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Oath and Promise

Chapter2
逸した常識 -Unexpected-




白亜の神殿と思しき場所に彼等は居た。
白い法衣に身を纏った青年に、30代半ばであろう豪華な服を着た男だ。

「―――――以上が今回の報告です」

服のみで判断するのなら、白い法衣の青年が地位的に下の筈である。
それなのに豪華な服の男が青年に報告した。

「そうですか・・・。
 ですが、まだ続行してください。
 何処か思わぬ所に隠されているやもしれません」

「御心のままに・・・」

「それと、例の場所は掴めましたか?」

「ハッ。
 報告によると特定できたようで、今部隊を編成しております」

「分かりました。
 ・・・悪魔は根絶しなければならない、分かっていますね?」

「無論で御座います」

「宜しい。
 報告御苦労様でした」

「それでは、失礼致します」

そう言い、豪華な服の男が退室する。

「・・・クク、ゲームの幕開けだ。
 どう転んでも最後に笑うのは僕だがね」

一人残った白い法衣の青年は誰も居ない神殿の中で唯一人そう呟き笑っていた。








朝日が窓から射し込み、朝の到来を告げる。
10何年変わらず、そしてこれからも変わる事が無いだろう目覚めの儀式である。
コレは太陽がある限り変わる事は無い、不変なのだ。
日常も変わらない。
一般的な常識ではそうそう変わるものでなく、変えれるものでもない。

「―――――う、もう朝・・・」

モゾモゾと布団の中で動き出す。
惰眠を貪ろうとする心を捻じ伏せ、布団から顔を出す。

「・・・・・・」

しかし、どんなものにも例外は存在するもの。
前述した日常も然り。

「・・・此処、どこだ?」

この日この時この瞬間に。
日常はその日、大きな変化を迎えていた。







「(とりあえず、状況を整理しないと)」

部屋を見渡す。
木造建築の部屋、ベッドは至って普通。
当然、知らない部屋である。
階段が見えるから、窓の外の景色を見比べれば恐らく2階。
下から美味しそうな匂いがするので人が住んでいる。
本棚の本のタイトルを見ると読めない言葉で書かれてある。
当然少し前まで居た自分の部屋とは大きく異なる。

「(瞬間移動?
  常識ではまずありえな―――――)」

『僕、近い将来に常識を逸した事態が起こるよ』

脳裏にふと、夢の中で話した『僕』の言葉がよぎった。

「(これが常識を逸した事態?
  おいおい『僕』、随分と急だな)」

自身の内面に問いかけるが、答えは無い。
基本的に『僕』と接触できるのは寝ている時のみなのだ。
無論そんな事はとうの昔に知っていたが、問いかけずには居られなかった。

「(窓の外にビル等の高層建造物は無し。
  その代わりに木が一杯だな・・・。
  どこの田舎なんだ?)」

考えても心当たりが無いのだから、いくら考えても無駄。
その結論に至った瞬は再度ベットに倒れこむ。

「(本当に厄介な事に・・・とりあえず起きて話でも―――――)」

起き上がろうとした時、階段の方に人の気配を感じた。
間もなく階段を駆け上がる音、それもかなり盛大にだ。
そうして、1人の少女が姿を現す。

「"やっほー!
  まだ夢の中かい、人間!"」

一人の少女が部屋に飛び込んできた。
サラサラの白い髪を後ろで1つに結い、美しい金色の眼。
そして何より、元気一杯という声がひどく印象的だった。

「"おお、起きてた!
  いやー、今日は良い天気だよ"」

「な、なんだって?」

「"んん?
  何々、何て言ってるの?"」

言葉が分からなかった。
ここが何処なのか、何で此処に居るのかと尋ねたいところだが、言葉が分からないのでは理解のしようが無い。

「"セレ、その人は病人なんですからもう少し大人しくしなさい"」

階段の方から新しい声が聞こえるが、言葉は同じく理解できない。
しかし階段を上がる音、先程の話し方から考えると大人しそうな印象を受けた。

「"だってー。
  あ、お母さん、この人何言ってるか分かんないよー。"」

むぅ、と膨れたような顔で階段の方に声をかける。

「(とにかく、コミュニケーションを取らない事には始まらないな)」

そう心に思い、階段の方を見る。
上がってきた女性は目の前の白い少女の少し年上程度だろうか。
髪と瞳は青く澄んでおり、手には湯気が立ち上る食器らしき物を持っていた。

「"と言う事は・・・外の大陸から来たのかしら"」

「"え!?
  外の大陸から来た人なら色んな話を聞きたいなぁ!
  ねぇねぇお母さん、どうやったら言葉が聴けるようになるかな"」

「"それは私達が彼の言葉を理解するか、彼が私達の言葉を理解しないことには・・・"」

元気一杯の白い少女を、その元気さに少々困り気味ではあるが楽しそうな女性。

「(姉妹か?
  その割りにはあまり似てないような・・・)」

「"どちらから参ったのか知りませんが、これをお食べください。
  体が温まりますよ"」

にこりと笑ってベッドの横に腰掛けてる。
ベッドの柵に病人用の簡易テーブルとして使うと思われる板を渡し、その上に食器を置いた。

「(あ、良い匂い。
  こうして前に出したって事は食べても・・・良いんだよな?)」

ふと青いの女性を見直す。
再びにこりと笑い、手で食器を指した。

「それじゃ・・・頂きます」

いつもの言葉を口にして、スプーンで少し取る。

「(病人用のお粥みたいなものか?)」

そうして一口。

「(あ、美味い。
  ジャガイモみたいなのを煮込んで少し甘く味付けしたのか。)」

「"うー、お母さん、私にも作ってー"」

「"さっき朝ご飯食べたでしょ・・・"」

「"うー・・・"」

黙々と食べ、すぐに完食してしまった。

「ご馳走様、美味しかったよ」

そう言い、ぺこりと頭を下げる。
言葉は通じずとも、ジェスチャーで感謝の意を表す。

「"ふふ、お粗末様でした"」

微笑みながら食器を片付ける青い女性。

「(言葉を覚えるまでジェスチャーで何とかするしかないか・・・)」

そう思い、再び布団に沈み込んだ。
暖かい御飯を食べて安心したのか、意識はまた闇の中へと沈んで行った。


………
……



「"へぇ、これが外の大陸の・・・"」

「"でしょでしょ。
  服も違うし、言葉も違うんだ"」

「"あんまり騒がないでくださいね、彼が起きちゃいますから・・・"」

何やら周囲に人の気配がする。
寝る前にあった少女達の様だが、気配が少し多い気がする。
起こすまいと気を使いヒソヒソと話しているみたいだが、一度でも意識が覚醒しかかると逆に気になるものである。
そのまま徐々に、そして確実に意識は覚醒していった。

