Somewhere......

 そこに玉座があった。
 一人の少年が、静かにその横にたたずみ、瞑想している。ただ一人が座すことを許される席―――今の主がいないそれは、その隣に立つこの身がこの世界での 最たる高みにある証でもあった。
 それを確認することができるこの場において、その少年は何を思うのか。それを知る者はいない。
 かつ、かつと靴音がこちらに近づいていることを知り、少年は眉間にしわを寄せながらうっすらと目を開けた。
「・・・・・・・・・ソーマか」
「おや。貴方が一人でこちらにおられるとは珍しいですねぇ」
 鼻にかかった声が呼びかけるのに対し、少年が返したのは殺気だった。

「五月蝿いぞ。用がないなら消えろよ、お前」
「おやおや・・・・・・」
 ソーマと呼ばれた男がどうしようもない、という風に肩をすくめてみせる。この少年を前にこのようなことができるのは、広きこの国の中でもこの男ぐらいの ものだった。
「嫌ですねぇ。私はただ、またサレ・スニルで穏やかでないことをしている者たちがいることを、お伝えに着たんですよ・・・・・・なにしろ、それが私の職務 ですからねぇ」
「はっ、よく言うな・・・・・・。お前のそれは『職務』じゃなくて、単に『趣味』のためだろう?」
「ま・・・・・・否定はしませんよ。それで、私が向かってもよろしいでしょうね? なぁに、五日もあればサレ・スニルは平和な町に戻りますよ」
 男はにやり、と唇の片端をゆがめて笑む。
 少年は鼻で呆れたような息を吐き出すと、しかし首を横に振った。

「いいや・・・・・・どいつもこいつも、だれが自分たちの支配者なのかを忘れかけているみたいだからな。今回は僕が直々に行ってやるよ」

 少年の言葉に、男は不満そうに眉を寄せる。
「おや? エトランジェ殿は、私との約束をお忘れのようですねぇ・・・・・・。思い出せないようならば、今ここで契約を破棄させていただいてもよろしいの ですか?」
「はっ! 好きなようにしろよ。まぁ、その時は・・・・・・」
 少年の瞳が紅く輝く。
「お前が死ぬ。―――それだけだ」
「・・・・・・っ」
 禍々しくも妖しい光に、男は気圧されて一歩後ろへ退いた。
 その反応に満足したのか、あっさりと殺気を消した少年はせせら笑いを浮かべながらこともなげに言った。
「まぁ・・・・・・皇帝妖精騎士団の数も足りていることだし。その馬鹿どもの処理が終わったら、そいつらのスピリットはお前の好きにするがいいさ」
「・・・・・・そぅ、ですか。それはなによりですよ」
 冷や汗がこめかみを伝うのを感じながら、男は薄笑いを浮かべて横を通りすぎようとする少年に声をかける。

「そうそう・・・・・・ラキオスとバーンライトですが、もうすぐ決着がつきそうですよ?」
「そうか」
「おや? どちらが優勢か、お気にならないのですかな? たしか、ラキオスにはあなたのご執着のエトランジェの娘がいるのでしょう?」
 わざとらしい男の問いかけを、少年は鼻で笑う。
「はっ! 本当にバカだなお前。僕が愛しい佳織を、万が一にも危険な状態にさらすとでも思っているのか?」
「・・・・・・・・・?」
「あいつが近くにいる限り、佳織の安全は絶対だ。佳織がラキオスにいることが危険になろうものなら、あいつは即座にあの国の人間を皆殺しにしてでも佳織を 奪っている」
「ほう・・・・・・たしかそれはエトランジェ殿が言っていた、もう一人のラキオスのエトランジェのことでしたか?」
 印象深い情報を前にして、男の目が光る。
「しかしその者は、まっ先に王族に膝をつき、忠誠を誓ったという話ですがねぇ?」
「ふん。本当にあいつの膝を折ることができる奴なんて、元の世界にも、この世界にも一人だけさ」
 そんな少年にとって明快至極なこともわからぬ男に、彼は何度目かの侮蔑を覚えた。
「せいぜいお前は、屑どもの噂話をかき集めていろよ。それが屑くらいは僕の役に立てられることを、光栄に思うんだな」
「・・・・・・えぇ、わかっておりますよ。御武運をどうぞ、『誓い』のエトランジェ、シュン殿」
「貴様に言われるまでもない。なぁに、二日もあれば、サレ・スニルは平和な町に戻るさ」
 最後の一言が男の顔をゆがめたのを愉快に思い、少年は高笑いをあげて人気のない廊下にでる。
 くっくっと笑いをかみ殺した後に。静かに、そして隣にたたずむ者へ語りかけるように、少年は呟いた。




「そう。お前が本当に膝をつくのはこの世にただ一人だ・・・・・・なあ、そうだろう? 千歳?」











 永遠のアセリア二次創作            

龍の大地に眠れ

    二章 : 蝕まれし世界

第三話 : 新しい一歩を








 ラキオス城 鍛錬場

 本城からやや離れた場所、樹木の生い茂る林を抜けた場所にスピリットたちの鍛錬場はあった。
 色を変え始めた陽光を受けた地面の上、そこで二つの影が千鳥の如く交錯していた。
 鋭い刃金を見せる片刃とそれを受け止める鞘入りの両刃が、獣の顎のようにかみ合わさる。その間は、まさに刹那の時。
 二つの影が一体となって描く舞踏は激しく、そして美しい。だが、それは短き間にしか存在しえぬ美であることはすぐに証明されることになった。

 ―――キン! カカッ、キンッ!

「や、やあぁぁっ!」
「―――ふ、っ!」
 細い鞘に戻された刃が気合と共に放たれる。だが、それを見越したいわゆる『後の先』を取った、半月を描いて黒の軌道が逆袈裟に放たれていた。
 切っ先が届くより早く手首を鞘に打たれて、手の内にあったものが弧を描いて宙を舞う。
「はい。これでおしまい」
 ぱし、と一拍後に首筋を鞘に叩かれて、ヘリオンは自分の敗北を知った。
「今日はこれくらいにしておきましょう。明日は早いわよ」
「あっ・・・は、はい! ありがとうございましたっ!」
 ぽん、と自分の頭に乗せられた手に優しさを感じて、少し裏返った声でヘリオンは背の高い少女―――海野千歳に礼を言った。
 ヘリオンが千歳に自分の特訓を依頼したのは、先のラセリオでの戦いから帰還してすぐのことだった。戦いに向いたとはお世辞にもいえない性格の彼女をそう するまでに駆り立てたのは、千歳たちが本隊から外れていた時のリモドアで見た光景のせいであったそうだ。

 千歳が他三人とラシード鉱山を落としていた間に、悠人たちが侵攻したバーンライト第二の首都とも呼ばれる街、リモドア。その侵攻の結果が制圧というより も壊滅と表現するに相応しいものであったとは聞いていたが、その部隊の一人であったヘリオンにとって、それは百聞など及ばない凄惨な一見であったに違いな かった。
 ヘリオンに聞いた所では、悠人たちは、リーザリオに侵攻したのと同じ段取りで作戦を開始したらしい。
 だが、それを迎撃するスピリットたちの多くが街中にいたために、リモドアはリーザリオとは及びもつかぬ程の戦禍を被った。
 多くの神剣魔法が打ち消されることもなく建物を破壊しつくし、その残骸を盾に続行する戦闘は必要以上に戦闘を長引かせ、また過酷化していったのだ。
 おそらく、バーンライト側も山道を行く襲撃部隊の迎撃に間に合わせないようにするつもりであったのだろう。結局、ラキオス軍が制圧を完了した頃には都市 部の大部分が破壊され、苦い勝利となっていたたそうだ。

「あの戦いの後で、瓦礫の前に立ち尽くすユート様が、とても、とても悲しそうで・・・・・・それに、エスペリアさんもずっと・・・・・・ユート様とはやっ ぱり違うんですけど、それでも悲しそうだったんです。・・・・・・もしも」
 自分にもっと力があれば、と小さく呟いたヘリオンに、千歳はすぐには頷かなかった。
「あなたが選ぼうとしているのは、血塗られた剣よ。この世界で私たちが『強くなる』というのは、そういう事だと私は思うし、そういう剣しか私は教えてあげ ることはできない。―――それでも、かまわない?」
 無情な言葉に、ヘリオンの背がぴくりと振るえ、ぎゅっと自分の指を掌に包み込んだ。そして、しばらくの沈黙の後に彼女は答えを出した。
 『それで、守れるものがあるのなら・・・・・・』と。


 簡単に後片付けを済ませて、千歳とヘリオンはそこから近い第二詰め所ではなく、わざわざ第一詰め所まで向かっていた。
 というのも以前、ナナルゥがある喧嘩を神剣魔法という非常にバイオレンスな手段で『仲裁』した結果・・・・・・第二詰め所の風呂場が見事に破壊され、い まだにその修復が終わっていないためだ。
 今でも、第二詰め所のスピリットたちは訓練を終えた後、こちらの風呂場にまで足を伸ばしている。
「いい? ちゃんと今日はすぐに寝て、明日に備えるようにね」
「はいっ。・・・・・・あの、チトセさまには本当にご迷惑をおかけして」
 ヘリオンが謝ろうとするのを、千歳はくすくすと笑いながら止める。
「なに言ってるのよ。ヘリオンのおかげで、私の手数が増えたんだから。こっちがお礼を言いたいくらいなのに」
 もっと自信をもって、と細い肩を叩くと、ヘリオンも少しだけ恥ずかしそうにはにかむような笑顔を浮かべた。

