力が欲しい
全てを制し 全てを護る力が

















Intruder
16.exterminate a dragon^say to you goodbye^
















「ふう……」

場所はラキオスの訓練所。
一息ついて【桎梏】を納刀する。

「……駄目か」

拳を握りこむ。
帰還してから三日、模擬戦を加えた訓練の中、一度も“紅”になっていない。
一度尽きるまでオーラを消費させてみた事もあったが、結果は同じ。

「俺が危険な時に発動するのか?」

それとも、俺の精神の昂ぶりに反応するのか……
どちらにしろ、訳の分からないものには変わりない。
出来るだけ気を付けねえとな……

「シンヤ様、基礎訓練は終わりましたが」
「ん?ああ、分かった。そんじゃ、皆を集めてくれ」

首を振って頭を切り替える。
取りあえず、今は今のことだけを考えよう。







「はい、注目!!」

パンパン!!と手を叩く。

「これから皆には、“共鳴剣シンクロ・アビリティ”の訓練に入ってもらう」
「しん?」
「くろ〜?」

……ネリーとシアーはすぐに出来そうだな。

「ようするに、剣同士を共鳴させて、力の底上げを計るって技だ。どうやら帝国はもう実用段階まで入ってるみたいだ」
「それを、私たちも?」
「そゆこと」

ファーレーンの質問に答える。

「取りあえず、見本見せるか。セリア」
「はいはい、分かったわよ」

嫌々といった表情で(失礼な)セリアが前に出る。
そして向かい合うと、鞘から抜いた【熱病】と【桎梏】を重ねた。
神剣同士の鼓動を合わせようと……

「……ちょっと、早いわよ。もうちょっと抑えて」
「分かってる。お前こそちゃんと合わせろよ」
「合わせてるわよ。あなたが悪いんでしょ!」
「何ぃ!?俺の所為だってのかよ!」

……合わせようと

「何か、共鳴って言うより鍔迫り合いって感じ」
「そうですね〜」

重ねた刃はいつしかギリギリと音を立てている。
今にも本格的な戦闘になろうかとした時―――

「エトランジェ・シンヤはいるか!!」
「「ああ!!?」」
「ひ、ひい!?」




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「どうしたシンヤ?機嫌が悪いな」
「………別に
「まあ構わんが」

皆には訓練を継続するよう言って、この謁見の間に来ている。
中央に髭、両サイドにレスティーナとアズマリアという布陣だ。

「それで、何のようだよ」

睨みつけながら髭に言う。
今はアズマリアの指揮下だから、別に構わないだろう。
一瞬怒ったよな表情を見せるが、直ぐにいつもの嫌な笑い顔になる。

「今回は貴様に頼みがあってな。水龍についての調査を依頼したい」
「水龍?」
「バートバルトの海から超えて来た言われる龍でな。昨日発見した者がいると言われているのだ」

アズマリアを見る

「頼まれてくれるか、シンヤ。この前“誰かが”マナ消失などと下らないものを起こしてくれたおかげで、マナが足らんのだ」

まあ、そう言うのなら仕方ないか。
共鳴剣がモノになれば、龍も恐くないかもしれんし。

「分かった。それじゃ何人か連れて―――」
「何を言っている」
「……は?」
「任務には貴様一人で行ってもらう」
「な、お父様!?」
「ラキオス王、貴様!!」

レスティーナとアズマリアが聞いていなかったのか狼狽する。
要するに、俺はもういらないってことか……

「分かっていただきたいアズマリア王女。サルドバルトとの決戦も近い今、これ以上戦力を割くわけにはいくまい。まあ無理だと言うならスピリットを処刑するのみだが……」
「だが!!」
「いいって、アズマリア」
「シンヤ!?」

驚いたようにこちらを見る。

「分かりました。準備が整い次第出発します」

ただし、と付け加え、思い切り睨みつける。
殺意を込めた瞳で告げた

「分かってるだろうな、もし俺がいない間にアズマリアに何かしてみろ?テメェは生まれた事後悔させてやる」




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「水龍の討伐!!?」
「ウッセーなぁ……」
「うるさいって…あなたねえ、一人で討伐なんてできると思ってるの!?」
「だから、事実上の死刑宣告みたいなもんだろ?あの髭は俺が邪魔になったんだよ」

