後世の歴史家は小生のこの決断をどう評するのだろうか……


 英断を下した男と称されるか……


 はては……反逆者の名か……


「そうなるなら、次の世の為に……礎となろう。」


 このアーネスト・ウィルバーが名が、大陸に名を残す事とならんことになろうとも……



 小生は着替えを済ませ、玄関へ歩む。



「あなた……」



 最愛たる妻の顔はなるべく見ないようにする……ここで万が一に決意が鈍る……



「絶対に帰ってくるからな……お前の為に……」



 否! それは無い、絶対にそれはない、いまこ うして声をかけてそう断言できた。



「いってらっしゃいませ。」



 そう言って妻は、貴重な藻塩を……頭に、両肩に、そして僅かに全身に振り掛ける。



 それは帰郷の無事を祈る為の聖なる儀式……妻の出来過ぎた後押しに目頭が熱くなる。
 


「あぁ……無事帰ったら、お「それは帰ってから聞かせてください…ね。」



 小生の言いたい事は妻には承知の上なのだろう……



 成らば小生は向かおう



ーー敵は居城にあり!!





数時間後

イースペリア城 謁見の間

「とある異国の小噺にこんなのがございます。」

 やんわりと

「ヨト王期に有名な偉人の下に、彼が最も信頼する弟子が居りました。先人はその弟子の言葉を聞き、真っ先に弟子の喉元に刃を刺しました。そうして先人 こう曰きます「貴公はどれ程までに怠け癖があるのじゃ?」と、」


 笑(一人)。


 大爆笑(一人)。


 沈黙(全員)。


 緊迫(一人を除いて)。


「……断頭台を持て!!」


「「「陛下~!!」」」


 本当に用意できる立場の人だから、恐ろしいものはない。













永遠のア セリア

ラスフォルト



第6章、4話、“女王様と従者と蠍と”




願望・・・
求めること・・・それはちからとなる。

善き願いでも、悪しき求めでも。

制約・・・
誓うこと・・・それは力を呼ぶ。

そんな誓いでも、それが純粋な想いならば。

織物・・・
時と運命と想いが紡がれた・・・

織り込まれて物語をかたち作っていく。

略奪・・・
強欲であること・・・それはちからそのもの
他者を蹴落としてまで、生に執着するためのこと。







 ネスが立っている立ち居地、その前に急設されたテーブルに出された一杯のカクテル。

「…と言う訳で! “原酒、赤実菜汁割り”(*ブラッティーマリー)で御座います。」

「陛下…そう言われて出されましても……。」

「私が手を振って作ったお酒が飲めないのかしら。」

「前が前ですので、怖いですそのお酒。」

 話される機会は無いが、彼女は何かを作って振舞いたいと言う趣味がある。

 まぁ、料理を作るのか、何を作るかは自由だ。

 が、厄介な事に彼女はその指導者の隠された愉しみに彼女自身の性格を練り込んでしまうから性質が悪い。

 とある首都勤めだった、ドー何とかという男がいるが、その責めに耐えかねてランサに行ったとか、
そうじゃないとかの逸話がある。

「飲まぬが地獄、飲むのも……」


沈黙


「えっ、え! 何か言ってください陛下!」

「地獄を見たいというのなら。この酒を飲み干して、その発言に自身を貫きなさい。」

「陛下、何故です! 小せ……私はただ、産休を取りたいと申しておるのです!」

「どこの世界に男が産休を取るというのですか?」

「政治の世界では、どんな事の始まりも一人の人間の発言から始まるのです。」

「だったら有休にしておきなさい。」

「では陛下。有給休暇を取って休んでいいですか?」

「却下!」

「何故です!!」

「奥さんのつわり程度でいきなり有休とって国に混乱を起こしかけた人が何を言うのかしら?」

「ですが……」

「それと国外調査の時に鹿の仮装をやってイースペリアに恥をかかせたのは誰かしら?」

「うっ……」

 実の所、それは陛下の命令で着た格好なのだが……もし、それを言ったら……

 金属が落ちる音に続いて、刃が盛大に落ちる音がアーネストの脳裏で盛大に響いた。

 そして、それを嬉々として見ている陛下を簡単に想像できた。

「しょ…小生でゴザイマス。」

 アズマリアの戯れを知るのは一部の側近のみで、公にはひとっ…言も記されていないし、
それを迂闊に外に洩らす者も居ない為か、彼女の戯れは内容にそぐわず、国家重要機密並みの
機密度を持ち合わせていた。

