聖ヨト暦三二八年 エクの月、赤三つの日 ミライド湖(南西方面)、急設陣営


 デオドガンは嵐に打たれていた。


 尤も、実質的な意味では無い……、


 先の戦いで、サーギオスの部隊を撃退したのがつい昨日、その二つ目の日が沈まぬ内の、マロリガンの侵攻、
これを嵐と呼んでも差し支えないだろう。









 先の戦いでエトランジェ……サハド達の戦いからして、今度も勝てる見込みは大きかった。


「マロリガンの部隊は?」

 だが、それで浮かれる程、デオドガンの人々は気楽者ではない、下手をすれば前門に
サーギオス、後門にマロリガンという二つの大国と戦争にもなりかねないのだ、慎重に即刻
対処せねばと、皆必死になってやるべきことを良い動きでやっている。

 この国はエトランジェが一人居たとしても、それに依存する事は余り無い。

 単にサハドが信用されていないのかと考えれば、それでかもしれないが……そういう対応でなく、
至ってマトモな考えで行動をしている様だ。

「はい、現在南西50Kmの地点、地図で示しますとこの地点で、砂嵐が止むのを待っていると
思われます。」

ーー流石、お国自慢の事はあるな、この国の諜報部は………、

 日々、死と隣り合わせのお国柄なのだろう、危機に瀕した際の行動は対応が早い、

 他の国ならば、蹣跚な対応しか取れず苦労して防衛しているだけ、というのが関の山だろう。


 一般的に、エトランジェを全面に圧し立てれば……と考える者も多いが、戦力比を考えれば
それは危険だというのは周知の事実で、しかも、挟撃される可能性があるというのだから
その手は考えていない様である。



