拝啓おふくろ殿
いかがお過ごしでしょうか?
こちらは訳も分からず異世界に飛ばされ早一ヶ月
色々ありましたが順調に―――
「……ここどこ?」
………順調に迷っています
Intruder
03.voiceless sword
「今日で三日か……」
ソーンリームから出て早三日
場所は今だ森の中
イオからは「二日もあれば大丈夫でしょう」と言われたが、まだ街一つ見えてこない
ついでに食料が尽きた(これ重要)
まさか迷子……いや、マテマテマテ!!
だって俺もう17だよ!?(あまり関係ない)
まさか迷子なんて事あるわけねえじゃねえか
「そう、これは神々が与えし試練。これを乗り越える事で、何かこうすごいアイテムとかが……」
……止めよう、何か空しくなってきた
「今日中に何とかしねえと、マジでヤバイよな………ん?」
いっそ原始に立ち返り、狩猟でもしてみようか…などと考えていると、遠くからマナの揺らぎを感じる
これは、戦闘か?
「ま、何にせよ、これで何とかなりそうだ」
「こんの!《アイスバニッシャー》!!」
「殲滅します。《アークフレア》」
「はう、はう!?い、“居合いの太刀”ぃ!!」
「回復しますね〜。《ハーベスト》〜」
ラキオス南方都市「ラセリオ」
そこでは小規模ながら戦闘が行われていた
「な、なんで敵がぁ!?」
「知らないわよ!大方偵察かなんかでしょ!!」
半泣きになりながら詠唱を唱えるブラックスピリット、ヘリオンに長い髪をはためかせながらセリアが活を入れる
「戦力はこちらが上です。早急に終わらせましょう」
「まだお菓子も食べてませんしね〜」
連続で詠唱に入ったナナルゥをサポートすべく、ハリオンがガードに入る
大切なお菓子タイムを妨害されたせいか、その笑顔は少し引き攣っていた
「行きます。下がってください。《ライトニングファイ―――」
「え、援護します!《テラー》!!」
前に出ていたセリアとハリオンが、巻き込まれないように後ろに下がる
そしてナナルゥの神剣魔法が炸裂しようとした、その時―――
「あ、《アイスバニッシャー》!!」
「っ!?」
今まで倒れていたはずのブルースピリットが、最後の力を振り絞り魔法破錠の神剣魔法を唱える
ヘリオンの《テラー》のみがその効力を発揮し、まさに放たれようとしていたナナルゥの《ライトニングファイア》はマナへと霧散してしまった
それを好機と見たのか、敵のブラックスピリットが突進してくる
「ナナルゥ!!」
後方に待機していたセリアが防御にまわる為に【熱病】の力を解放する、が初動が遅すぎた
「死ねぇぇ!!」
鞘から抜き放たれた神剣が、ナナルゥの首を捉え―――
ギーーンッ!!
「ナイスタイミングってな」
「さてと……」
ギリギリと音を立てて【桎梏】と相手のスピリットの刀が交差する
突然の登場に驚いたのか、黒い髪の少女は翼を広げ後退した
「戦闘中悪いけど、お前らラキオスのスピリットか?」
「は、はい」
庇った赤いロングヘアーの少女に問いかけると、やや動揺しながらも答えてくれた
フム、中々俺も勘がいいな
咄嗟に助けた甲斐があった
「丁度いい。俺をラキオスに案内してくれねえか?会いたいやつが―――」
ガンッ!!
