第二話〜入国〜
イースペリア領 ミネア郊外
街道沿いを歩いていた明人はイースペリアのミネアの近くにいた。
「さて、これはどうしたものだか…」
《はわー…》
そしてその周りを囲む剣や槍を持った6人の少女――スピリット達。
その中の一人が口を開く
「何者だ……って、聞くだけ野暮ですね」
黒髪のスピリットは手にしている刀を収め、他のスピリット達に剣を収めるよう命じる。
命じられたスピリットは訝しげにしながらも自らの神剣を収めていく。
「君は…?」
「先ほどは失礼しました、エトランジェ様。
私はイースペリアスピリット隊隊長、『疾駆』のエリク・ブラックスピリットと申します」
明人が命じたスピリットに声を掛けるとそのスピリット――エリクが敬礼しながら名乗る。
明人も名乗る
「エトランジェ、永遠神剣第四位『希望』の主、隆宮明人だ。」
「それではアキトさま、これから我がイースペリアに来ていたただけたいのですが、よろしいでしょうか」
「ああ、むしろ都合がいい」
「都合がいい?」
首を傾げるエリク。
「初めからそのつもりだったんだ」
「そうだったんですか。
これからは仲間、という事ですね」
よろしく、と手を出すエリク。
明人は握手に戸惑い、自分の手を見ると
(血が…消えてる…?)
この世界に来る前に浴びていた返り血が、
最初から浴びていなかったかのように消えていた。
「アキトさま?」
「あ、いや、なんでもない」
こちらこそ、といって握手を交わす。
「みんなも挨拶を…」
「隊長、それは後にしてさっさとそいつを城に連行しよう」
「っ! キサラ!」
エリクが手を離し、他のスピリットに言うが、それをブルースピリットが遮る。
「キサラ・ブルースリットよ。 よろしくね『人間』さん」
キサラはそういってさっさと歩いていってしまう。
「キサラ! ああもう!」
「いいよ、気にしないで」
明人はそういってと笑みを浮かべる。
「すみません。あの子は元々ダーツィ所属だったんですが、いやになってこっちに逃げてきたんです。
そのときにはもう人間嫌いになっていまして…」
「それだけ酷い目にあったんだ。 仕方ないよ。
それより案内を頼むよ。 他のみんなとは道々」
「はい、そうですね。」
一行はキサラの後を追うように王都イースペリアへ向かうのだった。
4日後 王都イースペリア 謁見の間
スピリット隊に連れられ、イースペリア王都に来た明人は
そのままエリクと共に城へと向かった。
そして今、女王アズマリア・セイラス・イースペリアとの会見に臨んでいた。
「ご苦労様です、エリク。」
謁見の間の中央最奥の玉座に座るアズマリアが労いの言葉をかける。
「彼がそのエトランジェですか」
「はい、『希望』のアキトさまです」
「エトランジェ、『希望』の明人です」
目を瞑り、礼をしながら挨拶する。
「アキトよ、顔を上げよ」
「ハッ!」
言われるままに顔を上げる明人。 その顔を見てアズマリアは感嘆の声を漏らす。
「随分澄んだ眼をしていますね。 しかし、その瞳の中に悔恨も見える」
アズマリアはなんともいえぬ表情でいう
明人は驚いた。 「あの事」に関しては既に切り離した気になっていた。
だが、無意識に気にしていたとしても、それはすぐにでも気付く事ではない。
(この人の人を見る眼には感服するな)
同時に、『希望』の推薦は間違っていないだろうと感じていた。
「陛下、よろしければこの国のために働きたいのですが」
「それは、スピリットと共に戦うという事ですか」
「その通りです」
アズマリアは押し黙る。
(正直、多いことに越したことは無い。 でも、戦争とは無縁の彼に…)
「争いを知らないか、という事でしたらご心配なく。
これでも元の世界では暗殺を手がけた事もありますので」
思案していたアズマリアを納得させるための言葉は周囲を驚愕させた。
「あ、暗殺を…」
アズマリアが呟く。 周りはエリクを含め、皆声を失っていた
「ええ、ですから大丈夫です。 お任せ下さい」
アズマリアが再び思案する。 だが、その時間は先ほどより短かった。
「わかりました。 エリク」
「は、はい!」
呼ばれて返事をするエリク。
「彼をスピリット隊隊長に任命したいのですが、どうでしょう」
「あ、はい。構わないと思います」
「では、そのように」
アズマリアは立ち上がると明人に顔を向ける。
「アキトよ。 あなたは暗殺を担った事があるといっていましたが
私はあなたにそのような事をさせたくはありません
いいですね?」
「承知しました陛下」
その言葉に頷くアズマリア。
「エリク、彼を詰所へ案内しなさい」
「ハッ!」
エリクが立ち上がる。 明人も倣って立ち上がる。
「いきましょう」
「ああ、頼む」
二人は謁見の間から出て行った。
「アキトさま」
「ん?」
謁見の間から出て詰め所に向かう途中、エリクが話しかけた。
「アキトさまは暗殺を実行した事があるとおっしゃっていましたが
本当ですか?」
「ああ。 あっちの時間で5年と7,8ヵ月ぐらい前かな?
