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第二十一話 一時の平和が訪れ――

 すでにこの場の視線は、全て巫女――三倉 真美へと移っていた。
「……さて、これ以上の暴挙、許すわけにはいきません」
 静かな声に、静かな動作。
 しかしその動き一つ一つに、強力な威圧がこめられている。
 真美の手に、扇が出現した。
「ふん、『時詠』か。わざわざ、こんな辺境の世界まで出向いてくるとは、相当暇なのだな」
「そんな事ありません。私の役目は、全ての世界の平和……今、あなたが
 やろうとしている事とちょうど逆の事です」
「ハッ、所詮は第三位。ほざけッ!」
 『世界』の左腕から、凝縮されたオーラフォトンが放たれる。
 それは、真美を含め明人達を巻き込み消滅させるのに十分な強さと範囲。
 だが、真美はその攻撃を手に持った扇で受け止めた。
 よくよく見ると、その扇から薄いオーラフォトンの膜が出来ている。
 薄いが、明人が以前放っていたオーラフォトンよりも比べるのが悲しくなるぐらい
 強力なものであった。
 やがて、『世界』の放ったオーラフォトンは跡形も無く消え去る。
「……生まれたての坊やにしては、上出来ですね。正直、ここまで力があるとは
 思いませんでした。しかし」
 真美の手に、今度は短剣のような物が握られる。
 柄だけになった『求め』の部分から感じ取れる。
 真美の持つ扇と短剣が、永遠神剣であることが。
「その程度で、私に勝てると思っているのですか?」
 オーラフォトンを感じると、真美の動きが急激に早くなる。
 いや、速くなるという表現ではとてもじゃないが現せれ無い。
 一瞬にして、『世界』の懐に飛びこんでいた。
「時間ごと速くなる私を捉える事は、今のあなたには不可能。素直に、退きなさい」
 そして首筋に短剣をつきつけた。
「……歳をくっていればいいというものではないぞ」
「ですが現に、あなたは」
「まっ、真美! 上だ!」
 『世界』の背後にユラユラと浮かんでいた六本の剣のような物が、
 真美目掛けて一斉に襲いかかる。
 上下左右から、一気に突っ込んでくる攻撃に、死角は無いように見える。
 事実、明人から見れば確実に、死角は無い。
 だが、真美は違った。
 必要最小限の動きで、その攻撃をすべて避けきる。
 再び向かってくる変則的な動きも、まるで全てが見えているかのように、
 回避しつづける真美。
 攻撃がやむと、真美と『世界』の距離はかなり開いていた。
「……未来を見る目、時見か。意外と厄介だな」
「言いましたでしょう? この程度で、私に勝つつもりですか?」
「ふん、その程度で勝ち誇ってもらっては困るな」
「そうでしょうか? 今、この舞台に立っているのは私とあなた、だけでは無いのですよ」
 クスリと、真美は確かに笑った。
「な――」
「みんな纏めて突撃ぃッ! あんたの好きにゃさせないよ!」
 刹那に雷撃が『世界』へと踊りかかる。
「く――ッ!」
 完璧な不意打ちだったが、その攻撃が『世界』自身に届く事は無い。
 怯ませる事はできたが、ダメージはまったく無い。
「雑魚が! いくら貴様等が束になってかかってきても――」
「はん。雑魚かどうかは……」
 雷に紛れ、黒髪のスピリット――カグヤが、
「アリア達の実力を見てから言ってよね!」
 青色小さなスピリット――アリアが、
「私、あなたみたいな傲慢な人、嫌いよ。だから、消えなさいな」
 真っ赤なスピリット――ミリアが、
「すきには、させません! この世界を壊すというなら、なおさら!」
 そして緑のスピリット――クォーリンが、
「それに、うちのじゃじゃ馬姫が言っただろ? みんなってな」
 余裕のある笑みを浮かべたエトランジェ――空也がまず、先陣を切って突撃する。
「燃え盛る炎の力よ……ッ!」
「溢れる大地の力よ……ッ!」
「流れる清流の力よ……ッ!」
「染める漆黒の力よ……ッ!」
 スピリット四人の武器がそれぞれを表す色に染まり、一斉に斬りかかる。
「ハァアアアッ!」
 全てを断ち斬るような、カグヤの一撃が走る。
 それは『世界』の防御壁によって阻まれるがしかし――
「こなくそぉおおおッ!」
 続けて躍り掛かるアリアの剣戟が、間髪無く同じ場所に追加され、
「ていやぁあああッ!」
 クォーリンのすれ違いざまの一閃がさらに決まり、
「そろそろ、限界じゃないんですかね!」
「ああ、そうみたいだなぁッ!」
 ミリア、空也の同時攻撃によってようやく――『世界』の周りに展開していた
 オーラフォトンにヒビが入った。
 そして最後に――
「食らいなさい! これが、みんなの底力だよッ!」
 紫電のオーラを纏った美紗の、最上級の突撃攻撃。
 これにより、『世界』のオーラフォトンバリアは砕け散り、『空虚』の刃は――
「ッ! な……ッ!」
「……何を驚いている? 当然の結果じゃないか」
 確かに刺さった。
 しかし、『世界』は痛がる素振りすら見せない。
 『空虚』の鋭い刃が突き立てられている『世界』腹部は、血が滴る事も無く、
 ただ、漠然と無傷な状態だった。
「しかしまあ、僕の防御を破っただけでも賞賛に値するよ。あの世で、ゆっくり喜びな!」
「え――ッ!」
 瞬きする間に、美紗に凄まじい衝撃が加えられる。
 気付けば、壁に叩き付けられ、呼吸器が一時的に機能を停止し、思わず咳きこんでいた。
 何が起きたのか? と、考えるのも束の間。すぐに状況が判断でき、
「ケホッケホッ! く……空也……」
「いっつつつ……わりぃ、これでも、全力でガードしたんだぜ……?」
 自分に、もたれかかるようにしてぐったりとなる空也の名前を呼んだ。
 空也はあの瞬間、誰よりも速く行動していた。
 『世界』の右腕と同化しかけている禍禍しい赤い刀身が美紗を捕らえる直前に、
 間に割って入って攻撃を受け止めたのだ。
 しかし自身へのダメージは相当なものだった。
 現に意識は朦朧としている。タフさが自慢の空也がこれだ。
 あの時空也が割って入らなければ今頃美紗は――
「やはり雑魚。無駄な抵抗はこの程度が限界――ッ! ちぃ……」
 『世界』が顔をしかめ、額を押さえる。
「無駄ではありませんよ」
 そこに、透き通るような真美の声。
「今のやり取りで、貴方は予想よりも遥かに多くの力を消耗しました……。
 その状態で私を含め、この場にいるスピリットを超えた存在達とわたりあえると?」
 空也達の行動に刺激され、これまで固まっていたラキオスの面々が、すでに構えていた。
「……さあ、大人しく退くのです」
「ふん……まあ、いい。貴様自身、僕の背後に立っている者の検討がついているよう
 だからな」
 スゥ……っと、徐々に秋一の姿をした『世界』の体が薄くなっていく。
 同時に、気配も徐々に消えていく。
「ええ……今度会うときは、貴方達全てを消滅させるとでも伝えておいてください」
「……その必要は無い。ここで僕を見逃した事を、後悔させてやるよ」