「あなたもシアーも、細かいところはまだつたないけど、剣の型は十分に理解していると思うわ。後は心構えの問題だとおもうけど・・・・・・こればっかりは ね」
「がっ、がんばりますっ!」
 返事だけは合格点なヘリオンに、千歳は自分のアドバイスの無意味さをしみじみとかみ締める。
「言っておくけど。無理に自分を変えようなんて、するものじゃないわよ」
「あぅ・・・・・・で、でも、今のままのわたしじゃあ・・・・・・」
 ヘリオンは顔をうつむかせてぽつりと言った。

「みんな、あのお二人のこと、すごく心配しているんです。わたしだって・・・・・・だからせめて、もっと何かみんなのお役に立たなくちゃ・・・・・・」

「・・・・・・っ」
 その言葉に、千歳がわずかに息を詰まらせる。
 きわどい戦局を共に駆け抜けたとはいえ、一向に悠人とエスペリアの間は溝が深まるばかり。それに心を痛め、そして不安になっているものは少なくない。ス ピリット隊の中でも、そして―――。
「ええ。本当にね・・・・・・」
 千歳の脳裏に、ラセリオより帰還してすぐにあった出来事がよぎった。


  数日前 ラキオス王城

 対バーンライト戦はひとまずの山場を越えて、ラキオス軍属スピリット隊員たちには首都ラキオスへの一時帰還が申し付けられていた。
 この期間は戦争で費やした物資の補給や制圧した都市の新たな基盤を得るための時間であり、鮮血の飛び交うスピリットの戦いに対してこちらは金が飛び交 う人間の戦争と言ってもいいだろう。
 もっとも、スピリット隊の中でも隊内の経理を任されている者たちはこの限りではなく、今回の戦闘の報告を兼ねて王城に呼び出されることも珍しくはなかっ た。エスペリア、そして千歳はその筆頭である。

 本来ならばエスペリアは王女派、そして千歳は国王派の人間の用で呼び出されることが多かったが、この日はやや勝手が違った。
「まさか、王女殿下自ら私の報告などに御出向きになるとは思いませんでした」
 内心を仮面で覆ったまま、千歳は『対人間用』のしゃべり方で、恭しく王女レスティーナに頭を垂れる。
 ここは王城の数多くある執務室の一つ。どこに『耳』があるとも知れぬ場所ゆえに、千歳はレスティーナに対しての他人行儀な姿勢を崩すことはなかった。レ スティーナも、表面上は傲慢なる人の王族に相応しい貫禄をもってそれに応えている。
「不服か? エトランジェよ」
「―――滅相もございません」
 仰々しい言葉を使いながらも、事実、千歳は彼女が相手でよかったと心の底から思っていた。ラキオスの役人には狭量なくせに見栄を張る輩が少なくなく、そ ういった者が報告の聞き役になった時は非常に面倒なことが多い。

「では、報告を」
「はっ。まず、ラジード鉱山での戦いにおきましては・・・・・・」
 千歳は自分の指揮したラシード行動での戦いとラセリオ防衛線の初日の様子を、口頭で簡易に報告する。悠人が指揮した戦いについては、参謀であるエスペリ アがすでに報告を終えているはずなので言うべきことはない。レスティーナに随所で問われる質疑に答え、その後に要点をまとめた報告書を責任者に手渡した。
「・・・・・・・・・」
 滞りなく報告は終わったが、報告書に目を通した王女はなぜかそっとそれを机上に乗せ、心の奥底を見通すような目で報告を終えた千歳の顔を見た。

「何か、不明な点がございましたか?」
「・・・・・・いいえ、報告に不備はありません。ですが、これにはないものに、私は報告の必要性を感じています」
「――――――」
「わかっているのでしょう? 隊員たちの状況について、です」
「それは」
 王女といえども、みだりに聞くことではないと千歳は目で諌言した。
 本来、軍とは王のもの。その戦果だけならばいざ知らず、その隊員の詳細についてなどを勝手に話すのはどうかとためらわれた。
「答えよ。これは命令です」
 そう言われてしまえば、千歳には拒むことなどできるはずはない。しぶしぶ口を開く。

「隊の統制は十分とはいえません。年若いスピリットが多いこともありますが、やはりエトランジェ二人が指揮者として選ばれたことによる影響が第一の原因と 思われます」
「現在で確認できる問題は?」
「スピリットたちの間での意見の相違。命令系統の不完全な構成。一部の独断専行。そして、恥ずかしながら・・・・・・」
 千歳はそこで息をつき、苦々しげに言った。
「副隊長たる私を含む、隊長の悠人、参謀のエスペリアの間の軋轢。そして『求め』の持つスピリットに対しての脅威こそが、最大の問題かと」
「・・・・・・・・・」
 千歳の言葉に、レスティーナはしばし目を閉じて何事かを考える。少しして目を開けると、今までとは違った厳しさを目に宿して王女は千歳を見た。

「正直に答えよ。そなたの目から見て、ユートが『求め』に支配される危険はどれほどのものですか?」
「―――五分、かと。妹との再開の目途も立たず、信頼していたエスペリアとの確執は確実に彼の精神に負担をかけています。彼の様子から見て、ラセリオの戦 闘において神剣に呑まれていたとは考えにくいですが、この状態が続けば・・・・・・より、危険です」
 ならば、とレスティーナは真剣な顔をして言った。
「現時点での実害がないのならば、『求め』については放置しなさい。問題はむしろそなたら三人のことであり、これは早々に決着をつけた方がよいでしょう」
「なっ。・・・・・・ですが、それは」
「エトランジェよ、これは命令です」
 千歳は苦い顔をするしかなかった。
「御意、に。ですが、今さら私がどう言ったところで、あの二人の間が埋まるとは思えません」
「・・・・・・ならば二人の距離が埋まる間だけでも、そなたがスピリットたちとの間を取り持ちなさい。上に立つ者たちが孤立していては、従う者はついてな ど来ないのですから」
 その言葉は、人の世の頂点に立つ者の重みを持っていた。だからこそ、これには千歳は頷くことができた。
「それならば、私のできる限りを」
「できる限りではありません。実力以上を出すのです」

 『王女』の言葉は厳しかったが、ともあれ、無事に報告が終了したことに安堵しながら千歳は退出の許可を求めようとする。が、その前に机の上に目を落とた したまま、レスティーナが口を開いた。
「彼女を・・・エスペリアを、お願いします。あのままでは・・・・・・あまりに、報われない」
「・・・・・・・・・」
 王女の思いの内を量ることはできなかったが、千歳はその覇気のない声に心の中にずんとくるものがあった。
 下手な返事ができず、けれどもこのまま立ち去るのは非常な気がして、千歳はぽつりと言った。

「―――遠くない内に、中庭の花もまた咲きだすかと思います」
「えっ?」
 突然何を言い出したのかと、レスティーナは困惑の表情で顔を上げた。
 千歳は言葉遣いだけそのままに、飾りのない表情でそっと笑顔を作る。
「『南』の手入れが終わりましたら、散歩に出るも一興でしょう」
 『散歩』という言葉を鍵に千歳の言いたいことが伝わったのか、レスティーナは一瞬目を見張り、そしてこの日始めて見る、控えめながらも心からの笑みを浮 かべた。

「ええ。それは、本当に楽しみですね・・・・・・」



 ラキオス王国 スピリットの館

「・・・・・・うげ」
「?」
 浴場に向かっていた千歳が、ものすごく嫌そうな声を上げた。
 ヘリオンは不思議そうに千歳の顔を見、その視線をたどる。それがちょうど、更衣室の扉から顔を出した悠人の視線とぴったり重なった。
「あっ! ヘ、ヘリオン・・・・・・それに千歳!?」
 つんつん頭を湯にぬらしたままの悠人の表情が、千歳の顔を見て気まずげにゆがんだ。
 エトランジェ二人は、お互いのエスペリアとの関係ほどではないにせよ、あまりよろしいとはいえない状態が続いている。ある意味、ハイペリアにいたころと 変わりないともいえなくもないが、現状はそれを許すほど甘いものではないのだ。

「あっ、あのっ。もうしわけありません。ユートさまのユート様のお清めのお時間とは知らず・・・・・・」
「―――隊長殿。用が済んでいるのなら、とっととどいてくださらないかしら?」
「あっ・・・・・・っと! わ、悪い!」
 正反対の感情がこめられた二つの言葉に、戸口で固まっていた悠人はあわててそこを飛びのく様にして離れた。

 千歳はその姿を情けなく思い、ちっと忌々しげに舌打ちした。
 エスペリアが以前より堅苦しくなってしまったのはこいつのせいだ、と思うことで千歳の悠人への印象はより悪くなっていた。正確には悠人の持つ永遠真剣 『求め』のせいなのだが、その剣を持つ以上、連帯責任は付き物だ。少なくとも、千歳はそう思っている。
 その元凶も、この男がいつもこんな風に優柔不断だからなのだと、千歳はいらいらとした気分を隠さずに口を開いた。
「もっとしゃっきりしたらどう? 私たちを率いる『人間』が、そんな風でいていいと思ってるわけ?」

 人間、を強調したのは、エスペリアが悠人たちに口をすっぱくして『人間』と『スピリット』は違うのだ、と言い続けていることをからめた嫌味だった。
 悠人はそれがわかったのか、ぐ、と眉をしかめたが、喉元まで出た言葉は飲み込んでいた。
 だが、そんなことすらも癇にさわり、千歳はさらに食ってかかる。
「なによ。言いたいことがあったら、はっきり言ったらどうなの? それともあんた、自分の気持ちも伝えずに、他人にはもっと自分に気を使えとでも言いたい の?」
「なんだと・・・・・・・」
 あまりな言い草に、悠人の顔にも怒気が見え始める。
「あら、違っているのかしら。いつまでもいつまでも、うじうじしていらっしゃる隊長殿?」
「千歳、お前っ!」
 今度は悠人が千歳に食ってかかろうとする。が、その前に千歳が加えた一言が、その流れを再び一転させた。

