「別に後生の別れでは無いんだ。何、縁があればひょっこり帰ってくるよ。」

 重い腰を上げ立つと、担ぎ背負いできる袋を背負い、旅立とうとする。

「あ……ご、ご無理はなさらないで下さい。」

「あぁ無論だ。…それが済んだら答えを聞かせてくれ。」



 そう言うと、後を振り向く事無く、そのまま歩んでゆく。


「はい……」


「強欲」



 彼がそう呼びかけると、呼び掛けに応え黒き神剣が出現する。


 彼はそれを軽々と背中に担ぐと
歩いてゆく……


 風にふかれるままに……



 愛しき者を背にして……













永遠のア セリア

ラスフォルト



第5章、6話、“痴話喧嘩”




願望・・・
求めること・・・それはちからとなる。

善き願いでも、悪しき求めでも。

制約・・・
誓うこと・・・それは力を呼ぶ。

そんな誓いでも、それが純粋な想いならば。

織物・・・
時と運命と想いが紡がれた・・・

織り込まれて物語をかたち作っていく。

略奪・・・
強欲であること・・・それはちからそのもの
他者を蹴落としてまで、生に執着するためのこと。








 ユーノラの姿が完全に見えなくなった所で、ふと俺は立ち止まる。

「待たせたな。レネヴァリー」

「いいえ、全然、どうもしませんよ!!」

 ふっと、一抹の風が吹いた後…、

 自分の背後に、レネヴァリーが現れる。

ーー声が荒れている……何かあるな。

 サハドは下手に癇癪を起こしてユーノラに被害が行くような事が起きない為にも、“何とか”する事にした。

「……おぉ~、なんだか機嫌が悪そうだな。」

 太陽が下がり温度が下がってきた時間は、砂漠を歩くに重要な時間なのでそのまま歩き出す。

 そこにレネヴァリーも、後ろを付いて来る。

「さぁ、どうでしょう。サハド様は他の人間と同じ様で、ザレントールの娘に比べれば、
レネなんかどうでもいい存在なのでしょ。」

 拗ねている。

 レネヴァリーにしては珍しく、嫉妬ではなく、拗ねているのだ。

 珍しい……。

「……俺はな、生まれ育ってからの教育のお陰か、女性は人類全体の母だと教えられた。俺にとってそれは
正しい事だと思うし、そうしているから、愛を求めるというのならレネヴァリーだろうとユーノラだろうと大切にするぞ。」

「どういう事ですか?」

 やんわりとはぐらかしている様な俺の態度に、レネヴァリーが上手く喰らいついた。

ーーよしよし

「人はみな母親から生まれてくる。つまり女性が人類にとって重要だと思っている。その女性を大切に考えることは、
人として……いや一人の男として当たり前の事だ。」

「そんな事が言いたいんじゃない。」

「では、どうしたというのだ?」

「……ふん、いいんですよ。どうせ私は、元を辿ればスピリットですよ。人間のように生まれてきてはいないし、
同じになんて扱われませんよ。」

「そうなのか?」

「ええ。」

「……まぁ、全ての愛した女を平等に扱い、生活の面でもにも精神的な面にも苦痛を与えない、それがタウヒードで
法則で全てである。だからかな、俺は……レネヴァリーがどうであろうと、なんであろうと愛してゆくさ。」

「そんな事、信じろと?」

「それはお前次第だ。俺の不快を買わない程度なら、何か企んでも構わんし。磨いてもいい。」

ーーさて、“強欲”いい機会だから、“アレ”取るか?

アレって?

ーーいや、いや、以前のお前言ったろ、この風の妖精には、ロウがいじった形跡があるって。

あぁ~そう言えば、あの娘の精神世界で洩らしたっ け、相棒~けっこう目敏いねぇ~

ーー褒めるか、なじるかどっちかにしろ。

 まぁ…いいや、取ろうか。

「……うぅ~ん、まぁレネとしましては。誰にも邪魔されないで、サハド様と一緒に居られるのでしたら……」

「そりゃ、無理だな。出来る事はレネヴァリーを第三夫人に……三人目の妻に娶る事ぐらいだな。」

「…………サハド様。」

「ん、何だ?」

「三人目って。後の二人は誰ですか?」

 抜刀出来る状態……臨戦態勢でこちらを向くレネヴァリー……正直怖い部類ですよ。

「一人は俺の子供を孕んだまま死んだ元妻。もう一人は現在保留。という事だが、レネヴァリー。」

「………あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛。」

「唸ってもこれだけは譲れないからな。」

「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅ」

「肩を叩いて訴えられても無駄だ。」

「この女ったらしぃぃ、」

「嫌…か。」

「それはもう。」

ーーここでいいだろ。

うん、この窪みなら、妖精と繋がりのある風は微々 たるものだから、まず不意打ちはないね。

 デオドガンの町から大分離れた砂丘の窪み、風が良く通らない場所で立ち止り、
俺はレネヴァリーの方を向いた。


「だったらレネヴァリー、お前は自由だ。好きな所へ行くといい。」






「え…っ」

「その代わり、今後一切、お前に関わらないからな、勝手にしろ。」

 そのまま、関心無く歩き出そうとしたが……。

「ま、待って下さい、ど、どうして、レネを……」

 背中を見せたまま、顔だけ振り向く。

「当たり前だ。俺は、俺を愛してくれる者なら精一杯に尽くすし、敵が来ようと護るが、俺を否定して、
ただ甘えを受けるだけの女なぞこっちから願い下げだ。」

「え……っ、え! えっえ、」

 困惑するだけで何も言おうとしないレネヴァリー

「それに、お前のやきもちは、嫉妬の類だからな、おちおち好きにしていられない。下手したら……お前、
俺の事を監禁して鎖にでも繋ぎかけないからな」

 “緑の人の行動には恐怖を覚えました。”の世界。

ーー女の嫉妬は積もると性格を斜め上に変えちまうからな……。

相棒もエグイねぇ~、この妖精がそれを拒めないか らって難題を押し付けるんだから。

ーー度を越したら不味いんだ。 笑って済まされる内に済ます。

もっとも、妖精も妖精だけどね。

「まぁ、ただ捨てるのも問題あるから、僅かな間生きていられる程の金と食料は渡すが……。」

彼 女にとってはここで関係を絶った方がよろしいのですけど……

無理だね。コイツはもう、“相棒の愛”と言う劇薬に犯されているから、もう無理だよ。

……嫌ぁ

「はっきりせんなぁ、はっきりと! 大きい声で言ってみろ。」

「嫌ぁぁ!! 嫌です!! サハド様に捨てられたくない。捨てたれたら……レネは……レネはぁぁぁぁぁ

抱く抱かないの問題だけじゃない、精神を取るか取 られるかの問題もある……

ーー今まで、中途半端で積み上げてきたからな、一気に摘むさ。

「サハド様に、犯されて、言う事を聞くように、逆らえないようにされて、無理に奉仕させられて……
遊びの様に、何度も何度も……壊れそうなくらいに犯されて、押さえつけられて、○○○○○されて、
△△△△△や、×××も、もう…もう、この身体にサハド様の匂いが染み付いてない箇所は無いんです。
サハド様無しでは生きていけないんですっっ!!