初めて仕事で人を殺したのは」
「そんなに前からですか?」
「うん。 けど、司令、ああ、あっちでの俺の上司でな
あの人は9歳の頃には人を殺していたそうだ」
「そうですか… あ、その方は今…」
明人は立ち止まって俯く。 その表情は今にも泣きそうだった
「あ、あの?」
「……死んだよ」
「………え?」
ポツリと呟くような声に耳を疑う。
「死んだんだよ。 テロでな。 あの人も、
俺を兄と慕ってくれた弟や妹達もな……」
そういって空を仰ぐ明人。
その姿はとても儚く見えた。
「アキトさま…?」
エリクが明人の腕を掴む。
その感触にはっとなる。
エリクはそれに驚いて手を離す。
「ああ、すまない。 暗い話をしてしまって…」
「いえ、私こそ聞いてはいけない事を…」
「いや、いいんだ。 俺が勝手に言った事だけだから
それよりもほら、案内して」
そういって笑顔でエリクの背中を押す明人。
「はい。 こっちです」
それを受けてエリクも笑顔で案内していった。
スピリット隊詰め所
ガチャ
「ただいまー」
「お邪魔します」
声を掛けながら詰め所に入る二人。
「あー、お帰りなさい、エリク。 それと、いらっしゃい、アキトさま」
それを迎えたのは『風音』のエリオル・グリーンスピリット。
ミネアで明人を迎えた一人である。
「うん、ただいま」
「これから世話になる」
明人の言葉に首を傾げるエリオル。
「その事について話があるから皆を食堂に集めてくれる?」
「わかったわ」
エリクの言葉に頷くと、二階へ上がっていく。
エリクは明人を案内する。
「ところで、イースペリアが保有しているスピリットは何人なんだい?」
食堂の席に着くと、明人がそんな事を聞いてきた。
エリクは隣の席に座り答える。
「スピリットの数ですか?
そうですね、大体20人前後といったところでしょうか」
「そうか。思ったより少ないんだな」
「そちらの方はどれ位だったんですか?」
「こっちの方は40人いたよ。 戦える人間だけでね」
「その方たちも…?」
その問いかけに明人は城で見せたものと同じ表情をエリクに向ける。
「みんな…って言わなかったっけ…?」
エリクは「あっ」、といって口に手を当て、
「も、申し訳ありません…」
そういって俯いてしまう。
気まずい雰囲気の中、階段のほうから「ドタドタドタ」という音が聞こえてくる。
そして
「お兄ちゃん!」
「おっと」
「ぼすん」とレッドスピリットの女の子が明人の懐に飛び込む。
「メル」
「焦熱」のメルヴィス・レッドスピリット。 通称「メル」
「ねえねえ、お兄ちゃん一緒にいてくれるの?」
「ああ、それで皆に挨拶しようと思ってね」
「やった〜〜♪」
「マジで……?」
「あ、キサラ」
食堂の入り口にキサラが立っていた。
「本当だが? それと今日から隊長だよ」
「な!?」
明人の言葉にキサラは眼を見張る。
そして睨みつけると
「じょ、冗談じゃないよ! なんで人間がっ!」
「なんでっていわれても、それはアズマリア陛下の命令だし…」
「なによそれっ…! 納得できない…!」
しばし唇をかみ締めたあと
「わかったわ。 じゃあ、あたしと勝負して!」
「え?」
《なぬ?》
明人と『希望』が素っ頓狂な声を上げる。
もっとも、『希望』の声は明人にしか聞こえていないが。
「あたしに勝ったら、あんたの事認めてあげるよ」
「負けたら…?」
「マナの霧なってもらう」
(おいおい…)
「ちょ、キサラ!」
明人を指差して怒りの形相で語るキサラに、明人は呆れた様子で俯き、エリクは止めようとする。
「キサラお姉ちゃん!」
その時明人の膝の上に座っているメルが叫ぶ。
「何よメル」
「お兄ちゃん殺しちゃだめ!」
強い口調で言うメルに驚くキサラ。
そこへ他のスピリット達が降りてきた。
「あれ、どうかしたの?」
そういって入ってきたのは「沈静」シルビア・ブルースピリット。
彼女もまたミネアで出会ったスピリットである。
「別に、何でも」
「ほんと? なんか勝負がどうのとか聞こえてたけど…」
「っ!」
キサラはシルビアを一度睨むと明人から一番離れた席に座る。
シルビアは首を傾げながら明人の反対側の席に座る。
そして、他のスピリットも席に着く。
それを確認して、エリクが立ち上がる。
「それでは、始めましょう」
こんにちは、菜雲 敬です。
第二話です。 ここでちょっと懺悔。
『希望』が殆ど喋っちゃいねぇ!
どこが活発だよ!?
へたれだ……。
次からちゃんと喋らせられたらいいなぁ…。
それともう一つ懺悔。
諸事情によりスピリットの紹介は設定にまわします。
既にへたれてるのかも……すいませんorz
さて次回ですが、ここにもあったように、明人対キサラを予定しています。
そして明かされる「エンジェル」という存在と明人の実力。
それでは、次回にご期待ください。