現代、ハイペリア(地球)
何故、だろう・・・・・・
何故、なんだろう・・・・・・
何故、この様な事に・・・・・・
何故、俺は巻き込まれてしまったんだ?
喉が酷く渇く、唾さえも乾いてしまったのか?
身体中が冷える、首筋がまるで何かに触れられているようである。
手の震えは無いが、この握っているナイフだけが今感じられる感覚になっている
心の中で、「さっさと逃げろよ」と俺なのか? それとも後ろの奴に対してなのか?
さっきから幾度と無く、心が呼び続けている。
兎にも角にも、目の前に居る奴は危険すぎる。
――畜生――
「ほぅ・・・・・・この剣圧に耐えられ、尚且つ構えられているとは小僧、中々やるではないか。」
目の前に佇んでいる、この黒衣の巨漢は。
永遠のアセリア
ラスフォルト
第1章、非日常からの離脱、されど、そこも非日常。
願望・・・
求めること・・・それはちからとなる。
善き願いでも、悪しき求めでも。
制約・・・
誓うこと・・・それは力を呼ぶ。
そんな誓いでも、それが純粋な想いならば。
織物・・・
時と運命と想いが紡がれた・・・
織り込まれて物語をかたち作っていく。
略奪・・・
強欲であること・・・それはちからそのもの
他者を蹴落としてまで、生に執着するためのこと。
事の発端を話す前に、彼――木崎 佐杷の数時間前から話そう。
数時間前、
これ以上制服で繁華街をうろつくのにも制限があるので、事務所から出た後の佐杷は
屋敷と家に戻り荷物を置き、着替えて出てきていた。
ーーよしと・・・・・・これで一週間は耐つかな。
ディザートカラーの迷彩ズボンに茶色い上着という格好に着替えた佐杷は、鞄片手に
買い物を満喫していた。
ーーこうも平和ボケしている、国なんて、そうないよな。
佐杷の視線には繁華街の風景が目に入ってゆく。
世捨て人同然の浮浪者、
ーーガキなんざ居やしねぇ……きったねぇ爺婆共だけか。
人を殺した事も無いくせにいきがっているギャング気取りのガキ共。
ーーこのナイフで、一人の喉元を掻っ切ったら、マトモに反応出来る奴いるのか?
まるで、生きている事が当然の事の雰囲気に包まれているこの微温湯の空気は
佐杷にとって余り好きになれないでいた。
ーー養子になって、この国の人間になったが、失敗だったな。
そんな事を考え胸糞悪くしていると裏路地の奥で何か物音が聞こえた。
「ほおぅ」
ーー・・・・・・・・・・・・暇つぶしにはいいだろう。
その好奇心に惹かれ佐杷は裏路地に足を踏み入れる事を決心した。
佐杷は本来、この様な予想外の事態が起きた場合には、決して関わらないようにしているのだが、
それをしなかった。
それは、この国ではそこまで深刻な事態に追い詰められるとは思っていなかった事と、佐杷自身
そんな“日常”な事態を待ち焦がれていたからなのであろう。
右手を背中に隠すように、背中に備えているソレに手を伸ばして・・・・・・裏路地を進んでゆく。
「どうした? この僕を、どうにかするんじゃなかったのか?」
そこには4人相手に、喧嘩を挑んでいる瞬の姿があった。
瞬ちゃんは、多少、相手の攻撃を受けた程度で、相手を完全に翻弄していた。
余程、喧嘩慣れしているのか、四人相手でも、怖気づかず、上手に戦っていた。
ーーうまい、うまい、
瞬ちゃんは、掌や頬の端を切っていたり怪我していたりしたが、それ程深刻な怪我やダメージを受けては
いないでおり、尚且つ相手は顔や腹などにダメージを負っているという良い状況である。
佐杷は、その様子に納得すると、壁によっかかりのんびりとする事にした。
