エピローグ そして、永久に、永遠に……
その日、大陸は一つになっていた。
北はラキオス。
西はイースペリア、マロリガン。
南はサーギオスまで。
先日、この世界からロウ・エターナルの脅威が去ったばかりだった。
ラキオスの領内で。いや、各主要都市全てで。
そこには幾つもの、数え切れないほどの墓標が並んでいた。
明人達カオス・エターナルは、その墓標の前で、胸に手を当てている。
その墓標に刻まれている名は――セイグリッド・B・ラスフォルト。
時は数日前に遡る。
明人はラキオスに帰ってくるなり、走っていた。
一人の幼い妖精が、門の前で出迎え、そして、あることを伝えたから。
それは――
「セイグリッドッ!」
明人は壊さんばかりに勢いよく、扉を開けた。
そして、名前を呼ぶ。
ネリー、シアー、ヘリオン、アリア、セリスは泣きそうだった。
今は必死にこらえているのだろう。
ヒミカ、ファーレーン、ミリア、パーミアがそれぞれを抱き寄せる。
皆が明人の到着を見て、左右に分かれ、道を作る。
その先にいたのは、純白のベッドに身を預ける、セイグリッドの姿だった。
それを見て、先ほどまで高まっていた血の気が、急激に引いていく。
「アキト殿……すまん。もう、手の施しようがないんだ……ここまで生きていること
自体がすでに、奇跡なんだよ……隠しても無駄だから言うが、もう、明日はない」
いつの間にか、明人の後ろにはハーミットとイオが姿を現していた。
「……あの『再生』が機能を停止させ、もう、新たにスピリットが生まれることはない。
あれが、この世界のスピリットを作ってた工場だったんだ……だから今はスピリットも、
マナの塵となって還る場所は、無い……だからもう、スピリットは
マナとなることはないんだ。……皮肉だが、今回のでわかったこと、だよ」
ハーミットが、今のセイグリッドの容態、そしてなぜセイグリッドが命尽きようと
してもマナの粒子をはなっていないか、簡潔に述べる。
ハーミットにしては珍しく、苦渋の表情だった。
イオも、それを肯定するように何も一つ言葉を放たない。
詳しくは、聞いていない。
だが、セイグリッドが戦いで、再起不能なほどの傷を負った。
そしてもう本当に長くないと、たった今、ハーミットの口から聞いた。
ハーミットがこの場で嘘をつく理由はない。
それに今のセイグリッドの気配を感じ、認めるしかなかった。
明人はゆっくりと歩を進め、
「セイグリッド……俺だ。明人だ」
セイグリッドにゆっくり話しかける。
その声に反応して、セイグリッドの体が微かに動く。
「アキト……さん……?」
開かれる瞳は、きっと、この光景を何一つ情報として伝えていない。
そう一目見ただけで感じさせるほど、セイグリッドの瞳に、光はなかった。
「ああ……ワタシ……夢を、見ているのでしょうか……アキトさんが……こんなに、近く」
「ああ、俺は傍にいる。夢なんかじゃない。それにみんなも居るよ、セイグリッド」
明人を求め、彷徨うセイグリッドの手を握り締める明人。
「……ワタシ、幸せです……ただのスピリットであるワタシが……みんなに看取られ……
逝けるんですもの……」
どうやらセイグリッド自身も、自らの進退は、わかっているらしい。
その表情に恐怖の色は微塵もなかった。
セイグリッドの瞳に、涙が浮かぶ。
しかしそれは、悲しみから来るものではない。
「それに……これから、ワタシ達の仲間がみんな……笑顔で暮らせるということを……
勝ち取ったんです……だからワタシ……本当に、幸せで……」
まるで月明かりのような淡い、微笑み。
それを見た明人の頬から零れ落ちるものが、シーツに染みを作った。
同時に、握る手にも雫が零れる。
「アキト……さん……? 泣いて……いるのですか……?」
それに気付いたセイグリッドが、問いかける。
これに明人は、
「……ああ。これから、みんなが幸せに暮らしてるところ想像したら、嬉しくて……
嬉しくて涙が、な」
涙声で、答える。
それを聞いてセイグリッドはさらに微笑み、明人にしか聞こえない小さな声で、言う。
「……やっぱり……あなたはどんな存在になろうとも……ずっと、変わりませんね……」
「え……セイ、グリッド……」
明人は思う。
今のセイグリッドの言葉は、どこから、出てきたものなのだ。
覚えているはずはないのに。
明人がまだエトランジェのころの記憶など、無いはずなのに。
確かにセイグリッドは、そう言っていた。
「……ワタシの魂は……どこへ、逝くのでしょうか……ねえ、アキトさん……?」
セイグリッドは、驚く明人をよそに、話を進めた。
「ワタシ……ハイペリア……そこは、きっと……」
もう、言葉は途切れ途切れで、はっきりとしない。
でも、明人は、わかった。
セイグリッドが、何を言いたかったか。
だから明人は、すでにほとんど力の抜けたセイグリッドの手をしっかりと握り締める。
セイグリッドは、見えないはずの明人の顔に目線を向けた。
