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第二十三話 甦る思い出――それは失われし、思い

「……全然、違う。『求め』なんかとは、比べ物にならない……」
 地に足がつく感触。それを確かめ、明人は、そう呟いた。
『当然だ。明人よ、我を第四位などという下等な神剣と比べるな。我は第二位……
 あんな本能のみで動くような剣などと一緒にしてもらっては困る』
 その呟きに、『聖賢』が不満げな声を上げる。
(……ったく。こいつの方が、あいつよりも口うるさそうだな)
『むっ……明人よ、我等の心は繋がっておるのだぞ? 聞こえぬとでも思ったか』
「はいはい、悪かった。悪かったよ。でも、他の上位神剣も、お前みたいによく話すのか?」
『そうだな。上位まで来れば、己が精神を持つことが出きる』
「そうなのか……ん? こいつは……」
 研ぎ澄まされた感覚に、明人は視線を走らせる。
 そこにいたのは、一匹の龍だった。
 これまで感じた事もないくらい、強力な力を秘めた、龍だった。
『試し斬り、とでも言っておこうか。明人、お前に我を使いこなす事ができるかどうか、
 簡単なテストだ』
「……へっ、上等!」
 いつもの要領で、力を開放させる明人。
 みなぎる力の猛りは、あの世界で剣を振るっていた時よりも数十倍――。
 足元に魔方陣が描かれる。
 それは煌き、明人の周りを包み込む。
 人間だったら、体のキャパシティを多いに超えるほどの力だが、
 やはりエターナルになった事により、その制限など無に等しい。
 龍が、明人が準備を終えたのを確認するかのごとく、空中を走る。
 鋭い爪の一撃。
 明人は、その数分の一ほどの細さの腕で軽々と受け止める。
「軽い……やっぱり、エターナルの力は凄まじいな」
『ほう……やるではないか。明人よ……この一瞬で、よく我の力を引き出せたな』
「お前みたいな口うるさい奴の相手は」
 『聖賢』を振りぬき、押し返す明人。
 同時に、龍の腕が飛んだ。
「慣れているからな!」
 体制を崩した龍目掛けて、光の衣を纏いながらの一撃。
「うぉおおおおおおおッ!」
 その一撃は、床すら破壊しないかと心配するような威力だった。
 振りぬかれた刃から放たれる衝撃は、龍をまるで砂漠に投げ込まれた氷のように
 蒸発させ、このどれほどの強度を持っているかわからない床を――最悪でも、
 レッドスピリットの神剣魔法に耐えれて、龍が乗っても壊れないほどの硬度の――
 軋ませ、揺るがした。
「……こんなもんか?」
 『聖賢』に語りかける明人。
 あれほどの力を使ったというのに、肩で息をする事も無く、まったく疲れていない。
『十分だ。さすがは、我が認めただけの事は――ん? 明人よ……お主、記憶が、
 一部押さえつけられているな』
「へ?」
『エターナルになれば、その人物の記憶は関わった全ての者達から消えるというのは、
 知っているであろう?』
「ああ、真美に聞いたからな」
『エターナルになれば、その法則からは、開放される。記憶を、解こう』
 短い『聖賢』の言葉のすぐあとに、明人の脳裏になにかがよぎる。
 それは、今もポケットの中に閉まってある、黄色いリボンを持ったときに感じた
 感覚と似ているものがあった。
 いや、記憶のピースがジグソーパズルのように一つ一つはまっていくと、
 その黄色いリボンの持ち主が、わかってくる。
 真っ赤な髪。それを、このリボンで左右に結っていた。
 小柄で、幼い顔立ち。あのスピリット館では、みんなの妹みたいな存在だった。
 明るく、いつも絶やさぬ笑顔を、自分に向けてくれた、太陽のような存在――
 なぜ、思い出せなかったのか。自分が、悔しくなる。
 あの時、目の前にいたのに。
 なんで、思い出せなかったのだ――
「オルファ……ッ!」

 暗い空間だったが、恐怖心は感じられない。
(これで……最後なのね。アセリア……)
 その空間に、自分の名を呼んでくる声が発生した。
 いつも一緒にいた、最高のパートナーの声だ。
 新たに『永遠』を受け入れ、エターナルになるのには、『存在』と別れなければ
 ならなかった。
 今は、『永遠』が気を利かせてくれ、最後の別れの場を設けてくれたのだ。
 ――ありがとう、『存在』……今も、そして、今までも……
 声を放ったかどうかはわからないが、自分の思いが、聞こえてくる。
(……これくらいでいいわ。せっかく、時間をくれたけど……)
 『存在』の気配が、薄くなる。
(こういう時に限って、言葉、出てこないんですもの)
 ――でも、これだけは言わせて……
 消える『存在』を引き止めるように、アセリアは言った。
 ――『存在』……本当に、ありがとう……
(……わたしからも、お礼を言わせて。あなたと過ごした時間、とても楽しかった)
 今度こそ、消える。
 だがその間際に、
(頑張って……あなたの、思い……貫きとお、して……わたしの……わたしの最高の――)

