俺がこの世界に堕とされた所為で、デオドガン、マロリガン、サーギオスの三国が戦いを始めた。


 サーギオスがデオドガンとの国境に姿を現し、そこに何の原因があって火蓋が切って落とされた
かは知らないが、俺はその戦いからデオドガンの一陣として戦いに参戦する事になった。


 初めは、デオドガンの部隊だけで、サーギオスのブルースピリットだけで編成されている
部隊と戦闘をしていた。

 防戦重視のデオドガンと、空から攻めてくるサーギオスの部隊、その戦いは一進一退だったが、
俺達が奇襲部隊として参戦したのが切欠で、サーギオスの部隊は次々と数を減らしていき
遂にはデオドガンの勝利で終わった。

 その時は空を飛んでいる相手には手が出せないので、レネヴァリーに頼ったが、地上に落ちてきた相手は
確実に仕留めていた。








「なぁ…“強欲”“所縁”」

なに? はい。

「この腕の中を、通って流がしている冷たい糸は何だ?」

あぁ…それ、君が奪ってくれたおかげで手に入った力だよ。


「随分と、水に敏感になっているんだが、」

まぁまぁ、損はしないよ。理解できればの話だけど。

“強欲”の力が上がったのはこの頃だった……




 次に、サーギオスが撤退したのを見計ったかの如く、マロリガンの部隊が侵攻して来た。


 この時は、敵の編成は基本陣形で攻めてきた。

 前衛に黒か青を配備し、後衛に赤か緑を配備し責めてきている、全てにおいてバランスが
取れており、これがかなり厄介だった。

 結局は敵の猛攻を味方に耐えさせ、俺やレネヴァリーが敵の青い奴と緑の奴を狙って
仕留めたのが功を相し、相手は回復担当と魔法相殺担当が居なくなり、こちらの神剣魔法によって面白い様に
全滅という事になった。

 ここで、マロリガンの部隊の生き残りである、黒いのと赤いのを手に入れた。

 赤いのは俺の物となり、黒いのは俺の戌という事でデオドガンに属する事になった。


 二度目の勝利で戦いは完全に終わりを迎えた。



 どうも、彼等は俺を自国のエトランジェにしようと狙っていたのだが、デオドガンに所属したとという事が分かったら
手を出すのを止めた様である。

 恐らく、無理強いして、手に入らないエトランジェに、手をだして余計な被害を出すより、
手を出さない方がマシだと判断され、手を出さない事にしたようである。



 兎も角、
聖ヨト暦三二八年 エクの月、赤四つの日デオドガンは勝利と平和を勝ち取ったのでした。











「っと、以上で回想終わり。」

「サハド様ー!! サハド様ー!! レネはー!! レネの命は
風前の灯し身です。焼かれてます、焼かれてます~!!」


 目の前でレネヴァリーが後ろ髪を少し燃やしながら大慌てで飛び回っていた。

 正確には逃げ回っているのだ。

ーーおぉ~尻に火ぃ付いた。……って消すの早いな。



 何をしているのか? と聞きたいのか。


 簡単だ。


 西洋の物語に出てくる、
ドラゴン
と戦っているのだ。






















永遠のアセリア

ラスフォルト



第4章、5話、“ドラゴン…殺っていいですか?”





願望・・・
求めること・・・それはちからとなる。

善き願いでも、悪しき求めでも。

制約・・・
誓うこと・・・それは力を呼ぶ。

そんな誓いでも、それが純粋な想いならば。

織物・・・
時と運命と想いが紡がれた・・・

織り込まれて物語をかたち作っていく。

略奪・・・
強欲であること・・・それはちからそのもの
他者を蹴落としてまで、生に執着するためのこと。



















来ます!!

 咆哮が轟いた後、緑竜の口が開き、閃光に輝きを光らせる。

避けろ! 避けろ! 避けろ! 避けろーー!!

 緑竜の吐く業炎を跳び避ければ、後の壁が赤々と輝き、遂には飴玉のように溶ける。

「湯を沸かすのには苦労しなさそうだ。」

軽口はいいからーー相棒。せめて戦う善処をしてくれよー!

ふざけないで下さい!! 今はその様な時では在りません。



 後ろを振り返りながら軽口を叩いたら、俺の神剣達は、キレた、まぁ可愛いの範囲内だから赦す。


冗談じゃない。灰カスになんてなりたくないんだからなー!! 分かっているよねー!!

