「うーー。まだ、頭がガンガンする」
部屋での出来事により、脳天からハリセンを食らって
意識を失った俺は、今日子の後からきた光陰によって助けられた。
「乙女にあんな姿見せる悠が悪い。」
この勝手なことを言っているのが 岬 今日子、あの飛行機事故で一時、祖母の家で暮らしていた俺だが、
祖母が他界したことにより高嶺家に戻った。その時からの付き合いでずっと同じクラスが続いている。
針金みたいなツンツンのくせっ毛のショートカットとミニスカートにスパッツ姿がトレードマーク。
スポーツ万能の明るい性格で、さばさばしていてみんなに優しい。が一般的な評価、 しかしその実態は凶暴でガサツ。
まあ、佳織の事を気にかけてくれているし、面倒見も良いというのは俺も認めているのだが、
今日みたいにハリセンで意識を奪うのはやめてほしい。
「悠人も災難だったな。あ、佳織ちゃんこのコーヒーおいしいよ。やっぱり、可愛い子が入れると味が違うね。」
何気に佳織を口説こうとしている奴が 碧 光陰
今日子とともにずっと同じクラスでもはや腐れ縁とかしている。身体がごつく、顔はみるからに渋いだが、
外見だけで寺の息子なのに性格は非常に軽い。
「はぁー、俺も見せたくて見せたんじゃない。ノックもなしに入ってきた今日子が悪いんじゃないか」
ため息をつきながら、不機嫌そうに言う。
「ムムッ・・・」
あっ、今日子の顔に青筋が浮かんでる。
「まあ、まあ、お兄ちゃんも急がないと遅刻するよ。」
「そう、そうネボスケ悠のせいで遅刻しちゃうじゃない。」
ム、俺のせいじゃないというのに。
「あのなー。誰のせいだと」
「もう、いいーじゃない。過ぎたことなんだし。」
「今日子それは違うぞ、過ぎたことは仕方ないというのは論点のすり替えであって・・・」
「ああー、うるさい。ほんとーに遅刻するじゃない。それとも悠も光陰も掃除当番になりたいの?」
そうなのだ。俺達のクラスでは、遅刻が続く者や成績不良者には一つの学期の間、掃除当番をさせられるのだ。
「確かに」
「急ぎますか。じゃあ、佳織ちゃん、おぶっていってあげるよ。」
そういいながら光陰は佳織に背を向けて屈んだ。
「えっ、ええっと・・・」
「ダメだ!ダメ、ダメ!!。佳織は俺がおぶってく!」
「はぁ〜。まあ、仕方ないか。今日はあきらめるよ。佳織ちゃんもし良ければいつでも言ってくれよ。どこまでも走ってくから。」
「なに、バカなこと言ってんの!。行くよ。」
そう言いながら、今日子はカバンを持って席を立つ。
根っからの体育会系なのか、やけに活き活きしている。
「ああ、」
その後に光陰が続き、佳織も外に向かう。
俺は、靴を履きながら、玄関に飾ってある二つの写真立てを見た。
一つは小さな俺と父さんと母さんの写真。
もう一つは俺の義理の両親と小さな佳織の写真。
「いってきます。」
写真に向かって言いながら、俺は佳織を守る誓いを再確認し外に飛び出した。
・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「ここまでくれば、もう大丈夫だろ」
学校見える場所まで走ってきた俺達は、
時間的なゆとりも出来たためかここからは歩いて行くことにした。
まあ、普通に歩けば間に合うだろう。
走って、温まった身体に凍てつくような寒気が吹き付けてくる
さすがに12月にもなると、通学することさえ辛く感じるな。
あぁ今日は、外でバイトだっけ、まあ、少しでもお金は蓄えることを考えると多少辛くても仕方ないか。
佳織の進路の事もあるし、俺が頼りないばかりに今まで不自由ばかり強いてしまって。
高校は好きな所に行かせてあげたいし、やりたいこともさせてあげたい。
お金のことで不自由にはさせたくないからなぁ。
そういえば、佳織は進路の事、もう決めているのかな。どこの高校に行くのかな
やっぱり、うちの高校かな・・・。
「ちょっと悠ってば!なにのんびり歩いてるの。本当に遅刻するってば」
「えっ!」
佳織のことを考えていたせいでボンヤリしていたようだ。
我に返ると、みんな随分と前を歩いている。
(いけね。また、やっちまった。)
佳織のことを考えると、周りに注意がいかないのが、俺の悪い癖だ。
走って今日子たちに追いつく。
「悠人。またバイトのこと考えてたな?」
「ん・・・まぁそんな感じ」
「最近、前にもましてボンヤリしてるぜ。・・・」
「ほっとけ。他にも色々と考えているんだよ。」
「なら、この今日子姉さんが相談に乗って上げましょう。」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
一瞬、時が止まった気がした。
「・・・いや、・・・いい。」
なんとか、気力を振り絞り答えることができた。
「この美人で気立てが良いと評判の今日子ちゃんに相談できない、と」
「・・・・今日子。・・・すでに今日子の凶暴性は、俺達にとって周知の事実なんだから、気立てが良いといってもなあー。」
光陰が今日子に突っ込む。
「確かに・・」
「ほぉーーーー」
盛り上がる俺たちを見て、ひくひくと口元を震わせる今日子。
「おっ、ほら・・・その凶暴性が針金頭によく現れている。」
「うんうん。」
思わず光陰に同意してしまう。
言った後で、失敗に気づくがもう遅かった。
隣を見ると、いつの間にか佳織が引きつり笑いをしながら、ススっと俺達から離れていった。
な!? 上手い!
挿絵協力 四宝 紫月 様
「だぁーれが針金頭だぁぅ! 無礼なことを言うのは・・・」
「この口かぁ〜〜〜〜っっっっっ!」
バシッバシッバシッ
「はぐぁっ、うご・・・っ!!」
神速の3連発ハリセン攻撃。
まったく容赦ないその素早い連続攻撃は、見事しか言いようが無かった。
断末魔の叫びをあげる間無く、光陰はボロ雑巾と化した。
その姿を満足そうに見た今日子は、唇の端を歪めて哂い、ユラリと俺の方に首をまわす。
「悠ぅ〜〜〜」
ヤバイっ! なんか、殺気が見えるっ!?
俺は、後ずさりながら、助けを求めるべく佳織を探すが・・・
あっ、校門のところに・・・
お兄ちゃんは悲しいぞ。見捨てるなんて・・・
光陰は、まだ今日子の足元でダウン中
「覚悟はいいわね〜〜」
ドスの聞いた声が聞こえる。ズンズンと効果音が付きそうな足取りで今日子がこちらに向かってくる。
やっぱりあの針金頭は怒ったらさらに鋭くなるのかな
などとバカな事を考えて現実逃避をしていると
キーンコーンカーンコーン
チャイムがなった。
「「「あーーーー」」」
(続く)
おひさしぶりです。七野珀翠です。・・・・・ああー月日が流れるのは早いなーー・・・・・・
と、現実逃避はここいらにしておいて、すみません。前回から一ヶ月近く経ってしまいました。
このペースだと完結するまで何年掛かることやら・・・とりあえず、ペースを上げたいな・・・・
こんな、私ですが、見捨てないでお付き合いいただけたら幸いです。これからもよろしくお願い致します。
また、今回も紫月様、挿絵ご協力有難うございました。