「……はぁ、少しは黙れ。」

「うっっ…」

 サハドの冷静な声に、レネヴァリーはたじろく、

 何故なら、彼女は主が自分に向けるその目は、戦場の敵に対しての眼であり、
決して、今まで自分に見せていた自分の女を扱う眼をしていなかったから……

 しかも、性質の悪い事に、笑っていない。

 レネヴァリーは知っていた。

 こうなった主のそれは、殺し合う相手に向ける眼ではなく、さもどうでもいい格下の相手に向ける眼、
獲物を狩る時の、格下の相手に向ける眼なのだから。

 だから怯えた。

 主の次の行動が本気で分からなくなるから……


「俺がお前を最初に犯したのは、お前が殺そうとしたからだし、後は互いの合意が大半だ。記憶を勝手に
挿げ替えて責任逃れは止してくれ。」

 それは自らの意思を、ある者に操作されての上の出来事だが、レネヴァリーにとって覚えの無いことであり、
主にそういった所で、信じて貰えるかどうか……。

「それにもう……無理に付いて来る必要はないぞ。無理矢理に付いて来る者はもう必要ないんだから。」

 改めて主の目を見る。

 背筋から怯えてしまう……主の自分に向けられる眼……。

 幾千の死線を潜り抜けてきた者が見せる薄暗い輝きを放つ瞳が、人のもつ眼ではありえない様な眼……

 自然界で捕食する存在が、獲物に対して心など持つ筈が無い。

 逆らえば、“始末”されるだろうし、逃げた所でどうなるというのだ……

「そ、そんな……必要ないって……」

 その場に崩れ落ちる、元から歪な彼女にとって、それは彼女の存在自体を否定するような一言だった。

 レネヴァリーの脳裏にとある出来事が思い出された。



 以前、彼女の主に捕まり、“戯れ”をされようとしていたスピリットの一人が居た。

 そのスピリットは主の戯れ方か、強制力も束縛力も使われずに、主の言葉のみで篭絡されそうとなっていたが、
それが一つの事件を起こした。

 主は野生の獣並みに勘が冴えており、その“心眼”とも例えられるような力で、今までの行いを、
強行を凶行の如く行えてきた。

 だが、そのスピリットは察していたのかもしれない、奉仕し、身体で貪り合うその瞬間まで、本意を欺き
主を首切り殺そうと襲い掛かった。

 その結果は…今、目の前に主が居てるのでいうまでもないが、本当に恐ろしいのはここからである。

 主は……残忍に報復措置を決行した。

 そのスピリットを捕まえ、他の似た境遇のスピリット達に押さえさせ、意識以外は何も出来ないようにし、
共に捕らえていた、そのスピリットと仲の良かったスピリットの腹を縦に裂いた。

 その悪夢といっても過言ではないは今でも脳裏に描かれる。

 スピリットは屍を残さない、致死量の傷を負った場合はマナの輝きとなり起源へと還る。

 が、主の神剣はその法則を覆す力が宿っている、そうなればどうなるか分かってはいても
想像だにしたくない事であった。

 それが、その瞬間に、白い肌から迸る鮮血のコントラスト、慟哭、ある事の無い出来事が目の前で起きた。

 綺麗なピンク色した臓物が、鮮血と混じって切り口からゴポゴポと零れ落ちていく、臓物をこぼすスピリットは
それでも生きていて、口から声……いや、音をだして数分か…それとも僅かだったのか分からないあの時を、
恐怖に支配されたままこと絶えた。

 そこから主の言葉を呪詛のように聞かされ、逆らったスピリットはマインドの暴走により意思を無くしかけたが、
そこで主のマナへとなった。

 それが事の顛末。

 それ以来、主の配下のスピリットには神剣に飲み込まれる様な者は居なくなった。

 何故なら、神剣よりも恐ろしい存在がそこに居るのだから……神剣の声如きのどこが怖いといえようか……



「…………」

 その沈黙が何を言いたいか物語っている。

 そして、空気が一気に炸裂する。

「ひ、必要が無いっていうなぁっぁぁっぁぁ!! 嫌、嫌、嫌、ダメぇ…ダメよ!!」

 只管に縋る様な想いでサハドに助けを求めるレネヴァリーは、ふと……その目に、あるものを捕らえた。

 サハドの口元…………

「 ・ ・ ・ ・ ・ 」


 声は出なかった……、だが、その口の動きを、食い入る様に追った。




 彼女にとっての……




 答えは……




 そこにあった……









 サハドは、レネヴァリーの余りの不甲斐無さに呆れていた。

 サハドは今までレネヴァリーに対し、上手い加減で、ある事を仕込んできた。

 その仕上げを行おうと、キツイ言葉を掛けたのだが……どういう訳か、期待外れに、そのまま情けなく
ヒステリックに崩れ落ちてしまったのだ。

 お蔭でこのままではサハドの今までの仕込みが無駄になってしまいそうだった。

ーーあ~あ、てっきり、やってくれると思ったんだがな、

ボクはここまでする、相棒の神経が分らないよ。

 強欲が呆れるのも無理は無い、単に自分の支配下にするのなら、“強欲”か“所縁”の強制力を使えば
あっという間なのだが、サハドはそれをしないで、態々手間隙をかけて行うというのだ。

 それは正に、ジャ ケットを針と糸だけで、一縫い一縫い作り上げているものだと言える、
ミシンで縫えば速いし、
縫い目も正確なのだから、作り上げる時間も雲泥の差がある。

ーー完全奉仕する奴(奉仕人形)なぞ、ルーファだけで十分だ。



だが、実はそれは、も のの考えが甘い人間の考えなのである。

 『手間隙を掛ければ掛けるほど良いものが出来る。』そんな事を誰が言ったのか知らないが、 実際はそれが正しい。

ジャケットならば、 今、ミシン縫いの方が見た目で勝ろうとも、数年も着込めば着心地は歴然。

縫い目を固定された方はタンスの肥やしとなり、手縫いは縫い目が柔らかい分だけ人の身体に最も合さってゆ く、
正に成長しているかの様に……

*それでも分らないのなら、究極と至高の料理対決する、あの漫画でも見て頂ければ……




 そして現在、サハドのハーレムの状況は、ユーノラ(人類)、ルーファ、レネヴァリー、スフェ、雑魚スピ×20、情婦×4、

*(現在の重要順)*

 で、これは第二夫人候補のユーノラに続き、“サハドのモノ”兼、奴隷のルーファ、現在最後の仕上げを
しようとしているレネヴァリー、戌として躾中のスフェ、といった順番になっている。



 サハドとしては、ハーレムを作るならば、個性を被らせないように、と考えているので、被らない女を求めたり、
そういう風に仕込んでいるのだ。

 例えば、亡き妻、ノゼリノ(第一夫人)は俺にとって、戒めを込めた永遠の妻として考え、

ユーノラ
は俺にとって、母性溢れ、俺を温かく包み込んでくれる妻として考え、

ルーファ
は自身の要求を何でもこなせる、俺にとって使い心地のいいモノとして考え、

スフェ
は、俺を常に忌み嫌いながらも、俺を求めなければ生きてゆけない……まぁ、
二律背反の意味を成してくれる戌として考えている。

 そして、レネヴァリーは…………

 今はまだいいだろう。



 だからか、

「奪・っ・て・み・ろ・よ」

 声には出さなかったが、そう余計なお節介を言ってやった。



 レネヴァリーは突然、大声で笑いだす。


ーーやっぱ、剣を抜いたか……。


 どうやら意図に気付き、俺の期待通り、“フッ切れた”様で……


 その目には、活力どころか、明確な意思が宿っている。

どうするの、殺す?

