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第二十四話 『紫電』の煌きを持つ者――『烈風』の守護者

 ――やっぱり、行動に移さなきゃね!
 そう美紗は心で言いながら、第四スピリット館を出る。
 向かう先は、エターナル『時詠』の真美が住んでいる明人と同じ第一スピリット館。
 ちょっとエターナルに囲まれるという特殊な環境では、スピリットである
 セイグリッドが住みづらいだろうと空也が手配してものだからこの情報は合っている。
 真美はセイグリッドの使っていた部屋にいるはずだ。
 しかし……何故、セイグリッドはあの第一スピリット館でただ一人、
 生活していたのだろうか?
 セイグリッドはサーギオス帝国の元遊撃隊員でトップの実力を誇っていた人物だ。
 しかし途中参戦の美紗にはよくわからない経緯があって、今はラキオスのスピリット隊
 みんなのお姉さん役として頑張っている。(一時機ミリアが対抗意識を燃やしていた
 事があったような気もするし)
 それ故にみんなに嫌われていると言う事も無く、むしろ頻繁に第一スピリット館に
 仲間を呼んでいたのだが、一向に他の館に移る事はしなかった。
 ……ここにきてもう一つ、妙な事が起きた。
 その移ろうとしなかったセイグリッドが、明人達エターナルがやってきたと思ったら
 その強い意思を簡単に折り、簡単に他のスピリット館に移ったのだ。
 今は昔の仲間がいる第五スピリット館で就寝しているはずだ。
 やはり、エターナルはわからない事が多すぎる。
 その疑問を解決するためにも、
「真美さんから、色々と聞き出さないとね」
 いつのまにか到着していた目的地である第一スピリット館の玄関で、
 美紗は小さく呟いた。

 美紗は音をたてぬよう、慎重に歩みを進める。
 まず、玄関は通過。
 一階はどのスピリット館も共通で、厨房、食堂、リビングなど全員が集まれる
 場所になっている。
 ちなみに風呂は、全てのスピリット館からちょうど均等の距離にある別の施設にある。
 故にその広さは全ての国でも最高レベル。檜と似たような香りの心地よい風呂だ。
 と、話しがそれたが美紗はその一階をあとにし、二階へと進む。
 いい感じに薄暗く、また先が確認できない事に少々恐怖もあったが、これならば
 足音を立てない限り見つかる事はほとんどないだろう。
 のぼりきった先に広がるのは、左右に別れる暗き道。
 とりあえず、ゆっくり、ゆっくりと右回りに進んで行く。
 セイグリッドの部屋はちょうど反対側なので、どちらから回ってもほぼ同じ距離だ。
 と、
「――ッ!」
 急に『空虚』がなにかを訴えかけてきた。
 ような気がしたが振り返ってみると何も無い。
 なんだ、驚かせただけかこのやろうと心で罵倒し、美紗はさらに進む。
 そして、小さな明かりの漏れる扉の前までやってきた。
 どうやらまだ起きているらしい。好都合だ。
 美紗は探るようにドアノブに手をかけようとすると、
「あっ……」
「あっ……」
 指先に何かが触れた。
 それは人の指だった。
 普通だったら驚く所だが、声を聞いて美紗は安心しきっていた。
「空也じゃない。どうしたのよ、こんな時間に」
 その相手は、空也だったから。
「そういうお前だって、どうしたんだよ?」
 質問を質問で返され、二人は、同じ理由でここまで来たという事を悟った。
 じゃなきゃ他に理由が無い。まったく。これっぽっちも。
 別に真美は空也の好きなツルペタスレンダー体型だが、ロリでは無い。(何気に失礼)
 だから真美に対して夜這いを仕掛けに来たという事は極めて確率が低い事だ。
 かといっていきなりあのエターナルであるオルファリルという少女に
 手を出そうと考えてここまで来たわけない――と信じておこう。
「……お二人とも、見詰め合ってないで入ってきてはいかがですか?」
 いきなり扉の向こうから、全てを見透かしているかのような真美の声。
「鍵は開いていますよ。私に、話しがあるのでしょう?」
 というか、全部お見通しのようだった。