 後世の歴史家は彼女の戯れに心身を賭した彼等の事を、“愛国者”と明記するのだが……それはまた、
別の話である。

 とまぁ、自分の首を飛ばしたくない“愛国者”のアーネストは、そういう 汚名?を一身に受けていたのであった。

「という事で、有休はありませんし、育児休暇なんて取って付けた様な言い訳の休暇認める訳には、
参りません。」

儀式の為に、女である事を忘れた陛下に、子を産む辛さなんてな…

「何か言ったかしら?」

「イイエ、ナニモ。」

「……まぁいいでしょう。私とてネス君の奥さんとお子さんに怨まれたくわ無いわ。」

「えぇっ!?」

 意外なアズマリアの展開に驚くアーネスト、アーネストの知る限り、聡明な女王だが、公務を
執り行う事に関しては甘えを許さない人なのだが……

「無論、そうする為には努力も必要よ」

「……やっぱり、」

 何かしらあると予想したアーネネストは、自分の勘の良さを少し怨んだ。

「ネス君は自分で知っての通り、情報部の仕官かつ、近衛の役割を受けているわ。」

「はぁ…」

「そんな重要な立場の人間が一日程度でも欠けば大変なのに、数週間抜けられてしまうのは大きな痛手よ。」

 無論、それはアーネストも承知だった。

 だが、それよりも自身の妻への愛は大きく、なにより第一子の誕生が架かっている世紀の一瞬と、
公務を天秤にかければ、どちらかに傾くかは目に見ていている。

「分かってはいるけど……決意は固いのね。それならネス君、ネス君自身に負けづとも劣らない人材を
代役に立てなさい。無論、私が信頼できるような存在でなければ、なりませぬよ。」

 アズマリア陛下が命じた事は恐ろしい程に難題だった。

 イースペリア国に点在する、自身に匹敵できるような人材は……自慢ではないのだが、数える程しか居ない。

 それら人材を想像してみるが、各方面を支えるので精一杯であり余裕が無い、しかも、
そうではない者は陛下の戯れを承知の者ばかりで、代わってくれと言われて代わる者は居ない。

 なにより、陛下が「却下」といってしまえばどんな聖人君主であろうと、駄目なのだ……

「はっ……はははハハハっ」

 理解力の良さが手詰まりであると言う事を理解してしまう。

「つまりは駄目ということではありませんか。」

「そうかしら? 世の中は狭いようで意外と広いわよ。」

 もう、駄目だと思った……その時、アーネストの脳裏に、先日の件と陛下自身からとある人物の
所在確認の命の件が過った。

ーーそうだ! 彼の者を引入れば……

 だが、こうも考えた。

 会っても居ない人間に陛下を…しいてはイースペリアの命運を掛けていいものか……

ーーそれに……彼の者の色欲の強さは……

 噂には聞く、彼の者の女好きの話を……

ーー老婆から、乳児にまで手を出したと聞くからな……

 噂の遺脱しすぎている内容に、そこに当人が居れば激怒しそうだが、アーネスト自身は噂でしか、
彼の者を判断できない為に、この様な評価で判断するしかなかった。

「分かりました。……陛下、それでしたらご信頼に足る有能な人材を、小生の代理人を、陛下の前に
参上仕りましょう。」

 だが、妻への愛は偉大なようで、国家と個を天秤にかけ、個へと傾いた。

 無論、説得する際に見極めようとしたし、自分より偉大な女王陛下を信頼しての事だったが、
内心はこの場で道を閉ざしてはならないと言うほんの僅かな焦りがあったからだった。

「へぇ…それは楽しみね。」

 アズマリアは自身の力である、先見の力で見ようにも、そう簡単に使えるものではなかった為、
ネスが誰を連れてくるのかは分からなかったが、ネスが会話の最中に落ち込んだ表情を回復させる程の
“人物の当て”が誰か気になったので

ーー面白い人物なら、からかい甲斐があるし、そうでなくても幾らでも断りようがある。さぁ、ネコ君が頼りに
する人材ね……一体誰が出てくるのかしら?

 アズマリアは後日、アーネストの策謀に見事に嵌められ、『ネスが帰ってきたら、その頭を焼き払ってやりましょう』
と言う様な不穏なことを考えたとか、なかったとか……




後日

イースペリア領 イースペリア王都 場末の飲食店。


 場末というには割と上質な調度品や飾りが施され、フロアの清潔感 と照明の明るさを考えれば、三ッ星などの
一級店と想像の付く店と言って相応しい隠れた名店…もしくは上流御用達の店。


「んで、女王陛下さまよぉ。お忍びで会うのは構わないが、いいのか? こんな事を一国の主がやるってのは。」


 そこの店に似合わず……まぁ、旅の最中なのに出来る限りの正装とやらを着れたのは評価に値するが、
それでも少し浮いた装いの男……サハドが上等なカップに牛乳を注いで

「構いません、趣味ですから。」


 サハドが座る席の机を向かって反対に座る女性がサハドの疑問に何 ら問題ないと言わんばかりの態度で答える。

 その女性は先にサハドと「会わないか?」と、誘ったこの国の当主…アズマリア・セイラス・イースペリア本人であった。

 彼女は流石に外にお忍びで出かけている為、何時もの王家御用達のドレスではなく、下々の方々の 格 好……
まぁ、それらの服のよりも
光沢が出る上等な生地で仕 立てられた、*イースペリアの民族衣装を着こなして猶、
その美貌を損なう事無く、この場の主役級である事を自然と誇示していた。