「ああ、セイグリッド……セイグリッドならきっと、ハイペリアに行ける……行けるさ」
明人はそう、言い放った。
それを待っていたかのように、安心したかのように完全に力の抜ける、
セイグリッドの腕。
その表情は、もう、二度と変わることはない。
最高の笑顔のまま、セイグリッドは自らの時を、止めた。
「……だから……だからずっと、この世界のみんなを見守っていてくれよ……ッ!」
瞬間、緊張の糸が切れた。
涙を滝のように流しながら駆け寄ってくる年少組の三人――ネリー、シアー、ヘリオン。
「セイグリッドさん……ッ! セイグリッドさん……ッ!」
「ヤダよぉ……嫌だよぉセイグリッドさぁん……ッ!」
「どうして……どうして……あぁ……ぅあぁああ……ッ!」
泣きじゃくり、セイグリッドの亡骸に話しかける三人。
明人は一歩引いて、
「……すみません」
そして話しかけられる。
話しかけてきたのは、ヒミカであった。
「私がもう少し早く、決断していれば彼女を……失わ、ずに……ッ」
拳を血が出んばかりに握り締め、ヒミカは涙を流しながら、言った。
「すみません……ごめ……ん……ぅう……」
「ヒミカさぁん……」
明人が手を伸ばす前に、ヒミカは緑色の妖精に抱き寄せられていた。
「ヒミカさんは……十分に役目を果たしましたよぉ……だから、泣かないでぇ……」
明人はそれを見て、安心した。
このままではヒミカは自責で押しつぶされてしまうように見えたからだ。
だけど、ハリオンガきっと、支えてくれるだろう。
他のメンバーも、そして、遅れてきたアセリア達も、彼女を悲しみから送り出す。
だがきっと、彼女のことは、忘れないだろう。
皆が生きている間、ずっと……ずっと。
そして、今に至る。
その間に、様々なことが行われた。
できる限り、存在の確認されたスピリットの遺体を、回収。
他にもできる限り迅速な、都市の復興など、生き残ったものはその使命を果たしていた。
フェイトのことは、明人にはアイラたっての希望で、伝えられていない。
セイグリッドのことで気を病んでいる明人に対して、アイラが送る最大限の労いだった。
いずれ知られることではあったが、逆に言えば、今伝えなくとも良いことである。
間もなく、空中にレスティーナの姿が映し出された。
イオの能力とハーミットの発明した機械による投影で、大陸全土に伝わっている。
ラキオスでは明人、アセリア、エスペリア、オルファ、ウルカ、真美……
そしてラキオスのスピリット隊のみんなが。
イースペリアではアズマリア、パーミアが。
マロリガンでは空也、アリア、カグヤ、ミリア、クォーリンが。
デオドガンでは美紗、セリスが。
サーギオスではアイラ、クリスが。
それぞれが、凛とたたずむレスティーナの姿を見つめていた。
『聞こえるでしょうか、皆さん』
レスティーナの声が、大陸中に響き渡る。
きっと、これを見ていない者などいないであろう。
背後に見えるのは、王城。
『先日、この世界に訪れていた脅威は去りました。誰であろう、この世界の危機に
駆けつけてくださったエターナルの皆さん、そして、スピリットの活躍のおかげです』
威風堂々。
そこにいるのは、明人の知る少女ではなかった。
女王としての威厳が、この場にも滲み出てくる。
『……彼女達は、今まで虐げられて来たのにもかかわらず私達の世界を救うために
戦ってくれました……私達はそんな彼女達の為に、何ができるでしょう?
……私達は、今まで逃げてきたその数だけ、罰を負わなければならない、
その時が迫っているのです』
空に映し出された映像がスライドする。
そこに居たのは、いつもどおり、だぼだぼの白衣を着込んだハーミット。
『彼女――賢者、ハーミット・ヨーティア・リカオンの研究の成果により、
このままマナを消費し続ければ、いずれ私達は絶滅することがわかっています。
これが……スピリットを戦争の道具として扱ってきた私達に科せられる、罰なのです』
一呼吸を置くレスティーナ。
『よって、この放送を最後に、エーテル技術の全てを凍結します。……今一度言いますが、
これが、私達に科せられた罰なのです……受け入れなければならない、ことなのです』
そして、両手を天に掲げるように広げる。
『人も、スピリットも、関係ありません。皆が皆、手を取り合って、ともに協力し、
今一度、やり直すことはきっとできるはずです。……ですから私は今ここに、
無からの始まり――統一国家、『ガロ・リキュア』の建国を宣言します』
レスティーナの映される映像から、凄まじい歓声が沸きあがった。
きっと、映像の向こう側では兵士や、城下町に住んでいる市民たちがいるのであろう。
「アキト」
「……もう、大丈夫だよな。この世界は、もう」
「……うん」
それを瞬きするのを惜しむように見入っていた明人はアセリアに話しかけられ、
現実へ戻ってくる。
今の放送で、確信が持てていた。
やはり、レスティーナには皆の上に立つ、一種のカリスマ性を持っていると。