「う・・・何だ・・・?」

「"あ、起きた"」

「"メトゥラがジロジロ見るから視線に耐え切れなくなったんじゃない?"」

「"まるで人の視線に攻撃力がありそうな言い方ね・・・"」

「"あ、やっぱりジロジロ見てたんだ!
  いやーメトゥラ、もしかして一目惚れってヤツですかな?"」

「"なっ・・・・!
  そんな訳ないじゃない!
  いい加減な事ばっかり言ってると燃やすわよ!?"」

「"こら二人とも、静かにしなさい。
  喉が渇いているかもしれませんから、私は飲み物を取ってきます。
  私が戻ってくるまで騒がしくしないように"」

「「"はーい"」」

眼を開けるとそこは先程と同じ天井。

「(どうやら、僕の夢って訳でも無さそうだなぁ・・・)」

変わらない現実を目の当たりにし、少々気落ちしてしまう。
しかし気落ちしてる暇など無い。
出来るだけ早く現状を把握しないと、帰る手段も分からない。

「とは思ったものの、言葉が通じないんじゃな。
 何とかしてこっちの言葉を習うしかないか」

誰に言うでもなくそう呟いた。

「"本当に何言ってるか分からないわね"」

「"でしょ。
  メトゥラなら色々詳しいから知ってるかなーって思ったんだけど・・・"」

声の方を見ると、見慣れない少女が増えていた。
目の前には燃えるような赤い髪に、ルビーを思わせる瞳の少女。

「"残念だけど、全然分からないわ"」

「"チッ、使えないヤツめ"」

「"セレ、聞こえてるわよ?
  アンタとはそろそろ白黒はっきりさせた方が良さそうね。
  アタシに2度とそんな言葉を言えない様に、徹底的に!"」

「"ふふん、今までの対戦成績は私が25戦13勝12敗で勝ってるのよ?
  ま、わざわざ負けたいのなら止めないけどね!"」

「"言ったわね、この力馬鹿!
  私の力で灰にしてやるっ!"」

「・・・なんか、雰囲気がマズくなって来たような」

赤い少女は隣の白い少女より落ち着いているようだが、すぐ熱くなるタイプのように見える。
現にさっきまで冷静だった少女、今はお互いに何かを言い合っている。

「"・・・2人とも、私の言った言葉を忘れてしまったようですね"」

「「"あ・・・"」」

しまった、という2人の顔。
だが遅い。
言葉こそ分からないが、状況を見ていたら青い女性が何を言って去ったのかが分かる。

「(多分騒ぐな、って言ったんだろうな・・・)」

「"セ、セーラさん。
  セレが先に・・・"」

「"あ、私の所為にする気ね!?"」

「"アンタが余計な事言ったのが原因でしょ!?"」

「"あれぐらい流せないと大人になったら大へ―――――"」

「"い・い・か・げ・ん・に・・・しなさいっ!"」

一喝。
部屋が振動しているのではないかと錯覚させる程に見事な一喝だった。

「"まったく、貴方達ときたら何時も何時も・・・!"」

「"お、お母さん。
  飲み物を持ってきたんじゃないの?"」

「"そ、そうですそうです!
  ほら、彼も喉が乾いてるみたいですので・・・!"」

「"それにほら!
  やっぱり他人の目の前で説教とかしちゃマズイと思うよ、私は!"」

何やら説教が始まりそうな雰囲気の中、紅白の少女が青い女性に必死に訴えかける。
その姿は説教から逃れる為、という事が見ただけで分かるほど必死だった。

「"む、確かに・・・。
  この場で説教はちょっと見苦しいですね"」

「"ね?
  だから―――――"」

「"セレ、メトゥラ。
  彼が寝たら続きをします、帰らないように"」

「"あう・・・"」

「"うう、分かりました・・・"」

がっくり、という表現が非常に良く似合うシーンだ。

「"喉が渇いてる様でしたら、これを御飲みくださいね"」

何かを喋った後、コップをベッドのすぐ横にある小さな棚に置いた。

「ありがとう」

そう言い、頭を下げる。

「"ねぇねぇ、言葉は通じないけど名前を伝えるぐらいは出来るんじゃないかな"」

「"あら、セレにしちゃマトモな意見ね"」

「"私は何時もマトモよ!"」

「"しかし、どうやって名前を?
  彼に言葉は通じないのですよ?"」

