永遠のアセリアAnother Story
〜もう一人のエトランジェ、もう一つの物語〜
第二話「もう逃げない!」
…水の中を漂っている感覚が、愁を取り巻く。
「(…たしか僕は…狼雅君と、話をしていて…意識が、遠くなって…)」
ぼんやりとした意識の中、頭の中を整理する愁。
「…約者…よ…目を…ませ…契約…よ」
愁の頭の奥から声が聞こえてくる…そして、その声は徐々に…大きくなっていった。
「(誰…?誰が呼んでる…?女の子…?)」
全身真っ黒の装いに…アルビノであろうか、対照的な白い肌、白い髪の女の子が、愁の顔を覗きこんでいた。
「…我は…第五位永遠神剣…『驚愕』…。契約者よ…」
「(神剣?…何それ?それに、契約者って?)」
女の子は淡々と語るだけで、質問に答える気配はない。
「萩原愁…我が契約者(マスター)よ…。共に、戦場を駆けようぞ…」
そう言うと、視界から女の子顔が、ゆっくりと消えていこうとした。
「(戦場!?ちょちょ、ちょっと待った!)」
「…何か…?」
途中でぴたりと、女の子の顔の動きが止まる。
『驚愕』と名乗る相手は、至って落ち着きはらっている。それが愁にも、冷静な判断を促させた。
「(…聞きたいことが一つ、頼みが一つ、あるんですけど…)」
「…何…?」
「(まず頼みごとなんだけど…君は女の子なんだから、「我」とかじゃなくて、「私」とかに
してみたらどうかな?そのほうが、君に似合っていると思うんだけど…」
「………」
『驚愕』は驚いているのか…照れているのか…そんな感情が、愁に伝わってくる。
「(駄目かな?)」
「…心得た…」
少し溜めを置いた後に、『驚愕』は了承した。
「(次に、状況を教えてくれないかな?一体、何がどうなってるの?)」
「マスターは…「門」に飲み込まれて…別の世界に、転送されようと…してる」
一瞬、愁の思考が停まる。
「(「門」?別世界?…まるで、マンガかテレビ…もしくはゲームだな…)」
そんなことを考えていると、『驚愕』がさらに、言葉を紡ぎだす。
「もうすぐ…出口…マスター…心で、私に話しかけて…くれれば…いつでも…答える」
「(え!?ちょ、ちょっと待って!まだ聞きたいことが…)」
「(…時間がない。…マスター…出口…)」
「(…あぁっ!もう!後で、事情を詳しく聞くからね!)」
「…わかった…」
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〜転送から数時間後、イースペリア近郊〜
『…いつ、生きてるのかねぇ?』
話し声のようなものが、愁の耳に届く。
『…のハズですよ…ーリィ』
『…つついてみるか?』
『やめときなさい』
『やってみよ♪』
次の瞬間、愁の尻にどでかい針が刺さったような痛みが走った。
「痛ぇ〜!!!」
『あ…生きてた…』
『だから、やめておきなさいって…』
「いきなり何するんで…す…か…?」
愁は、自分の目の前の二人を見て呆然とした。
…髪と瞳が赤い女性に、ピッグテールにミッドナイトブルーの瞳の女性…そして…その手に握られた、「得物」…
『こいつ…何言ってるんだ?』
『…!!…まさか!?エトランジェ!?』
『…こんなもやしが?』
「(何か、驚いてるみたいだな…赤い髪の人は、呆れてるみたいだけど…とにかく状況を…)」
「(確認…する?)」
聞き覚えのある声…そう、ほんの少し前まで、会話をしていた声であった。
「(『驚愕』!?…どこにいるの?)」
「(…愁の…腰に…)」
まさかと思い、自分の腰を見る愁…自分の腰に下げられた…「得物」を
二本の脇差程の大きさの刀…それも二振り。
「(……まさか――)」
愁の予感は…
「(そう…これが私…『驚愕』…)」
見事に当たった。
「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
『うわっ!なんだこいつ!?いきなり大声だしやがって!』
『…!』
大声に反応して、身構える二人の女性。
「あ…す、すいません!驚かせて…」
とっさに、ペコリと頭を下げる愁。
二人は、構えを崩さない。
…嫌な汗が、愁の背中を伝う。
「(と、とにかく!『驚愕』!状況どころか、言葉すらわかんないんですけど!?)」
愁は、少々パニクっていた。
「(会話なら…なんとか…なる)」
「(マジで!?今すぐなんとかして!このままだと僕、斬られそうだし…お願い…)」
「(…了解…)」
『驚愕』が、輝き始める…
『…!!神剣魔法かっ!?』
『いえ…違うようです…』
二人は輝きを見ながらも、未だ構えを崩さない。
「(…これで…大丈夫…)」
「(…本当かなぁ?…試しに話しかけてみるか…)えっと…こんにちは」
「「!!!!!」」
二人は、いきなり言葉を解した愁に驚きを隠せなかった。
