作者のページに戻る


『主……』
(すまねえな、『因果』……今まで散々助けてきてくれたのに、こうも簡単に)
『いや、気にしなくていい。主が決めた事だ。我はそれに従うのみ』
 神剣を、器として差し出す事……それは、神剣である『因果』を『応報』がのっとる、
 という表現が一番簡単な事だった。
 簡単過ぎるからこそ、空也は罪悪感を感じてしかたなかった。
 『因果』との最初の出会いは唐突なものだった。
 元老院のジジィどもが美紗を強制的にエトランジェとしての力を目覚めさせようとし、
 嫌がる美紗を無理矢理コロセウムに連れて行き、罪人と殺し合いをさせた。
 その結果、美紗の神剣の力は元老院の思惑どおり――とはいかず、一時的に暴走。
 それを止めるために、今は亡き共和国大統領、クェドギンが『因果』を空也に渡し、
 事態は収拾した。
 それ以来、2人とも良きパートナーとして、戦いを潜り抜けてきた。
 戦友との別れ……結構、まだオレも青い所があるんだな、と空也は実感してしまう。
 正直、辛い。
 けど、
『ここで別れなければいけないんだ。それが我が名……因果なのだろう。元より、
 我は主の意思のままに動くつもりだ。逆らう気など、毛頭無い』


(……そう言われるとよ、余計辛くなるぜ……だからあとはこの一言で勘弁してくれや、
 『因果』……また、あとでな)


『……ふふっ……そう、だな。我は器となるだけ……その本質は、変わらない。
 ではな、我が勇敢なる主よ……後ほど、また会おうではないか。その時を……
 その時を我は、非常に楽しみとしている。これは、何もでも無い……我の、本心だ』


 真美は正直な所、無理だとは思っていなかった。
 でもこうもあっさり自分達カオスも、相手側のロウも説得に苦戦していた相手を
 説得完了させられると、正直驚きの感情と感心の感情が同時に出てくる。
 二人の気配が変わる。
 二人ともエトランジェとしての体の構成ではなくなり、永遠の時を生き、戦う戦士、
 エターナルとして目覚めていく。
 その二人も、自分が異質な存在になっていく事がわかっていた。
 手足の感覚が、より鋭いものとなる。
 大量のマナが流れこんできても、それを受け止めるだけの力が備わって行くのがわかる。
 二人とも目を開く。
 そして、記憶が――埋まっていく。
 楽しかった日々が――
 一緒に戦った記憶が――
 そして、親友としての自覚が――

 すべて、元通りになった。

「思い、出したわ……」
「……オレもだな」
 エターナルになった事により記憶の補填が終わると、
「ってなにこれ? 腕輪?」
『それがオレの形だ。永遠神剣、なんて言ってるが別に剣の形を絶対にしてるって
 わけじゃねえ』
 まず、美紗の手足に光り輝く『空虚』の刀身というか『空虚』自体が丸ごと変化し、
 両手首足首に収まる。
「んで、オレのは……棒?」
『そう怪訝そうな表情しないでよぉ。力は、依存にだって負けないんだからぁ』
 空也の手には、『因果』の形が変化し、同じような大きさの細身の棒が握られていた。
 これが、二人の新しい力……新しい、永遠神剣。
 美紗の方が、腕輪型の永遠神剣第三位『依存』。
 空也の方が、棒状型の永遠神剣第三位『応報』。

『んでよ、美紗』
「なんであたしの名前、いきなりあんたしってんのよ」
『いちいちつっかかんな。んなもん精神を統合したんだからわかるのは当たり前だろ。
 んで、話し戻すけどよ。お前が使ってた空虚とかいう下位神剣、雷を使う神剣魔法が
 得意だったんだろ?』
「そう、だけど……それがどうしたの?」
『なら問題ないな』
 ふむ、と『依存』が頷いたように美紗は思えた。
『オレも雷の神剣魔法が得意だったからな、いきなり魔法の種類が変わったら
 驚く奴もいるだろ? だから、問題ないなと思ってな』
「そんな事であたしが驚くわけないっしょ」
『ああ、あとな。オレの前の主人が名乗ってた名前、つけてもらうことになるけどいいか?』
「別にかわま無いけど。どんなのよ?」
『紫電、っつうんだ。今日からお前は、紫電の美紗と名乗るんだが、いいな?』
「……なんか、こそばゆいわねそう呼ばれるのって」
 美紗と『依存』がそんなやり取りをしている脇で、同じようなやり取りがもう一つ
 行われていた。
『あたしはですねぇ、風の力を使うのが得意なんですよぉ。前の器が破壊される時までは、
 依存のサポートしてましたから、その辺よろしくねぇ』
「はいはい。別にそんな役割は変わらんよ。じゃじゃ馬姫の面倒を見るのはもう、
 慣れてるんでね」
 相変わらず間延びした口調の『応報』。だが、いい加減空也も慣れてきた。
『ああ〜、それとですねぇ、依存と一緒であたしも前の主人がつけてた名前、
 空也さんが名乗ってもらってもいいですかぁ?』
「ああ、別にいいぜ」
『それでは空也さんはぁ、これからは烈風の空也さん、と名乗ってくださいねぇ』
「……最後の『さん』は、お前だけな」