 ――……重い……
 なんだろうか。酷く体がだるい。
 ――俺は……いったい……
 思考も回らない。自分は、どうなったのだろうか。
 ――……考えていても、このままボーッとしてても……仕方ないか……

 そう思って――明人は体を起こした。
「う……眩しい……」
 まず、窓辺から差し込む朝日の眩しさに目を覆った。
 しかしそれのおかげで、ようやく実感できた。
「全て終わった……か」
 そう、サーギオスと決着し、戦いは、全て終わりを告げたという事を。
 待ち望んでいた、平和という時間を、噛み締め、実感できる。
「長かった……本当に、長い戦いだった……」
 なし崩し的に参加した戦い。
 そこでは、数多くの犠牲を自分の手で作ってしまった。
 多くのスピリットの命を奪った。そう、数え切れないほどの……。
 しかし、それ以上に、大切な何かを見つけられた。
 それは共に戦った仲間でもあり、かつてからの親友でもあり、そして――
「あっ、お兄ちゃん!」
「来夢……」
 自分が護る……護らなくてはいけない存在だった。
 開いた扉から顔を覗かせる、大きな瞳と大きな眼鏡をかけた、栗色の長い髪をした
 少女は輝かんばかりの笑顔で明人を見つめる。 
「目が覚めたんだね……よかったよぉ」
「……ったく、俺はいっつもみんなに心配かけてばっかりなんだな」
 笑って見せる明人。ようやく訪れた平和を、噛み締めるような笑顔だ。
「他のみんなは、今どうしてるんだ?」
「う、うん……みんなはまだね、色々と忙しいみたいなの……」
「そう……なのか」
 ふと明人は、備え付けの机の上に目をやる。
 そこには、柄だけになった姿の、共に戦場を生き抜いた、戦友がいた。
 もう、嫌味をいう事も、愚痴をこぼす事も、体を支配してこようともしてこない。
 微かに残ったのは、小さすぎる、存在だった。
「ねえ、お兄ちゃん……」
 感傷に浸っていると、不意に来夢が声をかけてくる。
 その姿は、どことなく気恥ずかしそうだ。
「ん? どうした来夢……顔、赤いぞ」
「あ……あの、ね……ずっと、ずっと離れ離れになってたから、ね……」
 明人にツッコミを入れられますます顔を赤くし、来夢は意を決して、
「膝の上……乗ってもいい?」
 言放った。
 明人はちょっと驚いたが、すぐに笑顔になり、ベッドから足を出して膝の上を叩く。
 赤い顔ながらも、来夢は今まで見せた中で一番嬉しそうな笑顔で、そこに飛び乗った。
「えへへ……お兄ちゃん……」
 抱きついてくる来夢のさわりごこちのよい柔らかな髪を、明人はゆっくりとなでる。
 本当に、久しぶりの兄妹水入らずだ。
 心が落ち着き、酷く、幸せな気分になれた。
 がしかし。
「明人さ〜ん、失礼しますね」
 そこに巫女服姿の女性――名は確か、三倉真美といったはずだ。
 あのサーギオスでの戦いの時最後に現れて――
 ――……現れて……何をしたんだ? あれ? なんで、真美がここにいるんだ……?
「来夢ちゃん、ごめんね。せっかく二人っきりなれたのに邪魔しちゃって……」
「い、いえ! その……」
 ちょっと明人さんと二人で話しがしたいの、と言い、真美は部屋から来夢を出す。
「……明人さん、これから言う事はとても重要な事です」
「……ああ」
 真美の雰囲気を感じればわかる事だった。それほどまでに、場の空気が張り詰めている。
「明人さん達エトランジェの活躍によって、この無益な戦争の終止符は打たれました。
 そして……今からちょうど一週間後に」