「…おい、シェリム…こいつ、いきなり喋りだしたぞ…」
「やはり…エトランジェ…」
「(…通じてる…な。あっちの会話もわかるし…)とりあえず…「えとらんじぇ」って、何ですか?」
二人はなにやら、ボソボソと話し合っている。…愁をほったらかしで…
「あ、あの〜…(汗」
「とりあえず…我々に付いて来てもらえませんか?「エトランジェ」についても、女王様から説明されると思います。
…強制はしませんが…」
話し合いが終わったのか、シェリムと呼ばれた女性が愁に話しかける。
「う〜ん…そうですね…状況もわかりませんし、お邪魔させていただきます。…危険だと思ったら…
逃げますけど…」
愁は、「強制はしない」と言った相手に、本音で回答した。
「…恐縮です。…あ、申し送れました。私は、シェリム…シェリム・ブラックスピリットです。
こちらは…」
「シャーリィだ。シャーリィ・レッドスピリット。よろしくなっ♪」
二人は、愁の回答に誠意を感じたのか、笑顔で自己紹介を愁にした。
「あ、どうも…僕は愁です。萩原 愁と言います。よろしく」
「「こちらこそ(おぅ♪よろしく)」」
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道中は何の異変もなかった。前の二人が、愁におかしなことをする仕草もなければ…愁が逃げることもなかった。
そして…地平線の向こうに見えていた建物が、徐々に大きくなっていった。
「シュウ…あれが我らが主の城…イースペリアです。」
シェリムが、城を指差しながら愁に告げる。
「あれが…(どうする…?悪い人達じゃなさそうだけど…まだ…様子見か…それが無難か)」
愁がそんなこと事を考えていると、ポンと肩を叩かれる。
「どうしたんだ?いくぞ?」
シャーリィが愁の事を知ってか知らずか、笑顔で声をかける。
「(こんな笑顔をするコが、悪人な訳…ないか。)…ごめんごめん。今行くよ」
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〜イースペリア城内、謁見場〜
「陛下、シェリムとシャーリィが戻ってまいりました。その…青年を連れて」
「そう…その子も一緒に、ここに通して」
「ハッ」
しばらくして、謁見会場のドアが開く。
「メルフィオネア陛下、かの場所よりエトランジェを発見、同意を得た上で同行して頂きました」
「だ、そーです」
シェリムは礼を重んじて述べたのに対し、シャーリィはかなりいい加減である。
しかし、女王はそんなことも意に介さない、といった感じで愁達を見つめる。
「ご苦労様。さて、エトランジェ様?私の名前は、メルフィオネア・ファイ・イースペリア。
あなたの名前を、教えて頂けるかしら?」
妖艶な目つきで、愁に尋ねる女王。
年は20代半ばといったところだろうか、髪はセミロングで、モデルのような四肢をしている。
「(なんだろう…この人…裏があるように見えるけど…悪意を感じない…)愁…萩原 愁、と言います」
愁は、すこし困惑気味に答えた。
「(なかなか鋭そうな目をした子ね…本音をぶつけるか…)早速なんだけど…っとその前に
エトランジェについて、説明したほうがいいかしら?」
「できれば、お願いします」
「エトランジェっていうのは、要するに「勇者様」ってやつ。今はこの世界、どこ行っても戦争でねぇ…
うちなんか、色んな国に囲まれてるから…そりゃ小競り合いも多いわけよ。…単刀直入に言うわ、
うちの国で働かない?…もちろん、強制はしないわよ?」
愁は、少し女王を睨みつけながら告げる
「…僕に…人を殺せって言うんですか…」
メルフィオネアは、愁の目に怯えることなく告げる
「あなたのいた世界では、どうか知らないけど…この世界ではね…戦うことを放棄した者から、死んでいくの。
戦う相手は国だったり、貧困だったり、作物を荒らす害虫だったり…人それぞれではあるけどね」
愁は声を荒げながら、女王の言葉を遮る。
「だからと言って!僕に侵略の手伝いをしろって言うのか!?冗談じゃない!」
メルフィオネアは冷静な態度で、愁に答える。
「あら?誰が「侵略」する、なんて言ったの?私は領土拡大なんて興味もないし、そもそも…そんなことしなくても
この国は食べていけますしね」
「じゃあ、何故僕を引き入れようとするんです!?」
「降りかかる火の粉は、払わなきゃいけないでしょ?…それにね…シュウ…あなた、他の国の連中だったら
有無を言わさず、強制的に侵略の手伝いをさせられるか…もしくは殺されてるわよ…」
女王の眼差しは、真剣そのものだった。愁は少し、後悔の顔を浮かべながら
「(…くっ!これじゃあ、秋月君を殴った時から成長してないじゃないか!何をやってるんだ、僕は!)