「"問題はそこですね、セーラさん"」

「"ふっふっふ、私に秘策あり!
  まずは私を見ろ!"」

何やら声高らかに叫び、ベッドの前に仁王立ちする白い少女。
そのまま親指を自分に突きつけ、満面の笑みで

「"セレ!"」

一言簡潔に、全ての無駄を省きそう叫んだ。

「―――――へ?」

「"バカ!
  やっぱり通じてないじゃないの!"」

「"ええい、最後までやって見ないと分からないでしょ!"」

またベッドの方へ向き直り、自分に人差し指を向け

「"セレ、セ・レ!"」

「"傍から見てると心底バカに見えるわよ、アンタ・・・"」

「"ガーッ!
  いちいち口を挟まないの!"」

「・・・セレ?」

瞬は白い少女を指差し、その名を呼んだ。

「"ほら見なさい!
  メトゥラちゃん、このセレ様の素晴らしい頭脳を崇めるのよ!
  フハハハハハハハハー!"」

「"本当に通じた・・・。
  って、何でアタシがアンタを崇めなきゃならないのよ!"」

「"名前だけ言うなんて・・・"」

続けて白い少女セレが赤い少女を指差し同じ要領で名を呼ぶ。

「"バカメトゥラ"」

「"このアホセレェ!
  彼に変な事吹き込むんじゃない!"」

「"軽い冗談じゃないの。
  そう直ぐに熱くなってちゃダメよ?"」

「"グッ・・・・!"」

「"気を取り直して・・・"」

コホンと咳をして再び指差し

「"メトゥラ、メトゥラね"」

「うんうん、そっちの赤い子がメトゥラね」

コクコクと頷き、ジェスチャーで理解した事を伝える。

「"で、そっちの説教エレメントが私のお母さん、セーラお母さんです!"」

「"セレ、後がどうなってもアタシは庇わないからね"」

「"・・・今晩の御飯、セレの嫌いな物ばっかりですからね"」

「"はぅっ!"」

少し顔が青くなるセレ。
何か彼女にとってマズイ事になったようだ。

「えーっと・・・?」

「"ああ、申し送れました。
  セーラ、セーラです。"」

「ああ、セーラさんね。
 覚えたよ。」

頷きながらそう答える。

「"セレ、他のは呼んでないの?"」

「"あー・・・それが・・・。
  リルは興味無いって言うし、ティミスは森で訓練、フィルは何時も通りね"」

「"はぁ・・・マイペースと言うか何と言うか"」

メトゥラが何やら疲れた様な表情でうな垂れる。
会話が少し途切れた時を見計らい、瞬は自分を指差し自分の名を言った。

「瞬、瞬」

3人の視線が集中する。

「(う・・・何か自分を指差して名前を言うのって恥ずかしい・・・)」

「"シュン・・・?"」

白い少女が聞き返すが頷き、肯定の意を示す。

「"そっかそっか、宜しくね、シュン!"」

こうして瞬の常識を逸した生活はスタートした。







「セーラさん、言葉を教えて欲しいんだけど・・・」

「"シュン、すいませんがもう少し分かりやすく御願いします"」

「いや、だから言葉を・・・」

彼是、数分はこのやり取りである。

「"名前は分かったけど、やっぱ話せないかぁ"」

「"セーラさん、シュンは私達の言葉分からないって・・・"」

「ぐはぁ・・・やっぱり通じない・・・」

「"うう、言葉が通じない事がこんなにももどかしいとは・・・"」

んー、と腕を組み頭を捻る。

「(言葉が通じないとなると文字なんだけど・・・)」

チラリと近くに落ちてる本を盗み見る。

「(ダメだ、暗号にしか見えない)」

言葉、文字の瞬的3大コミュニケーション法の内2つを封じられ、残るはジェスチャーのみ。

「(通じなかったらバカみたいなんだよなぁ)」

だがこのままではお互い会話も成立しないし、外の状況も分からない。

「(通じてくれよ、頼むから)」

そう心に思い、ジェスチャーを開始する。

「言葉、教えて」

言葉を、の部分は口の前に手を持って行き動かす。
まるで口から何か出てるように表現する。
教えて、の部分は机に座りペンを走らせる動作。
すぐさま立ち上がり、さっき自分がペンを走らせる真似をした所を指差す
所謂、家庭教師と生徒を1人芝居しているようなものだ。