 明人は体ならしに、少し散歩をしていた。
 場所は、ラキオス城の敷地内にある中庭だ。
 ここには美しい草花はもとより、この清涼な空気に包まれた場で一休みできるベンチや、
 透明な水で溢れている噴水などもある、とても心休まる場であった。
 そこで明人は、昨日、真美から伝えられた事を思い返していた。
 ――ちょうど一週間後に、明人さん達の世界とこの世界を繋ぐ『門』が開きます。
 その門を使えば、明人達は元の世界に帰れるらしい。
 いや、帰れるのだ。
 しかしこの機会を逃せば、数百年――少なくとも、生きている間に門が開く事は
 無いという。
 そう聞けば、明人はもう、この世界でやりのこした事は無いと思った。
 しかし、決心つかないのにも理由がある。
 何かが、引っかかっているのだ。
 最後の決戦のとき、自分は神剣『求め』を砕かれ、そして気を失ったはずだ。
 『今ある記憶』はそうなっているが……
「アキト」
「……アセリア」
 考え事を中断し、明人はトテトテと小走りに寄ってくるアセリアに目を向けた。
「これ……ようやく完成した」
 何かを差し出すアセリア。
 その小さな白い手の上には、二つの欠片が付けられた首飾りが着いていた。
 その欠片は、『求め』の残った箇所。
 アセリアに頼んで、首飾りにしてもらったのである。
「ああ、ありがとな、アセリア」
「ん……気にするな。それと、エスペリアがおやつできたって」
「おっ、そうか。すぐに行くっていっといてくれ」
「ん。わかった」
 そう言い残し、アセリアは背を向け、もともと来た道を戻る。
 明人は、首飾りを握り締める。これで、こいつも報われるな、と思った。
 その際――
「!?」
 異様な感覚に襲われた。
 薄っすらと浮かんでくる映像。
 そこにはまだ、立ちあがる秋一の姿がある。
 そして――
「……ん? あっ、ハクゥテ」
 足元にもぞもぞとした感触。それにより、フラッシュバックは解かれた。
 目をやると、小さなウサギのような容姿をした動物が明人の足に顔を摺り寄せていた。
 明人はそれを抱き上げると、またもや、おかしな感覚に襲われる。
 ――……誰だっけ? こいつを拾ってきたのは……
 目でハクゥテに訴えかけるも、答えが帰ってくるはずも無い。
「なんだろうな……戦いは終わったってのに、悩み事は全然へらねえ」
 そしてそっと、ハクゥテを地面に下ろす明人。
「でも……確かにいたはずだ……お前を拾ってきた、天真爛漫で……大切な……」

 ――ドクンッ!

「ッ!」
 明人の中で、何かが騒ぐ。
 なんの脈絡も無い、突然な反応だ。
 先ほどとは違い、今度は、今度こそは、記憶が鮮明に甦ってくる。

 そうだ。
 あの時、まだ全ての決着はついていない。
 秋一は倒した。
 しかし、新しい脅威になって、あいつは生まれ変わっていた。
 『求め』を取りこみ、新たなる力をえた『誓い』は、永遠神剣第二位『世界』となって、
 この世界を滅ぼそうとしたんだ!

