???

「ん、つつ・・・」
陽は頭を抑えながら体を起こす。
「ここは・・・?」
まだ、はっきりとしない意識で記憶の糸を手繰り寄せると、ある一点の記憶で。
「【蒼天】は!?」
剣はベッドの横に掛けられていた。
「良かった・・・それより、ここは・・・」
辺りを見渡すと家の作りは中世のヨーロッパを思わせる。
「何処だ?」
と、ある一つの答えに辿り着く。
「夢か?」
「ハケサス、ヤミニェ、ラス(失礼します)」
陽は思わず剣に手を掛けようとしたが止めた。
『まずは様子を見るか』
入ってきた女姓は見た目は十七、八歳くらいで、透き通るような青白い、どちらかというと白に近いロングヘアで、顔立ちもかなり整っていて美人に区別される部類だった。
「ラスト、ソロノラス(気が付かれましたか?)」
少女は机にポットを置きハーブティーを注ぐ。
「イス、イスィー(お茶です)」
「ど、どうも」
陽は訳が分からないままカップを受け取る。
「ヨテト、ニノウ、ラ、キーリ、ハトゥ、ユウラス(私はキーリ・ホワイトスピリットです)」
「?」
陽は首を傾げる。
「キーリ、キーリ」
少女は自分を差しながらキーリという単語を出す。
陽は何となく言いたい事が分かり、少女を差しながら。
「キーリ?」
と尋ねると。
「ウーテ、イスルス(そうです)」
キーリは笑顔で頷く。
「風峯陽、陽、陽」
陽も同じように自分を差しながら言う。
「陽、陽」
キーリは陽を差しながら。
「ヨウ、ラハテ・レナ、イワル、ラスト(陽様ですね)?」
陽は自分の名前が出て、伝わったと感じた陽は首を縦に振る。
「リュールゥ(良かった)」
「ハヌゥ、ハーノゥ、ニセスィ、ワ、アエレナ、ウネ、ヤァ、ワハエルラス。リーン、ラススング、ヤァ、ヨテト(御用があったらベルを鳴らして下さい。私が飛んできます)」
と、キーリは机の上のベルを鳴らす。
『用が有ったらベルを鳴らせって事かな・・・』
「オッケ。分かった」
陽は首を縦に振る。
「リューハケサス、ヤミニェ、ラス(失礼しました)」
と、キーリは部屋から出て良く。
「さて、落ち着くか」
大きく深呼吸する。
「服は制服のままか・・・」
陽は記憶にある最後の場面を思い出す。
「ありえねぇー・・・何だ是、SF?ファンタジー?・・・まぁ、そんな事は良いか」
陽は窓の外を見ると、雪原が広がっていた。
『考えたくもないけど・・・時深の突拍子もない質問や出来事を考えると』
「異世界なのか?」
陽は溜め息を吐く。
「人生は波瀾万丈って良く言ったものだな・・・」
陽は苦笑いを浮かべ、此れからの事をする為に、ベルへと手を伸ばした。


聖ヨト暦330年
─聖ヨト歴330年 シーレの月 青 四つの日 朝

「キーリ」
陽は読んでいた歴史書から顔を上げ、度の少ない眼鏡を外しながらキーリを呼ぶ。
「はい?どうなさいましたか?」
キーリは台所から顔を出す。
「ラキオスとバーンライトが戦争を始めたって本当か?」
「はい。ラキオスに買い出しに行ったときも、その話題で持ちきりでした」
今、二人が住んでいる所はソーンリーム中立自治区とラキオスの領地の境にある山岳地帯だった。
「何でもラキオスのエトランジェが龍を倒して大量のマナを手に入れたそうです」
「成る程・・・それを機会に一気に攻め込んでマナと領地を増やすつもりか・・・」
陽はハーブティーを一口啜る。
「さてと」
陽は立ち上がると、【蒼天】を腰に差す。
刀身には玉が紅と蒼の玉しかはめられてなかった。