 部屋にお邪魔して、時間は大体十分ぐらい経っただろうか。
 三人は何かの儀式を起こさんがごとく、見事に位置関係が三角形になったまま、
 言葉を発していない。
 美紗と空也しては、これは訊きづらいことだった。
 真美としては、自分から切り出すわけにはいかない話題だった。
 そんな膠着状態が続いている中で、
「なあ、真美さんよぉ」
 空也がその均衡を破ってくれた。
 しかしその口調はいつもよりも固く感じれるのは、気のせいでは無いだろう。
「なんでしょうか?」
「真美さんが連れてきてくれたエターナルについて、ちょいと訊きたい事があるんだが」
「……明人さんのこと、ですね」
 空也が最後まで言いきる前に、真美は名前を言い当てた。
「……ああ、そうだ。明人は、明らかに他の四人、そして真美さんとは違う。全然違う。
 こないだ初めて会ったばかりなのに、あいつと話しているとすげえ楽しいし、それに」
「昔っから、ずっとこんな関係だったみたいに感じられるのよ……明人の事が。
 そん分けないのにね……」
「……それは、ただの気のせいでは?」
「でも」
 消え入りそうな声で美紗は、
「でも! 明人はあたし達の通ってた学校と同じ制服を着てた! 空也が無くしたと
 思ってた数珠も首から下げてた!」
 しかし急に声に力をこめ、
「それに……あいつの事を考える、心臓の鼓動が早くなって、顔が熱くなってきて……
 ねえ、ホントに明人は……あたし達と関係無いの? ここまでわかってて、
 本当に関係無いの!?」
 美紗は言放った。
 空也の目の前だったのに。
 だけどこの気持ちは押さえれなかった。
 心臓が、明人を見て高鳴る。
 顔に血液が回ってくるように、熱くなる。
 しかしこれが本当に『空也に向けているものと同じ気持ち』なのかは、定かでは無い。
 美紗と空也は、答えを待った。
 空也はなんともいたたまれない気持ちのまま、待った。
 わかっていた。空也には。
 美紗が明人を見るときは、他とは違った目線になっているという事を。
 それは、好意を持ったものに向けられる視線だという事を。
 認めたくなかった。
 しかし認めざるをえない事だった。
 だから空也も答えを待っている。
 二人の視線を受け、真美は瞳を閉じ、
「……そこまで言うのでしたら、お教えします」
 ゆっくりと口を開いた。
「ですがこれを聞いて、本当にショックを受けるのは……あなた達です。それでも、
 いいですか?」
 確かにゆっくりだが、しかし威圧感のある問いかけ。
 二人は、同時に首を縦に振った。
「……明人さんは、もともと普通の人でした。両親は事故で死んでしまいましたが、
 学校へ通い、アルバイトをし、友人と楽しそうに喋り、妹と一緒に暮らしている、
 普通の人でした」
「妹……?」
 美紗が反応したが、真美は気にせず続ける。
「明人さんの本名は、高瀬明人。そう……つい先日、現実世界へと帰った、高瀬来夢の
 義兄にあたるのが、明人さんなのです」
「――ッ! っつう、ことは……」
 空也が目を見開き、珍しく驚いた。
「そうです。明人さんは、この世界に召還され、永遠神剣第四位『求め』を振るい、
 小国ラキオスのスピリット達を率い、大陸統一まで導いたお二人の他に『いた』、
 もう一人のエトランジェ……そして」
 次の言葉を聞き、二人は、まるで鈍器で頭を打ちつけられたような気分になった。
「明人さんは、あなた達となにものにも代えられないの、親友同士、だったのです」
 ――親友――
 ずしりと、その言葉が二人の心にのしかかってきた。
「明人さんはこの世界を護るため……そして自分と来夢ちゃんとあなた達の生まれた
 世界を護るため、辛い選択を自ら選び、エターナルとなったのです」
 辛い、選択。
 それがどういうものなのか、わかったからこの気分になったのだろう。
 明人は、自ら進んでエターナルになった。
 それは、自分の率いていた、自分を慕ってくれていた隊員全員から忘れられると同時に、
 親友だという間柄の自分達にも、同時に忘れられる事だった。
 それは、本当に辛い選択だったと思う。
 そして、自分はなんて酷い事を明人に言ってしまったものだと美紗は悔やむ。

「なんで……あいつの名前、知ってるの? あたし達、まだ自己紹介してないけど……」

 最初に出会ったとき、そう言ってしまった。
 美紗は知らなかった。本当に明人の事を知らなかったから言った、何気ない言葉だった。
 だけど明人はどれほど胸を締め付けられる思いにかられたのだろうか。

「あ、それあたしも。ねぇねぇ、その軍服のしたってさ。あたし達の学校の制服じゃない?
 もしかしたら――って、んなわけないよね。だって、学校に明人みたいな人がいたら、
 絶対に友達になってると思うから」

 そうとも言っていた。
 親友から言われれば、最も傷つく事だっただろう。
 あの時、少し明人が寂しい顔をして、思いつめた表情を作ったのは、
 そのためだったのかと今更気付く。

