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第三話 回り始めた運命と言う名の歯車

 多分客間であろう。そこには一人青年がベッドの上に座っていた。
「俺は確か……神社から森に飛ばされて……」
 それは、昨晩疲労によって不覚にも気を失ってしまった明人だった。
 まだ目が覚めて間もないのか少し頭を抱えている。
「そこでなんか少女達に襲われて……逃げて……そしたら」
 記憶が曖昧に残っている。確か、自分を助けてくれたのは……三人の少女だった。
「あの……どうかなさいましたか? エトランジェ様」
 不意に、扉が開く。あの時返り血で顔を汚していた少女……エスペリアが入ってきた。
 緑色のメイド服がよく似合う。じっくり見た明人の感想だった。
 それに、どうにも人殺しができるような雰囲気が感じられない。
「あっ、いや、何でもない」
「そう……ですか」
 短い会話が済み、一旦沈黙がやってくる。
「「それより」」
 二人の声がそろった。まるで、タイミングを計っていたかのように。
「――! あ、あの……」
 思いもよらない事態に、明らかに焦りを見せるエスペリア。
「……そっちの用件からでいいよ」
 エスペリアのかなり困惑している様子を見て、先に明人が口を開く。
「は、はい。王が、謁見の間でお待ちです。すぐにでも来てください」
「……」
 一瞬、嫌悪感をあらわにする明人。
 当然だ。いきなりこんな所へ連れてこられ、早速自分に命令してくる奴に、
 好意的な印象を持てるはずが無い。それに王とはなんだ? ふざけている。
「あの……まだ、体の調子がよろしくないのでしょうか? それでしたら」
 煮えきらない表情の明人にエスペリアが心配して声をかけてくる。
「……いや、体の方は大丈夫。案内してくれ」
「はい。それでは、こちらへ……」
 明人は立ち上がりエスペリアの後をついていく。
 ――来夢の居場所……つきとめてやる……! どこに連れて行きやがった……!

