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言葉についてふと疑問(その3)

 訓練終了後、居間でふと二人だけになったときにユートは聞いてみた。
「なあ、光陰。ちょっといいか・・」
「なんだ、悠人?」

 ファンタズマゴリアに現れた4人のエトランジェは、皆面識があった。
うち3人、「求めのユート」、「因果のコウイン」そして「空虚のキョウコ」はとりわけ親友と呼べる間柄であった。
しかしこれも剣の運命か、それぞれの立場もあり「ユート」は二人と戦うこととなった。
そして彼はどうにか、2人の親友を取り戻すことに成功したのである。

・・これはそんなマロリガン共和国とラキオス王国との戦いが終結し、しばらくしたときの話。


「光陰おまえ、・・こっちの字、読めるか?」
「ん?ああ、少しはな。法則っぽいのを探すのにかなり苦労したが・・」
「・・・さすがだな。」
「・・まあ、読めなくても仕方ないと思うぞ。一応成績が上の俺から、あえて言わせてもらえば。」
「・・・・・しかし佳織が物語を読めるレベルだと思うと、兄として少し情けないんだが・・・」
「・・俺でも単語を拾い拾いするのがやっとで、物語を読めるレベルじゃないぞ。よっぽどいい先生に教えてもらったんだな。いったい誰
 に佳織ちゃんは教えてもらったんだ?」
「レスティーナ、・・だと思う。佳織がほとんど独学でやったのかも知れんが・・」
「オルファもだよ!パパ♪」

 下のほうから突然声がして、声のほうを見下ろしてみるといつの間にかオルファがいた。
どうやら二人とも視界に入っていなかったようだが、あえて言わないことにする・・
「オルファも一生懸命、カオリに教えたんだよ♪」
「オルファが、か?」
疑わしげな目を赤い髪の小さな少女のほうに向ける。
「あ〜、パパ、オルファのこと疑ってる!!オルファこれでも頭良いんだよ!!」
「そうだぞユート。オルファちゃんのようなかわいい娘のことを疑ってはいけない。」
確かにオルファの成績が結構いいのは、エスペリアからも聞いている。
しかしユートが疑っているのは、むしろ彼女の飽きっぽい性格で勉強になるのかということである。
もっともこの場合、一緒にいて話すだけで勉強になるということもありうるだろうが。
どうでもいいことだが、光陰の言っている「かわいい娘」云々は、いつものことなのでユートの考慮する範囲外だ。
「あいかわらずだな。・・ま、とにかくオルファも佳織が勉強しているところにいたわけだな。あいつはどういう風に勉強してたんだ?」
「普通どおりだよ。カオリがわからないところをオルファに聞いて、オルファが答えるの。でもオルファもわからないことをたまに聞いて
 くるから、そのときは二人で考えたり、王女様がいるときは王女様に教えてもらうの。」
「・・それだけ聞いてれば確かに普通だな。」
「・・・いや、これだけでも言えることがあるぞ。佳織ちゃんは年の差があるとはいえ、地元のものがわからないレベルの質問ができて、
 レスティーナは異邦人がするそれに答えれるだけの柔軟性があるということだ。」
「よくわからんが、佳織は頭がよくて、レスティーナは教師にも向いているということだな?」
「私がどうかしたのですか?」

 驚いて声のするほうを見ると、部屋の入り口にレスティーナが一人立っていた。
別にここにくるのが初めてというわけではないが、多忙な王女(正確には女王)の身である彼女が来るのは珍しい。
さらにどうやら、仕事上ここに立ち寄ったわけでもないらしい。仕事であればユートたちが呼ばれるだろうし、そうでなくても誰かがつき
従うのだ。
思わずユートは、
「レスティーナ、暇なのか?」
と言ってしまった。この辺りはさすが「へたれ」と述べておこう。
当然、この国でもっとも高い身分の少女はむっとした表情になるが、気分を害したわけではなさそうだ。
「・・・そんなはずがないでしょう。やることはたくさんありますが、急を要するものだけ片付けてむりやり休みを取りました。そうしな
 いと仕事の効率も下がるということを、城のものはよくわかっていません。」
「は〜、たいしたもんだ。仮にここが俺たちの世界でいう中世に近いとしたら、レスティーナのような考えはまず浮かばない。まして、
 学術的に検討されたのはここ最近だ。」
「・・実は以前カオリにこう言われたことがあるのですよ。「王女様のようにまじめな人は意識して休みを取らないと、いつのまにか疲れ
 た状態で仕事をやって、かえって効率が悪くなっちゃいますよ。」と。」
「か〜、さすが佳織ちゃんはしっかりしてるねえ。」
「カオリ、かっこいい!」
そしてレスティーナはユートの方に視線を向け、いたずらっぽい顔でこう続けた。
「・・カオリは続けてこうも言いましたよ。「お兄ちゃんのような性格の人なら言う必要がないんですけど。・・休憩を取ることはお兄
 ちゃんの特技みたいなものですから。」」
「・・・そんな特技持った覚えないぞ。」
「そうなのか?」
「なかなか興味深い話です。」