 サハドは机の上に敷かれた地図を見下ろしながら、どう先手を取るか……、どう勝つか
考え……、行動を決めた。

「成る程……、一応念の為に、レッドスピリットだけで編成された部隊を出しといて貰えますか?
 地図で言う……ここの部分に、」

 サハドの指差した地図の部分を見て驚く、無理も無い、地図上では何も無い砂漠なのだから。

「え、この場所ですか? ここに置いて何を…?」

 一見、無茶を言う様だがサハドはサーギオスの部隊を撃退し、「マロリガンの侵攻の恐れあり」
の報告が訪れる僅かな時間に、西の街道付近のルートを下見していた。

「スピリット達に、作戦は私が教えます。構いませんね?。」

「は、はぁ……」

 面を向かってサハドにそう言われ、何も言い返せなくなる。

「フッシさん、帝国との交渉は?」

「今、老人達が交渉を務めている。なに、デオドガン屈指の魔窟の老妖共だ、
交渉戦で負ける様な、可愛げもありゃせんよ。」

「首だけになって帰ってきたらどうします? 」

 サハドの脇に控えていたレネヴァリーが洒落にならない冗談をフッシに投げかける。

「それこそ…、大歓迎かもな。」

 笑い声が聞こえるのを余所に、サハドは踵を返し出口に向かう。

「ど、どうした?」

「……外の空気でも吸ってきます。」

 サハドは自分以外の誰かが、出口に向かって付いてきそうな事に気付き声を掛ける。

「…あ、レネヴァリーは付いて来なくていい…やる事があるだろ。」

 追おうとしたレネヴァリーの足も止まり、後から掛けられる声も無い。






 陣営から出てミライド湖の畔を歩く。


 気分的には一人になりたかったので、丁度良かった。


 何故なら……。

「なぁ…“強欲”“所縁”」

なに? はい。

「この腕の中を、通って流がしている冷たい糸は何だ?」

あぁ…それ、君が奪ってくれたおかげで手に入った力だよ。

 どうやら、“強欲”には心当たりがある様だ。

「随分と、水に敏感になっているんだが、」

 つまりは事の原因だと。

まぁまぁ、損はしないよ。理解できればの話だけど。

 水の力なのだろう、誰に教えてもらう訳でもなくわかった。

「え~っと、詠唱を唱えて魔法を放つ訳なんだが……どうするかな~?」

詠唱とは、精霊にその存在を聞く為のプロセスの様なものです。

もしくは、身体の中にある魔力を引き出すためのもの、有態に言えばそうかな。


「……つまりは、聞いて何とかなるものじゃないから、自分で苦労して何とかしろと…」

………えぇ  ………正解~ぃ。

 溜息を吐きながらも、“強欲”に奪われたのだと思う、この渦巻いている力に、
意識の手を伸ばす。




 水に問う、名を……その存在を……


ーー成る程、“強欲”に奪われた“水”か…、

 相手の力を取り込む……奪う事が出来ると、“強欲”の隠された秘密を知った。

 そして、あることに気付く。

 幾ら“強欲”が奪う事を表しているとはいえ、“強欲”というのは文字の意味が如く、
想いの沿線上であり、その技を真似て、模倣するのなら意味は分るのだが……。

 その身体に渦巻いている水は、彼の者達の力を確実に“奪って”いる、

 つまりは……

ーー隠し事の可能性……大だな。

ーー……まぁいい。



 水に問う、先の事を……そして……頼む。

 水は応える、このまま朽ちゆくのでは無いのならば、それに力を貸すと……




 事は終えた。

 力は落ち着き、身体の中を廻る。

ーーまぁ…今回は使わないでおくか。

 一応、念の為の警戒であり、何等かの作用があるか分らないので、サハドは使用を控えたという訳である。

「“強欲”“所縁” 今から俺は、痴呆患者みたいに惚けて考えているから、用が終るまで声を掛けるなよ。」

ハハッッ
痴呆患者を侮辱した言葉を使うのはどうかと思いますが……。


 どうやら、要望に応えてくれた様で、二人の声は聞こえなくなった。

 欠伸をかきながらも湖の景色を眺め見る。



湖の水の音が僅かにも聞こえる。

水の力は砂に力を与え、土と成す。

今、立っている場所は緑と土に支えられ成り立っている

この“特別”である事を理解する者は、果たして何人居るのだろうか?



 バカな事を考えてたな…と、喉で笑うと今度は周りの風景を見ながら湖の畔を歩く。



 砂漠のど真ん中にあるこの街は、このオアシスの恩恵を受け、

 
 そして、その街に住む住人達の才覚によって繁栄を呼んでいる。

 街の漂う雰囲気は住む者達の情況を映していると言っていいだろう。



ーーさて……、現状で連れてくのは誰にしよう?

 レネヴァリーを始めとして、様々なスピリット達の顔が浮かぶ、

「レネヴァリーの戦闘能力は言うまでもないよな……だけど、アイツは俺のこと絶対に良か思っちゃ
いねぇよな~」

「機会があったらリベンジかましてきそうだし……もうちっと仕込むか。次に、……アレは……
攻撃にややムラがある…駄目だな。アイツは……戦闘力に問題は無いが、持久力が足りないし、
他の雑魚スピ連中を群らがせても……はい駄目~。俺の楽しみが減る~。」

 口元に手を当て、人差し指と中指でトントンと軽く叩きがなら考え事に集中する。

「どのみち、使えるのはレネヴァリーか……。遠距離戦の支援は赤共に任せるのはそうだが」

ーー使える役が少ねぇな……

 どうにも腑に落ちないのだが、一応は決まった事なので考え事は止めにする。

 沈んだ気分を戻す為、歩みを止め止まる、

ーー大分歩いたな。

 どうやら、街の近くまで歩いてきてしまったようである。

 こうも近くに来ていて、落ち着いてたのも理由か知らないが、活気に溢れ、住む者たちの心の中には明日への
生きる活力が、肌で感じ取れた。

ーーいい街だな。

「タンタンタン……紫に煙る~♪ 街を見下ろしながら。幾千もの……」

 気分の良さで、歌を歌い始めた、その矢先、背後から他の者の気配を感じた。

 感じた事無い気配だったので、歌うのをやめて振り返る。

「!? ……!!」

 そこには、一人の女性が立っていた。

 その女性は目を閉じ、杖でその身体を支えている……足腰の出来を見る限りではそこに
異常は無い……つまりは……。

「珍しい……お歌ですね。リズムとテンポがとっても素敵で……」

 盲目の人なのだろう……、だが、それだけでは驚かないのだが、その女性は目の不自由さを
感じさせない雰囲気を……身のこなしをしていたので驚いた。

 こちらに向くと杖を握らない右手を振り、挨拶しながら警戒心が無さそうに近付いてくる。

ーー目が見えない……のだよな?