「はっ! なによ、そんな顔もできるんじゃない。なんでそれくらいの勢いで、エスペリアに一言いう事もできないのよっ!」
「っ!」
 エスペリアの名に、悠人の肩がびくっと震える。表情が凍ったように固まり、声を忘れたように口が止まった。
 その反応は、千歳が予測していたよりはるかに不自然だった。
「・・・・・・悠人?」
 千歳はいぶかしげに悠人の顔を見たが、不意に嫌な予感にとらわれた。

「―――まさか、またエスペリアと何かあったっていうんじゃないでしょうね」

 ぐ、と押し黙る、その表情が何よりの答えだった。
 抑えられないため息を吐き出すと、千歳は続いて湧き上がってきた怒りに任せ悠人の襟をねじり上げるようにつかんだ。
「あんた、一体・・・・・・どこまで事態をこじらせれば気がすむのよっ!? あの娘との距離を縮めようと努力もせず、あれからずっと、単に状況に流されて いるだけじゃない!!」
「・・・・・・ああ、お前の言うとおりだよ」
 悠人は千歳の怒りを正面から受け止め、うめくようにうなだれた。
「俺が、もっとしっかりしていれば・・・・・・」
「わかってるんなら、手加減はいらないわよね?」
 悠人が後悔しているのは、だれの目にも明らかだろう。いさぎよしと言えばよく聞こえるが、千歳のこの怒りはそんなものでは納まりがつかなかった。
 ぐっと腰だめに拳を握る。いつぞやの晩よりも、拳にはさらに力が入っている。
「歯ァ食いしばりなさい。そのスカした面、もう一回ブン殴って―――」

「―――やめてくださいっ!!」

 ―――がしっ!
 振り上げられようとしていた拳が、体当たりするようにしがみついてきたヘリオンによって止められた。
「ヘリオン、離しなさい」
「イヤですっ! チトセ様、どうか落ち着いてくださいよぉっ」
「私は落ち着いているわ。これ以上ないくらいにね」
「・・・・・・いいんだ、ヘリオン。そいつは間違ってない」
 悠人の言葉にも、ヘリオンは目に涙をためたまま首をぶんぶんと横にふった。
「ダメですよぉっ!! ユート様、そんなにつらそうなお顔をされてるのに・・・・・・エスペリアさんだって、そんなこと望んでませんっ!」
「そうでしょうね。それでも私は、あのエスペリアがこの優柔不断男のせいで、あんなにつらそうな顔し続けるのに、いいかげん我慢の限界なのよっ!!」
「―――でもっ!!」
 千歳に手を振り払われたヘリオンは、普段の大人しさからは想像もつかないほど大きな声で叫んだ。


「チトセ様だって、つらそうなお顔をされてるんじゃないですかぁっ! それ以上ユート様を責められたら、今度はお二人がもっとつらくなっちゃいます よぉっ!! わたしっ・・・・・・わたしっ、そんなのイヤですぅ・・・・・・ふえっ」


 ぽろ、とこぼれた涙が堰を切ったようにヘリオンの顔をつたい始めた。
 うつむいて、両手で顔を隠しながら嗚咽を漏らす少女の姿に、千歳は頭に上っていた血がすとんと落ちた。
(・・・・・・くっ。 何やってるのよ、私はっ!!)
 こんな風にヘリオンを泣かせて。これではエスペリアを傷つけて、自分が罵倒した悠人とどこが違うというのか。
 枯れ葉が落ちるように力なく、千歳の腕が悠人の襟から離れる。
 悠人の方も、ヘリオンの姿に自責の念がさらに高まったのか、さらにつらそうな顔をしていた。
 腕は下ろしても、気持ちの方はいまだに収まりがつかぬままに。千歳は奥歯をかみ締めて、その場を足音も荒く去ることしかできなかった。


 スピリットの館 裏庭

 千歳は家出をした子供のように外に飛び出したものの、結局はどこに行く場所があるわけでもなく、やはり家出をした子供のようにすごすごとスピリットの館 に戻ってきていた。
 ヘリオンはもう帰ったらしく、『追憶』を介して感じる神剣の気配はオルファをのぞいた住民三人のものしかない。
「・・・・・・あら?」
 千歳はその中の、よく知った気配が意外な場所にあることを知り、ついその方向へ足を伸ばした。

 そこは館の裏手にある、広い花壇が備えられた場所だった。
 色とりどりとまではいかずとも、つつましい花をつけたもの、つぼみを膨らましているもの、青々とした葉をしげらせたものなど、そこではどの植物も自然な ままの姿で育っていて、見る者の心を和ませてくれる。
 ただ、しばらく放っておかれたせいで、いくつかの花はしおれ始め、ところどころに雑草の芽が見え隠れしている。もともと、こういった場所に植えられるも のたちは多かれ少なかれ手入れをしなければならないものばかりなのだから。
 そう。今、ある人物がしゃがみこみ、千歳に背を向けてその一つ一つをいたわる様にして世話をしているように。

「エスペリア・・・・・・」
 千歳の小さな呼びかけに、栗色の髪がくるりと振り返った。大きな翠玉の目が、驚きにさらに見開かれている。
「あ・・・・・・・っ。チトセ、様?」
 エスペリアはあわてたように立ち上がりながら振り返った。いつもの清楚なものとは違い、土仕事用なのであろう丈夫そうな布地のエプロンがわずかな風を受 けて揺れる。
 二人はしばらくの間、意味もなく黙り込んでしまった。
 千歳はエスペリアにいろいろ言いたいことがあるのに、いざこうなるとふさぎんでしまう自分に腹が立った。これでは罵詈雑言を浴びせかけることができた悠 人の時の方がまだましだ。
 幸いエスペリアの方から口を開くこともなかったので、千歳はさんざん考えて、やっとのどの奥から言葉を搾り出した。

「あの・・・・・・花壇は、どう?」

 言ってから、千歳はひたすら自分の間抜けな口を呪った。
 違う、こんなことを聞きたいんじゃない。花壇なんて二の次、三の次でしょうが。などと心の中で頭をかきむしっていると、エスペリアが律儀に返事をしてき た。
「あ。は、はい。やはりしばらく手入れをしていませんでしたから、やはり雑草が・・・・・・こういうのは、根から取らないと後からまた出てきてしまいます し・・・・・・」
 言っていることはまともなのだが、あたふたしているエスペリアの表情から見て、以外に彼女の頭の中も千歳と似たり寄ったりになっているようだった。

「手伝わせてもらっても、いいかしら?」
 千歳が先ほどよりはましな調子で尋ねたが、返ってきた反応は芳しくなかった。
「いっ、いいえ、結構です。どうぞチトセ様は、館でお待ちになっていてください。これが終わったら、すぐに夕食を・・・・・・」
 急に手元に視線を落として土のついた手をぬぐい始めたエスペリアに、千歳は言いようもない失望感を覚えた。

「・・・・・・どうして?」
 悔しくて、眉間に力が入るのが自分でも分かった。
「なんで、一人で抱えこもうとするの?」
「・・・・・・・・・」
 攻めるような千歳の言葉に、エスペリアはさらに顔を背ける。それ以上聞くな、とでも言うように。
「私が近くにいるのも嫌なの? 『人間の』私が、嫌いになった?」
「違います! ・・・・・・私は、そんな」
「じゃあ、なんなのよ・・・・・・急に私もあいつも突き放して、これからは好き勝手にしろっていうのは」
「・・・・・・お二人は、私たちとは違うのですから。それが、自然なことなんです」
 エスペリアは、子供に言い聞かせるように千歳にそう言った。だが、千歳にはそんな言葉で納得がいくはずもない。

「何が違うのよ。あなたも、私も、オルファたちも。どこも変わらないわ。神剣を持たされて、戦わされて・・・・・・そして敵を」
 その言葉をさえぎる形で、エスペリアが強い調子で口を挟んだ。
「違います! お二人がそうされるのは、カオリ様をお守りするためなのでしょう? 私たちの場合は、ただ、それが自然なんです。戦うことが。神剣と共にあ ることが!」
「じゃあ何? あなたがあいつに・・・・・・・汚されることも、それが自然だっていうの!?」
 千歳はそう言ってしまってから、先ほどとは比べ物にならない後悔に襲われた。しかし、一方のエスペリアはなおも落ち着いた様子でしゃべっている。
「―――そうです。ユート様はまだ、戦いにお慣れではありません。それを支えるのは当然、スピリットである私の務めなのですから。今は違っても、いずれ ユート様もお慣れになるまで、私はあの方に尽くさなければならないのです」
 エスペリアの言葉は、悠人がこれから変わっていくこと―――無論、よい意味ではない変化を果たしていくだろうことは確定事項であるとでもいいそうな様子 だった。

 千歳でも、兵士が戦場に出された初めのころは精神がたかぶる事がままにあり、それを性的な衝動として発散することで安定させようとすることがあるとは 知っている。だが、それを受け入れることなどできようはずもない。
「なによ、それ・・・・・・。そんなこと、あなたの義務でもなんでもないじゃない・・・・・・」
 千歳は大きく息を吐いた。呆れとも、落胆ともとれるため息だった。
「そんなことを続けていたら・・・・・・あなた、いつか壊れちゃうわよ」
「・・・・・・・・・」
 エスペリアは千歳の言葉に、ふっとはかなげに微笑んでみせた。
「かまいません。もとよりスピリットには、いくらでもかわりがいるのですから」
 その言葉に、千歳の我慢は限界に達した。つかつかと歩みよってエスペリアの横、花壇のふちに膝をついた。
 スカートが柔らかな土に沈み、わずかな水がしみこむのがわかった。
「チ、チトセ様!? お召し物が汚れてしまいます!」
 エスペリアは突然の千歳の奇行にあわてた声を上げる。
 しかし、千歳はかまわずに花壇の中に手を伸ばし、雑草を抜き始めた。
「かわりがいれば・・・・・・どうだっていうのよ」
「チトセ様・・・・・・?」
 吐きすてる様な千歳の声に、叱責を予想していたエスペリアは困惑するしかない。