明人はふと、腰周りにやってきた感触を受け、振り返る。
「アセリア?」
アセリアが、抱きついていた。
「……ん」
頬を摺り寄せ、実に気持ちよさそうに頬を緩めている。
「どうしたんだよ、アセリア。急に」
「ん……アキトは、嫌か? こういうの……この世界で、最後の思い出……」
「レスティーナ様なら、きっと……この国を良い方向へ、必ずや導いてくれるでしょう」
エスペリアも、明人の言葉を肯定する。
その表情は柔らかく、空へ映し出される王女をジッと見つめていた。
「ですから……その」
ちらちらと、アセリアに抱きつかれている明人を見つめるエスペリア。
その頬は紅くなり、何か言いたげだ。
「ん……」
それに気付いたのか、アセリアは体を明人から離した。
まるで、どうぞとでも言わんばかりに。
「エスペリアも、明人に、抱きつきたそう」
「え、えぇえええぇええ!? そ、そんな顔に出て――ち、違うのよアセリアッ!」
顔を真っ赤にして、慌てふためくエスペリア。
珍しい光景、である。
「? 違うのか?」
「違いますッ! う、羨ましいなんて――」
明人はそんな二人のやり取りを見ながら、ふと、視線を落とす。
いつのまにか、誰よりも墓標に近い位置に、オルファがしゃがみこんでいた。
「オルファ、どうかしたのか?」
歩み寄りながら問いかける明人。
オルファは名前すら確認できなかったスピリットの墓標の前で、胸に手を当てていた。
「パパ……えっとね、オルファ……お祈りしてたの。みんなが、ハイペリアに
行けますように、って」
彼女達全てが、どうか、ハイペリアへと導かれますように。
そう、強く強く、願っていながら。
「……バイバイ。今まで、本当にありがとう。オルファ達もう行かなきゃダメだから……
みんなのこと、見守ってあげてね……」
オルファの言葉のあとに、今一度、明人は胸に手を当て、祈る。
「だ、だからアセリアッ! わたしはアキト様のことは嫌いではなくむしろ大――」
「え、エスペリア殿落ち着いてくださいッ! そのように取り乱しては……」
「ん。エスペリアもアキトが好きなら、抱き付けばいいのに」
……なんだかとても、場違いな雰囲気ができかけてきたので、明人はオルファを連れて
その場へと向かう。
いつのまにか、他のメンバーにも笑顔がこぼれていた。
これもまた、生き残った者の使命であろう。
逝った者の分だけ、その思いを背負い、幸せに生きること。
それが最も辛く、しかし、最も意味のあること――
「大きくなっちゃって……ねえ、そう思わない? パーミア」
「ええ。レスティーナ様、とても、ご立派です。直接、見られないのが残念ですよ」
アズマリアは復興途中のイースペリアへと、パーミアと供に戻っていた。
理由は、この戦地で散っていった同胞を、見送りたい。
それだけだった。
だが、とても意味のある『それだけ』である。
アズマリアは外を見る。
マナ消失が起きたため、大地のほとんどは死に絶え、涸れている。
だが、この場の復興を諦めるようなことはしない。
「……精霊光に導かれ、すべて、あるべき場所へ……皆を、導きたまへ」
涸れようが、ここは、多くの友が眠る場所。
その眠る友全ての思いを抱き、この土地を、再興させる。
そう、強い思いの込められた言葉だった。
アズマリアが静かに言い放つと、ふわりと淡い光が二人の間を通り抜ける。
それはすぐに消えた。
その光は、この土地に失われたはずのマナのそれと、酷似していた。
「……きっと、出遅れた者でしょう。すぐに追いつくといいのですが」
柔らかな微笑を持って、パーミアは光を見送る。
「そうね。じゃなきゃ、パーミアにお尻叩かれちゃうものね」
「ちょ――アズマリアッ! 私はそのようなことは」
結局、その光がなんだったのかは、わからない。
だけど、ううん、きっと。
少しのんびりとした性格の、妖精だったのであろう。
元は首都。
大統領が住んでいた場所の前に、一人のエターナルが佇む。
「……大将。これでよーやく、あんたを弔えるぜ」
誰にともなく、空也は言った。
大将――クェドギンが言っていた、運命に抗うということ。
空也はそれを、最大の手土産として、持ち帰った。
「まさかあんたがあの時逝っちまうなんて思わなかったからな……それに、色々あってよ。
ああ、忘れてたわけじゃないぜ? ……まっ、つーわけで」
空也が振り返るそこには、
「クーヤ何一人でぶつぶつ言ってんの!」
「まるで変質者みたいだったぞ、大将」
「クウヤさーん、早く戻らないとミサさんにあらぬ誤解を植え付けちゃいますよ〜♪」
「クウヤさん、なるべく急いだ方が身のためかと。姉さん言ったことは確実に実行します」
四人の妖精が、待っていた。
「……みんな元気で、これから、やっていくと思う。だから、もういらん心配すんなよ」
最後に空也は振り返らずに、手を振りながらこの場をあとにする。
『……お前に言われずとも、だ……』