「後ろからイキナリ、か……感心しねえな」
「貴様、ラキオスのエトランジェか」
「まあ、そんなトコだ」
斬りかかってきた黒髪の少女にそう答える
“新しいエトランジェ”の部分は伏せておいた
こういうのは秘密にしていたほうが後々有利になるだろうと考えたからだ
気付くと、いつの間にか前方180°が敵に取り囲まれている
「止めとけ、今は戦うつもりはない」
「そう言って、引くとでも!!?」
三方から青と緑の少女が、先程斬りつけてきた黒髪の少女と共に飛び掛ってくる
トンッと後ろにいた赤い髪の少女(確かナナルゥだったか)を突き飛ばすと【桎梏】を構えた
「ったく、“ 流旋 ”」
「へ?」
「な!?」
「嘘!?」
攻撃をいなし、一度距離をとる
少々受けてしまったが、制服が少し裂けた程度だから、まあ修行の成果は上々だろう
そして、体を傾け左手を地に付けた
「いくぞ、目え見開いて…ちゃんと見とけよ!!?」
“ 疾空 ”
脚に収束させたマナを一気に開放させる
瞬間で最高速に乗った体を無理矢理コントロールし、相手のブラックスピリットの背後に回りこんだ
「詰み、だ」
「な……」
黒髪の少女は驚愕に顔を引き攣らせる
まあ無理もない
俺だってまだ“アクセル”は使いこなせていないのだ
「もう一度言う。引け。相手がエトランジェだったなら、お前等の上司も許してくれんだろ?」
強がっているが、本当は恐いのだ
これ以上やれば、俺は、この娘を殺さなきゃいけなくなる
「………一時、撤退だ」
「はあ、疲れた……」
“アクセル”は負荷がかかり過ぎるな
使えて後2、3回が限界だろう
【桎梏】を鞘に収めていると、先程の少女に加えて黒、青、緑の髪の少女たちが近づいてきた
「先程は、ありがとうございました」
「いいよ。長い付き合いになるかもしれねえし」
そう言って一番前にいる青いポニーテールの少女の方を向いた
「さっきの話は聞いてたよな?」
「聞いていましたが、どういうつもりですか?あなた、【求め】の契約者ではありませんね?」
その通り
さて、どこから説明するか…と考えていると
「おーい、皆大丈夫か!!?」
聞きなれた針金頭の声が聞こえた
「久しぶりだな、同志」
「ああ、ホント久しぶり」
ガッと腕を交差させる
「【求め】は悠人だったか。後一人は高嶺妹か?」
「ああ、そうだけど……どうしてそれを?」
「秘密だ」
そうかい――と言う悠人
ヨーティアに「私等のことは秘密だ」と言われているのでこればっかりは教えられない
「それで、いいのか?このままだとラキオスに来てもらうことになるんだが……」
「いいさ、その為に来たんだ」
軽く遭難しながら
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「なるほど、強制力に加えて高嶺を人質にか…それじゃ俺も下手に動けないな」
そう言って腕を組む
「すまない。お前まで巻き込んじまって」
「いいって、元々ラキオスに行くつもりだったし、それに高嶺まで人質にされてんだってんならなおさら放っとけねえよ」
そう言うと悠人がポカン、とこちらを見てくる
「ん、どうした?」
「いや、何でもない。ありがとな」
「そっか、そうゆう奴だったよな」そう言って今度は笑い出した
何なんだよ……
【桎梏】の真夜
後に【 黄金漆黒 】といわれたエトランジェが、その日ラキオスへと入城した
<おまけ>
「じゃあ、シンヤ様はソーンリームからいらっしゃったんですね」
「ああ、まあそんなとこだ」
まあどこから来たのかぐらいはセーフだよな?
そう言うとブラックスピリット――ヘリオンは俯いて考え出す
「どうした?」
「えっと、ソーンリームってラキオスの西側なんですよ」
知ってる
イオから地図も貰ったし
「それで?」
「えっと…ここってラキオスの南側なんですけど……」
「………は?」
「えっと、ですからここはラキオスの南―――」
「あ゛ー、聞こえない聞こえない」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<後書き>
真夜はステータス「方向音痴」を手に入れた(ぉぃ
そんな感じの第三話「口利かぬ剣」
戦闘はチョッとだけ、“疾空”初登場です
疾空 (アクセル)
これは従来の100のスピードを200にするといった速度上昇の技ではありません。
足にマナを圧縮、開放することで、瞬間的に体をトップスピードにもっていく、加速力を上昇させる技術です。
イオが真夜に教えたことからエトランジェ、スピリット関係無く使える技術ですが、本来のスピードは変わらないままです。
それどころか脚部に大きな負担をかけるので、多用することは出来ません。
なのでスピードの無いレッドスピリットやグリーンスピリットには無用の長物と言えるでしょう。
次回「cross sword with」
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