「あ……う……?」
 現実に引き戻されたアセリアは、頬に違和感を感じて触ってみる。
 薄っすらと、濡れていた。
 たどってみると、それは、自分の目から出たものだとわかる。
 涙だった。
『今まで、ずっと一緒に歩み、そして生きてきた者との別れ……悲しくないはずが、
 ないわ』
 自分の目の前に浮かぶ、『存在』よりも一回り大きな神剣――『永遠』が話しかけてくる。
 アセリアはそれを聞くと、ごしごしと涙のあとを拭い、『永遠』に手をかける。
 たちまちに、力が、みなぎってきた。
 体の構成も、変わっていくのがわかるような気にもなった。
 これが、スピリットからエターナルになるといった感覚だろう。
「ん……自己紹介……ちゃんとしてなかった。あたしは、アセリア。よろしくな、『永遠』」
 アセリアの呼びかけに、新しいパートナーは、優しい声で答えた。
『こちらこそ。……ん? アセリア、あなた前にもエターナルと関わった事、あるみたい』
「え……」
『エターナルに関してはもう、わかっているでしょう? 記憶の封印、解くわね』

(さよならね……エスペリア)
 ――『献身』……わたしは、わたしは絶対に、あなたの事を忘れません……ッ!
 お互いに、涙声だった。と思う。
 これが、最後の会話となるだろう。
 いつも一緒にいたが、話す事はできず、お互いの存在を感じあうことしかできなかった。
 そして話せるようになった。ようやく、言葉でお互いの存在を確かめ合う事ができた。
 しかし、その時間は他のスピリット達よりも、酷く短い。
 寂しさも、その分だけ、増していた。
 ――いつも一緒にいてくれて……言葉が無くても励ましてくれた、あなたの、事を……
(……ごめんなさい。こう言う時は、言葉が出なくなっちゃって……言いたい事、まだ、
 あるのに……話したいこと、まだ、沢山あったのに……これだけ、になちゃった)
 そして『献身』の気配が消え始める。
(頑張ってね。話せた時は短かったけど、わたしは、誰よりも深く、あなたと、
 交わっていました……さようなら、エスペリア……)

 抱きしめる腕には、何も無かった。
 最後に抱いていたはずの『献身』は、すでに、いない。
 代わりに目の前にあるのは、ほぼ、同じ形をした、『聖緑』。
『……ずっと一緒にいたのに、こうも簡単に別れてしまう……辛いでしょう』
 優しい、どこまでも温かな声が、エスペリアに投げかけられる。
 しかしエスペリアは、笑顔で、答えた。
「いえ……最後に、『献身』は頑張れ、と言っていました。わたしは、それに答えなければ、
 いけません」
 スッと、音も無く『聖緑』を手に取るエスペリア。
「新しく、同じ時を歩む人と一緒に、ね」
『……そうですか。わかり――あら? エスペリア……あなた、記憶が封印されている』
「え――」
『今、解きますからね……』

(私は上位神剣の器となります。ですから、別れの言葉は言いません。また、あとで……
 主ならば、きっと全てを上手くする事ができると……信じていますから)

 短く、一方的な別れだったが、ウルカにとってはむしろ心地よかった。
 微笑む表情から流れる、温かな涙がなによりもそれを物語っていた。
 この温かな涙は、決して、分かれの寂しさからくるものではない、という事を。
 これは『冥加』に対しての、感謝の涙だという事を。
『これで、主は全ての拘束から開放された。この器となった神剣の思い……伝えよう』
「……はい。よろしく、お願いします」
 形は、ほとんど変わっていない。いや、むしろ、そのままだった。
 『深遠』が、ゆっくりと語り出す。
『主は、ある目的のために作られた妖精だった。ある者を、護るために。そして主は、
 龍の力を与えられその者の護衛に当たる直前で、ロウ・エターナルの手により、
 その者から最も遠い国……サーギオスへと送られ、『拘束』というなの束縛を
 受けていたらしい。今、その護るべき者の姿を明かそう。主も、よく知っているはず』
「え……――ッ!」

 三人の心に甦る、思い出。
 そこにいる姿は、まるで、遠い昔のような……ほんの少し、前のような……
 もとはレッドスピリット。
 今は、永遠神剣第二位『再生』が主。
 いつも笑顔で、明るく、太陽のような存在――それが彼女。