*もし、服の姿を想像できないというのなら、ベトナムの民族衣装ア オザイに近い服装だとでも想 像して頂ければ申し分な い。

「趣味って……陛下も中々の度胸をお持ちだ。だが、心配を過敏にし て損は無いと思うが。」

「本当に大丈夫ですよ。外には警護が控えておりますし、このお店は私の息が掛かっていますので、」


ーーそれなら良いというものではないがな。

「平日の店を貸切ったら、何かあると言っている様なものだと思うが な。」


 サハドは牛乳を一気に煽る。

 その間を見て、アズマリアは自身のささやかな趣味に、説教を告げ られる気分にならないので、
話題を摩り替える。

「それよりもエトランジェ殿……どうです? そんなに健康に良さそうな物ばかり食さないで、
私の 様な日々に感謝し
精魂の付く物を頂きません?」


 そうアズマリアに指摘されたサハドの献立といえば、飲み物が牛 乳…… 前菜が見た目ケール菜と赤菜のサラダに、
メインが、豆のスープと黒パン(らしき)と いうサハドの故郷の食卓に近い献立となって いる。

ーー質素そう……か、

 サハドはアズマリアの真意を察しつつ、その指摘には否定できないなと納得する。

 比べて、アズマリアの献立といえば、飲み物が僅かに赤みがかかっ た蒸留酒……前菜が
海鮮サラダに、
メインが肉料理は野性味がある鶏肉……水 鳥辺りだろう、
それのソテーに赤みの掛かったソース が、かけられ
付け合せに芋のスフレ……手間隙を込めて作られ、上等中の上等な料理といって過言ではない。


「確かに、料理の見た目も然る事ながら、強く主張しないがそれでも 存在を表しているこのいい香りで
美味しそうだと分るな。」


 正に、彼女がフランス料理、俺はイスラム諸国の料理と、比較して いる様に も見える……。

  このままのノリで
行くのなら、彼女の食事の締め くくりは甘味なデザート……“てぃらみす”辺りでも出てきそうである。


*ティラミスはフランスのスゥイーツでは無くイタリアのドルチェだが、そんな 事はサハドにとってどう でもいい事実 *


ーーというより、太りそうな……

「でしょう。ここの料理人は三代に渡って料理を探求し、味を極めて きました。馬鹿にする
訳ではないのですが、
南の辛い料理や、東南の酸味がかった味、東の 濃い味や、北の薄い味と、
一つの特性に縛られる事の ない
料理を楽しめるのは、国交豊かな我が 国……位ですからね。」


「成る程…だが、私はこれだけでいい。」

 スープ皿の一滴まで綺麗に食べつくした皿にフォークとスプーンを 置くと、ナプキンで口を拭く。

 アズマリアはサハドが料理を頼んだ際に遠慮しているのではと始 終、思ってはいたが、食事を終えた顔は、
良い食事だった…と、満足そうな顔を見て、そうではないと納得し、彼が始終この様な食生活の人間だと
察した。

「…面白みがありませんね。エトランジェと聞きましたので、どのよ うな習慣があるのか
楽しみにしていましたのに」

 片手を頬に沿え、上品に溜息を吐く。

「どんな期待だか知らないが、期待外れですまないな。これでも断食 後だからね、下手に食べて
肥えたくないのだよ」

「“断食”…とは?」

 アズマリアは聞きなれない単語が何かの習慣ではないかと見抜き、興味津々を少々押えて尋ねてみる。

「文字通りだ。食事を制限し、食さない事だ。」

 『ムスリムの宗教価値と、ムスリムの断食について』の説明……五 分弱、

「断食……ですか。私にとっては分からない価値観ですね。」


 アズマリアにとっては、貧してもいないのに何故飢える様な真似をしなければならないのかそれが不思議でしかないが、
目の前にいる者はそれを行う事に悔いも後悔も無く、それを誇りにしている節を見受けた。

「そうか? 俺は立場関係なく、“飢え”という苦しみを分ち合おうとする精神は賞賛に値するよ。
それに夜に最低限の水と食料は食す。でなければ干物になって死んじまうよ。」

ーー面白い。実に興味深い人ね……

「それはよさそうですね。前々から……腰まわりの脂肪を取りたいと」

「そういう疚しい考えでやらんほうがいい。ろくな事が無い。」

 『ダイエットをするのは簡単だ……問題は持続力が有るか無いかだ……』(どこかの書籍の格言)

「あ、そうですか。」

 つまらなそうな態度をアズマリアは取るが、そこから会話を面白くするのがサハドであり、サハドたる所以である。

「それに、実際に抱いてみなければ分からんが、端から見ていい腰つきしていると思うがな。」

「…………ッッ!!」

「いや、実際問題。かなりそそられる。」

 冗談、混じりっ気無しの平然とした顔でアズマリアの腰の辺りを見て評価する。

「ちょ、ちょっと…え、エトランジェさん」

 そんなサハドの言葉にアズマリアの頬は紅潮し、腰元を両手で隠そうとする。

 もっとも、そうすると…胸を強調するようなポーズに。

ーー絶景…絶景。

「だ、だめですよぉぉ。」

ーーどうやら女王という役職は口説かれるという事には慣れられないようで……

「悪い悪い……」

「もう、まったく。」

 アズマリアはサハドにからかわれたと思い、ばつ悪く自分のリズムを取り戻そうと……

「ほんの本音を漏らしただけだ。」

「    (言葉に出来ない……叫び)    」


する前に、再び発火させられた。


「そうだ、貴方が良ければ、『宿を取りたいのだが』(意 訳、や・り・た・い・で・す。)

