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「どうしてもやるのか?」

「なによ、怖気ついた?」

明人は溜息をつきながら言う。

「まあ、怪我しないようにな、お互い」

「あいにく、わたしが勝つ時はあんたが消える時よ」

キサラがキッと睨みつける。

明人はもう一度溜息をつくと『希望』を構える。

合わせるようにキサラも『冷気』を構える。

「いくわ!」

「ああ、来い!」

《返り討ちにしてやる〜!》

(還さないようにね…)

《しらない!》

そして、金属同士がぶつかり合う甲高い音が響いた

 

 

 

 

第三話〜黒翼〜

 

 

 

 

 

スピリット隊詰め所

食堂

 

「じゃあ、行こう!」

自己紹介が終わった直後、キサラが立ち上がって言った。

「い、今からか?」

「ええ、今から!」

「キサラ、待ちなさい!」

「待てない!先に訓練場に行ってる!」

エリクの制止の言葉も聞かずに食堂を出て行くキサラ。

そんなキサラを見て、シルビアが呟く

「キサラ、随分荒れてるね。そんなにエトランジェが嫌いなのかな?」

「いや、エトランジェだからではなく、人間だから嫌いらしい」

「ああ、それでか…」

明人の答えにまた呟くと立ち上がる。

「それじゃ、お手並み拝見。キサラぐらい凌げないと、こっから先、生きられないかもね」

そういってシルビアも出て行く。

「ふぅ……。じゃ、解散。 見たい人が居たら先に行っててくれ」

『はい!』

明人の号令でスピリット達は思い思いに食堂を出て行く。

「それでは隊長、訓練場へ案内します」

「ああ、ありがとうエリク」

「メルもいく〜♪」

「ああ、行こうか」

抱きつくメルの頭を撫でながら明人が言う。

そんな三人にエリオルは笑みを浮かべる。

「ふふ、まるで親子みたいですね」

「え?」

「え!?」

「?」

エリオルの言葉に三者三様の反応を見せた。

「私には親子というものがどういうものなのか良くわかりませんが、

今のアキトさま達を見ていると、そのように思えます。」

『……』

思わずお互いを見やる明人とエリク。

すると、エリクが頬を赤くして俯いてしまう。

それを見た明人はエリオルに向かって手を振りながら否定する。

「いや、会って数日なのにそれはありえないよ」

「くすくすくす、顔を赤くしながら言っても説得力ありませんよ?」

「うっ……」

エリオルの言い分に呻く明人。

「それでは、先に行ってますね」

そう言って出て行くエリオル。

『……』

くい、くい

「おにーちゃん?エリクおねーちゃん?」

メルの声に呆けていた二人はハッとなる。

「あ、ああ。 じ、じゃあ行こうか」

「は、はい……」

「おー♪」

少し気まずい雰囲気の中(一人違う)、三人は訓練場へ向かった。

 

 

訓練場へ続く道

 

 

城の敷地内

「エリク」

「は、はい!」

明人に声を掛けられたエリクはまだ引きずっていたのか、やや裏返った声で明人の方を向く。

「エリク、落ち着いて」

「は、はい」

エリクは一度深呼吸する。

「はい、なんでしょう」

普段と変わらない真面目な声で尋ねる。

「キサラはそれなりに腕が立つのかい?」

「そうですね。私たちの中では四番目といった所でしょうか」

「ほう…」

「私が一番強いんですよ。その次にシルビア、アイビス、キサラと続きます」

「アイビスが三番手?」

「あの子、接近戦が得意なんですよ」

「レッドスピリットは神剣魔法が主体じゃ…」

「ええ、珍しいんですよ」

《ま、例外なんていくらでもあるんだよ》

『希望』も混ざってくる。

(そんなものか)

《そんなもんよ》

『希望』の言葉に心の中で頷く明人。

「それで、エリクが一番強いっていうのは?」

「あ、その、強いっていっても力があるとかじゃなくて…」

「おねーちゃん、すっごく速いんだよ」

「速い?」

「うん! 敵さんに向かって行くのとか、剣を振るのとか!」

「そういえば、速さはブラックスピリットの十八番だったな」

「ええ」

エリクは腰に差してある『疾駆』に手を添える。

「私の神剣は、特に速さを強化する傾向にありますので」

「元から速い上に、神剣の加護でさらに伸びるのか」

「はい」

頷くエリク。

「じゃあ、キサラは?」

「あの子は私ほどではないですね。シルビアもそうなんですけど」

「へぇ」

そう相槌をうつ明人が、今度は困ったような顔をする。

「しかし、キサラには困ったものだな。 隊長としてまずやらなければならない事があるのに…」

「やらなければならない事?」

「軍の運用とか、文字の読み書きとか」

それを聞いたエリクは「ああ」と頷く。

「大丈夫ですよ。私が教えしますから」

「ああ、頼むよ」

 

 

 

訓練場

 

 