 ――オルファリル――

「あっ、アキトさ――」
 明人はその姿を確認するやいなや、思わず抱きしめていた。
 小さい存在。だが、自分の中ではとても大きな存在を。
 そして明人は、リジェネの耳元で囁くように、言った。
「ごめんな……ずっと、俺の事待っててくれたんだよな……オルファ」
「――ッ!」
 それを聞くとリジェネの――いや、エターナルとなった、『再生の炎』オルファリルの
 瞳に薄っすらと浮かんでくる涙。
「パパ……パパァッ!」
 抱きしめ返すオルファ。
 明人の存在を体一杯に感じ、歓喜の涙を流しながら。
「ずっとね! ずっと、待ってたんだよ! ずっと寂しくて……パパも、みんなもいない
 ところで、ずっと」
「……今度こそ、もう、離れないよ……それにみんなも、一緒だ」
「え――」
 後ろを見てみるといい、と明人に促され、振り返るオルファ。
 そこには同じ存在となった――
「ん……久しぶり、オルファ……」
 確かな微笑を浮かべる、『永遠』のアセリア――
「オルファ……これからはずっと、一緒だからね……」
 嬉し涙に溢れる瞳の、『聖緑』のエスペリア――
「これからは……ともに、アキト殿の側で、ずっと、ずっと共に」
 柔らかい、そして力強い笑顔をしている、『深遠の翼』ウルカ――
 見なれた三人が、そこにいた。
「行って、みんなにオルファの元気、またわけてやってくれないか?」
 そしてオルファに向かって、オルファが我を捨ててまで護ろうとした、
 大切な、大切な人――『聖賢者』明人が、優しく背中を押してやる。
 オルファは、自分でも、今までつくった中で一番良い笑顔を浮かべ、
「うん!」
 ダッと駆けだし、愛しい姉達の待つ場所まで、文字どおり飛んでいった。

「これからは、オルファもずっと一緒だもん! みんなと、そしてパパと、ずっと一緒!」

『やれやれ……まさか、また同じ時期だとはな。我等はどういう因果関係なのだ?』
『そんな深い関係はないと思う。相変わらず、頭が硬いんだな。聖賢は』
『なんだと? 深遠、貴様には言われたくないぞ。おぬしも、相当なものではないか』
『ま、まぁお二人とも、なにもこの状況で……』
『無駄よ、聖緑。あの二人を――いや、聖賢を止めれるのは』
『いい加減になさい聖賢。あなたはいっつもひねくれた考えしかできないのですから』
『うっ……再生、お前には関係ないだろう』
 ……なんとも、うるさい。
 それが明人の実直な感想だった。
 とりあえずアセリアの胸元に顔を埋め、その笑顔の後頭部をなでてもらっている
 オルファが羨ましいじゃなくて微笑ましい光景が目の前に広がっているのだが……
 こうも自我の強い神剣が集まると――しかも全員顔見知りっぽいので始末におえない。
 まず文句を垂れた『聖賢』に突っかかったのは、ウルカの神剣『深遠』。
 その間に割って入ろうとしたのがエスペリアの神剣『聖緑』で、たしなめたのは
 アセリアの『永遠』。
 そして最後に『聖賢』に文句を言ったのが、オルファの『再生』という訳になっていた。
「はいはいはい。再会の喜びは、悪いですがみなさんその辺にしておいてください」
 そこに、巫女の登場で何とかこの場は収まった。
「今は、一刻をも争う時なのです。早くあの世界に戻り、対策をたてねばなりません」
 真美の言葉を聞いて、明人、アセリア、エスペリア、オルファ、ウルカの表情が
 引き締まる。
 そうだ。
 ここからが、始まりなのだ、という決意に満ちた表情だ。

「だ、そうだ。『聖賢』、よろしく頼むぜ」
『言われずともだ。……しかし、どうしてこうも……我は、再生が苦手なのだ……』
「ふーん。でも、それだけ力は認めてるんだろ?」
『なっ……それは、認めるが……ええい明人よ、行くぞ』
 少し照れたような声を残し、明人は『聖賢』から放たれる光に包まれ、
 そしてあの世界へと向かった。

「ん……『永遠』、あたしを、つれてって……護るべき、世界に」
『わかったわ。あなたが不変に思いつづける世界を救うために……私を存分に使って頂戴』
「ん。ありがとう、『永遠』」
 続けて、アセリアも同様に光に包まれ、この場から飛んでいく。

「さあ、わたし達も行きましょう」
『はい。あなたの慈愛の心に導かれるまま……私は、ずっとついて行きますよ』
「……みんなを護るための戦い……絶対に、負けられません……ッ!」
 短いやり取りを終え、エスペリアも光の衣を纏いながら、この場を離れる。

「よーし! 元気百倍だよ! 『再生』、一番最初に戻ろう!」
『いくら嬉しいからって、あんまり張りきりすぎないの。ここからは、遊びじゃ
 済まされないのですからね』
「それぐらい……わかってるよ。だから一番早く着いて……みんなを、助けなきゃ!」
 先の三つよりも速く、オルファを包んだ光はこの場から駆け出していく。

「……参りましょう。友の眠る、あの地へ……」
『了解。まったく、他の者達はどうしてああも元気なのだろうか……ああ、我だけが体を
 使って試練をしたからか』
「あっ、そう、だったのですか……すみませぬ……手前が、遠慮無しに斬ったばかりに」
『主よ、気にする事はない。この状態でも、他の者達に劣るような真似はしないから』
 最後にウルカを乗せ、光の船は出航した。