「"・・・?"」

「"最初のはイマイチ分からないけど、最後は何となく「教えて」って意味かな?"」

「"何とかを教えて?"」

「"何でしょうね・・・"」

「"むー・・・"」

今度は3人が唸りだす。
その内、メトゥラが指を鳴らし大きな声を上げた。

「"そうか、分かった!"」

「"え、何が?"」

「"シュンの言いたい事よ!"」

「"メトゥラ、分かったのですか!?"」

「"セーラさん、シュンの最後のジェスチャーが教えて、だとしましょう。
  言葉も通じない所に1人投げ出された場合、まずはどうします?"」

「"ええと・・・まず食料の調達とか、今の状況を把握する為に情報収集とか・・・"」

「"ですね。
  食料はセーラさんが用意してくれるので大丈夫として、残りの情報収集は言葉が通じないと把握できる情報にも限界がきます。"」

「"ああ、なるほど!
  シュンは私に言葉を教えてくれ、と言って居るのですね!"」

「"あくまで多分、ですが確率は高いと思いますよ"」

「"と言う事は、最初のジェスチャーは言葉って意味だったんだね・・・"」

「"そう言われれば、口から何か出してる様に表現してましたが・・・"」

「"そう解釈するとほぼ正解みたいだけど・・・"」

「"とにかく、言葉を教えてみましょう"」

「何だか結論が出たみたいだけど・・・通じたかなぁ」

セーラが目の前の椅子に腰掛け、自分と指差し発言する。

「"私、は、セーラ、です"」

「んー・・・セーラってのが名前で・・・」

こうして無事に瞬の意思は伝わり、言葉の勉強が始まった。

「私、は、瞬、です」

と、セーラと同じ仕草で返す。

「"・・・メトゥラァ"」

「"・・・何よ"」

「"暇"」

「"私もよ"」

「"森で稽古でもしよっか"」

「"言葉はセーラさんに任せましょうか"」

そう言い、2人が立ち上がる

「"お母さん、森に行ってくるね"」

「"ええ。
  気を付けてね"」

「"分かってるー。
  それじゃ、行ってきまーす"」

こうしてセレとメトゥラは森へ、瞬とセーラは言葉の勉強を続けるのだった。







「"それでは、今日、は、終わり、に、しましょう"」

「疲れた・・・・」

「"ふふ、御飯、に、しましょうか"」

「手伝う?」

「"いえ、大丈夫、ですよ"」

こうして言葉の勉強の成果は成った。
本当に些細な日常会話を支える言葉を学び、ゆっくり話してもらえれば会話出来るようになっていた。

「"ただいまー!"」

「"おかえりなさい、セレ"」

「セレ、御帰り」

「"うわ!
  シュンが私達の言葉喋ってる!"」

「"本当に簡単な日常会話に必要な単語と文法を教えたから、ゆっくり話せば少しぐらいは会話できますよ"」

「うわ・・・やっぱり普通の速度の会話には付いていけないな・・・」

「"へぇー、シュンって頭良いんだ。
  こんな短い時間で新しく言葉覚えるなんて私じゃ出来ないもん"」

「"それだけじゃなくて、才能もあると思うわよ。
  理解の早さ、記憶力、単語を推定する能力も高いから教えるのが楽だったわ"」

料理を作りながら答えるセーラ。
セレは瞬の前で口元に指を当てて言葉を1つ1つ選ぶように

「"シュン、早く、言葉、覚えて、ね"」

「瞬、早く、言葉・・・ね?
 あ、なるほど」

少し考えて知らない単語を推定、知ってる単語を並べて返事をする。

「ああ、頑張るよ」

「"うわー、何か感激だなぁ・・・"」

「う、速くて解読出来ない・・・」

少しでも単語を知ってしまえば後はパズルの要領だった。
セーラの問題の出し方も上手だったので尚の事瞬はこの短時間で言葉を少しでも習得した。

「(文法が英語と似てて助かった・・・)」

高校で3年間も学んだ英語。
苦手教科の1つでもあったが、今はその英語に感謝した。

「"さぁ、御飯、に、しましょう"」

「並べるのは手伝うよ」

「"あら、それじゃ、御願いします"」








「げふ・・・」

ボスッと布団に飛び込む。
先程食べたパスタ風の食べ物が美味しくて、つい食べ過ぎてしまった。
お陰で腹は張り、見ただけで満腹だと分かる。

「(とりあえず、夢の中で『僕』と話をしないと・・・)」

風呂も入り、いつでも寝れる状態である。

「(明日も言葉を教えてもらって、早く最低限普通に会話出来るようにしないとなぁ)」

ベッドの布団に潜り込むと、すぐさま睡魔が襲い掛かってきた。

「(あ・・・そうだ、セーラさんにお礼言わないと・・・)」

そう思ったが、体が動かない。
そのまま意識は闇の中へと飲まれて行った。






「・・・む」

いつもの朝の儀式。
朝日が差し込み、顔を照らす。
ここに来て既に2週間が経過し、生活にも随分と慣れた。

「・・・結局、此処に来て2週間経つけど『僕』とは一回も会ってないな」

誰に言うでもなく呟いた。
今までならほぼ毎日会話していた『僕』は2週間経って1度も現れる事はなかった。

「考えても始まらないか」

そう言い、貰った服に袖を通して1階へと降りて行った。





「お、やっとお目覚めだね?」

「セレ、お早う」

「お早うじゃないよ、もう昼だって。
 お母さんはもう出かけちゃったよ?」

「う、ちょっと寝すぎたか・・・」

既に日常会話は問題無くこなせる様になっていた。
2週間家に篭り、ひたすら言葉の勉強をした甲斐があるというものだ。
昨日も遅くまで言葉の勉強、文字の勉強をしていたので起きるのが遅くなって御飯を食いはぐれたが。

「もう会話に問題は無いよね?」

「ああ、多分。
 特殊な単語が出てくるか、早口な人と会話しない限りは大丈夫だと思う」

「うんうん。
 んじゃ、外出ようか!」

瞬の手を握り、引っ張る。

「セレ、僕まだ御飯食べて無いんだけど・・・」

「寝過ごしたシュンが悪い!
 ほらほら、行くよー!」

こうして、セレに引き摺られる形で瞬は家を出たのだった。







「―――――で、これが里に水を供給してくれてる泉ね。
 料理とか作るときは皆ここに水を汲みに来るんだ。」

瞬は里の中を案内されていた。
結構人が住んで居るらしく、里の中には様々な人が行き交っていた。
そんな中案内された、里の中央にある泉。
水は瞬の住んでいた町の水を違い、恐ろしい程に透明度が高かった。
泉の中央部にはポッカリと拳一個分程の穴が空いており、そこから美しい水が滾々と湧き出していた。

