Oath and Promise

Chapter4
理想郷侵攻 -Utopia-






「西部への関所に兵が集まってる?」

「はい、どうやらガルバリア共和国に宣戦布告したようです」

戦いから一夜明けたエレメントの里。
テーブルに座り2人の人物が会話をしている。
一人は里のリーダー、セーラ。
もう一人は異世界より現れた少年、樋山瞬である。

「どうします?」

「あの国は我々を認めてくれる唯一の国です。
 出来れば加勢に行きたいのですが、関所が・・・」

「僕達は既にロザリアと敵対した。
 だったら関所も力押しで通過すれば良いのでは?」

「普通の関所程度ならその方法も可能です。
 ですが、あそこはロザリアの言い方をすると悪魔達の住む国に最も近い関所です。
 当然ただの関所ではありません、要塞と化しています」

「・・・攻略は難しい、と?」

「はい・・・」

「ただいまぁー」

ドアが開き、ゲッソリとした顔で白い髪に金の瞳を持つ少女セレが入ってきた。

「おかえり、セレ。
 情報は得られた?」

「ぜーんぜんダメ。
 知らないの一点張り、斬りかかろうとするティミス抑えるのに疲れたよー」

「それはお疲れ様。
 はい、冷たい飲み物でも飲みなさい」

そう言ってセーラがテーブルに冷えた飲み物を置く。
すぐさま手に取り一気に飲み干した。

「プハァー!
 お母さん、もう一杯!」

「はいはい」

苦笑しながらももう一杯。
二杯目もすぐに空となった。

「で、どうするの?
 このまま此処に居たんじゃ、またロザリアが来るだろうし・・・」

「かといって生き残った人数であの要塞を突破するのは無謀です」

「・・・・・ちょっと質問」

「ん?
 どしたのシュン」

「いや・・・今居るあの捕虜2人を利用して要塞を越えれないかなーって思ったんだけど」

「人質にでもするの?」

「そんな事したらアウトだよ・・・。
 考えた方法は―――――」






>ガルバリア共和国

「関所に舞台が集結している様です。
 王よ、指示を御願いします」

一人のエレメントが報告を終える。
声は落ち着いているものの、表情は強張り、緊張しているのが容易に見て取れる。

「宣戦布告は数時間前。
 やはり予め部隊を編成し、近場に待機させていたか」

ギリ、と歯軋りが広間に響く。
王と呼ばれた男性は20代半ば、美しい金色の髪が印象的であった。

「―――――王、我々は貴方に救われた身です。
 貴方が一声戦えと命じたならば我々は貴方の為に、そして受け入れてくれたこの国の為に神剣を振るいましょう。
 さあ、命令を」

「だが、それでは―――――」

「王は国を護る義務があります。
 そして貴方の目の前には、ロザリアと言う脅威に対抗出来る者達が居ります」

「・・・分かった。
 ただしこれは命令じゃない、御願いだ。
 負けそうだと判断したら退く事、自由に判断してくれて構わない。
 だから、この国を宜しく頼む」

「承知しました。
 この身は剣にして楯、この国を、そして貴方様を御守りいたします」

「何か出来る事があったら言ってくれ、戦えない分支援は惜しまない」

「はっ。
 それでは出撃いたします、吉報をお待ちください」







>西部関所付近

「―――――で、シュン。
 本当に上手くいくの?」

「・・・多分」

「ひーん、急に弱気になったよー!」

「・・・あれだけ大見得きったのに」

「うう・・・俺達が何でこんな事を・・・」

「しっ!
 そろそろ関所ですよ」

森を歩く一団。
白い鎧を着た男が3名、剣を持った女性が6名歩いている。

「止まれ」

関所に到着し、進行が止められる。

「さっき予定されていた全部隊が向かったはずだが?」

「あ、ああ。
 そこに白い髪の悪魔がいるだろ?
 最近聖王都近辺で捕獲された、特異なヤツだ。
 それの実戦投入と増援、と言う形になっている」

「ほう、そうなのか。
 で、そいつは役にたつのか?」

「そりゃもちろん。
 たった一人で数人の相手をするようなバケモノだ、ガルバリアなんざ敵じゃねぇ」

「そりゃ凄い。
 今抵抗にあって思った以上に苦戦している。
 そいつを早く投入してくれ」

「分かった」

「3人に神の加護があらんことを・・・」

瞬が考えた作戦は成功した。
捕虜二名はロザリアの王都から増援を連れて来た者を装う。
瞬は男なので里で拝借したロザリアの鎧を着用、兵士に成りすます。
『誓い』は神剣を持ってないセレが持ち、後は増援と言う形を装った。