 戦況は、少々キツイか。
 エターナルミニオンの数は少数なものの、質は前に戦った時よりも遥かに良い。
 フェイト、クリス、アイラ、パーミアが戦列に加わっても、この状況である。
 明人以外のエターナルであるみんなは、他の仲間の援護に出払っている。
 故に、明人の現状を表す表現方法として最も適当なのは、
「孤立、しちまったか」
 である。
『まったく……後先考えずに突っ込むからだ。これに懲りて、もう二度と己の力を
 過信する出ないぞ、明人』
 そこに『聖賢』からの小言が入る。
「ああ、この状況を乗りきれたらな」
 張り詰めた空気が走った。
 それは急に来たものである。
 この気配は、ミニオンなんかでは無い。強力過ぎる。
 そんな気配が六つ、いきなり出現した。
 その二つは、明人の付近にいる。
 この間の、エターナルの気配だ。
 他の四つは、それぞれアセリア達の場所に出現している。
 つまりこの場に二人もエターナルが集まってきたと言う事だ。
「ちょっと、分が悪か?」
『ちょっと、ではないな。まだ、エターナルになりたてのお前が、二対一でかなうと
 思っているのか?」
「……だな。かなり、分が悪いな」
 間もなく、二つの影が明人の目の前に現れた。

「ッ!」
 突然の不意打ちに、アセリアはハイロゥを羽ばたかせ、身をよじって回避する。
 黒い刃が、地面を切り裂き、えぐっていた。
「ほう……今のを、かわした」
 渋みの利いた、男の声だった。
 アセリアは瞬時にその敵を視界に捉える。
 肌の色は濃い褐色。髪は黒く、短い。
 筋肉質な体は、それだけで威圧感を与えてくる。
 それ以上に威圧感を与えてくるのは、片手に握られた、大きな鉈のような剣――
「おもしろい……なりたてのエターナルにしては、よくやるようだな」
「……だれ……ッ!」
「名乗らせるなら、まずそっちから名乗ったらどうだ? 若きエターナルよ」
 アセリアは『永遠』を握りなおし、しっかりと男を見据え、対峙する。
 幸い、付近のミニオンは全滅させ、アセリアが救援に入った部隊は他の仲間の援護に
 向かったばかりだ。
 被害は、最小限に止められるだろう。
『アセリア……気をつけて。相手の力は、凄まじく強力よ……すでに、第三位の枠を
 超えかかっている……』
「ん……大丈夫、まかせろ」
 『永遠』が心配そうな声を上げるが、いつもどおりのアセリア節で返す。
「あたしは、アセリア。『永遠』のアセリア」
 言われた通り、素直に自分から名乗りをあげるアセリア。
「なかなか肝の座った娘だ……俺の名は、タキオス。『黒き刃』のタキオスだ」
 タキオスと名乗った男は、アセリアの名乗りを聞き構えを――解いた。
 何事かと思い、アセリアは表情を驚き色で染める。
「今日は、挨拶をしに来ただけだ。それに……俺の初撃を避けただけでも賞賛に値する」
 そしてきびすを返し、歩き出す。
「だが」
 そして、
「次に会った時は、容赦は、しないぞ?」
 酷く殺気に満ちた声を残し、去っていった。
「……な、なに……さっきの、全然、違う……」
『黒き刃のタキオス……最初の一撃、本来の十分の一も使っていなかったというの……?』
 嫌な汗を、全身に感じる。
 最後の振り向きざまに見せた、あの目。あの殺気。あの、力……
 スピリットの域を超え、エターナルになった事で飛躍的に能力は上がっていた。
 しかし先ほどの黒い気配は、それ以上だった。いや、比べるのもはなはだしい。
 構えを解く事がなかなかできない。手に嫌な汗が握られる。
 それほどまでに、あの男――タキオスの力は強大だったと言う事だ。
 初撃を回避した時にできた穴が、アセリアとの力の差を、残る黒いマナで表していた。