訓練場に着いたときには既にキサラが訓練所の中央に立っていた。

その表情から察するとひどく機嫌が悪そうだ。

「やっと来たわね」

「待たせてしまったかな?」

「うん、待った!」

悪びれた様子が無い明人にキサラはさらにイラついてきている。

「待たせた分、十分体は温まっているだろう?」

明人はそう言いながらキサラの前に向かいつつ『希望』を一度振るう。

「遅れたお詫び…という訳ではないが」

明人がキサラの前に立つ。その距離約10m。

「すぐに始めようか」

「あら、準備運動も無しに…いいのね?」

キサラが挑発するような笑みを浮かべながら言う。

「本音は別だがな」

明人は溜息混じりに言う。

「本音?」

「ああ」

ここで、冒頭のセリフを吐く。すなわち

 

「どうしてもやるのか?」

 

と。

 

 

 

二人が戦い始めてから既に10分が経過した。

その間キサラは一方的に攻撃を放っていた。

それに対して明人はただ捌くか、かわすだけだった。

運動量の差か、それとも別の要因か、キサラは息を荒げはじめたが、

明人はどこふく風、全くの平然としていた。

《アキト、あんた、なんか変だよ?》

(どこが?)

《どこがってそりゃあ、そんな風に平然としてられるのが。

それになんかあたしの力使ってる感じがしないんだけど…》

『希望』が戸惑ったように言う。

神剣の力を使えば莫大な力を得る。

だが、それはエトランジェやスピリットの肉体を構成するマナやエーテルを消費するという事になる。

キサラの疲労はそれが原因だった。

それに対し明人は殆ど自力でキサラの攻撃を捌いていた。

つまり、その分マナの消費が少なく、長時間の戦闘が可能になる。

しかし、それはそれでまともに受けると攻撃を受けきれなくなる、すなわち「死」の危険性が高いというデメリットがある。

前者は属性攻撃や神剣魔法が可能だが、後者はそれが出来ない。

そのため、スピリットの多くは短期決戦の意味を込めて前者を取る場合が多い。

肉体的な疲労は神剣の力でほぼ無くなるのもその理由の一つ。

(このぐらい向こうじゃ当たり前だよ。時には4時間ぶっ続けな時もあったから)

《つくづく非常識だなぁ…》

(平穏を護る影、だからね。このぐらいはやらないと)

《……病人》

(事にかいてそんな事をいう!?)

『希望』の一言に少しカチンと来たが、それを表に出さずにキサラの攻撃を捌いて行く。

ちなみに周りのスピリットや訓練士はその光景に呆気に取られていた。

(さ…て、そろそろ仕掛けるか)

そう考えた瞬間、明人の気配が変わった。

いつもの暖かさが消え、氷のような冷たさへ。

「!?」

それを感じた瞬間、キサラの背に悪寒が走った。

キサラが飛び退く。しかし、

餓突!!!

一度『希望』を半回転させ、柄をキサラに向けると同時に一撃を放つ。

ドゴゥ!ドシャア!

明人の一撃を食らったキサラは壁へと吹き飛ばされた。

キサラが膝をつく。

そんなキサラを冷めた眼で見ながら口を開く。

「餓突…餓えた獣が獲物を一撃で仕留めるが如き、瞬速の突き。キサラ」

呼ばれたキサラは顔を上げて明人を睨む。

「今の君では、俺には勝てない。それでも続けるかい」

「あ、当たり前よ…。まだ、やれるわ…」

食らった場所を手で押さえながらそういって立ち上がるキサラに余裕の表情は既に無い。

実際それほど力が残っていない。疲労は溜まっており、激痛が直撃を食らった箇所から波紋のように体全体へ浸透して行く。

「次だ…次で終わりにするぞ」

そう言って『希望』の柄をキサラに向けたまま構え直す明人。

「いいわ…」

キサラも『冷気』を正眼に構える。

「はあああぁぁぁぁ!!!!」

キサラがウィング・ハイロウを広げつつ飛び込み、剣を右薙ぎに振るう。

「インパルス…!」

ギィン!

明人はそれをいとも簡単に受け流す。

(疲労があるとはいえ軽すぎる…。二段攻撃か!)

「ブロウ!!!」

明人の予想通り、キサラはハイロウで姿勢を制御しつつ今度は左薙ぎに振るう。

その時、この場に居る皆が見た。

明人の背中からまるで闇に飲み込まれたような翼が出現した事を。

ウィング・ハイロウ。誰もがそう思った。

だが、その翼はブル−スピリットのものともブラックスピリットものとも異なっていた。

大きすぎるのだ。翼が。そしてハイロウではありえないことが起きていた。

その翼からは羽が散っていたのだから。

「バインド……」

そして、散った羽がその場で停止し、翼と同じ色の光の線となってキサラを囲むように伸びていく。

「クロス!」

明人の叫びに答えるように光の線がキサラを縛り付ける。

「きゃあ!」

空中で縛られたキサラはそのまま地面に落ちた。

明人はキサラを見下ろし、疲れたように溜息をつく。

そのときはもう、先程のような冷たさは失せていた。

一方キサラは光の線を解こうと暴れる。

「至近距離での「バインド・クロス」…久しぶりにやったな…」

「こんのっ卑怯者!」

「そんな事言われても、戦場じゃあ卑怯もないし…」

困ったように鼻を掻くと、キサラを柄で小突く。

「とりあえず、これで俺の勝ちっと」

そう言ってキサラの呪縛を解き、自身の翼を消す。

「く〜〜〜! 納得いかない!」

かばっと立ち上がるキサラだが、

「あ、あれ…?」

「おっと」

立ちくらみを起こして倒れ掛かるキサラを支える明人。

「あ…」

「大丈夫かい」

「え、ええ。平気よ」

そう言ってキサラは明人から離れる。

「ともかく、その状態じゃこれ以上戦えないだろ?