「へぇ・・・。
 この水って飲める?」

「当ったり前。
 飲めなかったら料理に使えないよ」

「それもそうか。
 僕が居た街では考えられない程水が綺麗だから、つい聞いちゃったよ」

そう言いながら水を少し飲む。

「思ってたより冷たいんだな、それに少し甘い?」

「美味しいでしょ。
 私もこの水飲むの好きなんだ」

「うん、美味しいな」

そしてもう1口。
すると見知った少女が近づいて来た。

「あらシュン、言葉の方は・・・って、まだ早いか」

「お、メトゥラ。
 久しぶりじゃないか、あの時はジェスチャーの翻訳ありがとうな」

「・・・シュン?」

明らかに信じられない、と言った顔で見つめるメトゥラ。

「ん?」

「アンタ、ここに来てまだ2週間よね?
 もう言葉覚えたの!?」

「セーラさんの教え方が上手だっただけだよ」

「えー、お母さんはシュンの頭が良いからって言ってたよ?」

「そりゃ、成績も悪くはなかったけど・・・」

「ねぇセレ。
 今晩家に行っても良い?」

「別に良いけど、どうして?」

「色々聞きたいじゃない、外の大陸の事とか」

「おお!
 それは私も興味ある!」

2人の間で既に話の方向は決定していた。
ここで聞きなれない単語が出て来た。

「外の・・・大陸?」

「そ、シュンの住んでた所の事よ」

「へぇ・・・と言う事はやっぱり地球のどこかなんだな、此処は」

「チキュウ?」

目が真ん丸になり、首を傾げる。

「・・・この世界の事だよ」

「シュン、この世界の名前はエリスニアエムス。
 どうやらアンタに聞くことは沢山ありそうね」

「そうみたいだな・・・」

「とりあえず、今晩セレの家に行くからその時にジックリ聞かせてもらうわ」

「ああ、分かった。
 こっちも色々と聞きたい事があるんだ」

「さて、話が纏まった所で次行くわよ〜」

「ちょっと、セレ」

「何よ」

「何処に行くの?
 この里には泉ぐらいしか見せる物なんて無いでしょ」

「とりあえず、親しい人に紹介しようかなーって思ってる」

「・・・あのマイペース3人ね
 1人行方の掴め無いヤツも居るわよ?」

「このセレちゃんに抜かり無し!
 全員見つけて森に来るように言っておいたのだ!」

「良く見つけたわね・・・」

「さ、今度こそ行くよー」

またも手を引っ張り次の場所へと移動するセレ。

「分かったから走るなー!」

里を3人が慌しく走り抜けて行った







「到着〜」

「結構歩いたけど、大丈夫なのか?」

「この辺までなら良く来るから心配ないわ」

「なら良いけど・・・」

森の開けた場所に出る。
そこには黒い髪、緑の髪、そしてセーラと同じ青い髪の少女が既に居た。
青い髪の少女は木にもたれ掛かり静かに寝息をたてていた。

「・・・セレ、遅い。
 フィル寝ちゃったよ・・・」

「あちゃ、遅かったか・・・。
 って、まだ寝る気なのね」

「先刻から起こしては居るのですが・・・全く起きる気配が御座いません」

「く〜・・・」

「燃やしたら起きるかしら」

「あ、ナイスアイディア。
 意外に鋭いから反応するかも」

「あー、もしもしセレさんや。
 その前に説明してくれますかな?」

「あ、ゴメンゴメン」

忘れさられて場が流れそうだったので引き止める。

「では改めまして。
 私の横に居るのはシュン。
 この大陸じゃない何処かから来たみたい」

「・・・」

「人間・・・」

緑の髪の少女と黒い髪の少女が反応する。
しかしその反応は驚きではなく、憎悪が混じる負の感情だ。

「立ち去れ人間。
 この里は貴様の様な者には相応しくない」

「・・・どういう意味だ?」

瞬の声が低くなる。
それも当然だろう。
見ず知らず、初対面の子にそんな事言われて穏やかで居られるほど聖人君子ではなかった。

「人間に語る必要は無い。
 即刻立ち去れ」

場に何とも言えない雰囲気が走る。
黒い髪の少女から発せられる気は明らかに敵意と威圧を含んだ物だった。

「何故僕が初対面である君の言う事に従わなければならないんだ?」

「ちょ、ティミス!
 一応お母さんの客人って事になってるんだから・・・!」

慌てて場を沈めようとするが、ここまで高まった敵意はそう簡単には治まらない。

「セレ殿、私はセーラ殿に救われた事を今でも感謝しています。
 ですが、それ以上に人間が嫌いです」

「何とか仲良く出来ない?」

「頼まれても断ります」

セレの頼みもあっさりと蹴られる。

「・・・ティミス、貴方は剣に自信があったわね?」

そこにメトゥラが割り込む。

「メトゥラ殿・・・?
 ええ、剣には自信が御座いますが?」

「人間嫌いの原因なんて"アレ"しか無いわ。
 ・・・一本勝負よ。
 ティミスが一回だけシュンを斬る、シュンが回避すればティミスの負け。
 避けれなければシュンの負け、これでどう?」

「メトゥラ!?
 私達は人とは違うのよ!?
 シュンが回避なんて出来るわけないじゃない!」

「大丈夫よ、ここにリルも居るし。
 ティミス、致命傷だけは無しね」

「承知」

「勝ったらどうなるんだ?」

「シュンもやる気なのね・・・」

「一応運動神経には自信があってね」

「負けた者が勝った者の要求に従う、これでどう?
 流石に死ねとかは無しね」

「分かった」

「人間に見切られるほど軟弱な太刀は持ち合わせて居ない、覚悟なされよ」

両者の間に緊張が走る。

「(さて、どんな速度やら・・・)」

『僕よ、随分無謀な勝負に乗ったものだな』

「―――――!?」

「シュン、どうしたの?」

「あ、いや・・・すまないが勝負は少し待ってくれ」

「怖気づいたのなら去れ」

「ちゃんと避けるから待ってるんだね」

そう言い、自己の深層に語りかける。

「(今まで何処に行ってたんだよ、『僕』)」

『すまないね、状況を把握するのに奔走してたのさ。

「(相変わらずだね、でも帰って来てくれて安心したよ)」

『もちろんだ。
 僕と『僕』は一心同体、必ず帰ってくるよ』

「(そうだったね。
  ―――――で、さっき無謀な勝負に乗ったって言ってたけど・・・)」

『文字通りさ。
 僕よ、勝ちたいのなら全神経を相手に集中するんだ。
 ここは常識を逸した世界。
 その速度すらも常識を逸している』

「(なるほど・・・)」

『さ、相手が待っている。
 全神経、運動能力を総動員して回避する事のみに専念するんだ。
 ・・・さて、『僕』は疲れたから少し眠るよ。
 また後で』

「(分かった、また会おう)」

「シュン?」

「何でもない。
 さぁ、始めようか」

「大人しく逃げれば無傷で済んだものを・・・」

「無傷で済むさ。
 そうだな、回避だけじゃなんだし一撃試してみるか」

「減らず口を・・・!
 一瞬で決着をつけてやる・・・」

「じゃあ・・・良いわね?」

「ああ、いつでも」

瞬に対し、黒い少女は無言で腰の刀を構える。

「(居合い、か・・・)」

その構えは瞬の住んでいた世界で居合いを呼ばれる型と酷似していた。

「それじゃ・・・始めっ!」

その声を聞いた瞬間、黒い髪の少女が消える
距離にして15m。
それだけの距離がありながら、消えた瞬間に直感・第六感がその場から退けと最大の警鐘をかき鳴らす。
だが動かずに、勝利への好機をジッと待つ
1秒。
僅かその時間で15mの距離を0へと縮めた突風の様な少女が目の前に現れる。

「―――――フッ!」

繰り出される居合いは正に高速。
銀の閃光が煌き、瞬の髪の毛が数本空中を舞う。
常識では考えられない速度の居合いを瞬は回避したのだ。
瞬は脚を前後に開脚し、地面に両手を付いてバランスを取っている。