「……どう思いますか? 『時詠』、『時果』」
 ポツリと、この場に一人残った真美が呟く。
『どうって……そうね。真美、あなたが見えている未来が、そのまま現実になると思うわ』
『珍しいわね。あなたが、こうも不確定な質問をするなんて』
 真美の言葉に、両神剣とも同時に答えた。
「……そう、ですね。これで『あいつ』がどんな策を張ろうとも」
 真美の瞳が細まり、どこと無く、凶悪なイメージが取れるのは気のせいではないだろう。
「待っていなさいよテムオリン……ッ! あなたの描いた穴だらけの脚本には、
 踊り子は従わないわよ……ッ!」

 時は、明人達が出ていってすぐのことだ。
「……美紗」
「……なんだ、空也か……」
 ラキオス城内の小高い丘。
 芝生が敷き詰められ、夜だというのに温かい風が、青臭い匂いを運ぶ、静かな場所。
 そこに一人座りこんでいた美紗のもとに、空也がひょっこり顔を出してみせていた。
「残念か? ……隣、座るぜ」
 了解の合図も無しに、空也は無遠慮に腰を下ろす。
 あの時――明人と別れを確かめた夜と同じだった。
 美紗の様子は、その時と酷似していた。
 元気が、あの元気の塊で行動原理と言ったらその元気としか言えないような美紗に
 元気がないのだ。
 その変化に、空也は敏感に反応した。
 当然だろう。
 空也にとって、美紗は、何者にも変えがたい人だったから。
 それ故に――
「……今なら、まだ間に合うかもしれないぜ?」
 美紗の気持ちが今、誰にあるのかもハッキリとわかっていた。
「――ッ!」
 ――ほうら、図星だ。ったく、わかりやすいったらありゃしねえ。
 口には出さないが、空也はそうツッコミをいれる。
「なあ、美紗よ。お前は、ホントにこれで良かったのか? 明人をこのまま行かせて
 良かったのか? 本音、怒らないから言えよ」
 こう言う時の空也は、言った事を必ず実行してくれる、と美紗は今までの経験から
 察していた。
 普段はほとんど緩みっぱなしなのに、本気になった時は、この真顔になる。
 マロリガンから離れ、ラキオスに来た晩に告白された時も、同じ表情だったから。
「あたしは……」

 ――あなた、好きなんでしょ? 『求め』の、主の事が――

 昨晩『空虚』に言われた事が、脳内にリフレインする。
 そうなのかもしれない。
 いや、今、この胸を締め付けている感情は、本当だろう。
 美紗は、自分が最低の女だと罵りたくなった。
 二つ同時には、決して手に入らない。
 ましては親友という間柄の人達だ。
 確かに空也の言う通り、本当の事を言っても、怒る事はないだろう。
 が、空也に惹かれている自分がいるのも確かであった。
 だから美紗は――
「あたしは……ッ!」
 この空気に絶えれなくなり、言おうとした。
 涙が出ているのがわかった。
「明人――」
 フッと、美紗は何を言おうとしていたのかを忘れる。
 同時に、心が酷く軽くなったような気がした。
「……あれ? あたしら、こんな所でなに、やってんの……?」
 なにか、大切な話しをしていたような気がするが、どうにも思い出せない。
 空也の目を見てみると、同じような事を語っていた。
「……オレが、美紗の愛を再確認しようとしてたんじゃなかったっけ?」
「あっははは! もう、寝言はちゃんと寝て言いなさいよ♪」
 笑顔で、乾いた音を発生させる美紗。
 乾いた音の発生源に弾かれ、仰向けになる空也。
「いつつ……おっ、おい――ッ! なに、すんだ……」
 言葉を詰まらせる空也にはわけがある。
 仰向けになった時に、美紗が、空也の胴をまたぎ、乗ってきたからだ。
 そして小さく一言……
「……もう十分に感じてるし、あげてるんだからね……」

 そして時は今という現実に戻される――
 あの日あった出来事は不思議であったが、後味の残らないものでもあった。
 あれから数週間後の事だ。まあ、それが今と言う事になる。
 ミニオンの襲撃が、今現在行われている。
 他のメンバーは、ミニオンの自我の見えない強力な力に戸惑いつつも撃破していった。
 二日、三日と続く戦闘は、空也と美紗の二大エトランジェによって苦戦という
 二文字など見えることなく進んでいった。
 がしかし――今日という日は、違った。