 思いつめた表情で、美紗と空也は俯き、黙ってしまった。
 真美は、二人がこういった反応を取ると見越して、今の事を話した。
 そしてここまできつく言えば、もう、二人とも思い出したがらないだろう。
 明人とは何も関係が無かった。そう思う事によってこの罪悪感を忘れようとするだろう。
 そう踏んでいた。
「まあ、エターナルになれば同じ存在となった人のことも思い出せますが、それは」
 だから、そんなことも思わず口走ってた。
 だがしかし――
「ねえ」
「なあ」
 二人は、
「あたし達が」
「オレ達が」
 声をそろえ、
「そのエターナルになる方法は無いの?」
「そのエターナルになる方法は無いのか?」
 そう言った。
 しばし、沈黙と静寂がこの場を支配する。
「……え?」
 少々まの抜けた返事を、真美はしてしまった。
 あまりに意外過ぎる二人の反応に。
 二人とも、エターナルになりたいと言ってきたのだ。
「エターナルになれば、記憶って戻るみたいじゃない? 今の言い回しさ」
「だったら、オレ達がエターナルとやらになって、明人の事を思い出してやるのが、
 親友だったオレ達ができる唯一の償いじゃないのか?」
 真美は二人の目を見る。
 マジだった。
 二人とも真剣そのものの瞳で、真美を見つめていた。
「そんでもって、このことを黙って溜め込んでた明人に一発、理由つけて頭を
 引っ叩かなきゃいけないんだから!」
「……方法は」
 だが真美はキリっと表情を戻し、
「方法はありません。今、私達が所有している上位神剣十三本のうち、主が決定した
 五本を除く残り八本は主を求めていません。上位神剣は、その神剣に選ばれる
 素質が無ければ持つ事は出来ないのです。あなた達二人に、その素質は……ありません」
 怒ったように言放った。
 しかし今晩の二人は妙にしつこい。
「そんなの、なんか裏技とかないの? とくにその主とやらを求めてない神剣とかさ」
「――ッ! そ、そんなものは……」
「……真美さんよぉ、美紗の言葉を聞いて明らかに表情変わったぜ、今」
「ッ! そんな事ありません!」
「そうやってムキになる所が怪しいわね……本当に、無いの?」
「……オレ達は、遊び半分で言ってるんじゃねえ。真剣なんだよ、今回ばかりは」
 と、焦る真美を尻目に二人は真剣な表情で真美を見つめた。
 ここまで取り乱しておいて、もう、言い訳もできないだろう。
「……一応、あなた方の立ち場を考えて忠告してあげたんですよ……まったく」
 真美が、折れた。
「……ええ、美紗さんの言った通り、今主を特に求めず、どちらの陣営にも属していない
 神剣が、二本あります。永遠神剣第三位、『依存』。そして、永遠神剣第三位、『応報』。
 ですが彼らは、器を失い、精神体となって時の狭間を漂っている存在……」
「なんでそんな事になってるの?」
「……二人とも、極度の面倒くさがりやなのです……器が破壊され、精神体だけとなった
 彼らはもう面倒くさいといって時の狭間から出てこようとしないのですよ……」
「そりゃまた、なんとも人間臭い神剣だな……」
「上位神剣はみな、確かな意思を持っているんです。……その二本を説得し、見事に
 成功すれば、あなた達はエターナルになることができます。しかし……これだけは、
 覚えておいてください」
 一呼吸置いて、真美は先程よりも冷徹に、
「あなた方も明人さんと同じく……親しい間柄の人達からも忘れられると言う事を」
 言い放った。

 翌日。

「きゃあああ! もう、花丸! 花丸百点満点! うわっ、マジで? マジで!?」
 まるで大陸全土に響き渡りそうな嬉しい絶叫が、放たれた。
 それは、元サーギオス領内に定期巡回に向かっていたフェイトが明人を帰って来た瞬間
 目撃しての事だった。
 頬に手を当て、目は星を出さんばかりに輝かし、顔を真っ赤に染め、
 今まで見た中で一番嬉しそうな顔をフェイトは明人に向けていた。
 もちろん、明人はこの異常なテンションに押されて何も言う事が出来ない。
 出会ったのがとりあえず明人だけなのは、真美はアリアとカグヤに頼まれて
 和菓子をせっせとこさえていて、アセリアはセリアとナナルゥに連れられお茶へ。
 エスペリアは、イオとネリーとシアーとハリオンとヘリオンと一緒に料理とお菓子の
 新作作り。(真美に対抗して)
 ウルカはヒミカ、セイグリッド、クォーリンの訓練の相手をしている。
 オルファはいない間ハクゥテの世話をしてくれていたセリスと一緒にひなたぼっこ中。
 故に、明人一人なのだ。
「ちょっとちょっとマジでこの人がウチに加勢しに来てくれたエターナルなの!?
 超ラッキーッ! もう最高! ねえねえ、お姉さんとちょっと楽しいことしな――」
「はい大隊長そこまででお願いします。アキトさん、大隊長の妙なオーラで
 引きまくってますよ?」
 と、それに歯止めをかけるのはやはりというかアイラなのは必然。
 もうフェイトを止めれるのはアイラしかいないといっていいほどのものだろう。
「相変わらず、だな……」
 そんな二人のやり取りを見て、明人は思わず呟く。
「? なにかいいましたか? アキトさん」
「へ? あっ、いや……なんでもない」
 その呟きを微妙にクリスに拾われ、明人は焦る。
 ちなみにクリスも、ラキオスの隊員に加わっていた。
「まずは自己紹介からしなきゃだめでしょうが大隊長はまったく……アキトさん、
 私はラキオス隊サーギオス巡回部隊副隊長補佐を務めています『氷河』のアイラです」
「そうですよフェイト。いきなり迫ったりしたらダメじゃない。私は、『蒼天』のクリス。
 あっ、こんな髪の色をしていますが、一応ブラックスピリットです。
 私はラキオス隊サーギオス巡回部隊副隊長を務めさせてもらっています」
「別にいいじゃんまったく二人とも頭硬いんだから……あたしは『樹林』のフェイト。
 でもまあ、今のはちょっと自分でも舞い上がりすぎたと思うわ。ちょっと反省……
 で、あたしはこの二人と他の巡回部隊を纏めてる、大隊長を務めさせてもらってるわ。
 よろしくね、我が部隊の隊長さん」
 フェイトは相変わらず騒がしくもどこか芯のとおった雰囲気だった。
 アイラも変わらず、何だかんだでフェイトのことを信頼し、ついていってるようだった。
 そしてクリスは……あの時、サーギオス城内で初めて面と向かった時に感じられた
 寂しさは欠片も見えず、非常にいい表情をしていた。
「あっ、ところでアキトさん」
「ん? なんだ、クリス」
 なにかを思い出したかのように、クリスが明人に話しかける。
「あの……アキトさんと一緒に戦列に加わったエターナルの中に……ウルカ、という人は
 今、どこにいるかわかりますか?」
「ウルカ? ウルカなら……今、訓練場にいると思う」
「そうですか。ありがとうございます……」
「でも、なんでいきなり?」
「……なんででしょうね。よく、わかりません……ですが、言いたことがあるんです。
 変に思われるかもしれませんが……ウルカさんに、おかえり、って」
「確かにおかしいわね、それ。だって帰ってきたのはあたし達だもん」
「大隊長、下手に首突っ込んじゃいけませんって。これはクリスさんの問題なのですから」
 明人は、綻んでしまいそうになる表情を必死に押さえ、自己紹介を終えた。