「あ、あのぉ…そちらに、いらっしゃいますよね?」

「え?」

 そんな彼女の動きに驚いていたので気を取られていた為、声を掛けられたことにすぐ、
反応できなかった。

「よかった、一応居ますね。」

「すまないな……少々、呆けてた。」

 右手をそろえて上げながら誤る、彼女はそんなサハドをクスクスと笑いながら楽しそうな
雰囲気を醸し出す。

「確かに、呆けるにはいい日ですよね。かすかに太陽が陰ってきていると思いますけど。」

「え!?」

「どうしました?」

 彼女の言った答えに驚きサハドは確認を取る。

「失礼を承知で聞くが、君は……」

「えぇ……眼はほんの昔に、流行り病で……。」

 質問を先に理解してたのか彼女は答える。

「そうなのか……天気の具合等を、正確に答えられたのでな……勘違いをしてしまった。」

 右手を揃えて頭の前で掲げ謝る。

 もっとも、彼女には見えはしないが。

「確かに、目は光りを失いましたが、その代わりに耳や鼻が良く利くようになりましたので。
風の声と、砂の具合で分るのですよ。」

「そうか。」

 今度は、あっさりと納得したサハドに、彼女が疑問に思い問う。

「……同情はしないのですか? 」

 彼女の問いに、サハドはさも不思議そうにし、逆に問う。

「何故だ?」

 これには彼女の落ち着いた顔も驚きを含ませた。

「いえ、今まで会った人の殆どが、「可哀相だね」とか、「頑張ってね」とか言って来ましたので、
言われなかったのは、意外とこれが初めてなんです。」

 サハドは理由が分ると、「そんな事か」と言わん様な、落ち着いた態度で喋る。

 冷たい人間だと、警戒されるのもなんなので……、

「生憎と、目が見えないとかそういう境遇にあった人間は腐るほど見て来た……それで分る。
余計な同情は、その相手に対してどこか見下してたり、差別するも同意義だと思っている。しかも侮辱の言葉より
悪気無く言っているから、性質が悪いと思う。だから……かな…俺は、そういう人とは普通の人間として
接していたい。それが互いにとって最良だと思うのでね。」

ーーいかん、持論を語りすぎたか。

 サハドは虐げられる者、虐げる者の立場を良く知っているが為に、最善の事だと思うことを語った。

 以前、それを語ったら、周りに(日本で)意外な目で見られたのを思い出し、しくじったと思った。

 が……。

「正に*“情、胸を過ぎ行く”ですね。」

 その態度で、自分の言葉が、彼女にとって悪い物ではなかったと察した。

「よく分からんが……気にするな。俺は俺が正しいと思った事を言っているだけだ。」

「貴方の生き方は素敵ですね。」

「そうか?」

 楽しく、場も和んできたところで、ふと、彼女が何かを感じ取り、周りを見回し始めた。

「…あら、何かヤコロー(怖い)なものが近付いてきますね。おいとましましょうかしら。」

「行くのか。」

「えぇ……惜しいですけど………それでは、縁良き日を再び。」

 彼女はそう言うと、素早くその場から立ち去る、

「あ、あぁぁ…」

 サハドも呼び止める理由が無いので、そのまま見送る。

ーー本当に見えないんだよな…。

 早歩きで……言葉にするなら、「ふらーっとー」という感じで彼女は去って行った。

 姿が見えなくなったと同時に元来た方から、誰かが来る。

ーー成る程な…確かに、

 見えずしも分った、レネヴァリーだと。

「ぷッ、クックックック、」

ーー知らない奴からしてみりゃ、怖いものだな……

 彼女の勘の良さに驚きつつも、盛大に笑う。

「ハッハッハッ」

「サ、サハド様~何で笑うんですか~」

 レネヴァリーの困った声をかき消すかのようにサハドの笑い声がミライド湖に………
デオドガンの街に響いたのであった。





「そういえば、」

ーー名前聞いてなかったな。






永遠のアセリア

ラスフォルト



第4章、4話、“ミライド湖に佇み…”




願望・・・
求めること・・・それはちからとなる。

善き願いでも、悪しき求めでも。

制約・・・
誓うこと・・・それは力を呼ぶ。

そんな誓いでも、それが純粋な想いならば。

織物・・・
時と運命と想いが紡がれた・・・

織り込まれて物語をかたち作っていく。

略奪・・・
強欲であること・・・それはちからそのもの
他者を蹴落としてまで、生に執着するためのこと。














 熱砂の陽炎が舞いし戦場で、戦いが始まった










無駄だと分っていても戦いましょう。





 マロリガンの部隊は連携も取れており、スピリットの質も悪くは無い、だが、それだけだった。

 それだけでは彼等には勝てなかった。

 動きを止め砂の上に立つ、マロリガンのスピリット達はその予想外の動きに警戒し、
ある程度の間合いの距離からサハドを数人で囲む

「レネヴァリー、コスカコルーレ。」

 サハドの左手から糸が垂れる、糸は透明な色と化し、足を這い砂の中へと消える

「お任せを。」

 