「ッ! が……は……ッ!」
 空也の苦しそうな嗚咽が、吐き出される。
 オーラフォトンで作った障壁を破られ、腹部に思いっきり拳をめり込ませられていた。
「へっ! これでも一応、力落としてやってんだぜ? お前達ぐらいによぉ!」
 吹っ飛ぶ空也のもとに、そんな男の声が降りかかる。
 プラチナブロンドのオールバックに、服は肩が剥き出しになっているジャケット。
 そして拳には――永遠神剣とその男が言う籠手を装備していた。
 これが、真美の言っていた絶対的な力を持つ者――エターナル。
 別に上位神剣ともなればその形を剣に止める事は無いらしい。
 現に目の前に立ちはだかるエターナルは、籠手がどう考えても永遠神剣。
「ぐ……ッ! うぅ……ッ!」
 『因果』を杖代わりにして、なんとか立ちあがる空也。
 今の一撃で、肋骨が二、三本ぐらい落ちただろう。
 呼吸をするだけで、この状態でも目が覚めるような痛みが走り、そして意識を奪う。
 どうにも、エターナルというのはバケモノみたいな存在だな、と空也は思った。
「あ? もう限界なのかよ。ったくあのチビもっと楽しめる相手を用意しろっつったのに」
「へへ……人を勝手に見限るのは、やめてほしいもんだな」
 先ほど折れた肋骨を、オーラを送り込み、その場凌ぎの治療を行う。
 だいぶ楽になった。
 しかしこの状態で勝つのは……正直無理だろう。
 いや、全快の状態で対峙しても、今の自分じゃ、到底敵わない事ぐらいはわかる。
 だけど――
「女の目の前でぐらいは、格好つけたいもんだっての」
「はぁ……はぁ……あ? なんか、言った? 空也」
「いや、どうやったらあいつ等の自信をへし折れるかなって」
 自分の背後に立つ好きな女――美紗には弱い所は見せたくなかった。
「無駄ですよ。今の貴方達がどう頑張っても、私達には敵いません。不可能です」
 美紗とやりあっていた女性――空也の記憶がまだ正しければ、その格好は忍び装束、
 と言うものだろう。
 つり上がったキツそうな瞳に、黒の長い腰まである髪。
 そして手に握られる小刀が、どうやら彼女の神剣らしい。
 淡く光、力を持っているのがわかる。
 とりあえず、傷だらけの美紗を見るところからして、強がってはいるものの、
 追い詰められ、ここにたどりついたのだろう。
「ふん……邪魔すんじゃねえぞ、パーサイド。そいつは、俺の獲物だからな」
「そっちこそ……いつもの馬鹿力の使いすぎで、私に迷惑かけるなよ。レイジス」

 ゆっくりと、明人は瞳を開く。
 そこは、ラキオスの近くの森――確か、リグディウスの護り龍が住むといわれている
 リグディウスの森という場所だったはずだ。
 目に入る景色全てが、懐かしく感じた。
 まるで、何年も帰っていなかったような感覚……少し、実感が湧かなかった。
「ん……帰って、来たのか」
 『聖賢』の力を使って他のみんなの気配を探るが、どうやらまだ来ていないらしい。
『明人さん、聞こえますね』
 と、頭に直接、真美の声が聞こえてくる。
「真美か? ああ、聞こえてる」
『なら、簡潔にお話しいたします。そこから西に向かってください。
 今、そこで空也さん達が戦闘をしているはずです。ですが……どうやら、
 相手のほうが先に手をうってきたみたいです。エターナルがすでに、介入しています』
「なにッ!?」
 エトランジェとエターナルとの力の差は、歴然だ。
 なったばかりの明人だからこそよくわかる。勝ち目などほとんどない。
 この強大な力には、同じエターナルでしか対抗できないだろう。
『む……明人よ、どうやらもう一人、着いたようだ』
 『聖賢』が話しかけてくる瞬間とほぼ同時。
 明人の背後に強力な力の塊が出現する。
「オルファがいっちばーん! ……ってあれ? パパのほうが速かったの?」
 それは乳白色の大剣を握り締める、オルファだった。
 まだ他の三人は来ていないが、明人にそれを待っている余裕は無かった。
「オルファ、みんなを待ってる暇はない。早く行かないと空也達がやられちまう!」
「え? え? な、なにかあったの? パパ」
『聖賢、どうしたというの?』
『……どうやら、向こうの方が早く、エターナルを戦闘に出してきたらしい。急ぐぞ』

 拳を合わせる男――レイジス。
 その拳には炎が纏われ、先ほどとは比べ物にならない程の力を放っている。
 一方刀を構え、低い体制を取る女――パーサイドは、いつでも突撃できますと
 言わんばかりに美紗を見据えている。
「一気に行くぜぇッ! 焼灼の……炎撃ッ!」
 レイジスが拳を突きたてると、地を割り、火柱がこちらに迫る。
 その威力は、ミリアなんかの比ではなかった。
 凶悪なほどの威力を見せるその炎は空也の神剣魔法を持ってしても防ぐ事は無理だろう。
 ――だけど……止めてみせる! 『因果』、悪いが付き合ってくれよ!
(ッ! 何を言っている! 避けろ! 無理だ!)
 背後の美紗は『空虚』を構え、凄まじい速度で向かってくるパーサイドの迎撃に
 当たろうとするが、傷が痛みを運び、体が上手く反応していない。
 先ほど空也が自身に使ったオーラの影響は残っていて、簡単な傷口は塞がっているはず
 なのだが、それでも動きに支障が出るほどのダメージを美紗は負っていたのだ。
 空也は目線を背後の美紗、前方の炎を交互に見る。
 ――くっそぉッ! こんな所で、終わるなんて……ッ!
「はぁあああッ!」
「ッ! しま――」
 パーサイドが美紗を射程内に捕らえ、声を上げながら神剣を振りぬく。
 炎が、空也の目の前まで迫り、飲みこもうとする。