 この俺を、自分だけのモノにしたいという意思の表れが……

ーーいや、いや、本当に都合がいい。 出来るだけこうなる様に意図的に追い込んだからな。

はぁ……それで、一体どうするつもりです。

ーー言葉と腕っぷしで従わせて、…そうだな。当分、俺に対して文句の言えない女にする。

「サハド様ぁ~、レネだけのものになってください♪」

 レネヴァリーが再び口を開いたと思えば、一番にその様な事を口走った。

ーーそれも自分の失態が招いた、足枷によって縛られるのな。

流石、*サマメル科の第一種危険物、あ、イメージ 送るよ。

ーー…………もう、狩猟者(プレデター)を超えて、捕食生物かよ。

それ位の部類に入るじゃん相棒は…。

「大丈夫ですよぉ~、ほんのちょっとだけですよ、痛いのは。」

ーーさて、どう料理してやろう。

「足の腱をぶった切ってぇ……鎖で繋いでおきましょう。あ、どうです。あの雌餓鬼にしたみたいに首輪をするのって、
あぁ……サハド様、好きそうですね~。しましょう、是非、否、むしろ!」

 レネヴァリーはこれから起こりえるかもしれない悦びに、にんまりと笑みを浮かべている。


 が、


ーーお~ぉ~醜くゆがめちゃってまぁ……

 サハドには、そう見えた。

「だったら、『して下さい』って言った方が良かったな。お前なら似合いそうだが。」

 軽口を叩けば、レネヴァリーの表情が、殺意に染まった表情となる。

 その冷えた眼には、嫉妬心から燃え上がった憎悪の炎が燃え上がっていた。

 だが、それも抑え、再び問う。

「サハド様。唯一レネだけの主になって下さい。」

 そうでもしなければ対峙するのが難しいと思っているのだろう。

「あぁ…構わんが。」

 その返事に喜びに震える。

「だが、そこにユーノラやルーファ、スフェ……以下中略、も含めたそのうちの一人として愛してやるよ。」

 サハドは意図的に“だけ”を聞き逃す。

「それでは駄目なのよぉぉぉ!!」

 先程の雰囲気と一転してヒステリックな表情になり、慟哭といっていい様な叫びが木魂する。

「レネは貴方に犯され、壊されて、そして従える事に存在意義を見い出した。だ・か・ら!!、」

 睨む、睨む、只管に睨む。

 まるで親の敵の様に……。

「レネをこんなにまでもした責任、取りなさいよ。」

 まぁ、その表情も態度も、サハドは自分が起こした事なのでさして驚く事もなく、落ち着いていた。

ーー“強欲”、“所縁”、そろそろ始まりだ。準備は済んだか。

あぁ…勿論。
契約者さんの我儘とは言え、準備はしましたよ。

「俺は絶対にやだね、一人の女に束縛されて、気付いたら白髪が増えててよ、よぼよぼのオッサンになって、
そんなカミサンから、別れ話突き付けられて、今まで稼いだ金、全部毟り取られる人生なんざぁ……」

何? その、定年哀愁協奏曲は?

「無論。だからと言って、自国のハーレムみたいに“*手に
火の鉄”なんてのもごめんだ、俺は、俺を奉仕して堪んないと
感じるような女か、
俺が飽きないような女を侍らせて、人生を謳歌したいんでね。」