ーー頑張ってね~、
拳をぶつけ合う音と、鉄分臭い血の匂いが香ってくる、その雰囲気を特等席で感じていながら
佐杷は気分を良くしていた。
数分後
喧騒の雰囲気が変わってきた事を肌で感じ、佐杷は裏路地に足を入れる。
そこには、瞬が4人をボロ雑巾に代えており、瞬はそれでも尚、相手に攻撃を加えていた。
「ゴミが!! さっきまでの威勢はどうした?」
倒れている相手に執容に蹴りをいれる
「は~い、そこまで~」
そう声を掛けた、その時、瞬が射殺してやろうかという位の殺意を込めた視線を佐杷に
浴びせてくる。
「そんな小物1匹殺したって何の特も無ぇぜ。」
「なんだ・・・佐杷か、」
佐杷が瞬の視線に入り、瞬は“警戒して損した”と言わんばかりの態度になる。
「んんッッ・・・・・・まぁいいか。」
佐杷も口元をムッとさせるがすぐさまポーカーフェイスに持ち替える。
「ほら、手前ぇ等、これ位で見逃してやるみたいだからさっさと去りな。」
佐杷の言葉にやられていた奴等は傷に傷みながらもその場から去って行った。
「ポリスにチクったらブッ殺すからな~♪」
雑魚の去った後の路地を見かけ、やれやれと頭をかいていると。
「余計な真似をするな。」
瞬の言葉に、佐杷はあっさりと仕返す。
「別に良かったんだよ、でもね、警察沙汰になって今度やるって言う、瞬ちゃんの愛しの佳織
ちゃんの演奏会が見れなくなっても、いいって言うならだけど。」
「クッ!!」
その瞬の悔しそうな顔を見て佐杷はニヤニヤと笑い、雰囲気を軟らかくしていたのだが……。
その場の気配が一瞬にして、重く・・・・・・寒くなってきた。
まるでナニカの食肉獣の折の中に放り込まれた時の心境に良く似ている。
「………チッ………隠れていないで、出てきてもらいます?」
「佐杷、お前、」
何を勘違いしたのか、佐杷に喰ってかかる瞬だが、佐杷の只ならぬ様子に言い止まる。
「瞬ちゃん、今直ぐここから逃げる準備をしてくれる。」
「何故、僕が逃げなければならないんだ。」
「いいから!!速く!!」
「それは困りますわ。」
振り向いたその先には、影がかりで相手の顔や姿はよく見えないが、声と体格からして
小さく幼い少女だと判断できる。
そして、そんな彼女の手には少々不釣合いなのでは? と思うような錫杖が握られていた。
「折角の配役を今から変える訳には参りませんの。………ですから。」
「瞬ちゃん、今の内に、」
得意気に喋っている少女にチャンスを得たのか、佐杷は瞬に小声で逃げるように言う。
「そこ!! ちゃんと人の話をお聞きなさい。」
だが……それも、相手に見抜かれてしまう。
「まったく……これだから下賎の者は……困りますわ」
「なんだと!!」
下賎と言われ舜は憤怒するが、佐杷自身は至って冷静だった。
「それで……そちらさんは、“どっち”に御用時で?」
佐杷は少々怒っていた、その原因は、少女の言葉にではなく。
幾ら言っても、言う事を聞こうとしない後ろの莫迦ボンボンに対してである。
ーー人の忠告くらい素直に聞け、このヴァッカボンボン、くだらねぇ話に熱くなりやがって、
佐杷は今この時、之程、“この依頼人の糞餓鬼をブン殴れたら”と思った事は無い。
「ただの人間である、あなたの判断力と行動力にはちょっと興味を持ちましたけど、わたくし達の
目的は、そちらの坊やに用があるので。貴方にはそこをどいて貰いましょう」
「“嫌”だと言ったら?」
「拒否権はありませんわよ、彼は無理矢理にでも連れて行く予定ですから」
ーーいいから早く逃げろよ!!