 その時だった。

 空也は目を瞑り、今持てるオーラフォトンを全開にし、護りのオーラも放ち
 耐えようとしていた。
 だが、来るはずの衝撃が伝わってこない。
 ゆっくりと、目をあけてみる。
 空也は、驚きを隠す事が出来なかった。
 少女が、ダブルセイバー型で巨大な乳白色の剣でレイジスの炎を受け止めていた。
 ――ギィンッ!――
 後ろでは、パーサイドの刃を、両手持ちの白く、美しい刀身の剣を持った男性が、
 斬撃を受け止めていた。
「せーのッ! 『再生』、押し返しちゃって!」
「なにッ!?」
 少女が声を上げると、炎は向かっていた方向と逆の方向に向かって歩みを進める。
「『聖賢』、吹っ飛ばせ!」
「ッ! く……ッ!」
 白い刀身が輝くと、パーサイドは迫る衝撃に身を任せ、後退する。
「よかった……間に合って。大丈夫か?」
「あ、あんた達は……」
 そこまで言って、空也は真美の言葉を思い出す。

『近いうちに、私達の仲間が援軍に来てくれます。その時まで、持ちこたえてください』

「チッ、援軍だと? まあ、なにが来ようと俺は」
 押し返された炎を一蹴し、レイジスは再び構える。
 どう考えても自分の炎を押し返してきた存在は、エターナル。
 しかし小柄な体格からしてレイジスは最も得意としている接近戦まで持ちこめば、
 まず負ける事はないだろうとふんでいた。
 しかし、もう一人のエターナルに飛ばされたはずのパーサイドがいつのまにか
 背後におり、話しかけてくる。
「レイジス、退くぞ」
「ア!? なに言ってやがんだ! ようやく本気でやれるやつがで出来たんだぜ!?」
「はぁ……だからお前は阿呆なんだ。ついには気配を読み取る力すら薄れたか。
 ……わかるだろう? ここは、撤退した方が無難だ。さすがに五対二じゃ勝ち目はない」
 その会話は空也にも届いていた。
 確かにある、もう三つの気配。
 自分と美紗を助けてくれた存在でも、真美でもない。
「……チッ! 一気に五人もつれてくるなんてな……しかたねえな。勝負は預ける!」
「今度会うときは……貴様等に光はない。よく覚えておけ」
 レイジスが地面を叩き割ると、光がレイジス、パーサイドを包み込み、消えた。

「アキト、二人は大丈夫か?」
「間に合い、ましたか」
 ウィングハイロウを羽ばたかせ、二人のエターナルの気配が到着した。
 一人は真っ青で長く、艶やかな髪をし、手には身の丈ほどもありそうな剣を握っていた。
 もう一人は褐色の肌に、青みがかった銀髪。そして腰に携えられた刀。
「ああ。アセリア、ウルカは他のみんなの援護に回ってくれ。エスペリアは?」
「すぐ、来ると思う」
 と、アセリアと呼ばれたエターナルが言うと、遠方からこちらに向かって走ってくる
 少女がいた。
 ヘッドドレスに緑色のメイド服。翡翠のように緑色の瞳で、茶色がかったウェーブの
 セミロングヘアが特徴だった。
 間もなくそのエスペリアと呼ばれたエターナルは到着し、空也と美紗を見ながら、
「アキト様、すみません、遅れてしまって……すぐに、お二人の手当てをします」
「頼む。これでもう、安心だからな」
 アキト、と呼ばれる男性が柔らかい笑みを空也達に向ける。
「あっ、ありがとう……あなた達は、もしかして」
「ああ、エターナルだ。真美の友人でな、先に行くように頼まれて――」
 お礼を言う美紗に、それに対応するエターナル、アキト。
 空也はその光景を見て、意識が段々と薄れていくのを感じていた。
 先ほどまで無茶に体を動かしていたから仕方がないだろう。
 ケガも、その場凌ぎの治療だけだったから。
 空也の意識は、間もなく消えていった。

「ッ! 空也!?」
「クウヤ様!?」
 ドサッと倒れる音を聞いて、明人とエスペリアは焦る。
 先に美紗の治療を行っていたが、次に瞬間には空也が力無く倒れていたのだ。
「美紗は俺が治療するから、エスペリアは空也を!」
「はい!」
 明人に言われ、エスペリアは走り出す。
 その様子を、不思議そうに見ていたのは、美紗だ。
 明人にけがをしている腕を握られ、目線が合うのを確認すると、美紗は問い掛ける。
「なんで……あいつの名前、知ってるの? あたし達、まだ自己紹介してないけど……」
「ッ! あ、ま、真美に聞かされてたんだ。エトランジェの名前を。君は、美紗だろう?」
 しまった、という焦りの感情と、同時に寂しいと言う感情が明人を襲った。
 思わず口走ってしまったが、空也と美紗、それに他の隊員全て、そしてレスティーナや
 ハーミット、イオ達にも自分たちのことは忘れられている――いや、無かった事に
 なっているのだ。
 もともと親友だった人物に、何故名前を知っているのかと聞かれ、改めて実感する。
 やはり、忘れられるのは辛い。思い出す事も、エターナルにならない限りないだろう。
 もう、明人達の中にしかあの楽しかった日々は残っていないのだ。
「アキト様、クウヤ様の治療は済みました。ですからどこか安全な所に」
「そうか。ありがとう、エスペリア。美紗、空也を連れて一旦退いてくれ。あとは、
 俺達で何とかするから」