最後にそんな声が聞こえてきたような、聞こえなかったような。
「お姉ちゃん……あたし、やりました。もう、戦わなくてもいいんです……戦って、
生き残って……ようやく、ここまでたどり着くことができました」
セリスは静かに、新たに作られた墓標に語りかける。
前の墓標とは比べ物にならないほど、立派なものだった。
セリスの語りかけるそこに彫られた文字は、『ヴァジル・R・ラスフォルト』。
まだ正式な発表はされていないが、今回の戦いでの功労者であるスピリット達に、
そのスピリットという概念を棄て、新たに気高きもの――ラスフォルトと新たな名前が
与えられるとこととなっている。
故に墓標には全て、そう記されているのである。
「だからあたしはこれから、ずっと、ずっとお姉ちゃん達と一緒にいます……」
そんなセリスの背後にゆっくりと近づいてくるのは、美紗。
美紗は、思い起こす。
彼女達を殺めてしまった、自分を。
「……ごめんね、セリス」
小さなセリスを抱擁する美紗。
セリスはなんで? といった表情を作る。
当然だろう。
セリスにその記憶は無いのだ。
「それに、みんなも……」
美紗は顔を上げ、墓標を見渡す。
デオドガンの中でも比較的オアシスに近い場所に作られたここは、緑が美しい。
風が美紗とセリスの髪を揺らす。
「……ミサお姉ちゃん」
スッと美紗の手を解くセリス。
そして二人は立ち上がり、向き合う。
「あたし、強くなりましたから。もう、お姉ちゃんたちのこと……受け入れて、
もう、これ以上は泣きませんから……」
にこっと、セリスは笑った。
「だから安心して、ミサお姉ちゃんも行ってください」
「ッ!」
瞬間、美紗は涙を抑えることができなかった。
これで、三回目だ。
セリスに三回も、辛い別れを経験させてしまう。
なのにセリスは、笑って、美紗が心配しないようにと笑って、送り出そうと
してくれている。
もう一度、美紗はセリスの小さな体を抱きしめた。
離れたくないと思ってしまった。
この小さく、儚い娘を一人にしてしまいたくないと思った。
だがそれでは、セリスの覚悟を踏みにじってしまう。
むしろそっちの方が、避けたい事実だった。
だから美紗は短く、
「うん……じゃあ、またね。行ってきます、セリス」
そう、涙声で返事をしていた。
「見ていますか? 大隊長」
アイラは戦友が眠り、皆が集まっている墓地へとは行かず、一人、森の中にいた。
背中を幹の太い樹木に預け、隣には『樹林』が立てかけてある。
「あなたが待ち望んだ、世界ですよ。皆が全力を持って勝ち取った、権利ですよ」
きっと、フェイトがいたら元気よくお祭り騒ぎをしているであろうか。
こんなしんみりとした気分、まるで暴風が通るように、吹き飛ばしてくれるだろうか。
だが、いつも隣にいた人は、今はもう――
「こんなところにいたの、アイラ」
「……あんな本当にしんみりした場所、大隊長には似合わないと思ったので」
ハイロゥを使い、ゆっくりと降りてくるクリス。
アイラはそのまま空を見上げ、言い放つ。
「そうね……彼女なら、そう言うでしょうね。……これから、どうしましょうか」
「……まあ、明日は明日の風が吹きます。今は、のんびりしましょう」
そして、ため息を一つ吐くアイラ。
「……そうね」
一言そういって、クリスも『樹林』を挟んでアイラの隣に腰掛ける。
間もなく、二人からは微かな、規則正しい寝息が聞こえてきた。
そうは言うものの、二人は、もう、決めていることがあった。
それは――
レスティーナの演説も済み、その日の晩、城内敷地の森の差し掛かりにて。
「行っちゃうん、だよね」
「……ああ」
なるべく、見つからないようにと行動していたが、どうやら待ち伏せをされたらしい。
レスティーナが寂しそうな声で明人に話しかけてくる。
「大丈夫。引き止めたりはしないよ。アキト君にはこれ以上、迷惑かけれないから」
近づいてくるレスティーナは、おもむろに小指を差し出す。
「結局、ヨフアル一緒に食べるって言う約束は護れないみたいだよね? だから……
約束の上書き、しちゃだめかな?」
「いや……いいよ。破ったのこっちだから、拒否する理由、無いよ」
明人も小指を絡め、準備万端。
「ありがと。それじゃあアキト君、私からの約束は……今度、また出会えたら」
「私を……私をお嫁さんにしてください」
「え」
明人が言うよりも早く離れる、指と指。
レスティーナが願ったのは、決して叶うはずのない、願い。
「約束。今度こそ護ってよね? ……それじゃ、またね。行ってらっしゃい、アキト君」
明人は真美に言われた場所までたどり着く。
そこにはもう、ほとんどみんな揃っていた。
「みんなとのお別れは、ちゃんと済ませましたか? 明人さん」
「ああ」
明人は嘘をついている。
なるべくみんなに顔を合わせないように、ここまで来たのだ。
「アセリアもエスペリアもオルファも、大丈夫か?」
逆に明人は三人に質問を投げかける。