「やあ、初めまして、ですね」
「ッ! 何奴ッ!」
 背後に急に出現した気配に、ウルカは警戒を緩めないまま振りかえる。
 ついさっき、自分が担当していたこの場所の掃討が終わったばかりのことだ。
 ウルカの視界に入ってきたのは、長身で細身、しかしほどよく筋肉のついた体の青年。
 髪は少し短めで黒い。
 すらっとした鼻筋や均等の取れた顔のパーツ……どれをとっても美形という表現が
 合うだろう。
「何奴とは……まあ、そう言われても仕方が無いですね。じゃあ、こう言ったら
 いいですか?」
 その表情をさらににこやかにし、青年は言った。
「僕の放ったミニオン達は、いかがでしたか? あなたを愉しませる程度には、
 働けたでしょうか?」
「ッ! なるほど……貴殿は、エターナルというわけですか」
「そういう事になりますかね。そして一応、あなた達の敵といった表現が正しいでしょう」
 青年の腕に力が集まる。
 神剣を出そうとしているのがわかる。
 しかしウルカはそれよりも速い速度で――
「――ッ!?」
 突っ込んでいた、はずだった。
 しかしウルカの『深遠』に感じられるのは、確かな手応え。
 漆黒の刃を受け止めているのは、青年の両手に握られた一対の神剣の片方。
「そう慌てなくとも」
『――ッ! 主、右ッ!』
 『深遠』の言葉のほうが少し先だった。
 ウルカは慌てて自らの身をのけぞらせる。
 同時に、鍔迫り合いになってい『深遠』の弾き、その反動で離れた。
 間もなく目にもとまらぬ速さで元々ウルカの喉元があった場所を青年の握る神剣の刃が
 通過していた。
「……僕は逃げませんから、大丈夫ですよ」
 そしてまた微笑みかけながら、青年は神剣を下ろし、言った。
「……それよりも、あなたの血はどれほど美しく咲いてくれるでしょうかね?
 美しい外見にそぐわず、汚く散るか……はたまたその外見どおりか……ふふっ、
 楽しみですねぇ……あなたを殺す事を考えただけで、気分が高揚してきますよ」
 ウルカの、完全に回避したと思われた先の攻撃で薄く裂かれた頬の傷から流れ出て、
 青年の神剣に付着したと思われる赤い鮮血を見ながら、青年は続ける。
 その瞳に、ウルカは今までに感じた事の無い濁った狂気を浮かばせながら。
「ですが、それは本日はお預けなのですよね……挨拶、しにきただけですから」
「……そちらに先に名乗らせるわけにはいきませぬ。手前はウルカ。『深遠の翼』ウルカ」
 その瞳をしっかりと睨み返し、ウルカは低く言放った。
「ご丁寧にどうも。僕は『水月の双剣』メダリオ。以後、お見知りおきを」
 そして振りかえる青年――メダリオ。
 そのどうさ一つ一つに無駄が無く、隙が無い。
「ですが今度会った時は、僕の手で必ず、貴女を殺しますよ。覚悟していてくださいね、
 ウルカさん」
 そう言い残し去るメダリオの後ろ姿を、ウルカは――悔しそうに睨んでいた。
 先ほど、『深遠』に言われ気付いた攻撃……
 完全に、避けた自信があった。
 しかしあのメダリオは、自分の予測を超えた踏みこみで攻撃していた。
 速さ、技のキレ、そして攻撃の質……それをとってもメダリオは――
『今の主よりも、上ね……多分、あれでも手加減はしていたと思うわ』
 鞘に収まるパートナーが語りかけてくる。
 わかりきった事だ。
 それぐらいの身のほどはわきまえているつもりだ。
 しかしそれ以上に、あの戦いを――いや、もうあれは純粋に『殺し』を愉しむ目だけは、
「気に入りませぬ……ッ! あのような男……必ずや、手前の手で返り討ちにして
 見せます……ッ!」

「妙な戦い方をするもんだねぇ、あんた」
「……どちらさまでしょうか?」
 こんな時にどちらさまもこちらさまも無いと思う。
 エスペリアは背後から聞こえてくる、妙にこちらを挑発してくるような声に、
 少々の怒りを覚えながら振りかえる。
 何故、こんな生理的に嫌う理由が、その姿を確認してよくわかったような気がする。
 薄緑色のショートボブ。アイマスクで閉じられた目元。
 薄い化粧を施してあるが、基本的には美人なのだろう。
 それはいい。
 だがエスペリアはその話し方と、格好が頂けなかった。
 清楚なエスペリアとは裏腹。
 コートを羽織っているものの、その下は艶かしいボディラインをくっきりと表してくる
 薄手のボンテージのみ。
 酷く淫靡な雰囲気をかもし出している。
「……気に入らないねぇ。その目……あたしに対して酷く挑戦的な目じゃないか?」
「別にわたしは、普通のつもりですが……?」
 初対面でエスペリアにここまで嫌われる方も珍しいといえる。
 どうやら、根っこから二人の相性は最悪だったらしい。
 すでに二人とも構えており、臨戦体制だ。
 エスペリアは槍に近い形状の『聖緑』を握り締め、一方の女性は鞭を構える。
 力を感じる所からして、その鞭がその女性の神剣……なのだろう。
「挨拶だけと言われているが、ちょっとだけ遊ぶよ! 『不浄』!」
「ッ!」
 突然、エスペリアの体から力が抜ける。
 その女性が神剣を掲げた瞬間だった。
「あっははは! 苦しいだろう? その歪んだ表情をあたしに見せればいいんだよ!」
「くぅ……ッ! これ、は……」
『エスペリア、気をしっかりともって! これが、『不浄』の力……マナをこうも
 禍々しいものに変えるなんて……ッ!』
 体が徐々に重くなっていく。
 完全に、相手の術中にはまってしまったようだ。
 ただ力を抑えられるだけではなく、体力も奪われるこの空間は、酷く気持ちが悪い。
 普段の半分ほどしか力が絞りだせない。
 ――どうする?
 エスペリアは自分と、パートナーに話しかける。
 しかし返事は返ってこない。
 吐き気がするこの空間を一瞬で形成したこのエターナルの力は……
「ッ!?」
 急にマナが元のものに戻った。
「はん。なりたてのエターナルなんかを狩っても、一瞬で終わりすぎてつまらないからね。
 あたしはあんたら獲物の、鳴く悲鳴を聞くのが楽しみで生きてるんだからね」
 まるで生きているかのようにはしなって、手元に纏まる。
「また会うだろうさ。そのときまでには、もっといい声で鳴くようになってるんだよ?
 あたし、『不浄』のミトセマールに狩られるときまでにね! あっははははッ!」
 そういい残し女性――ミトセマールは次には消えていた。
 エスペリアの胸に、悔しさを残して。
 エスペリアは奥歯をかみ締め、悔しがった。
 エターナルになったことで能力は上がった。
 だが、現存しているエターナルにとっては、自分達はまだスピリットという枠を
 超えただけに過ぎなかったということを、実感していたからだ。
「……『聖緑』、わたしはまだ」
『いいの、エスペリア』
 言い終わる前に、『聖緑』は答えていた。
『焦っても、強くなれないわ。それにまだ、エスペリアは私の力を使いこなせていない
 だけ……エターナルになってその日に力を引き出せる人なんていないから……ね?』
「……はい」
 『聖緑』に諭され、エスペリアは幾分か落ち着きを取り戻す。
 最初は、スピリットのとき、あの人に庇われて何もできない自分に憤りを覚え、
 力を求めた。
 次に力を求めたのは、カグヤに負けてしまったときだった。
 今思い出すと自分の勘違いからだったので少し恥ずかしい。
 そして、迷いがなくなった今、初めて力を、倒すべき相手を見出せた。
『不浄』のミトセマール。
 その名前は、エスペリアの心に深く刻み込まれた。