大地を彩る数多の精霊よ、我は絆を司る神剣、我が……


ーーキレるな。祈るな。黙ってろ。



 何故、帝国領まで来て、この様な穴倉に篭って竜と闘っているのか? 理由を思い出しても
大した事ではなかった。

 デオドガンとサーギオスが、先の戦いでの関係を緩和する為に、デオドガンのお偉方が
、ある依頼を
引き受けたのだが……それが予想通り舞い込んできたのである。


 何と!! 帝国領に潜む『巨竜を退治してくれ』との依頼だった。


ーー何とファンタジー、何とミステイク、まるで“竜の冒険”か、“最後の幻想”みたいである。

いや、むしろ、イタリア人兄弟Ⅱじゃない?

契約者さんと、あなたの会話のほうがよっぽどファンタジーですよ。

 デオドガンのオッサン(フッシ)の話では、帝国は龍の力の解放によって膨大なマナを得るので、それを得たいという
表向き目的で、本音の所は失敗して、邪魔なエトランジェが死んでくれればいいと、思っているのだろう。

 いい迷惑だ。

 最近は特に忙しい事が立て続いているのでろくに休めないでいるのに、お偉方の媚売りに借り出されるこっちの
身にもなってもらいたいものだ。



 二度目の回想に入っていたサハドの目の前で、レネヴァリーは必死に闘い続けていた。


「いい加減しつこい」

 レネヴァリーの行う攻撃は、魔法はあまり利かず、剣での攻撃は外殻に傷を付けるので精一杯、
対してレネヴァリーは炎にじりじりとダメージを喰らい、次第に肩で息をする位に衰弱していっている。

≪どうした!? 戦いは妖精にさせて、お前は、見学か?≫

ーーでっかいトカゲのくせに、人語だけは流暢に喋れるのか。

 自分の存在が軽視された事にレネヴァリーがピクリと反応し、その目に憎悪が宿る。

「絶対に殺してやる、喉を切り裂いてマナの輝きに変えてあげる。あれは綺麗なんだよ♪」

 レネヴァリーも次第に、心の皮が剥がれ落ち、素が現れて来た。

ーーまぁいい。仕方が無いが……入り口で睨み合いを続けているアイツ等を待たせるのも癪だしな。

殺りますか……。

ーー……神剣たる者、汝は何者であろうか。

我が名は七の位“強欲”生きる事の摂理を司る神剣
我が名は五の位“所縁”人同士の絆…想いを司る神剣

「………」

ーーならば問いたい、今、この時において我等の敵を打ち砕く剣はどちらであろう。

答えは貴方自身が良く知っているではありませんか。

ーーそうだな。ならば、汝等の身体を使わせて貰う。

 緑竜の問いには答えず、サハドはただ黙っている。

良き答えだ。 ならば戦え!! 奪え!! 君には自由がある。

≪答えんか!!≫

 沈黙の反応に憤怒し緑竜は業炎を放つ。

水よ…集え…、
 サハドの眼前に炎の塊が迫る。
そうだ…いい子だ。
 そんな、窮地に立たされたサハドは……




ならば行け





「……ボルテカノ」








 動いた。








 何かを唱えたと同時に、業炎を左に避け、緑竜に対し向って駆けてゆく。

「レネヴァリー下がれ、お前とコイツでは相性が悪い。」

 レネヴァリーの神剣魔法は、点よりも、面を主立った魔法の為に、多人数に対しては有効でも
一対の強力な敵に対しては効果は薄い、尚且つ、風は火を勢い立たせる、例外はあるが、緑竜と
レネヴァリーの組み合わせに関しては例外は無い。

≪ようやくやる気になったか。だが!!≫

 緑竜の巨体が跳躍し、右腕が斜め上振り下ろされる、緑竜の腕の振り下ろされた衝撃が
洞窟内を衝撃で震わせ、その爪が発した衝撃波は地面を深く抉る。

 ………だが、当てるべき人間には当たらない。

 緑竜が巨躯であっても敏捷と言える程速いのだが、サハドはそれよりも速く動いている。

 緑竜は尚も攻撃を止めなかった。

≪えぇい、ちょこまかと≫


 右腕が地面に突き刺さった状態だろうと関係無い、その左腕を掌で握り潰すつもりか、

サハドを掴もうと手を突き伸ばした。


 だが……


内家 流型避術の極技


 サハドの身体は水の流れの様に緑竜の左腕をかわす。

 
その身が、流れるかの如く


水影の御術!!