「……はぁ、…仕方が無いですね。やっぱり欲しいものはこの手でブン取ります。」

ーー最高だ、それでこそ………

「あぁ…………
さぁ……躾の時間と参るか。



それが戦いの始まり。



 サハドが地面を蹴り、レネヴァリーに向かってゆく……同時に、レネヴァリーは地面を蹴り跳躍し、
天高く飛び立つ。

「ちぃぃぃぃ」

左斜め上から来ます。

 サハドは突然、地面に転がる様に避ける。

 頭に響く念波よりも速い反応……

 その一瞬遅れで風が空を切る。

 レネヴァリーは舞い上がったと同時に、風を操り、カマイタチを発生させていた。

 それを、サハドや“所縁”は見逃さなない訳が無い。

「不意打ちを避けるとは、流石ですね……」

 その瞳は、どんなに高く舞い上がっても……見えた。

 今まで、溜めに溜めて来た嫉妬心……いや、憎悪の塊だろうそれを含みに含み、燃え上がった
呪詛めいた負の感情を…その眼(まなこ)に燃やしている……

「目は良いんでね。………で、マナだけ使って、後は高みの見物か?」

 見下ろした眼をサハドは慈悲深く見詰める。

 まるで教えを乞う者に、教えを説く者の心情で、

「はい、レネは以前から気付いていたんですけど、サハド様、余り遠距離攻撃を得意としておりませんよね。
それに空中戦も出来ない。」


 クックッと不敵に笑い、見下している。


 文字通りに、

ーー上空から、見下している…か……。

「正解だな、しっかし、よくもまぁ…黙っていやがったね。」

 高さからしてみれば大体だが、ビルの三階程度……それでも高い。

「あ、何故なら、サハド様に悪いかな~って黙っていたんですよ。それに~サハド様、他の女と乳繰り合って、
レネに聞いて来ませんでしたじゃないですか。」

「そぅ言いやぁ、そうだ。」

 サハドは、気にしないといった感じで、レネヴァリーの皮肉が篭った比喩を爽やかに流し、涼しい顔をしている。

「とまぁ……ですから。絶対に遠距離攻撃ではサハド様に勝てるのですよ。」

「それなら、これはどうだい?」

 “強欲”を宙に放り上げたと同時に、右手の掌をレネヴァリーに向け掲げ、

「散炎光!!」

 サハドから放たれた炎の光線が空中で拡散し、拡散閃光が容赦なく襲い掛かる。

「あぁ~ショットファイヤーレーザーですかぁ~♪」

 その閃光をレネヴァリーは、呑気に避ける。

「ふふふっ、残念~♪ 地に足の着いた射角90程度の感覚では、360の感覚世界を超えれませんよ。」

「これはどうだ、」

 再び炎の光線が放たれる。

「またですか?」
            
 が、先程とは違い直には拡散しない。

「へぇ、成る程、今度は単発ですか。でも、簡単に……」

 レネヴァリーは「簡単に避けられるぞ」と言わんばかりに横にずれる。

初発……回避。

次発……回避。

 レネヴァリーとしては余裕の色が現れ始める。

 続いて二発を放つ。

初発……回避

 レネヴァリーは腕で操作される光束を容易く避け、そこで次は、余裕の紙一重で避けてやろう という
余裕が心の中で生まれる。


ーーかかったな。

 次発……絶妙の距離で、サハドは指から腕といった流れで左に軽く捻る。するとそれは拡散し、
確実にレネヴァリーに襲い掛かった。

「ッッ!! しまった! きゃぁっぁぁぁっぁぁ!!」

 拡散した光束がレネヴァリー に直撃する。

「油断大敵だな。」

 そう、命中したのはレネヴァリーが招いた油断が原因だった。


 注意し、大きく避ければ当たらなかったのだが……。


 まぁ、それもサハドが狙って行った事なのだが、






「ふぅ~危ないですねぇ~、流石に私でも背筋が冷えますよ。」






 水蒸気の様な煙が晴れる、


 それは深緑の髪をなびかせ、純白なはずのその白き翼を…虚ろかな緋色に染めていた。


 その手には相も変わらず、流れる様なデザインの剣が握られている。



「あ~熱ッ……流石、サハド様。不快になっちゃう位に、素敵過ぎです。」



 風の妖精が無邪気に笑っていた。


 まるで……今の攻撃が、無かったかの様に……



 否、変化があった。

 緋色に染まっていた羽は緋色が薄くなったかと思うと白さを取り戻し、元のウイングハイロウの色となった。

ーー熱放出か……一定以上の負荷には耐えられない……な、あれは。

「……何となく、腑に落ちなかったかが……、今納得した。何か手を講じてたな。」

 これでもサハドの目は人よりも優れており、その視力の良さが彼女の動きを見ていた。

 あの時、光線が拡散した瞬間、レネヴァリーの身体は逃げる事に反応していなかった。

 それを一瞬で捕らえて、違和感までにしか考えられなかったのだ。

「はい。文字通り、手を使いました。」

「えっ? 手で叩き落としたのか?」

「惜しい、でも違いますよ、レネはサハド様にやられかけましたが、サハド様のお蔭で助かったとも言えます。」

ーー大振りな防御でもない、ましてはシールドを貼った訳でもない。

相棒のお蔭ね……

ーー色々技はやったが……風を使ったのは……

そうだ!!

ーーあの時のか!!

「サハド様の……ウインドナックルと名付けましょう。効果は素敵としか申し様がありませんわ。」

 そう言って彼女は握りこぶしを目の前に掲げる。

 そこには空気の渦が、竜巻となって渦巻いていた。


 その技は、正しく言うのなら、気圏(フィールドナックル)といい、己の拳にマナを流して、力場を作り出し、
そこに風や炎、それらの属性物を意図的に宿らせ、それを利用し、様々な方法で攻撃する技で、
以前サハドは、それで風の力利用し、敵を殆ど無傷で掴まえる為に使用していたのだが……。

「いつも、いつも、可能な限り、サハド様の戦う様を見ていました。サハド様の戦い方は見ていて素敵ですし
それに、驚かせてもくれますから。」

 それをレネヴァリーは防御に使用したのだ。

 風を拳に宿らせて、拡散し一筋一筋の威力が弱まった光束にぶつける、という荒業で……。

 無論、弾いたとしても、熱…というより温度が高まるので、それはウイングハイロウに現れてしまうようである。


「それをうまくやったとしても、下手に殴っただけでは拳の風が無くなるし、数が足りない……だが、
風を司る妖精である、レネヴァリーには関係ないな。」

「えぇ…。」

 サハドは“強欲”片手に、参ったな~と言わんばかりに頭を押さえる。

「お前なら、風がありゃぁ一瞬で、無増に増やせれるからな。」

「ぱちぱちぱち~正解ですよ。それでも全部を叩き落すのも無理なんで、一定部分だけを確実に落として、
後は身体を縮ませました。」

 相当、余裕があるのだろう、態々、剣を収め、拍手するレネヴァリー。

「逆にこっちが褒めたくなるよ。」

「ありがとう御座います。……それで、どうです? これで、サハド様の打つ手は無くなりましたよ。」

 そう、この時点でサハドの攻撃方法がなくなった……。

 無理も無い。

 神剣の能力を殆ど使わないサハドは魔法を使うの事は少ないし、こうなると後は水属性の攻撃の
“ブロジリス”という氷の光線しか残っていないが、それでも現状を打破してくれるとは言い切れないし、
そもそも回りは砂漠……そんな所で慣れない魔法を使う程、阿呆ではなかった。

 それに、今までの人生の中で対空戦など、数える程度でしかない……というより*
ストレラ3を担 いで
予定コースを飛んでいるヘリを落とすくらいなものである


 レネヴァリーの態度は更に余裕じみてゆく。

「確かに……。」

 後は対地戦用と近接戦用のものだけで、距離を稼げるものはあるが、空を飛ぶ者相手には無意味である。

「サハド様は恐ろしい程、格闘戦、奇襲戦、暗殺術、ets、ets……と、近接戦闘に優れています。恐らく、
(か)の“剣聖”よりも上でしょう。この世界一と言っても過言ではない。」

「……」

ーーまったく、過大評価もいい所だ。

「ですが、お解りのように、今のレネに攻撃する事は……いえ、触れる事もままなりません。
砂漠の民曰く、『空を飛ぶ飛竜を、地を這うものは射落とせない』と………」

「何が言いたい、」

「いいえ、レネはその気になれば、上空から幾らでも攻撃できますし、今、大人しく神剣を捨ててレネだけの
主になるのでしたら、首輪だけで許してあげます。一緒にデートに出歩けないのは困りますし。」

 レネヴァリーが強気になったのには理由があった。

 彼女は今までサハドの動きを観察し、その動き、その強さを把握した上で判断し、万全の策を当に
もっており、更には、彼女は未だに彼の目の前で使っていなかった奥の手があるのだ。