「これで、オッケーだね」
 オルファは明るくそういって、振り返る。
 そこに控えているのは――という前にオルファが抱きしめられる。
「う〜ん♪ 小さい体に大きな力♪ いいですねぇ♪ うんうん♪ 実にいいですねぇ♪ 
 愛らしい愛らしい愛らしい♪ 思わず頭なでちゃいますよってかなでてますけど♪」
 ……普段のイメージを崩さないために、名前は伏せておくべきだろうか。
 『♪』マークをフルに使用しオルファを抱きしめ胸に押し付け頭をなでているのは――
「んくぅ……く、苦しいよぉ、アイラお姉ちゃん」
 だ。
 普段のギャップが激しいので理解に苦しむと思うが、アイラは凄まじい子供好き。
 故にオルファの外見はストライクゾーンど真ん中なので、このような熱い抱擁を
 かましているのだ。
 普段の冷静さが、この性格にこれほどまでギャップを与えている。
「ごめんねぇ♪ でも、もうちょっとだけもうちょっとだけ♪ ああ〜♪ 至福♪
 至福とはまさにこのことを言います♪」
 最後にオルファの珠のような肌に頬をすり寄せ、離した。
 そこに、黒いツインテールの小柄な妖精が話しかけ――
「あっ、あの! オルファちゃん、と、アイラさん! 近くにはもう敵の気配ぃいいい!」
「んふふふ〜♪ ヘリオンちゃんもとってもよくがんばりましたよぉ♪ いいですねぇ♪
 ああ、幸せ♪ この戦いを終わらせたあかつきには私、絶対保育士になりますよぉ♪」
 たがアイラによってその言葉は中断させられる。
 ……ちょっと異常だろうか?
「……――ッ!」
 そんな二人を見ているオルファの感覚に、訴えかけられる気配。
 ミニオン――いや、違う。
 エターナルの気配。
 気付くのが早いか。
「ッ! 『再生』! ぴぃたんぶろっく、全開ッ!」
『わかったわッ!』
 オルファの周りに漂うハイロゥ、通称『ぴぃたん』の一つが『再生』の輝きを受け、
 生きた動きを得る。
 そして一気に巨大化し、この場にいるオルファ、アイラ、ヘリオンを包み込んだ。
 そして次には、迫る紅の炎の波を防いでいた。
 これが『再生』の持つ力。
 一時的にだが物質に生命を与えることができる力だ。
 伊達に命を司る神剣を名乗っているわけではない。
 しかしその力も万物に効果があるわけではなく、このように神剣の主、
 オルファの場合はハイロゥなど、その主と関係が深いものにしか効かない。
 炎の波が過ぎ去ると、それを見計らったかのようにぴぃたんが縮み、
 再びオルファの周りで戯れ始める。
 ぴぃたんぶろっくの加護を受けた部分以外は、黒く炭化していた。
 そして、この攻撃を行ったエターナルが姿を現す。
「キシャァアアアッ!」
 それは、人の形をしていなかった。
 アイラは先ほどまでヘリオンを庇うように抱いていたため、天国と地獄が同時に
 やってきたような気分になった。
 人の形をしていないだけならまだいい。許容範囲内だったら。
 しかしそのエターナルは許容範囲内ではなかった。
 思わずアイラが口元を押さえてヘリオンに「見ないで」といって目元を隠し、
 そんなヘリオンが「え? なんなんですか?」と興味津々のエターナルの容姿は、
 赤黒い楕円の中心に、大きな目。爬虫類か、それとも昆虫か、違いのつけれないような
 奇妙な皮膚。
 楕円の一番下には足が退化したようなものがあり、頭には冗談のような王冠が
 乗せられている。
 見ていて不愉快になってくるが、このエターナルの力は本物だ。
 現に攻撃がくるまでアイラとヘリオンは気付かない隠密行動性。
 そして一瞬で形成された炎の威力。
 どれをとっても今までであった中で最悪の敵だ。
 オルファはその姿を見て、硬直している。
 無理もないとアイラは思い、エターナルに隙を見せぬようゆっくりとオルファに近づき、
「か……」
 庇うように前に立とうとすると、
「かわいい!」
「……へ?」
 思わず間の抜けた声を上げてしまった。
 オルファから発せられる理解に苦しむ単語を聞いて。
「ねえねえ『再生』! あれ、オルファのペットにしたい! すんごくかわいいの!
 うわ〜……欲しいなぁ。すんごく欲しいなぁ!」
 目を輝かせ、新しい玩具を見つけた子供よろしく、オルファはもの欲しそうなしぐさを
 見せる。
「ク……クァ?」
 そのオルファの雰囲気を悟ったのか、奇妙なエターナルはあったのかと突っ込みを
 入れたくなる眉を細め、怪訝そうな表情を作った。
 そのしぐさはまあ、見方を変えれば愛らしく見えるだろう。
 しかしアイラには理解できなかったが。
『オルファ、気を抜かない……ん? あちからか、話しかけてきた、の?』
 と、オルファの頭に『再生』の声と、相手エターナルの奇声と、それが翻訳された声が
 聞こえてきた。
『き、今日は挨拶しに来ただけだから帰らせてもらうけど、次ぎ来たときは』
「オルファのペット決定だよ! そのときは絶対の絶対の絶対にペット! 確定!」
 ビッと指差してオルファは高らかに宣言する。
『う、うぅ……でも、まだこっちの方が力は上だから……負けないさ』
 妙な対立関係になる二人(?)。
「ねえねえ、名前なんていうの? 一応その名前で呼んであげるから、教えて」
『……ントゥシトラ。『業火』のントゥシトラ』
「じゃあ、ントゥちゃんね! バイバーイ♪」