「かわりでいいのなら・・・・・・どうして、あなたはここの手入れをするの? バーンライトが落ちてからなら、この花壇の花を根こそぎ入れ替えられるで しょう? 枯れるまで放っておいて、それからもっときれいなものを探す・・・・・・あなたがそうしないのは、なぜ?」
「―――それ、は」
 わずかに言いよどむエスペリアに、千歳は手を休めずに続ける。
「かわりがいるから、見捨ててもいいんじゃないでしょう。かわりがいるから、使いつぶせばいいんじゃないでしょう? ―――この花が生きているから、世話 をする。その意味を・・・・・・あなたは、知っているのに」
 力を入れすぎて、引き抜かれた雑草の根が半ばでぷつりと切れる。土に残ったそれを、千歳は素手で掘り出した。

「――――――悔しい」

 ぽつり、と千歳は呟いた。
「あなたに届く言葉を知らないことが・・・・・・悔しくてしょうがないわ」
 しっかりと根の張ったものに狙いをつけて、引き抜く。千歳は鬱憤を晴らすように、手ごわい雑草だけに狙いを絞った。
「・・・・・・・・・」
 エスペリアは、ぎゅっと前掛けを握り締めたままでうつむく。唇が二度、三度ほど振るえ、そしてやっと決心がついたのか顔を上げて何かを言おうとした。
 ―――が、その言葉は千歳の手の中のものを目にした瞬間に、別のものへと切り替わった。

「チ、チトセ様、それは雑草ではありません! 香草です!!」
「!? ごっ、ごめんなさいっ!!」
 千歳はあわてて引き抜いたばかりの草を元に戻そうと土を彫りかえし始める。が、そこは別の香草の苗があったらしく、エスペリアの声にならない悲鳴があ がった。
 結局、それまでの話はそれでうやむやになってしまい、千歳はエスペリアを説得することに失敗した。

 そうして上層部に禍根が残ったまま、ついにスピリット隊はバーンライト首都攻略の命を正式に受けることになった。自分たちのおける状況にだれもが不安を 覚えながらも、スピリットたちはそれぞれの神剣を手に戦場へ赴く。
 ラキオスとバーンライトの戦争は、今、終止符を打たれようとしていた。


 ※※※


 バーンライト首都サモドア周辺

 最後の抵抗とばかりに両国をつなぐ街道を取り戻そうと、バーンライトはなけなしのスピリットたちを投じた。だが、一度制圧された土地を再び取り戻すには いたらず、どの部隊も悠人たちによって殲滅された。
 そしてついに、ラキオス軍は首都サモドアの姿が視認できるほどの距離にまで近づいたのだった。

「・・・・・・確認したわ、外壁近くにいるのと城にいるのが半数ずつ。陣形から見て、生き残りのブラックスピリットで攻撃と同時に特攻を仕掛けるつもりの ようね」
 『追憶』に意識を傾けながら、千歳が遠くサモドアの影を凝視する。その視界に重なるようにして、『追憶』の意識から運ばれる他の神剣の気配が光点となっ て浮かび上がっていた。
「半数ずつ、か・・・・・・。たしか、外壁に門があるのはこの西に一つと東と北に三つ、だったよな?」
「はい。その内、北門の外には、ラキオス軍の方々が突入を控えておられます」
 悠人の問いに、エスペリアが事務的に答える。
 彼女が言う『ラキオス軍』は、無論スピリットたちのことではない。人間のみで構成された、戦地となる都市の住民の保護と敵国家の主要人物捕縛を任務とし た者たちの集まりである。
 先のリモドアでの惨事を踏まえ、レスティーナ王女が召集した特別部隊ともいえるものであるが、その能力のほどはあやしいものだというのがスピリットたち の暗黙の了解だった。
「北で戦闘行為をするな、とのことだし。今から西に回っていたら作戦決行は明日になってしまうわ。正面対決になるけど、私たちが取れるのはこの西門からだ けね」
「ああ・・・・・・しかたないな。じゃあ、打ち合わせどおり・・・・・・」
 悠人たちが話をまとめようとしていたところに、背後からぱたぱた、と誰かがかけよってくる足音が聞こえてきた。

「パパ! ママ〜〜〜っ!」
 身長ほどもある双剣を肩に担ぎ上げ、こちらに近づく者の正体にいち早く気がついたのは千歳だった。
「―――オルファ?」
「えへへ〜〜〜っ♪ ママっ!」
 オルファは勢いを殺さずに、ぶつかるように千歳に抱きついてきた。千歳は少し重心を落とすことで、身じろぎすることなく小さな体を受け止める。

 その様子に、エスペリアが待機を命じられていたオルファの勝手な行動を責めんと、きりりと眉を吊り上げた。
「こら、オルファ! ちゃんと、あちらで待っていなくてはだめでしょう!」
「いや、かまわないだろ? エスペリア、作戦は予定通りでいく。みんなを部隊に分けておいてくれ」
 悠人がエスペリアの説教を封じるように、会話を締めくくろうとする。千歳としても、悠人の言うことに異議はなかったので口を挟むことはしなかった。
 少しためらいをみせたものの、エスペリアも同じ結論に達したのか、それでは皆に指示を出してまいります、とだけ言い残してその場を去っていった。

 少し間が空いたけれど、オルファの笑顔はそのままだった。
 このような時に、よほどうれしいことでもあったのかと悠人たちは不思議に思う。
「ずいぶんご機嫌ね? なにかあったの、オルファ?」
「へへ〜♪ オルファ、今日でねぇ〜・・・・・・ん〜、クトラに、ラースでラトラロスで・・・・・・」
 指折りしながら何かの数を数え始めるオルファに何事かと二人が首をかしげるが、その答えはすぐにでた。

「うん! これまででもう、ストラロスくらいは敵さん殺したんだよ♪ ほめてほめて!」

 ストラロス。こちらの言語で百を意味する、言葉。百、そのオルファの言葉が持つ重さにエトランジェ二人がぎくりと固まった。
 いやでもこの近くであった戦闘の、オルファが嬉々として敵をなぶり殺していた姿が脳裏によみがえってしまう。
 だが、と千歳はその情景を頭から振り払い、オルファの目線にあわせて軽くしゃがみこんだ。
「―――ねぇ、オルファ」
「? なぁに、ママ?」
 千歳の静かな呼びかけに、オルファはあどけない笑顔を返す。すこしでも笑顔をと己に命じながら、千歳はオルファの頬をなでた。

「ストラト、この数が何かわかる?」
「えっ? う〜ん・・・・・・。あっ。この前、オルファがここで殺した敵さんの数?」
 十二。千歳が言ったのは、百に比べればとるにたりぬ数。けれども少なくとも千歳にとっては、大きな意味のある数であった。
「いいえ・・・・・・私たち、いっしょに戦ったみんなの数。だれも死ななかったのは、今みんなが生きていられるのは、オルファが私たちといっしょにいてく れたからよ。――― 私には、あなたが殺してきた敵の数よりも、そちらの方が大切に思えるの」
 千歳はぎゅ、とオルファを抱きしめた。
 すっぽりと腕の中に入る小さな体を、できる限り優しく抱きしめる。

「ありがとう、オルファ・・・・・・私たちを守ってくれて。だから必ず、あなたは私が守るから」

 千歳はそう、自分にも言い聞かせてからオルファの体を離した。
「私は、エスペリアを手伝いに行くから。『隊長さん』との話がすんだら、すぐに戻ってくるのよ」
 そういうと、千歳はオルファには気づかれぬよう、悠人に鋭い一瞥をくれた。
 彼が、オルファの行為を許容できてはいないことは知っている。だがそのことで彼女を責めるならば、海野千歳は高嶺悠人を決して許さない。なぜなら、そ の行為を罪と見るならば、それを止めぬばかりか結局は必要とする自分たちは、それ以上の腐敗を心に抱えていることになるのだから。

 最後にもう一度さらさらの真紅の髪を一撫でして、千歳はエスペリアの元へ行ってしまった。
 千歳に抱きしめられたのがうれしかったのか頬を赤く染めていたオルファが、悠人にも同様のことをねだるように見上げた。
 しかし、悠人はオルファの願いに応えることができなかった。頭の中で己の倫理観と千歳に突きつけられた言葉とが入り乱れ、悠人を葛藤させる。
 なかなか言葉を発しようとしない悠人に不安を抱いたのか、浮かぬ顔でオルファが尋ねかけた。
「パパは・・・・・・ほめてくれないの? まだ、たりない?」
「・・・・・・っ。殺すことに、たりるもたりないも、ない」
 千歳は必要だというけれど、それでも、悠人には。
「できるなら。そんなことはしないほうが、いいんだよ・・・・・・」
「どうして? オルファ、敵さん殺さなきゃほめてもらえないよ? ママだって、ほめてくれたよ?」
「あいつが言ったのはそんなことじゃない!!」
 悠人は反射的に怒鳴ってしまっていた。
「あいつ、――― 千歳だって、オルファが敵を殺したことをほめたんじゃない。それに、やっぱり殺さないほうが・・・・・・いいに決まっているんだ」
 オルファは納得がいかないと、悠人の言葉に真剣になって反論する。
「でもっ・・・・・・・パパも、ママも、カオリも、オルファ守りたいもん。それには殺さなくちゃだめなんだよ? そうしなくちゃ、負けちゃうもん」
 悠人はその言葉に、あのオルファの凶行の後、それを許容して自分に責められた千歳が、逆に責めるように悠人に問いつめた言葉を思い出した。

