聖ヨト暦三二八年 レユエの月、黒一つの日



「これは…どういう事だ?」

 佐杷は呆然と周りの様子を見回した。



一面に広がる光景は夕緋に太陽が傾きかけ、

夜の世界が訪れかけた、砂丘がうねる緋色の世界。


それは、佐杷が感じた事のある、砂漠の世界


だが・・・


その世界は、佐杷にとって異質過ぎた。

陽光も、風も、漆黒も、月までもが、

佐杷にとって全てが異質過ぎた。



「冗談にしちゃぁ、出来すぎというか……何と言うか……。」

ーーちぃっとばっかし、嬉しいと感じてる俺が居やがるし。

 違うといえど故郷と似た砂漠の砂、この時、木崎 佐杷の心は木崎 佐杷ではなくサハド・ザジル・ハミードに戻っていた。




AKのライフルを背中に背負い、砂漠を駆けていた幼い日々、

漆黒の暗闇の中で相手の喉元をナイフで切り裂き

蠍と化し砂漠を血で染め、恐れられたあの頃、



 そんな昔の想い出を思い出して、冷静になると、次に行うべき事を判断する。

 どんな理由であろうと冷静でいなければならない、今自身が居る場所は“砂漠”なのだから、




永遠のアセリア

ラスフォルト



第2章、1話、緋色の世界




願望・・・
求めること・・・それはちからとなる。

善き願いでも、悪しき求めでも。

制約・・・
誓うこと・・・それは力を呼ぶ。

そんな誓いでも、それが純粋な想いならば。

織物・・・
時と運命と想いが紡がれた・・・

織り込まれて物語をかたち作っていく。

略奪・・・
強欲であること・・・それはちからそのもの
他者を蹴落としてまで、生に執着するためのこと。






聖ヨト暦三二八年 レユエの月、黒二つの日

 現在、佐杷は砂に半ば埋まる様な形で陽光を避けていた。

 佐杷にとって……、砂漠に生きる術を持つ者にとって、砂漠で生きるのにはそう困る事はなかった。

 無論、快適とは言い難い状況なのだが………。

 直射日光で体液が沸騰されたら敵わない。

 だから、陽の光が出てきている時間は何があっても動かない。

ーーラーイラッハイッラッラー モハンマドン ラッスルッラー
 
 西方(メッカ)への祈りも直射日光を浴びたら、あの世への直行便になってしまうので、
罰当たり覚悟で心で祈る。
 




 夜の内に拾っておいた1、2センチにも満たない小石を口に含むと、それをしゃぶる。

ふっ……クックッ

ーーあぁ……久々だな………。


 しゃぶっていれば意外と唾液が出るものなので、現状はこれで持つ。

ーー殺って奪った、アメ公のガムが最後だったな……。

 佐杷の脳裏に、恐怖に歪んだ表情の兵士の顔が浮かんだ、ソイツから血まみれのガムを奪った事も。

ーーこうやって長く口に含むのは。




聖ヨト暦三二八年 レユエの月、黒七つの日

 砂漠の闇の中を亡霊の様にも感じられる存在が歩み続けていた。

 佐杷である。

 彼は人間の限界でも不可能な次元である六日目、砂漠で彷徨っていた。

ーー俺が一体何したって言うんだ……よ………。

*今までの人生に問題が在り過ぎです。*

 手持ちの水も食料(つまみ)も底を尽き、ペットボトルに溜まっていた筈の佐杷特製の尿も、何時しか底を尽いていた。

ーーイシュラー、イシュラー、イシュラー、イシュラー、イシュラー、イシュラー、イシュラー、イシュラー、イシュラー、イシュラー、イシュラー、イシュラー、

「……クソったれ

 思考も行動も、支障がきたしてきていた。

 佐杷も流石に参っていた、どんなに砂漠での生き方を知っていても、水、もしくは塩分をここまで失っていては
どうにもならない、



 あと僅かな水分の減りが生死を分けるな、と客観的に砂丘を歩んで登っていた、その時。

ーー!?

