聞こえますか?
私の声が――――……
Intruder
02.welcome to Phantasmagoria
「知らない天井だ……」
覚醒して間もない頭でそう呟く
「えっと、どこだここ?」
確か、差し入れを持って悠人たちのとこに、エリシアと神社に向かってたはずだ
それが何でこんな穴倉みたいなとこで寝てんだ?
ウンウン唸っていると突然部屋の扉が開いた
「あ、お目覚めになられましたか?」
「え?あ、ああ」
突如入ってきた白い髪に赤い瞳をした女性は、「そうですか」と微笑む
う、綺麗だ……て、そうじゃなくて
「えっと、あんた誰だ?つーかココは何処なんだ?」
「ここはソーンリーム中立自治区です。私はイオ・ホワイトスピリットと言います」
そう言ってニコリと笑う
………ソーンリーム?
「えっと……」
「ふふ、落ち着いてください。今ヨーティア様がいらっしゃいますので」
「例のエトランジェは起きたかい?!」
聞きなれない単語にひたすら?マークを発生させる俺の所に、今度は髪をボサボサにした女性が入ってきた
「お、起きてるじゃないか。あんた私の言ってる事が分かるかい?」
「あ、ああ……分かるけど…何か分からん事が多すぎるんだが……」
「構わないよ。凡人っていうのは、不測の事態には素早く反応できないもんさ」
いや、不測の事態って…いきなり知らない所で目覚めて、二人の女性(両方美人)に囲まれている状況を、すんなり受け入れられる奴はいるのか?
「まあいい。この大天才が一から教えてやろう!」
「は、はあ……」
大天才て……自分で言っちゃったよ、この人………
そこから始まったのは、まあほとんど信じられないような話だった
ここは俺がいた世界と違う世界らしく(既に胡散臭い)、俺はそこに召喚されたエトランジェという存在らしい(最悪)
「その証拠に、コレがお前と一緒にいた神剣だ」
「いや、知らんぞ、そんな刀」
イオが持ってきてくれたエトランジェが持つという永遠神剣
それは柄は黒、鍔などの金具はダークグレイの日本刀だった
それを受け取り鞘から剣を抜いてみる
「剣の名は何というのですか?」
「いや、始めて見たし名前なんか―――」
知るわけない、と言おうとして止まる
いや、知ってる
俺はこの刀の名前を
「【 桎梏 】………」
「【 桎梏 】?【 空虚 】や【 因果 】ではなく?」
「そう、だと思うが……」
「ほうほう。伝説の四神剣以外の永遠神剣か……」
興味深いな ―― そう言ってマジマジと俺と【 桎梏 】を見比べる
「どうしますか?ヨーティア様」
「そうだねえ…色々調べたい事もあるし、暫くココにいてもらうか。あんたも構わないね?」
「構う構わない以前にまだ理解できてねえんだけど……」
十日後……
「ハァァァァ………」
意識を集中させ、オーラを収束させていく
それと共に空間に膨れ上がったオーラはその範囲を狭めていった
「大分オーラの制御が上手になってきましたね」
「ああ、イオのおかげだよ。ありがとう」
この十日間、俺はひたすらこの“オーラフォトン”といわれる力のコントロールに専念していた
イオに「シンヤ様の神剣は形状上どうしても威力が劣ってしまいます。なのでオーラの収束率を上げて少しでもそれを克服しましょう」といわれたからだ
「いえ、私はほんの少しマナの制御について教えただけですから」
そう言って少し顔を赤らめながらイオが答える
「シンヤ様の成長率はすごいです。この短期間でここまで成長なさるとは、私も思いませんでした」
「そ、そうか?」
そう言われると悪い気はしないな
「それでは、今日は防御の訓練をしましょう。【 理想 】よ、ここに……」
そう言うとイオの手に槍状の永遠神剣が召喚される
それを構えると、俺に向かって
「それでは、シンヤ様。私に全力で斬りかかってきて下さい」
と言ってきた
「いいのか?」
「はい、大丈夫ですから」
それは、俺の刀が当たらないってことだよな……
……なんかムカツク
「怪我しても、知らねえからな!!?」
刀身にオーラを纏わせて最速最攻の力で斬りかかる
思い切り振り下ろした刀はイオの体を―――
「あれ?」
「ふふ、ハズレです」
完全に捉えたはずの斬戟は、しかしイオの体を掠めもせずに地面へとぶつかり地面をえぐる
「んなくそっ!!」
刀をそのまま突き上げるように繰り出す
しかしそれもまた当たらずに空を切った
更に攻撃を繰り返そうと体を捻りこむ――――が
「なん!?」
突如捉えていた筈のイオの姿が消える
その直後にはもう俺の背後から首に槍が添えられていた
「これが、“ 流旋 ”です」
「ストリーム?」
「そうです。必要最小限の動きで敵の攻撃を回避し、大振りになった敵に攻撃を加える防御術」
「……なるほどな。じゃあ今一瞬消えたやつは?あれも同じか?」
「いえ、あれは“ 疾空 ”という技です。それはまた次に教えます」
一気に二つは無理か……