「く――ッ!」
 明人の頬を、短刀が薄く切り裂く。
 高速で動くパーサイドの一撃離脱戦法だ。
「おら、よそ見してんじゃねえ!」
 その声に虚をつかれた明人は慌てて『聖賢』を目の前に突き出すと、衝撃だけが
 体にきて大きく後方に突き飛ばす。
 レイジスの力任せの一撃によるものだ。
 この二人のコンビネーションは、なんだかんだいっても良い。
 パーサイドのかく乱に合わせて、レイジスの一撃。
 パーサイドは一撃こそ軽い。しかし明人たちの世界で言う忍者の格好を
 伊達にしているわけではなかった。
 素早すぎて、明人の反射神経では影を確認できるのが精一杯だ。
 レイジスは攻撃の質、威力、打撃攻撃としては今まで戦った中でも一番の威力を
 誇っている。
 そして極めつけは――
「よく避けれたな……なら、その足を封じさせてもらう……土遁ッ!」
「ッ!」
 パーサイドの神剣が輝くと、明人の足元が沈む。
 そう。パーサイドは俗に言う『忍術』に似た技を使用してくるのだ。
 他にも火遁、水遁などを使って先ほどから明人を追い詰めてくる。
 そしてその追われた先には、
「またよそ見してんじゃねえよ! てめえの相手は俺だろうが!」
 レイジスが待ち構えている。
 籠手に炎を纏わせ、振り上げる拳は降ろされなくとも十分に威力を持っていると
 いうことがわかる。
 明人は『聖賢』を握る手とは反対の手の平を地面に向ける。
 そして圧縮したオーラフォトンを放ち、その衝撃で体を土の中から脱出させ、
 レイジスの一撃を避けた。
 レイジスの攻撃により巻き上がる緩くなった砂の粒子。
 その勢いをも利用して明人は距離をとる。
 もう一度言おう。
 正直言って、よろしくない状況だ。
 他のみんなのところにも同じくエターナルが着いている。
 そしてスピリット隊の援護も、この状況では難しい。
 せめて真美が、空也と美紗がいてくれれば、戦況は少しは楽になったのかもしれない。
 だが、この状況で三人に頼ろうという気持ちは起こしてはダメだ。
 空也と美紗は先日、この二人に完敗したのだ。
 それがエターナルとエトランジェの力の差を明確すぎるほど表している。
 しかし真美がいないことも気がかりだ。
 どうしてと思う間もない間にこの戦闘にもつれ込んだから、今この状況で思うのも
 不思議なことだ。
「チッ……幾らてめえが強いからって、このやり方は気にくわねえ」
「……餓鬼みたいに駄々をこねるな。私達だけなのだぞ? 本気で戦っていいという
 指令が下っているのは」
「でもなあ! エターナルになってまだ一週間もたっていないやつを全力で
 叩き潰すような卑怯臭え真似は俺のプライドが許さねえんだよ!」
「ならそのプライドも今日までだな。さっさと終わらせるぞ。この力は……危険だ」
「パーサイド!」
「うるさいぞレイジス」
 ――……なんか、どこかで見たような光景だな……
 二人の関係の雰囲気は似ていないものの、あの二人のやり取りとどことなく似ている。
 もう二度と入ることのできない、親友という輪――
 そのとき、また、エターナルの感覚がこの世界に舞い降りた。
 数は三つ。
 一つは真美のものだ。
 しかしあと二つは、知らない。
 一つはまるで雷のような速さでこちらへと向かってくる。

 ――……雷?