悦びに震えながら戦いましょう。





 硬直に痺れを切らしたブルースピリットが、初めに踏み込む。

ーー掛かった。

 だが、砂に潜んでいた糸が、瞬時に砂の中から飛び出し彼女の首を捕らえた。



 糸は彼女を捕らえたまま、瞬時に身動きを捕え、そのままサハドは繋がった糸を引き、
首根っこを捕らえ彼女を盾とした。




卑怯な殺り方でも戦いましょう





 マロリガンのスピリットはその行動に、思わず怯む。

 下手をすれば味方をまき込みかねないので、その判断は当たり前だが……それが
命取りだった。




居る筈の無い神に……懸命に許しを乞うて。




「へぇ~お人がよろしのですね。」

 その声が響いた、その瞬間、二体のスピリットはマナの塵となっていた。

「まったくだ。」

 同意するサハド、気付いてみれば、サハドは何かを行っていた。

 それは、別のスピリットに投擲された“強欲”の刃が、足に痛ましく突き刺さる。


貼りつけぇ~


 足に突き刺さった“強欲”の傷みに、ブラックスピリットは砂の大地に平伏し、のたうちまわる。






ありもしない大義に…平等ではない正義に…眼を眩ませ





「時間だな……」

 “強欲”を回収し終えたその時、ふと、左小指に巻いた“所縁”の分糸が反応する。

契約者さん。お時間です。

 そのまま左腕腕時計に目を通す、……確かに。

「定刻通り…だな。レネヴァリ~~!」

ーー“所縁”嫌な仕事を頼む。

「如何致しました。」

本当にそうですわね。

ーー救いは……いや、言う必要ないか、やる事は一緒なのだからな。

まったく、嫌なら契約破棄してくれよ。

ーー頼むから、それは後にしてくれ。

「俺ら相性良いよな。 ……熱々だ。」

 その意図を解っているかの様に頷くと、レネヴァリーはオーラフォトンの翼を羽ばたかせ
一気に飛翔する

 尤も、レネヴァリーは細部まで教えて貰っていないが、熱を意味する事を言われたら上に
上がれと言われたのを覚えたので、それを実行に移していただけなのだが……。

 推測の部類になるが、レネヴァリーの安全を確認すると・

「また会いましょう。会えたらの話ですが…」




これが最善だと自らを偽って





 その場を“煙を巻く”かの様に退くサハド。

 