『えたーなる?』
【はい。上位永遠神剣を持つ『渡り』の力を持った、広域次元存在です】
『で、要はどういうこと?』
【貴男がこの異世界に来たのも『渡り』の力です】
『なら、あんたの言う通りなら、半永久的な命を持って、地球の奴らからは俺の記憶はないって事か?』
【いえ、今回の『渡り』は【無我】の力によるものです。それに今の私は上位永遠神剣として機能していないから貴男はエターナルではありません】
『どういう事だ?』
【刀身を見て下さい】
『あれ?碧と黄と白の玉が無い?』
【おそらく【無我】との衝撃の際に取れたのでしょう。アレは私の神剣としての核ですから、アレが五つ全て揃わないと上位永遠神剣としての力を発揮できないのです】
『へぇ。残りの玉が何処にあるか分かるの?』
【二つはこの世界から力を感じます。後一つは分かりません】
『なら、まずは核の玉を捜すところから始めるか』



『何だかなぁ・・・』
黒くゆったりとして、裾が足のくるぶしくらい迄あるローブを羽織って、フードを被る。
裾が長いローブの為、神剣がすっぽりと隠れる。
「お出かけですか?」
「ああ、ミルクがもう無いだろ?買ってくるよ」
「それなら私が」
「良いよ。ついでにラキオスのエトランジェも気になってたから。じゃ、行ってくる」


同日 ラキオス城下町

「どうもね」
陽は店から出ると城の方に足を向ける。
【どうしたのです?】
「いや、ラキオスのエトランジェが気になってな」
と、角を曲がると。

ドン!

誰かとぶつかり、何かが紙袋から出る音がする。
「・・・ッ」
「すまない。焦ってたから・・・大丈夫か?」
陽は手を差し伸べる。
「す、すみません」
茶色の髪をした少女は手を取って立ち上がる。
「中身が・・・すまない、弁償する。幾らだ?」
「いえ・・・気にしないで下さい」
「けど・・・」
と、陽は周りの交通人が邪魔そうに避けて歩いてるのを見て。
「とりあえず拾います」
「あ、私も」
二人して散らばった食材を集める。
【この人、スピリットですね】
『ラキオスのスピリットか・・・もしかすると情報が入るかも・・・【蒼天】、成るべくマナの気配を消せよ・・・』
「是で最後・・・」
「どうも有難う御座いました」
少女は深く頭を下げる。
「いや、気にするな。ぶつかったのは俺からだから」
「そう・・・ですか。それでは」
「あ、ちょっと待った」
「はい。何でしょうか?」
少女が振り返る。
「君はラキオスのスピリットだよな?」
「はい」
少女は先程までの友好的な顔から友好的とも非友好的とも取れない顔になる。
「ラキオスのエトランジェの事、少しだけ教えてくれないかな?」
「何故、そのような事を?」
『しまった・・・露骨すぎた』
陽は今更ながらに後悔する。
「いや、何でもない・・・失礼する」
陽は踵を帰して歩き出すが、腕を捕まれる。
少女の顔は明らかに非友好的な顔をしていた。
「何が目的ですか?まさか・・・」
「ちっ・・・ごめんよ」
「え?」
陽は捕まれたてを握り、そのまま持ち上げる。
「えっ!?きゃ!!」
少女は急に放されて尻餅を付く。
陽はそのまま人込みに駆けていく。
「ま、待ちなさい!」
少女は立ち上がるとハイロゥを展開する。
「どうしたの!?エスペリア」
人込みの中から赤い髪と青い髪の少女が現れる。
「ヒミカ、セリア!さっきの黒いローブの人を追って!バーンライトのスパイかもしれない!」
「何ですって!?行くわよ、ヒミカ!」