 ラキオス国の城の内部一、豪華な装飾が施されている謁見の間に案内された明人は
 ラキオス王と初対面をはたした。周りには兵士と王女らしき人物もいる。
「ふむ、そなたが……エトランジェか。まだ若者ではないか」
「……この国の王が礼儀を知らないなんて。これじゃ、まともな話しは期待できないかな」
 あくまで強気な態度を全面に出している明人。嫌悪感もそれにプラスして。
「貴様ッ! 王に対して何たる無礼を!」
 その態度を見た側近の兵士が激怒して怒声を張り上げる。
 今にも飛びかかって殴り倒してこんばかりの勢いだ。
「よいよい、これを見てもまだその態度が取れるかどうか……」
 冷静に余裕を持ってラキオス王が兵士をなだめるとすぐに不可思議な言葉を放った。
「なに……」
 そのラキオス王の妙な言いまわしは、明人の聴覚に確実に引っかかる。
「見れば、な。エトランジェよ……おい、例の者をここまで連れて来い」
 王が側近にその人物を呼ぶよう命じる。少しして、側近が連れてきた人物とは……
「――!?」
 明人は目を一瞬疑う。認めたく、なかった。そこにいたのは……
「ら、来夢!」
 側近が連れて来ていたのは、鎖によって手を拘束された、来夢であった。
 兄の姿を見て、ガチャガチャと鎖の音を立てて暴れる。
「お兄ちゃん! いやっ、放して! 放してよ!」
「どうだ、エトランジェよ。なかなかによい眺めであろう」
 ラキオス王がその光景を見て不適な笑みを顔に表す。
 その表情を見た明人は、理性を押さえれるはずが無かった。
「おい……! 今すぐ、来夢を放せ! ふざけんなよ! お前等に何の権限があって、
 こんなことしていやがるんだ!」
 湧きあがる怒りに身を任せ、怒声を上げる明人。
「まだ、そんな態度をとる? いいのか? こんな小娘、消そうと思えばいつでも……」
 自分が優勢になったとたん、余裕の表情が一気ににやけるラキオス王。
 来夢が明人にとってどれほど大切な存在かと言う事に気づいているか気づいていないか。
「く……わかった。俺には、何してもかまわない。だが、来夢だけは……」
 その言葉で明人の意思は簡単に折れた。やはり、来夢の存在は明人の中では大きい。
「聞き分けがよくて助かります、エトランジェ。さぁ、今すぐその少女を放しなさい」
 さっきまでまったく口を開いていなかった王女の最初の一言がそれだった。
 透き通るような声である。同じ親子とは思えないくらい。
「はっ! ただちに」
 それを聞くと、すぐに兵士が来夢を拘束している鎖を外し始める。
「レスティーナ! なにを」
「お父様、もうこの拘束は必要ありません。すでに完全に包囲されているのですから、
 逃げる事は無理だと思います。これ以上はエトランジェへの侮辱としか思えません」
「う……む。ならしかたないな……だが、エトランジェ、我々に従ってもらうぞ」
 正論を実の娘に言われ、言いすくめられてしまうラキオス王。
 この場にいる者の何人かは、レスティーナの言葉を肯定する様に頷いた。
「約束は、守る。だから安心してくれ。俺は約束した事は破らない」
「当然です。むしろ、あなたに拒否権など元々ありませんから」
 ラキオス王に言われていたら、また眉間にしわが寄っていただろう……と、明人は思う。
 この、レスティーナと王女の方が幾分かマシな感じがする。
 俗に言う王族の器量というか、そう言った器の大きさが違う気がした。
 レスティーナの方が、人を束ねる力を持っている。そういった確信が持てるほどだった。
「お兄ちゃん!」
 そんなやり取りをしていると、ちょうど来夢が鎖から開放されて明人に駆け寄っていく。
「ごめんな、来夢……俺のせいで、こんな目にあわせちまって……」
 腹部に顔を埋める来夢の頭をそっとなでながら、明人はすまなそうに言った。
「そんな事……ないよ。あたしは大丈夫だから……ね」
「睦ましい兄妹愛もいいが、そろそろ本題に入りたい。だれか、この娘を連れていけ」
 明人と来夢のやり取りにラキオス王が水を差す。
 本気で舌打ちしてしまう明人。
「では、私が連れていきましょう。ライム、こちらに来なさい」
「あっ、はい……それじゃあお兄ちゃん……またね」
 その言葉を最後にレスティーナに手を引かれながら来夢が部屋から出ていく。
 次に、いつ会えるかわからない挨拶を交わして。
「本題に入る。エトランジェ、そなたには我が国のスピリット隊を率い、戦ってもらう」
「……一つ、言わせてもらう。俺にそんな大役を任される力はない。昨日だって、
 少女にすら抵抗できなかったんだ」
 あの時経験した事を思い出しながら明人は深刻な面持ちで口を挟む。
 明人は来夢すら守る事が出来なかった事を、相当悔やんでいた。
「……まだ自分の力に気づいていないのか……それならば、これを持ってみるがいい」
 ラキオス王が兵士に一つ指示を飛ばす。すぐさま、『剣』らしき物が乗った台を兵士が
 持ってくる。
「……? これは、いったい……」
 藍色で、形状は長方形の先端が少し上に曲がった感じでそこにはその形状に合わせて
 三角形の穴が空いている。一目見ただけではかなり無骨な感じの剣だ。
 明人はそんな事も言いつつも自然と剣を握る。まるで、何かに導かれるかのように……。
 記憶をまさぐると、森にいた時、自分が持っていたものだとわかった。
 握る手に、荒い布の感触だけが伝わってくる。
「詳しく知りたいならば、その剣自身に聞くがよい」
「は? この剣――! うわっ――!」
 明人が訊き返そうとした瞬間に、脳に直接情報が送り込まれていく。