「そんな!?」

驚愕の色に染まる少女。
そんな事も構わず前に突き出した脚で、黒い髪の少女の右脚を思いっきり払った。

「きゃ!?」

当然バランスを崩し倒れる少女。
即座に起き上がった瞬が少女の目の前に拳を突きつける。

「僕の勝ちだ」

5秒にも満たない一瞬の攻防だった。
全員が呆気に取られている所を見ると、瞬が勝つ事は想像されてなかったようだ。

「シュンって意外に強かったんだ、てっきりハッタリかと思ってた」
「意外に冷静だったわね、てっきり速さを見て腰抜かすと思ったのに」

セレとメトゥラが同時に声を上げる。

「二人とも、負けると思ってたのか・・・」

「まぁね。
 安心しなさい、負けても何とか説得してたわよ」

「私も絶対負けると思ってたよ・・・」

「ま、確かにあの速度知ってたら勝てるとは思わないだろうな」

「・・・人間、要求は何だ」

急に黒い髪の少女が口を開く。

「ああ、忘れてた」

「シュン、酷い事は・・・」

セレが心配そうに見つめている。
しかし、瞬の要求は既に決まっていた。

「私は勝負に負けた身。
 如何な事でも甘んじて受け入れよう」

「それじゃ名前を聞かせてもらおう。
 これが僕の要求だ」

「え?」

黒い少女が呆気に取られる。

「僕は喧嘩をする為に此処に来たんじゃない。
 セレやメトゥラの友人に会う為に来たんだ」

「あ・・・」

「おお、シュンってば意外に良い人だ!」

「セレ、僕をどんな風に見てたんだ・・・」

「ティミスシア、ティミスシア・ダークエレメントだ
 セレ殿やメトゥラ殿からはティミスと呼ばれている」

「ティミスシアね、宜しく。
 既に紹介されたけど、シュンだ。
 あ、それと僕もティミスって呼んでもいいのかな?」

「ふ、ふん。
 好きにしろ」

プイ、とソッポを向きながら答えてくれるラフェルツォを見て頬が少し緩む。

「(自分から要求を聞いたりする辺り、真面目で律儀な子だな・・・)」

「場が収まった所で、次の紹介に・・・」

「・・・ん」

緑の髪の少女が自分から瞬の目の前まで歩き、右手を差し出す。
他の少女より顔立ちが幼く見える。

「リルが自分から人に近づくなんて珍しいわね」

「だよねぇ・・・」

「・・・優しい人って分かったから」

「あー、さっきの・・・」

「リルレイア・ウインドエレメント。
 ・・・宜しく」

「私達はリルって呼んでるよ」

「宜しくな、・・・リルで良いか?」

「・・・うん」

そうして握手を交わした。

「で、セレ?」

「最後なんだけどねぇ・・・」

「・・・まだ寝てる」

「あれだけティミスが敵意を出しても気付かないのか、この子は」

シュ・・・貴様も敵意剥き出しだったではないか」

「それはそっちが先に・・・!」

「とりあえずセレ、いつものを」

「はーい・・・」

未だに眠り続ける青い髪の少女に近づくセレ。
両肩を掴んだと思った瞬間

「ったく、いい加減に起きなさい!!」

そう言いガクガクと揺さぶり始めた。
頭が激しく揺れ、通常なら一瞬で目を覚ますであろう揺れの中、青い髪の少女は動じずに寝続けた。

「うう、いつもより手強いよー・・・」

「セレ、下がりなさい」

「え?」

振り返るとメトゥラが右手に剣を持ち、左手を前に突き出していた。

「マナの支配者である神剣の主として命ずる。
 その姿を火の礫に変え―――――」

「メトゥラ、神剣魔法はマズイって!
 寝てるんだからただじゃ済まないよ!?」

「―――――敵を焼き尽くせ!
 ファイアボルト!!」
「紡がれる言葉。
 マナの振動すら凍結させよ」

だが、メトゥラの言葉と同時に寝ている筈の青い少女が言葉を紡いだ。
周囲の何かが沈静化していくのを瞬は肌で感じた。

「ほら、起きたじゃない」

「メトゥラ、殺気出してたよな」

「・・・怖かった」

「メトゥラ殿、フィル殿が起きたから良かったものの・・・」

「大丈夫よ、当たってもフィルは抗魔の印持ってるから死にはしないわよ」

「メトゥラさん、それでも当たれば痛いですよ」

眠たそうに起き上がり、「んー」っと体を伸ばす少女。

「セレが揺らしても起きないんだから、仕方ないじゃない」

「セレ、ちなみにさっきの何?」

「神剣魔法よ。
 さっきメトゥラが詠唱したのは火の玉を作って相手に飛ばす魔法。
 ティフィルナが詠唱したのは魔法を無効化するものよ」

「神剣魔法・・・?」

「今メトゥラが持ってる剣、永遠神剣って言うんだけどね。
 永遠神剣の使い手が使用する魔法の名前よ。
 ティミスは刀、リルは槍持ってるでしょ?
 アレ等も全部永遠神剣よ」