「・・・思ったより簡単に行ったね」

「案外間抜けね、ロザリアの連中って」

関所から十分離れた場所で足を止めた。

「ぶは!
 暑い、臭い、重い3拍子揃ってて最悪だったよ・・・」

瞬が鎧を脱ぎ捨てながら顔を手で扇ぐ。

「お、俺達は・・・」

「ん、ああ。
 ここからはロザリアに合流するなり逃げるなり自由にしてくれ。
 情報は聞き出せなかったけど、十分役に立ったしね」

瞬の言葉を聞くと捕虜だった2人はすぐさま逃げ出した。

「さてさて、それじゃ―――――」

「ガルバリアに加勢いたしましょう」

「そうですね、その為に来たのですから」

「行くよ!」

瞬を除く6人が一斉に駆け出した。

「・・・『誓い』?
 おーい、『誓い』、どうしたんだ?」

【・・・何だ】

気だるそうに手に握られた真紅の剣が反応する。
以前の様な威勢はそこに無く、風邪で弱っているような反応だった。

「いや、戦闘だしさ、力を貸して欲しいなーと思って」

【それは構わんが、1つ条件がある】

「何だ?
 体を寄越せとか言ったら怒るぞ?」

【暫くは諦めると言ったであろう。
 代償だ、我にマナを寄越せ】

「ヤだ。
 お前の力が強くなったら僕が支配されかねない、それは却下だ」

【なら力は貸せんな】

「む、何だよそれ」

【シュンよ、今の我は第5位を名乗っているが、力だけを見たら8位に相当する】

「へ?」

【何の訓練も受けていない汝が訓練を受けた妖精を複数同時に相手をして生き残れた理由は何だ?
 確かに汝の気配を察知する力は一流だ、だが戦闘技術はこの世界の兵士以下だ。
 汝の技術と妖精達の技術との膨大な差を埋めたのは純粋な力だ。
 前回の戦いで我は汝に力を与えた、ただでさえ少ないマナを大量に使ってな】

