夫、イオのおかげで何とか生き残れたよ」
それを聞いたイオが、ハァと溜息をつく。
「鈍いところは成長せずか……一回検査でもしてみるかい?」
「ハイペリアの男性は、皆こうなのでしょうか……?」
「真夜って、心底鈍いよな」
失礼な。
悠人だけには言われたくないわい
<後書き>
第二十三話「再会〜白い妖精と天才〜」
第三部「マロリガン激突」篇、突入です。
イオとヨーティアの再会が早速ありました。
鈍いなぁ真夜は、心底鈍いなぁ(お前が書いたんだろ
今回のCode:3で色々進展する予定です。
Code:2で現れた謎の仮面の少女、そして真夜の中の異形の半身。
成長していく彼を、見守りつつ読み続けていただけたら幸いです。
秋水舞葉(しゅうすいぶよう)
「死季」唯一の抜刀術です。
オーラフォトンによってつくられた残像を生み出し、敵を切り抜けながらサポーターを攻撃します。
残像を生み出す度にオーラを消費するので、攻撃力は四剣技中最弱です。
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