「お初にお目に掛かります……申し出が遅れて申しわけありませんでした。私は、
 もともとイースペリアに属するスピリットでしたので、この戦禍の中、
 故郷であるイースペリアに――」
「もう! パーミア、そんなに堅苦しい自己紹介なんかしてちゃダメじゃない!」
「へ――ッ! で、ですが加勢に来てくれましたエターナル殿に対して無礼があっては」
「そんなこと、あんまり気にしませんよね? アキトクン?」
「ちょ――ッ! アズマリア! いきなりクン付けはどう、かと思いますけど……」
 ようやく、明人が苦笑している事にパーミアは気付いた。
 本日はどうやら、ちょうど他の国に出まわっていたラキオスの主力スピリットたちが
 いっせいに帰ってくるときだったらしい。
「……失礼しました。私、元イースペリア所属、今はラキオスの隊員となりました、
 『鉄血』のパーミアです。あの……いきなりはしたない所を見せてしまい、
 申しわけありませんでした……」
 と、少々落ちこみながらパーミアは言った。
「そしてこちらが、イースペリアの女王であります……」
「アズマリア。そう呼んでくれて構わないわよっていうかそう呼んで欲しいな、
 アキトクン」
 こちらも久しぶりに見た、微笑ましい光景だった。
 相変わらず生真面目な性格のパーミアを、アズマリアがたしなめる。
 しかし二人とも、以前よりも楽しそうに見えた。
 はたから見ただけでも、随分と関係が深くなっているような気がする。
 パーミアも、自然に『アズマリア』と呼び捨てにするくらいに。
「ああ、よろしく。パーミア、アズマリア」
 明人は笑顔のまま、挨拶をした。
 と、アズマリアがキョトンとした顔で明人を見ている。
「あの……俺の顔になにかついてるか?」
 そういやさっき、真美におはぎの試食をさせられた。
 なかなか美味しく、二つほど余分にいただいてきて逃げたから、あんことかが頬に
 ついているのかもしれない。だったら少々恥ずかしい。
「ううん。なんかさ、レスティーナがちょっと前に言ってた人に似てるな、と思って」
「レスティーナ、女王が?」
「うん。ちょっと前、お互いに時間ができたから久しぶりに一緒にお茶した時なんだけど、
 その時にね……好きな人がいないか、って話題になったの。もちろん、わたしは
 パーミアって答えたんだけど」
 そう言ってパーミアに抱きつくアズマリア。
 パーミアはスピリットにしては身長が高い方なので、アズマリアが甘える妹のように
 見えてしまうのが怖い。これでもレスティーナより十も年上なのだから。
 当のパーミアは「わわわ! ちょ、あの! アズマリア!?」と慌てふためいている。
 しかしまんざらでもないように見えるのは気のせいだろうか。
 アズマリアは、その体制のまま続けた。
「その時、レスティーナが言ってたんだ。約束、した人がいるんだって。
 ずっとずっと、自分がよく覚えてないぐらい昔に、ずっと覚えてるって約束した、
 その人が初恋の人だって……そしてその人の容姿がさ、レスティーナの説明からすると、
 ほんとにアキトクンそっくりなのよこれが。……でさ、わたしもなんだけど……
 どこかであったこと、ないかな?」
 明人はもう慣れた驚きで、そしてもう慣れてしまった再び会う人達への言い訳を、した。

 今日の日差しはとても温かい。
 芝生の上で寝転がり、大好きなひなたぼっこをしているセリスはこの上なく幸せだった。
 隣には、新規参戦エターナルながら、自分と同じような背格好をした、オルファという
 少女が気持ちよさそうにハクゥテと眠っている。
 ハクゥテは基本的に誰にでもじゃれつくが、なぜかこのオルファには他の人達よりも
 よりなついているように見えた。
 草の香りが気持ちいい。
 しかし、不思議と眠気が来なかった。
 何故だろうと思うが、答えなど出てくるはずが無かった。
 そうだ。今はちょっと戦況も落ちついてきているから、美紗も誘って今度、
 今のようにひなたぼっこをしよう。セリスはそう思った。
 その時、巫女服の女性に、セリスは呼ばれた。