 しかも、どこで知ったかサハドはそう言いながら、握り拳に親指を上に立てる。

「    (もっと凄い、言葉に出来ない叫び)    」


盛大に……


 流石に、この叫びに護衛が反応し、店の外から奥から、わらわらと出てきたが、些細な誤解だという事が
分かり皆退散して行った


 場は一旦落ち着き……

ーーそうだな、できる限り読まないでやるか。

「そうそう、話しは変わって、陛下殿の部下から話しは聞いたよ。」

「話? ……ですか?」

 アズマリアには少なからずともその様な事は与り知らずの身に覚えの無い事だったので首を傾げる。

「陛下の所、人手が足りないって話。」

 アズマリアはその発言に、僅かにおぼろげだが、ようやく話の出所が見えてきた。

「お仕事ですか? 確かに人手ならどの現場も足りているという事は聞きませんが……。」

「あれ、アーネストに聞いたのと違うな。」

ーーアイツか……

 アズマリアは一昨日の件を思い出し、してやられた事に気付いた。

「旅費もあるにはあるが、余裕がなくなって来たのでな。」

 先のダーツィ国の事件以降、サハドはダーツィに潜伏しつつ国外への逃走へと行動を移した際に、
多量に所持していた資金の半分を使用してしまった。

 まぁ、この時は今直ぐに困窮に期する事は無いのだが、所持していた金銭は減りに減っていた為、
『注意はしておくべきだな……』とサハドは僅かながらに、警戒はしていた。

 が、金の減り始めは存外、早いものであった。

 女の子の家で見てしまったアズマリアの自画像に、当人に会ってみたいという好奇心が突き進んでしまった、
その為、その辺りで金銭の稼ぎをせず、王都に向かうという選択が拙かった。

 何故なら、サハド達一行はイースペリア国を諜報網の水面下で移動した事と、潜伏先の場所代で、
金はかさみ、金銭面でそろそろ危惧せねば先がままならない状況へと陥っていた。

ーーもう少し、商売のやり方というものを学べば良かったな。

 サハドは自分で懐具合の危機的状況を話し、昔の自分の商売の疎さを嘆いた。

 ムスリムとしての商人の倫理は自分にも教えられたが、商魂……商売のやり取りの上手さは無かった。

 これは兵士として学ぶ事と、親イスラム諸国を渡り歩いた事で、各国の言葉を理解する必要があった為に
頭を優先的に使う必要があった。

 まぁ、サハドの兵士という職業の職人として優先順位を考えればそうなるべくしてなった事は当然だが、
いちムスリムとしては嘆くべき問題だろう。

「成る程、だとしても国家の頭首に仕事を求めるとは変な話ですわね。」

「いや、アーネストから聞いたが、何でも陛下の管轄で一人、人員が欠いたから自分からの推薦……あ、
推薦状はこれだな。」

 懐から包まれた手紙を取り出して広げ、机の上に置く。

ーー成る程、成る程、ネスめ……。確かに下手な人間は雇う気は無かったわ。


「その推薦状を見せて陛下に伺えば、雇って貰えると聞いたよ。」

ーーどうせ難題なのだから、ネスが謝るか……それともどんな相手と連れてくるのか……楽しんで
弄んでたのは否定しないけど……。

 アズマリアはサハドの言葉を聞き平然とはしていたが、

ーーとんでもないのを連れてくれたものね。

 内心、大物中の大物を連れてきた事に驚きつつ、自分の見解が甘かった事と、ネスの意外な反撃に
歯噛みしていた。

 だが、それも…機転に変えようとするのは彼女の優れた点だろう。

「……そうですわね、その前に一つ聞きたいのですけど。」

「聞ける事なら。」

 サハドはアズマリアが即答出来ないと言う事は、どうやら縁が無かったという方向だなと判断した。

 だが無論、その場を直に立つ事や、濁すような事はしない。



「この推薦状を書いた者と、どこで知り合ったのかしら?」

 アズマリアの方といえば、正直即答できる問題ではないので慎重に行くべきだと判断した。

ーーまずはネスとエトランジェのパイプを探ってから……

 この時、サハドは極力アズマリアの考えを読む事は控えていた事が、彼女にとって良かった事であった。

 サハドはどこかの誰かさんとは違って絶対的な心眼の持ち主ではないが、相手が悪意に色濃ければ
警戒して関係を良くしようとしないで終わって……先のダーツィの二の舞が繰り返される恐れがあった。

 そしてこの時、アズマリアは少なくともサハドに対してではないが、どちらかといえば悪意に偏っていた
からである。

「アーネストと知り合ったのは陛下と会って数日後の事だったよ。屋台で食事を買い、帰ろうとしていた時に、
いきなり自警団に職質(職務質問)されてな、そこにアーネストがやって来てな、助けてくれた。」

ーーネス、罠を張りましたね。

「礼を言って、去ろうとしたが、「まぁ、多少は世間話をしないか? 茶でもしばきながら。」と言われて
引き止められたんだ。」

ーーまるで、軟派師の常套手段ね。

「どうしてか知らんが、信頼に足る人間のようだったからな……茶をご馳走になった。」

ーーそれで付いて行く、エトランジェもどうかしら?