 それをスピリット達は追おうとした、



 その瞬間。



「「「!?」」」





 皆足を取られた。





しぶとく足掻きましょう




 糸だ、砂の色にまぎれていたその糸は赤き糸になり、スピリット達の両足に感染するかのように足の内部に繋がり
彼女達をそこに足止めした。



足掻く、罠に掛かった獲物たちが……

足掻く、生きたいが為に……

だが、運命は…その太陽の日差しの様に優しくは無かった。


そして南東の砂丘の上が光り輝く。


察しがよい者は、それに気付き逃げようとする。


「総員、撤退ー!!」

「 逃げろ、攻撃が来る。」


敵の神剣魔法の攻撃が迫っているのだと、察した。

だが、足に絡みついた赤い糸が彼女達を逃がさない。

足を縛られたのならば飛べばいいだろうと思い、飛ぼうとしたブラックスピリットが居たが、
何故か、ハイロウが広がらない、

そして、顔の片方が光りに輝かされ、その半分を影に染める事となり……





運命の非情さに嘆きながら…









 彼女達は炎の嵐に身体を包まれた。













 その上…上空の特等席では、眼下の輝きに心躍らせる者が居た。

「~☆~♪」


 レネヴァリーである。

ーー敵が塵のようだ~♪

 どこぞの大佐の様な不穏当な事を考え、心、身体を、躍らせる。

 だが、その陽気もふと途切れる。

「チッ、サハド様の糸も……対した事ありませんね。取り溢しする位なんだから。」

 主の筈のサハドに毒づきながら、レネヴァリーは背後に居る幼いブラックスピリットを睨む。

「あらあら、肩で呼吸しているんじゃ、大変ねぇー。」

 ブラックスピリットの少女は飛んでいるのが精一杯のようで、足の苦しみに耐えつつも飛んでいた。

 そんな事を気にするレネヴァリーでは無く、猟奇じみた狩猟者の目になり、剣を構える。

ーーこの場で殺すか、サハド様に生贄として差し出すか……。

 主婦が夕飯の献立を決めるかの如く、考えると、

ーーここにいるという事は力が強いのよね……でも弱々しいし……迷うわね。

ーーあ、そうだ。

 どうやら名案が浮かんだ様で………。

「お逃げなさい。レネが捕まえて差し上げますから。」

 肉欲の為に少女を生贄にし、ついでに楽しむ事に決めた。






 ハンティングが開始された。






レネヴァリーが楽しみの絶頂だった頃…

 砲撃を行ったレッドスピリットの部隊を預かっていた責任者が、砲撃された方角を見ながら
言葉を洩らす。

「何て、無茶な戦略だ。」

 言葉では侮辱しているが、内心はエトランジェ…サハドの先見性に驚きを隠せないで居る。

ーー屈強フッシがお熱になる訳だ。

 白髪が混じった頭をかき毟り、煙草に火を付ける。

 顔付きは整ってナイスミドルを醸し出しているが、そのだらしな行動で品を下げている
そんな男の名はヤッジ・ランブン、これでもフッシの補佐で、友人でもあった。

「まぁ~楽できりゃいいか。」

 相変わらず、仕事を適当に済ませている感じに人間、スピリットに関わらずあまり快く思われて
いない。

ーーまぁ…我が国は他国へ領土を広げた所で…損をするだけなのだから大丈夫だと
思いたいが……。

「酒ある?」

 手持ちのフラスコを振って中身が無い事に気付き、声を掛けるが、

「いえ」

 部下にある訳無いだろ、と、態度で言われる。

「くだらない戦争なんてするもんじゃないな。酒が希少になる。」

 喜ぶスピリット達を余所に、ぼやきの言葉を吐きながらヤッジは、この戦果を挙げたエトランジェ、サハドに一抹の
好奇心を抱いた。






 そして、その話題の男は……


 爆心地に略近い地面の砂が盛り上がる。

「やれやれ、こんな形で砂に埋まるとはね。いやはや。」

 先程の爆発の瞬間、“強欲”の一閃で抉った地面の凹みに身を滑らせていたサハドが、
爆発の威力で穴に入り込んでしまった砂を掻き分け、出てきた。






 砂と肉と血焼ける匂い………


 懐かしき戦場の匂い………


 犠牲という土壌の上に成り立つ戦場の成りの果て……








「世界は変わろうとも、変わらぬものはある……と、」


 地面に落ちている黒い糸を拾っていくとそれを握り、元のあるべき所に戻す。



 先程の攻撃は読み通り、確実に敵を倒していた。

 この場の空気がそれを教えてくれる。

 我等の勝ち、と……


「……ころ…せ……」

 糸を見つけたかぎり回収し、この場に残る必要も無いと判断し、踵を返し帰りかけたその時、
声が聞こえた。

 気が付けば足元に、ソレは居た。

 瀕死の状態で俺を見上げながら睨むレッドスピリットの姿が。

「へぇ……」

 素直な驚きが口から漏れる、あの集中砲火の中を生き残ったのだから、賞賛に値する
ものである。

 その理由もすぐに分った。

 彼女の横には、右肩と背中の大半が消し炭となっているが、同じレッドスピリットの骸がある。

 消えぬのは、改竄した“所縁”の意志の糸で縛られていたので、“強欲”の力が作用し
その場に残っていたからであるのだが、中々絵になっている。

「味方を盾にねぇ……まぁ、生き延びる為なのだろうが…」

「ち…が…」

 そんな事は見れば分る。

 恐らく死ぬ間際に互いに抱き合って死のうと思ったか、死んだ方が進んで盾になったか、
のどっちかだろう。

「言わなくてもいい、分るさ。」

 違う、違う、とうわ言の様に呟く少女。

 糸を伝って彼女のココロを読む事ができる。

 守って死んだ、スピリットとの仲、絆の深さ……
そして、顛末はどうであれ彼女を死なせた事による後悔……


 このまま彼女の心が神剣に飲み込まれてゆくのは時間の問題だろう……いや、
そもそも“強欲”の力で世界の理を偽っているが、彼女の死も、秒読みとなっている。

ーーいっそ、この戯事を止めて“奪う”か……。

 上(上空)で何かが行っている事に糸に気付いており、それが気になっていたので、
目の前の彼女からさっさと力を込め、奪おうとした……のだが、 

…………

 身体を伝う“所縁”が何かを言いたそうな雰囲気を伝えてくる。

ーーどうした?“所縁”

…………!!