 そして、その一体化していた静けな流れは意志を宿らせ流れに逆らう事無く流す様に
緑竜に襲い掛かった。



ーー謝々、香老師。異教徒の私に、お教え下さった貴方様の技は健在です。

 裏社会の縁で知り合った、かつての師に感礼しつつも、サハドは後に飛び下がる。



 巨竜の咆哮。




 左腕からは醜悪な血が流れ出る。

 今この状況、有り得ない事が起きていた。



 本来ならば、この世界の法則に沿うのならば、人間以外の存在の血は、空気に触れた途端に
金色の輝きとなって消えてゆく筈なのだが、緑竜の血は変わる事無く、血であり続けた。

世界の法則を覆し、奪う為のプロセス、それが“搾取”。

 強欲の“最狂”と言うべき力がその容を見せ始めてきた。


逃がすかよ…、その旨味、その力、世界に一欠片もくれてやるもんか。


「間合いが甘い、短絡的すぎる。見くびってくれるのは構わないが……まぁ、人語を理解しても所詮は畜生か。」

 緑竜が怒りを露に飛び掛ろうとしたその時、緑竜の足元の地面がいきなり凍りだした。

「これにも気付かないなんだからな。」

 緑竜の足が完全に凍り付き、緑竜の下半身は身動きが取れなくなる。


ナイス!! 相棒。

≪ぐっぬぅぁぁぁぁ、オノレ…貴様ぁ、≫

 幾ら足掻いた所で、外れる事も無く、緑竜は無様に足掻く。

ーー時限式の魔法も意外と役に立つな……。

≪人間は古き刻からそうだ……卑怯で……汚い。≫

「卑怯ではないさ。人は獣相手に道具や策を使ってこそ、対等といえるのだ。それなのに、何等対策を立てずに、
畜生なんぞに闘いなど挑まんよ。」

 刀身を掲げ、それを向けるサハド、その眼には、不順な想いは篭っておらず、ただ単に、
戦いに殉じた者の眼をしていた。

「尤も……畜生にはそれが分るまい。」

≪罪深き人間よ。貴様は今までどれ程の業を積み重ねてきた? どれ程殺してきた?≫

 緑竜も、その眼に気付き、問いかける。

 その眼は、澄み渡り、とても躊躇いの無い目をしていた。

 その眼を持つのには幾星霜の者の命を、不純無く奪ってきたという証……

「……さぁ…ね。そんなの一々覚えていない。確かな事は、抱いた女の数よりは多いと思う。」



 緑竜“守護者リバイル
と、エトランジェ“サハド”との戦いは、サハドが有利だと…傍から見れば
そう見えるだろう……しかし、そうではない。

≪そうか…ならば、マナの塵となれ……。≫

ーーさて……相手から俊敏性を奪ったてぇのに、勝率は絶望的……か…。RPG-7いや、6でも
構わないから欲しい所だ……。

対戦車用の兵器で竜は殺せないのでは

ーー冷静なツッコミありがとう。だが、不安は増してきたよ。

 斬り付けはしたし、攻撃も全て捌ききっているのだが…。

 決定的な一撃が与えられないのだ。



 殺す位の一撃を……。



 不安に駆られ始めたサハドの心情など露知らず、緑竜は足掻いていた。

 氷に足を張り付けにされ、その翼で飛ぶ事は出来ないでいる、尚且つ、その尻尾も
立ち位置が固定され意味を成さない。

 巨竜を張り付けに出来る程の氷結呪文、果たして誰がこの様な技を放ったのか?

 それは、放った本人と、休みながらも、全てを見定めていた者が知っていた。

「つ…強い。こ、これがサハド様の……」

 そう、それはサハドが繰り出し、水の加護を受けた、氷呪文である。


 原理は、氷の結界というものを地面に這わせ、その結界が生命反応を察知し、捕まえたと同時に氷の氷柱を発生させ
相手を凍らせ…捕らえるという、対地戦用の技となっている。