『あの子は、アセリアみたいに剣のために戦っているんじゃない・・・・・・ましてや、エスペリアみたいに義務や命令のために戦っているのでもない! それ が、あんたにはまだわからないの!?』

 オルファが戦う理由はあくまでも『自分たち』であるのだろうと、千歳はそう言っていた。その言葉を受け止めていたのに、その意味を受け止めていなかった 自分を知って悠人は衝撃を受ける。
「それでも・・・・・・ダメ?」
 たった一人、取り残されたように悲しそうにこちらを見上げるオルファの視線を受けて、悠人はぐっと自分の爪を手のひらに食いこませた。腰に佩いた『求 め』が、ずしりと重さを増したような気がする。
 自分ひとりが無理やり戦場に駆り出されているのではないのだ、悠人はそのことを、ようやく本当の意味でわかった気がした。

「・・・・・・いいんだ、オルファ。忘れてくれ」
 悠人は静かに言った。
 千歳と同じことはできず、それでも自分ができることをしようと、オルファの肩に両手を置いた。
「いつか、オルファも・・・・・・それに、俺にもわかる時がくると思うから」
 問題を先延ばしにしているだけかもしれない。しかしそれでも悠人は、自分の力で一歩を乗り越えた。

「だから、今は戦おう」

 悠人の声にオルファが目を見張り、おずおずと尋ねてくる。
「・・・・・・いいの?」
「ああ!」
「よかった!!」
 オルファはぴょん、と跳びあがって喜ぶ。
 ほめてもらえなかったことよりも、悠人が元気を取り戻してくれたことがうれしかったようだ。

(俺は大切なものを守るのに、どれだけのものを壊していくんだろう。・・・・・・いや、今は考えるな!)

 考えるべきことは他にある。
 戦わなければならない。そしてアセリアにもエスペリアにも、伝えたいことがある。言葉にしなければ伝わらないことの重要さを、悠人はようやく理解するこ とができた。そして、今までそれをしようとしなかった自分の不甲斐なさも。
(これは・・・・・・あいつがキれるのも当たり前だよな)
 何度も自分を睨みつけ、時にはつかみ掛かってきた少女の怒りを思い出して、悠人は少しだけ失笑する。
「この戦いが終わったら・・・・・・必ず」
 悠人はそう自分に言い聞かせて、オルファを伴い陣へと戻っていった。


 ―――そして、その数時間後。ついに決戦の幕が開かれた。




 城門へと疾走するラキオス勢。その距離がある程度まで迫った時、サモドアの城壁からいくつもの影が空へと飛び立った。
 上昇はせず、すぐに低空を高速で飛び始めるのはブラックスピリットたちの特徴だ。

「マナよ、我が求めに応じよ。雷槌となりて敵を貫けっ!」
「『理念』のオルファリルが命じる。 その姿を豪雨と変え、敵に降り注げ〜〜っ!」
「・・・・・・マナよ、炎の雨となれ」
 ヒミカ、オルファ、ナナルゥ。三人のレッドスピリットたちが速度を落とし、ほぼ同時に詠唱を始める。

 中央を駆けていたアセリアたちがウィングハイロゥを展開して宙に飛び立ち、その上下から開放された神剣魔法が同時にバーンライトのスピリットたちに襲い 掛かった。
 上空にいたものは無数の飛礫に打たれて体制を崩し、地を縫うように移動していたものは炎をまとった電撃の余波を受けて吹き飛ばされる。
 同時に沸き起こった土煙に備え、悠人たちの速度が落ちる。先制攻撃は成功したものの、すべての敵を殲滅しえるものではないのは明確なのだから。
 案の定、すぐに煙の一端が波打ったかと思うと、そこから弾けるように影が襲い掛かってきた。

「イヤアアアアァァアッ!」
 真っ先に前に出たのは、『存在』を振り上げたアセリアだった。
 遅れて悠人、千歳、ヘリオンが続き、それぞれが一体のスピリットを迎え撃つ。

 ―――キィン! キン! カ、キン!
 幾重にも重なる高速の剣の応酬に、高く短いテンポが戦場に鳴り響く。
「く・・・・・・っ!」
 『求め』を振るうものの、剣筋を予想されてかわされることに悠人は焦りかける。
 横薙ぎに放たれた居合いを受け止め、その反動で真後ろに跳んだ悠人はそのまま詠唱を始めた。

「マナよ、オーラへと姿を変えよっ! 我らに宿り、彼の者を薙ぎ払う力となれっ! ―――パッション!!」

 真紅の光芒が悠人の足元から湧き起こる。同時に、『求め』の力が大量に悠人の肉体に流れ込んだ。
 神剣の意識に同調し、敵の動きが鮮明にわかる。
 悠人は先ほどとは段違いの太刀筋で、敵の影を屠らんと吼えた。
「―――うおおおぉぉぉっ!!」

 ―――だんっ!
 気合に空気が、踏み込みに大地が震える。
 下段まで振り下ろされた『求め』が、刃先にしたたるマナに歓喜をあげた。
 一撃でしとめることはかなわなかったものの、確かな手ごたえを感じ取った悠人は息巻く。
「よし・・・・・・これならいけるっ!!」

 ―――キンッ! カ、カン! ズザッ!
 アセリアは技量、悠人は力で相手をねじ伏せるが、やがてそのいずれをも持たぬヘリオンがじわりじわりと劣勢に追い込まれ始めた。
「わっ! わっ!? わ、わぁ〜っ!」
 パニックに陥りかけるヘリオン。『失望』の剣先が落ちたのを、敵は勝機ととり大きく剣を振りかぶる。
 と、そこへ。ひょう、と風を切るとともに飛んできたマナの短槍がスピリットの喉に突き立った。苦悶の表情に顔をゆがめることすら許されず、スピリットは マナの霧へと還った。

「ヘリオン! 怪我は!?」
「すっ、少しやられちゃいました・・・・・・っ!」
「なら、下がって牽制に回って!」
 ヘリオンへ援護を出した千歳は、次へエスペリアとセリアが抑えているスピリットたちへと向かう。
 ブラックスピリットの最大の武器であるスピードを見切ることができる千歳にとっては、彼女たちの相手は比較的たやすかった。紙一重で交わす、とはいかな くとも皮膚を斬らせて必殺の一撃を急所に叩き込むことができたからだ。

 数十分にも満たぬうちに、この場での決着はついた。生き残った敵はハイロゥの力を全開にして、門の向こうへと撤退を始める。
 ハリオンは傷を折ったものの応急処置を施そうとするが、それよりも早く戦いの余波で破壊された城門に向き合った者がいた。
 ―――アセリアだ。

「・・・・・・・・・突入する」

 その言葉に、エスペリアがぎょっと目を見張る。半数を倒したものの、いまだ都市部―――サモドアの城には相手にしていたのと同数のスピリットたちが待ち 構えているのだ。
「アセリアっ、早まってはいけません! 待ちなさい!」
 必死の制止もむなしく、アセリアの翼が広がる。エスペリアが走りよろうとする前に、その影はすでに宙を舞っていた。
 それに触発されて、オルファが『理想』を手に続く。
「オルファのほうがい〜っぱい殺しちゃうもん♪ アセリアお姉ちゃんに負けないんだから!」
「オルファっ!? ――― くっ。ヒミカ、セリア、北門の方は任せたわよ!」
 小さな背中を追うようにして、ハリオンから治癒を受けようとしていた千歳が走り出す。その腕には無数の深い血痕があったが、本人がそれを省みることはな かった。

「待てっ!! やめるんだ、アセリアっ! オルファっ! 千歳っ!」
 悠人の叫びも、三人に届くことはない。
 一路、城門のあった場所から見える巨大な建物の影に向かって走り去ってしまった。
「ユート様! アセリアを追いましょう! あの娘は、傷つくことを恐れません。剣の声に純粋すぎますっ!」
「くそっ、何でそんな危険に飛び込むんだ! 死にたいのかよっ!?」
 悠人とエスペリアはお互いの永遠神剣を携え、共に走り出した。


 サモドア城内

 バーンライト城の本丸、その玄関口でご丁寧にも敵はまとまってアセリアたちを待ち受けていた。石畳の広がった広場に広がるスピリットたち、その数は八。
 今まで戦ってきたスピリットたちよりも、そして他の城の各所に点在するスピリットたちよりも精練された部隊であることは相対したときからわかっていた。
 本当ならば千歳はオルファを捕まえてエスペリアたちの下に戻るのが上策だったのであろうが、そうなればアセリアが単身でこの部隊とやりあうことになって しま う。
 千歳は傷む両腕に活を入れて、最初から全力で向かうことを決めた。
「―――はあぁぁぁぁっ!」

 ―――キイイィィィン!!