「くそッ!」
 明人は急ぎ、この場から走り去る。
 目当ての人物はもちろん、全ての真相を知っているであろう、三倉真美……ただ一人だ。

 その頃――
「……真美さん」
「なに? 来夢ちゃん」
 ラキオス城内の廊下で、真美と来夢は話しをしていた。
 その内容は他でもない。
 明人についてだ。
「お兄ちゃんは、もう、戦わなくてもいいんですよね……? もう、あたし達と一緒に、
 もとの世界に帰っても――」
「それは、わかりません……いえ、このまま何も思い出さなければ、その選択肢で
 いいと思いますし、明人さんもそう願うでしょう。ですが……」
「…………」
 それ以上は言わなくてもわかりきっている事だった。
 真美の『時詠』による記憶操作が解ければ、間違い無く、明人はこの世界に残る
 というだろう。
 もう、神剣はないというのに。
 しかし、今、来夢の目の前にいる人物なら何かわかるはずだといって、きっと、
 この世界に残るであろう。
 それが来夢の一番よく知る、明人の性格だから。
「そうなった場合は……私は、明人さんに全てをお話しします」
「……そうして、ください」
 予想外の返事に、真美は、少々驚きの表情を作った。
「……意外な反応ですね。私はてっきり、何も話さないでというと思ったんですが」
「ホントは、なんにも話さないで、あたしとお兄ちゃんと……美紗お姉ちゃんと空也さん
 で元の世界に帰って、また普通の生活がしたいですけど」
 来夢は真美の背後を見て、諦めの表情を浮かべた。
 その先には、今、話題に上がっていた人物がこちらへと走ってくる様が見えていた。

「記憶が、戻ったんですね。予想よりも早くて、ちょっと驚きましたよ」
 ここは、真美に貸し与えられているラキオス城内の客室だ。
 ベッドに上に真美、備え付けのイスの上に明人といった形で座っている。
「……まだ、本当は終わっちゃいないんだよな。この戦い……」
「ええ。ですが、ここから先、もはや『ヒト』の次元でいられない戦いになります」
「詳しく教えてくれるか?」
「明人さんが望むのであれば」
 明人は一瞬考えるが、そんなもの、最初から答えが出ていた。
 この一言を言えばいいのだと。
「ああ。真美の知っている事、全部話してくれ」
「……わかりました」
 ふぅ、とため息を一つついて、真美はゆっくりと話し出した。
「私達は、永遠神剣第三位以上に選ばれた悠久の存在……私達は自身のことを
 『エターナル』と呼んでいます。エターナルは全ての次元、時間に束縛されず、
 永遠の時を戦いつづける存在なのです」
「真美も……秋一も、それなのか?」
「ええ。私は永遠神剣第三位『時詠』と『時果』を持っています。
 そして、『世界』は第二位……ここまで上位になると、位での力の総力は下位の神剣とは
 ことなり、凄まじく広がります。ですが、いくら力が強くとも、
 その世界におけるマナの総量が低ければ、全ての力を発揮する事は出来ません。
 もちろん、『世界』もその例外にもれる事はありません」
「その、秋一の目的ってなんなんだよ?」
「……私達エターナルは、大きく分けて二つの組織に分類されます。まず、
 全ての永遠神剣は一つだったといい、全ての神剣を集めるために動く
 『ロウ・エターナル』。そして、私の所属するそれを阻止するための『カオスエターナル』。
 第二位『世界』の意思は、間違い無くロウ・エターナルと同じ……この世界を消滅させ、
 永遠神剣の回収を行う事でしょう」
「――ッ! そ、それじゃあ……」
「そして、他のロウ・エターナルもこの世界にすでに介入しています」
 一呼吸おいて、真美は、ジッと明人の目を見る。
「率直に言います。明人さんと、アセリア、エスペリア……そしてウルカの四人は、
 私達と同じ存在……エターナルになる素質があります」
「……え?」
「今現在の戦況は、先の三人を欠いた状態で戦線を何とか保てています。ですから
 一時的に抜けても、問題はないはずです」
「ちょ、ちょっとまてよ! 戦況って……」
 スピリット達の戦いは終わったはずじゃないのか、と言いかける明人は、
「この大陸の各地で、『世界』の作り出したエターナルミニオンが、各地の主要都市を
 攻撃しているのです。今、まともに動ける部隊はラキオスしかないので、
 隊員のほとんどはその鎮圧に向かっているのです。空也さんを、隊長として」
 真美のこの言葉によって黙らされた。
「急にこんな事を言って理解しろというのも難しいと思いますが……今はもう、
 あまり時間が無いのです」