 現にサハドが居た地面から緑竜の方向への直線上で、微生物が凍結している。

「……上手く行ったな~。さて、まだ終わらん……と、」

 “強欲”の刀身にマナを纏わせ、サハドは地を蹴り、その俊敏な動きで緑竜の懐に飛び込む、
無論、緑竜もそれを見逃す筈無く、一弾、二弾と、業炎を次々と撃ち放つ。

≪喰らえ!! 人間!!≫


 本来、龍族の中でも、炎弾を連発する事の出来る龍は少ない、それを行えるのは龍の中でも
ほんの一握りの最強クラスのみである。



 緑竜の、自らの身体をも焼きかねない相討ち覚悟の攻撃は、功を奏し、懐に飛び込もうとした
サハドの身体に、ダメージを蓄積させる。

「サハド様!!」

 レネの叫びが、灼熱の釜と化した洞窟内に響く、

 その声に端を発して、着弾の衝撃で巻き上がった煙に紛れサハドが飛び出した。

 サハドのその顔には、狂気に歪んだ哂い顔が浮き出ていた。

 緑竜の凍った足、膝、左腕、そして肩、その順番に蹴るように駆け上がって行くと、

「守護者リバイル
と名乗ったよな。俺の糧となってくれ。」

 右腕に握った“強欲”で緑竜の右目を斬裂く。




 緑竜の咆哮が轟く、




「まだ足りない。……ボルテカノ

ーー水よ、驚け!!

 斬裂いた右腕を、伸ばした作用で身体をひねり、目蓋が閉じきる前の緑竜の傷口に、
オーラフォトンで纏い強化した左腕の、肘打ちを喰らわせる。




 

 その時の炸裂音は……マラカス(手投げ手榴弾)の炸裂音に良く似ていた。





 炸裂音と同時に顔が爆発し、その勢いでか、サハドも地面に降り立つ、

ーーさてどうだ?











≪人間…が……よく…も……やって…≫

 爆破の煙りが晴れたと同時に、緑竜の顔右半分が赤と水色のコントラスに染まった氷で、固まっている。



 サハドは最近に至って、やっと神剣魔法が使える様になった。

 元は無属性の類に入るのだから、神剣魔法は独自のものの筈なのだが、今サハドは水の加護を受けた魔法を使っていた。

 その理由はサハドの持つ神剣“強欲”にある。

 “強欲”の力は奪う事に関しては特化しており、その能力の一つに、『奪った相手の能力を使う事が出来る』というものがあった。

 それが、前の戦いでブルースピリットの多くを剣なり、肉体なり、両方の媒体で奪った為、その影響で、
水の加護を受けた魔法ならば一通り使えるようになったのだ。


「チッッ。今の“殺し技組み合わせ”を喰らって、生きてやがんの。」

ーー頭を吹き飛ばすつもりでやったっていうのに。

 呆れた様な驚き声を上げるサハド、そんな一人と一匹の殺り取りを、レネヴァリーは驚きと困惑の表情で見ていた。

「こんなの……圧倒的じゃない…。

 レネヴァリーがそう洩らしてしまう、



 圧倒的……そう差し支えのない現状だが、サハドにとってはやはり、焦りが増すばかりだった。



 力はある、技もある。

 だが……経験は無かった。

 同じ相手に対峙し、長く戦い抜いた居た例が無いのだ。


ーーせめて決定的な一打が欲しい……。

あるよ。

ーー………本当か。

うん。

ーーよし、それを教えてくれ。

教えてもいいけど、今回、余り君の還元が無くなるよ? ボクが喰うから。

ーー五体満足で、ある程度力を得るのならそれでいい。

分かった、方法は今教えるよ。

 頭の中に“強欲”から知識が流れ込む、

「却下。」

 思わず声に出して否定したい様な事なので否定したが、

ーー何だよ、人間大砲って……

 それと同時にどこからともなく舌打ちが聞こえた。

じゃぁ…コレは?