 これは、真美がけしかけたのだろう。いや、絶対そうだと、美紗は確信していた。
 つい先ほどまで、美紗は自室で悩んでいた。
 明人も、エターナルになる時、こうして悩んでいたのだろうか。
 真美の言葉が甦ってくる。
 明人と同じ思いをする、その言葉が。
 その意味が、今ならば一番よくわかる。
 突然、なんの前触れも無く扉がノックされ、入ってきたのは、酷く悲しそうな
 表情をした、セリスだった。
 最初は「どうしたのよ?」と笑顔で訊いた。
 しかしその落ちこみのわけは、すぐにわかった。いや、セリスが今、
 落ちこむ理由なんてたった一つしか考えられなかった。
 真美から訊いたという。
 美紗が、エターナルになるかもしれないと。
 そして、その意味を……
「……本当に」
 今にも泣き出しそうな声だった。
 だいぶ慣れてきたとはいえ、まだまだセリスの精神はまだまだ幼い。
 美紗を精神的支えにしている部分も、大きいだろう。
 しかもセリス自身、美紗の事を姉として一番慕っていた。
「本当に、エターナルになっちゃうんですか?」
「……まだ、わかんないわよ」
 だから、そう答えるしかなかった。
「なら」
 しかし。
 真美はけしかける相手を間違えたらしい。
「なら、あたしが背中を押してあげますから……行ってくだ、さい」
 セリスは、ぽろぽろと涙をこぼしながら、言った。
「え……」
「ミサお姉ちゃんの事を忘れるのは、寂しいです。凄く寂しいです……でも、
 でもあたし、ミサお姉ちゃんにいつまでも甘えてるわけにはいかないんです……
 嫌いになったとか、そんなんじゃなくて……あた、し……あたし……ッ!」
 嗚咽混じりに、セリスは続けた。
 もはやまともに話す事が出来ないほど、セリスは泣いていた。悲しかった。寂しかった。
 それでも、セリスは続けた。
「ミサお姉ちゃんには、したい事、自分の、したい事を……して欲しいんです……ッ!
 他の……ッ! 他の、お姉ちゃん達の分まで……ッ! だから、あたしは……
 足枷なんかに、なりたくないんです……ミサ、お姉ちゃんの……」
「……ありがとう、セリス」
 行こう、とも思ってたのにどうしても踏み出せなかった一歩を、まさかこうして
 押してもらえるとは思わなかった。
 美紗はセリスを優しく抱き寄せた。
 その小さい体は、振るえていた。
 そしていつもよりも、大きく感じられた。
 あのお墓参りの時以来、自分の事を本当の姉のように慕ってくれたセリスは、
 美紗にとってもかけがえの無い妹のような存在になっていた。
 だから、自分がもしいなくなったらセリスはどうなる? と考えると、
 美紗は決心がつかなかった。
 もしもここで引きとめられていたら、多分、自分の意思は折れていただろう。
 しかしセリスは、自分の背中を押してくれた。
 今、美紗以上に寂しい思いをしているのは、セリスだというのに……
 だから美紗は、その気持ちを裏切りたくは無かった。
「エターナルになって帰ってきたら、真っ先に抱きしめてあげるからね……
 その時まで、ちょこっとだけ……我慢しててね、セリス」
 そして抱きしめる力を、美紗は強めた。
「その、ときには……絶対に……絶対に、美紗おねえ、ちゃん……ひなたぼっこ……
 一緒にしてくださいです……ッ!」
 セリスも、その温もりを離したくないと言わんばかりに美紗の背中に手を回し、
 ライトプロテクターのついていない美紗の胸に顔を埋めた。

