「どうですか?」
「大方の傷は癒えました。ですが……」
セリアの問いに、歯切れ悪くエスペリアが答える。
「全身の筋肉がズタズタになっています。それほど体を酷使したという事でしょう」
まともに攻撃を浴びながら、動けていた事。
神剣を持たずにスピリットを殺せていた事からもそれは分かる。
「それで、大丈夫なの?」
「神剣の治癒能力も手伝って、回復しています。数日すれば完治するかと」
「そう、ごめんなさいエスペリア。こんな時に」
そうセリアが言う。
悠人の妹、佳織がサーギオスに誘拐され、その際悠人が神剣の力を暴走させた事も聞いていたからだ。
本当なら悠人の傍を離れたくなかっただろう、と思うと悪い事をしたと思う。
「いいのですよセリア。今はそれより、シンヤ様のことを看てあげなさい。」
「……ええ、ありがとう。エスペリアも、早くユート様のところに」
足早に駆けて行くエスペリアを見送った後、セリアは静かにドアを開けた。
そこに眠っているのは―――
『知らないはずが無いだろう?神凪・真夜だ!!』
そう叫び、狂気に歪んだ笑みを浮かべていた少年。
今は静かに、眠っている少年。
「……どうしたらいいのよ」
誰にでもない問いが、部屋の中に木霊した。
Intruder
22.overture for the new Concert
「……そう、か」
セリアの報告に、静かに頷く。
正直、記憶が無い。
アズマリアを、レスティーナを何とか助けようとしたところまでは覚えている。
しかし、そこから先が全く覚えが無い。
でも……
「俺が…ニムを……みんなを殺そうとしたってのかよ……」
俺の声で、俺の体で、俺の手で、脚で…俺の仲間を
何してんだよ俺、そんなの
「……護るもの傷つけて、どうするってんだよ」
そう呟くと、ベットから起き上がった。
体中が痛いが、今は気にするだけの余裕が無い。
「シンヤ!?」
「悪い…ちょっと、一人にしてくれ」
・
・
・
・
・
予兆はあった……
心の中から、誰かがずっと俺を呼ぶ感覚。
そう、イースペリア戦後からだ。
最初は気にするほども無かった、現にサルドバルト戦中はほとんど声なんてしなかったからだ。
それが、戦いが終わり日が経つにつれ明確になっていった。
分かってる、こいつが求めてるのは、マナなんかじゃない……破壊だ。
すべてを砕き、壊し、破壊したいという欲求。
それが元からある俺の破壊衝動が、肥大した物なのかは分からない。
ただ……恐い。
俺が、俺でなくなっていくのが……
「どうすりゃいいんだよ、ちくしょう……!」
当然、答えなんか返ってこなかった。
「カンナギ・シンヤね?」
―――筈だった。
慌てて振り返ると、そこには一人の少女が立っている。
長い黒い髪に、仮面越しから覗く青い瞳。
黒い衣服に身に纏い、腰には一振りの剣。
「……誰だ」
「【月詠】から身を離さないで」
俺の神剣の名前を知っていると言う事は、少なくとも一般市民じゃない。
身構えると、仮面の少女は笑いながら言った。
「何もするつもりは無いわ。ただ、私の言った事だけ覚えていなさい。いずれ来たる時が来るまで」
「誰だおま―――!」
問い詰めようとすると、閃光が舞い上がる。
気付けば、その場には俺一人しかいなかった……
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「ということがあったんだが」
【分からないの】
「そうか……」
それから事の次第を【月詠】に言ってみたのだが、結果は何も分からず。
【ただ……】
「ただ?」
【そうゆう力が表に出てきたら、私がマスターを止められるからだと思う……】
今回の強制力の事か。
確かに、物理的なもので止められない以上、【月詠】の力に頼るしかないのは確かだ。
「結局、今まで通りってことか」
【しばらく安静】
「分かったよ」
そう言って布団に仰向けに倒れた。
そういや、悠人のところも高峰が連れて行かれたみたいだし、怪我治ったら見に行ってみるか……
正直、自分の事で一杯一杯だ。
とりあえず、寝るか…などと思っていたところに、ドアがノックされた。
「開いてるぞ」
「シンヤ様大丈夫ー!?」
「じょうぶ〜?」
「心配したぞシンヤ。体の具合はどうだ?」
うるさいのが(ネリー、シアー、アズマリア)来たなあ……
「ああ、今は落ち着いてるし。暴れるだけ暴れたら、気が済んだらしい」
「……本当に、大丈夫か?」
「大丈夫だって。ゴメンな、皆にも心配かけて」
そう言って順番に頭を撫でていく。
身長差があまりないから楽でいい。
「とにかく、今は安静にしておけ。じきマロリガンとの停戦協定への話し合いも始まる。もし締結しなければ、またお前には戦ってもらわねばならないからな」
「了解です」
そこで、俺の顔を見たアズマリアが考え出す。
「どうした?」
「……怪我人には介護が必要だ。そして今は丁度昼時」
………ま、まさか
「ちょっと待て、マリア―――!!」
「よし、私が直々にお前のために昼食を作ってやろう!!」
「おー!ネリーもやるぅ!!」
「シアーも〜」
(何かどう考えてもいい結果が出なさそうな)トリオが結成されたーーー!!!
まずいぞ真夜、ここは父から学んだ幾多の戦法から打開策を―――
「それでは行って来る!ちゃんと待っておけ!」
「待っておけ!」
「おけ〜」
駄目だったーーー!!!
バタバタと階段を降りていく音が聞こえる。
そして、三人と入れ違いになったのか、セリアが室内に入ってきた。
「……何、あれ?」
「…いや、拾った命を捨てるかも……それより、セリアこそどうした?」
「どうしたって…あなたが落ち込んでるから……」
「心配して―――」
「るわけないでしょ!!」
間髪いれずに即答される。
「いや、まあさんきゅ」
「だから心配なんて―――!」
「それから、ゴメン。皆にも心配かけさせちまった。これからはもうあんな事にはならない。なってたまるか!」
そう言ってぐっと拳を握る。
そう、この体は俺のものだ。
意味の分からん奴に、蹂躙されるいわれは無い!!
「それでセリア。心配ついでで悪いんだが」
グワシッとセリアの両肩を掴む
「な、何?」
「ネリーたちを見ておいてくれ。せめて、せめて食える物が出来るように……!!!」
・
・
・
・
・
数十分後。。。
「さあ食べろシンヤ。私たちが手によりをかけて作ったものだ!」
「おいしーよー!」
「おいし〜♪」
「…………………」
鍋、だよな……じゃあ何で所々にヨフアルが浮いてるんだ!!?
つーか何ですかこの鮮やかなピンク色の汁は!?
だ、大丈夫だよな!?セリアも見ててくれたし……!!
そう思ってセリアのほうを向い―――
「―――どんなに暗い道を歩こうとしても―――精霊光が私たちの足元を照らす―――」
何か(死者への手向けっぽい)歌を歌いだしてるーーーー!!?
「さあ!」
「……ええいままよ!!」
食える物から作られてるんだ(多分)!
食って食えないはずは無い……!!
「………やっぱ駄目だったーーーー!!!」
そこまで叫んで意識がブラックアウトした。
Code:2 「reason to fight against」 End
to be continued next stage ....
それぞれの思いが交錯し 激突する
その手には罪 拭い切れぬ罰
紅い心を胸に秘め 今 少年は真実を知っていく
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