「う・・・」

【理解したか?
 前の様に戦えば一撃で葬られるぞ。
 力が欲しくば我にマナを寄越せ、それが汝の力になる】

「・・・分かったよ。
 でもどうやってマナを補充するんだ?」

【我を放置していれば自然に回復する。
 が、膨大な時間がかかるな】

「どれくらいだ?」

【ふむ・・・今の状態だと1000年もあれば全快するであろう】

「僕が生きてないよ・・・。
 もっと手軽な補充法は無いのか?」

【最も手軽かつ効果的な方法がある、神剣は大抵この方法でマナを補充する。
 所謂『ぽぴゅらー』と言うやつだな・・・しかし、この方法は汝が拒否すると思うが】

「何だよ、言ってみないとわからないぞ」

【妖精との性交だ】

「・・・は?」

【何だ、そんな言葉も知らんのか。
 いいか、性交と言うのはだな―――――こらシュン、いきなり蹴るでない!】

「うるさい、このエロ剣!
 このっこのっ!」

地面に剣を叩きつけ、その上を踏みつける。

【だから最初に拒否すると言ったではないか!
 この愚か者め、それでも言えと言ったのは汝だぞ!】

「そんな言葉が出るとは思わなかったんだよ!
 ・・・で、その・・・それしか方法は無い・・・のか?」

【いや、相手の神剣を破壊しても補充は出来るが・・・。
 やはり性交に比べると効率が落ちるな】

「絶対に神剣を破壊するよ・・・」

【一人ずつ相手にするのだぞ?
 今の力ならば何とか一人で勝てる程度だ】

「分かった」

戦場に歩を進め始めた時

『やぁ、僕。
 状況が良くないみたいだから力を貸しに来たよ』

頭に『僕』の声が響いた。

「(力を・・・?)」

『生憎、力と言っても『誓い』の様な力じゃないけどね。
 戦闘に関する知識を貸そうと思って』

「(・・・あの映像といい、戦闘知識といい、何でも持ってるね)」

『まあね。
 で、要るかい?』

「(戦闘知識は持ってないから欲しいな、御願い出来るかい?)」

『分かった、それじゃ直接頭に送るからしっかり覚えておいてくれよ』

そう言うや否や、頭に大量の知識が流れ込んでくる。

「(これは・・・凄いな)」

『それじゃ、『僕』は戦闘の邪魔にならないよう戻るよ』

「(ああ、ありがとう『僕』。
  さて、それじゃ今度こそ―――――)」

覚悟を決め、戦場へと走りだした。







>ガルバリア城門近辺

「でやぁぁぁぁっ!!」

真紅の一閃が剣を叩き折り、剣が金色の塵を吸収する。
神剣を失い無力化したエレメントの腹を『誓い』の柄の部分で強打し、気絶させる。
戦いに飛び込んで叩き折った神剣の数はすでに5本目。
もらったばかりの戦闘知識は偉大だった。
前回の戦いと今回の戦いの記憶を照らし合わせると、その戦い方は明らかに違っていた。

「(本当に僕の戦い方って無駄が多かったんだな・・・。
  ―――――でも、『僕』は何でこんな知識まで持ってるんだ?
  これは本なんかで得られた物じゃない、実戦を潜り抜けて来た者が持つ知識だ)」

少しの思考。
だがすぐさまそれを振り払う。
―――――今は戦場だ、立ち止まってる暇は無い。
剣を握り直し、更に走りだす。
前方から周囲よりも一際大きい音が聞こえる。
見慣れない緑のエレメントが吹き飛ばされ、それを仕留めようとする光の宿っていない青いエレメント。
全力で駆け、必殺の一撃を『誓い』を水平にして受け止める。

「ふ―――――はぁっ!」

即座に流し、一撃を加えようとするが青いエレメントが後ろへ大きく跳躍する。

「逃がすか!」

その跳躍をなお速い疾走で追いつき、追撃を放つ。
が、それも防がれる。
逆にお返しだ、とばかりに横からの一撃が放たれるが、即座に間合いを空け対峙する。
回避しきれなかったのか、頬から一筋の血が流れ落ちた。

【ふむ、今まで戦った妖精の中でも一番強いようだな。
 ・・・恐らく汝よりも強いだろう】

「みたいだね。
 さっきの一撃で良く分かるよ」

ぐい、と服で頬から流れる血を拭う。
拭った服に付着した血が金色の塵へと変化した。

「でも、ここで退くわけには!」

再度相手に向かって疾駆し、距離を詰める。
先程貰った戦闘知識を総動員し考え付くありとあらゆる箇所を攻撃する。
その攻撃一発一発がまさに赤い突風。
だが、その攻撃も全て防がれる。

「―――――チィッ!
 何で攻撃が―――――!」

まるで攻撃手段全てが読まれているかのような錯覚。
それ程に相手は悠然と、余裕を持って対処していた。
瞬は気付かない。
所詮は貰い物の知識、急に頭に入った物。
何の訓練も修練も無く、平常の生活をこなしていただけの躯体にとってそれはあまりに覚えのない動作である。
ここにこう打ち込めば勝てる、それは頭では十分に理解している。
だが、体がついてこない。
歴戦の知識とド素人の体。
その差は高度な戦闘に致命的な程影響を与えていた。
致命的な影響は焦りとなって太刀筋の精度をどんどん落としていく。