 この世界の事。
 『マナ』という限られた資源をめぐり、国同士が無様な戦いを繰り返している。
 それが、さらに自分たちの首を締めている事にも気づかずに……。

 スピリットの立場の事。
 彼女達は人に逆らう事ができず、戦場に駆り出され散っていくだけの存在。
 昨晩襲ってきたのも、助けてくれたのも、このスピリット。

 永遠神剣の事。
 スピリットと……自分、エトランジェだけが持つ事が出きる世界で絶対的な力の象徴。

 そして今、自分が置かれている立場についても詳しい情報がわかってくる。
 この剣を振るい、敵を薙ぎ倒し、マナを手に入れ、そして……。

 そういった事が、明人の脳に直接伝わってきた。
「この……この永遠神剣第四位『求め』が、俺に……」
 いつのまにかこの永遠神剣の名前までわかっていた。
「ほほぅ、さすがはエトランジェ……一度剣を手にしただけでそこまで扱えるとはな」
「それで……来夢の事なんだが」
 歓喜の声を上げているラキオス王に対して明人がこれからの来夢の事について訊く。
 この場でこいつを叩斬ってろうかと思ったが、もう一つ『求め』が明人に教えた事。
 王族に、逆らう事は決して出来ない。それが明人の衝動を押さえる唯一のもの。
 この事が無かったら、この場にいる全ての人間を殺し、
 来夢を連れて飛び出している所だ。
「心配する事はない。エトランジェ殿がよほどの過失をしない限り客人として丁重に
 扱うことを約束しよう」
「……わかった。で、俺は隊長として何をすればいいんだよ」
「その事だったら、そこのスピリットにでも訊け。初陣の準備は整っておる。
 この作戦に一番詳しいのはあれだからな。おい、こっちへこい」
「ここに、ラキオス様」
 扉付近で待機していたエスペリアが音もなく近づいてきた。
「うむ。エトランジェの事を頼んだぞ」
「はい……それではアキト様、こちらです」
「ではラキオス王……失礼します」
 来たときと同様、エスペリアに手引きされて明人は謁見の間を出ていく。
 敬う感情なんて、少しもこめちゃいない表だけの敬語を残して。