「まぁ、そこでは互いに、他愛の無い世間話をしてな。」

ーーそれにしても、ネスどうやって説き伏せたのかしら……。

「……お互い、愛する人間に子供が宿るという奇跡に熱く語り合って……」

ーーもしかして……いやいや、ネス君は愛妻家だし……。

「……でな………」

ーーまさか……


イントロ8 秒(ポコポコとか)アッーーーーーーーーーー!! イェイイェーイ! ワァオ!× 2

の世界

 そんな「ウホッ」とか「あぁ…おおきくだ。」とかのカオス空間を想像していたアズマリアの耳に……

「……俺は、男の尻を追うより、女の尻を追う方がいい。」

 サハドの独り言のような、人を見透かしたような台詞が聞こえた。

「えっ、この話…聞こえてました!」

墓穴を掘った陛下

「あっ……」



「「…………」」




「……いいや、陛下は口にはしてないが、目と雰囲気が語ってたぞ。」

 慌てて、流れを修正しようとするサハド。

「……むむむ、しょしょ…精進しなな…ければ、なりま~せんね。」

 それでも、落ち着きを取り戻せていないので、サハドは強行して流れを変える事にした。
  ↑
 サハド自身、多少落ち着いてない。

「しかし、そうは思わんか?」

「何がでしょうか?」

 不意の問いにアズマリアは意図が分からずに問いで返した。

「同性愛が如何に不毛な件についてな。」

「……はい?」

 流石に、どう返事していいものかアズマリアは頭が回らなくなる。

「私は非常識なものだと思うよ、愛そのものは否定せんが、非生産的な行為はいかん。」

相 棒、いつもの暴れん坊がそんな真っ当な事言えるの?

珍しく殉教者らしい発言です。


ーーじゃかぁしぃ。二人とも考えてみろよ、俺は“一度も狙わない事”なんてしとらんぞ。


 今までの性行為を振り返る……


 振り返る。


あぁ……確かにですけど……

相棒ってさぁ~物凄ぉ~く、命中率低いよね。


ーーうっせぇ! 俺だって好きで外しているんじゃないやい。


 子供が欲しくて欲しくてたまらない為に“中にしか出さない”という信条の男も、全部中に出して、
九割以上が外れと言うのも、物凄く皮肉というものである。

ーーアッラーよ、イシュラーも程々にして下さい、本当に!

「いや……あの、その……ですね。」

 そんなやり取りを知らずにアズマリアは頬を染めながら、両手の人差し指を合わせるように弄りつつ答える。

「ふむ、陛下……」

 そんなやり取りついでの頭で妙な空回りをしてしまったのではないかと、サハドは少し焦り、

「そんな異常的な行為だが、ある種の官能的なものの話のせいか、気分が昂ってしまった。」

 更に……

「……へっ?」



「陛下の全てを下さい。」


 サハドは信愛な表情でアズマリアの手を掴んでから引いて自分の目の前に持ってゆくと、
その白い肌の掌に接吻をする。


 その完全にプロポーズな行為にアズマリアは……、先程の余波も加わり……




  大爆発!!wwwwww





 えてして、サハドのその行為がからかいか本気か、有耶無耶になってしまって分からなくなってしまったが、
サハドの手腕を知る者からしてみれば……

「外堀と内堀完全に落ちたわね。流石だわ、後は本丸だけというところかしら……」との事、


 その騒動に、無論、護衛が再度突入したのは言うまでも無いが、驚く事に……護衛が陛下の姿を確認した時には、
狂乱の主の傍でサハドが席に座って暢気に食後のお茶を嗜んでいた為、呆気に取られてしまった事は、
イースペリア近衛の語り草になったとか……



 再び、場が落ち着くと……

「はぁはぁ……常日頃、人を掌の上で、手だ……使う者である筈なのに……逆にあしらわれるなんて。」

 それでも落ち着きの無いアズマリアは、水が変わりに年代物の葡萄酒を飲む。

「恐らく、賛辞される事には慣れてても愛の言葉はどうだろうか……と思ったから、半分本気でやったが。
指導者としてどうかな~? と、俺は思うんだがね?」

 しかも、異様にペースが速く、ものの五分で二本目に取り掛かろうとしていた。

「……うるさ~ぃ、この国の指導者はな~、指導者でもあり巫女でもならなきゃいけないから、
純潔でいなきゃいけないんだぞ~。十台なら兎も角、私はもう、20代中盤……、ありえないのにぃ~。
そろそろあのヒヒジジイ共~、後釜寄越せ~~!!」