 これはどうやら真美がけしかけてきたらしい。いや、絶対そうだと空也は確信していた。
 自室でどこまでも広がる蒼い空を見て、自分はちっぽけな存在だが、まだ、やれるべき
 事もあるんだよなと思っていた矢先に、パーミアにアズマリアが呼んでいるといわれ、
 連れていかれた。
 その先は、アズマリアがラキオスに来た時に使っている私室だった。
 空也はそういやおかえり、とパーミアに挨拶をし、アズマリアの部屋へと入った。
 で、そこにいたのは満面の笑顔をしているアズマリアだった。
 ちょっと、空也は背筋に悪寒を覚えた。なんとなく、身の危険を感じたからだ。
「そんな所で突っ立てないで、ほらほら、こっちに来なさいなクウヤクン」
「へ? あっ、ああ」
 そう促され、用意されていた椅子に腰掛ける空也。
 そして机を挟み正面に座るアズマリア。
「で、オレを呼び出したのはどういう理由で?」
 そう訊くと、
「クウヤクンのウソツキ」
 そう帰って来た。
「は?」
「クウヤクン、わたしの国の再建手伝うって言ったはずなのにさ、なんかエターナルに
 なっちゃうとか言ってるらしいじゃない?」
「……真美さんか?」
「うん。帰ってきてアキトクンにとりあえず挨拶したあとに言われたの。……クウヤクン」
 緩んでいた表情が、引き締まる。
 これがアズマリアの、女王としての表情だ。
「初めてまともに話しした時に言ってたこと、あれ、わたし結構本気なのよ?
 クウヤクンさえ良ければ、わたしはクウヤクンを夫として迎えたいと思ってる。
 実直で、どこまでも真面目で、優しくて、面倒見がよくて、頭が切れる……
 わたしの旦那さんとしては、申し分無いの。だから――」
「悪ぃな、アズマリア『女王』」
 空也は、あえて『女王』の部分を強調して言った。
「オレは、その気持ちには答えれねえ。オレには、ずっと護ってやらなきゃいけない、
 強がってはいるけど実際はそこらへんに咲いてる花よりもか弱い奴がいるんでな。
 ここで下手に濁すと、あとあと面倒だからハッキリといっておきたい。
 オレは、エターナルになるよ」
「……もし、ミサさんがエターナルになら無いと言ったら、どうするんですか?」
「んなこたぁないだろう。真美さんがオレにあんたをけしかけてきたんだから、当然、
 美紗にゃセリスをけしかけただろうさ。だけど、セリスが美紗を止めると思うか?
 オレ的には、セリスは美紗の背中を押してやると思うんだがね」
「……そう、ですか……」
 すっと立ち上がって、アズマリアは空也に近づいてくる。
「本当にあなたは、頭が切れて……優しくて……それでいて厳しさを持った人ですね。
 やっぱり、クウヤクンは、わたしの夫にしたかったなぁ」
 そして――
 不意打ちにもほどがある速度で、空也の唇を奪った。
「だから、本気だって言ったじゃない? 年上を舐めたらいけませんよ?」
 離すと、そうアズマリアは言った。
 空也はあまりの事態に珍しく目を白黒させている。
 もし空也の頭が電子回路で出来ていたら間違い無くショートを起こしている状態だろう。
 うろたえる隙も無く、アズマリアは空也に向かって言った。
「……頑張って、エターナルになって帰ってきてね。そうしたら……これ以上の事、
 してあげなくも無いから……」
 頬を赤く染め、涙で頬を濡らしながら、それでも、笑顔で……

 明人には黙っておいての行動だった。
 ばれたら何を言われるかわかったものではなかったから。
 空也と美紗は第四スピリット館の廊下で鉢合わせた。
 もう日は傾き、半分ほど地平線に見を沈め、漆黒が顔を出してきた時間帯だった。
 お互いの顔を見て、頷く。
 二人とも、決意に満ちた表情だった。
「よっかったの? 空也は……」
「ああ。オレは、やっぱりお前の隣りがよくにあってると思ってね」
 そして外に出ると――
「お前ら……」
 空也が思わず漏らしていた。
 森へと向かう道には、アリア、カグヤ、ミリア、クォーリンの稲妻部隊の四人がいた。
「……止めは、しませんよ」
 ミリアが、今まで聞いた事の無いぐらい静かな声で言った。
「でもな、黙って行くのはちょっと人が悪くないかい? 隊長さんよぉ」
 カグヤも、それに続いた。
「クウヤ……アリア達、みんな、応援してるから……クウヤが……ちゃんとかえ、って
 くるって……」
 涙で濡れる瞳をごしごしとこすりながら、アリアは言いきった。
「そうです……ミサさんと一緒に帰ってくると……信じてます」
 平静を装っている風に見えても、クォーリンは今にも泣き出しそうだった。

「ミサさん、クウヤさんのこと、よろしくお願いしますね」
 感極まり、空也に飛びついていったアリアとクォーリンを見届け、ミリアは
 ゆっくりと美沙に話し掛ける。
「私じゃ、ダメでしたから。あの人の隣には、いつも、あなたがいて……いえ、
 あなたしかいなくて……私の付け入る隙なんてまったく、これっぽっちも
 無かったですから」
 美紗は、黙って頷いた。
 カグヤに目線を配る。
 カグヤも、同じような事が言いたかったらしい。
 美紗をジッと見つめていた。
 美紗は、気付いていた。いくら自分が鈍感でも、これぐらいは気付いていた。
 この二人が、本気で空也に惹かれていると言う事を。
 とくにミリアは隠そうともせず、あっけらかんとそれっぽい事をよく言っていた。
 だけど――空也は、振り向く事は無かった。
 空也には、美紗しか見えていなかったから――
 どんな時でも、美紗を最優先に考えていたから――
 ミリア達も気付いていた。
 空也は人柄もよく、優しいし、なによりも仲間を大切に思う優秀な人物だった。
 だから二人とも、惹かれたのだろう。
 だがそれ以上に、美紗への思いが強かった。
 一途にずっと思いつづけているその思いのほどは、凄まじく強い。
 だから、諦めるしかなかったのだろう。
「……でも、ちょっとでもいいから私達のこと、見て欲しかったわ……正直なお話し」
「……あんたは隊長さんが選んだ相手だ。あたしは、あんたの事信用してるぜ?」

「……よく、ここに来る気になれましたね」
 真美が少々呆れながら二人にそう言った。
「決心は、ついていますね」
 その質問に、二人は無言で頷いた。
「……わかりました。それで、参りましょう。時の狭間へ」