 ――よく、考えてください。
「っていわれてもなぁ……」
 気付けば、二日経っていた。
 考えれば考えるほど、悩みは増大していく悪循環をたどり、答えを導き出せない。
 そして今日もまた、日暮れまでラキオス城内の中庭で過ごしてしまった。
 しかし無駄とは、言いきれない時間。
 確かにこのまま帰れば、また平穏な日々に戻る事が出きる。言いきれる。
 だが、自分にはまだ、やれる事がある。
 あの時、真美が最後に言っていた第三位以上の永遠神剣と契約するための試練。
 自分とは別に、アセリア、エスペリア、ウルカの三人にはもう話したという。
 この試練を受け、見事に、永遠神剣に認められれば晴れてエターナルになれるという。
 だが、その強大な力を手に入れるのには少なくない犠牲が伴う。
 みんなの――自分たちとかかわった人達の記憶から、自分の存在が全て抹消される。
 初めから、無かった事になるという。
 辛い選択肢だ。
 親友からも、共に戦った仲間からも、最後に残った家族からも、忘れられるのだ。
「最近は、いつもここにいらっしゃるんですね。アキトさん」
「……どうも、です……」
 そこに青色の妖精――セリアと、赤色の妖精――ナナルゥがいつのまにかいた。
 どうやら、考え事をしている間に本当に日が暮れてしまったらしい。
 漆黒の空には、すでに大きな青白い月が昇っている。
「……そうだな。ちょっと、悩む事があってね」
「……エターナルのことですか?」
「……だな。真美から、聞いていたのか」
 しばし、三人とも沈黙。
 風に撫でられ掠れる葉の音が心地よい。
「アキトさん」
「なんだ?」
 呼ばれ、セリアの方を向く明人。
 それを待っていたかのごとく、セリアは、言葉を放ち始めた。
「……もう、いいじゃないですか。アキトさんは――いえ、隊長は、もうすでに
 十二分に活躍いたしました。この戦いで誰が一番傷ついたと訊かれたら、私は、
 真っ先に隊長の名前を上げます。隊長は、この戦いで最も苦しみ、傷つき、
 それでもなお、私達に希望を与えつづけてくれたんです……だから」
 一呼吸おいて、
「だからもう……これ以上自分から傷つくような真似は、しないでください……」
 吹きぬける、一際強い風。
 サァッと、木々の葉を揺らし、そしてセリアの頬を伝う水滴を押し飛ばした。
「セリア……」
「……本来、隊長が決める事ですのに……こんな卑怯な事、したく無かったですのに……
 すみませんでした……」
 そしてセリアは明人に背を向ける。
 その背中に、明人は、話し掛ける事は出来なかった。
 だが――
「隊長……」
 今まで黙っていたナナルゥが、呟くような小さな声で、語りだした。
「……私は、セリアが好きです……私に、光をくれたから……生きる意味を、
 教えてくれたから……。そして、私は、隊長も……好きです。同じくらい……
 でも、それ以上に……それ以上にセリアは、隊長の事が……」
「ナナルゥ」
 強い語気のセリアの言葉に、ナナルゥはそれ以上言葉を放つ事は出来なかった。
 最後に、明人に一礼をして、ナナルゥも、この場を去っていった。
「……ありがとう、二人共……」
 明人は、その後ろ姿に向かって、小さく言った。
 聞こえたか聞こえなかったかは定かでは無いが、瞬間にナナルゥが振り向いて、
 今までで、一番可愛らしい笑みを、明人に向けていた。

「で、結局お前は行くんだよな、明人」
「直球勝負過ぎだ、空也」
 ここは、明人の寝室。
 時間帯は、大体元の世界で夜中の一時前後だろう。
 あれからまた、三日経った頃だ。
 この部屋にある人影は、全部で三つ。
 一つは窓辺で、コップを片手に月を仰ぐ空也。
 一つは、ベッドの上に腰掛ける明人。
 そしてもう一つは……異様に元気の無い、美紗であった。
 どうやら二人にも、真美は言って回ったらしい。
 美紗の様子からして、記憶から消えるという事も、伝わっているようだった。
「……セリアちゃんみたいな美人に後押しされて、引くなよ」
「……俺はてっきり、お前達なら止めてくれるものだと思ってたぜ」
 はぁ、と空也は溜め息一つ。
「親友だからこそ、お前の性格は把握しているつもりだ。言われるまでも無く、
 いや、オレ達が二人がかりで止めたって、お前は行くんだろ? 四人で」
「……ああ」
「……実質、これがオレ達が三人でいられる最後の夜になるって事かね」
「……あたし」
 ようやく、目に力の無い美紗が口を開いた。
 そして――
「うん。落ちこんでても、仕方ないよね。明人が、そう決めたんだもん。せめて……
 せめて笑顔で送ったげるよ。みよ、この美紗ちゃんスマイルを!」
 無理矢理だとわかる笑顔だった。
 しかし明人は、この上なく、嬉しい気分になった。
 そして同時に、この上なく、寂しい気分にもなった。
 小さい時からいつも一緒で、何をするにも、常に一緒に、同じ時を過ごしてきた、
 絶対的な親友との別れ……。
 そんな関係の人達と別れるのに、寂しくないという奴がいるなら、明人は全力を持って
 そいつの顔面を殴るであろう。
「ああ、そうそう。オレと美紗は……この世界に残る事に決めた。まだ、
 オレ達もやり残した事あるからな」
「な――ッ! じ、じゃあ来夢は」
「慌てないの、明人」
 スッと立ちあがって、明人の目の前までやってくる美紗。
 同時に、空也も美紗の隣りに立つ。
「この世界で、一番成長したの、誰だと思う?」
「オレは、来夢ちゃんだと思うぜ?」
 確かに、としか思えなかった。
 明人はこの数日間で、あの来夢が――人見知りの極端な来夢が、アセリアやエスペリア、
 ウルカを姉と同じように慕い、年少組とも仲良くやっていて、レスティーナとも
 楽しそうに話しをしていた。
 もう、来夢は明人の知っている、か弱い来夢ではなかった。
 強く、強く成長した、一人の女性であった。
「まっ、オレはイースペリアの復興とマロリガンの復興を掛け持ちせにゃならんし。
 それにお前達が帰ってくるまでの、時間稼ぎをしにゃあかん」
「あたしも空也と一緒でデオドガンの復興も手伝わなきゃだめだしね」
 今度は、本当の笑顔だった。
「んでだ。記憶から無くなるっつても、物が無くなるっつうこたぁないだろ」
 空也は、明人に何かを投げつける。
 思わず受け取ったそれは、空也がいつも首から下げていた、数珠だ。
「一応、オレ達の友情の証として、最高の親友として、受け取っておいてくれ、明人」
「……ああ。大切に、するに決まってる」
「んじゃ、次はあたしね」
 もぞもぞと美紗はハリセンを構える。
「……何してんだいったい? 俺をこの場で殺すのか?」
「あたしは、形に残る物を渡しておくなんて事しないわ。明人が、ずっとあたし達の事を
 憶えていれば、この友情は壊れないと思うの。だから」
「だ、だから?」
 冷や汗が、背中を伝った。
 しかし、いつもの恐怖は、そこには無かった。
「だからあたしの根性ハリセンの痛み、その体に刻み込んどいてあげるよ!
 さあ、歯ぁ食いしばって! せーのッ!」