ーーふふっ、何時までもレネは、負けっぱなしではありませんよ。

「……なんだ。」

「なんだとは酷いですね~、今は落ち着いていますから酷い事はしませんけど、そんなつれない
態度ですとどう出るか……。」

 サハドの予想外の反応に、今まで余裕だったレネヴァリーに、僅かながら焦りが見え始めた。

「戦っている最中、相手に対して降伏勧告か? 前からそうだ、お前は相手を舐めすぎている、だから
あっさり負けるんだ、」

 彼女としてはこれ以上は、損得勘定を踏まえても、無意味なのだから……。

「…………」

 元来、交渉などそういうものだ。

 欲しい値段より多めに要求し、それを交渉や交換までにある程度減らしたとしても、本来欲しい
値段まで持って行きたいのが大体のセオリーだ。

 だからこそ、レネヴァリーは、“「言う事を聞かないのならば、足の腱を切って鎖に繋ぐ」”という
恐ろしい事を口走って、“交渉”の手札の一枚として持ち出した。


 勿論、交渉としては、サハドが首輪を付けて、自分だけを見ていてくれれば良いのだが……

 だが、そんなレネヴァリーの心情を知ってか知らずか。

「だが甘いな。俺に傷を負わせたか? どうやって勝ったと言うんだ? 」

 その一言は、彼女の痛い所を衝き、機嫌をブチきるのに十分だった。

「……そうですか。そんなに死にたいというなら、半殺しにして差し上げますよ。」

 サハドは話にならないと交渉を却下する。

「やれるものなら。」

 それには、駆け引き不足のレネヴァリーは戸惑った。

 脅しというカード、空中という上下高低差での有利性というカード、「手詰まりのそちらに対し、
こちらはまだ奥の手がある」というカード、

 それだけの手札を披露したというのに平然としているのだから。

「それと、天駆ける飛竜をどうやって落とすつもりですか。地を這う蜉蝣よ……」

 レネヴァリが剣を派手に振るう、カマイタチどころではない、重さと威力を兼ね備えた風が
幾度も放たれる。

「そうだ。それでいい。」

 放たれた風は正確で、足か腕を確実に切り落とす勢いで向かってくる。

 ひとつ、ふたつ、みっつ、と……。

 が、サハドは容易く避ける。

 連発で放たれた風も……急に角度を変えた不意打ちの攻撃でも……

ーー!?

 避けられ、これならば…と、地面擦れ擦れだった風を操作しようとしたが、レネヴァリーは違和感を感じる。

風の動きが、上手く行かない……。

 そして、その違和感にレネヴァリーは気付いた。

ーー……ッッ!! そうか、風の流れが悪い場所を選んだのね。

小賢しい

 レネヴァリーは怒りによって神剣を握る手に、力が入る。

 戦闘経験豊かなサハドと、その多種様々、豊富な経験豊かな“強欲”、その二人の見えない
攻撃が、今、レネヴァリーをじわじわと責めていた。



 サハドの背後で砂塵が舞い、サハドが身に着けてたマントがひらりと舞い上がる。

「さぁ、風は終わりか? そうすれば、俺に遠距離攻撃は殆ど聞かないという事を証明するが。」

「ちょこまかと……素早しっこいですね。」

「当たってやる馬鹿が何処に居る?」

 サハドに余裕がうまれ、レネヴァリーに気楽に話し掛けているが、レネヴァリーとは違い、本当の隙を見せない。

「ふふっ、そうですわね。それでは必中の大技を喰らって下さい。」

 レネヴァリーは更に上空に上がると風を操り、集わせる。

ーーこれなら、幾ら何でも当たるわよね……



 集まってゆく風を見上げながらサハドは冷静に判断する。

ーーさて、どう出るか。

剣 に風を纏わせ、それを近距離で振り下ろすのか、

それとも竜巻でも起こして飛ばすのか。


ーー或は………。

「風よ、心地良き初風の産声よ、大地を静に駆け抜ける旋風よ、」

 風が神剣を目とし、次々と集ってゆく、

ーー目を閉じた? それなら………

一瞬の隙 を狙ってサハドは動く。

 手に集った風が渦となった時、周りの風が鳴き出し始めた。


「風よ、爽快な速さを示す疾風よ、風の怒りを表す嵐よ、」

それは以前の“切り裂く風”とは違い、次第に大きな渦へと姿を変える。

 狙うべきは眼下の主へと……



我が神剣を介し、かの者へ……、その宿命を……天命を! キリング……フィールド!!



 最早、それは嵐の塊だった。


 レネヴァリーの神剣が振るわれ、大嵐が、意思を持って分裂し、

 左右前後、いや上、斜め上と180度全方向から襲い掛かる。

ーー絶対、この嵐に巻き込まれたら、挽肉になるな。

 それを一瞬で判断したサハドの勘はほぼ正解だった。

 オーラフォトンのシールドを貼ろうとも切り裂くカマイタチの攻撃を一・二回り上回る、この攻撃は相当なもので。

 カマイタチがつむじ風なら、これは暴風、そして……それが集うという事は……。

 そして、このままこの斬り裂き旋風に、全方向から巻き込まれた場合……ミキサーで回される果汁と
同じ末路を辿るのである。

 それが、レネヴァリーの必殺技、ストーム()ではなく、キリングフィールド(殺戮空間) と呼ぶ所以である。

「反応が遅いですね。当たりますよ。」

 いや、反応が遅いとかそう言うのではなく……動いていなかった。

「………ふっ

 サハドの四方八方から暴風が迫り、サハドが居る場所に暴風が襲い掛かる。

 暴風はサハドを包み込み、地面を深く削り、風同士がぶつかった時に生じた、衝撃音が辺りを揺るがす、

 それは、大爆発と言うのならそれで合ってるかもしれない位の威力。



 風が晴れた場所には何も残らなかった。


 風も……塵も……


何もかもが、消えていた……



 地面は綺麗に円形に削られ、


そこにかつて立って居た者の存在を打消していた。




「あらあら、サハド様もこの攻撃には……は……」

 レネヴァリーは自身の技の威力に、気分を良く声を上げるが……、

「あ、アレ…?………おかしいな、れ、レネは……」

 自分の犯した過ちに気付いた……

「サハド様……お……あっ、あ、あ、あ、あ、あ、あ……ひっぃぃっぃっゃぁぁぁやっぁゃあああああああああああああ!!!」

 殺してしまったという事実に。

 そして、ただ呆然と立ち尽くす……いや、浮いているだけしかなかった。

「……あっ、……ははは……あはははっははハッははははははっははぁはっっっっっっ!!!」

 主を殺してしまったというショックで壊れた様に……いや、狂ったのだろう、只管に笑うレネヴァリー、
そして、寒気が襲い、息が続かず、前に蹲りそうになり、そうしたからか腹の底から吐き気を催してくる。