 そろそろこのパターンにも慣れてきたので声のほうを向くと、案の定アセリアとウルカがいた。
ウルカが今日の訓練時の自分の動きに納得がいかず、アセリアに稽古相手を頼んでいたのが今終わったらしい。
ちなみにユート以下、共に訓練をしていた面々はウルカの動きのどこが悪いのかわからなかった。
唯一、稽古相手を請け負ったアセリアだけは、・・・わかっているのかどうかが他の者にはわからなかった・・
「これはレスティーナ女王陛下。ただいま訓練より戻りました。」
「レスティーナ、戻った・・・。」
なんとも対照的な言い回しの二人だが、彼女らの性格が性格なので、レスティーナを含め誰も気にしない。
「ご苦労です。・・ところで今訓練が終わったそうですが、隊長であるユートがなぜここに先にいるのですか?」
レスティーナが意地の悪い表情で告げる。
どうも彼女は職務怠慢を叱責するわけではなく、事情を想像した上で言っているようだ。
とはいえ、臣下の立場上、一応説明はしておかないといけない。
「・・あ〜、それは、だな。訓練は少し前に終わったんだがウルカが、」「どうやら、」
ユートの説明をさえぎるようにレスティーナは告げる。
「・・カオリが言っていた特技というのは本当だったようですね。」
勝ち誇ったというか、「どう?」といった感じの表情である。
周りから「パパ、かっこわる〜い」だの「これはうまいやりかたですな。」だの「あ〜あ。」だの言う声。
なかにはなぜか「ユート、すごい」といった評価もあったが・・・
なんとも居心地が悪い当のユートは、
(カオリよ、兄はお前の一言のおかげでいじめられている状態にあるぞ・・)
などとなんともへたれたことを考えていた。

 しかしへたれてばかりもいられないし、せっかくの機会と思い直しレスティーナに切り出した。
「そ、そうだ!さっき光陰と話してたんだが、レスティーナが俺に聖ヨト語を教えてくれないか?」
「私が、ですか?」
「ああ、頼む。今みたいに休みが取れたときだけでいいから、佳織に教えたときのように俺にも教えてくれ!」
「・・・カオリのようにといわれても、彼女はほぼ独学でしたよ。自分で考えて、オルファとの会話で実践して、ファンタズマゴリアと
 ハイペリアの習慣上の違いからどうしても理解しにくいことだけ、私に尋ねるといった感じでしたが。」
「そ、そうなのか・・?」
「・・・ものすごいな、佳織ちゃんは・・・」
「それはそれは・・・」
「・・カオリも、すごい・・・」
「あ〜、そんな感じだった♪」
などと感嘆の声が響く。
・・ただ、オルファが佳織とやっていたことはユートの想像通りであったことは確認できたが・・
「・・それにユートにはエスペリアが教えているのでは?彼女も教師としてかなり優秀なはずですが?」
「い、いや〜。エスペリアは教師として優秀なのはわかるが、いかんせんレベルが高いというか、ペースが速いというか・・・」
「「・・・それはおそらく教師よりも、生徒のやる気の問題ではありませんか・・・?」」

 ・・と、レスティーナの非難にハモった者がいた。該当する人物は一人しか思い浮かばないユートは恐る恐るもう一人の声のほうを見る。
案の定、そこにはエスペリアがいた。
まるで神剣にのっとられているかのように表情がない様子は、ここにいる一同がこの後しばらく恐怖の例えにしたぐらいである。
当然のことながら悪夢のような出来事を数回味わったユートの顔は青ざめていた。
「・・どうも、つい先ほどから聞こえたユートさまの言い方では、教えている私のほうが悪いように聞こえるのですが?」
「・・ち、違うんだ。え、エスペリアの教え方は悪くはないんだが教科書型というかスパルタ教育というか、この受験を念頭に置いたよう
 なやり方ではこれからの時代はいけないと思うんですよ、僕は!・・・」
「受験って、相当動揺しているな・・」
「動揺してますな。」
「まったく・・・」
「パパ、動揺してる〜♪」「動揺するのは、よくない・・」
といった具合に無責任な声が聞こえたが、当のユートはそれどころではない。
「それは生徒にやる気があれば、ついてこれると思いますが・・・?」
エスペリアの冷ややかな一言で一気に追い詰められる。思わず後ずさるユートだが、ここで閃いた。
(今は俺と同レベルのやつがいたじゃないか!!)
ユートは最後の手段に打って出た。あわよくば生贄に、なんとか道連れを作るという手段に。
「そ、そうだ光陰!今日子も字が読めないんじゃないのか?」
「あ、ああ。・・・こっちにきて勉強する余裕などなかったからな・・・」
「それは・・・・・」
「・・ああ、こっちの世界に来てすぐに「空虚」にとらわれたんだ。・・ユートのおかげでなんとか元に戻れたがな・・。」
 一同は沈黙した。剣にとらわれる恐怖はここにいる全員が知っている。
冷酷モードになりつつあったエスペリアさえ、心を冷まさせるには十分であった。
「光陰、すまん・・・」
「なに、いいさ・・・」
自分の何気ない一言でここまで重い場面になったことには少々後悔した。・・しかしユートも必死である。
不謹慎と思われるかも知れないが、ここは悪魔に(この世界にいるかは知らないが)魂を売る思いでいよう。
それにこれは今日子のためにもなるはずだ。・・と、自分に言い聞かせる。
「・・・まあ、これで今日子が’空虚’に頼らないと言葉もわからないのがわかっただろう。・・それが本人の意思に関係なくな・・。」
「は、はい・・」
「そうだろ。で、だ、ここはひとつ今日子に聖ヨト語を教えてやってくれないか?」
「おあいにくさま。私は’空虚’がなくとも会話はできるんだな〜、これが。」

