キロノキロに設けられた司令部に兵士や司令官の声が響き渡る
「第二防衛ライン突破されました！！」
「防衛ラインを下げろ！わが国のスピリットはどうした！？」
「現在までの交戦で７割が死亡！ギレス訓練官のスピリット隊『アルテミス』は今戦闘態勢に入りました！！」
「くそっ！このままでは……」
「だめです！【求め】および【 黄金漆黒 】のエトランジェ、止まりません！！」
Intruder
11.Judgment^sharper than thunder faster than wind^
「フレンジーーーー！！」
「春風・桜花！！」
白いオーラが繰り出すニ連撃と、桜の花を模した灰褐色のオーラが舞い上がる。
ラキオス南方にある王国『ダーツィ』
そこの首都中枢である『キロノキロ』の城門前で、激しい攻防が繰り広げられていた。
否、攻防ではない。
エトランジェ二人による圧倒的な“攻”とキロノキロのスピリット達の決死の“防”によって、この場の戦闘は成されていた。
真夜が敵との距離をあけ悠人と背中合わせになる。
「ハア、ハア……キリがねえな」
「真夜、ここは俺が何とかする。何人か連れて場内に突入してくれ」
「いけるか？」
「まかせろ」
残るスピリットはあとわずか、なら悠人の言うとおりにした方が良いだろう。
そう考えると
「セリア、ヒミカ、ハリオンは俺に付いて来い！一気に攻め落とす！！」
そう言って駆け出した。
それを阻もうと敵が立ち塞がるが、すかさず悠人が叫ぶ
「オルファ、道を！！」
「うん！らいとにんぐふぁいや～～！！」
オルファの神剣魔法によってこじ開けた道を三人の妖精。
そして『黄金』の瞳と『漆黒』の髪を持つ青年が駆け抜けた。
Ⅹ Ⅹ Ⅹ
「おかしいな……」
城内に入ってまず出たのが疑問だった。
確かに門前に集めていた感はあるが、それにしても今まで一人も接触していないのはどういうことか。
作戦前にエスペリアが言っていたことを思い出す
・
・
・
・
『アルテミス？』
『はい、ダーツィ公国の中でも特に能力に秀でた者たちが集まる部隊だそうです。』
『強いのか？』
『……はい』
悠人の質問にエスペリアが答える。
『ハッキリ言って、現時点で対抗できるのは【求め】、【 桎梏 】、【蒼い牙】だけかと……』
『要注意、だな』
『シンヤ様からは第二詰所の皆に伝えて置いてください。アルテミスと接触した場合は、構わず撤退しろ、と』
・
・
・
・
城門前には少なくともそれらしき敵はいなかった。
なら必ず出てくるは―――
「シンヤ様！！」
ヒミカの声によって前を見る。
そこには三人、スピリットが立っていた。
そして更に後ろ、そこには“人間”がいる。
「始めまして【黄金漆黒】。私、ダーツィ訓練士、ギレスと申します」
「ご丁寧にどうも。こいつ等が『アルテミス』か？」
「お聞きですか？光栄ですな」
ギレスと名乗った男が、パチンッと指を鳴らすと、三人の少女が頭上に浮かんだ光輪を各々の形へと変形させる。
その色を見て、息を呑んだ
「灰色、だと？」
「そう。どこぞの訓練士はスピリットと神剣を同化させる事しか考えていませんが、私は違う。剣に飲み込まれず、上手く調和させる事で、自ら戦うことを知った戦士が生まれる。素晴らしいでしょう？」
「クソが……！」
「お褒めの言葉として頂戴しておきましょう」
戦闘態勢に入る敵を睨みつけながら、後ろにいる三人に声をかけた
「黒いのは俺に任せろ。後の二人を何とかしてくれ」
「……よろしいのですか？」
『アルテミス』の情報を聞いていたセリアが尋ねてくる
だが迷わなかった
「エスペリアは逃げろって言ってたけどな、俺はお前等でも十分いけると思ってる。それとも、恐いか？」
「冗談！！」
そう言って【熱病】を抜いて隣に立った
他の二人も
「ご期待に～、添えなきゃいけませんね～」
「こっちは大丈夫です。シンヤ様はあちらの隊長格を」
やる気満々だな
「行くぞ、みんな死ぬんじゃねえぞ！！」
「こっちの台詞よ！」
「はい～」
「了解！！」
Ⅹ Ⅹ Ⅹ
「とはいっても……」
やりずれえな、と愚痴をこぼしながら対峙する。
（真っ黒に染まりきっているのなら、手加減なしでブチ殺しちまっても構わねえ。）
だが、気に食わなかった。
飲み込まれながら、飲み込まれきれないこいつの状態が。
収めた刀に手をかけたブラックスピリットが、長髪をひらめかせ殺到する。
だが真夜は、いつものように“流旋”を使わず、抜き放たれた“居合いの太刀”を真正面から受け止めた。
ギャンッ！
金属同士の擦れ合う音が響き渡る。
目と鼻の距離になったスピリットに、真夜は問いかけた。
「なあ、これでいいのかよ！？」
ガッと音がして大きく距離が離れる。
今度は大きな声で、周りにも聞こえるように