 ゆっくり、ゆっくり明人とエスペリアは廊下を歩いている……すると、
「あの……アキト様、今回のあの方……ライム様の件ですが……申し訳ありません」
 エスペリアが急に謝り出す。……その謝る理由は、明人も理解していた。
 いや、先ほど理解したというのだろうか。
「別に、謝る事なんて無い……そうしなければいけなかったんだろう?
 スピリットとして……奴隷種族であるために、自分の主には逆らえないのだからな」
 理解してるからこそ、明人はこの少女に怒りの感情なんてまったく持っていない。
「……ですが、わたしは……」
 明人は言葉を詰まらせる……このスピリットの少女の事が、
 エスペリアと呼ばれていたことに気づいた。
「大丈夫だ、エスペリア。……俺は、自分の手でこの状況を打開してみせるさ」
 明人はすべてを理解した上で、自分自身の覚悟を決めていた。
 何とかして、空也と美紗を見つけ出し、来夢を連れてこの世界から帰ってみせる。
 ふと、エスペリアの足が止まった。どうやら目的地に着いたらしい。
 木製の扉のちょうど前だ。
「ここが、作戦会議室です。説明しますので入ってください。他のみなさんも、
 いると思いますから」
「あぁ、わかった」
 エスペリアが最初に入り、次に明人が部屋へと入った。
 中心に大きな机。向かって左の壁にはこの世界の地図らしき物が大きく貼ってある特に
 何の特徴が無い部屋。机の周りにある椅子にも十人ほどのスピリット達が
 座っているだけである。
「みなさん、おまたせしました。この方が、わたし達の隊長となるアキト様です」
 スピリットの視線が、全て明人の元へと集まる。
「……エスペリアの説明どおりだ。隊長としてこれからよろしくたの――」
「うわっはぁ! とぉ〜!」
 明人が簡単な挨拶をしていると……いきなり誰かが飛びついていくる。
 だいたい予想はできると思うが、あえて説明するとオルファリルその人だ。
「あっ! オルファ、何やってるんだよ〜!」
 それを見た青い髪の少女が一人、自分の座っていた席を立つ。
「そうだよ〜アタシだって……やりたかったのに……」
 今度は黒い髪の少女が小さく文句を言う。最期の方は小さく。
「へっへ〜ん♪ やったもん勝ちだよ〜だ♪」
 明人にへばりついているオルファリルが文句を言う二人の少女を煽り始めた。
「なっ……なんなんだ、いったい?」
 スピリット達の意外過ぎる歓迎に驚きを隠せない明人。
 明人が予想していた歓迎は、こんな歓迎とはまったく正反対のものだったのだから……。
 しかし、ここにいるスピリットたちをよくよく見てみると、
 ほとんどが目に光を持っている。神剣に支配されていないらしい。
「みなさん、アキト様が困っているでしょう。さっ、席について……
 はい。それでは今回の作戦について説明していきたいと思います」
 エスペリアが他のスピリット達を制して説明を始める……ただし、オルファリルは
 なぜかそのままへばり付いたままだが。
「今日からちょうど三日後、サーギオスと繋がりのあるバーンライト王国を攻めます。
 ですが、相手も一国……自国か、サーギオスのものかわかりませんが、
 少数のスピリットが確認されています。それをできるだけ捕獲し、国を落とします」
 ラキオス王国は大まかに分けて三つの国の中でも一番スピリットの保有数が少ない。
 そのため、できる限り捕虜としてスピリットを捕獲しているのだった。
 だが、その捕獲されたスピリットは戦力に加えられる事は無い。
「そこの敵スピリットの戦力はどれくらいなんだ?」
「詳しい数はよくわかっていませんが、大体ここにいる数と同じ位の戦力ですね」
 部屋を見渡しながらエスペリアが質問に答える。
「そうか……でも、それくらいの戦力なら負ける可能性は……」
「全然無いね〜♪」
 いつのまにか引っ付く場所を背中へと変えたオルファが、元気よく言葉を放つ。
「そうなのか?」
「うん♪ みんな、と〜っても強いんだから♪」
「いえ、アキト様、オルファ…そうとも言いきれません」
 明かにエスペリアの表情が一変する。さっきまでの緩やかな表情とは違い、
 かなり真剣な表情だ。
「何か、問題でもあるのか?」
「どうして? エスペリア?」
 明人とオルファが同じような反応をする。
「はい…サーギオスには本隊とは別に『遊撃隊』なるものが存在し、その部隊は
 帝国の精鋭が集められているという噂です。もし……もしその部隊が攻めてきたら」
「……間違い無く、返り討ちにあうんだな」
 口で答える代わりにエスペリアはうなずく事でその答えを出した。
 ちなみに、昨晩エスペリア達に襲いかかってきたウルカ・ブラックスピリットは、
 この部隊の中でも最高の力を持っている。
「でも、その事だけに気をつけたら負ける要因はありません。
 今回の作戦については以上です。次に、みんなの紹介をしますね。
 誰から紹介しましょうか?」
「あぁ、それじゃあまず……このさっきから引っ付いてるのは?」
 自分の背中に引っ付くオルファリルを指差し、明人が言う。
「その子はオルファリルです。ほら、オルファ、アキト様に挨拶しなさい」
「は〜い」
 エスペリアにそう言われると、オルファリルは背中から降り、明人の目の前に移動する。
「オルファリル・レッドスピリットで〜す。オルファって呼んで下さい♪ パパ♪」
 前かがみになり上目使いで自己紹介を始める……
「パ――!? なっ、なに!?」
 はたから聞けばかなりの問題発言をさらっと言い放ちながら。
「オルファはオルファで、パパはパパ♪ いいでしょ?」
 さらにオルファリルの追い討ち。こうなったら、もうどうツッコミをいれても
 自分の呼び方は変わらないだろうなと明人は思った。
「あ……あぁ、わ、わかったよ。えぇっと……オルファ」
「はぁ〜い、パ〜パ♪」
 明人にそう呼ばれ、オルファはとても嬉しそうに返事を返す。
 そこに、エスペリアの補足説明。
「オルファは、わたし達の中でも一番小さいんです。ですから甘えたい年頃なんですよ。
 ……でもオルファ、挨拶もそのくらいにしておいて、そろそろ席に戻ってくださいね」
「ほ〜い。それじゃ、また後でね♪ パパ」
 そう言い残してオルファリルは満足そうに自分の席に帰っていった。
「じゃ、次は……ん?」
 明人が部屋を見渡す。すると、一人の少女が目に止まった。
 どこを見ているのか見ていないのかわからないような感じの不思議な目線をしている、
 青色の髪をしている少女だ。
「なぁ、エスペリア、あそこでボーッとしているのは?」
 なぜか明人はその少女の事が妙に気になって、エスペリアつい聞いてしまう。
「あれは、アセリアです。ああ見えても、わたし達の中では一番の実力者なんですよ。
 アセリア、アキト様に自己紹介を……」
 エスペリアに呼ばれてアセリアはやっと明人の方を向く。
「……あたしは、アセリア。ブルー・アセリア……ん……よろしく……」
 そっけない態度に無機質な声でそう言うと、目線をそらす。
「アセリア! すません、アキト様……悪い子ではないのですが……」
「いや、別にいいよ」
 それ以上アセリアの事を明人はエスペリアに言わせなかった。
「は、はい……」
 次は誰を紹介しようかな……と、いった感じで部屋を見渡すエスペリア。
 すると……
「はいは〜い! つぎはあたしの番〜」
「ずるい〜! 今度はアタシの番だってば!」
 オルファリルの先制攻撃から興奮状態だった二人のスピリットを、
 明人達はすっかり忘れていた。
 こうして我先にと自分から名乗りをあげるものもいれば……
「はぁ……バッカみたい。なんでこんな事でそんなにうるさくするかなぁ」
「ホント、何やってるんだか……」
 こうして冷めている者もいる。
 ラキオスのスピリット隊の面々は、個性的な人物が多いらしい。
「あらあら〜。みなさん、元気がよろしいようで〜」
「……」
「まったく……エスペリア殿に迷惑をかけるような真似は……」
「姉さん、落ちついてよぉ……」
 そんなこんなで、賑やかな自己紹介は続けられた。

