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Oath and Promise

Chapter1
終わる過去、始まる未来 -A certain tale-

断末魔の叫びが響く。
手にしていた『世界』、瞬を取り囲んで居た細かな刃が砕け散る。

「(馬鹿な・・・馬鹿な・・・!
 この僕が・・・負け・・・!)」

瞬、いや『世界』が信じられないといった表情で、一人の男を睨む。
聖賢者ユウト。
永遠神剣第2位『聖賢』を持つ若きエターナルである。

「(ああ・・・『再生』が・・・!)」

聖賢者ユウトの放った最後の一撃は『再生』にも深刻なダメージを与えていた。

「・・・はぁっ、はぁっ」

大きく息をつき、『聖賢』を鞘に収めるユウト。

「・・・お前も、佳織を殺したかったわけじゃないだろう?」

崩れ行く瞬に語りかける。
答える声は、やはりなかった。

「(クク・・・僕も『再生』も長くはもたないか。
  ならばこの短い命と引き換えに、『再生』を無理やり暴走させて―――――!)」

【佳・・・織】

今まさに暴走させようとした時、一つ変化が起こる。
既に神剣に飲まれ消滅したはずである秋月瞬本来の自我。
それがユウトの口から出た「佳織」と言う言葉に反応を示す。

【お前なんかに言われるまでも無い・・・!
 佳織は・・・佳織は僕が護るんだ!!】

『世界』が崩壊し始めたからか、それとも憎み続けた男の口から佳織と言う名が出たからか。
先程より強く、『世界』に干渉し始める。

「(こ、こんな馬鹿な事が!
  貴様は消えたはず!
  グッ、体が・・・貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!)」

【『再生』を暴走なんてさせやしない!
 これだけの力・・・暴走すれば少なくとも佳織の世界に影響が出るじゃないか!】

瞬と『世界』、一つの肉体に二つの意思がせめぎ合う。
肉体の支配権は瞬に移り、『世界』はただ消えてゆくのを見守るのみとなっている。

「(今ここで『再生』を暴走させれば、貴様の憎む男もこのまま消滅させれるのだぞ!?
  それを分かっているのか!)」

【お前こそ分かってるのか?
 僕にとって、1番は佳織なんだよ!
 エターナルとなった今、悠人が生きていようが死んでようが関係ない!】

「(うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!)」

言葉も無く絶叫し、消滅する『世界』。

【ふん、今回は負けを認めてやるよ、悠人。
 このままじゃ佳織の居る世界まで壊しちゃうところだったからな】

それを口にせず、瞬もまた消滅した。






「・・・・・う。
 ここは・・・僕は消滅したはず」

気が付けば床に寝転がっていた。
服も『世界』の時の物ではなく、エトランジェとして着ていた服を着ている。

「気が付きましたか、『世界』・・・いえ、秋月瞬」

「誰だ」

周囲を見渡してもただただ闇が広がるだけで、人らしき者は立っていない。

「私は『再生』。
 もうじき消える存在です」

「お前が『再生』か。
 此処は何処だ。
 消滅したはずの僕が何故此処に居る」

「ここは私が作り出した一つの世界・・・精神世界です。
 貴方がここに居るのは、消滅した際に魂をここに閉じ込めたからです。」

「わざわざ消滅寸前の存在が良くやるよ。
 で?
 僕を閉じ込めた目的は何だ?
 まさかこうして話したかったから、とか言うんじゃないだろうな」

「その理由は、すぐに分かりますよ」

「何?」

含みのある発言。

「ただのお節介ですが、見ていられません」

その瞬間、瞬の頭に何かが流れ込んで来た。

「これは・・・」

脳裏に浮かぶ、少年と少女。
少女はベットで横たわり、少年は泣き叫び続ける。
ただゴメンなさい、ゴメンなさいと・・・。
流れ込んでくる自分の心が壊れんばかりの謝罪の感情と罪悪感、そしてたった一人の義妹への祈り。
助かって欲しいという意思の強さ故に、契約した『求め』の声。