「うん……あたしは、大丈夫……みんなに、挨拶だけはした」
不意に表情を陰らせるアセリア。
「……それ以上は、きっと、あたしもみんなも辛くなるから……」
それは純粋に、寂しさから来るものなのだろう。
「でも、アキトと一緒だから、寂しくない」
「わたしも……もう、大丈夫です」
エスペリアが言う。
胸に手を当て、瞳を閉じ、思うのは小さな初恋の思い出。
彼の生きたこの世界をあとにする。
「……いつでも、アキト様と一緒に、行けます」
新たに剣を捧げられる人と、共に。
「ハクゥテのことちょっとだけ心配だけど……オルファも、大丈夫だよッ!」
オルファが元気よく言い放った。
ハクゥテのことは、きっと心配ないだろう。
あの愛らしさだ。みんな、こぞって面倒を見てくれるに違いない。
三人とも、本当に大丈夫なようだった。
美紗と空也は聞くまでもないだろう。
三人の視線が交錯するすると、ニッ、と笑い合った。
これだけで十分だ。お互い、なにがいいたいか、よくわかっていた。
そしてふと、一人、姿が見当たらないことに気付く。
「ウルカは?」
「ウルカさんなら……あそこです」
真美が示す方向に、確かに人影があった。
明人は駆け出し、ウルカの元へと向かう。
「どうしたんだ? ウルカ」
「……いえ。今一度、この風景を目に焼き付けておこうと思いまして」
時間は夜だが、月明かりに照らされ、明確に浮かび上がる風景。
太陽よりも淡い光が、幻想的な美しさをかもし出す。
「そして……」
スッ、とウルカは髪留めを手に取る。
長い銀髪がその拘束を解かれ、踊った。
「ラミア……エルミ……キュリオ……そして、皆。この世界へと」
髪留めを宙に放り投げ、
「還れ」
『深遠』の刃にて、切り裂く。
「そなた達は、手前の戦いへ連れてはいけませぬ。皆と共に、ハイペリアへと……」
たちまちにそれはマナとなって、消えた。
「……お待たせしました。行きましょう、アキト殿。手前達の、新たなる戦場へ」
「それでは皆さん、行きますよ」
真美が言う。
今このとき、別世界へ渡るための『門』が開かれる。
この機会を逃すと数百年後になってしまうらしい。
ハーミットだけが、このことを知らされていた。
そして明人達がこの世界から出ると同時に、この世界にはエターナルが
関与できないように一種の『蓋』をすることになっている。
もちろん、明人達もその蓋の対象だ。
なん周期も続くそれの効果により、一度外へ出てしまえば、二度とこの時代を生きる
みんなには会えなくなる。
明人は最後に、ここから見えるありったけの風景を頭に叩き込もうとする。
第二の故郷といってもよいこの世界。
自分達が護ったこの世界。
この世界で得た様々な思い出と思いは、絶対に、自らが存在している限り、
決して忘れない。忘れてはいけない。
そう――
この思い出は、永久に、永遠に……
そして――ガロ・リキュア建国から数ヶ月が過ぎ行く。
今のところ、大きな事件も無く、大陸は復興の兆しを得ていた。
ラキオスの主力を中心に新たに編成されたスピリット隊の活躍もあり、
戦渦に巻き込まれた都市の復興も、スピリット達の保護も、順調だった。
全ての事柄に一段落がつく。
そのタイミングを見計らって、各々が、その思いを行動に移し始めた。
「セリアさん……ホントに、やめちゃうの?」
「うん。別に、住む所が変わるわけじゃないんだから、そんな心配そうな顔しないでよ、
ネリー。それに、みんなも」
セリアは荷物を片手に、ラキオスの城門前でネリー、シアー、ヘリオン、ナナルゥに
見送られていた。
セリアは軍を離れる決意をしていた。
セリアは軍を辞めたあと、先回の戦争で親を失った子供たちを集め、
孤児院を開こうと思っている。
今まで各地に出動したとき、目に付いてきた光景からだった。
まだ計画の段階ではあるが、レスティーナが協力を約束してくれたため、
きっと叶うであろう願いだった。
もちろん、軍を辞めようとしているのはセリスだけではない。
「ニムも、行っちゃう……」
シアーが寂しげに語りかける。
「ごめんなさいね、シアー……でも、いつでも遊びに来てくれればいいから、ね? ニム」
「……うん」
ファーレーンとニムントールは、街から少し離れた森の中で、のんびりと暮らす予定だ。
これはファーレーンの、ニムントールをあまり戦わせたくないという強い希望から
出たものだった。
ニムントールはニムントールで、ファーレーンと一緒にいられることは嬉しい。
けど、慣れ親しんだ場所から、仲間から離れるのは、少し寂しかった。
「あ、あれ? ヒミカさん、ハリオンさんは?」
「ハリオン? ああ、すぐに来ると思うわ」
「待ってくださいよぉ、ヒミカさ〜ん」
ヘリオンが訊き、ヒミカが返すと同時に聞こえてくる間延びした声。
ヒミカとハリオンは、このまま行きつけのお菓子屋に弟子入りして、
お菓子屋を開店させようと思っていた。
軍に残ろうか迷っていたヒミカを、ハリオンガ無理やり引っ張ってきたような形だが。