 無言の圧力ですか…。

ーーまいったな~。

 恐らく、自分の身体が悪事に使われまくっている事に耐えられなくなってきているのだろう。

そんなの無視だ! 無視! 何も言ってこないんだから。

 “強欲”の言う事も尤もだが……実体があるのなら、泣きそうな顔で頬を膨らませながら
駄々を捏ねている少女みたいな態度を取ってきているのだ………

ーー可愛いな~コンチクショウ~☆

 何故、サハドはこうなったのか? それは、サハドの予想では“所縁”は何時もの雰囲気
態度から、自分よりも年上の女性像で見ている為(意外と正解)、そのギャップの差に琴線が触れ、
心底……心揺るがらせられているのだ。

うわぁぁ、駄目だコイツ

ーー仕方が無いな……ここは“所縁”の顔を立ててやるか。

 と、甘い考えを思いつつも、自分にも利があり、“所縁”にも“強欲”にも文句を言われない
方法を考える所は、サハドの凄い所なのだろう………。



とまぁ、一瞬の脳内での出来事だったので話は現状に還る。

 一瞬で直に糸を彼女に通し、癒しの力を流し込んで回復させる。

 無論、噛みつかれない様に動きは封じてある。

「………え、!? な、何で……」

 無論、ただ治したわけではない、少々の精神的細工を施した上での行為なのだが。

「すまないが、このままくたばられると少々困るのでね。尤も、ちょっとした気休め事の為
だけだが。」

 親愛すべき仲間の死、有り得ない敵の施し、それらの異常な事態に、地面に横たわる少女は混乱し、
もはや冷静に物事を考えられる情況ではなくなる。

「一つ質問だ。……『君は本当に、仲間に愛されていたのか?』。」

「も、もちろん、あ「それはない。」」

「………それはない。この糸には過去を見る事ができるのだが……」

え!?

 恐らく“所縁”に身体があったのならば、口を開けて驚き、慌てて手と首を横に振っているだろう。

無理もない、                             嘘なんだから                

 そんな、ペテンをして当ても無い事を言ったのかというとか……いや、サハドはその様なヘボな
真似はしない。

「君達の過去には愛なんてものはなかった。人に道具の様に扱われ、仲間からは
在り来りの対応をで扱われ、」

「そんな……ちが「大丈夫、私達の絆は永遠だから、」……どうして!?」

「だから過去を見たと言ったろ。」

 何故、彼女しか知らない事をサハドは言えるのか、無論、過去が見れる訳ではない。

 その理由は簡単だった。

 彼女の足には“所縁”の糸が巻きついている………そう、それが奇術のタネである。

ーー 一々光景を思い出してくれるとはね。思いのほか楽に済んだ。

「そう同じ立場の者に言わせる事によって、御しやすくする。従わせる者の常套手段さ。」

……成る程、

「もっとも、君たちの仲間内で生き残ったのは君だけさ……そう、君だけ。」

 彼女の心に罪悪感が広がってゆく……、何を信じ、何を行えば良いのか分らなくなる。

 戦う為に生きてきたと思えば、その戦う理由は見つからない、仲間の為……それも考えるが
自分だけが生き残って……仲間を盾にして(結果論)まで生き残ったのだ、その資格も無い。


 とまぁ……目の前の彼女は、ズブズブと自身の罪悪感……という、暗い…暗い…底無しの
泥沼に自らどんどん沈んでゆく……。

ーーさて、助ける頃合かな。

 顔もその泥に沈みかけるその瞬間、助けを求め、汚れている(自身で汚している)手に手を
差し伸べる。

 精神的にはまだ堕ちていないだろうが、何かのタガが外されたのは間違いない。

「もう、この世界に君の生きる場所は無いのだろ……。帰る場所も、守るべきものも何も無い。」

 ビクリと彼女が脅え震える。

「ならば問おう……。そんなに汚れた君だが、まだ居場所を欲しいと思うかい?」

ーー“所縁”、これで彼女が要らないと言ったら、力として貰うよ。

いいえ……、これはもう答えは決まっています。

「欲しいです!!、誰にも愛されないなんて……もう嫌!! 」

 自分で否定の言葉を吐く度に……少し、また少しと崩れ、壊れてゆく

「そうだよね、このまま帰れば、人間からは見殺しにしたスピリットと見なされ、スピリットの仲間からは……
厄介者……いやひょっとしたら死神扱いされるね。」

 壊れかけた精神は自ら逃げ道を模索し、決めつけ逃避の世界へとしずんでゆく

「嫌、いや、嫌、いや、
嫌、いや、嫌、いや、いや、いや

「そして、「邪魔な塵よ」と捨てられる……いや始末されるかな。」

 用意された篭の中へと……

助けてください!! 助けてください!!

あ~何だっけ? あの恋人が白血病で死ぬのを救えず、抱いて叫んでいる馬鹿の話は?

ーー*フローラリア?

!?! Σ(

「ならば、来るかい? 君が欲しいと手を伸ばせばその手を取ってあげるよ。」

ーー*最果てのイマ?

それだ!!