 鋭い『追憶』のかもし出す共鳴音と共に、双肩に巨大な光が生まれる。
 龍の翼。スピリットたちのそれよりも巨大で、凶悪なシルエットをしたハイロゥが展開された。
 始めてみるエトランジェの異能に、スピリットたちの間に動揺が走る。
 その隙を逃すはずもなく、アセリアと千歳が同時に攻撃を仕掛けた。

「ハアアァァァアッ!!」
「シャアアアァァッ!!」
 速度は千歳が上、アセリアを抜いて一気に敵へと迫る。
 激突の瞬間、さらにスピードを上げて敵の間をかいくぐるように『追憶』を振るった。
 足を薙ぎ、手首を打ち据えて。最後に首を狙った一撃を振るうが、それは敵が散開したために不発に終わる。
 が、千歳から離れようとした所に待ち構えていたアセリアが、そのスピリットに容赦なく『存在』を振り下ろした。

 敵を蹴散らした千歳は、再び元いた場所へ戻った。
 オルファを小脇に抱え、今度は連携してこちらに向かってきた敵を迎え撃つ。
「オルファ、しっかりつかまって!」
「うんっ♪」
 千歳はドレイクハイロゥの力を、オルファが耐え切ることのできるぎりぎりまで落として敵の神剣の間をかいくぐった。

 一方のアセリアは敵の攻撃を神剣の腹と手甲でいなしつつ、対多の戦いにも臆することなく『存在』を振るい続ける。その動きに一遍の躊躇もなく、あたかも 剣を振るう場所に敵が吸い寄せられるような剣技を見せていた。
「―――ふっ!」
 ぎりぎりまで前方に伸ばしていた剣を手元に引き戻し、その反動で背後の敵を斬る。
 日本刀型のそれよりも肉厚な刃は、敵の防御をものともせずに肩から下へ打ち落とされた。
「カ、は・・・・・・っ!」
 短い呼気と共に、敵の姿が消える。これで二人目。
 いまだそこには三人のラキオス勢に対して六人のバーンライトのスピリットたちがいた。

「オルファ、神剣魔法を! ―――私に合わせて!」
「うん! わかった!!」
 千歳は一足に高く飛び上がり、一本の柱の上に飛び乗った。敵は千歳の姿を一瞬見失い、その隙に次なる策を講じる。
 オルファが詠唱を開始し、千歳はそれに続いた。
「マナよ、神剣の主として命じる。その姿を火球と変え・・・・・・」
「この場に集いし、マナへと告げる。真なる覇者の声を聞き・・・・・・」
 千歳の意識が、マナを介してオルファのそれへと重なる。本来の用途とは違い、今回の目的は魔力の上乗せ。展開される魔術の構成を把握、端末より介入し、 更なるマナを流し込む―――!

「敵を包み込め! ―――ふぁいあぼ〜るっ!」
「我が言霊とくだれっ! ―――ワードリバースっ!」

 二人の詠唱が終わると同時に、人の身の丈もあろうかというような炎の球が二人の頭上に現れる。出現と同時に、オルファはこちらに向かって飛び出してきた スピリットたちにむけて一気に撃ちだした。

 ―――業っ!!
 反動で千歳の体に後方に押し出されるほどの力が襲う。あえてその力に逆らわず、千歳は追撃を逃れることに成功した。
 地面に着弾すると同時に、石畳を舐めるように大輪の紅蓮の華が開いた。
 悲鳴。一人が火炎に飲みこまれたのを視界の隅に確認する。これで、あと五人。

 着地をし、体勢を整えようとしたその時。
 境地を脱した油断があったのか、千歳は足元に迫る影の気配に気がつくことができなかった。
―――主殿ッ!!―――
「っ、しまった!」
 『追憶』の警告も間に合わず、絡み付くように千歳にまとわりつく黒きマナ。逃れようとした時には遅く、衝撃が千歳の体を貫いた。

 ―――ギュウゥ・・・・・・ドンッ!!
「カ・・・・・・、はっ!」
「きゃっ!?」
 体を内から揺さぶられる、吐き気のするような衝撃に二人は立ちすくんでしまう。そこを、二人のブラックスピリットが同時に襲いかかって来た。
 今の状態では一人の攻撃をかわすことがやっと。二人目の剣に確実に貫かれる。
 千歳は片腕を犠牲にすることを覚悟した。
「くっ!」

 そこへ、飛来する細長い一つのシルエット。
 マナをまとったそれは、高速で回転しつつ千歳に迫ったスピリットの進行方向を通過していく。二人の連携が崩れ、大きな隙ができた。千歳のそれを逃すこと なく、二人の間を縫って難を逃れる。
 千歳を救ったもの―――槍型の永遠神剣『献身』は、その役目を果たすと自ら主の下へと飛来した。
「チトセ様! 大丈夫ですか!?」
「―――えぇ。ありがと、エスペリア」
 時間切れのためにドレイクハイロゥが背中から消えてのを感じながら、千歳は背後から駆け寄ってくる気配に礼を言い、オルファを下ろした。

 千歳に助けが入ったように、三対一のきわどい戦いを続けていたアセリアにも援護が届いた。
「アセリアっ! 無事か!?」
「・・・・・・ん」
 そっけなく、しかしいつもと変わりない反応に、悠人は少しだけ安心する。
 しかし、目立たなくともアセリアの腕はわずかに疲労に震えており、限界が近いのは明らかだった。
(でも。残った相手もかなり疲労しているみたいだし、これならいける・・・・・・かっ!?)
 悠人はわずかに余裕を覚えたが、次の瞬間『存在』の柄の一撃を腹にくらい、横に押し出された。

「ぐっ!? な、なにすんだよ、アセリア・・・・・・っ!」
 文句を言おうと顔を上げた瞬間、悪寒を感じて後ろに飛び退った。
 同時に、悠人がいた場所を薄闇色のマナが覆い、幾重もの針のようなものが飛び出してくる。
「神剣魔法・・・・・!? たしか、アイアンメイデンとかいったやつか!」
 一体のスピリットが驚愕する悠人に向けて追撃を仕掛けるが、とっさに展開したオーラフォトンの盾で受け止めることができた。
 攻撃をいなされ、後退しようとするスピリットに『求め』の分厚い刃が迫る。重心の移動が間に合わず、スピリットはその一撃をまともに受けた。

 アセリアもまた、自身を襲ったスピリットを返り討ちにして悠人の傍に降り立った。
「・・・・・・敵、まだいる。見つけられない」
「なんだって? ・・・・・・そいつが、さっきの神剣魔法を?」
「ん」
 交戦している者たちとは別の、伏兵の存在に悠人はぞっとした。神剣魔法を放ってからすぐさま気配を消したのか、周囲にはまったくそのような気配はないの だ。おそらくは、その立ち位置もそのつどに変えて攻撃しているのだろう。
 ただでさえ薄氷の上で戦っているようなものなのに、この上こちらのペースを崩されてはたまらない。

(―――アセリア、悠人!)
「わっ!? な、なんだ、千歳か!?」
 唐突に、千歳の声が頭の中に響いた。
 糸状のマナを介して、千歳が他者に声を伝えられることは知っていたが、いざやられてみるとかなり驚く。
 が、そんなことなどお構いなしに千歳は二人へ話しかけ、そして打ち切った。
(隠れているやつは私が始末する。あなたたちは戦いに集中して。 それじゃ!)
「大丈夫なのか? お前だって怪我が・・・・・・あっ、おい!? ・・・・・・くそっ、駄目か」
 悠人は千歳の一方的な言葉に不安と不満を感じたが、アセリアは変わらぬ様子で再び『存在』を握った。

「アセリア。まだ、いけるか?」
「・・・・・・敵は倒す。それだけ」
 信念というよりも、それが理だとでも言い出しそうなほどにアセリアの声は普通だった。
「そう、か。でも、無理はするな、よ・・・・・・って、おい!」
「・・・・・・いく!」
 言われた端から特攻を仕掛けるアセリア。悠人はこんな時であるというのにめまいを感じてしまう。
「―――ったく!」
 が、悠長にそんなものを感じている暇があるはずもなく、悠人は舌打ちを一つしてアセリアの後に続いた。

 千歳はスピリットの一人と相手をしながら、伏兵の位置を探っていた。こちらから見えぬということは、敵は背後にあるバーンライト場の物見台か何かに潜ん でいる可能性が高い。
 その場所さえつかめれば、勝機はある。千歳はあえて危険な賭けに出ることに決めた。
「たあああぁぁっ!」
 『追憶』を上段に振りかぶり、体当たりをするように敵と衝突をする。反り返った刃が胸を狙うのを許し、切っ先を真っ直ぐに突き出した。

 ―――ドンッ!!
 スピリットの右肩に、『追憶』がのめりこむ。斬ることはかなわずとも、骨は確実に破壊されていた。
 同時に、狙いがそれた敵の神剣が千歳の太ももを切り裂いた。すれ違い、地に足を着くと同時に千歳は激痛に膝を折る。
 狙い済ましたタイミングで、千歳に向けて地を這う闇が襲ってきた。
 危機的な状況。しかし千歳はそれに対してにい、と唇をゆがめて笑う。闇がこちらに届くよりも早く、こちらから糸状に伸ばしたマナを飛ばし闇の中に溶け込 ませた。
 ―――カテゴリー『ダークインパクト』、属性・黒、魔力確認、『追憶』との共鳴開始・・・・・・!
 千歳の脳裏に神剣魔法の構成が浮かぶ。それは、炎を操るそれよりもいびつであり、千歳からの介入を受け入れない造りをしていた。これではワードリバース で逆転させることはできない。
 だが、それは予測の範囲内。千歳は攻勢の把握を放棄し、その魔術が流れるマナの軌道を迅速にたどった。
「見つけた・・・・・・はぁっ!」
 残された力のすべてを搾り出し、一瞬だけドレイクハイロゥの力を再び呼び戻した。薄れかけるマナの翼を開き、力強く一つ、羽ばたいく。

 ―――ギュン・・・・・・ッ!
 押し出される体の後ろで、限界していたマナが再び崩れ落ちていく。同時に、千歳は自分の体を覆っていたマナの気配を、『追憶』を操作して完全に遮断し た。
 神剣の気配をたよりに戦闘を行うスピリットたちにとっては、千歳の気配が唐突に消えたように見えた者もいただろう。
 千歳は慣性に任せ、神剣魔法を逆探知した場所へ飛んだ。場所は、広場を見下ろす位置にあったバルコニーの一角。
 激痛を意識の隅に追いやって城の外壁を蹴り、千歳は敵の背後を取った。
「―――ッ!?」
 ここに来て敵は千歳に気がつくが、遅い。千歳は相手が防御に入る前に、攻撃を仕掛けていた。
「シャッ!」
 鋭く空気を吐き出し、指をそろえたまま腕を振るう。
 毒蛇の牙が如く折れた爪先が空を切る。接触の瞬間に神剣の力を集中させた五指は、深々と根元まで心臓に突き立った。
「が・・・・・・ふっ!」
 スピリットの口から血が吹き出す。信じられない、表情だけがその心を雄弁に語りながら、その姿を消していった。

