朝、清々しい空気に包まれた学園を歩く少年
その前方には全く以って相応しくない
今や“ギャルゲーに義妹が出てくる”確率と同じぐらいの割合で行われている恒例イベントが発生していた
「お前が佳織を不幸にしてるんだよ、この疫病神が!!」
「なんだと!!」
そう言って今にも飛び掛ろうとする悠人を見た少年は、一つ溜息をつくと、軽い助走に入った
「こん―――」
「ドラゴンバズーカァァァ!!!」
Intruder
01. nice to meet you
「お前は学習能力が無いのか」
「いや、だからってドロップキックは無いだろ……」
「毎回受けてるお前が悪い」
横暴だ……と呟く悠人をスルーしていると、今度はその隣にいる光陰に話しかけてきた
「そういや、今日転校生が来るんだってよ」
「転校生?こんな時期に?」
光陰の話に岬が反応を示す
そりゃ、もう残すは学園祭って時に転校生なら興味も湧くよな
「つーか、そんな情報をどこから仕入れるんだ……」
「フッフッフ。秘密だ」
「さいですか」
まあ興味ないから良いけど
とこんなやり取りをしていると始業チャイムが鳴り響く
それとほぼ同時に、クラス担任が入ってきた
「皆、聞いてる者もいると思いますが、このクラスに転校生が来ました。女の子です」
「いえーーーい!!」
やかましい
つーか隣の席の光陰が一番やかましい
「それでは、早速入って来てもらいましょう。エリシアさん?」
は、ハイ!と澄んだ声が廊下から聞こえてくると、教室に一人の少女が入ってきた
……小さい
中学生と言われても仕方が無いと思われる身長に、ショ−トカットにした綺麗な金髪
そして青の瞳
「は、始めまして!!え、エリシア・ハーツと申しまズッ―――!!!」
ゴンッ!!と鈍い音を立ててエリシアと名乗った娘がお辞儀をしようとして、教卓に頭を思い切りぶつけた
涙目で頭を擦りながら唸っている
「おい、光陰」
「ああ」
「何か「最高だ」―――は?」
「ロリでドジッ娘!!これが俺たちが求めていた者だ!!」
「どうでもいいが、その“俺たち”の中に俺は入ってないからな」
「もう俺は死んでもいいぃぃぃぃ!!!」
「そうか、じゃあそうしてもらえ」
へっ?と立ち上がっていた光陰の後ろには何時の間にか鬼(岬 今日子)が立っている
「へえ。光陰は死んでもいいんだぁ……」
「きょ、今日子…いや、それは言葉のあやというか、…まて話し合おう。話せば分かる」
「問・答・無用!!!」
その後光陰がきれいに三回転捻りをしていたのは、まあ余談だろう
「一限目は先生の授業なんだけど、面倒臭――もといエリシアさんとの交流を深めるために自習にしたいと思います」
何か今軽く本音が出ていたんだが、いいんだろうか……
「それじゃ、私は行くから。エリシアさんは神凪君の隣に座って頂戴ね」
「あ、はい。分かりました」
小さい歩幅でトコトコとやって来たエリシアは俺の方を見ると
「久しぶりです。真夜君」
「あ?」
軽いバクダン発言をかましてくれた
お、男たちの視線がイタイ……
「し〜ん〜や〜」
「ひぃ――!」
先程まで“動かない。ただの屍のようだ”状態だった光陰が地面に転がったまま俺の足を掴む
お前はどこのB級ホラーだ
「こんな可愛い娘が知り合いだとは聞いていないぞ」
ヤバイ……眼がイッてる
周りの男たちの視線ももはや人を殺しかねん感じになっている
「さあ答えてもらうぞ。どこであった!キリキリはきやがれ!!」
「いや、つーか―――……」
「覚えてないぃ!!?」
「お、おう……」
そんな驚かんでも
「俺も結構人の顔は覚えてる方だけど…少なくともこの娘は記憶にないな。なあ、あんたと俺ってどこで会った?」
そう言って話の中心たるエリシアに聞いてみる
「えーと……仕方ないと思います。会ったって言っても八年ぐらい前の、それもほんの数日でしたから」
「八年前……?」
そう言われて記憶を遡ろうとするが、そこだけが霧がかかった様にハッキリしない
何だ、大切な何かを忘れているような……
「それに、思い出せるわけもないですし……」
「え?」