「まさかッ!」
 その、
「疾きこと、風の如しってやつよ! マナよ、小さき雷となれ。『依存』、ちゃーんと
 起きてるわよね? あんたの力の初お披露目、いっくよーッ!」
 まさかだった。
 明人は思わず振り向いた。
 そこには、全身に紫電を纏いながらこちらに突っ込んでくる、じゃじゃ馬姫――
「ライトニング・ブラストォッ!」
 その紫電は両手にすべて集まり、伸ばした腕の先から放出される。
 それは以前とは比べ物にならないほど、巨大な光の柱。
「な――」
「にぃ!?」
 その柱は明人の脇を通り抜け、レイジスとパーサイドの元に向かって一直線。
 走りぬけ、直撃コースを寸分の狂いもなくたどる。
 たまらず二人は回避運動を取り、前後に散らばる。
 その勢いのまま、前に飛んだレイジスが攻撃に出た。
「へっ! ようやくこれでイーブンだ! 全力を持って叩き潰してやるぜえ!」
 装備した両腕が、燃え上がった。
 まるでレイジスの昂りを表しているかのように。
 その脇を一瞬で通り抜ける影があった。
 一瞬過ぎて確認できなかった。
 次に、それがなにかわかる。
 目の前には、『聖賢』を握り、呆然としている明人がいるだけだった。
 よって先ほど抜けたのは、新手のエターナル。
 しかもレイジスにとって対立すべき、カオス陣営のようだ。
 だが今はそんなこと関係ない。
 目の前にいるやつを叩き潰すことだけを考え突っ込む。
 しかしその途中、明人とレイジスの間に割って入るものがあった。
 それは、レイジスの拳を受け止め、拮抗する。
 手に握られる棒状の神剣と思われるもので、防御壁を展開しながら。
 その顔には、見覚えがあった。
 そういえば先ほど雷を放っていったエターナルも、どこかで見たことがあった。
 
 当然だ。

 この二人とは、先日もう、会っていたのだから。
「久しぶりだなぁ。今回は、負けねえぜ?」
 明人は耳を疑いたくなった。
 目の前で攻撃を受け止めているのは、見覚えのある茶色に染まった短い髪。
 この世界に来て黒く健康的になった肌の色。自分よりも高い身長に、この、
 余裕のある笑みと絶妙にマッチする声。
「くう……や?」
「よう明人。まあ、なにが起きたかは後で話してやるよ。今はこいつで手一杯だからな!」
 神剣――『応報』振るい、レイジスを弾き飛ばす空也。
「ということはさっきのは本当に」
「ああ。あの高速移動物体は、我らがプリンセス……『紫電』の美紗さ」

 一気に後退して避けた一撃。
 これは先日戦った、エトランジェが使っていたものと酷似していた。
 そんなはずはない。
 パーサイドは自らに問いかける。
 こないだ戦ったエトランジェは、確かに他の世界で見てきたエトランジェよりも
 強かった。
 エターナルを抜きにしたら最高クラス。そしてこの世界では最強と言ってもいいだろう。
 だが同じことを繰り返すことになるが、それはあくまでエターナルを抜いた話。
 だが今目の前で迫ってくる敵は他に形容しがたい。
 だが考えられないこともない。
 だがロウ側でも、カオス側でも少しでも多く陣営の神剣を増やしたいがため、
 未だにどちらにもつかない神剣の説得を試みて、多いな犠牲を出してきた。
 故に、
「今回は、負けないわよぉ! 『依存』、力見せて見なさいな!」
『あんましはしゃぎすぎんな。今は契約したてでオーバードライブ状態だがじきに
 落ち着く。そんときの反動でかくなるぞ、美紗』
 信じたくなかった。
 今まで両陣営が出してきた犠牲を、軽く踏みにじるこの会話を。
「黙れッ! 成りたてが、いきがるな!」
 パーサイドは指を複雑に組み、マナを集中させる。
「貫け! 迅雷ッ!」
 パーサイドが目を見開くと同時に、一筋の雷が走った。
 その速度は凄まじく、威力も申し分ない。
「んなもん、効かないっての!」
 しかし突っ込んでくる敵――美紗はリング状の『依存』の加護を受けた腕で、横に弾く。
 さすがに、効果は薄い。
 美紗にとってはこんな雷撃、片手で、しかも一瞬で作り出せる。
 しかしこれもパーサイドの手の内。
 美紗の目をくらませ、新たな術式を完成させるための布石。
「いっくよーッ!」
 美紗が『グー』を作ってパーサイドに殴りかかる。
 その拳は紫電を帯び、弾ける音がする。
 そして高速で振りぬかれる右、左と続くワン・ツー。
 戦い方は、すべて『依存』から流れ込んでくる。
 それに身を任せ、美紗は流れるように攻撃に出た。
 雷の加護を受けた一撃が、前回の対戦では成しえなかった一撃が、パーサイドを捉える。
 が、
 手ごたえがない。
 ビシッという爆ぜる音がした。それに喰らったパーサイドの表情も歪んでいる。
 だが、何かが、根本的に何かが違う。
「どうして、と顔をしているな。新米」
 背後から声がした。
 殴り飛ばしたはずの、エターナルの声だ。
「ッ!」
 とっさに反応し、神経を張り巡らせ、振り返る。
 ほぼ同じタイミングで美紗に襲い掛かる見えない真空の刃。
 『依存』の力によって敏感になった神経がそれを美紗に教える。
 一つ、二つ、三つと体制を崩さぬよう受け止め、腕で弾く。
 一通避け終わると、ようやくその攻撃の主を捉えることができた。
「ほう……幻術に引っかかりながらも私の風陣を避けるとはな……そしてまさか、エターナルになっているとは思わなかったぞ」
「はん! あたしは負けっぱなしってのが一番嫌いなのッ! それに……あいつにちょっと文句つけないと思ってね」
「ふん。まあ、いい。今戦うのはお互いためじゃない。ひとまず、退かせてもらうぞ」
「上等ッ! 今度会うときは、完膚なきまでに叩きのめしてあげるからね!」