 数分後……
「……自己紹介も終わりましたし、みなさん、ご苦労様でした。部屋に戻りましょう」
 エスペリアがそう言うと、ぞろぞろとスピリット達が立ち上がって部屋から出ていく。
 そして最後のスピリットが部屋を出るのを見送ると、明人が口を開く。
「いい、まとめ役なんだな。エスペリアは」
「えっ! あ、そんな…そうゆうわけでは…わたしの他にもヒミカさんや
 ファーレーンさんもいますし…」
 その明人の誉め言葉に思わずエスペリアはうつむいてしまう
「……正直な事言うと、俺みんなをまとめる自信無かったみたいなんだ。
 でも、エスペリアがみんなを仕切ってくれて……」
 覚悟を決めた事まではよかった明人だが……隊長という大任を任されたのに少なからず
 不安を抱えていた事をエスペリアに向かってすべてを語り始める。
「……」
 それを、黙って聞いているエスペリア。
 こんな事を話してくれるのは、自分のことを信頼してくれているものだとわかっていた。
 しかし……
「だから、本当に感謝して……」
「アキト様……一つだけ、言わしてください。よろしいですか?」
 エスペリアが明人の言葉を遮る。
「? 別にいいけど」
「どんな時でも……わたし達スピリットはアキト様の剣となり、盾となります。
 その事だけは覚えておいてください。わたし達を、道具として扱ってもらって……
 かまいません」
 急にエスペリアの目の色が変わる。そう、あの敵スピリットを殺した時と同じ……
 寂しそうな目にだ。
「えっ?」
「さっ、みんなも行きましたことですし、わたし達も行きましょう」
 驚いている明人の不意をつくかのごとくエスペリアの口調が元に戻った。
 少し、無理をしている様に見えるが、一応笑顔だった。
「行くって……どこに?」
「わたし達と、同じ館にですよ」
「……はぁ!?」
 基本的に、怒った時以外は物静かな方の明人が大声を上げるなんて、余程の事態だ。
「これからは、わたし達と衣食住を共にし、暮らしていきます。
 アキト様は、わたし達と同じ館です他にも、アセリア、オルファの二人がいます」
 これを聞いた明人は、頭を抱えずにはいられなかった。