「ビビッてんじゃねえぞ！！何カゴの中閉じこもってやがる！！そんなままで殺されてもいいのかよ、お前は！？」
ビクリ、と相手のブラックスピリットが反応する。
それを見ていたギレスは僅かに慌て、叫ぶように命令を飛ばした
「何をしているのですか！さっさと倒してしまいなさい！！このまま家族が殺されても構わないのですか！？」
その声に反応して、ブラックスピリットが更にスピードを上げる。
それを見て、真夜は再び叫んだ。
かつて自分に問いかけられた問いを。
「何のためにお前は戦う！？」
ぶつかり合う刃が立てる不協和音。
それに負けないほど大きな声で。
「仲間のためか！？自分のためか！？それともこの国のためか！！？」
一息
「その心に答えを出せ！そして剣を振るうか決めろ！これが最後の選択肢だ！！“剣”として死ぬか、“人”として【再生】に還るかの！！」
互いの剣が体をかすめ、痛みが体に走る。
自分は決めた、この娘を殺すと。
だから聞きたい、戦う理由を。
それすら背負うと決めたのだから。
「わた…しは……」
対峙していたブラックスピリットの瞳に、光がともる。
羽が白く変わっていく。
そして、声を放った
「家族を！私を“姉”だと言ってくれる娘たちの為に戦う！！国なんて関係ない、あの娘たちが笑って暮らせる世界の為に！！」
それを見たギレスは驚愕する。
引きずり出したのか、“スピリット”としての彼女を。
構え直したブラックスピリットが、真夜に向けて言う
「助けには感謝します。ですが、あなたには死んでもらいます。私たちの為に」
「できるのか？」
「やります」
問いかけに即答する少女に、真夜は微笑んだ。
そうだ、それでいい
「【黄金漆黒】、神凪・真夜。手にするは永遠神剣第四位【桎梏】」
「ダーツィ特殊部隊『アルテミス』、隊長。フィーナ・ブラックスピリット。永遠神剣は第七位【騒乱】」
二人の姿が、ぶれて消えた。
Ⅹ Ⅹ Ⅹ
「“雲散霧消の太刀”！！」
「“夏日・連・衝”！！」
エーテルの流れすら断ち斬らんと、空を切って吼える【騒乱】と、圧縮された殺意を纏った【桎梏】が甲高い金属音と共に衝突する。
互いの剣が交わるたびに光を放ち、ぶつかり合う。
「―――フッ」
一息吐き出し“疾空”でいったん距離を開いた
（何だよ、さっきより強えじゃねえか……）
何が神剣との調和だよ、とはき捨てながら構え直す。
パワーはこちらが上だが、速さはあちらが上。
いくら剣を繰り出そうと当たらなければ意味が無い。
打開案を練ろうとした瞬間、目の前に黒髪がひらめく
「しまっ！！」
「遅い！“月輪の太刀”！！」
ファーレーンと同じ、剣技。
一撃をギリギリで避け、更に続くニ撃目を刀で遮った。
（くそっ、このままじゃジリ貧だぞ！！）
もっと速くだ！もっと、もっと……！！
神経を集中させろ
感覚を研ぎ澄ませろ
防御はいらない、ほしいのはスピードだけだ
もっと速く、もっと鋭く、もっと、もっと、強く！！
「はぁーーー………」
急に動きが止まった真夜に、フィーナは警戒する。
そして驚愕した。
纏っていたオーラが集約され、肩一点に集中していく。
そして生み出されていくのは、灰褐色のオーラが造り出す片翼。
「何よ、それ？」
溢れる力が集約し、一つの力となる。
雷の如く、疾風の如く、駆ける為の力へ……
「最大出力……！！」
全ての力を、推進力へと変え、倒れこむように姿勢を低くする。
そして弾丸のように、自らの体を撃ち出した。
風を切り、駆け抜ける。
物質の急速移動によって巻き起こる水蒸気爆発。
「裂空！！」
限界を超えた高速移動。
時は一瞬、刹那の会合。
オーラの片翼が消え失せるのと、フィーナから血が溢れるのは、同時だった。
「……じゃあな」
広い広い草原、傍らにいつも手にしていた剣、【騒乱】は無い。
ふと前を見ると、目の前には自分を慕ってくれる妹たち。
それを見た彼女は、フッと微笑んだ
「……遅くなっちゃったわね。ただいま」
＜後書き＞
第十一話「最後の審判～風より速く、雷より鋭く～」
今度は真夜からの問いかけ。
「“剣”として死ぬか、“人”として【再生】に還るか」
これからも分かると思いますが、真夜はフィーナを殺します。
生きる道はありません。それがきっと戦争という物だと思いますから。
【黄金漆黒】は伝承にある四神剣にはない剣の名を、他国の人間は知らないだろうと言う事でつけた呼称です。
【桎梏】を【漆黒】と聞き間違えたという噂もあり（ぇー
スキル“裂空”の説明を
“裂空”（フルアクセル）
“疾空”に加え、更にオーラの全てを推進力に変えることで本来以上の高速移動を可能にする歩法。
使用回数は一日一回限り。
また使用後は“疾空”も使えなくなります。
次回「目覚めるチカラ」
-Powered by HTML DWARF-