 何かに狂い掛ける、その引き金を引きそうか引かないかというその時に……



 その時、



 殺戮空間(キリングフィールド)が発生した地点より、少し離れた砂の中から何かが飛び出す、

「かはっ…は……っ」

 そして、砂に隠れた、“その何か”から、漆黒の閃光が放たれる。

「あ……ぁ……ッッ! 」

 狂戦士の鬼札である彼女ではあるが……、戦士としての勘は十分であるが為に、その動きに気付き、
僅かながらに遅めだが避ける。

 が、漆黒の閃光が明らかに速い、

 レネヴァリーが避けていた為、胸には突き刺さらなかったが、左肩の辺りをざっくりと持って行かれた。

「ぐぁぁっぁぁ!!」

 レネヴァリーは痛みで高度を落とし、そのまま落ちるかと思われたが、

 2メートル位の高さで踏ん張り、踏みとどまる事が出来た。



「……ちっ、そのまま、地面に落ちてくれれば仕留めれたのに。」



 レネヴァリーは、こうまで自分を傷付けた相手を、射殺す位に睨む。

「ソサレク、ソサレク、ソサレク、ソサレク」

 腹に溜まった呪詛もそれに引き継いでかより煽られる。

ーー肩を殆ど持っていかれた、くそ……糞ッッ、傷口が治らない……

 視線の先には旅装束の男……。

 何処かで見た事がある様な姿だが、今のレネヴァリーにはこの蠢く不快感がそれを無視させていた。

 風に煽られ、顔を殆ど被っていたターバンが解ける。

 その一瞬でレネヴァリーは今まで身体の中に渦巻いてた“モノ”が晴れ渡る。

 それでその男が、誰なのか気付いた。

「引田天○もビックリの脱出術だ」

ーー生きていた……生きていたぁ~。

 解けたターバンを外し、肩で砂を多少被っているが、関係無しに、軽口を叩いている。

 黒い閃光……その正体が“強欲”、

 それが主……そして、殺しても手に入れたい我が主、

 サハド様……

ーーやったぁぁぁ、やったやったやった~~!!

「あはっ……はへぇっ……わへっ……っっ……くぅぅうぅ」

 心の奥底から湧き上がる歓びを抑える事は出来ない……例え、その歓びが、傷口に反応して痛みを呼ぼうとも……

「オイオイ、笑うか、痛がるか、どっちかにしてくれ。」

「あははっ、サハド様ぁ~避けたなら『避けた』って言ってもらわないと、危うく壊れる所でしたよぉ~。
あぁ~~心配して損した。」

 涙に塗れた瞳で、我が主を見続ける。

「それで、もう終わりか? レネヴァリー」

 相変わらずの、冷めた反応……だが、今は違う、我が主の眼は……

 戦いを喜ぶ眼……サハド様の眼だ…………

「そうですねぇ。キリングフィールドは…、もう使えませんし、左肩は……骨はやられていませんけど、
相当、ざっくりやられてしまいましたね。」

ーー痛い……傷が回復しないのは“強欲”の効果ね……厄介だなぁ……。



 レネヴァリーもサハド様も一緒に笑いあった。



 片割れは面白くて、もう片割れは嬉しさに頬を緩めて……


 今この瞬間が、全てにおいて理想的な瞬間……。


ーーでもいいや。サハド様が生きているし……。

 だからか、レネヴァリーは些細な事は気にしない。

「互いに一気にカタを付けようか」

「それが宜しいですね。」



ーー掛かった。

 近接戦に持ち込みたかったサハドは、内心ほくそえむ。

 見知った相手との戦いはギャンブルの様なものだった。

 互いの手札を、手の内を読み合い、打ち合ってゆく……まぁ、あの21の数字に近づける絵札遊びが分りやすいだろう。

 この勝負の初め……レネヴァリーは俺が出させたとはいえ数が1という最悪目に絶望し勝負を捨てようとしていた。

 だからそれに意図的に有利な札を出させ、相手を同じ土俵に上がらせた。

 それに乗せられレネヴァリーは勝負に乗って、20という数字を叩き出し、結果を知る前に酔いしれ、俺に「降りろ」と
提案してくる……が、そうはいかないのが勝負、実は俺も20という結果をたたき出した。

 そして、自身のある再びの引き合う、破滅と隣り合わせ……いや同然の絵札遊びに。


 後の仕上げは、近づけさせ、自慢の技を叩き込む。


「サハド様には触れさせない、最速の一閃。お見せ致しますわ。」


 ……多少事情が、違ってきた。

 更に、周りを流れていた筈の風が、まったく感じなくなった。

 その異様な前触れに、虫の報せを感じ、呼ぶ。

「“強欲”」

 はい~。


 再び、その手に愛刀が形成され、重みと落ち着きを与える。

「“所縁”」

はい、

ーー多分……、嫌な予感がする。こうなったら力を解放する……。

いいねぇ~
遣り甲斐があります。



こいつ等の力は、借金と同じだ……

使い所を間違えば……“所縁”は知らんが、“強欲”は俺を喰う、

そして、俺を奪うだろう……

だから俺は殆ど使って来なかっ た。


俺の力と、ほんの僅かな力だけで……それだけでやってきた


ほんと…変な事になってきたな……、俺。



 レネヴァリーは肩からの血を手で押さえながら、ふと言葉を漏らした。

最初から、この技を使えば良かったのかも……

 サハドの態度と言葉にに我を忘れて、無駄に大技を使用してしまった……それが不味かった。

 マナの消費が激しく、次の技を使えるのは二回程度……



“強欲”、“所縁”、……頼む。

どうぞ~ はい、


風よ、爽快な速さを示す疾風よ、風よ、緋の太陽の終わり を……深き闇の訪れを告げる風よ、

 いつからだろう……あの人が末恐ろしく感じたのは……


「……ぅッッ……ありがとう。」

 力が流れ込んできた。 例えるなら、そう…ラマダン後の腹の中に、水が流れ込んでくるかの様に、身体中に染み込む。



我が身、汝等と共に……、一心……一体の……風となろう……


いつからだろう……この揺るがない優位が、逆転していたのは……


「……さぁ……どうぞ。」

使うのは一瞬、後はいらない。



「……無音…風斬の剣
(むおん…かざきり のつるぎ)!!

もういい……*葉は落ちたのだから……



 風が鳴いた。




 何かが哂った。




 今、
最速の風と、解放された力が、真っ向から対峙し……






 それはほんの僅かな時間で終えた。













ーーはやッッ!!