「(『求め』との契約・・・こいつ、悠人か?
  という事は、あのベットで寝ているのは佳織?)」

映像が終わると次の映像へ。
次々に映像が変わっていく。
それはシーンごとに切り取った、映画のようでもあった。
流れてくる感情は殆どが瞬と同じものだった。
ただ佳織の幸せを、安全を願い優先し続けた悠人と瞬。
その感情に一切の偽りは無く、ただただ純粋でただただ綺麗なものだった。

「(どんな時も佳織を優先。
  こいつも僕と・・・。)」

そして沢山の映像の中、一つ気になる事に気が付いた。
それは佳織が向ける眼差しについてだ。

「(何でそんな悲しそうな目で僕を見るんだ?
  何でそんなに怯えるんだ?)」

いや、怯えているというより心配。
幼い頃共に遊んだ心底安心した表情は最早、悲しみと心配の眼差しへと変わっていた。
その眼差しは、悠人と初めて衝突した時から変わらなかった。

「(・・・いや、悠人にも同じ目をしている。
  何故僕と悠人を同じ目で見るんだ?)」

「それは、貴方と彼の事を心底心配したからでしょう。
 自分の大事な2人が目の前で対立し合う。
 それ程悲しい事は無いでしょうから」

「貴様、僕の思っている事を・・・」

「言ったでしょう、此処は私が創った精神世界。
 言葉にするも、想うも、全て私には筒抜けです」

「ちっ・・・」

舌打ちする瞬。
今までの思いを聞かれていたとなると少々不快に思う。

「それにしても、これは悠人の記憶だろ。
 何故貴様がそれを知っている」

「簡単です。
 彼もまた、ここに来ていますから」

「何だと!?」

「彼は今、貴方の記憶を見ているはずです」

「余計な事を・・・!
 誰もそんな事をしろと言ってないぞ!」

「言ったでしょう、お節介だと。
 消え逝く前に貴方と彼の仲違いを無くしたかっただけです。」

「ああ、本ッ当にお節介だよ。
 死に際ぐらい仲良くしましょう?
 ハ、笑わせないでくれ。
 僕と悠人はいつも対立してきた。
 それこそ、顔を合わせただけで殺し合いを始めそうなぐらいにな。
 今更手を取り合うなんて不可能なんだよ」

「出来るはずです。
 貴方達2人は対立こそしてましたが同じ考えを持っています。
 何故対立したか?
 それは貴方達が自分と同じ考えを持つ者をお互いが拒否したからでしょう。
 ”佳織を守れるのは自分だけ”。
 その考えが二人を対立へと走らせた。
 ですが彼は今、その考えを捨てました。
 ・・・貴方はどうですか?」

落ち着いた声で、諭すように続ける『再生』。

「彼の記憶を、意思を知って貴方の考えは少なからず変わってきているでしょう。
 もう意地を張る必要は無いと思いますよ」

その言葉は少しずつではあるが、確実に瞬の壁を壊していった。







-少し前 悠人サイド-
「ここは・・・」

【ふむ、精神世界のようだな】

「精神世界?」

【うむ。
 しかし、こんな事が出来る者は・・・】

「こんにちは、聖賢者ユウト」

【やはりお主か、『再生』】

「『再生』だって!?」

「はい。
 ゆっくりと挨拶をしたいのですが、生憎と時間がありません。
 貴方にはコレを見ていただきます」

「え―――――」

その瞬間、映像が流れ込む。
少年と少女。
楽しそうに遊ぶ二人に、ユウトが見覚えがあった。

「これ・・・佳織か?
 で、こっちは・・・瞬!?」

信じられないといった顔を浮かべる。

「(瞬・・・あんなに楽しそうに笑って・・・。
  佳織も楽しそうだ)」

そして次の映像に移る。
そして流れ込んで来る感情。
孤独。
それは立場と、才能故に仮面を付けて表面を取り繕った人々。
そこには友人と呼ばれる存在は居なかった。
ただ一人の少女を除いては。

「(佳織だけが唯一本当に話せる友人か・・・)」

そして次へ。
どんどんと映像は移り変わる。
定期的に佳織と遊ぶ映像があったが、ある日を境にそれは消滅する。

「(あの事故から佳織と遊ぶ時間が無くなった・・・?)」

そして瞬はその存在を知る。
唯一の友人、そして好意を寄せる少女はあっさりと一人の少年に付きっ切りになった。
まるで、奪われた様な感情が強く渦巻いていた。
それは純粋に佳織を心配し、思うが故の感情だった。

