第6話 奇襲
ラキオスとバーンライトの戦争が始まって、早数日。
バーンライト領であったリーザリオは、ラキオスのスピリット隊の猛攻により制圧された。
その知らせを受けたバーンライト王は、防衛ラインの強化のため、リモドアに増援を向かわせた。
リーザリオを制圧してから1日の休憩後、進軍を再開した。
前回の戦闘が初陣だったせいか、俺と悠人は万全とは言えない状態であった。
そのため、前回とは違う、作戦を取ることになった。
前回のものは皆が自己の判断で、臨機応変に対応するための作戦であった。
今回は消耗しているため、チームを組むことになった。
3人一組が2つ、4人一組が1つという振り分けになった。
悠人はアセリア、オルファと組むことになり、俺はヒミカ、ハリオンと組むことになった。
リモドア突入まで、後1時間。
ヒミカ、ハリオンと連携などの最終確認をしていた。
最初は、ヒミカに後衛を任せようと思っていたが、ヒミカは遠距離よりも近距離が得意なので、近・中距離で戦闘するということで決定となった。
全チーム最終の段取りが終わり、後は隊長である、悠人の号令で戦闘が開始できる状況にあった。
悠人の号令。
それと、同時に全チーム指定された場所より進軍を開始した。
今回、チームということを利用し、3方向別々の場所から進軍するという作戦になっている。
俺のチームの担当は、リモドアの、バーンライト側の入り口であった。
ラキオス側で、悠人達が戦闘を開始したことにより、こちら側への警戒が薄くなったところに、突撃をかけた。
警備にあたっている、スピリットは二人。
ヒミカに合図を送り、一気に敵との間合いを詰め、心臓を一突きにする。
相手は気付くことなく、マナの塵へと返っていった。
「奇襲は成功だな」
「そうですね」
「敵さんが、きましたよ〜」
ハリオンが敵の増援を告げる。
敵はブルー・スピリットが3、レッド・スピリットが3、グリーン・スピリットが1と結構な数だ。
「ハリオン、ヒミカいけるな」
「大丈夫、いける」
「いけますよ〜」
こちらが、戦闘態勢に入る前に、敵は神剣魔法の詠唱を開始した。
敵の詠唱から読み取るに、広域魔法の一つフレイムシャワーだ、ならば
「ヒミカ!」
「わかってる」
言うより速く、ヒミカも神剣魔法の詠唱に入っていた。
広域魔法は、時間がかかるものだ、ならばそれよりも発動が早い単体魔法で、唱え終わる前に倒せばそれでいい、そう俺とヒミカは判断し、ヒミカはライトニングファイアの詠唱を開始している。
しかし、敵もバカではない。
そう簡単に唱えさせてくれる訳もなく、ブルー・スピリットがいるという利点を活かし、バニッシュスキルであるアイスバニッシャーの詠唱を開始した。
だが、そんなことをさせる積もりは無い。
「幻想、行くぞ」
『はい』
幻想の力を使い、[白昼夢]により、同時に作り出せる最大数である、6人に分かれる。
その6人がグリーン・スピリット以外の敵に対し、間合いを詰めようとした。
敵からして見れば、急に増え襲ってくる敵。
本物か偽者か、そんな判断をしている暇もなく徹が、6人に対し同時に肉薄し斬撃を繰り出す。
詠唱中の2人以外は、斬撃を防御しようとしたが、防御体制に入り、剣と剣がぶつかる瞬間に、目の前の徹が消えた。
消えたことにより、幻だと気付いた時には、もう後の祭りだ。
詠唱中の無防備な2人、その2人のうちどちらかが、切り殺されるのは目に見えていた。
しかし、それに対応できている、者がいた。
[白昼夢]の幻に、肉薄されていなかった、グリーン・スピリットだ。
そいつは、広域魔法であるフレイムシャワーを唱えている、レッド・スピリットが狙われていると思い、詠唱者の側面より接近する徹の前に割って入った。
グリーン・スピリットには、こちらが本物であると確信していた。
何故なら、ヒミカの魔法はフレイムシャワーを詠唱している者に対して、単体魔法で迎撃し様としている。
つまりは、フレイムシャワーの阻止、それが目的である。
ならば、仲間の魔法がアイスバニッシャーで阻止されるのを助けるよりも、直接肉薄し殺したほうが、効率がいい。
だから、詠唱中のレッド・スピリットのほうに、接近するのが本物だと思った。
しかし、次の瞬間、自分の考えが間違っていたことを見せ付けられる。
接近してきた、徹の斬撃を防いだ瞬間、目の前で笑いながら、徹が消える。
それと同時に、断末魔の悲鳴と共に、アイスバニッシャーを唱えていた、ブルー・スピリットはマナの塵へと返った。
何故と考える暇もなく
「ライトニングファイア!!」
ヒミカの魔法が完成し解き放たれる。
自分の横で、魔法が詠唱中の仲間に直撃し、半身が黒焦げになる。
微妙だが・・・息がある。
「っく!」
倒しきれると思っていた、ヒミカや徹にとっては誤算だった。
生きているとわかると、グリーン・スピリットは、回復魔法の詠唱に入る、仲間を助けるために。
回復魔法を阻止すべく走り出す、ヒミカ、ハリオンの2人。
しかし、その進行を防ぐため、レッド・スピリットの2人が立ちはだかった。
「邪魔!」
「どいてくださいね〜」
2人が、それぞれ、一人ずつに対し、渾身の力で繰り出した一撃。
しかし、その攻撃をギリギリのところで、防ぐレッド・スピリット達。
「マナよ、針となりて、かの者を貫け」
聞いたことも無い、詠唱。
何処から聞こえるのかと、ブルー・スピリットの2人が徹の方を見た時には、魔法は完成されていた。
