─聖ヨト歴330年 シーレの月 青 五つの日 朝
 隠れ家 食堂

「ラキオスのスピリット隊のを・・・ですか?」
キーリはスープを持っていた手を止める。
「ああ、高嶺がどうしてラキオスで戦っているのか気になってな。もう街には中々入れそうにも無いから」
「タカミネ様はヨウ様のお友達ですか?」
陽は首を捻り。
「まあ、そんなところだ。だから、あいつが何でラキオスで戦っているのかを調べて、協力できそうなら協力する。キーリを無理にとは言わないが」
キーリは立ち上がり食器を流しに付けると、
「分かりました。早速支度をしましょう」


同日 朝 第一詰め所 食堂

「ユート様。、バーンライトが宣戦布告をしてきました」
「みたいだな」
悠人は溜め息を吐く。
「これにより、ラキオスとバーンライトは戦争状態に入ります」
エスペリアの言葉に、悠人はゆっくり頷く。
「現在、スピリットの戦力では我が国が劣っています」
「だな」
悠人は苦々しく頷く。
「ただし、サードガラハムの守り龍を倒したため、保有マナ量では我が国の方が有利です。バーンライトは、我が国が戦力を増強する前に叩くつもりなのでしょう」
エスペリアはテーブルの上に広げられた地図の一転を指さした。
「敵は兵力をリーザリオに集結している模様です」
続いて指を走らせる。
「後背を突くのが上策ですが、ラセリアとサモドアを繋ぐ、山間の道は閉鎖されてます」
「と、なると・・・」
悠人が腕を組む。
「遠回りするしかありません。だから、リーザリオとリモドアを経由して、首都サモドアに進軍しましょう」
エスペリアはリーザリオとリモドアを指でなぞって行く。
「今回が、始めての本格的な作戦行動となります」
「ああ」
「ユート様。なんとしても、この作戦を成功させましょう」
エスペリアの言葉に、悠人は頷いた。
「パパは隊長さんだね♪オルファ、なんでも言うこときくよ〜」
オルファが明るい声で言う。
「オルファ!!ユート様にそのような口の聞き方はなりません」
「ぷ〜、なんで!?パパはパパだよ〜」
エスペリアの言葉に、オルファは頬をふくらませる。
「いけません!私たちは、ユート様の命令に従い、戦わなければなりません。解りますか、オルファリル?」
エスペリアは厳しい口調でたしなめる。
「エスペリア、いいんだ。俺も別に何が違うって訳じゃないし」
『別に、隊長だからって何かが変わるわけでもないし』
オルファを叱るエスペリアに、悠人が助け船を出す。
「ほら♪ねぇ〜、パパもそう言ってるもん」
エスペリアは真剣な眼差しを悠人に向けた。
「ユート様、ラキオス軍スピリット隊・隊長補佐の立場から申し上げます。私たちは道具です。人ではありません」
エスペリアは厳しい口調で言う。
「ユート様がどう思われようと、これは紛れもない事実です。もう今までのようにはまいりません。アセリア、特にオルファ・・・!!」
「う、うん・・・」
オルファは沈んだ口調で返事をする。
「ん」
対するアセリアはいつも通りの抑揚のない口調で頷く。
「セリア達もです」
≪はい!!≫
エスペリアの言葉に、セリア達も頷く。
「私たちは、ユート様の剣であり楯です。ユート様の言葉は絶対であり、自分の命よりも重いと考えなさい」
「な・・!?無茶苦茶な事言うなよ、エスペリア!!」
悠人の言葉に、エスペリアは表情を変えなかった。
「何がおかしな事でしょうか。私たちは・・・スピリット。戦う道具なのです」
エスペリアはそれ以上の問いを拒むように、強い口調で言った。
「・・・」
悠人は溜め息を吐き。
「エスペリアは、そう思ってたとしても俺は君達を道具としては使えない」
「ユート様・・・」
悠人は穏やかな顔で
「俺がしかっりすれば皆無事に生き残れるんだ」
「そう・・・ですね」
エスペリアは歯切れの悪い返事をした。
「ところでさ。昨日侵入して来たエトランジェの情報は入ったのか?」
悠人は間を持つかのように話を振る。
「え、いえ・・・まだ何も情報は有りません」
「ならそれにも注意をしつつ進軍しよう」


そして、悠人達スピリット隊はラキオスを出立、リモドアへと向かった。



同日 朝 リーザリオへ続く道

「・・・」
崖の上から陽は悠人一行の動きを観察していた。
「キーリ。バーンライトとラキオスの戦力の差は如何なんだ?」
陽は後ろを警戒していたキーリに話し掛ける。
「スピリットの数ではおそらくバーンライトですが、質はラキオスが上です。サードガラハムの龍から得たマナによって更に、その質も上がってる筈です」
「じゃあ、ラキオス優勢で見ても良いのか?」
キーリは渋い顔をして
「いえ・・・それが」
「何か問題が有るのか?」
キーリはゆっくりと頷き。
「サーギオスの助力が有ると聞いてます」
「サーギオスの?バーンライトは帝国の傘下だから当然じゃないのか?」
「今までの助力ならです」
陽は意味が分からずに首を傾げる。
「ここ最近になってサーギオスの傘下の勢力が異常なほど力を付けて来てるんです」