でも、ヒミカとしても悪い気分ではない。
今までが今までだったので、新たな道を踏み出すのも、面白そうだったからだ。
「……ナナルゥ」
黙りこんでいたナナルゥに、セリアが話しかける。
「セリア……」
「いつでも、遊びにきてね。それと、もう、無茶しちゃだめだからね?」
そう言って、セリアはナナルゥの頭をなでる。
くすぐったそうな表情を作り、無言でその行為を受けるナナルゥ。
今生の別れ、というわけではない。
けれども、この戦いを、最初から最後まで供に戦い抜いた仲間だ。
寂しくないわけがない。
けれど、お互いの道の邪魔は、したくない。
だから――
「みんな〜ッ! まったね〜ッ!」
ポニーテールを揺らし、元気一杯に手をふるネリー
「その……行ってらっしゃい、です」
それをとは対照的に、静かに言い放つシアー
「わたしも頑張りますから、みなさんも、頑張ってくださいね〜ッ!」
両手を握り、精一杯のエールを送るヘリオン
「……また」
いつしか作れるようになっていた微笑を向けるナナルゥ
送る側も、
「ええ。私達がいなくなったからって、はしゃぎすぎないのよ」
最後に釘をさすセリア
「……行ってきます、みんな」
柔らかい微笑を浮かべるファーレーン
「……行ってきます」
少々瞳を潤ませ、ファーレーンの服を握るニムントール
「みんなも、日々の鍛錬を忘れないようにね」
振り返り、言い放つヒミカ
「今度みんなで、お菓子の試食に来てくださいね〜♪」
いつもどおり、和みオーラ全開のハリオン
送られる側も、できる限り清々しい別れを望み、そして、成就された。
「……作業の方は、順調かな? パーミア」
「はい。皆、頑張ってくれています。きっと、ここで生活できる日も遠くありませんよ、
アズマリア」
様々な情報が記された紙を片手に指示を飛ばすパーミアに、アズマリアが話しかける。
ここは、いわゆる作業現場だ。
まだ周りには崩れた家屋など戦災の爪あとが残っている。
それを除去し、この地に新たな建物を建てる。
パーミアを中心として、その作業の工程は順調であった。
「……人も、スピリットも関係の無い世界……レスティーナ様が掲げた希望……
きっと、叶うでしょうね」
この場では、スピリットも、人間も関係なかった。
お互いがお互い、笑顔で話し合っている場面も見当たる。
中には頬を赤らめ、あからさまに好意を抱いているものもいる。
「ええ。なーんで今までこんなことになってたんだろうね……って、人間が一方的に
差別してただけだけどさ。けど……もう、そんなことにはならないでしょうね」
アズマリアも、その光景を微笑みながら見つめていた。
「あっ、そうそう。物資の補給渋ってた大臣、レスティーナが黙らせてくれたおかげで
近いうちに届くってさ♪ やったね♪」
「……アズマリア、あまりレスティーナに迷惑をかけないようにね」
「悪いわねぇ、セっちゃん。せっかく軍辞めて、デオドガンに戻ったって言うのに」
ミリアが隣で荷物を運ぶセリスに話しかけた。
ここは旧マロリガン共和国の首都である。
最終的にミニオンが最後までいついた場所であり、周りの残骸を見てもわかるが、
復興が滞っていた場所である。
「いえ、私がしたい、って思ったからですから……気にしないでくださいです」
にっこりと微笑むセリス。
セリスはあのエターナルとの大戦の後、軍を辞め、デオドガンに戻り暮らしていた。
しかし今は、マロリガンの復興活動に参加している。
正直、辞めたのはいいが、暇すぎだったのだ。
それに、幾ら姉の眠る地が近いとはいえ、多少の寂しさも感じ始めていた。
だから馴染みある仲間がいて、なおかつ近い場所で活動しているのは、
ミリア、アリア、カグヤ、クォーリンを中心に活動しているマロリガンに
お手伝いしにきたのだ。
「セーリスーッ! 早くこっち持ってきてーッ!」
「あっ、はぁーいッ! アリアちゃん、すぐ行くですーッ!」
小走りで駆け出すセリス。
「いつの間にか仲良くなっちゃちゃってまぁ……カグヤちゃん寂しがるんじゃない?」
「もしかしたら、そうかもしれませんねぇ」
存在確認する前に、ミリアとクォーリンは会話を開始していた。
「ところでミリア姉さん、これと、これの物資が見あたらないのですが」
すぐさま雑談は事務的な会話に変更される。
クォーリンが足りない物資の所在を求め、現場監督のミリアを頼ってきたのである。
「ああ、それならカグヤちゃん率いる部隊が回収しに行ってるから、帰ってきたら
すぐに持ってきてくれるわよ」
「あっ、そうですか。わかりました。それじゃ、他の場所も見て回ってきますね」
と言って駆け出すクォーリン。すっかり中間管理職が板についてしまった。
ミリアは辺りを見渡す。
順調、であった。
生まれはどこかよく覚えていないが、自分が育ったこの土地。
そして同時に、多くの同胞が眠る土地。
そこが元どおりになっていくのを見ていると、たまらなく嬉しくなる。