「ちっ!【蒼天】、マナを頼む」
【血を……】
「は?何だよ、いきなり」
【蒼天】は当然のように
【私は今は力が無い状態です……なら、他の物で補填しないと】
「ちっ…」
陽は刃で手の甲を少し斬ると刃に血をつけると、血は蒸発していく。
「これで良いだろ!?」
【はい…それなりの力を】
陽は人込みの中を更に加速しながら走る。
「居たわ!ヒミカ!」
「嘘!?もうばれたか・・・なら」
壁に脚を掛けると跳躍して、屋根に上ると、再び走りだす。
「よし、出口だ」
「ファイヤ・ボール!」
火球が陽を目がけて飛んでくる。
「くそ」
陽は振り向きざまに【蒼天】で一刀両断にする。
「何あれ!あいつもエトランジェなの!?」
そうしている間に門に辿り着くが
「行かせない・・・」
「アセリア、気を付けろ。相手は多分神剣を持っているぞ」
そう言った男に陽は見覚えが有った。
『高嶺!?』
目の前に居たのはクラスメートだった高嶺悠人だった。
悠人からは陽はフードで顔が隠れていたため、気が付いてなかった。
茫然と立ち尽くしていると気が付いたらラキオスのスピリットに包囲されていた。
「しまった……」
「答えろ!貴様は何者だ?」
悠人が問い掛けてくる。
「はぁ……」
陽は【蒼天】を構えると自分の手の甲を貫く。
ジュウウウ……
≪っつ!?≫
悠人達は不気味なものを見るように見る。
献血より少し多い程度の血を渡すと剣を引き抜く。
ズプッ……
「これで如何だ?」
【良い感じです、それなりの力を】
「なら……」
陽は眩暈がしながらも構える。
悠人達も神剣を構える。
「【蒼天】・・・」
紅い玉が輝くと刀身が炎に包まれる。
「強行突破だ」


同日 夕方 謁見の間

「そのまま未確認のエトランジェを逃したのか!?」
「・・・」
悠人は俯いたまま何も答えない。
「龍の件で過大評価しすぎたようだな!!もういい!退がれ!!」
「はっ・・・」


同日 夕方 第一詰め所

「で、エスペリア。その男は俺の事を調べてたのか?」
「はい」
エスペリアは手際良く食事を並べていく。
「この世界にエトランジェの使える神剣は4つだったよな?」
「そうだよ。パパの持っている【求め】。後は【誓い】、【因果】、【虚空】だよ」
オルファはスプーンとフォークを持ってカチンカチンと音を鳴らすのをエスペリアが「やめなさい」と言って制する。
「私も【蒼天】と言う名の神剣は記憶に有りません」
「うーん・・・」
悠人はハーブティーを啜る。
「ユート・・・」
「ん?如何した、アセリア?」
「私・・・もっと、強くなる」
「あ、ああ」
悠人はアセリアの突然の言葉に間の抜けた返事をする。
「ん・・・」
しかし、アセリアは満足げに頷いた。


同日 夕方 隠れ家

「ただいまぁ・・・」
「おかえりなさいませ」
と、出て来たキーリは陽の姿を見て驚く。
「ど、如何なさったのですか!?」
体の彼方此方が擦り傷だらけに成っていた。
「無茶はするものじゃないな・・・」
「何が有ったのですか?」


「それじゃあ、ラキオスのエトランジェとスピリット達と交戦して来たのですか?」
キーリの声はいささかトーンが下がっていた。
「そうだけど、誰も殺してきて」
「そう言う問題では有りません!!」
ついつい声が大きくなってしまい、キーリ自身が驚いたように口元を抑える。
「えっと・・・その・・・」
「っつ!!」
キーリはそのまま部屋に閉じ篭もってしまった。
「はぁ・・・」


「キーリ。無茶して悪かった」
「・・・」
部屋から何も聞こえない。
「入っても良いか?」
「駄目です・・・」
蚊の鳴くような声が聞こえるが、
「入る」
と、陽は問答無用で中に入る。
部屋は真っ暗で微かに甘い匂いが漂っていた。
「今回のような無茶はしないから、機嫌治してくれよ。な?」
「・・・」
暫くの間が有った後
「本当ですか?」
「ああ」
キーリは顔を上げると陽の顔をじっと見つめる。
「今度、だけですからね」