 瞬時に地面に伏せると前方を砂丘の合間から覗く様に見る。

 そこには、少し遠くだが、焚き火をしている者達が見えた。

ーー助かった。

 助けを請おうとしたが、いやに妙だったので様子を見る事にした。

 警戒しながら焚き火の下に寄って行く。





「しかし、コイツを捕まえるのにこれだけ手間取るとはな。」

 二人が話しているその横に手枷足枷を填められ口を封じられている、緑の髪の少女がいた。

「あぁ……お陰で、連れていたスピリット供が全滅しちまったし。」

 二人は焚き火の前でそう世間話をしている。

「まぁ、せめてもの救いは、水と、食い物の減りが抑えられて、良かった点だな。」

 二人は武器を傍に置き、少女に対し警戒していた。

「それでも、キャラバンを皆殺しにしたコイツと一緒だと思うと気が気でならないぜ」

「仲間が数名とキャラバンの大勢の人が……。」

「やりきれねょな……。」

 男の片方が立ち上がり、緑の髪の少女に近づくと。

「この疫病神が!!」

 少女は頬を叩かれ砂の上に突っ伏す。

「お前なんか、生きている価値なんざねぇんだよ!!」

 少女は更に脇腹や背中を男に蹴られる。

「そこらへんで止めとけ。」

「何だと!!」

 止めの言葉を吐いた、相方を男は睨み殺すかのような眼差しで睨む。
 
「殺るのは勝手だが、俺まで上に文句言われるのはたまったもんじゃないからな。」

 あっさりと言い返され、男は何も言えなくなる。

「チッ、わかったよ。」

 最後に、男は少女に蹴りをもう一発入れると戻り、元居た場所に座る。

「俺達の残りの仕事は、処刑されるコイツをデオドガンまで運ぶ事だ。処刑させる筈のモノが死んでたら話にならんだろ。」

「……分かっているよ。」

「手枷、足枷させて、水も食料もやらんでいるんだ、下手をしたら死ぬんだからな」

「そんな事で死ぬようなタマかよ、コイツは」

 相方の説教に飽きたと言わんばかりに横になる男。

「あぁ~酒が飲みてぇな~」



 佐杷は助けを求めていいか悪いのか判断していたのだが、目の前の光景に腹が据わった。

ーー冗談じゃない、あんな下衆共の助けを貰う位なら………

 息を殺した状態で、懐からバタフライナイフを取り出す。

ーー奪ってやるさ……。

クスッ クスッ クスッ

 佐杷は慌てて回りを見回す、だが別段といって変わった事は見受けなかった。

ーー幻聴まで聞こえ始めてきたか? さっさとしないとな。

 バタフライを握り狙いを定める。
                              そむ                                 さそり
ーー砂の摩る音を、我が鼓動とし……月に背きし漆黒の如く、そこに潜み……蠍の如く………

                                えもの

ーー獲物を仕止める。

 シュッと空切り音が鳴った。

 ただ……それだけだった。



 ドサっと人が倒れるような音がした。

「ん!? 何だ? 」

 男が意外な音を聞き、軽く身体を起こすと、そこには、横向きになって寝ている相方の姿があった。

「何だよ、お前まで横になったら、誰がアイツの監視をするんだよ。まったく、」

 やれやれと言わんばかりに起き上がったのだが、男は何か違和感を感じた。

 返事が無い。

「おい、どうしたって言うんだよ、返事を……。」

 そこで男は違和感に気付いた。

 相方は横向きにしてはあり得ない体勢で寝ていた事と、その首元に何かが突き刺さっている事に。

「畜生!! 誰だ!! 誰がやりやがった!!

「悪いな、何、喋っているのか、分かんねぇよ」

 ゴキッと鈍い音がした。

 