「(だから俺につっかかってたのか。
  こうして見ると、瞬が怒るのも分かる気がする)」

そして理解する。
自分達は似たもの同士、それ故に対立したと。

「『再生』、質問していいか?
 何でこの記憶を持っている?」

「彼と同じ質問ですね。
 答えは彼もここに来ているからです。
 そして彼も貴方の記憶を見ています」

「な、瞬が!?」

「はい。
 消える前のお節介、と言いましょうか。
 二人には仲違いしたまま終わって欲しくなかっただけです」

「瞬が・・・此処に・・・」

「さあ、私の残り時間も少なくなってきました。
 貴方達が対立し続けるも理解しあうも自由です」

世界が変わり、一面何も無い無機質な世界へと変わる。
そうして、二人は対面した。






「瞬・・・」

「悠人・・・」

言葉が出ない。
何を言えば良いか分からない。
それは2人に共通した事だった。
暫くの沈黙の後に瞬が口を開く

「・・・構えろ」

「え?」

「良いから構えろって言ったんだよ!」

「何言ってんだ、瞬―――――!」

その時既に瞬は駆けていた。
手は徒手空拳、それを打ち出すが神剣の加護がある悠人はバックステップで簡単に回避する。

「瞬!」

【構えるのだ、ユウト】

「『聖賢』・・・?」

【瞬はそれを望んでいる】

「・・・分かった」

そういい、悠人も徒手空拳のまま構える。
神剣の加護は無い。
ただ高嶺悠人、秋月瞬と言う人間が向かい合う。

「そうだ悠人、それでいい」

「瞬、俺は・・・」

「決着を付けようじゃないか、悠人ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

二人の拳が精神世界で交差した。






どれ程打ち合っただろうか。
今や二人とも地面に転がり、息を整えている。

「なぁ、瞬―――――」

「悠人、お前はエターナルになったんだよな」

「え、ああ」

悠人の言葉を遮り、瞬が唐突に口を開く

「ふん・・・精々頑張るんだな」

「え?」

「勘違いするな。
 お前を殺すのはこの僕だ。
 それまで死ぬ事は許さない」

「瞬・・・。」

「二人とも、そろそろ時間です。
 ・・・私が崩壊を始めると、この世界を維持できません」

「そうか」

そう言い、立ち上がる瞬。

「では瞬、貴方から・・・」

瞬は此方を向かない。
そのままの姿勢で話し続ける。

「認めてやるよ、悠人。
 お前の意思も、佳織への思いも」

瞬の姿が消えてゆく。

「僕は必ずお前に追いつく。
 それまで精々精進するんだな」

「・・・ああ
 待っててやるよ、だから―――――」

「それと」

なおも続ける瞬。
体は透け、いつ消えてもおかしくない。

「・・・今まで悪かったな」

そう言い、完全に瞬はこの世界から消滅した。

「ではユウト、貴方も・・・」

「ああ」

悠人も瞬を追うようにしてこの世界から消滅した。






はじまりの場所。
再生の剣の間が崩れ落ちていく。
精神世界であれほど打ち合ったのに傷は無く、時間にして10秒も満たなかったようだ

「これで、この世界からエターナルは消えた・・・」

「ああ、これで終わりだ」

「ユート・・・見て・・・『再生』が消えていく・・・」

この世界の神剣達を生み出した、全てのスピリットの母。
再生の剣が、金色のマナに包まれ消えていく。

「(瞬・・・俺は待ってるからな)」

ふん、と。
瞬の声を聞いた気がした。

「(いや、今度は戦いの相手じゃなく、友人として―――――)」

辺りが光に包まれていく。
はじまりの地の崩壊が始まったのだ

「ユート、帰ろう・・・皆のところへ」

崩れ落ちる『再生』を見つめる瞳は、少し潤んでいた。
より強く力を込めて抱き寄せる。
そして、アセリアが驚くくらいに大きく、元気な声で言った。

「帰ろう、俺達の家に!」





ここで映像は途切れ、意識は水面へと浮上するように鮮明になる。
窓から朝日が差し込み、現実へと連れ戻される。
いつも通りの、樋山瞬の日常が始まる―――――はずだった。

 

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