 浴場は、館とはまた別の所に建てられていた。
「はぁ〜…いい湯。それにしても、豪華な風呂だなぁ」
 ここ、ラキオスの浴場は大きい。この浴場は、職人が予算の限り作り上げた物だ。
 今、そのこだわりの風呂に入っているのが明人である。側には永遠神剣が置いてあった。
 一度、エスペリアに自分の部屋へと案内され、その時渡された地図をたどり、
 今ここにいたる。
「檜……なのかな? いや、そんな物があるとは考えにくいけど……似てる」
 木の香りが心地よい。明人の言うとおり、檜の香りに近いものだった。
「敷地も、風呂もこんなに広いのか。ここのスピリットはまだまともな――!
 脱衣所……何かいやがる」
 先日の出来事がきっかけで明人は神経過敏になっていた。だからこそわかった事である。
「誰だ! そこにいるのはぁあああ!?」
「パ〜〜〜パ〜〜〜♪」
 勢いよく扉が開かれそこから……素っ裸のオルファリルが突進してきて明人に
 飛びかかってくる。満面の笑顔で。
「パパ♪ パパ♪ オルファのパパァ♪」
「お、オルファ! なんで入ってくる!? 俺、まだここにいるじゃん!」
 あくまで明人はノーマルな人間だ。オルファリルの裸を見たくらいでは
 妖しい感情など浮かんでこない。(あくまでノーマルだからな! By 明人)
「えへへ〜♪ オルファも一緒に入りたかったから入りに来たんだよぉ♪
 パパがここに向かってるの、見ちゃったもんね〜♪」
「ま、まぁ、そりゃそうだが……」
 そうでなくては来る筈が無いであろうな。
「だ・か・ら……オルファと一緒に入ろう? ねっ、ねっ? いいでしょ?」
 オルファリルが明人を一気にまくしたてる。
 それで、承諾するかしまいか考えている明人の元に……
「……ん? なんか他に誰か近づいて……」
 湯煙に紛れて誰かが近づいてくる。
「オルファ、ごめんなさい。遅れ……ん? そこに、いるのは……」
 それは、よりにもよってエスペリアだった。
「!?!?!?」
 どんな姿か、予想はつくだろう。
 明人はそんなエスペリアの姿を見て、目を白黒させる。
「ア……アキ、アキ、アキト……様……?」
 エスペリアも、今にも顔から火を噴出しそうな勢いで顔を赤くする。
 そして、さらに追い討ちをかけるかのごとく……
「エスペリアだけじゃなくてね、他のみんなもよんだんだよぉ♪」
「へっ――!」
 オルファの一言。
 明人が反応する間もなく、浴場にがやがやと人だかりが入ってきた。
 先ほどまで会議室にいた面々である。
「エスペリアさ〜ん、湯加減いかかがですか〜?」
「あれ〜? オルファの他に誰か入ってるの〜?」
 会議室でオルファに続き、騒いでた青色の髪の少女ネリーと黒色の髪の少女ヘリオン。
 スピリットには、それぞれ体の一部が色の特徴を現している。
 この場合、『静寂』のネリーは青色の髪だからブルースピリット。
 黒い髪をした『失望』のヘリオンがブラックスピリットだと言う事がわかる。
「……」
 呆然とした表情をするネリーと似たような容姿のブルースピリット『熱病』のセリアに、
「……なんで?」
 信じられないといった言葉を放つグリーンスピリット『曙光』のニムントール。
 エスペリアを筆頭に、他のスピリット達が入ってくる。
 先ほどから言っているが……まぁ、格好の事はだいたい予想がつくだろう。
「……」
 特に関心なさそうにしている赤色の長い髪をしたレッドスピリット『消沈』のナナルゥ。
「あらあら〜? アキトさんがいたんですか〜。なら、お背中でもお流ししましょうか?」
 少し特徴的な口調をしたグリーンスピリット『大樹』のハリオン。
「こ、これは……あ、アキト殿の趣向でしょうか……?」
 赤色の短髪をしたレッドスピリット『赤光』のヒミカ。
「わかりませんね……でも、わたしは別段恥ずかしいわけではありませんが?」
 黒髪をした、ブラックスピリット『月光』のファーレーン。
「あ、あう……わたしは……恥ずかしいです……」
 ファーレーンの後ろに隠れるようにいるのが、ブルースピリット『孤独』のシアー。
「……ん……」
 そして最期に、アセリアが何の恥ずかしげも無く入ってきた。
 ……これが今日、明人が見た最後の光景だ。
 そして次の瞬間……これはもう、お約束な展開だ。行ってみよう。
「もう……ダメ……」
 その言葉を最後に明人は、鼻血を出して湯船に倒れた。
(なんで……なんでこの国のスピリット達はこうも元気なんだ? ……まぁ、それくらい
 神剣に取りこまれてないから……いいけど……)
 こういう事だけはもう二度と勘弁……言葉には出なかったが、明人は強く願った。

                             第四話に続く…

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