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言葉についてふと疑問(その2)

「なあ、エスペリア。再び、疑問に思ったことがあるんだが・・」
「・・・またですか?・・・ユートさま・・・・・」

・・普段穏やかな緑の妖精の、こんなもの言いは珍しい。
加えて機嫌が悪くなった人がそうなるように、声のトーンも下がっている。


 先日、言葉についてふと疑問に思ったことを言ってしまったラキオススピリット隊隊長こと’求めのユート’は、
・・・えらい目にあった・・・
 結局、小一時間どころか、三時間以上聖ヨト語の書き取りをやるはめになったのだ・・。
以前にも長時間勉強させられたことがあったが、優しい教え方だったのでそこまで苦ではなかった。
・・だが、あの時は優しさなど微塵もなかった。キャラすら変わっていた気がする。


 あれから数日たったので、もう良いかと思って話し始めたユートだが、どうやらそうではなかったらしい。

・・・その見極めの悪さは、さすがのちに「へたれ野郎」と称される人物といえよう・・

 とはいえ、当のユートもあのときのことを思い出し、機嫌が悪くなったことにはなんとか気づいた。
しかしここで「いや、疑問なんてなかった。はは・・」と言っては、さらにまずい事態になるのではないかと
考えたユートは会話を続けることにした。
 ・・その思考回路自体が「へたれ中のへたれ」なのだが・・

「その、・・前に言っていたことだが、どうやら永遠神剣の力を使えば、知らない言葉もわかるようになるらしい・・。」
「きっとあの授業のときも、知らないうちにエスペリアは神剣の力を使ってたんだと思う。・・たぶん・・」
「たぶん・・、ですか・・・?」
 疑わしげな視線。この少女のこんな態度は非常に珍しく、そこにいるユートはいい経験をしているかもしれない。

 ・・しかしその視線は、ただ、恐ろしいだけであった・・・。

「あ、いや、・・きっとあの時はそうだったんだ!そうに決まってる!!・・と、いうわけで先日はすみませんでした!!」
そう言って、一応部下である少女に、深々と頭を下げる上司である勇者。
エスペリアはうろんたげな視線であったが、こう謝られてまで突っぱねるほど人は、・・・スピリットは悪くない。
「・・なんだか微妙な言い回しでしたが、もう水に流してあげましょう。・・こちらこそすみませんでした、ユートさま。」

 そう言って、微笑みながら手を差し出すエスペリア。
ユートもほっとしたように手を差し出し、仲直りの握手をする。
エスペリアは「ふふ」と笑い、その場はいい雰囲気となった。


・・・しかしそこで終わらせるほど作者は甘くない・・・

 
 これで一件落着といった雰囲気のなか、エスペリアはふとつぶやいた。
「ところでユートさまが最初に言っていた疑問とは、何なのですか?」
「え、あ、・・それは〜・・・」
しどろもどろになるユート。

 ちなみに普通のものならば、ここで当たり障りないことを言ってやり過ごすであろう。
よく恋人に(例えではなく)雷を落とされる彼の親友ですら、おそらくはそうする・・・

しかし何度も言うが、ラキオススピリット隊隊長は、”鈍感かつ「グレート オブ へたれ」”である。

「いや、たいしたことじゃないんだが、・・神剣の力を使えば言葉はわかるのに、エスペリアは俺と始めて会った頃はそうしなかったな〜、と。」

 そのとたん、部屋の空気がとまった。
いや、そんなことは現実にないのだろうが、この場面を言い表すのにもっともふさわしい表現であろう。
慌ててユートは言葉を続ける。
「い、いや、別にエスペリアを馬鹿にしているわけじゃないんだ!神剣を使えば言葉がわかるようになるって知らなかったわけだから。ただ、なんというか・・」
「・・滑稽、だと・・・?」
「そうそう、そんな感じ!・・・って、えっ・・?」

 気づいて、見たときにはもはや手遅れであった。
彼の部下であるラキオススピリット隊副隊長は、頭をたれ、肩を震わせていた。
恐怖でもなく、悲しみでもなく、・・・もちろん怒りのために。
ユートはもはや青ざめ、悪夢の再来におびえるほかなかった・・