「―――――ッ!」

精度を落とし過ぎた。
僅かな隙につけこみ、青い少女の反撃が始まる。
肩を、脚を、腕を的確に切り込む。
致命傷に至らないのは貰った戦闘知識による防御だ。
だが、頭の知識では完全に防ぎきれる攻撃、それを防ぎきれない。
それがまた焦りを産み、徐々に、そして確実に体力を削ぎ落としてゆく。
幾度目かの攻防の末、間合いを空けたのは瞬だった。

【攻撃の精度が以前に比べて格段に上がったのは疑問だが、体がついて来ておらんな】

「はっ、は―――――あ、体が・・・?」

剣を正眼に構えたまま意識を僅かに『誓い』へと向ける。

【そうだ。
 汝は戦闘の素人だ。
 そうだな・・・言うならば汝には今、歴戦の教官が付いている状態と言うべきか。
 狙うべき答えは教官が教えてくれる、だが体はその答えについていけない。
 体の力、技術、勘、経験が足りない。
 故に高精度の攻撃にはありえない僅かな無駄が出来る】

「(やっぱり借り物の知識じゃ体がついて来ない、か)」

【勝つには防げない程に強力な一撃か、分かっていても防げない一撃が必要だな。
 今の汝に後者は難しい、ならば前者だが・・・】

「手段はあるのか?」

【ある。
 神剣魔法だ】

「メトゥラ御得意のあれか」

【知っていると思うが、詠唱は必須だ。
 誰か前衛が居れば良いのだが・・・】

「前衛・・・里の皆とは離れすぎたか。
 セレやフィルが居たら一瞬で勝負がつきそうなんだけどなぁ・・・」

【あの妖精ならば一撃で撃破するであろうな。
 むしろその場合汝は必要無い】

「やっぱり?
 ・・・無いものねだりしても仕方ない、自力で何とかしようか」

僅かに傾けた意識を戻す。
目の前には到底及ばない力を持った青い死神。
今の瞬には踏み込む隙すら見つけられない。
まして今は傷を負った状態。
焦りの理由は分かったが、怪我により体力は大きく削られている。
今の状態で戦っても勝てる可能性など皆無であった。
むしろ今踏み込めば攻撃を防ぎきれず、一撃でマナの塵へと還る可能性さえ考えられる。

「あ、あの・・・」

先程殺されかけた緑のエレメントがおずおずと話しかけてくる。

「ああ、大丈夫そうなら下がってて。
 こいつは僕が何とかするから」

明らかな強がりだった。
勝算等全く無いのに自然と口から言葉が出た。

「いえ・・・私も戦います。
 二人でかかれば倒せるんじゃないかと思うのです・・・が・・・」

【丁度良い。
 その妖精が前衛になり、汝が神剣魔法を放てば恐らく決着がつくぞ】

「確かにお互いどんな戦い方するのか分からないから役割分担した方が良い・・・のかな?
 とにかく、えーっと・・・」

「レミア・・・レミア・ウインドエレメントです」

「僕は瞬だ。
 それじゃレミア、すまないけど前衛をやってくれるかい?
 僕が神剣魔法を使うよ」

「あ、わ・・・分かりました」

「で、どんな神剣魔法なんだ?」

【広範囲の神剣魔法だ。
 その妖精が巻き込まれない様に何らかの合図を決めておけ。
 威力に自信がある、巻き込まれたらマナの塵に還るぞ】

「詠唱が完了したら一気に離脱してね。
 ・・・なんか威力と範囲が凄いらしいから」

「は、はい・・・。
 それでは・・・宜しく御願いします」

そう答えると一気に敵に向かって疾走した。
繰り出される突きは凄まじく、怒涛の攻撃を浴びせる。
が、それでも青いエレメントは表情を崩さずに防御に徹する。

「さて―――――初めて神剣魔法を使うわけだけど・・・」

【良く狙え、そして集中も忘れるな】

「了解」

スゥ、と呼吸を落ち着かせ目を閉じ頭に並ぶ詠唱を紡ぎ始める。

「・・・マナよ、『誓い』の契約者たる僕に従え―――――」

いつの間にかレミアは防御にまわっていた。
瞬の以前に行っていた戦いの疲れが抜けきっていなかったのか、僅かな隙をつかれ攻守が逆転したのだ。
防壁を展開し耐えているが、長くは持たないだろう。
ここにきて青い少女の表情に焦りの色が現れていた。
視線はレミアではなく、瞬を射抜いていた。