「このあほんだらぁあああッ!」

(はぁ……まったく、とことん不器用なのね、あなた)
 澄んだ女性の――『空虚』の声。
 明人の部屋を後にし、美紗は空也と別れた後、スピリット館には戻らずに、
 周辺の森の中にある小さな丘で夜空を眺めていた。
(最後の別れ、ホントに今のでよかったのかしら?)
「うっ、うるさい! いい、のよ……グズッ……これであいつは、あたし達の記憶から
 消えて、もう、思い出す事なんて無いんだから……!」
(……やっぱり、不器用なのねぇ……ふん、からかう気にもなれないわ)
「うぅ……」
 美紗は、自分の心に『あるもの』を感じて、今うなだれている。
 しかしそれは、二つ一緒には得られないもの……だとわかっていても、
「明人……」
 明人の存在が、ドンドンと大きくなっていく。
(……もう、私はあなたの保護者じゃないのに……ミサ)
「なによぅ……」
(好きなんでしょ? あの『求め』の主の事が)

「いつつ……本気で、顔面引っ叩きやがったよあいつ……」
「はいは〜い、ちょっと傷口見せてくださいね〜、アキトさ〜ん」
「……この際ツッコミは入れないから、とりあえず治すのはやめてくれ、ハリオン」
 本当にいつのまにか隣に腰掛ける不思議天然お姉さん系グリーンスピリット、
 ハリオンが『大樹』を片手に神剣魔法の準備をしていた。
「冗談ですよ〜。ほら、ヒミカさんも入ってきて。アキトさんに、言いたいこと、
 代表して伝えに来たんですから」
「……失礼します、アキトさん」
 木製の扉が鈍い音を立てて開くと、ヒミカが、戦場に立つような険しい面持ちで
 明人の部屋へと入ってくる。
「手短に、お話しいたします」
「……そうか。それじゃあ、頼むよ」
「はい……私達に、アキトさん達を止める権利はありません。ですから、
 なんの憂いも残さず、行ってください」
 本当に、短かった。
 しかし、実直なヒミカだからこそ、これ以上言葉は使わないのだろう。
 これが、スピリット隊の全員の総意だったことは確かだろう。
「わざわざこんな遅い時間に、ありがとうな。ヒミカ、ハリオン」
「いえ、そんな事ありません。アキトさんの……アキト殿のためでしたら……」
「あらあら珍しいわねヒミカさ〜ん。口調が、昔に戻っていますよ〜。まったく、
 嘘をつくのが相変わらず下手ですね〜、ヒミカさんは〜」
「え――ッ!? あっ、そ、その……ハリオンッ!」
「……そうだな。一つだけ、今のヒミカ達の意志に、意見を言わせてもらってもいいかな」
 えっ、とヒミカとハリオンは明人を見つめる。
「止める権利は無いといったが……そんな事、誰が決めた? 少なくとも俺はあると思う。
 なんていたって」
 一呼吸置いて明人は、頬を緩めつつ、言った。
「みんな俺の大切な……大切な、仲間なんだからな」