 佐杷は相手の喉元に、ナイフを投擲し、突き刺したと同時に音を立てず、もう一方の男に向かって、
一気に接近する。

 そして、その無防備な首元に狙いを絞った。

 左手を、相手のおでこを押さえつける様に掴み、右手を相手の首前にまわす様にし、
左肩を抑えると、一気に左に90度以上捻る。

 佐杷は、そのまま男の首の骨を折り、男は泡を吐きながら死を迎えた。

「チッ、」

 舌打ちしながら、首が捻られて死んだ男の死体を佐杷は放り捨てると、もう一方の男に近づいてゆく。

「……やっぱり生きていたか。」

 バタフライを喉元に刺された男は、ひゅーひゅーと呼吸を繰り返すだけしか出来ない状態になっていた。

「ソレを手向けにくれてやる訳にいかねぇんでな……。返してくれ。」

 バタフライを引き抜くと、男の喉元からは大量に血が噴出した。

「あ~ぁ~ばっちいなぁ」

 ナイフにこびり付いた血を下で舐める佐杷、佐杷の口の中が潤ってゆく、

ーーチッ、まじいでやんの。

 ある程度舐めて満足した後、死体の衣服でナイフを拭く。



・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・





 死体から水分のある物を奪い、焚き火の前で落ち着く佐杷。

 落ち着いたついでに男達の荷物を漁っていたのだが、妙な物を見つけた。

ーーぐるぐる巻きに巻かれた布の中にあったんだけど………西洋刀とはね。

 手にとってそれの具合の確かめたのだが、中々の逸品である事は間違いない代物だと分かる。

ーー叩きつける様にして斬る概念の剣は、俺の戦闘方法には合わないしな……。

 横に放り置いとくと次の荷物を調べる。

 そうしている時に僅かな物音がし、佐杷は瞬時に音のした方向を見る。

 そこには、ふらふらと這い蹲ってこちらを見ている少女の姿があった。

ーーそう言えば生きていたんだけ。

 佐杷も本気モードになっていたのでうっかり忘れていた様である。

「………ウォーテ」

 生まれた仔馬の様にふらふらと立ち上がりながら、擦れた声で、恐らくだが水を欲しがる少女。

 何の為にか運ばれていた少女かは分からない……だが。

「んッッ」

 皮袋の水筒を放り、顎でしゃくって飲む様に誘する。

「ウ…ウレーシェ」

 感謝の言葉なのだろう、枷の掛けられた両手で受け取るとそう礼を言い、貪る様に水に飛び付く。

ーーその掠れた唇と雰囲気の状態を見ていて、水をやらずには居られなかった、ただそれだけの事さ。
感謝の言葉なんて過ぎたものだよ。

 そんな気分に浸って視線を彼女から外したのが失敗だったのだろう。

 次の瞬間、妙な物音に振り向いたその先には、西洋刀と呼ばれる剣を俺に対して振り下ろそうとする姿が
目に映った。

「うおぉぉ」

 崩れ落ちるかのように後に退くが・・・

 逃げ遅れたのか、肩の部分を斬られ肩から血を流してしまう羽目になってしまった。

「痛ったぁぁぁぁ、手前ぇぇぇ、よくも。」

 肩の痛みに必死に耐え、慌てて体勢を立て直し後に退く、立て直した視線の先にはいつの間にか両枷を外し、
ソードを振り下ろしてフラフラとしている少女の姿があった。

ーー俺って舐められているのか?

 だが、そんな考えとは裏腹に、身体は危険を察知し出来るだけ遠くに逃げていた。


ーーアレは危険すぎるーー


 戦い慣れた佐杷にとって、その“勘”は頼りになるものがあった、その勘が先程まで危険を察していなかった事に
佐杷は不思議に感じていたのだが、その疑問は次の瞬間分かる事になった。






少女は剣を天に掲げた、


すると少女は碧色の光を身体を光らせ、


少女の背中から白い翼が羽ばたき、透き通るように輝く

                アズラエル
その姿はまるで、
深碧の天使に見えた。





 呆気に取られたのと、それなりの距離を空けていて安心していた為か、こっちに向かって来る事実に、すぐさま反応できなかった。

「冗談じゃ無ぇ、マジで*アズラエルになられたらたまんねぇよ!!」

 正気に戻り、こっちも全力で逃げる。

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・




僅かな時間が経っただけなのだろう

奴から懸命に逃げ、砂丘の隙間に出来ていた横穴に隠れ、

意外と奥に進めそうだと、光ゴケらしき物が明りを灯す洞窟の奥に進んで

この場に潜むまでに至るのには。



ーー肩の血が止まらねぇ……


願いや想いを叶えるには、其相応の代価というモノが必要なのは言うまでもない


ーー常識論を説く程、理論派ではねぇよ。


だが……キミの……キミ自身の身には……ソレが無かったら?


ーーだからと、言って与えられるのを、只管に待ってたら、いずれはジリ貧だしな………それに、俺の趣味じゃない。


そう、ただ甘えて、刻を失うのは莫迦げている……。
 
厄介な気配を感じた

ーーだったら、ひとつだろ……簡単じゃねぇか。

間違いないこっちに向かっている


ーーそれに………

もう、“やっている”事だ!!