「オーラとなりて、立ち塞がりし敵を殲滅せよ!」

詠唱が完了すると同時にレミアが限界とばかりに思いっきり後ろへ跳んだ。
受身も取らず、地面を盛大に転がる。
青いエレメントの顔が凍りつき、すぐさまバニッシュスキルを詠唱を始めるが、時既に遅し。

「オォォォォラフォトンッ、レイ!」

詠唱は完成し、大量の光の槍が眼前の死神を射抜いた。
轟音と爆音。
それは怪我人が使った物とは思えぬ威力を発揮した。
周囲に煙が立ちこめ、その神剣魔法の威力を物語る。

「・・・嘘、だろ?」
「そんな・・・」

しかし、二人は驚愕という感情に支配されていた。
立ち込める煙の中、青い少女は立っていた。

「が―――――あ、は―――――!」

少女の口から初めて苦悶の声が漏れる。
あれほどの威力の神剣魔法を受けて未だにその姿を保っている。
致命傷には変わりない。
だが、消し飛んでも何ら不思議ではない威力だった神剣魔法に耐え切ったその力。
それは驚愕に十分値する。

「あ―――――あああああああああああああっ!!」

絶叫。
全身から金色の塵を放ちながら、なおも疾走するその姿その形相。
それは正に鬼神と呼ぶに相応しかった。

「な・・・チィッ!」

振り下ろされる太刀筋に最早技術は存在しなかった。
ただただ相手を倒し捻じ伏せる事のみに特化した攻撃。
愚直なまでに真っ直ぐで冴え渡るほどに冷たい一閃。

「が―――――!?」

脚を神剣が貫通する。
肉を穿ち、筋肉を絶ち、骨を砕くその一撃。
技は無い、それなのに先程以上に防ぐ事の出来ない。
そもそも、技とは実力の拮抗した相手に対して使う物である。
言うならば実力の底上げ。
元々相手より実力が大きく勝っていた場合、純粋に力で押した方が大きな効果が得られる事がある。
それが今である。

「せやああああっ!」

見かねてレミアが割って入るも、防がれ反撃により更に傷を作る。
二人して一気に後ろへ跳び、間合いを空ける。

【耐えるのだ。
 あれだけのマナを放出しているのならば、暫くすれば消滅するであろう】

「ハァ、ハァッ・・・それが出来ないんだよ・・・。
 耐えられる程やわな攻撃じゃない」

【しかしまともに戦っては勝算など無いだろう】

「それは・・・そうだけ―――――ぐっ!」

再び青い少女が襲い掛かる。
急所だけは必死になって防ぐ。
その代わりに腕、脚、肩、顔には大量の切り傷が出来ていた。

「く・・・そおおおおおおっ!!」

再度後ろへ大きく跳躍。
しかし今回は地面を転がる。
最早着地の事等考えられない、考えて跳躍すれば間違いなく追撃が来る。
すぐさま体勢を立て直し、剣を正眼に構えた。
二人で相手をしているのに、未だに相手に攻撃が成功しない。
体力も精神力も限界だった。

『相手の動きを良く見るんだ。
 以前と違って、今は純粋な力押し。
 向かってくる力は逸らすんだ、真正面からぶつかるな』

頭に忠告が響く。

『体の力を抜け、頭の思考は常に張り巡らせるんだ。
 攻撃をいかに逸らし、カウンターを決めるか。
 それだけを考えるんだ』

「(―――――分かった)」

呼吸を調律する。
一定のリズムで、爆発しそうな心臓を必死で落ち着かせる。
構えは正眼、視線のみ相手を見据え、その挙動全てを見逃すまいと射抜く。
3度目はお互いの疾走。
これが最期になるのだろう、今まで以上の気迫を感じた。