 またも知識が流れ込む。

「面白そうだ。それで行こう。」

 “強欲”を再び握り直すと、腰を落とし構える。

 その一連の動作は驚く程静かで……サハドの姿は一見、しなやかそうで緩そうと察せるが、
刀の様な冷えた気配をまとって、緊迫した空気に溶け込んでいる。

 それはまるで獲物の首元を狙う、自然に住まう狩猟者のようなものを窺わせる。

 一時の沈滞………



 対峙し、止まっていた時が再び動き出す。

≪死ぃねぇぇぇぇ!!≫
「誰がぁぁぁぁ!!」

 圧倒的ともいえる力を象徴する、緑竜の腕、その圧巻な巨躯……


 洗練されたともいえる技を象徴する、サハドの戦闘術、人並み外れた俊敏性。



 ものは違えど、力と力、


 激しく燃えゆく炎と、

 掴み所の無い穏かな空の違い。












 一人と一匹の戦いはとても長く続いた……。

 サハドの流れる様な攻撃が、甲殻の様な竜の皮膚に弾かれ火花を散す、

ーーまだだ…まだ弱い。

 サハドは今、機会を手繰るように窺っていた。


 そして……一匹の、幻想になりし神獣と、一人の、摂理に形作られた呪杯の攻防に、
機転というべき事態が訪れた。


 緑竜の右腕が振り下ろされ、その次に左腕が掴もうと伸ばされる連撃、初撃にも行われた攻撃が
サハドの目の前で再び繰り返された。



 それが……呪杯が意図的に手繰り寄せていた、待ちに待った好機。



内家 流型避術の極技



 まるで、同じフィルムの繰り返しだった……サハドの身体は水の流れの様に流れ…
緑竜の左腕をかわす。


 その身が、流れるかの如く、殺意の塊を流す


 世界が一つの風切音だけを流した、今まで流れていた轟音も炎が焼ける音も




水影の御術!!





 だが……先程とは違う。

 サハドの“強欲”を握っていた手は、*切り裂く為の逆手では無く、本手だった。



無音の世界の中、鋭利な刃が肉を貫く音が冴え渡る。 



 突き刺さった“強欲”から手を離し、垂直に跳ぶと、渾身のソバットを“強欲”に当てる様に
蹴りつけた。



そこまでが、一瞬の…刹那の…出来事であった。




 “強欲”が鉄槌と化し、蹴りの衝撃で緑竜の体内へと深く入り込み、残り僅かな部分は、いつしか自然に
ズブズブと沈んで行った。

≪二度ならず、三度までも……≫

 Hit and Awayの型を崩す形になったのが拙かった。




≪苦渋を舐めさせられ、やられてばかりだとは思うなよぉぉ!!≫

 竜の左の逆手がサハドを捕らえた。

「グブッッ」

 近距離で爆発が起きたかの様な衝撃が襲ってきたかと思うと、次の瞬間には宙を
弧を描くように飛んでいた。

 壁にぶつかる前に身体を捻り、衝突を蹴りで防いだが、引力の法則の力により落下し、
背中から落ちる。

 こればかりは、幾ら鍛え、強化したとしても拙いものである……。



「……これで………良し……っと、」

 全身の震えが止まらない、傍から見れば満身創痍と言っていい程、弱っている事は分った。

「これ…だか…ら、規定外の奴は……ハァハァ…嫌なんだよ。こっち…が…幾ら、……ツッ…押しても、
ぱぁ~んと…傾いて……逆転しやがる。」

 これがサハドの心配していた事なのだ。



 幾ら歩兵同士で闘って、有利になろうと、相手が戦車やVTOL機を持ってきたら、逆転される
世の中のように。

 ボクサーが有利に相手を追い詰めていたとしても、相手の必殺の一撃によって
窮地に追い遣られる様に……。

 優れた技量を駆使し、食材を切り、調理し、隠し味で調整し、至高のカレーを作り上げようと
気付いたらご飯が無かったり……。



 世の中には、その様な理不尽があるのだ。

 だから、サハドは何時も、相手を侮らず、持てる技を駆使し、瞬時に事を終らせる事を基本としていたのである。



 そして、



ーー勇者の証……か……。

 鼓動だけが世界の中で唯一の音となる。


アッ…ラーフ・アクバル、アッラーフ……アクバル(アッラーは偉大なり)


ーー久々に祈るよな。

 人の意識の変革が齎す……奇跡

 追い詰められた緊迫感と、精神の中に潜むドス黒く燃える黒い炎(狂炎)が意識を昇華させ神格の依代となる。



アブッ……アブハーナ、ラッビァル・アジーム(偉大なる王を讃えて詠う)


 それが、自身が神と同化する事と言う事である。


サミアッ、ラーフ…リマン、ハミダ(アッラーは讃える者全てを、聴きいれたまう)