 俺はその“言葉”を言ったと同時に物陰から飛び出した。

絶妙の頃合……

この足掻きを……

奴へと……


偶然の産物が……

緊張の糸が途切れた際の間違いが……

俺のほんの気紛れが……


作り上げてしまった化物へ……

静かに……

俊敏に……

相手の喉へ……

バタフライを……


「!! ハァッッ」

 喉元に喰らい込む筈だったバタフライは空を掠った、

ーー糞ったれ、勘のいいこって

 相手に避けられたと同時に、相手に向け地面の砂を蹴る。

 目くらまし用に蹴ったのだが、間合いを遠ざける用になってしまったようである。

 まぁ……結果的には構わない方向になった(結果オーライとも言う)、

 相手の一瞬の隙を突いて更に洞窟の奥へ向かう、そう何度も奇襲が通用する訳ではないのだが、
技量が上の相手にマトモに正面から斬り合う精神は持っていない。

 相手が猛勇突進の性質ではなく、罠を警戒し直ぐさま、手を出さない用心深い性質なのか直ぐには追ってこない。

ーージックリ、ジックリ焦らして、相手を狩る気かい……舐めた真似を。

 そういう状況なら佐杷も、何度も経験したことがある。

ーーそれではまた駆け引きを愉しみますか。




 オモシロイ……

首ヲ狙ッタ。


 オモシロイ……

ソレニ砂ヲ蹴ッテ

目ヲ潰ソウトシタ。

 オモシロイ……




“ニンゲン”なのに、





 少女は口元に笑みを浮かべた、ニヤリと歪んだ笑みを……。



 佐杷の予想は少々外れていた。

 単に少女は罠を警戒したのではなく佐杷の行動に驚いただけなのだ。



 兎にも角にも、少女は再び歩き出す、 “獲物” を狩る為に……それもとびっきり上等の獲物を。


・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・




 突然だが、佐杷は行き詰っていた。

ーー行き止まり!!

 佐杷の目の前には洞窟の奥の少々広い空間が広がる、周りを見回しても出口は見つからずここで最後だと分かった。

ーーこんな廃れた穴蔵が俺の墓場か………


キミには相応しいんじゃない?


ーー冗談じゃ無い、こんな所で死ねるか。


なら、どうするの?


ーー相手をブッ殺すしかねぇよ。


敵わないと言うのにィ?


ーーまぁ、それが事実なんだけど…さ……!

 背中に刺すような感覚を感じ、慌てて後を振り向く佐杷、そこには物陰からゆっくりと歩み出た少女の姿があった。

ーー準備の暇も無いのかよ……。

 仕方が無いと言った表情になっているのは自分自身よく分かる、……だが。

ーーこうなったら四の五の言ってられねぇな……

 相手の剣と比べると見劣りしてしまうがバタフライナイフを右手で逆手に持ち右半身を前にするように構える。

ーー刃こぼれし過ぎて使えないコンバットが切り札とは……昔ならズナッペズだったんだけど。

 *物価が高く流通の悪い日本を恨みつつ、相手から見えない背中の部分から、この世界に来る前に使って、
半ば使用不能のコンバットを隠す様に取り出す。

 後は相手が動くのを待ち構えるだけ……切り込んできた所を払い、斬り返すだけ…………



そして……



後は一瞬だった。



 佐杷の間合いに袈裟斬りで少女が斬りこんでくる、その攻撃を細心の注意を払って、バタフライで軌道を左に逸らさせ、
コンバットを少女の喉元に通す様に斬り込む…………………。


ニヤッ


ーー笑いやがった……コッチを見て哂いやがった。………糞ったれ。


 そう、思ったと同時だった。


 僅かな衝撃の後に、膝から力が抜けてゆき、更には視界が上半分から幕を降ろしていくように黒くなる


ーーやられたのか………………。


 だが……そんな暗闇の世界に染まるにも拘らず、血飛沫が飛び散っている事だけは理解できた。






次回に続く。



あとがき

皆々様、どうも、主人公の名前を、『
遠山 万寿夫』か『一条〇矢』にしようか? そんな衝動にかられまくって
いるぬへで御座います。

今回も、ドス黒い光景を軽くお送りしてしまいましたが、別に他意は御座いません。

ついでに、“尿を飲む”という行為は、砂漠で水が無くなってしまったら、問答無用で行なう行為ですので
サハドが特殊だからという、そういう意味合いは御座いません。

それに、佐杷も訳の分からないままやられてしまいました、行動の顛末の説明は次回、致す事にしまして、
次回も見て頂ける勇気が御座いますのなら宜しくお願い致します。

用語時点
*アズラエル 
 イスラム教の人間が死ぬ時に現れる天使の名前。

*物価が悪く流通が悪い。
 これは日本での銃火器や弾薬物、刀類、当の流通の悪さを佐杷がいっている事である。

簡単な文章についての説明

例1

ーー腹減った

これは主人公や、その他キャラが考えている、という意味の書き方です。

例2
腹減った

これ等、中央揃えは基本的には演出的なものですが、この色で中央揃えは、永遠神剣“強欲”の声です。
色違いで今後、他の永遠神剣の声も書く予定です。

ちなみにタイトルの下の恒例の文章は、アセリアのコアなファンしか知らないネタです(PC版の体験版の時代のネタ)。


異常(以上)!!



 一応、もう一度言いますが、悠人ファンで悠人視点で物語が続くのが好きな皆様、この物語は秋月 瞬の友人? である主人公メインの話になってしまうのでお許し下さい。

以上です。


それでは今回はここまで。それでは皆様、次回に乞うご期待。