すいません…大きな声をだして…」
「いいのよ。若いって証拠じゃない?…ふふっ、それじゃあ…あなたの給料、権限、ここに残る場合の役職、
この世界の情勢等の書類を出来次第、持っていくわ。それを見てからでも、遅くはないでしょ?」
愁は考え込む。
「(…どうする?『驚愕』…)」
「(…)」
驚愕は、答えてはくれない。
「(自分で考えろ…か…悩めるときに悩め、だね。狼雅君…)すいません。そうさせてもらいます」
申し訳なさそうに、愁はメルフィオネアに一礼する。
「それじゃ、今日は部屋を用意するから、泊まるといいわ。たぶん書類は、すぐに出来上がるから。
それじゃあ、二人共、シュウに城を案内してあげて。泊める部屋は、貴女達の向かいの部屋だから」
「「心得ました(りょ〜かい)」」
「すいません、何から何まで…」
「いいのよ。それじゃ、思いっきり悩んできなさいな」
愁に優しい笑顔を向けるメルフィオネア。
「…はい。わかりました。」
愁もまた、笑顔で答え、三人は謁見会場を後にした。
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突如、メルフィオネアの顔が険しくなる。
「影…いる?」
メルフィオネアの後ろに、黒い影が舞い降りる。
「ここに…」
暗がりから、声だけが聞こえる。
「各国の「目」と「耳」に通達。人間の出入り、特にエトランジェと思われる人間を見つけ次第、報告せよ」
「…御意…。それと…先ほどの謁見の際、クェドギンの「耳」がおりましたが…」
「あいつは動きはしないわよ。こんなの聞いて動くのは、ヒヒジジイくらいよ。捨て置いて構わないわ」
「…承知…」
影の気配が消える。
「さて…場が動くわね…最初の一手を出すのは…さて、どこかしら…」
呟きながら、メルフィオネアは書類作成の命を伝えるべく、謁見場を後にした…
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〜同時刻、イースペリア城内〜
「しっかしシュウ、あんたって結構気性が荒いのな」
廊下を歩きながらシャーリィが愁に声をかける。
「はは…ごめんね。君達の主人に暴言吐いちゃって…」
苦笑いを浮かべながら愁は答える。
「いやいや!オレは感心してるんだぜ?ただのひょろいのかと思ったら、なかなか肝の据わった奴だってね♪」
うんうんと頷きながら愁に話しかけるシャーリィ。
「そうかな…」
愁は、まだ後悔の念が消えない。
「私も…」
シェリムも声をかける。
「私もあの場面で、「はい、そうですか」と戦いの場に出る人間は…いささか信用に欠けると思いますね」
愁の方をちらりと見ながら、シェリムが言葉を終える。
「ありがとう。二人とも…」
愁は笑顔で二人に礼を言った。
「い、いやぁ。礼を言われるほどのモンでも…(なんて邪気のない顔しやがる…)」
「そ、そうですよ。た、大したことはしてません…(綺麗な笑顔…)」
「そう?でも、ありがとう」
「「つ、次行きますよ!(行くぜ!)」」
「???…二人とも、どうしたんだろう…?待ってよ〜!」
そそくさと歩いていく二人を、愁は駆け足で追いかけた。
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〜その日の夕方、スピリット宿舎〜
愁の部屋に、小気味よいノックの音が響き渡る。
「…シュウ…食事の用意が出来ました。あと、書類も出来たそうなので、ダイニングお越しください」
シェリムが、ドア越しに愁に声を掛ける。
「了解。すぐ行くよ」
シェリムは、わかりました…と告げてドアを離れていく。
「さて…行くか(悩め…か…)」
愁は『驚愕』を腰に下げると、自室を出てダイニングへと向かった。
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ダイニングへ行くと、シェリムにシャーリィ…そして、見覚えのない女性が座っていた。
「お待たせ…二人とも…あれ?この人は…?」
「あぁ、こちらはエミィ…エミリオン・ブラックスピリットです。エミィ、こちらが先ほど話していたシュウです」