 世界に耳鳴りが響くが……これで身体中の傷みを感じなくなる、


ーー意外と速く済んだか……。


 尤も傷を負っている事実は変わりない。



 馬鹿な事だと思っているのだろう、マナを使わない…自分で祈った程度で傷みを失くすなんて
言う事は俗な一般論の普通ではありえないのだから……


 だが、神を崇拝する者の訪れる境地としての事ならばありえない事ではないのである。


 まぁ、どこかのご都合主義の話では、草食っただけで回復する話や、瀕死の状態(HP1)で平然と動ける
馬鹿な話があるのだから、今やったことはとても現実的なのだ。



絶対的な同化ですか。精神力で痛覚の流れを止めるなんて無茶……見ていられません。

ーー“所縁” 護る力を使ったのか。

勿論です。実際今でも血は流れていますよ。

 命が身体中を流れ、身体中が癒されてゆく。

 “所縁”はサハドの事を良くは思っていないのだが、それでも剣を取り巨大な立ち向かってゆく勇敢な者を
見殺しにする事はできなかった。

ーー“所縁”こんな俺を、信じていないと思ってはいるが、今この時だけでも信じて欲しい。

でしたら、契約者さんは生き延びて下さい、そうすれば信じてあげますよ。

ーーお安い御用だ。

 それと、契約者さんが奪う事、殺める事を止めないと言うのなら、それと同等の数だけ命を救ってください。

ーー俺の気分次第、匙加減次第だけど。

誰も救えない、へタレよりはマシでしょうし…それでいいです。

 これで、人並み程度の攻撃しか出来ない、だが…自分を護る力が強く形作られている事が分かる。

ーー“所縁”やっぱお前も見込んだ通り、可愛くて、いい女だな。身体があったら盛大に求めてるよ。

 身体の中を巡っていた糸に物凄い負荷が起る。

ーーそこまで狼狽する事か?

あ、さ…さはぁ~…やさしくぅぅ……そ、そんなぁぁ……


 一名、エロい妄想の世界に旅立ってしまった様だ。






 その時、サハドは思った『永遠神剣って全部、欲求不満だろと………。





レネヴァリー!!


