血に飢えた獣が 刃風の中 目を覚ます
Intruder
12.目覚めるチカラ^the crimson eye^
「神凪・真夜は一度ラキオスに帰還せよ、ねえ……」
ダーツィ陥落後。エスペリアに言われた言葉を思い出す
『至急、とのことです。それとこれは―――』
「レスティーナの命令か……」
何のつもりだ?
唯の命令なら、紙一つで事足りるはず。
ワザワザ呼び出すってことは、余程の理由があるからだろう。
「こちらです」
前を歩いていた、初老の侍女が立ち止まる。
うう、あんまり女の子の部屋って入る事無いからな。
緊張する。
「ありがとう」
お婆さんに一礼して、ドアをノックする。
返事がして中に入ると、そこには真っ白なドレスを着たレスティーナが座っていた。
「待っていましたシンヤ。こちらに」
「お、おう」
促されるままに椅子にかける。
緊張を悟られたくなかったので、いきなり本題に入る事にした。
「それで、何で俺を呼んだんだ?」
「それは……ある人物を助け出して欲しいのです」
そう言って一つの資料を渡される。
「アズマリア・セイラス・イースペリア?」
「はい。イースペリアの女王です。あなたも知っていますね?今イースペリアがどういう状況か」
知っている。
現在イースペリアは帝国の援助を受けたサルドバルトと交戦中だ。
何故このタイミングで攻めるのか、何故帝国が関与するのか、それについてヒミカと話し合ったのを覚えている。
「それで、この女王様を助けて欲しい、と?」
「……そうです」
キュッとドレスの裾を握り締める音がする。
大切、なんだな……
「……分かった」
そう言うとレスティーナが顔を上げた。
「ほ、本当に!?」
「ああ、任せろ。つーか口調がレムリアになってんぞ」
そう言うと真っ赤になってアタフタしだす。
苦笑して立ち上がった。
「そんじゃ、行って来る」
「あ、えと…お願いします」
新しく二人を加入させますので、という声を背中で聞いて、俺は部屋を後にした
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そして
「よろしくお願いします、シンヤ様」
「……よろしく」
「こらニム、ちゃんと挨拶しなきゃ駄目でしょ!」
などとゴタゴタもあったのだが、今はラキオスを南下しラセリオを中継。
悠人たちと合流すべくダラムへと向かっている。
「あと少しでミネアだな。そこで一日休んで、皆と合流しよう」
「一日ぃ?ニムもう疲れた……」
「我慢だ我慢」
めんどくさい、と呟くニムに苦笑しながら、ファーレーンに話しかける。
「悪かったな。急な命令で」
「構いません。それに、いつかは戦う時がきますから」
そう言って覆面越しにニムを見つめる。
こんな小さい娘まで、戦わなきゃいけないんだな……
「頑張ろうぜ。あいつが戦わなくて済む未来の為に」
「……叶うでしょうか?」
「叶えるんだ」
強い口調にビックリしたのか、ファーレーンがこちらを見る。
安心させるようにもう一度。
「叶えよう。きっと出来る」
「……はい」
ファーレーンが覆面越しに微笑んだ。
「何ニム無視していい雰囲気になってるの」
ズイッとニムが俺とファーレーンの間に割ってはいる
「何だ、焼きもちか?」
「ちっがう!!なんで焼もちなんて焼かなきゃいけないのよ!?」
「こら、ちゃんと敬語で話さなきゃいけませんよ、ニム」
「〜〜〜〜!お姉ちゃんはドッチの味方なの!?」
ミネアが見えようとしていた
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「何だよ、これ?」
真夜は街の中に入って呟く。
木々は薙ぎ払われ、建築物は崩壊し、そこら中から異臭が立ち込めている。
(この臭い、人が焼けた時の異臭か……?)
戦場で何度か嗅いだ事のある臭いだ。
人の気配は全く感じられない。
殺された、のか?
(誰に?)
人が出来る芸当じゃない。
なら、スピリットか?
「ファーレーン。スピリットって人を殺したり出来るのか?」
しがみつくニムを抱くようにしていたファーレーンが答える。
「理論上は可能なはずです。ですが、普通人間はスピリットをそのように育てません。ただ、一国を除いては……」
「どこだ?」
立ち止まって剣を抜く。
目の前に立っている三人の少女。
戦闘服に彫られた三首蛇の紋章。
それを確認したファーレーンが搾り出すように言った。
「……サーギオスです」
こちらを向いたスピリットが、各々のハイロゥ展開する。
その色は闇夜のような漆黒。
【月光】を抜こうとするファーレーンを、【桎梏】の刀身が阻んだ。
「シンヤ様?」
「手え出すな」
一歩、近付く。
「お前等か?ここにいるやつら殺したの」
理性の無い瞳が、こちらを向いた。
「【 黄金漆黒 】?」
「殺したのかって、聞いてるんだよぉ!!!!」
爆破するように引き出されるオーラが、空気を切り裂いた。
怒りが心を満たしていく。
その心にリンクするように、オーラがあふれ出す。
「ああああ゛あ゛あ゛!!!」
戦略も技術も無い、振り回すように繰り出される【桎梏】。
青、赤、緑のスピリットは、かわしながら距離をとり、散開した。
それを見たファーレーンが真夜に向かって叫ぶ
「駄目ですシンヤ様!こちらも連携を―――」
「うるせえ!!」
遮るように真夜が吼える。
「ふざけんなよ!関係ねえやつらまで巻き込んで殺しやがって!!手前らもう全殺し決定だぞ!!?」
纏うオーラを刀身に乗せ、地面に叩きつける
「春風桜花ぁ!!」
真夜を中心に巻き起こる花弁の嵐。
それによって完全に姿を見失う。
次の瞬間―――
「ぜあぁ!!」
横薙ぎ一閃にブルースピリットが断ち切られる。
次にターゲットを絞ろうとした時、真夜の周囲の温度が突如上昇した。
爆発!!