 相手の死を確認するよりも早く、千歳は踏み込みの反動を抑えきれずにその場に倒れこんだ。
「は、はっ―――狂夢夜行の儀。思ったよりも使えそうね」
―――ふむ。発想を聞いた時はずいぶんと驚かされたものだが、ここまでの効果があるとはの・・・・・・とはいえ、乱用が禁物であることには変わりあるまい が―――
 千歳は血に染めたスカートを抑えてうずくまりながらも、珍しい『追憶』の手放しの賞賛に酔い、達成感に満たされた。
 狂夢夜行の儀。それは神剣の気配を断ち、一瞬の虚を突き体術で敵をしとめるという技だった。神剣同士の戦いになれたスピリットたちに対して千歳の体術は 十分に武器となることを、千歳はヘリオンの特訓につきあう中で学んでいたのだ。
―――しかし捨て身が過ぎたの、主殿。その様子では、傷口をふさいだ程度では立ち上がれまい?―――
「く・・・・・・確かにね。さすがにこれ以上は無理。悪いけど、後はみんなに任せるしかないか・・・・・・」
 自分の体から熱が引いていくのを感じながら、かすむ意識の中で千歳は歯軋りした。

 伏兵の攻撃がなくなったことで、悠人たちは一気に戦勝を覆した。
 悠人とアセリアは思う存分、自身の持てる最大の力をもって敵をしとめんとする。
「―――たああぁあぁぁっ!!」
 退路を断った一撃が、必殺のものとなってスピリットの身体を穿った。ばさり、とマナの霧が弾けるのを確認して、悠人は大きく息を吐き出す。
「よしっ、これであと二人っ! ・・・・・・アセリア、あぶないぞ!!」
 振り返った時、スピリットと斬り合うアセリアの背後から、もう一人が攻撃を仕掛けようとしている所だった。
 水のマナを盾として敵の攻撃を防いでいるアセリアには、それをかわす手段がない。
「くそっ・・・・・・間に合ってくれよっ!!」

 悠人は駆け出す。『求め』の力をさらに引き出して、なんとかアセリアの背後から繰り出される神剣をぎりぎりで受け止めた。
「くっ!?」
 アセリアが、始めてこちらに気がついて驚きの息を漏らす。それが隙となり、展開していた障壁が薄れた。
 機を逃さず、アセリアの首を狙って一閃が放たれる。
「―――防げッ!!」
 悠人の声に応じ、その腕から噴き出したオーラが敵の切っ先をアセリアからそらす。そのまま悠人はアセリアを抱きかかえるような形で飛び離れた。

「ユート様、ご無事ですか!」
「―――さがって! ここは私たちが引き受けます」
「ヒミカ、セリア!? ・・・・・・わかった、ここはまかせる!」
 そこへ、ようやく他の場所を制圧していたラキオスのスピリットたちが到着した。余力を残した者たちが悠人に代わり、残ったスピリットたちを相手してい く。

 腕の中から動こうとしないアセリアに悠人は不安を感じる。腕の中を見ると、浅い息をならすアセリアが苦しそうにのどを抑えていた。体力が限界に達したの だ。
「アセリア、平気か・・・・・・アセリアっ!?」
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・・・!」
「やばいっ・・・・・・。マナよ、オーラとなりて守りの力となれっ!」
 悠人は守護のオーラフォトンを展開し、アセリアに流し込む。治癒の力はないものの、悠人の使うオーラには気力を高める効果があった。
 しばらくしてアセリアの息が落ちつき始めたのを確認すると、悠人はアセリアをハリオンに任せてようとその姿を探した。
 だが。

「・・・・・・ッ。まだ、いける・・・・・・!」
 息を吹き返したとたん、アセリアは悠人の腕を押しのけた。
「おいっ!? アセリア、無茶だ!!」
「―――いく!!」
 アセリアは『存在』をしっかりと両手で握ると、悠人の腕を振りほどいて駆け出した。

「イヤアアァァアアアァァッ!!」

 裂帛の気合に圧され、残っていたブラックスピリットがアセリアの方を向く。鞘に収められた神剣の柄を握り、地を滑るようにして走り出した。
 ちょうど一人をしとめたヒミカとセリアは、それに割って入ることができない。
 先ほどの千歳と同じ、正面からの激突。
 十字に交錯した神剣が、その刃の触れ合う音を出すことは―――なかった。

 ―――ドシュッ!!

 二つの影が一つに重なる。
 あたかもお互いを支えあうかのような姿勢で、二人は静止した。
 思わず悠人がアセリアの名を叫びかける。
 その時、アセリアの前でマナが弾けた。支えをなくしたアセリアは、前のめりに倒れかけて膝をつく。
 最後の、バーンライト軍スピリット隊が倒れたのだ。

 悠人は背後から突如湧き起こった歓声に、思わず振り返った。
 ヒミカたちが北門から招きいれた兵士たちが、そこにいた。
 ラキオスのスピリットたちによってバーンライトが落ちたことを知るや否や、彼らは我先にと城へと詰めかけた。
 その視界には、剣に体重を預けて息をつく少女たちの姿はない。
 やかましく周囲で上げられる声にしばし呆然としていた悠人は、すぐに自分がしなければならぬことを思い出した。

「アセリア、大丈夫かっ! どこか斬られたんじゃないよな!?」
 駆け寄って見ると、アセリアの近くから気化しているマナは彼女自身のものでなく、敵の血がマナへと変わっていることが見てとれた。
「よかった、怪我はないんだな。・・・・・・ほら、つかまれよ」
「・・・・・・いい」
 差し出された腕には目もくれず、しかしアセリアは自分で立ち上がろうとはしない。
 やはりその身に大きな負担が残っていることがわかり、悠人は先ほどのアセリアの無謀に改めて腹が立ち始めた。

「いくらなんでも、無鉄砲すぎるぞ!」
 眉を吊り上げての一喝にも、アセリアは身じろぎもせずそれをぼうっと聞いていた。
「いつまでもあんなこと繰り返したら・・・・・・いつか、死ぬぞ」
「・・・・・・べつに、いい」
 顔も上げずに返されたぞんざいな言葉は、ふてくされた子供のようだと悠人には思えた。
 呆れ半分の悠人のそばに、近づいてきたエスペリアが厳しくアセリアをたしなめた。
「アセリア、ユート様に対して失礼じゃありませんか。ユート様は私たちの主なのですよ」
「・・・・・・・・・」
「ユート様の言いつけは、聞かなければいけません」
「―――エスペリア、いいんだ。俺は気にしていないんだから」
 何も言わないアセリアに代わって悠人は言うが、今のエスペリアには火に油だった。
「しかし、ユート様。隊長命令を、主人の命令を聞かないなど、スピリットにとってあってはならないことなのです。―――私たちは、戦いのために存在してい るのですから」
 悠人はその言葉をつらく、また悲しく思って視線を落とす。
 死んでもかまわない、戦いのための存在。その悠人に突きつけられる両方は、決して彼と相容れるものではないのだから。

「―――それなら。あなたも『隊長殿』の命令は聞かなくちゃいけないわよね、エスペリア?」
 城の玄関からハリオンに肩を貸されながら現れた千歳が、悪戯な調子を含んだ声音でそう言った。その身体の傷は、屈指の治癒魔法の使い手であるハリオンに よって全快しているが、深かった太ももの傷痕はいまだ引きつるような感じが残っていた。
 『そうでしょう?』とでもいうように悠人の目をちらりと一瞥し、悠人も彼女の意図を察して小さく頷く。
「ああ・・・・・・エスペリア、悪いけど黙っていてくれ」
「・・・・・・は、い。申しわけ、ありません」
 一歩退くエスペリアの肩を、近づいてきた千歳の手がそっと置かれた。もう片方の手には、それにしがみつくオルファの姿がある。

 悠人は一つ、息をつくと静かにアセリアに話しかけた。
「なぁ、アセリア。俺はまだ、アセリアのことはよくわからない。エスペリアのことも、オルファのことも、それに千歳のことだってそうだ」
 叱責でも、助言でもない悠人の言葉。
 始めて自分に与えられる言葉に、アセリアがわずかに反応した。
「でもさ、俺・・・・・・この世界に来てから、アセリアやエスペリアに助けられて、オルファには励まされた。・・・・・・千歳には、けっこうきつい喝も入 れられたけど」
 最後だけは余計だ、と千歳が苦虫を噛み潰したような顔をする。

「本当に、感謝しているんだ。千歳が言っていた意味が、やっと少し解かった・・・・・・俺たちが生きているのは、みんなのおかげなんだ」
「・・・・・・ユート様」
「パパ・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
 オルファがぎゅっと千歳の手を強く握りしめたので、千歳はそっとそれに応えた。
 悠人は今、そこにいる者たちの顔を見渡す。共に戦い、ここまで来た者たちの顔を。
 ここに今、自分がいるのは自分の力ではないことが、痛いほどにわかる。そして、それが元の世界でも同じだったことを。
「まだ、会ったばかりだから。俺はみんなのことをもっと知りたいんだと思う・・・・・・えっと、うまく言えないけど」
 困ったと悩み始める悠人の背中に、鋭い殺気が刺さる。
 ここまで来て棚上げにしやがったらただじゃすまないという、千歳からの無言の脅迫だった。