「い、いえ!何でもないです!!」
そう言われると余計気になるんだが……
「ま、いいじゃないの。一緒にいればその内思い出すかもしれないし」
「そうだな」
悠人と岬がやんわりとフォローを入れる
まあそんなもんか……
「そういやさ、今度の劇の話だけど」
そう言って話を変えると悠人がギクリとする
「どうすんだ?あんま時間ないんだろ?なあ悠人」
そう言うとエリシアは興味深そうに尋ねてきた
「劇…ですか?」
「ああ、今度の学園祭でな。悠人はその主役なんだよ」
まあ正直主役に推薦したのは俺だけど
「わ〜。おもしろそうですねぇ」
「そうだろ!?さあエリシアちゃん!俺と一緒に素敵な学園祭をもっと素敵に「こんの馬鹿がぁぁぁ!!」―――ぎゃあぁぁぁ!!!」
鼻息を荒くした光陰が再び岬に吹っ飛ばされる
あいつ今日元気だな……
「あ、あの。大丈夫なんですか?」
「ああ、まああいつ等は大抵あんな感じだから。て、話がずれたな」
そう言うとフルスイングでハリセンを繰り出した岬が
「それで、今日から近所の神社で稽古しようって言ってるの」
「いいのか?勝手にそんなことして」
「大丈夫。光陰がそこの神主さんと仲良いみたいだし。そうよね光陰」
お、おう。とピクピクしながら光陰が答える
「ビシビシ鍛えてあげるから!覚悟しなさいよ、悠!!」
逃がさないからねえと言いながら嫌な笑みを浮かべる今日子に悠人は青い顔をしている。まあこれでサボろうとすれば今日子のハリセンクラッシャーの餌食になるのは火を見るより明らかだろう。
「まあ、差し入れぐらいはしてやろう。頑張れよ悠人」
「あ、ああ……」
「いいんだぞ、お前まで付いてこなくても」
「いえ。どんな劇か見てみたいですし」
まあそれなら構わんが
長い階段を昇りながら隣の少女を見る
八年前、と言われてから色々と考えていたのだが……やはり思いだせない
いや、思い出せないというより記憶がスッポリと抜け落ちたような妙な感覚
「ど、どうかしました?」
顔を心なしか赤らめながらエリシアが聞いてくる
気付かないうちにずっと見ていたようだ
「いや、別に。そら、あとちょっとだぞ」
「わわわわ!お、押さないで下さい!!」
そう言って最後の段差を踏みしめた時見たのは、大根役者ぶりを発揮する悠人でも、光陰でも岬でも高嶺妹でもなく
「なんだこれ!?練習にしちゃ過剰演出過ぎじ―」
天に昇る一条の光だった
ガサリと、持ち主を失ったコンビニの袋が地面に落ちる
そこには巫女装束を着込んだ女性と
「恩にきるぞ。時の巫女」
制服を着た金髪の少女
その瞳は先程までと違い、紅く輝いている
「これでいいんですね?」
「ああ、わざわざすまんの」
「それは構いませんが……何ですかその格好は?」
巫女の服を着た女性がジト目で少女の姿をみる
「ん?ああ、エリシアがどうしてもと言うんでな。着てみたんじゃが」
くるっと回って「中々じゃろ?」という少女に適当に相槌を打って【時詠】の時深は溜息をついた
「今回は、仲間という事でいいのですね?」
「うむ。<混沌>と戦う必要はない。小僧も御主のお気に入りと戦うなどということも考えられんしな」
「すべては彼奴しだいじゃ」そう言って空を見上げた
「真夜。己を信じ、ただ突き進め。御主の待つ世界は地獄。己の無力に涙することもあろう。されど唯、突き進め。さらば御主になら、必ず道が開ける」
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<後書き>
えー、Intruder改訂版第一話
すいませんすいません。いやもうホントに(;´Д`)
改訂してまず変わったのはエリシアの設定ですね
序盤は大幅に改訂してますが、大筋の流れは変わらないので安心(?)してください
真夜とエリシアの過去もこのSSの要素の一つになっています
次回「welcome to Phantasmagoria」
あの大天才が早くも登場です
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