「なあ、真美と空也と美紗、見なかったか?」
 明人はリビングに集合しているメンバー――アセリア、オルファ、エスペリア、
 ウルカ――に向かってそう訊いた。
 先ほどから探しているのだが、姿が見えない。
 試しにセリスやマロリガン四人衆にも所在を訊いてみたが、誰も知らなかった。
「いえ、わたし達は見ていませんが……すみません、お力になれなくて……」
「あっ、気にしないでくれ、エスペリア。ちょっと気になっただけだから――ッ!」
 ピン、と張り詰めた感覚が走ってきた。
 この気配は、ラキオスから少し南に下ったちょうど元ダーツィ公大国とラキオスの
 境目らへんから感じられるものだった。
 スピリットの――いや、エターナルミニオンの気配だ。
 急に現れるなんてと思うが、相手はエターナルだ。
 これからもどんな手段をとってくるかわかったものじゃない。
 四人に目配せをする。
 全員、それには気付いているらしい。
 それぞれ神剣を握って、立ち上がる。
 そして、駆け出した。

 ちょっと形容しがたい空間だった。
 真美に連れられやってきたのは、時の迷宮に酷似した時の狭間という場所だった。
 目の前には、大きな扉のようなものがある。
 しかしその表面は滑らかで、ゲル状のものだった。
「この門にふれれば、あなた達の存在はもとから無かった事になります。ですから」
 と言いかけた時にはすでに二人ともふれていた。
「これでいいの?」
「……明人さんたちでも、もう少し躊躇しましたよ……」
 美紗が訊くと、今度は本気で呆れたように真美は答えた。
「これでオレ達は、エターナルにならなきゃあとにひけねえ、ってことだな」
「ええ、そうです。それでは、私が『依存』と『応報』に語りかけますので、
 お二人はその相手をしてください。それでは……ッ!」
 真美の手に握られた『時詠』が輝く。
 するとその輝きは『門』と呼ばれた場所をくぐり、中へと入る。
 そして――光が返ってくると、美紗と空也の意識に直接、声が響いた。

『誰だぁ? オレをいきなり呼びつける奴ぁよ』
 酷く気だるそうな声が、よくわからない空間と共に現れた。
 そしてどこと無く、隣のパートナーの声に似ていた。
 それがまたよく似合っており、含み笑いを美紗は我慢するはめとなる。
 周りとは、どうやら空間が遮断されているらしい。
 立っているはずの空也の姿が見えない。
(あんたを呼んだのはあたしじゃないけど、用があるのはあたしなの)
『あぁん? 誰だ、お前ぇは……感じた所、なんにも感じねえ奴だな。
 んでお前みたいなただの奴がオレに話しかけて来てんだよ』
 変わらない全ての出来事が面倒くさそうな言いぐさで話してくる……
 これは、『依存』と『応報』、どちらだろうか。
 いや、この際どちらでもよい。
 単刀直入に、話しを進めなければいけないような気がしてきた。
(あたしはね、あなたの力を借りたいの。エターナルになりたいの。だからお願い……
 あなたの力、あたしに貸してくれない?)
『……は? にいってんだよ……誰がそんな面倒な事、引き受けるかっての』
 少々間があったあと、声が答えた。
 それは否定の言葉だった。
『オレはな、もうホントに面倒になっちまったんだよ。誰が好き好んでこんな面倒な
 戦いに出るかっての。話しがこんだけなら、オレはまだ惰眠を貪り尽くしてないんで、
 とっとと帰らせてもらうわ』
 短いやり取りだった。
 声の気配が消えかかる。
 しかし。
 この短いやり取りでも、
(……ちょっとあんた……)
 美紗をブチキレさせるのには、十分過ぎるやり取りであった。
『あん? まだなん――』
(人がせっかく頭下げて頼んでやってるのになによその態度! 永遠神剣だからって
 そんなに偉いの!? もう少し話しを聞くってのが礼儀じゃないの!?
 ……ていうか、あんた、実は怖いんでしょ?)
 声を遮り、美紗がまくしたてる。
 最後は、やけに挑戦的な言いまわしで。
『……んだと?』
 それに声ものってきた。
(あーはいはい言わなくてもわかるわよぉ。あんた、また器が壊されるのが怖いんでしょ?
 臆病風に吹かれて、それで面倒くさいとか言い訳して、精神体だけ漂ってる
 ただのビビリなんでしょ? だから、もう戦いたくないとか我侭いっちゃってるんだ。
 へー、なるほどねぇ。それなら納得だわ)
『ちょっとまてよコラッ! 一人で話し進めてんじゃねえ! 誰がビビリだと!』
(あんた以外に誰がいんの? 敵を目の前にしても尻尾巻いて逃げ出しちゃう神剣さん)
『…………』
(…………)
 睨み合う、という感覚だろうか。
 美紗は声がする一点をジッと見つめる。
 声も、対峙して睨み合っているかのように声を発しない。
『……そんなに言うんなら、見せてやるよ』
 先に折れたのは、声のほうだった。
『確かに、お前の言う事にも一理はある。オレは、ビビってたのかもな……ホントに。
 だがな! こんな汚名を張られたままお前は帰さねえぞ! 契約して、オレの力、
 とくと拝ませてやる』
(ホントに!?)
『あのな、契約したがってる本人が驚いてるんじゃねえよ。ほれ、さっさと器を差し出せ』
(……器って、なにさしだしゃいいの?)
『……なんも知らずにここに来たのか。あのな、精神体だけになったオレは器が無いんだ。
 だからその代わりになる器……今、てめえが持ってる神剣差し出せって言ってるんだよ』
(え……そ、それじゃあ、こいつは……『空虚』は、どうなっちゃうの!?)
『そんなもん、意識はオレが完全にのっとるから、消えるという表現が一番正しいな』