後ろにいる瞬を肘で小突いて逃げるようにさせるが一向に動こうとしない。
ーー畜生………
「それでは、こちらも尚更、退く訳にはいかないですね。」
背部に仕込んであったサバイバルナイフを静かに抜き、構える。
「おやまぁ………堪え性のない事……」
相手も錫杖をこちらに向ける様に構える、
「我が主殿、主殿の手を煩わせる必要は御座いません、是非このタキオスめに……」
突如、野太い男の声が裏路地に聞こえる、その声に慌てて佐杷と瞬は辺りを見回すが声の主は
見つからなかった。
「どこにいる?」
その呼びかけの後に、少女の後ろか褐色の肌と、身の丈を悠に超えた大剣を手にする荒々しい
印象の男が少女の影からぬぅ~っと出てくる。
ーー本気(マジ)かよ……
佐杷は間違い無く、危険だと直感した。
「そこの小僧。今、我々は忙しいのでな……さっさと失せろ。そうすれば見逃してやる。」
そこで何かがフッ切れた。
「残念ですけどね……“そう”もいかないんでね。」
「奮ッッッッ!!」
タキオスとか言う男の放った見えない“力”は俺等に向けられ飛ばされる、その圧力に俺は、
氷の様に身体中が冷え、唾が乾くほどの喉から水分が奪われ、さらには首筋から脊髄全体が、
まるで何か冷たいものに触れられているようである。
この握っているナイフの感覚だけを頼りに、この場に立って構えているのが精一杯だった。
「クッッ、」
「ほぅ・・・・・・この剣圧に耐えられ、尚且つ構えられているとは小僧、中々やるではないか。」
自分でも不思議であった。
何故、自分自身がここまで保てるのか不思議でしかなかった、仕事とは言えここまでやる事は
割に合わないし、義理と人情という言葉では納得が出来ない自身の行動であった。
ーー“愛”って事は無いな………絶対に。
軽く心の中で笑うと再び目の前の“奴”に対し神経をかたむける。
まるで、野生の獣を相手にして…………いやそれよりも凶悪な存在を相手にしていると感じる。
佐杷が立ち向かえられたのは先程のタキオスの「さっさと失せろ。そうすれば見逃してやる」の
言葉のお蔭だったのだろう。
ーー意地だな……相当、性質の悪~ぃ。
「これも仕事でしててね、自分の立場を維持する事は大切なんで。」
ーー身体が慣れるまで、2,30秒といった所か。
その言葉のお蔭で、少々佐杷は戦士としてでの冷静な状況判断の箍が外れ、武器を構えて
ダウンせず相手を見ていられたのである。
だが…、それの所為で際立った危険に瀕していることは言うまでも無い。
「それはご熱心ですこと…………でも、命を粗末にするのは……」
先程から、暗がかりの中から姿を見せない白服の少女が余裕の態度で、見下す様に哂っている。
「まぁ……死なない程度に頑張ってるんでね、今回も大丈夫でねぇ?」
ーー姿を見せるまでも無いってか。
「おやおや、それでは貴方は、自分の立場もお判りにならないようですわね」
ーー力に驕っていやがる………しかも、遥か上から見下す態度でか……。
確かに、彼らは強いのかもしれない、佐杷との差など天と地の開きが開いているのかもしれない。
だが……佐杷にとって、“その態度”は癪に障った。
ーーだったら………。
「…………掬ってやるよ……。」
ボソっとした声で佐杷が言ったのだが、相手には聞こえなかった様で………。
「何か言いました?」
ーーその、奢りでふら付いた足元を掬ってやるよ。
「…………人生、何があるか分からないから楽しんだぜ、」
「だから、何でしょう?」
「端っから決めつけられても困るだけだ、試してみなきゃねぇ……駄目っしょ。」
「……フッ…ふッふッふッ………興が冷めましたわ。」
少女は軽く笑うと、最早用は無いと言った態度になり、
「タキオス、もう、いいですわ、適当に虫の息にして朴っておきなさい」
「殺さないでよろしいのですか?」
「えぇ……自分の力が足りないと後悔に埋もれながら、死んで貰いましょう。」
ーー人の苦しむ様を見ながら楽しむって事かい………性質の悪いこって。
「ふむ……ならば、人間。適度にいたぶってやろう、弱すぎて死なれても困るのでな。」
「お優しいこってぇ」
ーー良し、満足とは言い難いが動く。
ナイフを構え相手見ていたのだが、ふと背後の舜ちゃんの気配に違和感を感じた。
「おい、舜………。」