ーーもうこうなったら自棄だ。

「は、はい、」

 驚きを欠く事の無かったレネヴァリーは、慌てたままで答える。

「今からしばらく、この場を凌ぐ。だから力を貸してくれ。」

 身体の中から桃色空間が醸し出されているが、生憎と世界は氷点下に凍り付いている。

 そんな情況でも緑竜の攻撃は止まない……嵐の様な緑竜の攻撃を、二人同時にかわし。


「お任せ下さい。」

 また、話し声が聞こえる距離に詰める。

 横で爽やかに微笑むその笑顔だが……伊達に“悪鬼”と呼ばれていた訳ではない事が、
今のレネヴァリーを感じて分った。

 その厚い面っ皮に隠したつもりでも、その下から、ドス黒く邪悪な想いが溢れ出てる。

ーーうわ~、レネヴァリーの笑顔が、恐ろしく寒いものを感じられずにはいられねぇな。

 何時もは“強欲”というオブラートがあった為に、レネヴァリーの悪属性は感じないでいたが、
今は“所縁”という善属性に護られている為、敏感に察知できる。

 というか、俺の属性も“中庸”から“善”に傾いている。

「まぁ…いいか。悪い悪い悪役を倒すのは、悪役じゃねぇからな。」

 手を合わせ握り、握った掌から具現化した糸を生み出す。

「……サハド様。御背中お預かり致します。」

 “衝動”を握り、下段で構えるレネヴァリー、纏わり付く風には攻撃の意志が宿っている。

「いいか。俺たちは必死こいて生き残るために時間を稼ぐ、それだけだ。」

 炎弾を、生み出した暴風で伏せいだレネヴァリーが静かに…怒りを膨らませながら言う。

「殺させてください。邪魔立てするとサハド様でも怒ってしまいますよ。」

 最近、胸に不快感を溜めるような事が幾度とあった為、レネヴァリーの怒りの沸点は直だった。

「熱くなるなレネヴァリー、冷静にやれ。じゃないとしんどいぞ。」

「………。」

 風が不快感を運んで頬を撫でる。


「そう怒るな。面白い事が起きるかもしれないんだから。」


 ふとレネヴァリーの方を向き、笑った。

「え!?」

 レネヴァリーの顔がいきなり赤くなる。

 鬼の目に涙…もとい、戸惑いと言ったところだろう、面白く狼狽してくれる。



 緑竜に対し背を向けていたので、緑竜は遠慮無く、その腕を振り下ろそうとした……が、



 その右腕は振り下ろそうとした動作のまま突如動きを止める。



≪何!!≫

 緑竜が驚くのも無理は無い、自身の身体である筈のモノが動かないのだから。

≪何をした!! 人間ッッ!!≫

 左手の攻撃を止め、右手で薙ぎ払おうとする。

ーーやったか……。

 だが、その意外な動作に……“合図”を見い出したサハドは、緑竜に王手をかける。

セイルンッッ!!」

 その言葉が、切欠だった。

 緑竜の左腕が爆発し、緑竜は左腕を削ぎ落とされる。

≪ギィヤァァァァ!!≫


「さぁ……来い!! “強欲”」


 掌の何も無い空間から、黒い狭間が出現すると、そこから黒い糸が瞬時に幾束も飛び出し……、形成され……。


 手に懐かしい感触が伝わり、握る手がその重さを感じた。


「……あれ?」


 刀身が形成され、手には確かに“強欲”の感覚が伝わっている。


 ……が、明らかにその外見は明らかに異化している。


 色……相変わらずのブラックコーティングされている。


 重さ…感じる限りでは変化はしていない。


 見た目…これで変わっていないと言うのなら、一回、眼科か脳外科を訪ねたい、


 とりあえず、ナイフからブレードとなった“強欲”を、軽く慣らすように振り回す。


 どこか腑に落ちない気分だが……


ーー困る訳ではないのだが……なぁ~。


 まるで気分は、“昔兄貴分だった男が、久々に会ったら、モロッコ行って女になっていた”である。

や、やけにリアルだね。

ーー破門されてまで、なるものでは無いとおもうのだが……。

契約者さんは……大丈…

ーー大丈夫だよ。“所縁”ぜ…っ…た・い・に! ならないから


ーー俺のムスコをそう易々と切り落してたまるか。


 そんなくだらない誓いはほっておいて、



 取り合えず、“強欲”は、中身と色以外は劇的に変わってしまっている。

まぁ…なんて事でしょう。

ーーちょっとした*ジンだなお前は。

ふふっ、それはちょっと酷いな~。

 こんな真似が出来る自体、異脱している。


ここまでボクはここまで返れたよ、流石、ボクの相棒。君を選んで正解だったよ~♪ これからもよろしくね~。


ーーまぁいい、こんな俺には疫病神も死神も居ても可笑しくないし……っぅか居るな厄介なの。


頭、締め付けられたい?

やめなさい、そんな暇はないですよ。


 蹴り上げた竜の爪を、重力で落ちる前に、試し斬りしてみる。

「……ッッ、これはこれは、」

 軽い力で刀が振り下ろされた、もうそれは斬るという部類ではない。



 爪という存在は無かった様な事になっており、恐ろしい程の切れ味……いやもう削除したと言っていい程の
ものとなっている。

ーー正に、妖刀だな……ポン刀とは部類が違うが……。

……確かに。

相棒~相棒~ボク、神剣ですよ~。光を断つ剣ですよ~


 素直な喜びに心震わせていると、緑竜は炎弾を放ってきた、

≪人間が! …人間が! …人間がぁぁぁぁ!!!≫

ーーようやく“戻った”か……。

 緑竜は怒りによって完全に正気を失っており、その片方の目は血走っている。

「おぉ~怖…、あの時のレネヴァリーといい勝負してるぜ……っとぉ~」

 次弾を軽口でかわすサハド、それに緑竜は怒りを加熱させられ……遂には。



執念の篭った咆哮



 遂に緑竜は足元の氷塊を砕き、サハドに迫る。

「!? ……チッ …風よ…行け、ウインドボルト」

 レネヴァリーがそれに反応し、風の塊を……風弾を放つ。

 だが、それでも緑竜は止まらない、

 緑竜はサハドに向かって身体全体でぶつかる。

 渾身の攻撃という事だ……だが、

                   ドラゴン
「もう、炎を放つ力を失ったか。巨竜……なら終わりにしよう。」


 サハドしか見ていなかった執念の…気焔の眼に鬼子が写る。

「その目……不愉快です。」

 鬼子の、狂気に含まれた哂いが、緑竜の見た最後の世界……。


さて…謎掛けです。逆鱗ってなんだと思う?

ーー触れてはならぬもの、もしくは怒りの起点


 緑竜の身体を登り上がる。

確かに、一般論ならそうかもしれないけど、実は違う。

 登り際に、翼を根元から切り落とす。

相棒、もしキミの最狂決戦兵器に、誰かが勝手に触れたり、殴ったりしたらどう思う?