「ふっ……ククッ……あーはっはっはっはッ!」
 急に、レイジスが額を押さえて笑い出す。
 何事かと思う明人と空也は、次に感じる凄まじい威圧感が襲う。
「いいぜぇ……いいぜぇ貴様ら! 久々に燃えてきたぜぇッ! あっははははッ!」
 右手の平を上に向け、レイジスは実に楽しそうに言った。
「こんなに燃えてきたのはなん周期ぶりだ……クククッ……さあ!」
 そして狂喜に満ちた瞳を、二人に向けはなった。
「楽しもうぜぇッ!」
 ボンッ、と爆発音がした。
 それはレイジスの足元でおき、全身に炎を纏ながら二人の元に突っ込んでくる。
「ッ! マジか!」
「はぁあああああああッ!」 
 空也が言うが早いか。
 瞬間的に間合いを詰めてくるレイジスの攻撃を、空也と明人は左右に散って避ける。
 爆炎があがる。
 そしてその爆心地に立ち上る煙の中に光る、二つの目が空也を捕らえた。
「空也ッ! そっちだ!」
 明人がそれに気付き、煙を背後にして避けた空也に向かって叫ぶ。
 鬼神の腕から再び炎が上がった。
「はっはーッ! もう一発いくぜぇ! 爆炎のぉ……」
 先ほどと同じ、突撃。一直線に腕を振り上げ、振り返った空也に向かって。
「炸裂――ッ!?」
 しかし先ほどと決定的に違うのは、爆炎が上がらない。
「ったく、そんなあぶねえもん振り回してんじゃねえよ」
 レイジスの炎の拳は、空也の風の障壁により封じ込められていた。
『空也さ〜ん、長くは持ちませんから、早く決めちゃってくださ〜い』
「了解。だ、そうだからさっさと決めさせてもらうぜッ!」
 バチッ、とレイジスの拳が弾かれる。
 一瞬の判断でレイジスは距離をとろうとした。
 しかし足が何かに引っかかり、うまく距離が取れない。
 目を足元にやるが、何もなかった。
 しかし、感じる。マナの動きがあることを。
 それは全身に大気を纏う、目の前の敵から感じられる。
 これが『応報』の力。
「よそ見をしている暇があるのか? 随分と舐められてんだな……その油断、
 有効に使わせてもらうぜ! 巻き起これ旋風……ッ!」
 空也の握る『応報』に、目に見える風が集まる。
 そして、
「が――ッ!」
 レイジスの顎に強い衝撃。
 『応報』がレイジスの顎を打ち抜いていた。
 空也は基本的に武術一般が得意だった。
 棒術も興味本位で覚えたこともあり、『応報』の形状は『因果』よりも体に合う。
 振りぬいた勢いのまま、空也は半回転し、
「飛べッ!」
 レイジスのう腹部を突き、打ち上げる。
「明人、行ったぜ!」
「ああ、任せろ!」
 ここは長年の付き合いか。
 お互い悟りきったように叫ぶと、その上空には影が一つ。
 明人が『聖賢』を振り上げ、構えていた。
『明人よ、加減をしている余裕はないぞ。全力を持って我の力を引き出せ』
「当然だ! うぉおおおおッ!」
「させるか」
 と、振り下ろす刃先が止められた。
「さすがの一撃だが、まだ力に頼りすぎの一撃だ。この馬鹿と一緒で直線的過ぎだ」
 と、止められた瞬間横に力のバランスが持っていかれ、明人はバランスを崩し、
 投げ出される。
 そのまま空中で体勢を立て直し、ゆっくりと明人は着地する。
「……てめ、パーサイドぉ……邪魔すんだったら今度こそてめがぷッ!?」
 レイジスが言い終わるよりも先に、パーサイドが神剣の柄で黙らせた。
「黙れ。ここで終わっては元も子もないだろうこの単細胞生物。とっとと帰るぞ」
 ぐらりと揺れて堕ちそうになるレイジスの首根っこを掴み、軽々と抱える細腕。
「明人、空也! そっちに――いたわねやっぱり!」
 と、そこに美紗が合流。
「ちょうどよいか。我らはここで退かしてもらう。その前に一応名を名乗らせてもらおう。
 私は、パーサイド。『異端者』パーサイドだ」
 美紗を睨みながら、パーサイドは言った。
「チッ、放せよ。おい、そこの棒使い。俺はレイジス。『再来の剛拳』レイジスだ」
 レイジスはレイジスで、空也を睨みながら言い放つ。
「次ぎ会うときは、そのときはお互い死合うときだ……覚えておけ」
「『紫電』の美紗。そっちもこの名前、覚えときなさいよ」
「てめえを叩きのめすのは俺だからな。そん時まで、首を洗って待っていやがれよ!」
「ああ、そうさな。名乗らせておいて名乗らないのは失礼だな。オレは空也。
 『烈風』の空也だ」