「どこを見ている!!」
後ろを振り向こうとした瞬間、目の前にあの男の握られていた大剣が迫っていた。
「チィィィィィ」
手加減された攻撃だったのと大声を掛けながらの攻撃だったので、何とか寸での差で避けられた。
「冗談じゃ無ぇ」
剣圧で生じた風と共に、横の壁を背に左から立ち位置を移動する。
そして、タキオスの背後では、舜が何も無い所から生えている赤い異質な手に捕まっている姿があった。
「瞬ちゃん!!」
「人間、中々やるが、人の心配をしていていいのか?」
タキオスの喋っている後ろでは、舜の背後に黒い異質な、“狭間”みたいのが出現してきた。
「俺が生きてても、依頼がパァになったら意味が無いでしょ!!」
「よくいう。」
ーー拙いな、アレに引き込まれて“どこか”に行っちまったら………。
「拙い……な。」
緊迫した気にやられ身体も重くなってきた。
「よく立っていられると、褒めてやりたいところだが、次は当てるぞ。」
黒い手が舜を着々と狭間に引き込んで行き、舜の身体は半分以上が引き込まれている
ーーあそこまで引き込まれると引っ張り返せる事は無理だな………
こんな状況でも冷静で居られる佐杷は、冷静に今の状況を判断し、次の一手を考えた。
「このナイフで捌けるかどうか疑問に思うよ。」
そう溜息を吐きたくなる様な愚痴を吐いた後、一気にタキオスと呼ばれた男に向かって駆け出した。
「その心意気は勝ってやるが………甘いわぁ!!」
“死”と言う概念の塊に感じる巨大な剣が左上から振り下ろされた。
ーー集中してみても速いでやんの。
佐杷は自身の全ての神経や身体を総動員してその剣に対し対応するが、どうにも相手の剣が速い為、
避けるという選択肢が一瞬にして消えた。
ーーそれなら………。
一瞬の判断でサバイバルナイフを剣に這わすように持ってゆくと、逸らした。
逸らした動作で発生した安全圏に身体をもってゆくと、後は死に物狂いのヘッドスライディングで
男の後ろに逃げ、そのまま素早く立ち上がる。
「ほぅ…戯事の剣技とはいえ、この俺の一激を掻い潜るとは、相当の修羅場を潜り抜けていたか。」
「正解。」
再び構え、ふと、握っていたナイフを見て佐杷はギョっとする。
「うわぁ~ちょっと逸らしただけで、ボロボロかよ。」
そう、佐杷の握っていたサバイバルナイフはものの見事に、刃の部分が所々欠けていた。
「自分の得物の心配などしていて良いと思うのか?」
佐杷はいつもの軽い笑みを浮べた冷静顔から、険しい顔へと変えた。
「大丈夫だ、テメェの事をムカついていただけだ。そのテメェから目を離すかよ。」
そんな佐杷の顔に満足したのか、
「では、闘おうか。」
タキオスは笑みを浮かべ、大振りの剣を構える。
だが。
「断る」
状況は予想だにしていない言葉で変わった。
「俺の護衛対象がこの中に行っちまったんでね、後を追わせてもらうさ」
そう言って、佐杷は何等迷い無く狭間に自らの身を投げる。
「貴様!! 」
タキオスが動いたと同時に、飛び込んだ佐杷の身体が、完全に狭間に飲み込まれる。
ーーテメェには勝てねぇが、これも一応、勝ちだ。
狭間に飲み込まれた瞬間、佐杷の頭の中は、それだけが浮かんでいた。
あとがき
主人公の名前を『遠山 万寿夫』にしようかな~? と企んでしまった。今日この頃のぬへで御座います。
早くも二回目となりましたが、今回は主人公と秋月舜がファンタスマゴリテに召還されて行く光景を描きました。
原作では舜は異世界に召還される描写が描かれておらず、(OVAでは悠人と佳織、そして舜が仲良くあっさりと
召還されてましたが(笑))、佳織の演奏会があったのにそこでは登場して来ないという事は、舜は少なくとも
それ以前に召還されたのだろうと考え、この様な急な展開で現代⇒ファンタスマゴリテへと召還させました。
あの病的に佳織に行為を寄せる舜が、演奏会に行かず、演奏も聞かないと言う事は、あの性格からして絶対に
有得ない、ならば、その様な状況にならざる原因があったのではと…私は、舜が召還されたのは
この時(悠人との口喧嘩~演奏会前の間)だと思っています。
毎度毎度の事になりますが、悠人ファンで悠人視点で物語が続くのが好きな皆様、この物語は
秋月 瞬の友人?である佐杷メインの話になってしまうのでお許し下さい。