 一秒も経たず内に、2530メートル位、離れた場所に居たレネヴァリーが、ほぼ中間の位置に迫ってくる。





 コマ送りの映像のような世界の中、





 彼は、狂気の笑みを、口元で開く……





 彼女は速い、このコマ送りの世界で何不自由無く迫ってくる。





 だが、彼の眼は鷹の目の如く、彼女の動きを追う、





 風と速さが合わさった必殺の薙ぎの一撃、





 神剣の力を全身で解放……眼以外の全てに今まで抑えてた力が解き放たれる





 染み込んでいた水が爆発を起こし、身体をその紅蓮で燃やす。





 意思と、目だけで追っていた世界に……、身を投じた。





 身体が、レネヴァリーの一閃を流れるようにかいくぐり、その腕を叩く。






 そこで、力を止める。

 それと時同じくして、世界は通常の時間の流れに戻り……

「……ぐあぁ!」

 ゾクリと何かが背中を摩ったが気にしては居られない。

 レネヴァリーは俺の反応に、傷みと驚きの混じった表情を見せた。

 無理も無い、音速の速さで迫っていた筈なのに、気付けば手を叩かれていたのだから…。


 それに輪をかけぬ間に、もう片方の手を剣の柄で弾き、“強欲”を後ろに放り捨てる。

「君の剣には確実性が無い。」

 レネヴァリーの懐に入り込み、右耳から右顎の部分を左手で掴み、みぞおちや、あご、足の甲などに、
二撃、三撃、と拳と突きを体中の急所に振るい続ける。

 レネヴァリーはそれでも、不意を突こうと蹴りを入れようとしたが、捌くのは容易かった。

 仕返しといわんばかりに、右腕を鞭のように撓らせて通し、左肩の傷口に触れ、抉る。

「痛いいぃっぃぃぃぃぃぃっ!!」

 その痛みに、レネヴァリーは必死にサハドの左手を弾き、転がりながら悶える。

「痛い痛い痛いイタイイタイ!!」




 レネヴァリーの必殺技、無音、風斬りの剣。
風の力で力場を爆発させ、その勢いで、相手の懐に一瞬で入り込み切り裂く、最速の剣術、

 それをサハドは二本の神剣の解放力で捌ききり、今に至る。



 地面から足を離し飛ぶと、

「とどめだ。」

 身体を捻って右足を……蹲っていたレネヴァリーに向かって思いっきり振り下ろす。

 鈍い音がしたが、レネヴァリーは確実に倒れ気を失った。



それが、決着。





 砂の上に転がっていた“強欲”とその下の砂の間にブーツの爪先をすべりこませ、器用に爪先だけで
放り上げ、“強欲”を手に取った。

 乱暴だね…相棒はそういうのがやっぱり好きなんだね~あぁ~訪 れるのは受難で御座いましょうか。

ーーお前の所為とは思いたく無いが、“強欲”を手にしてから、明らかに俺の受難が続いているぞ。

……

ーーだんまり……ね。


 そういえば先程、絵札遊びの賭博の話をしただろう、だからそれになぞって答えを晒しておく。

 最後の勝負、俺とレネヴァリーは互いに手札を引いた。

 レネヴァリーは今の手札の貼り具合に納得しそのまま、そして俺は……勝負に踏み切り、1を引いて勝利。

 そんな結果。





 ……が、オチはそれではない。

 
 翌々考えて欲しい、この勝負、誰が提案した? 誰が札を相手に渡した? 誰があり得ない勝ち方をした?

誰が、誰を促した?
誰がこのような勝負までの状況を作り出した?



 賢明な人はお気付きでしょう。



誰が……いや、どちらが狡賢いのでしょうか?




 異性関係もそうだけど……「
主導権を握ること」それがどんなにも大切。

例え、イカサマをしようとも……

「お疲れ様です。ウネト。」

 そんな事を一人脳内で完結していると、フード付きマントを羽織った二人がサハドの左右に止まると、跪き声をかけてきた。

「……時間より大分速いな。」

「……遠くより、ウネトのご様子を伺っておりましたので、」

 喋ってくる方は長刀を背中に背負い、さっきから黙って居る方が、赤い杖を手に持って
俺の足に身体を摺り寄せ擦って遊んでいる。

「こら、ルーファ。」

 長刀を背負った方が、赤い杖の子をひっぺ剥がす、その勢いでかフードの幌が外れ、その頭が現れる。

 赤いマジックステッキタイプの永遠神剣を持つ少女、ルーファ・レッドスピリット。

「にゃぁぅ~」

「必要以上にベタベタしない。」

 叱る様に、ルーファの首根っこを掴むのはスフェ・ブラックスピリット。

「スフェちゃぁぁ~ん、ガチで、鬼だよ~ぉ!」

 腕をぷらんぷらんと振り、不満を表すルーファ、それを叱るように宥めるスフェ、髪の色は違うが、
二人は仲の良い姉妹のようである。

「もう、話して構わんか?」

「あッ……はい……。」

 だが、彼女達はそれぞれにサハドの“モノ”と“戌”で、それ故に主の命を受ければ淡々と黙って
それに従う。

「まず、ルーファ、レネヴァリーをここに連れて来い、引き摺っても構わん。」

「あっ…はい。」

 サッと瞬時に離れた場所に倒れたレネヴァリーに駆け寄る、ルーファ、

 それを尻目に、サハドはスフェに話しかける。

「……ルーファは好きにさせて貰おうか。あいつはそういう仕込みだし。」

「お断りします。」

「そうだな…、そうでなくちゃ。」

 意味不可に歯の奥で笑うと、直に気を引き締める。

「それなら、話を代える。数日間の移動準備は済ませたか?」

「……はい、確かに四人分揃えました。」

「そうか、なら、先にレネヴァリーだな。」

 ルーファはレネヴァリーを背負ってサハドの傍まで来ると、そこへ荷物を降ろす様に降ろす。

 多少乱暴にだが……

「いだッッ……」

 それで目を覚ましたのか、レネヴァリーはゆっくりと辺りを見回す。

「うぁ~っあぁ~~、」

 そこへ、(勿体無いのだが)水を頭へ垂らす様に掛ける。

「冷たッッ!!」

「どうだ、目を覚ましたか?」

「へっ!? ……あ、ひぃぃっ」

 サハドと目線が合い、慌てて後づさるレネヴァリー。

ーーほっ、こりゃいい。

 何をされるのか分らないのか、それとも混乱しているのかは分らないが、レネヴァリーは明らかに怯えていた。

 恰も、それは外敵に怯える小動物の様である。

「いやぁ~本当に危なかったな~。まさか、俺をブッ殺す為にあんな大技隠していたとわな。参ったよ。……なあ!!」

 軽く押す様に蹴り倒す、

「ひぃぃぃ、」

 地面に背を付け仰向けだが、レネヴァリーは這い蹲って後づさる。

「あ、あ……あ……」

「なぁ、レネヴァリー、手前ぇの従者が犯したミスは、誰が責任を取るん?」

 サハドはそう言うと、レネヴァリーの両肩を掴まえる。

 左手で右肩を普通に掴み、右手は、左肩で血が流れなくなった傷口を押せる状態で掴む

「痛いぞぉ~…手前ぇのせいで誰かが傷つくというのは」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。」

「言葉はいらねぇ。誠意ってもんを見せてくれよ。」

 視線を外さず問い詰めるサハドにレネヴァリーは恐怖し、そのまま崩れ落ちる。

「ゆ、許してください……お願いします、殺されるのも……捨てられるのも、駄目っ……いやっ、嫌です……」

 溜息を吐きながら立ち上がり、レネヴァリーを見下ろす。

「レネは、レネは! 愛されたいんです。サハド様の奴隷でもいい」

 レネヴァリーはサハドに捨てられるか殺されるのかと思い、怯えていた。

 無論、彼女は元から歪んでいるのだが、それをサハドに更に歪められれば、マトモと言う事は有得ない。

 だからこそ、いまここでサハドに何らかの形で縁を切られれば……彼女にとって生死に関わる問題と同意義に均しいものと
言えよう…。

「『でもいい』……か」

 ただ静に、プレッシャーを与え続けるサハド。

「いえ、違う、違ぁう…奴隷でいさせてくださいっ!!奴隷以下でも構いません。戌でも、モノでも……
サハドさまのお望みの者になります。ですから……ですからぁぁ、おねがい……見捨てないで……
殺さないでくさい、助けてください。」