「明人さん」
「……真美、どういうことか説明してくれ」
 と、睨み合う四人と違って暇そうな明人は、後方から話しかけてくる女性に説明を
 強制する。
「なんで、あの二人がエターナルになってるんだ? ほいほいなれるようなものじゃ
 ないだろ? なるようなものじゃないだろ? なっちゃだめなんだろ!? おい!?」
 最後の方は、半分切れていた。
 叫ぶように問い詰めると真美は「ひゃん!」とかわいらしくおどけてみせ、
 少々言いにくいそうな雰囲気を作ってから明人の指示に従った。
「しょうがないじゃないですかぁ……あそこまで真剣に迫られたんじゃ」
「かわいこぶっても俺は騙されないぞ真美。本当の事を言え」
「……『依存』の性格は常々承知の上でした。『応報』もまた同じです。
 今までエターナルになりたいという人は星の数ほどありました。
 ですが、どれも『依存』、『応報』ともに選ばなかった。それはなぜかといいますと、
 使命感ばかりが先行して……『依存』のやる気というか反骨心が出せませんでした……
 で、ここ数日お二人の性格を考慮し、一応留め金を仕掛け、そこで止まればそれでよし。
 その時は……まあ、八割ほど信じた結果に終わりましたね」
「……すべてはお前の計算のうちだったのか、これは」
 その問いかけには、
「ええ、まあ。『依存』と『応報』の性格上、美紗さんと空也さんの性格上、
 ぴったりと思ってたのは事実でしたから」
 笑顔でお答えしてくれた。
 もうこうなっては呆れるしかほかない。
「はあ……もう終わったことだからどうしようもないけど、あいつらを巻き込むらぁ!?」
「なーに見つめあっちゃってんのよ二人して!」
 と、勘違いしすぎの美紗の久方ぶりの、もう二度と味わうことのない『はず』だった、
 強烈ハリセンツッコミ。
 どうやらあっちはあっちで話のかたがついたらしい。
「なんだぁ? あの四人じゃ飽き足りなくて、ついには真美さんか。節操ないな、お前」
「なんか今すごく俺の尊厳を崩されちゃいけないようなやつに文句言われた気がするぞ」
「そんなこたぁないぞ明人。オレはいつでもどこでも美紗一筋なんだからな」
「明人」
 と、軽い会話を引き締める美紗の声。
「また、一人で抱え込もうとして、つらいことも、悲しいことも、全部」
「……そりゃ、こんなことにそんな簡単に誘われるわけないだろうが」
「……でもさ、置いていかれる『親友』の気持ち、考えてよね? ホントにさ……」
 と、ポスっという薄い音と一緒に、美紗の体が明人に預けられた。
 瞬間何が起こったかわからず、明人は空也を見るが、別にいいんじゃね?
 と言う表情で返された。
「明人のほうが痛かったかもしれないけどさ、あたし達もすんごく痛かったんだよ?
 明人の事を考えると胸が張り裂けそうで……ずっと、ずっと苦しくてさ……
 でも、今なら言えなかったこれ、言えるからまあ良しよ。
 あんたの親友として、払った代償は小さくないけどさ、本当の親友だったら、
 これぐらいするんじゃないのかな……」
 そして涙を溜め、戦闘中の砂埃で少々汚れた頬で、しかし嬉しさを目いっぱいに
 表す笑顔を明人に向け――
「そうさな。オレもずっと考えてたんだぜ、明人の事。なんつうかさ、お前は物事を
 一人で抱え過ぎだって。そりゃ、今回はアセリアとかエスペリアとか一緒だったから
 不安はなかったかもしれないがよ、やっぱり美紗の言ってる親友――いや、オレ達は
 真実の友とかいて『真友』と読む仲のオレ達とは、切っても切れない縁で結ばれてる
 もんなんだ。だからよ、オレ達はお前を追ってきたことを後悔してない。
 今となっては、お前についていけなかったオレのほうが情けなく思えてくる。
 だからあの時言えなかったセリフ……オレも言わせて貰うぜ?」
 そして空也も、いつになく真剣な表情で、しかしどこか安心感の置ける笑顔で、
 先の戦いで焦げた服装も気にせず、頬を拭いながら、

「おかえり、明人」

 同時に言い放った。
 この瞬間、明人は再び、一度は捨てた親友の輪に戻れたという嬉しさが、
 胸に満ち溢れた。

                              第二十五話に続く……

作者のページに戻る