 ――寝た気がしないな……。
 明人はそんな事を思いつつ、ついに訪れる、『門』が開く朝を向かえた。
 昨日はネリー、シアーとヘリオンの年少組に連れられてピクニックに出かけたり、
 それから帰ってきたらアズマリアに絡まれ、そして、入浴をしている最中に、
 ファーレーンとニムントールが背中を流すといって乱入してきた。(ちなみに、最後のが
 一番意外過ぎて鮮明に記憶に残っている。ファーレーンは結構スタイル良好、と)
「……せっかく目が覚めたんだし、ちょっと散歩すっか」
 雑念を振り払うかのごとく、明人は頭を左右に振りながら身を起こした。
 着慣れたラキオスのまっさらな軍服を着込み、明人は、朝の日が顔を出しかけた中を、
 歩き出した。

 目的地は、あの中庭だ。
 今晩、ここで、来夢を元の世界に戻るための儀式が行われる予定になっていた。
 明人はただ、何をするわけでもなく、ベンチに座っていた。
 当初の目的は散歩だったのだが、なんとなく、そうしたい気分になった。
「……お兄ちゃん」
「……おはよう、来夢」
「うん、おはよう、お兄ちゃん」
 短いやり取り。ごく自然に、二人はコミュニケーションを取っていた。
「今日は、早いんだな」
 明人が訊くと、
「お兄ちゃんこそ。元の世界でもこれぐらい早く起きてくれると、嬉しいんだけどね」
 クスクスと、小さな笑い声と一緒に、来夢の返事。
「……やっぱり、残るんだよね……」
「……ああ」
「お兄ちゃん」
 いつになく、真剣な表情をした来夢が、明人に寄ってくる。
「あのね……ずっとあたし、言いたい事があったの」
 ベンチに腰掛ける明人の両頬を、後ろから小さな手で、包む様にして
 自分のほうに向ける。
 そして――
「あたし……ずっと、お兄ちゃんの事好きだった……妹としてじゃなくて、
 一人の、女性として……ずっと、ずっと……」
「来夢……」
「だからお兄ちゃん……最後に、あたしと……」
 それ以上は言わず、行動で示す事になった。
 明人は立ちあがり、大きな瞳を閉じ、その行為を待つ少女への正面に立つ。
 その小さな体と目線を合わせ、明人は、唇を重ねた。
「ん……」
 短いキスだった。
 しかし、来夢は、満足したようだった。
「……えへへ、ありがとう、お兄ちゃん……これでもう、あたし、寂しくないよ……
 寂しく、ないよ……」
「……ゴメンな、来夢……」
 小さく振るえる体を抱き寄せる。
「うっ……うぅ……ッ! お兄ちゃん……ッ! お兄……ちゃん……ッ!」
 押さえていたのだろう。この感情を。
 ようやく開放され、その反動で、感情が溢れ出てしまっているのだろう。
 今の明人は、その少女を、優しく抱きしめてやる事しか出来なかった。
 自らも惜しむように、優しく……

 時間というものは、意外と早く流れるものだった。
 少なくとも、明人はこの日だけ、通常よりも何倍も早く時が流れたような気がした。
 最後に、来夢のお別れパーティーをした。
 そこでエスペリアが、本当の妹との別れのように泣き崩れたり、アセリアも寂しそうに
 来夢の袖を引っ張っていた。
 ウルカも、同じくだった。
 そして今、来夢はハーミットの作った機械の輪の中心に立っている。
 たった一人で。
「よし……装置は安全に起動中。真美さんの力があれば、百パーセント、
 元の世界に帰れるよ。ほれ隊長さん……本当に、最後のお別れだ。いっといで」
 ハーミットに促され、明人は来夢の元へと向かった。
「お兄ちゃん……今まで、本当にありがとう……」
「それはこっちのセリフだよ、来夢……これを」
 首から明人は、『求め』の欠片のついたペンダントを外し、来夢の華奢な首周りにかける。
「これからどんな事が起きようとも、あいつが、きっと護ってくれる。
 俺の……最高の相棒がな」
「これ……飛行機事故の時、助けてくれた……」
「……そうだ。こいつのしぶとさは、俺以上だ。だから……」
 光の粒子が、辺りに立ち込め始める。もう、時間はほとんど無い事を示しながら。
「あたし、お兄ちゃんの事忘れない……絶対に、何があっても、ずっと……
 ずっと憶えてるから……ッ!」
 頬を涙で濡らしながら、来夢は言った。
「ああ、俺も、絶対に忘れない! 来夢……ッ!」
 明人も、それと同様だった。
「あたし、幸せだったッ! お兄ちゃんと出会えて、お兄ちゃんと一緒に暮らして」

「本当に……幸せだったよ……」

「だから、またね……あたしの……」

「あたしの……大好きな――」

 最後は、お互いに笑顔だった。と思う。
 明人は、笑顔を作ったつもりだったし、明人の視界に入ってきた、消える瞬間の
 来夢の表情は、笑顔だった。
 明人は足に力が入らず、その場に腰を落としてしまった。
 どうしようもない虚無感があった。
 これでもう、二度と来夢と出会う事は無い。
 そう思うと――……いや、しかし明人の心はすぐに立ち直った。
 胸を張って、戻らなくてはいけない、と明人は思う。
 こんな落ちこんでいる自分は、来夢の思ってくれた、自分じゃない。
 ――さあ、こんどは自分の番だ!
 明人はそう心に決め、新たなる一歩を、踏み出す。