「…よろしく…」
抑揚のない声で、エミリオンが愁に声を掛ける。
「よ、よろしく(なんだこの子は…魂がないというか…欠落しているというか…)」
「(神剣に…少し…飲まれてる…)」
『驚愕』がぼそぼそと喋る。
「(…どういうことだ?)」
「(…)」
驚愕は、それ以上の言葉は発さなかった。
「(…無口だなぁ…しかも、肝心な所で黙っちゃうしなぁ…)」
「シュウ?どうした?料理が冷めちまうぜ?」
夕飯を目の前に、おあずけを喰らった子犬のような瞳をしながら、シャーリィが愁を見つめる。
「わ、わかったよ。それじゃ、皆で頂こうか」
「「「はい(待ってました♪)」」」
「いただきます」
愁が手を合わせる仕草を見て、三人の手が止まった。
「シュウ…今のは何ですか?その、「いただきます」って…?」
シェリムが代表して、愁に聞く。
「(そっか。こっちには、そういう風習はないのか…)これはね、作物を作ってくれた人、食卓に並べられた動植物に対して
僕達の為にありがとう、っていう感謝を表しているんだよ。僕の住んでた所の風習…っていうのかな」
三人は三様に、話を聞いていた。
「良い風習ですね。感謝の気持ちを忘れない、慈愛の心、どれも大切なものです」
「いいねぇ!そういうのなんかさ…。そうやって毎日生きてると、「一人で生きてるんじゃないんだ」って安心するな!」
「…感謝の気持ち…一人じゃない…それは…安心できる…」
三人は、それぞれの感想を各々述べている。
「それでは…私達も…」
「だな♪」
「…(こくり)」
「「「いただきます」」」
愁はそのやり取りを、微笑ましく眺めていた。
「(…そういえば…僕も「いただきます」の意味は、母さんに聞いたんだっけ…)」
故郷の母を、思いながら…
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〜1時間後、ダイニング〜
「シュウ、これが陛下の用意した書類です」
シェリムが、紙の束を愁に手渡しながら告げる。
他の二人は食事の片付けが済むと、部屋へと戻って行った。
「ありがとう。えぇっと…………」
愁の動きが止まる。
「?…どうしました?シュウ?」
「…(全く読めない…。『驚愕』、なんとかならない?)」
「(…ムリ…)」
「…(滝汗」
しばらくしていると、シェリムが苦笑いを浮かべながら
「もしかして…読めない…とか?」
「……うん(は、恥ずかしい…)」
するとシェリムは
「では私が代読しますので、よく聞いていてくださいね?」
にっこりとシュウに微笑むシェリム
「(一見冷たそうに見えるけど、あったかい…シェリムさんって、「かまくら」みたいな人だなぁ)…」
「…シュウ?」
「あ、ごめんごめん。ちゃんと聞くから…それじゃ、お願いします」
「ふふっ…はい。わかりました♪」
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〜3時間後…ダイニング〜
愁は、様々な話を聞いた。この国の事、他の国の事…そして…スピリットの事…
「(こうも人間のエゴが、この子達を苦しめているなんて…)よく…わかったよ。ありがとう」
沈み気味の顔を上げながら、愁はシェリムに礼を言う。
「…そんな顔なさらないで下さい。少なくとも陛下は、スピリットでも人間でも「能力」のある方は重用されるお方ですから、
ある意味平等な方ですので…」
「それでも…ごめん。人間を代表して…謝りたい…」
「シュウは…とても優しいのですね…優しくて...心が、綺麗です」
「…」
愁は、言葉を発せなかった。
「(そんなことはないよ…シェリムさん…僕の心が、綺麗だなんて…そんなことはない…)」
静かな時間が、二人を包む。
徐々に、二人とも気まずくなってくるのは...必然だった。
「そ、そそれでは!わが国に残った場合の、処遇についてせ、せせせつめい、します!」
「う、うん、よ、よろしくお願いします!」
二人とも、顔から火が出たかのように真っ赤である。
「…こほん…え、え〜…
『わが国、イースペリアに残った場合、以下の事を約束する
1.イースペリアスピリット部隊 1番隊隊長の役職