第二詰所のテーブルで、ハリオンの淹れてくれたお茶を飲む。
それを見たセリアは、思い切り溜息をついた。

「何でそんなに冷静なのよ」
「決まってんだろ。俺が勝つからだ」
「その根拠は?」
「悠人に出来て、俺に出来ねえ道理はねえ」

そこに、ヒミカとハリオンが席に着く

「道理としては適っていますけど」
「危ないのには変わらないですよ〜」
「大丈夫だって大丈夫」
「だからその自信はどこから来るのよ……」

自信があるわけじゃない。
今までも戦いは誰かと一緒だったし、本気で一対一ってのは初めてだ。
正直恐いとも思う。

「あ、年少組には内緒な。ついて行くって言いかねんから」
「私たちには言っても構わないと?」
「少なくとも、ネリーたちよか常識はあるだろ?」

命令違反=死。
俺はともかく、スピリットは限りなくそこに近い。
くやしいが……

「それで〜、出発は〜?」
「ばれないように、夜に出る。目的の場所には昼頃につくはずだから」

それじゃ〜お弁当作らないと〜、とハリオンが立ち上がった。
いや、遠足じゃないんだが。

「……まあ、死なないように気をつけなさい」
「御武運を」
「さんきゅ」







そして時間は夕食前、俺は夕食の準備でも手伝おうと部屋から出て、食卓へ向かっていた。
そこで見たのは

「ナナルゥ?」

テーブルに座って何か本を読んでいる。
気になったので声をかけてみることにした。

「何読んでんだ?」
「…俗に言う“恋愛小説”と呼ばれているものです。前回シンヤ様が読書を勧められたので」
「へえ……」

よくみると、それは前回渡したものとは違う。
あれから色々読んでみたのだろうか。
タイトルが「百鬼夜行」なのが激しく気になるが……
本当に恋愛小説かそれ?

「それで、一つ質問が」
「ん、なんだ?」

何事も疑問に持つ事はいいことだ。
疑問に持つって事は、それは即ち考えているという事。
そうやって少しずつ心を取り戻―――

「キス、とは何を意味するのですか?」
「…………はい?」
「キス、とは何を―――」
「いや、聞こえてる聞こえてる」

キスって……あれだよな、あの恋人同士がしたりする

「マウストゥーマウスのことか?」
「まうすとぅーまうす?」
「いや、聞き流してくれ」

いかん、急な質問に頭がショートしかけている。
落ち着け真夜、落ち着くんだ

「他人との唇同士の密着が、何を意味するのか分かりません。どういった意義があるのでしょう」
「えー、あー、それは……」

答えるの!?
いや、でも珍しくナナルゥが質問してくれてるんだし……
ええい!!恥ずかしがるんじゃない真夜、男だろ!?





「つまり、好きなもの同士は、そうやって互いにキスをすることで互いの気持ちを確かめ合うと」
「そ、そうです……」

説明するのに約五分。
は、はずかしい……
まさか十七にもなってキスについて説明せねばならないとは、思いもしなかった。

「……了解しました。では早速実行に移ります」
「…………え?」

実行?と思い、顔を上げると唇に柔らかい感触が…………てぇ!!?

「な、なななな!!る、ルゥ!?」
「何ですか?」
「何ってお前、何を!?」
「キスです」
「それは分かってる!な、何で俺に!?」

そう聞くと、ナナルゥはさも当然といった様に

「シンヤ様が好きだからです」
「イイ゛!?」

待て真夜、落ち着いて整理しよう。
キスは好きなもの同士がすると説明した→ナナルゥ実行→ナナルゥは俺が好き→ナナルゥエンド

「って、違うだろ!!!」

思い切り机に突っ伏して一人ボケツッコミ。
落ち着け真夜、堕ち付くんだ!!(漢字が間違っているのにも気付かない)

「シンヤ様は、違うのですか?」
「へ?」
「私が好きではありませんか?」

……もしかして、さっきの「違うだろ」発言か?
心なしか少し淋しそうだし……

「えっと、そんなことない。俺もルゥのこと、好きだぞ?」

いや、仲間としてな。
確かに可愛いし、こんな娘が彼女なら言うことないだろうが。

「ただ、イキナリだったからビックリしただけで」
「そうですか。……シンヤ様」
「何だ?」
「キスとは、いいものですね。少しだけ、他人の心が分かる気がします」
「………そっか」

その言葉が聞けただけでもよかったかな。







「し、シンヤ様!ナナルゥさんが皆にキスしようと迫ってきますぅ!!」
「何教えたのよあなた!!」
「あう〜、私の初めてのキスがぁ……」

……好きの定義が違うんだ、ナナルゥ
その事について更に俺が火を吹く思いで説明しなければいけなかったのは、まあ余談だろう




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世界が夜に包まれて、人々が眠りにつく頃。
刀を帯刀した少年が一人、夜の世界へ足を踏み出す。

「お気を付けて」
「頑張ってくださいね〜」
「ああ、さんきゅ。ファーレーン、ハリオン」

手渡された弁当を片手に持ち、二人に礼を言う。
そして一歩、踏み出した。
覚悟は出来た、行こう。

「行ってきます」
「はい〜」
「いってらっしゃい」

その声を背中で聞きながら、俺は闇夜を駆け出した。







<後書き>

十六話「ドラゴン退治〜さよなら〜」
これから後2話かけて『水龍討伐篇』を続けるつもりです。
改訂前と違った楽しみがあるかも?

次回「exterminate a dragon 2^夜に閃く月のように^」

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