 そう思っていると突然、エスペリアは頭を上げにっこりと微笑んだ。
・・しかしその微笑が不自然であることは誰の目にも明らかだ・・
「・・そんな顔をしないでください。確かにユートさまの言う通りですね。・・何もいたしませんよ。」
「そ、そうか・・・」
そう言ってはいるが、その場の雰囲気は変わらない。
おもむろに天井を、いや彼女の目的は2階だから2階を見上げ、突然、
「ええ、何もいたしません。アセリア〜〜〜!!」
と大声で2階にいる少女を呼び出した。


 しばらく後、青い髪のスピリットが下に下りてきた。
「呼んだ・・か?」
「ま、まさか、・・自分はしなくて、アセリアに?・・・・」
思わず後ずさるユート。その場の空気を読めないアセリアは「?」と首をかしげ、
「・・私が、何?」
「ユートさま、・・・そんなことするわけないじゃないですか。・・ねえ、アセリア?」
頼みごとをするしぐさのエスペリアに、何もわかっていないアセリアは答える。
「なんだ・・?」
「ちょっと体の調子が悪いの。・・少し横になるから、私の変わりに、アセリアが、ユートさまのご飯を作ってあげて。」
たちまち硬直するユート。それに気づかず、少し悲しげな表情をして答えるアセリア。
「でも私は、料理が下手だ・・」
「そんなこと気にすることないわ。ユートさまもおっしゃってたじゃない。何事も練習だって。きっとユートさまも協力してくれます!・・・そうですよね!?」
「そうなのか?ユート・・?」
慌てて首を振ろうとするユートだが、とてつもないプレッシャーに襲われ、思わず横ではなく縦に大きく首を振ってしまった。
このプレッシャーは、明らかに竜と対峙したとき以上である・・

「ほら、ユートさまもそう言ってくださる!あんなに元気に首を振って。・・きっと言葉には出さないけどアセリアの料理を待ち望んでいたのよ!ああ、なんてほほえましいことでしょう!!」
「そうなのか・・?」
いつぞやとは若干違うが、キャラが変わってきているエスペリア。
しかしそれを感じつつも、彼は首を縦に振るほかなかった。
・・彼へのプレッシャーはまったく減じていないから・・・

「それでは申し訳ございませんが、アセリア、あとはよろしくお願いしますわ。手加減などせず、遠慮なく訓練をなさってくださいまし。おーっほっほっほ!!」
「ん、・・エスペリア、なんだか変だけど、一生懸命、がんばる・・・」
ぐっ、とガッツポーズをとり気合を入れるアセリア。何も知らないブルースピリット。

エスペリアが部屋を出ようとしたとき、ちょっとだけ圧迫感が減った。
気力を振り絞って声を出す。
「エ、エスペリア、・・な、・・何もしないって・・」
「はい、私は何もしませんよ。・・・今日の夕食を準備することもしません。ああ、オルファが夜の見回りで本当によかったですわ。」
そういって、ニヤリと唇を上げる。・・それは悪魔の微笑み、そのものであった・・・
再び、何もいえなくなるユート。
「それでは、ごめんあそばせ・・・。おーっほっほっほ!!!」
口に手を当て、高笑いしながら退出するエスペリアを見ながら、声も出せないユートはこう考えることしかできなかった。
(・・・なんなんだ、あのキャラは・・・?)


 (・・・ってゆうか、俺、やばい!?・・)
テーブルに隙間なく並べられた多くの皿。
・・・その上には得体の知れぬ物体・・・。
だが、気合が入りまくったアセリアを真正面にして、逃げることなどユートにはできなかった。
・・というかそれができるなら、このような事態には陥っていないであろう・・

・・・後にオルファが家に戻ったときには、瀕死の「へたれ」た物体が転がっていたといわれている・・・


・・そう。これは「キング オブ へたれ」が残した伝説の一つである。・・・




追伸. あとがきに変えて

某王女(ワッフル大好き):「・・・ユートはやはりへたれなのですね。・・鈍感なのはわかっていましたが・・・」
某妹(ナポリタン大好き):「お、お兄ちゃん・・・やっぱり、そうだったんだ・・・」
某黒妖精        :「・・最後に拙者が、作者に代わりお詫びの言葉を申し上げる。」
あるいは剣術ヲタク   :「・・・先の作品と今作品、・・エスペリア殿のファンには、心よりお詫びいたします・・・。」

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