「おおおおおおおおおおおおおお!!」
「ああああああああああああああ!!」

繰り出される攻撃は音速の突き。
視認したと同時に脳を貫く文字通り必殺確殺の一撃。
それを体を僅かにずらし、回避する。
死神の一撃は空を斬り、避けきれなかった髪は宙を舞い、僅かに額を切り裂く。
真紅の剣は少女の胸を深々と貫いていた。

「あ―――――か、は―――――こふ―――――」

「ハァッ、ハァッ!」

少女の口から紅い液体が吐き出される。
液体はすぐに金色の塵となり、大気へと胡散した。
少女もまた、後を追うようにして金色の塵と化した。

「ハ―――――ア」

その場にドサリ、と倒れこむ。
体中傷まみれだった。

「あ、だ、大丈夫ですか・・・?」

「何とか生きてる・・・」

「おーい、生きてるー?
 うわ、傷だらけじゃん、どうしたの?」

「目茶目茶強いエレメントと戦ったんだよ・・・」

「・・・隊長クラス?」

「かも、ね」

「何にせよ、敵は退きました。
 今の内に城に―――――シュン殿、立てますか?」

「ごめん、立てないかも・・・」

「ああもう、世話の焼ける・・・。
 ほら、行くわよ」

「誰も回復系の神剣魔法持ってないんですか?」

「・・・持ってない」

「あう・・・私も持ってない・・・です。
 で、でも城内に居る人なら・・・」

「分かったわ、そこまで案内御願いできる?」

「は、はい」

こうして、城門前の攻防はガルバリア共和国の勝利で幕を降ろした。


セレとレミアの次回予告?

「はいはい、Chapter4終・了!
 今回は短めだねー」

「え、あ、はい・・・。
 そうですね・・・」

「おお、今回のパートナーは突発でポッと沸いた本来予定に無かったキャラ、レミアちゃんじゃない。
 そんなおどおど話さなくてもっとバーンと話してくれても良いよ?」

「突発・・・ええ、確かにそう・・・なんですが・・・」

「おっと、こんな裏話は置いといてだね。
 しっかし、ヘタレ戦闘シーンではシュンばっかり動いてるね。
 ま、一応主役だから仕方ないけど」

「い、一応って・・・。
 セレさんとフィルさんは動かしたら、その、相手が一撃で終わっちゃう・・・らしいです」

「そりゃそうでしょ。
 フィルはスキルが凄いし、私は力が特化されてるみたいだし。
 おっと、話がまた逸れる前にサクッと予告言っちゃおうか」

「は、はい・・・そう、ですね・・・。
 あの・・・私話すの苦手ですから・・・その、上手く話せるかどうか・・・」

「まぁ欠点は誰にでもある物だよ、私は無いけどね!」

「え・・・?
 えーっと・・・アンタは欠点まみれでしょ、このパワー狂・・・?
 え、え、え!?
 私じゃ・・・ありませんよ?
 メトゥラさんが・・・」

「んな!?
 あんのインテリ気取りのなんちゃってサポーターめー!」

「あ・・・。
 ・・・・・・・・。
 えと、もしかして・・・私一人・・・ですか?
 あの・・・代役とかは・・・居ませんよね・・・。
 あう・・・それでは・・・。
 次回、Oath and Promise。
 Chapter5、 世界の歴史 -Locus- お楽しみに・・・?」

「くおらこのへっぽこ魔法使い!
 今日と言う今日は泣かせてやるー!」

「ふん、アンタこそマナの塵に還してやるわ!」

「うるさい!
 ここで泣かして皆への晒し者にしてやるー!」

「ちょ、二人とも何やって・・・!
 うわ、こんな狭い室内で暴れって神剣魔法撃つな!
 というか僕を巻き込むな!」

「あは、あはははは・・・。
 シュンさんが危ないので・・・コホン。
 その、後ろが危ないので今回はこれで・・・。
 次回は話メインの様・・・です、多分、はい」


更新事項
登場キャラ
レミア・ウインドエレメント
ガルバリア共和国のエレメント。
会話が苦手だが、人付き合いは嫌いという訳ではない。
永遠神剣第8位『虚心』を持つ。

特殊スキル
神速攻撃:敵に反撃の間さえ与えない攻撃テクニック。行動回数が+1回される。