 ――なんだろう。この妙な感覚は。
 美紗は空也を担ぎながら、そう思う。
 ――なんだろう。この胸のもやもやとした感覚は。
 先ほど助けてくれたエターナル――確か、アキトと呼ばれていた。
 ――なんで……なんでこんなにも胸の鼓動が早まるの?
 一度も会ったことがあるはずないのに、この胸の高鳴りの原因がわからない。
 ――なんで……なんで……ッ!
 そして最後には……憤りを隠せない自分が、心の中で舌打ちをしていた。

 ――……なんだ、あいつら……
 美紗に担がれ、運ばれる中で空也は意識を取り戻した。
 ――何所かで会った事……あるわけ、ないよな……
 頭では否定している。
 しかし、それよりも深い所にある感覚が、その『否定を否定』していた。
 ――……あの声……あの姿……クソッ、記憶力にゃ、自信あったんだけどな……
 まるで曇りガラスのように、見えそうで見えない自らの心理。
 苛立ちが募っていくが、それを放つ元気も今はない。
 ――……くそ……くそぉ……ッ!
 もう一度空也は、睡魔にも似た感覚に身を委ねた。

 この戦闘は、ロウ側のエターナルが退き、そしてカオス側のエターナルが
 戦闘に参加した事ですぐに鎮圧された。
 各地で苦戦していたスピリットたちも、このエターナルの介入によって奮起し、
 早期にこの戦闘の決着をつけていた。
 そして――しばしの平穏が、訪れようとしている。

 明人は、エターナルを代表してレスティーナ、ハーミット、そして負傷した
 美紗と空也の代わりにヒミカ、セイグリッドが出席する謁見の間にいた。
 アセリア、エスペリア、オルファ、ウルカ、そして真美は今、
 与えられた第一スピリット館でくつろいでいるはずである。
 アズマリア、パーミアの姿が見えないのは、イースペリア領内の復興と、
 その警備に当たるため。
 フェイトとアイラと――そしてあの戦いの後にラキオスへと降った遊撃隊のクリスと
 その部下達は、エーテルジャンプを利用し、ラキオスとサーギオスを行ったり
 来たりしているらしい。今日は、サーギオスに滞在する日らしくその姿は見えない。
「まずは、先の戦闘でのお礼を言わせてください。どうもありがとうございました。
 おかげで、我が国のエトランジェも助かりました……エターナル、『聖賢者』アキト殿」
 レスティーナが深深と頭を下げる。
「頭を上げてください、レスティーナ女王。俺達は、この世界を救うために
 やってきたんだから、当然の事をしたまでです」
 冷静を装いつつ、明人は返答した。
 ズキン、と胸に刺さる何かを感じるが、いちいち反応していては身が持たない。
 レスティーナを除くほかのメンバーからの視線も、寂しさを感じさせられる。
 この場にオルファがなんかがいたら、確実に涙を流していただろう。
「それよりも、戦況はどうなっているんですか?」
「それは、私達から」
 と、ヒミカとセイグリッドが一歩前に出る。
「まず、私はラキオスのスピリットを纏めていますヒミカ・レッドスピリットです。
 主にクウヤ隊長の補佐をしています」
 ――ああ。俺の時の、エスペリアみたいなものか。でも、空也のほうが優秀だからなぁ。
 と、思わず思ってしまい、笑いを押さえる。
「ワタシも同じく、スピリットを纏めていますセイグリッド・ブラックスピリットです。
 よろしくお願いします」
 二人の挨拶の余韻も短く、すぐに戦況の説明がまず、ヒミカから開始された。
「現在、大陸中でエターナルミニオンが出現しエーテルコンバータの破壊を行っています」
「それに伴い、わが隊だけではなく、大陸全てのスピリット部隊が鎮圧に向かっています」
「んで、このまま何も変化せずに事が進んでいきゃあ、はっきり言って勝ち目は絶望的だ」
 と、二人の説明にハーミットが一言付け加え、なおつづける。
「しか〜し。やつらの尻尾はほぼ、掴んでいる。エーテルコンバータが破壊され、
 マナの変換が出来なくなった地域のマナが、ある一点に集められている。
 そこは、始まりの地と呼ばれ、まだ誰もその最奥地には踏み込んだことがないと
 いわれている、ソーン・リーム自治区――キハノレ。そこが、やつらの根城だろう」
 ハーミットの相変わらずくわえるだけのタバコを挟んだ口元が緩む。
 その言葉を最後に、しばしの沈黙。
 そして、その沈黙を破ったのは、レスティーナだった。
「アキト殿……私達人間は、多くの罪を犯してきました。自分達が傷つくことなく、
 スピリットの戦争の道具として使い、戦わせ、自分達だけのうのうと生きてきました。
 それでも、スピリットは私達に協力して、この世界を救おうとしてくれています。
 ですから……その御力を、私達の未来のために……罪を受けるべき未来へと繋ぐ
 力となっては貰えないでしょうか?」
 レスティーナの言葉に、明人は、一呼吸置いてから答える。
「……答えは、初めから決まっている。最初にも言ったが、俺達はこの世界を救うために、
 やってきた。だから戦う理由はただ一つ……この世界を脅かす敵を、打ち砕くのみ。
 俺達はきっと、レスティーナ女王たちの期待に添えて見せます」
 それを聞くと、レスティーナの表情が目に見えて明るくなる。
「ありがとうございます。それではお約束どおり、全ての部隊の指揮権を、
 アキト殿に委託します」
「……え?」
「? 真美殿から、何もお聞きしていないのですか?」
「あ、まあ……」
 ――あいつ……重要な事なんだからちゃんと言っておいてくれよな。ったく……
 と、何故か縁側で湯のみで緑茶をすすりながら脇に置いた和菓子をつつき、
 くつろいでいる姿の真美が目に浮かんで、妙に腹立たしくなってきた。
「でも、本当によろしいので? こんなわけもわからない男に全てを委託して」
「真美殿のお知り合いですので、十二分に信頼はしています。それに……」
「私達も、アキト様の指揮下にはいる事には賛成です。もちろん、隊員全員の意思で」
 レスティーナの言葉に続けて、ヒミカと、
「こう言うのはどこかおかしいと思いますが……アキト様がこうして部隊を
 率いてくれる事は、どこか、懐かしい気持ちになれるのです」
 セイグリッドが、微笑みながら言った。