2.軍議への参加権限と発言権の所有
3.賞与、給与の支給…
(金額はあっちの世界で言う会社役員クラス)
4.その身の保護を約束するが、これは束縛ではないことを原則とする
(つまりは出て行きたければいつでもどうぞ)
5.女王陛下への直接談判の権利』
以上、となっております。」
「…これって、優遇されてるの?」
「えぇ…とてつもなく」
愁は考え込む。
「ちなみに1番隊とは、私達の部隊ですね。今は来るべき防衛戦に向けて、部隊の再編中ですから…」
「今夜一晩、考えてみるよ…」
「そうですか…」
愁はそう言って立ち上がると、自分の部屋の方へと向かおうとした。
「あの!」
シェリムが愁の背中に向かって、声をかける。
「ん…?」
「私は…シュウが残ってくれると…その...嬉しい…です…」
「「…」」
またしても、お互いの顔が真っ赤になる。
「その…お、お休みなさい!」
シェリムは、全速力で自分の部屋と駆け出して行った。
「…(参ったな…僕のこと…いや、そんなわけないか…うん…僕にそんな資格…ない…)」
愁は熱の下がらない顔をおさえながら、自分の部屋と向かった。
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〜愁の部屋〜
「(どうする…?『驚愕』…)」
「…マスターの…したいように…すればいい…逃げても…誰も…文句は…言わない…」
「(「逃げ」…か。考えれば…僕の今までの人生、「逃げ」てばかりだったな…
一生懸命なんて…せいぜい演劇くらいだし…これもなんとなく、「家にいたくなかった」って始めたんだっけ…
一生懸命やった結果…それが…答え…か…狼雅君…君は…本当に僕の心を…成長させてくれたね…)」
「…どうするの…マスター…」
「(『驚愕』。僕は決心がついたよ。それは明日、メルフィオネアさんの前で、証明する)」
「そう…了解…マスター…」
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〜翌朝、イースペリア城内、謁見会場〜
「おはよう。シュウ、昨日はよく眠れたかしら?」
メルフィオネアが昨日と変わらない態度で、愁に接する。
「おはようございます。メルフィオネアさんのお陰で、よく眠れました」
「そう…じゃあ、答えを聞かせてもらおうかしら?…うちで、働く気はない?」
会場が静まり返る…愁の一挙手一投足を、固唾を呑んで見守っている…。
「僕は…あなた方が思うような力はない…と思います…」
一瞬、会場がざわつく。
「しかし!こんな僕を必要としてくれ、かつこのような待遇で迎えてくださることに、感謝しています。
…微力かもしれませんが…この国の為に…働かせてもらいます。…僕は…もう逃げない!…逃げたくない!」
静まり返る会場…メルフィオネアは、にっこりと微笑んで
「ようこそ、イースペリアへ。我々は…エトランジェ、『驚愕』のシュウを歓迎します」
歓声が沸きあがる会場内。その歓声は、愁が退場するまで、やむことは無かった…
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〜同時刻、マロリガン共和国、執務室〜
「失礼します…クェドギン様…「耳」からの報告書が届いております」
書簡を持った兵士が、椅子に腰掛けている男性に話しかける。
「…ご苦労だった。…下がってくれ」
「はっ!失礼します!」
クェドギンと呼ばれたその男性は、書簡に目を通す。
「…ほぅ。…中原の女狐がエトランジェを…しかし…あの女狐のことだ…これ以上の情報漏れはさせまい…。
大方、私が動かない事を見計らって流したのだろうが…」
机からタバコを取り出し、火をつける…。
「…まぁいい。…どちらにせよ…次の一手は、我々ではない…」
執務室に、苦い煙と策謀が立ち込めていた…
第三話に続く…
〜あとがき〜
どうも!右端です!
今回はどうだったでしょうか?
ちゃんと書けているでしょうか?
心配ですorz
今回は愁の心境描写に気を使ってみましたが…
はてさて…どうでしょう?(苦笑
クレーム、感想、ご指摘等、お待ちしております♪
それでは!第三話をご期待ください!