「欲しい……です…」

 何となく聞いた事のあるものを思い浮かべたのだが……正解だった様だ。

 新聞は読むものだな。

わたくしも知らないのですけど……、お二人の言っている事は確実に違うと思います。

「では、今から君は、私の物だ。いいな。」

 彼女の眼前に顔を寄せ問う。

「はい。」

 所有物の証だという事をその唇に記した。






 とまぁ脳内で馬鹿出来事をやっている内に、現実では目の前の少女が陥落したのでありました……っと。

「しかし……どうしよう?」

 サハドは胸に抱きつき、余韻で震え逝っている少女の背中を撫でながら、一抹の不安が過る。

ーーレネに何と言おうか?

 前回の戦い(4章3話、参照)で、俺の力の糧にする為に(無論、それだけではない)、ブルースピリットを
捕らえていたのだが……その間、物凄く不機嫌だったレネヴァリーを思い出し、溜息まで漏れる。

ーー機嫌を直させるのに、帰還前に外でパパッと本気を出して犯ったんだどな~。

 *描写は掲載場所の都合上出来ませんのであしからず*

ーーその後には残った青い奴等も相手にしたし……本当に絶になったな~。

犯し過ぎだね。本当に末恐ろしく感じるよ。ま、逞しいのは大歓迎だ…むしろ~望む所?
……~*

 少々、面倒だが…覚悟を決めた。

「まぁいいか、レネヴァリーのアレの具合と締め付けは名器だしな。」

「な~に、こっ恥かしい事言うんですか? サ・ハ・ド・様!」

 背中をおもいっきりどつかれた。

 肺から送られてくるべき酸素の供給が一時止まり、体中がスタンを喰らった見たいに痺れる。

 もっとも、前下から押さえ付けられているので吹飛ばされる事は無いのだが…

ーー手加減無しかよ。

「くっふ~ちゅっっちゅっっ」

 レネヴァリーの喜びの勢いは、サハドの顔と耳にキスの嵐を与える。

「……で、これは何ですか?」

「レネと似たようなもんだ。」

 一気に氷点下に下がったが、付入る隙を与えない為にも、毅然とした態度で答える。

「開き直っている態度なのに、それに逆らえないレネが口惜しい……」

ーーそのまま背中でだれられても困るのだが……

「とにかく、レネも、君も、とりあえず離れてくれ。話がロクに進まない」

「……はい。」

 サハドの言いつけに従いレッドスピリットはサハドから身体を離すと地面に膝を付く様に座る。

ーー先に従えたレネヴァリーより、たった今従えたコイツの方がよっぽど従者に相応しい
動きをしているのはなんとも言えんな……。

「いいですよ~。せっかくサハド様の為に獲物を連れてきたのに…

「獲物?」

「……地獄耳ぃ~、コホンッッ、コレです。サハド様。」

 そう言ってレネヴァリーは後に置いてあったスピリットを差し出す。

「死体……ではないな。確かに生きている。どうやって手に入れた?」

「サハド様の罠を何とか看破した生き残りです。レネの所に飛び込んで難を逃れたようですけど、
運が無かったですね。」

確かに、コレに捕まっちゃぁ~ねぇ~。

ーーとりあえず、このまま気絶させたままで回収しよう。

「たいしたものだな、レネ。後で出来る限りの要望には答えてやるよ。」

「~♪」

 グゥレイトォォーーと言わんばかりの喜びを表すレネヴァリー、更にサハドは、その横で黙っている
レッドスピリットの方を向くと、

「無論、新しいモノの歓迎も行うがな。」

「ちょ…ちょっと! 待って下さい、サハド様」

「ん? どうした レネヴァリー?」

「………」

 サハドの無言の圧力はレネヴァリーを黙らせるのに十分であった。




「覚えてろよ~」

頑張れレネヴァリー、負けるなレネヴァリー、






 ともあれ、デオドガンはマロリガン共和国の部隊を撃退し、勝利を得たのであった。

時に、聖ヨト暦三二八年 エクの月、赤四つの日

 サーギオス、マロリガン、デオドガンの三国によって内密に処理され……歴史に残る事の無くなった、
デオドガン紛争はこれにて終結するのであった。











あとがき
 ノートPCが壊れて修理に出して一週間ほど手元になかったのですが……、まさか禁断症状がでるとは
思いませんでしたよ。
 まず、PCが無い事で喪失感を味わい、そこから数日間経つと危機感を感じ始めます……普段多用しない
煙草や酒(芋焼酎、ヴォッカets)を服用、それと気を紛らわす為に意味無く漫画を大量に購入し、ゲームの大半に
手を付けられない事が発覚。
 微妙に生活のサイクルも崩れ、夜中の12時を超えると急に眠気が襲ってきて朝の8時前に自然に起きるという
異常事態に……(オイ 、そして、ネタ帳を持っていないときに限って色々とネタが浮かぶ始末、
浮かんだいいネタを忘れる不始末を……(ノд;)うわぁぁぁぁぁ
死ぬ程辛かったのを身体で今も覚えている現状卿です。