 4度あることは5度ある、というのは何か間違っているが、とにかくいつの間にか今日子がいた。
本人の言葉どおり、今の彼女は永遠神剣’空虚’を腰に帯びていない。
それもそのはずで、先ほどの訓練の最中ヨーティアの使いとしてきたイオからユート、光陰、今日子の3人に、
「エトランジェの剣を誰のでもいいから貸してもらえないか?ちょっとでいいから。いや〜、前からスピリットとエトランジェの剣に違い
 があるか調べたかったんだ。今までは主戦力であるユートの剣を一時的でも手放させるのはまずかったから保留してたけど、3人いれば
 一人ぐらいしばらく抜けても何とかなるでしょう。はっはっは。」
といった言伝を受けて、やむなく今日子がヨーティアのところに出向いたのである。
・・ちなみに誰がいくかはじゃんけんで決めた・・。
「き、今日子、戻ってたのか。」
「まあね、・・あ、そうそう。わがラキオススピリット隊隊長にして私の上司でもある’求め’のユート殿に報告することがあるんだけど
 。」
ユートはまたもや後ずさる。彼の親友である少女の表情と口調は一見穏やかではあるが、よく見ると口元が引きつっている。
さらにこの白々しい台詞回しが意味することは・・・
なお、この場の雰囲気に今日子という人物をよく知る光陰はもちろん、ほかの面子もユートから離れた位置に移動していた。
「な、なんだ・・・?」
「いつぞやのように私を道連れにしようとすんなーーーーーー!!!!!」

ちゅどーーーん!!どっかーーーーーーーん!!!!!

どこからか取り出した専用のハリセンが、エトランジェの力をそのまま乗せて振り下ろされる!
さらに永遠神剣を持っていないにもかかわらず稲妻のおまけつき!!
「・・とまあ、こんな風に’空虚’がなくても、このくらいの芸当はできるということがつい先ほど判明したと。・・・何かコメントは?」
エトランジェ焼き(炭火)と化したユートは、
「・・・・・’空虚’よりハリセンの方が強いんじゃないか・・・?」
などといいながら「へたれ」こんだ。
「パパって・・」「やはり「へたれ」だな・・」「遺憾ながら・・」
「また屋根を修理しないと・・」「・・手伝います。」「・・手伝う・・」
といった周囲のコメントを背中に受けながら・・・


・・・まあ、こういう主人公だから、帝国から義妹を取り戻したときでも、文字が読めなかったわけで・・・・・



おまけ(あとがきにかえて):
??              :「ファックション!!」
白い妖精            :「あ、ヨーティア様。’空虚’がくしゃみをしました。」
天才科学者           :「・・・。永遠神剣のくしゃみがどんなものか興味はあるが〜・・・、他に言ってることは?」
若いのに白髪女         :「はい。・・・・・。「なぜこの私が3人の馬鹿騒ぎに付き合わされた挙句、ハリセン以下と言われ
                  ねばならないのだ・・」だそうです。」
常に寝癖の科学者        :「・・・・・。イオ。」
イオと呼ばれた女性(スピリット):「なんでしょう、ヨーティア様。」
ヨーティアと呼ばれた女性(ヒト科):「・・おまけではあるが、我々にも出番があってよかったなあ。」
白いやつ(ガ○ダムではない)  :「つまり先ほどの’空虚’の発言は聴かなかったことにするわけですね。」

作者              :「おあとがよろしいようで・・・」

 

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