「益々ファンタジーな世界だな、ここは・・・」

「ほらシュン、紹介するわ」

セレから神剣魔法について聞き終わった時にメトゥラが話しかけてくる。

「さっきから何回か名前が出てるけど、フィルよ」

「初めまして、シュンさん。
 フィル・ウォーターエレメントと申します」

「もう知ってるだろうが瞬だ、宜しく」

言葉を交わしながら握手をした。

「よーし、これで無事紹介も終わったね」

「一部危険なのもあったけどね」

「メトゥラ殿が言いますか、それを」

「そうですよ、怖かったです」

「寝てる方も・・・どうかと思う」

「それはセレさんが来るの遅かったから・・・」

「いつも寝てるから説得力無いわね」

「だねぇ。
 あ、皆この後どうするの?」

セレが5人に尋ねる。

「私はまだ訓練を。
 ・・・神剣も持たない人間に回避されるとは、まだまだ未熟な証!」

まだに根に持ってる人が一名。
いや、あそこまで自信あり気だったのだから仕方が無いと言えば仕方無いが。
それでは、と会釈をして森の奥へ消えて行った。

「私は帰って寝ます・・・。
 途中で起こされたから眠くて眠くて」

「まだ寝るのか!?」

「フィルお姉ちゃん・・・1日の半分以上寝てる」

「なんだそりゃ・・・」

「今日はちょっと多いね」

「うん」

「・・・寝すぎは体に毒だから気をつけてな」

「は〜い・・・」

そう返事をするとフラフラと里の方へと帰って行った。

「リルはどうする?」

「私は・・・家に帰って本を読もうと思う」

「セレ、アンタも偶には本読みなさい」

「えー、私は外で遊んで方が良いよ」

「今度・・・面白い本紹介するね」

「あ、うん。
 じゃあその時は御願いね」

「うん・・・それじゃ」

そう言い、リルレイアも里へと帰って行った。

「・・・相変わらずね」

「メトゥラはどうするんだ?」

「そうね・・・。
 とりあえず御飯の準備かな」

「私の家で食べないの?」

「流石にそれぐらいは自分でするわよ」

「そっか。
 それじゃ、また夜にね」

「ええ。
 また後でねセレ、シュン」

「ああ、また後で」

そうして3人は各々の家へと帰って行った。






「さーて・・・」

晩御飯も食べ終わり、テーブルに4人が腰掛ける。
シュン、セレ、メトゥラ、セーラの4名だ。
これから始まるのは質問会である。

「質問1、シュンはどこから来たの?」

メトゥラが最初の質問をする。

「僕が居たのは地球にある日本という国だ」

「外の大陸がチキュウって名前だったりして」

「そう考えられない事もないですが・・・」

「シュン、アンタの居た世界で"エリスニアエムス"という名前を聞いた事は無い?」

「いや、1回も聞いた事が無いな」

「ならやっぱり別の世界から来たみたいね」

「何で?
 向こうがこっちの事知らないだけかもしれないよ?」

「あのね。
 シュンはこの里の中で倒れてたのよ?
 ここの位置的に徒歩で迷い込んだ事はありえないわ。
 なら噂通りに空間を渡る手段があったと考えるでしょ?
 でも、それ程の大陸から来たのにシュンは言葉も文字も通じず、コミュニケーション法がジェスチャーのみだった。
 おかしくない?
 空間を渡り目的も無くここに来たとは考え難い。
 つまり、シュンはこの世界の人間じゃないわ」

メトゥラがペラペラとセレに話していく。

「で、でも!
 例えば人間の通う学校って施設の行事にホームステイってあるじゃない!
 あれの発展した形じゃないの?」

「それこそおかしいわよ。
 見ず知らずの地に来てホームステイ?
 そこに住む生き物が残酷な生き物だったら?
 安全な所に届けたのなら、外の大陸の人間はアタシ達の事を一方的にでもあれ知ってる事になる。
 安全な所かどうかを一方的に判断するには会話を聞き取らないと難しい。
 つまり、ホームステイの発展系だとしたら外の大陸の人間はアタシ達の言葉を理解出来るって事ね。
 でも、シュンは言葉を理解出来なかった」

「うう・・・外の大陸の人じゃないのかぁ・・・」

「といっても、推測の域を出ないけどね」

「じゃあ、次は僕が質問だ。
 今日紹介してもらったけど、何で皆にエレメントって単語が入ってるんだ?
 それに、ティミスとの勝負の時にセレが『人じゃない』って言ってたよな?
 それを教えてくれ」

「それは私が説明しましょう。
 エレメントとはこの世界エリスニアエムスに住む、人とは違う種族の事です。
 青い髪の者はウォーターエレメント。
 緑の髪の者はウインドエレメント。
 赤い髪の者はファイアエレメント。
 そして黒い髪の者はダークエレメントと言われ分類されています。
 共通点は永遠神剣を扱える、と言う事でしょうか」

「分類って・・・何だか扱いが酷いな」

セレが白い髪と言う事が気になったが、それ以上に気になった事を口にした。
瞬を除く3人の顔が曇る。

「腹立つけどね。
 でも、アタシ達は人間にしてみれば異形の存在なのよ。
 いや、それ以下かもね」

「・・・何だよ、それ」

「シュン、私達はね・・・悪魔って呼ばれてるの」

「な・・・!
 ちょっと待て、セレやセーラさん、メトゥラは良いヤツだ!
 今日紹介してもらった3人だって、普通の女の子じゃないか!」

「他の国はまだ私達を受け入れてくれますがこの国、聖王国ロザリアは違います。
 私達は道具、悪魔浄化の為の傀儡兵士として見ています」

「・・・従うのか?
 そのロザリアって国に・・・」

「そんな訳ないでしょ!!」

バン、と大きな音が部屋に響き渡る。
メトゥラがテーブルを叩いたのだ。

「・・・ごめん、あたっちゃった・・・」

「こっちこそすまなかった・・・無神経過ぎたよ」

暫しの気まずい沈黙が訪れる。
が、それをセレが打ち破った。

「私達は従わないよ。
 だからこうしてひっそりと暮らしてるんだもん」

「ええ。
 それに私達には自我があります。
 これがある限り、私達は私達はこのままで居られます」

「捕まらない限りは大丈夫。
 だからこうして訓練も重ねてるわけだし。
 ま、私が居れば皆守れちゃうけどねー」

セレが無邪気に微笑み、場の雰囲気を少しでもマシにしようと振舞う。

「セレが・・・ねぇ。
 あ、次の質問良い?
 ここってどの辺りかな」

「あー!
 シュン、それってどういう意味よ!」

だから瞬もその雰囲気を振り払うように、極力明るく振舞った。

「ここはロザリアの国内です。
 と言っても、国境付近ですが」

セーラが1枚の地図を出し、ペンで地図を5つの区画に分けてゆく。

「この大陸は5つの区画、単純ですが北部、南部、西部、東部、中央に分けて考えられています。
 今私達が居るエレメントの里は・・・ここですね」

シャッ、とペンを奔らせ×印を付ける。
場所は西部と中央の国境近くの森だった。
先程メトゥラが位置的に徒歩は無理と言っていたが、理由がようやく分かった。

「それで、こっちの南部、東部、中央を支配してるのがロザリアです」

「東部はガルバリア共和国、名前通りエレメントと人が平等に暮らす国よ。
 当然ロザリアと仲が悪くて宣戦布告も時間の問題って言われてるわ」

「北部はレウィクス王国だっけ?
 確か土地が痩せてて大変って聞いたけど。
 後、エレメントと人がお互い無干渉を通してるはず。
 結構閉鎖的で情報が入って来ないから今はどうなのか殆どの人が知らないと思うよ」