(そんな……)
 『空虚』と別れる――
 そりゃ、最初は自分の体を支配して、マナをすするために自分の心を壊そうとしてきた、
 聞き分けのない、我侭で、口が悪くて、素直じゃなくて……どこか自分と似ていた存在。
 最初の出会いこそ悪かったが、誰かに助けてもらってから――それは空也、
 だっただろうか――お互い良きパートナーとして認めていた気がする。
 ……あくまで、気がするだけだからね!(by美紗)
『なに戸惑ってるのよあなた……まさか、ここまで来てエターナルになりたくないとか
 言い出すんじゃないでしょうね?』
(……『空虚』……)
 冷たい、しかしどこか温かい声。
 やはり、似たもの同士なのだろうか。最後の最後まで相性が悪いように思えてきた。
『……甘ったれるのもいい加減にしなさいよ……ッ! 美紗、あなたはあたしの事が嫌い。
 だから簡単に差し出せばいい。そしてあなたは新しい力で、自分の中にある『空虚』を
 満たせば言いの……ッ! もう、あたしにはなにも出来ないんだから、
 さっさとしちゃって』
(……じゃあさ。あんたはあたしのこと嫌いじゃないんだ)
『ッ! そ、そんなことは……』
(……ねえ。最後に、言っておきたい事があるの)
『……なによ』
(あんたの言う通り、あたしはあんたの事が嫌い。だって、ずっと酷いことしてきたから。
 でもね……今は、ちょっと違う。嫌いだけど、好き、だった。なんだかんだいってさ、
 力貸してくれたし、口喧嘩だって、まるで友達が一人増えてみたいで楽しかった。
 だから、言わせて……これだけは、言わせて)


(今まで、ありがとう……『空虚』、あなたはあたしの上から数えたほうが早く来る
 存在だったよ)


『ふん……今更、なに言ってるのよ……そんな事言ってると、別れが、辛くなるだけ……
 もう、消えるわ……これ以上あなたと話す事なんて、なにも、ないんだから……』


『誰よぉ? あたし、まだ寝たりないんだけど……ふあ〜あ……ふ……』
 声がする。
 空間が遮断されたらしく、隣に立っているはずの美紗の姿がまったく見えない。
 いや、今はそれどころじゃない。
 今の声――どこと無く隣にいるパートナーの声に似ていたが、それ以外が
 まったく似てない。
 そして今にも眠ってしまいそうな声で、続ける。
『契約、したい人ぉ? 珍しいわねぇ……って、素質ほぼゼロじゃん……なんで、
 そんな子があたしに話しかけてくるのぉ?」
 ……こいつぁ、ある意味ハリオンよりも手ごわいかもな。(by空也)
 間延びした、どこにも捉え所のない口調。
 それでいて常に眠そう。
 あまりの態度に少々空也は声を出すのを忘れるほど驚く。
『……お話しがないならあたし帰るわよぉ……依存と寝くらべっこしよっかなぁ……』
(ッ! ちょ、ちょっと待ってくれ!)
『なに〜?』
(ああ、いや、その……ええい、単刀直入に言おうか。オレは、エターナルになりたい。
 そのために、あんたの力を借りたいんだ。どうか、オレに力を貸してくれないか?)
 消えそうな声の気配に慌てて口を挟む空也。
 こうでもしないとマジで帰って寝てしまいそうだったから。
『……でも、あなたがエターナルになったらぁ、戦わなくちゃいけないでしょお?』
(……まあ、そうなるな……)
『あたし戦いってあんまり好きじゃないのよねぇ。依存と一緒にいるほうが楽しいし、
 楽だし、嬉しくなってくるし、眠れるし、わくわくしてくるし、ボーっとしてられるし』
(……もしかして、さ)
 空也は今の言葉を聞いてとりあえず自分が話している相手が『応報』の方だと理解する。
 そしてもう一つわかった事としては、
(あんた、その『依存』が契約するって言って、オレのパートナーと契約したらよ)
『もちろんあなたと契約して、依存について行くわよぉ』
 ……多分、『応報』は『依存』に惚れている。(再びby空也)
 じゃなかったらこんな事言わないだろう。
 こうなったら、あとは時間を稼いで美紗の出方を待つしかないだろう。
『……あれ? 依存……あなた、へえ、ホントに……ふむ……ねえねえ、お名前は?』
(へ? オレは、空也って呼んでくれればいいけど)
『それじゃあ空也さん。契約しましょう』
(……へ?)
 呆気に取られる空也の反応は正しい。
 先ほどまで渋っていたやつがいきなり態度を百八十度回転させてきたのだから。
『依存はどうやら、あなたのパートナーという人について行く決心をしたらしいです。
 ですから、あたしもついて行きますよ。ですから、あなたの神剣を器として差し出して
 くださいな』

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