 そして、全てが寝静まった頃――
「アキト君……これで、さよならなんだよね」
「レスティーナ……」
 明人と対峙するのは、ラキオス王国女王、レスティーナ。
 全てを真美から聞かされた上での、対話だった。
「ホントに、初めてだったんだよ。あたしが人を好きになったの。でもね、
 いかないで、なんて我侭は言わない。だって、辛いのはあたしだけじゃないもん」
 スッと小指を出すレスティーナ。
 何を意味するかは、明人にはわかっていた。
 明人は無言で、自分の小指を絡める。
「あたしは……絶対にアキト君の事を……大切な、大切な人のことを、忘れません」
 そして、離れる。
 名残惜しそうに、ゆっくりと。
「さよならは、言わないよ。またね、アキト君」
 大きな月から放たれる、青白い月明かりが、レスティーナのこの表情を……
 酷く、美しく見せてくれた。

 笑顔のレスティーナに見送られ、明人はまず、
「アセリア、入るよ」
 ノックを二つして、アセリアの部屋へと入っていった。
 そこには、甲冑を装備し、手には永遠神剣第七位『存在』を持つ、
 ラキオスの蒼き牙がごくごく自然にたたずんでいた。
「ん……準備は、出来てる。行こう、アキト……」
「……ホントに、いいのか?」
 あえて、明人は訊いてみる。
 ほんの数時間前にも、同じ質問をしていた。
 皆に忘れられるのは、本当に辛い事だ。
 趣味が同じで仲が良くなったセイグリッドや、妹みたいな存在になっていたアリアなど、
 今のアセリアには親しい間柄の人達も少なくはない。
 だが、アセリアは数時間前と、同じ答えを出していた。
「ん……これで、いい。あたしは、アキトの事が好きだ。ずっと、一緒にいたいと思う。
 アキトと一緒にいられるなら、あたしは、どこまででもついてく。
 それに……ここで行かなかったら、あたしはアキトの事を忘れてしまう……
 そっちの方が、辛い」
 どこまでもまっすぐに、明人に感情をぶつけるアセリア。
「……それは別に、アセリアだけじゃありませんよ、アキト様」
「そうです。手前達はもう、立ち止まる事など考えていません……アキト殿と、
 共に生きれるというのならば」
 いつのまにか、残りの二人もやってきていた。
 エスペリアもウルカも、それぞれの瞳に迷いなど無い。
「わたしも、アキト様の事を心からお慕いしています……今一度、剣を捧げれる
 唯一のお方は、あなたしかいません……」
 胸に両手を当てて、今一度、思いを確認するエスペリア。
「こんな手前でも、アキト殿を思う気持ちは引けを取っているとは思っていません……
 アキト殿に救われたこの命……最後まで、お預けいたします」
 真っ赤な瞳に、その思いを込めて明人を見つめるウルカ。
 三人の気持ちは全て、本物だとわかった。
 だからもう、明人は何も言う事は無かった。
「……わかった。さあ、行こう。これからが、俺達の本当の戦いだ」

 ここはラキオスのとある森の中、といった表現が適切だ。
 その森のほぼ中心地。その部分だけ、上空から見てみるとぽっかり穴が開いたように
 木々の存在が無い。
 そんな場所に、影が五つ。
「もう、この世界に未練はありませんね? 明人さん」
 その内の一人――真美が、ゆっくりとまず話し出した。
「無いと言ったら、嘘になる……けど俺は、もう一度力を手に入れなくちゃダメなんだ。
 俺は大切な仲間を――そして」
 明人はアセリア、エスペリア、ウルカの順に目線を配り、
「大切な、かけがえのない存在を……護る為の力が欲しい」
 言放った。
「あたしも、この世界と……アキトを護る力が欲しい」
「そして、この世界にいるわたし達全ての仲間と……」
「この地を護る為の力を、手前達は求めます」
「……わかりました」(明人さんの女ったらし)
 何か、ボソリと真美は呟いたように聞こえたが、気のせいとしておこう。
「それでは『時詠』、『時果』よ……」
 真美の周りに、『門』とよく似た光が構築される。
「何処でもない場所……何時でもない時……果てに眠りし偉大なる十三本の神剣のうち」

「知恵を司る、『聖賢』……」
 明人の足元が、光った。

「不変を司る、『永遠』……」
 アセリアの足元が、光った。

「心を司る、『聖緑』……」
 エスペリアの足元が、光った。

「闇を司る、『深遠』……」
 ウルカの足元が、光った。

「我が『時果』により放たれしくさびを、四本が眠る場所――時の迷宮へ我等を、
 誘いたまえ」

「……門よ、開け!」

 最後に真美の足元が輝き、そしてその場には、何も残っていなかった。

                              第二十二話に続く……

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