「なあ、真美」
「なんですか? 明人さん」
 宿舎に帰って、本当に縁側を創って緑茶をすすり、和菓子をつついていた真美が、
 明人の問いかけに答える。
 とりあえず何無駄な労力使ってるんだというツッコミは後回しにしておこう。
「本当に、みんな俺達の事を覚えていないのか? さっき」
「……思い入れが強ければ、完全に、というわけではありません。そりゃ、
 もともと無かった事になっているのですから記憶にはありませんけれど、
 心の奥底に、残っている場合はありますね。懐かしい、遠い昔に会ったことが
 あるような気持ちが」
「そう、なのか……」
「ですから、くれぐれも空也さんと美紗さんのお二人と接触する場合は、
 気を使ってください」
「え……」
「あの二人は明人さんとはもともと親友……そして、それ以上の存在と見ていましたから、
 何かの拍子で記憶が不規則に甦り、混乱してしまう場合がありますからね」
「あ、ああ。わかったよ。なるべく、気をつけて行ってくる」

 そういわれ、妙に緊張しつつ、明人は第四スピリット館へと向かった。
 そして、まだ、あの二人が自分の事を覚えてくれてるかもしれないという気持ちが、
 明人の気分を幾らか軽くしてくれていた。
 ふと、第四スピリット館の中庭に目をやる。
 さすが、二番目に新しく造られたスピリット館。
 庭の広さ、芝の質、観葉植物の種類は自分の住んでいる館よりも良い。
 それでも、一号館はエスペリア、二号間はハリオン、三号館はニムとそれぞれ
 グリーンスピリットによって館周辺の緑の手入れはよくされている。
 さて、その中庭では、
「あーっ! アキト様だ! ほら、ヘリオン! そんなミリアお姉ちゃんの
 影に隠れてないで出てきなよ! ほら!」
「ふぇえええ! そ、そんなわたしかく、隠れてなんか」
「そうですよヘリオンちゃん。ずーっと気にしてたんだよね? アキト様のこ・と」
 たまたま遊びにきていたのだろうか。
 どうやらヘリオンとアリアが、麦藁帽子にラキオスの白い軍服、そして首周りに
 タオルそして軍手という農作業装備のミリアの家庭菜園のお手伝いをしていたらしい。
 そしてアリアの言う通り、ヘリオンは顔を真っ赤にしてミリアの影に隠れていている。
 まるで親に甘える仔犬といった風にも見えるが実際は本気で恥ずかしがっているらしい。
「やあ。一応、初めましてかな。三人とも」
 空也達の所に行くついでなので、ちょっと寄り道をしていこうと思い、
 三人のもとに歩み寄る明人。
「私達は知ってましたけどね、先ほどの戦闘から。でも、初めまして、アキト様。
 私は一応、このスピリット館の管理というか家事全般とかを受け持っています
 ミリア・レッドスピリットです。
 で、こちらの小さいツインテール二人組の青いほうがアリア・ブルースピリット」
「むぅ! アリアは一人で自己紹介できたのに〜! って、あ、す、すみません。
 初めまして、アキト様」

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