「[ニードル]!!」
唱え終わると同時に、無数の針状のオーラが、グリーン・スピリットに殺到し突き刺さる。
即死と行かなかったが、回復魔法を妨害した。
負傷した、グリーン・スピリットに止めを刺すべく走り出す徹。
それを、阻止すべく追いかける、ブルー・スピリットの2人。
ハイロゥを使い接近する。
「創生!」
『了解』
剣の形状が変わる、それと同時に
「魔晶石を使うぞ」
『お、実戦初投入だな』
「そんなことはいい、行くぞ」
『はいは〜い』
徹は走りながら、懐より石を取り出す。
その石は、水晶のような透き通った無色透明だ。
追撃してくる二人に対してそれを投げ、それと同時に
「ブリット!!」
力ある言葉を言い放った。
投げられた石は、その言葉に呼応し、数十という数のマナの弾丸となり、追撃してくる二人に襲い掛かった。
速度を落とし、マナの弾丸の迎撃に入る。
しかし、数が多く全てを防ぎきることは不可能だと踏んだ、ブルー・スピリットの2人は、当たれば致命傷になる場所だけを防御する。
手足に何発か当たったが、防ぎきった。
追撃するために動こうとした時、徹が目の前まで迫ってきていた。
「!?」
一瞬の困惑。
それは、徹が相手に肉薄するのには、十分な時間だった。
綺麗な弧を描く斬撃に、なすすべなく、その命を摘み取られていった。
残る敵レッド・スピリットが2、ブルー・スピリットが1。
レッド・スピリットのほうは、ヒミカ、ハリオンの頑張りにより、あと少しで勝負がつく。
ならば、俺もがんばって、終わらさないとな。
目の前のブルー・スピリットは、俺がよそ事を考えていて隙があったにも関わらず、攻めてこなかった。
それは、先程までのことが影響しているのだろう。
この隙が本物なのか偽者なのかわからない、そう相手は考えていたのだ。
そんな、疑心暗鬼に捕らわれた状態では、まともに戦えるはずもなく
「っは!」
嵐のような斬撃を繰り出す徹に、良い様に形勢を整えられ、そして斬撃を防がされた後、
「もらった。ブリット!!」
がら空きになった脇に、魔晶石による無詠唱魔法が突き刺さる。
「っが!?」
直撃した脇腹は、ごっそりと肉を持っていかれ、確実に助からない傷の大きさになっていた。
悶え苦しむ敵に対し、慈悲の剣で貫く。
首を刎ねられ、悶えていた体は動きを止め塵へと返る。
止めを刺し、ヒミカ、ハリオンの援護に行こうと見た時には、決着がついていた。
「トール様も、終わりましたか」
「ああ、ちと手こずったが、なんとかな」
「そんなことないですよ〜、ほとんど全部トールさんが倒したじゃないですか〜」
「作戦上しかたのないことさ。ん?」
空を見ると作戦完了の合図である、赤い光が空へと上っていった。
「あっちも、終わったようだな。いくぞ」
「はい」
「は〜い」
ゆっくりとした、足取りで集合場所に着くと、思わぬ事態になっていた。
「サモドア山道開かれた!?」
俺の第一声はそれだった。
俺は、籠城戦でもしてくるのだと思っていたが、当てが外れたか。
「っ!先に頭を叩くつもりか!!」
「そのようです。ラキオスの守備に残した4人が、迎撃に向かうのですが・・・」
頭の中を一気に切り替え、現状の把握に専念しよう。
そう思い、考えだした。
「・・・・・・・、戦力が足りないんだな」
「はい。予想される敵の襲撃に耐えれるのかが、微妙なところです・・・」
どうする・・・、こちら側も手薄にするわけにもいかない・・・。
「悠人、お前はどう判断する?」
「やっぱり、数人向こう側に行くべきだろ」
「やっぱそうだよな、俺とハリオンで向うの戦力補充に行く、それで良いよな?」
考え込む悠人・・・。
数分の後
「わかった・・・。徹、お前に任せる」
「ありがと。じゃあ休んでる暇はないから、行くぞネリー」
「りょ〜かい」
了解の言葉を聞いてすぐ、俺とネリーは走り出した。
とにかく、間に合わせるんだ、絶対に!
<後書き>
お預けというとか言いながら、即効で創生のスキルを使ったKuroです。
思ってたよりも、長くなってきたバーンライトとの戦争。
本当は次の話で終了予定だったのですが、2話くらい延びるよていですorz
まあ、生暖かい目で見守っていてください(´・ω・`)
毎度のことですが、新技は下記に記載します。
<今回登場した技などの説明>
ニードル
徹の使える、神剣魔法の一つ。
無数の針状のオーラが、敵を貫く神剣魔法。
威力は、それほど高くない。
牽制か敵の神剣魔法の妨害が、主な使用用途。
魔晶石(ましょうせき)
神剣魔法を使うことができる石。
威力は実際、詠唱して使ったほうが高いが、魔晶石の場合、無詠唱で使うことができる。
無詠唱のため以外に、魔法の威力や効果を増幅させるために、使うことができる。
ストックできる最大量は10個であり、それ以上は同時に存在することは出来ない。
生成にも、少し時間がかかるので、戦闘中に生成するのは、困難である。
しかし、生成に慣れていけば、戦闘中にも生成できるようになる、可能性がある。
<使用方法>
魔晶石を投げる時に、キーワードを言うことにより、任意の神剣魔法・もしくは現象になる。
投げる個数と、キーワードの長さで、同時に2個の神剣魔法を発動することもできる。
ブリット
複数の弾丸状のオーラが、敵に向かって飛んでいく。
魔晶石の消費は、1個
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