ーー………サバ呼んで、2(ピー)歳 か……後、五年もしない内に魔法が使えそうだな。

 二本ほど空けたところでやさぐれてしまったアズマリア、彼女も彼女で大変な様である。


「なぁ~んか、適当に扱っていない?」

「いいや、ちゃんと扱っているぞ。」

「そう、反すところが胡散~臭い。……ねっ!」

 そう言ってグラスの葡萄酒を一気に煽る。

「いいや、俺は、いい女は大切に扱うね。なぁアズマリア、俺はそんな不躾な男と思うか?」

 息をしている音さえ、聞こえそうな位に顔は近付き、穏やかな表情で、彼女の眼を離す事無く見続ける。

「…わ、分かったから。そんな眼で見ないで下さる。」

「分かったとは?」

「そんな人じゃない。そんな人じゃない事は分かったわよ。」

「よかった。」

 そう嬉しそうな喜ぶサハドの表情を間近でアズマリアは見てしまい頬を染めてしまう。

ーー相手は化け物(いろんな意味で)、相手は化け物(能力的に)、相手は化 け物(性的な意味)、ペースを持って行かれたら負けよ。

 そうして俯いてしまう。

ーー負けちゃ駄目、負けちゃ駄目。しっかり、私!

 脳内で必死に負けまいと、現実の強敵から葛藤するアズマリア、まぁ、酔いが回ってしっかり出来ない為か……

ーー可愛いねぇ、可愛いねぇ、

 簡単に優しく見守っているサハドにその心中を察されている。

ーーふ~む。このままいじり倒したいが……、無茶な道を歩まんでもいいか。

「……まぁ、自分の悩みは自分でしか解決できないんだ。その過程で誰を利用しようとも構わんさ。」

「本音の話、こんなに弱い部分を見られちゃ。そう簡単にあなたの力を借りられないわよ。……恥ずかしくて」

ーークッ……いかんいかん。

 アズマリアの可愛い本音を聞いて、思わず噴きそうになったが、台無しにしては拙いので堪える。

「それなら、俺の弱みも聞かせてやるよ。それで、おあいこだ。」

「どんな弱みよ。どうせ対した事無いでしょ。」

「まぁ、そればかりは判断を任せるよ。………この言葉は付き合ったことあるバーのママの台詞だがな。
『この世の男は、マザコンとロリコンの二種類しか居ない』って言ってな」

「マザ?……」

「あぁ…そうか。」



マザコンとロリコンの説明
説明時間:五分少々



「つまり、母性愛という愛される事を望むか、小児性愛という父親固着の愛を望むか、どちらも
極端な一方通行の境地ね」

「そういう事、まぁ女の場合はファザコンとショタコンしか居ないそうだ。」

「愛される事を望むか、愛する事を欲するか……それで、話の続きは?」

「その話をしてくれたバーのママが言うには、俺は根っからのマザコンなんだとさ。」


・ ・ ・ ・ ・ ・


「………プッ…クスクスクスクス。」

「おいおい、笑うならせめて派手にやってくれ、堪えられながらだと辛いものがある。」

どんだけ~!

 そう言われて、声を大きくして、大きく元気に笑う。

「ありえないじゃない。そんなどーんとした大きな態度している情け無用のエトランジェが。『おかあさぁ~ん』とか
言いながら胸元に飛び込んで甘えるの? 想像しただけでお腹が痛いわ。あ~っ」

 そう言ってこの後数分程、笑いこける。

「確かにそうなんだよな。」

「それならほんの最近まで母親の胸の中で甘えて幼児化していたの?」

「…いや、俺は生みの母親という者を会った事も見た事もない。」

 その言葉に、流石にアズマリアの笑も止まる。

「育ての親といったら、シュラク……爺さんだな。爺さんやおじさん、戦う事に長けた年配の男達ばっかりでな。
カミさんと結婚するまで、女を知らないで戦いばっかやってたよ。」

「そう・・・なの。」

 不味い事を言ってしまったと、気まずくなってしまうアズマリアを他所にサハドの話は進む。

「でな、そのカミさんとの生活で俺のマザコン精神が爛れ出てちまってな。本当に子供の様に甘えまくっちまった。
当時は、“他の女なんて見るな”ってカミさんに言われたら、見る気も起きなかったし、今も女の胸を揉むより、
舐めて吸ったりする方が大好きだしな。」

 そうして、空になったコップに牛乳を酌み。

「……まっ、そんなに威張れる事じゃ無いみたいだが、俺はそれを悔いちゃいないさ。」

 流し込むように煽る。

「そう、それじゃぁ一つだけ気になる事があるの。そんなに甘えていたと言うなら、今はどうなのかしら?
どう考えても…その、ほら…」

「流石、いいとこを突いてくれる。……確かに俺は甘えたさ。けどな、ちょっとした事があって俺は後々で“最大の問”という壁にぶち当たったんだよ。『俺は 何で愛しの女を失ったんだ?』っていう時折、胸に大きな風穴を開けてくれるな………それはイシュラーの教えでも、その疑問は晴らさせてくれなかった。」