ーーなんだそれ?


 そして、背中に立ち、直感的にある一転を見つけると、突く様に振り下ろす。

キミの男として大切なもの……ほら、そこにぶら下っている。

 手に確かなる感触…。

ーームスコの事かよ……

 殻を打ち破るような感覚を感じた次の瞬間、抉られる肉の感触を味わう。

 サハドはこの感覚を、初物を貫いた時の感覚と似ていると軽く思った。

で、実際のところ。

ーー殺す、いい女であろうとも勝手に触れる奴は殺る。

ふふんっ……だろ。つまり逆鱗もそれと同じさ……生けるもの全てにある、力の拠所。

ーーその存在を根源の位置からさだめるもの……か……。

そう、男ならば男根、女ならば子宮、幻想種は核、幻夜の民は心臓、そして幻想種の別格、竜は……

ーー逆鱗

それと、龍は玉です。

 気付いてみれば“強欲”の刀が、逆鱗の鱗を貫き、その竜の身体に深々と突き刺さっていた。

クックックッッ流石は相棒。頭で考えるより、直感でソレを見抜いて突き刺してるじゃん。

 直感は生憎と神掛かる程鋭いものなので、それは重々承知だ。

≪おのれ悪しき人間……≫

 緑竜の言葉は、レネヴァリーの振り下ろした“逆君”の刃にかき消された。

 こうして、緑竜……守護者リバイルは死を迎えた。

「レネに送られて逝ったか。」

………
……あら。

 しまったな~と失念しながらサハドは思う。

 恐らく、魂は世界の根源へと還されていくのだろう、本当ならば“強欲”が全てを奪って力を
蓄えている筈なのだが、余計な横槍がそれを無計にさせてしまった。

「まぁいい、」

…いけない。呆然としていられるかーー!!
わたくしもいだきましょう。


 慌てて流れ出ているマナを“強欲”と“所縁”は集めだす。

 サハドは正直、今だけはそんな事はどうでも良かった。

 サハドは今、とても気持ちがいい、生まれ変わったかのような軽さと開放感……これ程までに
爽快な気分になったのは今この時だけ……似たような事はあったがそれの比ではない。


ーー守護者リバイルの魂よ、神(アラー)の下に称えよう、汝の存在が強きものであったと…


ーー神の下に称えよう、汝は良き敵であった……と、


 不純な心情にはなれない……この時は……



 この瞬間は……



 サハドの勝利を、強き者の魂の昇天を、称える灯火の如く膨大な光の粒子が、柱となって天に昇っていった。



あとがき

“所縁”の妄想は本番中盤をお送りしていましたが、めっさ削除の方向でお送りしました。

 オイラの手元には、リビドーが溢れた勢いで書き上げたラスフォルト18禁Verの話(文章データー)が
幾話かあるのですがこれをどうしようかな~とちょっと悩んでいるぬへで御座います。

 いやまぁそりゃ、由緒正しいような発散の仕方はここ数年無いですし、風俗行くのも金が………

ドカッッッ!! (ぬへの話が変な方向に進もうとしたその時、天がそれを阻止したのであった。)

 ………とりあえず、発散の仕方としてエロ文章を偶に書くことがありまして、それで出来てた
副産物なんですよ。

 ホンマにどうしてやろう? (´Д`
)ハァハァ

 さて、やっとこさで4章が終了しましたが、いや~戦いばっかでした。無理矢理詰め込んだような感触な部分が
御座いますが、かるく目を背けて頂ければ……(最後はちょっと飛躍してドラゴンク○ストさせましたが、)。
 脳味噌を多少行使して、戦闘シーンの動きを妄想したので結構大変でしたが、皆様が呼んで楽しんで頂だけるのなら
それ幸いです。

 ・・・・・・まぁ、長くなって容量が80KBを超えてしまいましたが…お気にせずに。



単語紹介

*ジン イスラム世界の霊的存在、イスラムの世界では死者はお墓で終末を待っていることになっており、
日本でいう「タタリ」のような考えはないのですが。(恨みをかうような悪行は終末で裁かれることになっているからである)
なお・・・
霊鬼などとも訳されますが、これが人間を困らせたりすると思っているそうです。 

*「切り裂く為の逆手では無く、本手」  本来ならば、「普通逆やないかい~」とツッコミを入れても
おかしくないが、サハドは凶手の技を主として居る為、癖でこの様な持ち方になっているのである。