まぁ…それを普通では気付かれないように努力してはいましたが……



しかし、今回長いな~容量が過去最大級だ!!。


単語紹介。

*“情、胸を過ぎ行く” 特殊な意味合いで 「目から鱗」という言葉だと思って頂ければよい、

*フローラリア 永遠のアセリアを作ったXuseの作品(本醸造ではないが)。主人公、羨ましいぞこの野郎~
と唸った思い出のある作品
ちょっといじってフォーラリアと名打って入れようとしたが、微妙にブルーになったのでまんま入れた。

*最果てのイマ 手を出そうかな~出さないかな~と悩んでいるが、微妙にやらない方向になっている作品。
これまたXuseの作品。
ちょっといじって最果ての居間にしようとしたが、上記のアレだけまんま入れといてこっちが違うと微妙だったので
このまま記入。

 永遠のアセリアのXuse以外の他作品を記入する際は伏せ字か、微妙に変えての記入のぬへでした~
(例、某、打月会社の作品→次悲鳴、ふぁて すて ニート、等と書く。)
恨み、私怨はありません



ついでに補足、

キャラクター現状通知。

*サハド・ザジル・ハミード CV:無し。 濁声(だみごえ)の際は若本○夫
 女泣かせの凶悪キャラ、天然ヘタレでなく、打算的予測行動、相手をGETするまで相手を
逃がさないと言う生粋のプレデター(あえてハンターではない。)の女殺し
 絶対、*陵辱ゲームの主人公B属性に近いであろう事は想像に難しくない。
完全無欠の美青年という訳ではないが、ピシッとした整った顔に
、実直な瞳に見られ、
時に見える儚さ、優しさを感じ、甘い言葉を囁かれてしまえば、大抵の女性は「ウホッッ! いい男。」
と言いたくなるだろう。
戦闘力は言うまでも無く強い。

「殺らないか?(濁声)


*レネヴァリー・グリーンスピリット CV:柚木かなめ
 美形の執着心が高いキャラで、サハドの為に嫉妬心に胸をボーボーと燃やしながらも
その胸の内で何かを燃やしながらも今日も今日で、尽くしまくっています。
一応ツンデレキャラですが……もう初回辺りでデレになってしまいました(ツンがサハドを殺しに来る辺りで、その後がデレです。)。

 胸はその手のゲーム(エロゲ)の基準(普通より大きく巨乳だと微妙に言えない大きさ、一般的には巨乳の部類)
サイズ。
まだ、魔乳とは言い切れない部類のものである)。

「すっごく大きいです。(頬染めて)」



*永遠神剣第7位、“強欲” CV:青山ゆかり
 何気なく階位が上がっておりますがサーギオスの部隊を撃退し、その後でスピリット達から
取り込んだ力で階位が上がったと言う事になっております。
外見は変わっていませんが、攻撃力が上がり、神剣魔法が使用可能になりました。
キャラの属性的には、楽しい事大好きのTHE策士(強制力を使わない所以はそこから来ている)

「ここはチュートリアルの村です。」


*永遠神剣第5位
、“所縁” CV:まき い○み
 今話にてサハドをその隠された切れ味で胸キュンさせた所縁ちゃんです(ゆかり温泉、某体育会系とは違います)
色々厄介な事になって文句の一つも言わなかった事が彼女を爆発させてしまいました。
 まぁ神剣の強制力を使ってサハドの頭をキリキリさせなかったのは彼女の優しさなのですが……。


キャラの属性的には超万能で、頼り甲斐のあるお姉さんだが、じつはちょっと幼い一面が
垣間見れるキャラ

「すでにセリフがパターン化してしまっていますわ。ね、土○さん」


……;…;………以上です(「文中に使用してないセリフが……」)



*
陵辱ゲームの主人公B属性
この手の主人公は多く分かれて、
醜いキャラで、幾度の罠を用意しヒロインを罠に嵌める、A属性
美形等の上質クラスのキャラが多く、性格が最悪で、良い顔をして獲物をハントする(無論罠も貼る事がある)B属性
存在としては普通だが、何か特殊なモノを持っていて、普通じゃありえない方法でヒロインに手を出すC属性がある。


【A、エ○フの○作シリーズの主人公はマジそれ。B、最近ならばF○Cのナ○ュラルシリーズ等が上げられる。
C、痴漢者トーマス(あれは尋常じゃ無いテクを持っている)とか、へん○~ん(主人公が物に化ける)等がある。】