「ロザリアは大国な訳ね・・・」

「昔はもう1国あったんだけどね。
 それも飛び切り強い国が」

「滅ぼされたのか?」

「ええ。
 名前は商業都市連合国家ウィンヘル、南部を治めてた国よ。
 ロザリアと長い間戦ってたけど、1年前のある日突然負け始めたのよ」

「へぇ・・・。
 じゃあ、この更に南の所はどうなんだ?」

そう言い、地図を指差す。
そこはセーラが5つに区分けした以外の箇所で、南に大きく広がっていた。

「ここは―――――」

セーラが答えようとした時

「・・・神剣の気配がする。
 それも大勢」

「結構な数ね・・・70、いや80ぐらいかしら
 人間は10って所かな?」

「え?」

「シュン、この家に居てね。
 奴ら、人間には危害加えないはずだし」

セレが立ち上がる。

「セレ、何が―――――」

「この里に来るなんて、1つしか無いわ。
 ロザリアの連中よ」

メトゥラがサラリと答える。
ドクン、と心臓が跳ね上がる。
エレメントを悪魔と見なし、浄化の名の下に殺す集団。
そんな奴等がこの近くに来ていると言う事に驚愕した。

「セーラさん、自我や精神が崩壊したエレメントがシュンを襲うかもしれません。
 あの剣を渡しておいては?」

「そうですね・・・。
 何も無いより遥かにマシでしょう」

そう言いながら物置から1本の剣を取り出し瞬に渡す。
赤い刀身、柄の近くが曲がった奇怪な剣。
初めて実物を見るのに過去に見た妙な感覚に陥る。

「(これ・・・『僕』から見せて貰った映像に出てこなかったか?
  確か、秋月瞬って奴が握ってた剣・・・だよな)」

「シュン、これも永遠神剣です。
 人間である貴方には扱えませんが・・・護身用にでも持っててください。
 それでは、私は皆への指示がありますので」

「シュン、人が入ってきたら抵抗しちゃダメよ?
 奴らの目的はエレメント。
 シュンだったらロザリアで保護してもらえる筈だから」

メトゥラ、セーラが家を飛び出す。

「・・・シュン、短い間だったけど楽しかったよ。
 ありがとね!
 家から出ちゃダメ、2階に居てね!?」

「待―――――」

手を伸ばし、待ってくれと言おうとするよりも速くセレも飛び出した。

「くそ、僕も!」

後を追おうとした時、頭に言葉が木霊する。

『待つんだ僕!
 僕じゃ彼女達の助けにはならない、寧ろ足を引っ張るだけさ』

「でも!」

『落ち着くんだ!』

『僕』にしては珍しく大きな声で制する。

「でも、僕はティミスに勝てた!」

『あれは勝ったとは言わない!
 戦いは一回避ければ良いものじゃない、まして相手が致命傷を避けてくれるわけでもない!
 あの子、ティミスシアが本当に殺す気で来てたら僕の頭は今頃地面を転がってるだろうさ!』

「・・・手加減されていたと?」

『ああ、そうだ。
 致命傷を放つな、という時点で既に手加減しているも同然だ』

「僕は・・・ここで待つだけしか出来ないのか!?」

今まで世話になり、沢山の恩がある。
それなのに何も出来ない自分が情けなかった。

『・・・なら、この家を守れば良い。
 ロザリアの連中が入って来たら素直に降伏、家は今までお世話になったから壊さないでとでも言えば良い』

「クッ・・・・!」

『僕よ、悔しいだろうけど耐えてくれ。
 セレが言ったように2階へ行こう』

「・・・分かった。
 でもセレが神剣の気配を感じ取ったって事は、敵もこの剣の気配を感じるんじゃないか・・・?」

『大丈夫、その剣はまだ目覚めていない。
 間近に寄られるとバレるだろうけど、ちょっと近づいたぐらいじゃバレないよ』

「そうか・・・」

手に赤い剣を握り2階へ上がる。
初めて握るはずなのに何故か異様に手に馴染んだ。

そうして、運命の夜は幕を開ける―――――。




セレとメトゥラの次回予告

「はいはい、Chapter2終了ー!」

「今回は書くの時間がかかったわね」

「みたいだねぇ。
 前の書いてる時はガンガン書いてたのに」

「何も考えず書いてたと良く分かるわね」

「今回のもあんまり考えて無いように見えるのは気のせいなのかな?」

「無い頭絞って書いてるんだから、あまり言っちゃダメよ」

「一応伏線らしい物は張ってるみたいだけどね」

「果たしてそれを伏線を言うのかが疑問ね」


「さてさて、次回は戦闘シーンです!」

「他のSS書きさんのを読んでしっかり勉強してもらいたいわね」

「どうせならカッコ良く動かして貰いたいよねー」

「次回でも少し謎が飛び出す・・・のかしら?」

「読んでくれてる人が居るか疑問だけど・・・この際スルー!」

「「次回、Oath and Promise!
  Chapter3、流れ巡る赤き剣 -Oath- をお楽しみに!?」」

「・・・名前から分かっちゃうじゃない、コレ」

「言わないの、コレ自体突発企画なんだし」




・・・ごめんなさい、一回やってみたかったんです。
ああすいません、ごめんなさい!
石投げないで!!

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