まあいい、じっくりしっかり強くなろう
「それでは、行きますよ?」
「オウッ!!」
「お、お疲れさん」
「まあそんな疲れてねえけどな」
イオは教え方が上手いからな ―― と言って差し出された紅茶(inビーカー)を受け取る
「そんじゃ、今度はコッチに貢献してもらうかね」
「まあ、それはいいんだけどな。エーテル以外のエネルギーなんて何で必要なんだ?」
世の中ギブ&テイクってことで、こちらはハイペリア(こちらではそう呼ばれているらしい)の知識を提供しているのだが、正直ここのエーテル施設の方が今の俺たちの世界の技術より上だと思うのだが……
「まあ、それがそう上手くもいかないのさ」
まあ見てな ―― と言ってヨーティアはコーヒーのような黒い液体と、まあ飲み物じゃないだろう鮮やかな緑の液体とが入ったビーカーを机に置いた
その両方が目盛の100まで注がれている
「この黒い方がマナ、緑がエーテルだとする。私らはこのマナをエーテルに還元して生活してるわけだ」
「フンフン」
「ところが、このエーテルがマナに戻る時―――」
そう言うと、ヨーティアはコーヒー(だと思う)を三分の二まで飲んだ
「この様に、マナが少なくなるんだ。そしてコレが続けば―――」
「世界を構成できなくなり、やがては滅びてしまう……?」
「そうだ、バカの割には分かってるじゃないか」
「誰がバカだ!!」
まあ俺がバカかどうかは置いといて、つまり放っておけば、やがてこの世界は滅んでしまうらしい
なら教えないわけにはいかない
「じゃあまずは―――」
更に二十日後……
「これはこっちで……」
「あ、シンヤ様。こちらをお願いできますか?」
「おう、分かった」
時は昼、場所は台所
住まわせてもらってる礼として、俺はここの家事等の手伝いをするようになっていた(主な作業が本の整理だが)
イオは最初渋っていたが、何もせずに厄介になり続けられるほど俺の神経も図太くない
そこでチョクチョクお手伝いさせてもらっている
「こんなもんかな……イオ、頼む」
「はい」
スープの味付けを担当していた俺は、イオに味見を頼んだ
こっちの世界はハイペリアよりも薄味なので、こうやって味見してもらわないとコッチの基準で作ってしまう
「はい、大丈夫です。大分よくなりましたね」
「なんたって腕の良い先生がいるからな」
「そんな……」
こちらに来てから本当にイオには世話になりっぱなしだった
剣術指南から、こちらの言語まで教えてくれ、今ではある程度なら本を読むことも出来る(自称大天才が何も教えてくれなかったのは言うまでもない)
「おーい、新婚気分はいいがサッサとしろ。私は腹が減ってるんだ」
「誰が新婚か」
つーか早く食いたいなら少しは手伝え、自分の分だけ食器出しやがって
イオも顔真っ赤にして怒ってんじゃねえか
「ハイハイ、もう出来たから静かに―――」
ドクンッ
「な、何だ!?」
急に感じた大きなマナの揺らぎに体が一瞬萎縮する
「龍…でしょうか……?」
「龍?」
あの、RPGに出てくるやつか?
「だろうねえ…ラキオスのエトランジェ、か」
「マテ。聞いてないぞ」
「まあ聞かれてないからな」
こいつ……
「聞いた話だと、ラキオスに二人。マロリガンに二人。サーギオスに一人召喚されたらしい」
「そうか……」
悠人、光陰、岬、高嶺妹は分かるとして、後一人は?
それより、どうする?
仮に悠人たちとして、俺は……
「行くのかい?分かってると思うが、行ってハイお仕舞いとはならないぞ?」
そうヨーティアが聞いてくる
分かってる、行けば戦う事になる
きっと殺しあう事になる
けど……
「……行く。あいつ等は俺の友達だ。だから、行かなきゃ」
それに――
「その為に、強くなったんだ」
「色々ありがとな」
「本当に……行ってしまわれるのですね………」
うつむきながらイオがそう言う
「大丈夫だって。イオが教えてくれた事、忘れないから」
「また、会えますか?」
「当たり前だろ」
クシャリッと頭を撫でる
「ま、精々頑張りな」
「ああ、ヨーティアも元気で」
当たり前だ――とヨーティアが笑う
「そんじゃ、行ってくる」
「ああ」
「行ってらっしゃい」
そして俺は、【 桎梏 】の力を使って全力で駆け出した
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<後書き>
第二話「ようこそファンタズマゴリアへ」
日本語に訳すと某ファミレスを思い出す(ぇー
早くもヨーティア&イオ登場です
“疾空”はまたの話に
今回は“流旋”のスキル説明
“流旋 (ストリーム)”
敵の攻撃を極限まで住なし、避わし、大振りになった敵に攻撃を加える回避に特化した防御術です
成長に合わせてその回避能力が上昇していきます
次回「voiceless sword」
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