「真紅の瞳に、赤いオーラフォトン?」
「そうです」

ダラムでの合流後、立てられた仮詰所に真夜を除く全てのメンバーが揃っていた。
ファーレーンの報告を受けた悠人が口を開く。

「ハイペリアにいた頃は、そんな事無かった、と思う。少なくとも俺が見てきた限りでは」
「シンヤ様はその事は?」
「覚えているようです。ただ、理由は分からない、と」

ヒミカの質問に答えた後、「ただ」とファーレーンが付け足す。

「あの力はシンヤ様自身の怒りが原動力になっているのだと思います」

“紅”状態になる前も、彼は怒っていた。
ミネアの人々の為に。

「……“あれ”は、相当危険です」

溢れる殺意がオーラとなり、存在すらひと回り大きく見えた。
圧倒的な破壊力、神剣を素手で・・・握りつぶした力。
恐かった、彼が彼で無い様で……

「分かった、俺も気を付ける。皆もできるだけ様子を見てくれ」

と悠人が言ったところで、風呂から上がった真夜が帰って来た。

「うい〜、サッパリした!……ん?どうした、何か俺に付いてるか?」



















Intruder
13.I am Queen !!^resonant sword^
















「何だよ、コレ……」

爆音、瓦礫、人の悲鳴
イースペリアは「地獄バルガロアー」と化していた。

国王の命令が思い出される
救済活動と呼ばれたその内容は「イースペリアの動力であるエーテル変換施設を機能停止にしろ」というものだった。
ギリッと歯軋りを立てる。
そこに悠人が話しかけてきた。

「落ち着け、真夜」
「……分かってる」

きっとあの時の事を気にかけてくれているのだろう。
分かってる、“あれ”が危険な物だと言う事も。
だからできるだけ明るい声で、悠人に喋りかけた。

「行くぞ悠人。さっさと終わらせて皆を助ける!」

誰も、死なせてたまるか
絶対に……







悠人にレスティーナの命令の事を伝えると、「分かった」と言ってエーテル施設へと向かっていった。
のだが……

「何でお前がついてくんだよ」
「知らないわよ、あなたがまた怒りに任せて暴走しないようにするための保険でしょ」
「ハッキリ言いやがって、少しはオブラートに包みやがれ」
「“おぶらーと”がどういう意味かは分からないけど、これが私の性格ですから」
「へーへー、そうですかい」

王室への道を、セリアと二人並走する。
確かに判断は正しい。
さっきだって、道に転がる子供や女性たちを見るたびに、タガが外れそうだったのだから……

「でも、自分の事や、仲間のことならともかく、何で見ず知らずの一般市民の為にそこまで怒ったのよ」
「……“一般市民”だからだよ。兵士やスピリットは、戦場に出てくる以上死んでも仕方ねえ。でも、普通の人はそこで死んじまったらいけねえ筈だろ?」
「……どっちにしろ、あなたは変だわ」
「そりゃどうも。話は終わりだ」

同時に足を止める。
目も前にそびえるのは巨大な扉。
この先に、いる筈だ。

「同時に行くぞ。モート(3)…」
「ラート(2)…」
「スート(1)……」
「「ガロッッ(0)!!」」

ダンッ!!と音を立てて同時に扉を蹴り開ける。
血まみれになって伏せている、恐らく重臣であろう男たち。
そして……

「ありゃりゃ?ラキオスかな??」
「そうだろうね、他に考えられないもの」

白いドレスを真っ赤に染めた女王の前に立つ、緑と青の髪をした、二人のスピリット。

「手前ぇら……!!」
「………」

鞘から【桎梏】を抜こうとしたところで、急に頭に激痛が走った。

「イデデデ!!な、何しやがるセリア!鞘越しとはいえ痛いぞ!!」
「あのねえ…さっき言われたばかりでしょ!」

ウ゛……そういわれると返す言葉が無い。
パンパンッ!と頬を叩いて冷静になる。
目の前のスピリットたちの戦闘服には、三首蛇の紋章が掘り込まれていた。

「どっちにしろ、敵である以上は殺さなきゃいけないんだから、ちょっとは冷静になりなさい」
「サンキュ。ちょっと落ち着いた」
「……素直だと気持ち悪いわよ?」
「野っ郎……」

今度こそ鞘から抜刀して刀を構えた。
敵二人はこちらを見ながら、まるでこれから遊ぶかのように笑いながら会話をする。

「どうする?殺っちゃう??」
「そうだね、エトランジェを殺せば、褒められるだろうし」

そう言って小柄な二人のスピリットは互いの剣を重ねた。
神剣からは、緑と青、二つのマナが交じり合うように輝く。

「何だ?何し―――」
「「共鳴剣シンクロ・アビリティ“ミスティック・フォグ”」」

瞬間、世界が白く染まった。




]  ]  ]




「な、何これ!?」
「離れんなセリア!!」

そう言って真夜はセリアの左腕を掴む。
二人のスピリットが何かしたと思った瞬間、この王室全体が真っ白な霧に包まれていた。

(なんだこれ、『高等戦術論』にこんなのは無かったぞ―――!!)