今日はこのぐらいにして休もう」

「それって、また相手してくれるって事?」

キサラは笑みを浮かべて聞いた。

なんだかんだ言って、少しは認めたようだ。

「気が向いたらね」

明人はキサラをエリオルに任せ、自分は訓練場の端に座り込む。

それを合図に、スピリットと訓練士が訓練を始めた。

その中からエリクとメル、アイビスがでて、アキトに近づく。

「お疲れ様でした、アキトさま」

エリクは明人の隣に座り、

「おつかれーお兄ちゃん!」

メルヴィスは明人の膝の上に座る。

「やー、見てて凄かったよさっきの。特にあの一撃、殆ど見えなかった」

アイビスは立ったまま背を壁に預けてアキトを見る。

「ははは、ありがとう」

明人は笑顔で答える。

「あの…アキトさま? 差し出がましいのは承知の上ですが…」

「ああ、これの事?」

そう言って翼を出現させる。

「ええ、これなんですが…」

エリクがそう言って、おっかなげな感じで翼に触れる。

触れた翼の感触にエリクは眼を見開いた。

「あの、これ…本当に翼なんですか?」

エリクの手に触れられた翼は、まるで水面に触れたかのように波紋を広げていた。

「この翼にはそもそも、物質の概念がないんだ」

「概念…ですか?」

「うーん、なんて言えばいいかな…」

明人は困ったように頭を掻く。

「とりあえず、考え方の一つのようなものだと思ってくれ」

しばらく考えてそう言った。

「それで、この羽なんだけど…」

と、エリクとは反対の翼を「撫で」る。

それを見て三人は固まった。

「実は持ち主が考えている事、思っている事を直接作用するんだ」

そういってエリクが触れている方を見る。

「普段はこうゆう風に液状化しているけど、俺が物質化するように考えると…」

途端にエリクの手に伝わる感触が液体から鳥の翼と同じような感触に変わった。

「ま、こういうわけ」

「は、はぁ…」

ようやく硬直の解けたエリクからは困惑の声が出た。

「じ、じゃぁアキト。あんたがいた世界にはみんなのその羽が付いてのかい?」

続いてアイビスも硬直から抜ける。メルヴィスは未だ硬直から抜けない。

「いや、この翼を持つ者は「エンジェル」と呼ばれる特殊能力者だけだ。普通の人は持っていない」

「あたしらと同じって事?」

「まあ、確か差別の基準にはなってはいるが、別物と考えた方がいいと思う。

「エンジェル」は生体兵器…生きた武器という意味合いが強いから」

そう言って翼をしまう明人。

「それなら、私たちと大して変わりません。私たち人の剣、人の盾なのですから」

「違う、違うんだ」

明人はエリクの言葉を否定するように頭を振る。

「スピリットは神剣と共に現れるため替えが利きづらい。

だけど「エンジェル」は人間の子供として生まれる。

スピリットと違ってかなり替えが利くんだ」

(実際はクローンやホムンクルスだけど…)

《アキト…》

明人の脳裏にはかつての「エンジェル」に関する事項が浮かんだ。

それになにかを感じたのか、『希望』が辛そうな声を出す。

「お兄ちゃん…」

いつの間にか硬直が解けたのかメルヴィスが不安そうに明人の服を握る。

パン!

明人が沈んだ空気を打ち消すように手を叩く。

「ごめん、辛気臭い話をしてしまったな」

メルヴィスをどかして立ち上がる。

「話はこれぐらいにしよう。さすがに4人揃って参加しないのは問題だろう」

「そ、そうですね」

「んじゃ、いってくるか」

「おー♪」

エリクとメルヴィスも立ち上がり、アイビスを連れて訓練へ戻っていく。

「漆黒の…いや、暗黒の翼か…」

《アキト?どうしたの?》

「いや…」

小さく頭を振り、空を仰ぐ。

「今の俺の心の奥深くにある思いは…なんなんだろうな……」

そこには明人の心に反する青空が広がっていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

第三話です。

「エンジェル」ネタが出てきました。ここから先さらに増えていきます。

それは別として、

実は今回のSS、一つ不安な点があります。

キサラとの決闘(?)の最中にキサラが疲労した理由が書かれているのですが、これは某SSにあったものを自分なりの解釈を施した物です。

ですので、公式設定と異なっている(いや、某著者さんが間違っているとは言っていません(苦笑))可能性がありますので、もし間違っていたらぜひご指摘ください。

注:筆者はイベント(劇含む)に参加した事は一切ありません。

 

さて、次はちょっと日常な話になります。

明人にも実は弱点があったり、変わった所があったり。

では、また次回に。

 

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