「ミリアの姉貴、言われたとおりのもの、持って来たぜ」
感慨に浸っている場合じゃない。
カグヤの声で現実に引き戻される。
「ごくろーさま。じゃ、そのまま指定した場所まで持ってってね」
ラキオス場内から影が二つ、ひっそりと抜け出した。
脱走ではない。ちゃんとレスティーナに報告してある。
そして同時に協力を申し出られたが、断った。
「こればっかりはさすがに……迷惑かけられませんよ」
「ですね。これは、私達個人の問題だから」
影の内訳は、アイラとクリスだった。
二人はこの足で、大陸中を放浪する予定だ。
いや、放浪、というよりも探す、といった表現の方が合うだろうか。
アイラは布に巻かれた長い何かを担いでいる。
それは――
「ええ。……『樹林』も、きっと主に会いたいでしょうからね」
あの戦いの最後にフェイトが残した形見――『樹林』であった。
しかしそういうのは少々早いのかもしれない。
なにせスピリットと神剣は一心同体なのである。
どちらかが消滅すれば、またどちらかが消滅する関係。
まあ、今は『再生』が機能を停止させているからどうかわからないが。
でも、この『樹林』が姿を保ち続けている間は、期待してもよいだろう。
「……フェイトを見つけて、アイラはどうしますか?」
「まず何より先に罵倒しますよ。これだけは譲りません」
「別に譲って欲しいなんて思ってないわよ」
問いかけに数秒の思考無く答えるアイラに思わず笑ってしまうクリス。
「それで、そこからは、どうするの?」
「それは……、まだ何も考えていません。それよりもクリスさんは?」
「私? 私は……また、あなた達のやり取りが見たいだけよ」
「……もしかして、付き合わせてしまっていますか?」
「いえ。ちゃんと、自分の意思ですから気にしないで、アイラ」
「……そう、ですか。それではそろそろ、行きましょう」
「ええ」
二人は信じ、歩き出す。
その信頼にはきっと、応えてくれるだろうと信じて。
だって彼女は、とても仲間思いの人だから――きっと、この願いまで
叶えてしまうであろうと、信じて――。
――それぞれの、それから――
『ネリー・B・ラスフォルト』
そのまま軍に在籍し、シアーと供に各活動へ参加。
今日も今日とてその神剣の名にそぐわない明るさを周囲に振りまく。
毎日軍の活動に参加し、休みの日は仲間を引き連れてかつての仲間のところへ
みんなを引っ張っていくリーダー的存在。
そしてその言葉の端々に使われ、本人の目指す『くーる』がなんなのであるかは、
いまだに不明なのである。
「さってと。今日もネリーはく〜るきめちゃうよーッ!」
『シアー・B・ラスフォルト』
そのまま軍に在籍し、ネリーと供に各活動へ参加。
ネリーの明るさに当てられ徐々にその性格は明るくなっていっている。
それでもネリーと比べれば大人しいので、結局、後ろに隠れがち。
のんびりとした性格が輪をかけて強くなり、好奇心から様々な場所に出かけ、
そして迷子になっている。
ちなみに、ネリーよりも体の発育がよいのが、密かな自慢。
「あれ? ここ……どこぉ? う〜ん……あっ、チョウチョさんだ〜♪ まって〜♪」
『ヘリオン・B・ラスフォルト』
そのまま軍に残り、各活動へ参加。
大戦当初とは比べ物にならないほど力も心も強くなった。
ただ、その性格は今もあまり変わっていない。というより成長していない。
仕事の合間に街で子供たちに剣を教えているため、今、街ではちょっとした人気者。
「強くなりたいなら、私みたいに心も一緒に強くならないとダメですよ? ――って、
今そんなの嘘だっていったの誰ですかぁ!」
『ナナルゥ・R・ラスフォルト』
そのまま軍に残り、各活動に参加。
ミスの無い精確な仕事振りで、その活動に多く貢献をした。
その傍らに、いつのまにか極めた草笛を森の中で奏でている姿がよく見られている。
時々、セリアの孤児院に出向いてその腕前を披露しているようだ。
「……これが終わったら、セリアの所に……お土産、ハリオンさんに頼もう」
『セリア・B・ラスフォルト』
軍を辞め、戦争で親を亡くした子度をも集めて孤児院を開く。
また、行き場を失った幼いスピリットも集め、ここではもう、人もスピリットも
関係の無い生活が送られている。
また、かつての仲間も手伝いに(遊びに)来たりするので、結構にぎやか。
そんな生活に、セリアは順応し始めている。
「ふぅ……今日はいつものパターンだとネリーと、シアー……仕事、増やされる前に
片付けなきゃ」
『ヒミカ・R・ラスフォルト』
軍を辞め、ハリオンと一緒にお菓子職人を目指す。
筋はよく、このままであれば店を持てるといわれる。
今までが戦い詰めだったため、お菓子作りに確かな楽しさと充実感を得ている。
案外、こういう生活も性にあっていた自分自身に驚いてもいる。
その傍らには、いつも笑顔の相棒が付き添っているのは、言うまでもなし。
しかしその相棒が時に悩みの種にもなるが、そこは長年の付き合いでカバーしている。