直ぐ隣にいるはずのセリアの顔すら見えない深い霧、それに二人は完全に混乱する。
【桎梏】から感じられるはずの神剣の気配も、何かに阻害されたように曖昧だ。

「―――っ!!セリア避けろ!!」
「へ?きゃっ!!」

覆いかぶさるように回避行動にでる。
五感でのみ感じられる殺気に反応、今いたところからは剣を振るう風切り音がした。

「チョッ!どこ触ってるのよ!!」
「ああ!?知らねえよ!!」

素早く立ち上がり、今度は背中合わせになる。

「とにかく、この霧を何とかしねえと……何なんだよ、共鳴剣って」
「確か、神剣同士を同調させて行う技だったはずよ。でも、実用段階にまで入ってるなんて……」

神剣同士の同調か、厄介な事この上ない……
そう感じながら、真夜はあることを思いつく。
それを声にしようとした時、両サイドからの斬撃がきた

「右頼む!!」
「左はよろしく!!」

同時に放たれる声。
真夜は“流旋”で往なし、セリアは慣れない防御をマナで出来た氷の壁で行う。
殺気が離れるのを待って、真夜はセリアに投げかけた。

「なあ、その共鳴剣って、俺たちでも出来ねえのか?」
「……可能性は低い。あれは、互いの信頼があって、始めて成り立つ技だから」

それを聞いた真夜は、セリアに問いかけた。

「俺は、信頼してる」
「……え?」
「悪いけど、俺は信頼してる奴じゃなきゃ、背中を任せたりしねえんだ。お前は、どうだ?」

背中越しに感じる体温、顔は見えないが、今彼は笑っているのだろう。
そう感じたセリアは、フッと笑った。

「まあ、やる価値はあるんじゃない?」

チンッと二人の神剣が重なり合った。

感じるのは互いの鼓動、合わせるように、歩み寄る。
剣越しに互いの感情が流れ込んでくる。

(ちゃんと合わせなさいよ?)
(分かってるって、いくぞ……!)

重なった。

「「共鳴剣シンクロ・アビリティ………!!」」







「次で殺っちゃおっか??」

とブルースピリット

「そうだね、遊びも飽きちゃったし」

とグリーンスピリット。
そして、互いの神剣を構えたとき、異変が起きた。

「何……?」
「霧が、晴れる?」

エトランジェとブルースピリットがいた場所から、霧が薄らいでいく。
そして寒気を感じた。
恐怖ではない、ただ単純にこの部屋一体の気温が下がっているのだ。
霧が薄らぐあの地点から……
渦巻きながら霧が完全に晴れる。
そこには、青いオーラを纏う二人の男女が現れた。

「なんだよ、結構簡単じゃねえか!」
「すごい、力が溢れてくる……!!」

重ねる剣が纏う冷気が、ピキピキッと二人を中心に床が凍らせていく。

「いくぞ、セリア!!」
「ええ!!」

冷気の纏うオーラが、敵を噛み砕く牙となる。
そして、同時に駆け出した。
二人の軌道上が這うように凍りつく。

「「月華氷刃げっかひょうじん!!!」」」

ほぼ同時に、クロス状に放たれる斬撃。
放たれる剣から立ち上る氷塊。
巻き込まれた二人のスピリットは、その氷解と共に砕け散った。




]  ]  ]




「一回技を使うと、共鳴も消えちまうのか」
「そうみたいね」

“月華氷刃”発動後、冷気を纏ったオーラが消えていた。

「……一応言っておくけど、まだあなたの事信頼した訳じゃないから。戦いに勝つため仕方なくだからね?」
「へいへい、分かってるよ」

手を振りながら答える。
そして、王座に座った女王の下に駆け寄った。

「生き…てる……?」

僅かだがまだ息をしている、それを確認して、話しかけた

「大丈夫か!?」
「……ラキ…スの……エト……ジェ…ですか?」

うなずくと、懐から一つの鍵を出す。

「これ…地下……鍵」
「地下に何かあるんだな!?」

そう叫ぶように問いかけると、力なくうなずいた。

「あの…娘に……よろ…しく……と」
「分かった、分かったから!!」
「お…願い………」

そこまで言って、力尽きた。
手を差し伸べ、まぶたを閉じさせる。

「行こう、セリア」
「……ええ」







階段を降り、地下へ向かう。
そこには、小さな一つの扉があった。

「エーテルを流してるみたいね。法王の壁と同じ原理、並みの攻撃じゃ壊れないわ」
「何があるってんだ」

先程手渡された鍵を鍵穴に差し込む。
そして、慎重にドアを開いた。
少し小さな部屋、特に何があるというわけでもない。
あるとすれば……

「女の子?」

備え付けられた一つの机と椅子。
そこに一人の少女がちょこんと座っていた。
背は、ニムと同じくらいだろうか。
レステイーナのような長い黒髪を腰まで伸ばし、瞳はやや釣り上がってキツイ印象を見せる。
こちらに気付くと、少し不機嫌そうに口を開いた。

「なんだ、やっと来たか。遅いぞ!!」
「え、あ、……誰?」

すると少女は椅子から立ち上がり、胸をそらせて言った。

「私はアズマリア・セイラス・イースペリア!イースペリアの女王だ!!」











<後書き>

第十三話「私が女王だ!!〜共鳴する剣〜」

ついカッとなってやった。後悔は全くしてない(ぇ

シンクロアビリティがついに発動されました。
ただ、投稿していただいた設定だと、ニムとシアーが使うはずだったんですよね“ミスティック・フォグ”
ごめんなさい!!
あと、真夜とセリアのシンクロ技、“月華氷刃”も登場。
スキル説明は一緒に掲載しておきます


ミスティック・フォグ

戦域に濃霧を発生させ、交戦不能な状態にする技。
また、この濃霧には詠唱破錠の効果が含まれており、ブラックスピリット、エトランジェを除く全ての神剣魔法をキャンセルできます。
比較的簡単に行使できるシンクロドライブで、神剣にかける負担も契約者にかかる負担も少なくてすみます。

(一部投稿と違います。ご容赦を……)


月華氷刃(げっかひょうじん)

冷気を纏ったオーラフォトンを、敵に叩きつける技。
クロス状に同時に放たれ、一瞬にしてあたりを氷原へと変えてしまいます。
シンクロドライブの中でも、上位に位置する技です。

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