 煙草を懐から出して一本だけ取ってから、“吸っていいか?”というジェスチャーをする。

「幸い移住するまで考える時間はあったし、考えたよ。」

 が、帰ってきたのは何も無く、ただ呆然と話を聞くアズマリアだった。

「……、結局、結論は未だに出ていない。けど、『甘えてばかりの大馬鹿野郎に何の救いがある、』『護るべきものは意地でも護ってやる』って悟った。まぁ、 決めたに近いけどね……。その為になるならと色々な手腕も覚えたし、色々と経験した。結果、前向きになったし、余裕が出来てからは、楽しめる様になって来 た。考えれば元々容赦しない性格だったから、不器用ながらも進んで行けたし。」

 仕方がないので、後で怒られる事を覚悟して煙草を銜え火を付ける。

「その内、胸の大きくない女も悪くないと思いだして来て、相手にしてやる年齢も下がってきて、護る事への喜びを覚えたよ。……もっとも、そうして、今ここ にいる冷血非情の男の出来上がりって訳だ。時折、地が出て困る事もあるが……な。」

「あの……その、」

 そのサハドの懺悔の様な話はアズマリアにとって、そうこう意見を下せるような内容ではなかった。

 恐らく、それを聞かされた相手は、老練な神父でも神罰の代行者な神父でも聖人となった神父でも
簡単には彼を納得させる答えを出すには苦労すると思われる内容である。

 何故なら……それはとても業が深すぎた話なのだから。

「誰かて色々積もる話もあるもんさ。なっ、陛下。」

「……そうね。」

「まぁ、陛下。
うっかり余計な事を喋った俺と、可愛 い事が露見した陛下。……これでおあいこでしょう。」

「あっ、」

ーー私はこの男に満足の行く答えを示す事は出来ない。

 後はのんびりとコップ片手に、牛乳を煽り。

ーーそうだとしても………

「雇用するかしないかは陛下の決定に任せます。そ の報告を聞く為に多少はこの国に残って……」

 そう言ってから帰ろうと考えつつ、立ち上がろうとしたが。

ーー私はこの者を少しでも良いから救ってあげたい。

「……エトランジェ。名は?」

 呼び止められて席を立つ事を止めた。

「ハミード。サハド・ザジル・ハミード、サハでもハミードでも好きに呼んで頂いて構わない。」

「…ではサハ! ……問おう。卿は人殺しはした事「ある。」……ふむ…では何故に人を殺せるの。」

 即答した返事に再びアズマリアはそれに迷いは無い事を察し、次に問う。

「人を殺すのに理由が必要なのか? そもそも、理由を求めようとする人の心情が謎だ?」

「これはこれは~最低の極みね。」

 少々酔っているからか、アズマリアは強気になって

「最低か……陛下がそう思うのならそういう事にしておこう。」

「あらあらあら、開き直り?」

「いいや、俺にとってそれは問題ではない。問題だというのものは自らの信念を……矜持を……自らを……
自らの手によって辱める事こそが陛下の言う“最低”と言えるな。」

「……あ~……じゃぁ問うわ、サハにとって~その“矜持”にそぐわなければ一切人を殺さない事になっても…」

「ふんッ、自らの矜持を汚さぬのなら幾らでも殺せるし、その逆もそうだ。」

「……そう。ではサハ……汝、サハド・ザジル・ハミードを今からイースペリアの騎士として迎えましょう。
汝は忠に尽くしてくれますか?」

 酔って浮いていたアズマリアはその言葉を言い放つ瞬間にはいつもの女王としての顔へとなっていた。

 そして……それに答えたサハドは……

「俺は、自らに忠を尽くすのみだ。…もし俺の矜持が陛下に義を見出すと言うのなら、我が忠は自ずと
陛下の下で磐石のものとなるのは言うまでも無い。」

 サハドは逆にアズマリアに態度で問う。

 “自らは名馬かも知れんが、相当な荒馬だ。その荒馬を使いこなす器はあるのか? 手綱が握れぬのなら振り落とすぞ”と、

「そんな事……、容易いわよ。」

 そして、『忠を尽くすのならば、この手を取れ』と言わんばかりに右手を差し出すアズマリア。

「忠を尽くしましょう。命尽きるときか、裏切りで汚されぬ限り……」

 それに、席を立ち跪き、両手でその手を取り、誓う。


ーーもっとも、理屈云々抜きにすれば、陛下の下に付けば色々と面白い事になりそうだからな。



 こうして、イースペリア……いや、彼女アズマリアと彼ラスフォルトサハドの同盟が結ばれた瞬間であった。





 時間も経ち、互いに別れの時が来る。

「出来るだけ、早くに訪れなさい。でなければ仕事を授けませんよ。」

「分かりました。」
「……それじゃぁ。」

「ええ、また明日に。」

 アズマリアを乗せた馬車が彼女を乗せてゆったりと走って行った。

 馬車の去っていった後を見送ってから、

「しかし、お忍びというのに馬車ってさ目立ってね?」

 そう口を開いてみる。

「本日はぁ、お付き合いして頂き、真にぃ感謝致します。この老体、主に代わりお礼を申し上げます。」

「うぉっ! ……ど…どう致しまして。」