 背筋に走る悪寒を振り払い、気を取り直して悠人はアセリアに向かい合った。
「アセリア、確かに俺たちは戦える。でも、それだけじゃないはずなんだ。―――アセリアの手だって、ただ剣を握るためだけにあるんじゃない。俺は、そう 思ってる」
「・・・・・・わたしの、て?」
 両手で握り締められていた『存在』から、その片方がアセリアの目の前に持ち上げられた。
「俺たちはこの世界の人間の言うとおりに戦って、たくさんのスピリットたちと殺しあってきている。そんな俺が・・・・・・俺たちが、こんなことを願っても いいかわからないけど」
 悠人はしっかりとした口調で、その言葉を口にした。

「俺は、アセリアに死んでほしくないんだ」

 そのまま、悠人は再び顔を周囲に巡らせる。
「もちろん、エスペリアも、オルファも、千歳も・・・・・・他のみんなだってそうだ」
 自分の親が死んでいった、佳織の親が死んでいった。もうこれ以上、自分の周りで死んでいく人間なんて見たくない。
「もう、嫌なんだよ。俺の近い人たちが死ぬのは」
 それは独善的であったが、限りなく純粋な願いでもあった。

「ユートは・・・・・・わたしに生きていてほしいのか?」
 アセリアが、静かに尋ねる。
 神剣のことにしか興味を示さない少女、その彼女が始めて悠人に明確な意思を持って尋ねられた質問だった。
「わたしは戦うことしか知らない。そのために、生きている。消滅するまで戦う・・・・・・それが、私」
「そんな寂しいこと、言うなよ!」
 悠人のその言葉は怒りからのものではなく、嘆願であった。
「殺すためだけに生まれて、戦って・・・・・・死ぬために生きるなんて。そんなの、哀しすぎる」
「戦うこと・・・・・・それ以外にも、わたしの生きる必要がある?」
「・・・・・・あぁ。きっと、何かあるはずなんだ」
 悠人にだって、実際のところなどわからない。ただそうであって欲しいという願いの意味が強かったが、今はそれでもかまわなかった。

「じゃあ、わたしは・・・・・・何をすればいい?」
「・・・・・・それは、俺にもわからない。きっと、アセリアにしかわからないことなんだって思う。俺は、佳織を幸せにするために生きようと思う。今は、守 るために剣を取る」
 『求め』が、それでいい、とでも言うように震える。うるさいと、悠人は口をふさぐように強く己の神剣の柄を握った。
「でもアセリアには、アセリアの何かがきっとある、戦い以外の何のために生きているのか、とかさ。―――だから、簡単に命を捨てるようなことはやめてく れ」
 ふと、悠人は自分が柄にもないことをとつとつとしゃべっていることに気がついた。
「はは。なんか語ってるな、俺」
 少し失笑している悠人を、アセリアは『存在』から顔を上げてじっと見つめている。
「・・・・・・ん、わかった。ユートがそういうなら」
 そして重い手甲をつけた腕をあげ、悠人の手を取った。

「私は、生きてみる」

 悠人は、その言葉に例えようもない喜びを感じた。
「―――あぁ! 俺たちは生きのびようぜ。これから先、どんなことがあっても!」
「・・・・・・ん」
 アセリアと悠人は、お互いの眼差しを交わし合う。
 そのしっかりと手を取り合った二人を見ながら、自らの両手を胸の上で硬く握り締める少女がいた。
「―――エスペリア」
 千歳はそっと彼女の肩に置いた手を、押し出すようにそっと力を入れた。エスペリアはびくりと振るえ、不安と期待を葛藤させた瞳で千歳を見上げる。
 何も言わぬまま千歳が小さく頷くと、エスペリアはきゅっと唇を結び、再び首を前へと移した。一歩を踏み出して、先ほどとはうって違う、消え入りそ うな声で悠人に問いかける。

「・・・・・・ユート様。ユート様は、変わりませんか?」
 彼女の問いかけに、悠人は顔を上げる。じっと悠人の顔を見つめながら、エスペリアは重ねて問いかけた。
「力を持ったことで、変わっていきませんか?」
「えっ?」
 エスペリアは悠人の戸惑いの声に説明するように、しかし自分に言い聞かせるようにしゃべる。
「私たちは戦うためだけの存在です。・・・・・・それは、本当なのです」
「・・・・・・・・・」
「それでも、ユート様は・・・・・・戦い以外に生きろ、と?」
 悠人は軽く目をつぶり、それからエスペリアの言葉をかみ締めるようにゆっくりと返答した。
「わからない・・・・・・俺はスピリットじゃないから。でも、俺はみんなが戦うだけなんて嫌なんだ。俺にとって、アセリアたちは人とかスピリットとかじゃ ない。その、なんだ・・・・・・そう、仲間なんだから。人も、スピリットもない」
 その言葉を言いきった後になって、悠人は始めてエスペリアが以前のような優しい眼差しで自分を見つめていることに気がついた。
 そのひたむきな目がまぶしく、悠人はあわてたようにその視線をアセリアに戻す。

「だからさ、アセリア。もう無茶はやめてくれ。なっ?」
「・・・・・・ん」
 小さく返事を返しながらも、アセリアは悠人の手を見つめながらぽつりと言った。
「ユートのて・・・・・・あったかい」
「はは、そんな籠手つけててわかるのか?」
「・・・・・・なんとなく」
 他愛のない会話。それがこんなにも喜ばしく感じることに驚きながら、悠人は笑う。そしてアセリアも、また。
 アセリアがようやく立ち上がり、二人の手がそっと離れた。しかし二人の間は、先ほどよりも確実に近しく感じられた。
 その二人の様子に、周囲の者たちにも笑顔が広がる。
 悠人の本心を本人が打ち明けてくれたことは、スピリットたちにとって非常に衝撃的であり、また感動すら与えていた。
 己らの罪を忘れたわけではない、これからのことを憂いないわけでもない。ただ、今という時が来たことを、多くのスピリットたちが感謝していた。

「―――みんな、行こう。ラキオスに、帰ろう!」

 悠人の力強い声に、多くの者が力強く頷く。
 アセリアでさえもいつもよりも格段にはっきりと、そしてしっかりと頷いたのだった。
 オルファが悠人たちの仲が戻ったことに喜びながら、千歳の腕にしがみついてぴょんぴょん跳ねる。
 千歳はそれにまかせ、それを喜ばしく感じながらも、心の隅で冷たくよどむ心の存在を感じていた。

(・・・・・・私と違って、『答え』なんて最初から持っていたくせに、こんなに長びかせて、この馬鹿は)
―――しかし結局の所。主殿の望みどおりに、あの妖精たちの心を開いたのはあの若造の手柄であろう?―――
(わかってるわよ。でも、それでも・・・・・・わかっていても、腹が立つもんは腹が立つのよ)
―――ふむ。やれやれ、じゃの―――
 呆れたような『追憶』の声は、それを最後に千歳の意識から遠のいていった。
「・・・・・・やれやれで悪かったわね。駄剣のくせに」
「? なんのこと、ママ?」
 その呟きに首を傾げるオルファ。千歳はあわてて、なんでもないとごまかした。
「それよりも。いいの、オルファ? ネリーとシアーが、ずいぶん悠人の近くにいるわよ?」
「えっ・・・・・・あ、あぁ〜〜〜っ! こら〜〜〜、ネリー! オルファのパパとっちゃダメ〜〜〜っ!!」
 自分の腕を離れ、ぱたぱたと悠人の所に走り出すオルファを見送りながら、千歳はひっそりとつぶやいた。





「本当に・・・・・・馬鹿なんだから」








・・・・・・To Be Continued



【ステータス情報】



 〈新たなスキルを習得しました〉




※アタックスキル※

狂夢夜行の儀T Lv.3  行動:1/最大:3 変動【敵】
対HP効果: 400  属性:黒  アタック.T    T.S.L.16
神剣の気配を完全に 断ち、敵の不意をついて体術を主とした奇襲を仕掛ける。
攻撃力は低いが、必ずクリティカル攻撃を出すというメリットは大きいだろう。
このスキルが発動すると、カウンターダメージを受けることはない。



※サポートスキル※

ワードリバースU Lv.3  行動:1/最大:3 割込【敵】
対HP効果: 25%   属性: −  インタラプト.T T.S.L. 9
敵のサポートスキル の力を上乗せし、効果範囲を逆転させる特殊スキル。
アンチブルースキルには効果がない。





 【後書き】

 お久しぶりです。歴戦のレギュラー部員を横目に、体育館の隅で一人ドリブルをする幽霊部員がごとき存在になりかけておりますNilです。
 二ヶ月ほど前、パソコンのハードを取り変えるという一世一代の大手術に挑戦いたしました。
 結果は見事、ぎりぎりアウト。よりにもよってこのSSの設定集、章別予定表その他が昇天いたしました。唯一の救いは、これまでの投稿したオリジナルが無 事であったことくらい。
 これは心機一転してこの作品を書き直せという永遠神剣の導きと信じ、涙でにじむ視界の中これを書き上げたのですが・・・・・・・・・。
 読みにくさ七割り増しくらいになっていた情景描写の嵐を、必死になって削り取るほうが書くよりも時間がかかる有様でした(涙)。つ、次こそは、なんとか 早めに仕上げてみせましょう・・・・・・と、大見得を切ることすらできない小心者な自分を現在再確認しております。
 ともあれ。なんとか仕上げたこの作品 が、少しでも多くの読者の方々を満足させることができることを願って止みません。
 
 さて。次回は悠人君、いよいよ謎の二人に遭遇する、の巻です。
 勝利に湧き立つラキオス市民。そして、始めて町に出た悠人が出会う(ある意味)奇妙な二人組みとは?
 次回をお楽しみに・・・・・・しながら、気長にお待ちください。


 最後になりましたが、以前の投稿作品に感想を下さった方々、本当にありがとうございました。行き詰まり、いっそこの作品を投げ出したくなるたびに、皆様 の感想を過去ログの中から見つけては自分を奮い立たせてなんとか今回も書き上げることができました。
 この場を借りて、御礼申し上げます。




NIL