 地面を向いてた視線の前にサハドのブーツの爪先が入り、そのまま一気にレネヴァリーの顎を
引っ掛け、引っ張られる。

 そして、無理矢理視線を合わせさせられた。

「ひぐぅ……う…、あっ…お願いしま…す……なんでもします。命令には逆らいません……だからっ、
だぁからぁ!!」

 その言葉を懸命に吐き出すと、耐えられなくなったのか涙を垂れ流し続ける。

「うっ、うぅ……あぁぁっっ」

 レネヴァリーの顎から足が退けられ、そのままレネヴァリーは崩れ、跪いたポーズになる。

「何にでもなる……何でもする。ね、奴隷にでもなるか?」

 土下座の体勢から物乞いの姿勢へと、色々と変えられ、従者への復帰を求める命乞いをさせられるその姿は、

「はい、はい、ハイッッ……奴隷になります、なさせて下さい。」

 砂漠の鬼子と呼ばれ、各勢力を脅かしていた悪鬼の姿は……そこには見受けられない。

「ここで約束したとしても、この先どうなるか。」

 そこに居るのは、ただ助けを請う、哀れな少女……

「逆らいませんから…さからいませんからぁぁ」

「クックックックッ、あ~ハッハッハッハ!!」

 サハドは突然笑い出し、レネヴァリーはただ呆然としているしかない。

「お前は可愛いなぁ……いつもやる事成す事一人空回りしている。対策を練った。攻略法がある。それだけ可能性が
あるのに、最後の最後で詰めが甘いから、やっぱりしくじる。滑稽で可愛いなぁ」

「へ…ヘッ?」

 驚愕の表情のレネヴァリーを見つめながら、大きく息を吐き、いつもの平静な顔に戻る。

「……奴隷なら躾が必要だ。始末されたくなければ、一切逆らうな、背くな、分ったな?」

 ただ、それだけの条件を告げる。

「は…はい。」

ねぇねぇ~本当にコイツが従うと思っているのかい?

ーーさぁ……な、

絶対、こういう奴はまた逆らうって。

ーーその時はその時だ。

その度にボク達は危機に晒されるんですけど?


「ルーファ、スフェ、レネヴァリーそれでは、そろそろ行くぞ、」

ーー何、こんなのはただの痴話喧嘩さ、

ただの痴話喧嘩に……ただの痴話喧嘩に……

あぁ~真面目な“所縁”ちゃんがショック受けちゃったよ。


ーーそれ程の事じゃねぇだろ

「ハッ!」「……んッッ」「はい…」

それほどの事です!!

ーーなぁ、お二人さんよ。俺は、レネヴァリーがいつ何時も、俺を様々なやり方で楽しませてくれるから傍に置いているんだ。

別に、特別な事はして無いと思うけど

ーーアイツの行動全てに面白みがある。だから俺はアイツの事を好きになったんだよ。


さっき言い損ねたが、レネヴァリーは 如何なる時も、俺を飽きさせてくれない、いい遊び相手でなければなら ないと 思っている。

その為には……俺はどんな手段でも取る。



ーーどんな手だろうとな………




 レネヴァリーも立ち上がり、全員が再び歩き出す事となった。



 まだ見ぬ大地へ……










あとがき

ギャンブルは軽い火傷程度で終えときましょう。

信じられるの?目に見えること(あの手つきで器 用に配られるカード)。信じられるの?息衝くこと(あの場所がどれだけ、気付かない人間に は毒だと。)。
信じられるの?私のこと
(場の人間全員)」
(
アニメ版、ひぐらしのく 頃に 鬼し編 其の弐 『隠しごと』」の予告の台詞っす)

そんな教訓と台詞を残しつつどうもです。

(・ω・)<「三四タンが好きですが。何か?」の、ぬへで御座います。

 いや、まぁ……あんな事(「管理人さ~ん!!」)があって2ヶ月以上経過するとは夢にも見てませんでした。


 まぁ、ナニは友あれ、これでラスフォルト、デオドガン編は終了です。
 それと、最近進行状況が遅れた理由は………戦闘シーンを追加した事と、

エロスの神様が降りて来た!! (妄想が)

だからでしょうか、今回の更新が遅れに遅れました。

ルーファ、スフェのえち、えっちぃ調教話がいい具合に生まれ、書かれ、

一日で24KBの容量まで仕上がるほどに(容量は人or話によって違うが、ぬへ的には三分の一)……


他のえっちい話………まぁそれはそれ、コレはコレで!!

殆ど完成しているという清清しい話に……


↑それがトウシバが殉職するまでのお話し。
そこから色々ありました……あったのよ。

 とりあえず、我が身に冬の時代が訪れていました。と、

えっちい話二作目の現在は……奉仕描写……書くのがめんどい(´Д`)の現状により停滞 中。

殉職からつぎのPCまでにコツコツ入れてた文章は……消失  OTL  

やりなおしか……




単語辞典


*サマメル
 恐らく“強欲”が居た世界の多種を捕食する昆虫もしくは生物と思われる。
まぁ、アリジゴクか食虫植物みたいなものである。

*定年哀愁協奏曲
「家庭の為に身を粉にして働いてきた……筈なのに、なんだ、この仕打ちは……」という言葉が
物語るように、家庭で立場の無いお父さん達の悲しい叫び……慟哭ともいえる。
 趣味で集めてたものをいい年して、と捨てられたり、子供が増えたから部屋を明け渡せとか……
煙草は吸うなとか、自分の個を無理矢理家庭(奥さん)の犠牲にされていく悲しい話。
 まぁ、家族は家でお荷物になった家長を邪険にしているだけの事だが………(ノωT)

 今回のサハドの場合(ケース)? は定年となったお父さんが奥さんから離婚届を渡され、子供の親権諸々を
奥さんに取られ、離婚後、退職金の殆どを取られ、それでもなお………涙が溢れてきた。

*9K34 『ストレラ3』
 携帯できる赤外線誘導地対空ミサイルの事、
コレ系統で有名なのは *FIM-92 スティンガーミサイルだが、イラクや湾岸でサハド所属の勢力やテロリストが
多く持っているのはストレラ系統である。
 もっとも同シリーズのストレラ2は旧式である為か、誘導力が低いためチャフを撒かれるとソッチへ行くという
悲しい事態に。
 ちなみにストレラ3は重さが10キロ近くあるので、それを山地で持ち運びとなると相当疲れる事は間違い無し。

*葉は落ちた
ファンタスマゴリテのことわざ、「サイは投げられた」と同じ言葉、(公式ではありません。)

FIM-92 スティンガーミサイル
 日本では中身オオツカの蛇さんが使ってた事で有名となった
携帯型地対空ミサイル
偉大だな~、スモールウェ~ブ