 サハドの驚くのも無理は無い。

 何故なら、自身の間合いを気配を悟られずにここまで接近を許したのだから。

 それを他所に、アズマリアのお付きの爺さんが、凛々しい動作で主に代わり礼をする。

「俺も平和ボケか……鍛錬し直さなければな。」

「いやいや、この老体。無駄に生き過ぎて霞ほどの生命力しかごぜぇませぬ。ですから客人が探知できませぬ
は御無理では御座ぇません。」

「悪いな御老体、俺もその手の事を得意としているからな、そう説明されても慰めにならんよ。」

「ほっ、ウィル坊やの代わりがどんなのかという好奇心があったが、如何して中々。」

「人手不足って…アレ、嘘だったか。」

「いや、“陛下のお付”という条件となるとな、キッシャッシャッ。それと、こういう身体の事は割合だで、歳を
とっとな、どうにも力が抜けてゆくんさ。そうなると絶に偏る。まっ、死にも近付くがキッシャッシャッ。」

ーーこの手の爺さんは、四つ手に組んだら四部八苦負けるな。

「客人はどうも武に偏っているからのぉ。性質悪く並以上にこっちの領分に入ってきておるからどうにも拙い。」

「分析か…それとも褒められているのか……」

「爺のひがみじゃてぇ、流石のわしもスピリットを屠れる相手とマトモに当れるかってぇ、そんれにな、
気配殺しゃっども殺そうとすると殺気がでてしもうてのぉ、それがいかん。」

 そう、ある程度の達人や一戦で戦うスピリットにとって、ほんの紙一重の差の間であろうがその気になれば避けるには、
その一瞬で十分なのである。

「まぁ、そんな相手に立ち向かう機会なんて決死の時ぐらいじゃないか?」

「だでな。その決死の時が肩透しくらって、」

「知りませんよ。警備状況に穴があって、何とか潜り込めたのは事実だぞ。」

 イースペリアの夜の街に、愛想の一っ欠片も無い笑い合う声が木霊したのであった。



どこかの狭間

 ここでは相変わらず鍛錬などの暇潰しをしながら高みの見物をしようとしていた二人だが……



 ふと、亜樹が鍛錬していた手を休めお腹辺りを摩る。

「あ~あ、『アレが来ないの』って、頬を染めてもじもじしながら言ってみたかったんだけどな~」

「突然じゃないの。どうしたのよ亜樹」

「いや、アレが来た。」

 蹲ったかと思うと、地面にだらける様に転がる。

「欝だ~来ちゃってやがるし、佐杷っちに託された種全部無駄にしちゃったよ~。」

「あぁ、……来るものね、この空間にいると食欲も湧かないし、眠気さえ起きないのに。」

「う~宮ちゃん、道具持ってる?」

「まぁ、あるにはあるわよ。最も長期にわたってこんな事になると思わなかったから、二日三日分しかないわよ。」

「宮ちゃんってさぁ~」

「んっ?」

「無駄に、用意いいよね~、教科書入れてるし、水も何本か持っているし。」

「ドリンクは250mlが二本だけよ。それに後は教科書と小物、化粧道具しかないわよ。」

 宮子が下校時から持っていた鞄は、それなりに多くのものが入る鞄で、それが中身が、それ相応に詰まっている。

「でもさー、コッチの倍の大きさだよソレ。」

「いいじゃない。意外と重い物を持って歩くのって鍛錬になるし……」

「いやいや、女の子はそんな事考えないけどね~」

「……別けてあげないわよ。」

 その手には鞄から取り出した用品が一つ。

「あ~メンゴメンゴ。欝になってたからさぁ~」

「気持ちは分かるけど。……確かに欝になるわ。」

「しっかし、あの馬鹿はまだ着かないの?」

「……、…………この子に聞いたけど、まだあの大陸に姿を現していないみたい。」

「あぁ~こういう事だったら、ここにのんびり止まらないでさっさと行くべきだったんじゃない?」

「……それも止む無しと言った所ね……」

「行きましょうか。」

「ええ、そうね。」

 亜樹と宮子の二人は準備を整え、異空間の扉を開ける。

「さぁ、会いに行きましょうか。」

「えぇ。」

 二人はその扉を潜り異空間へと消えていった。



あとがき
「ナル様のおっぱいに、ぬへは恭順の意を示す事をここに誓いまする。」と、味方より敵に惚れる男の
嬉しい矜持となった“アレ”ですが……
 性能が高くて私のノートじゃできないわ、ディスクトップは壊れてるし~、品自体が高いじゃ~あ~りませんか~で高嶺の花です。
「だから僕は絶対に萌える為に♪ 動画サイトでナル様を堪能しておく~♪」と泣々歌いながら我慢しているぬへでございます。

この先のちゃっとネタばれというか何と言うか……この空白の数行は反転させたりますので無視するか
見ていただくかは皆様、各々の判断に任せます。
実はサハドの「ーー読まないでやるか」という考えと、推薦状のくだりで、とある 先の展開のフラグというか、含みを持たせました。
後々、とある展開で、誰かが死ぬか死なないか、サハドの今後の展開が大きく変わ るポイント……とオイラは構想・・・というか
考えております。


単語辞典

特に御座いません。