敵の放った《アークフレア》が真夜を包む。
散開は作戦のうちだった。
最初から“一人は殺される”つもりで生まれる隙を突くつもりだったのだ。
「がっ―――!」
突然の攻撃に、纏ったオーラが防御したものの、制服は焼け焦げ、体の所々は火傷をし、真夜に確実なダメージを与える。
片膝をついて倒れこもうとする真夜に、今度はグリーンスピリットの斬撃が迫る
血の吹き出す音。
まともに喰らった刺突は、深々と真夜の脇腹を抉っていた。
「シ―ヤさ――!!」
遠くでファーレーンが叫ぶ声がする。
泣いているニムが視界に写る。
くそっ、もっと俺に力があれば……
そう、もっと俺にチカラガアレバ………
……………
………
…
「あああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛―――!!!」
溢れる殺意、目覚める破壊衝動。
獣じみた咆哮が、戦場を切り裂くように響き渡る。
吹き出す血も、火傷の傷も、人外の勢いで急速に癒えていった。
開かれた左眼が染まっていく、血のような紅に
直ぐ傍にいたグリーンスピリットの槍を掴む。
そしてそのまま、神剣を“へし折った”。
「―――!?」
「がぁ!!!」
加護を失ったスピリットに、真夜はオーラを込めた左手を叩き込む。
オーラもいつもと違う、灰褐色ではなく、真っ赤な色へと変わっていた。
吹き飛んだグリーンスピリットは、崩壊した家屋を巻き込みながら吹き飛ぶ。
そのまま真夜は最後の一人へと視線を向けた。
対するレッドスピリットは戦慄し、感じる。
自分では、このエトランジェには勝てない。
神剣の格とか、そう言う問題ではない。
この男そのものが、規格違いなのだと。
「……マナよ、永遠真剣の主―――」
しかし引けない。
自分には引く事が出来ないのを知っているから。
「その姿を燃えさかる火炎へと変えよ!《アークフレア》!!」
打ち出される紅蓮。
それを真夜は、文字通り、薙ぎ払った
「―――カッ!!」
爆炎が刀一本で断ち切られる。
そして、真夜は“疾空”を用いて一瞬で距離を詰めた。
振り上げられた【桎梏】が、真紅を纏う。
一閃が空に立ち上った。
] ] ]
「は、は、は―――」
熱が冷めていく。
先程は沸騰しそうだった血液も、今は落ち着いている。
まるで、自分が自分で無いような違和感。
何だ…今の……?
「シンヤ様、大丈夫ですか?」
「一人で無理するから……って、怪我は?」
慌てて駆け寄ってきた二人が、驚いたようにこちらを見る。
ニムの言ったように、先程までボロボロだったはずなのに、今は体に傷一つ付いていなかった。
「どういうことだ?」
「そんなのニムが聞きたいわよ」
ただ、と付け加える
「……恐かった」
「俺がか?」
「うん。いつも真夜じゃないみたいで……」
そっか…心配させちまったな……
「ごめんな」
そう言って抱き寄せて、背中をポンポン、と叩いてやる。
「な!?何すんのよ!子供じゃないんだから!!」
「子供だろうが、十分」
そう言って笑って離れてやる。
取りあえず、ここでの休息は無理だな。
「仕方ない。このままダラムを目指そう」
「構いませんが…大丈夫ですか?」
「俺は大丈夫」
不思議な事に、傷の痛みも、疲労も感じられない。
これもさっきの“何か”の影響なのだろうか
「行こう、皆が待ってる」
自分の中に眠る、得体の知れない力に、一抹の恐怖を感じながら、俺はミネアを出た。
<後書き>
第十二話「目覚めるチカラ〜真紅の瞳〜」
真夜に眠る謎の力が登場しました。
左目が真っ赤に染まった彼の力、これから話が進むに連れ明らかになっていきます。
今回思いっきりキレてます(笑
真夜は自分のことには余り怒ったりしませんが、他人に対しての沸点は非常に低いです。
いいところでもありますが、悪いところでもあります。
次回はイースペリア消失まで、いくかな?かな?(二回聞くな
次回「I am Queen !!」
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