「こういう暮らしも、悪くないわ。……ねえ、ハリオン?」
『ハリオン・G・ラスフォルト』
軍を辞め、ヒミカと一緒にお菓子職人を目指す。
というよりも、落ち込んでいたヒミカをハリオンガ無理やり引っ張ったような形だが。
すでにその腕前は店を持ってもよい、といわれるほど。
絶対の信頼を寄せる相棒を隣に、今日も今日とてのんびり過ごす。
ちなみにその性格は軍を抜けるときよりも輪をかけてのんびり屋となっており、
ヒミカを日々、悩ませている。
「甘ぁ〜いお菓子に囲まれて、ヒミカさんがいて、私とっても幸せです〜♪」
『ニムントール・G・ラスフォルト』
ファーレーンに連れられ軍を抜け、郊外の森の中でひっそりと時を過ごしている。
誰にも邪魔されず、ひたすらファーレーンに甘えられる環境に満足している。
が、時々仲間のことも思い出し、寂しくなる。
けれども呼ばれもしないのにネリーたちが遊びに来るので、その問題は一定周期で
解消されている。
その笑顔はファーレーンに安らぎを与え続けている。
「ニムは、ファーレーンさんがいれば……けど、みんなと一緒も……楽しいや」
『ファーレーン・B・ラスフォルト』
ニムントールを連れて軍を辞め、郊外の森へと移り住む。
ニムントールをもう戦わせなくてよい環境で、のんびりとした生活を送る。
時の流れをゆっくりと感じさせるこの生活は、時折舞い降りる嵐のような
訪問者のおかげで飽きることの無い生活となっている。
もちろん、この環境にファーレーンは満足しており、笑顔を見せる回数も、
日に日に多くなっていた。
「ニムには、幸せになって欲しいから……そのための努力は欠かせませんよ」
『セリス・R・ラスフォルト』
正規軍からは抜け、今はデオドガンでゆったりと過ごしている。
現在は旧マロリガン方面の復興の手伝いをしつつ、自分のこれからしたいことを
思い描きながら、大好きな姉の傍で一日を終える。
アリアを初めにマロリガンのスピリットとも仲良く、充実した日々を送っている。
相変わらず、お昼寝ポイントを見つけるのが得意で、どこでもすぐに快適な場所を
発見しては、友達と一緒にまどろみの中へ旅立っている。
「お姉ちゃん……あたし、今、とってもとっても、幸せだよ……」
『パーミア・B・ラスフォルト』
軍を辞める、とまではいかないが基本的にイースペリア方面の復興のために
多忙を極めており、正規軍の活動にはほとんど参加していない。
その傍らにはアズマリアが常に付き添い、お互いがお互いを助け合い、
復興は今、順調に進んでいるという。
現場の指揮をパーミアが。
物資の調達はアズマリアがレスティーナに無理を押し通す。
随分と、効率のよいコンビである。
「いつかきっと、またこの土地で暮らしたいものですね……アズマリア」
「違う。この土地で一生を終えるために、今頑張ってるのよ、パーミア」
『アリア・B・ラスフォルト』
『カグヤ・B・ラスフォルト』
『ミリア・R・ラスフォルト』
『クォーリン・G・ラスフォルト』
四人ともガロ・リキュア首都から遠く離れた旧マロリガンの土地の復興を目指し、
日々活動している。
ミリアを中心にスピリット達は纏まり、かつてこの場を治めていた大統領の後継者も
決まっており、その復興は順調の歩みを進めている。
また、ソーン・リーム自治区の監視もここのスピリット達が行っている。
時折アリアとカグヤが抜け出してヨフアルの買出しをしに出かけると(無断で)、
そのツケが全てクォーリンへと回る循環もほぼ確立し始めていた。
そんなこんなで今日も元気に復興中の四人なのである。
「カグヤ、またいこーね♪」
「ああ。やっぱヨフアルは、ラキオス方面のに限るぜ」
「……だってクーちゃん。また皺寄せよろしく〜♪」
「……私って、もしかして不幸――というか、アリアちゃんもカグヤさんも
ちゃんと仕事してくださいッ!」
『アイラ・B・ラスフォルト』
『クリス・B・ラスフォルト』
二人とも惜しまれつつ、軍を抜ける。
スピリットと神剣は一心同体のようなもの。
現在はどうかわからないが『樹林』がその形をとどめている限り、希望は棄てられない。
だから二人はこの『樹林』の主を求め、放浪の旅に出る。
とは言ってもちょくちょく帰ってきてはかつての仲間の下へ訪れている。
黙って出かけた意味は、無し。
最新の情報ではヘリオンを人目はばからず街中で愛でているアイラの姿と、
その傍らで微笑んでいるクリスの姿が確認されている。
「きっと、しぶといですからね。あの人は。だから、私は信じてますよ」
「そうね。このくらいで消えてもらっては、困るわよね」
そして、彼女達の心には一つだけ、共通の思いがあった。
それは微かな、しかし確かな、小さな小さな虚無感。
だけど同時に暖かくも、懐かしい記憶。
それが何か、わからない。
けど、それがきっと、大切だということは――
――永久に、永遠に……忘れられないであろう――
Fin……