悠人、ヒミカ、ハリオン、ネリー、シアー、ヘリオンは先頭を、アセリア、エスぺリア、オルファは後方を警戒しながら歩いていた。

「はぁ…」
度重なるシアーの溜め息に。
「どうしたの、シアー?」
シアーに、ネリーは声をかける。
「ううん…何でも無いよ」
「何でもない事は無いだろ?」
歩くペースを落とした悠人が話し掛ける。
「ユート…様」
「どうしたんだ?」
「え、えっと…ユート様は……怖く、無かったですか?」
悠人は首を傾げる。
「あ…あの……戦う事です」
「それは、最初は怖かったよ」
悠人は照れ笑いを浮かべる。
「じゃあじゃあ、ユート様はどうしたの?」
話にネリーが加わってくる。
「俺の時はエスペリアやアセリアが居たから、気が付いたら恐怖は無くなってたな」
悠人は二人の頭に手をのせる。
「だから、今度は俺が君達のエスペリアやアセリアのような存在になるからな」
≪はい!≫
二人は満面の笑みで、笑い合った。
「!!ユート様!!」
その時、ヒミカが血相を変えて叫んだ。
「ああ!敵が居る」
「敵襲です〜」
ハリオンものんびりした声で言う。
「皆、行くぞ!!」
≪はいっ!!≫


「ハアッ!」
ガキーン!!
敵スピリットの上段からの一撃を、ハリオンは素早い動きで受け止める。
「やあ〜!!」
カキン!!
ハリオンは、敵スピリットの上段の攻撃を防ぐと神剣を返して
ズバッ!!
そのまま【大樹】を敵スピリットの胴を薙ぐ。
「ギャアアアア!!!」
断末魔の叫び声をあげ、金色のマナと成って消えていく。

「やあ!!」
「はっ!!」
ガキン!!
ヒミカと敵スピリットの神剣が交差する。
ギギギィ・・・
敵スピリットの方が力が強く、ヒミカが押される。
「ハァッ!!」
ガキン!!
「!!」
ヒミカは神剣を滑らせて相手を躱わすと、敵スピリットは前につんのめる。
そのまま神剣を無防備な敵スピリットの背中に突き刺す。
「はあぁぁあ!!」
ザシュッ!!
ヒミカの一撃が、敵スピリットを貫く。
金色の光となり霧散していくと、ヒミカは次の目標を探しだした。

「イグニッション!!」
敵スピリットが神剣魔法を詠唱する。
「ネリー見たいにくーるにいか無いと・・・アイスバニッシャー!!」
ネリーもアンチ神剣魔法を詠唱する。
ズバアアアッ!!
「!?」
ネリーのアンチ魔法で敵スピリットの神剣魔法が無効化される。
「えいっ!!!」
その隙に、ヘリオンが一気に敵スピリットの間合いを詰める。
「やぁっ!!」
そして、懐に入った瞬間【失望】を抜く。
ザシュッ!!
上半身と下半身が分かれた敵スピリットはそのまま消滅していった。

ガキン!!ギン!!ガアン!!
「わっ、わっ、わぁ!!」
敵の攻撃を必死で受け止めるシアー。
「ハッ!」
ガキン!!
「きゃあ!?」
敵の一撃に、シアーは堪らず尻餅を付く。
「終わりだ…」
敵スピリットは、シアーに向かって剣を振り下ろす。
「きゃあああ!!!」
シアーは目を閉じて頭を抱える。
「シアー!!」

ドス!!

「くう!?」
敵スピリットの腕にナイフが刺さっていた。
「……え…?」
シアーは何が起きたか理解できていなかったようだった。
「シアー!とどめ!!」
「え?あ!!」
ネリーの声で我に返ったシアーは神剣を手に取ると
「やぁああ!!」
ザシュッ!!!
敵スピリットは、突然の事に一歩も動けずに霧散する。

そして・・・

「うおおぉおおお!!」
ズバッ!!
悠人の【求め】が、最後の敵を斬り裂く。
「・・・終わったみたいだな。皆!無事か!?」
悠人の声に、周囲に散っていた仲間が集まってくる。
「全員無事です。ユート様」
エスペリアが走ってきて報告する。
「シアー。血が出てるじゃないか」
「だ、大丈夫です……転んだ…だけですから」
悠人に声をかけられ、ヒミカは苦笑しながら答える。
「ハリオン。治療してやってくれ」
「はい〜」
「他は・・・大丈夫みたいだな」
悠人は辺りを確認して安堵の溜め息を漏らす。
「ユート様。少し休憩を取った方がいいと思います」
エスペリアが提案する。
「そ、そうだな。じゃあ、しばらく休憩しよう」
≪はい≫


「ナイフ一本無くなりましたね・・・」
キーリは陽をジロリと見つめる。
「ははは・・・ごめん、つい」
陽は場が悪そうに頭を掻く。
「もう少し慎重に行動してください。彼らに居るのがばれたら如何するのですか?私達は自由に動ける訳ではないんですよ?彼らとだって今、見つかったら戦闘にも成るかもしれないんですから」
「すみません」
「すまなく思うのなら水を汲んで来てもらえますか?彼らもここで一泊するみたいですから、私達もここで休みましょう。私は夕食の準備をしておきますから」
「了解」

こうして夜は深けていった・・・。