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「全くもって忌まわしい!」



 吐き捨てるようにラキオス王は虚空を睨みつけていた
 理由は、つい先日に行われた"エトランジェ"との謁見

 自らの利を示すはずが立場が逆になってしまい、あまつさえ指揮権すら譲渡してしまった

 問題はそれだけではない。それに反応するかのように幾つかの上級貴族が動いたのだ
 結果的には何も起こらなかったが、これを期に反乱でも起これば溜まったものではない



「何故だ。何故あの"エトランジェ"には制約が効かんのだ!」
「父様、何故そこまでこだわるのですか?あの者は条件を満たせば協力すると言っているのですよ?」

「レスティーナよ。お前もあの"エトランジェ"に毒されたか?四神剣の伝承を忘れたわけではあるまい!」


 四神剣―『求め』『誓い』『空虚』『因果』
 かつての大戦で戦局をも左右させ、国すらも滅ぼす力を持つとされるこの世界の最上位の神剣

 ラキオスは過去に『求め』のシルダスを"エトランジェ"として使役している為
 その力は事細かに伝承されていたのだ



「"エトランジェ"はスピリットと同じく我らに忠誠を誓えば良いだけの存在なのだ」
「……………」
「それを……それを!"エトランジェ"の分際で!」


 ヒートアップしていく父親の怒る姿にレスティーナは哀れみの念すら覚えていた

(小心者………)


「……では、私をあの"エトランジェ"と話をさせてください」
「何?」




 思わずラキオス王は眉を歪める



「"エトランジェ"は条件を提示してきました。それを逆手に取り、ラキオスに忠誠を誓わせましょう
 それに、"エトランジェ"ならばハイペリアの話も聞けるでしょう」

「ふむ………まぁそれも良いだろう」
「ありがとうございます」
「王女として、間違いは起こさぬようにな。"エトランジェ"を上手く引き込むのだ」
「はい、父様」



 レスティーナは視線だけを父から離し、あの"エトランジェ"―ユートのいる詰所をみつめる

 これで少なくとも父様が下手に動いて"エトランジェ"に暴れられる事は防ぐ事ができるだろう
 それで、あの"エトランジェ"が苦しむ事もなくなるはずだ



 レスティーナがホッと胸を撫で下ろした時






「敵襲!敵襲です!ラース方面に所属不明のスピリットが現れました!!!」






 少し日が傾いた刻限
 敵襲を知らせる警鐘がラキオスの街に響いた














永遠のアセリア

-The Spirit of Eternity Sword Returns-

もう一度、あの場所で


第一章「再開」

第三話「鬼神」















「ラースに襲撃!?どういう事だ、それ!」
「先程の警鐘はそれです。国籍不明のスピリットがラースに襲撃をかけている、と」



 エスペリアの報告を聞きつつ、俺は謁見の間に急ぐ



「アキラィスは既に占拠されてしまっているようです。現在、ラースで哨戒任務についていた
 我が国のスピリットが迎撃していますが、敵の数が多すぎます」
「哨戒任務についていたのは?」

「オルファリル=レッドスピリットとセリア=ブルースピリットの二名です
 神剣魔法を警戒してかブルースピリットの存在が多く確認されています」
「ちっ!」



 どうなってんだ。前回と比べて侵攻時期が早い、いや早すぎる

 …………俺が干渉したのが原因か?
 未来が変わりつつあるとでも言うのか?


 くそ……………



「急ぐぞエスペリア。ラースに間に合わなかったら何にもならない!」
「はい!」










 *     *     *










「"エトランジェ"よ。国籍不明のスピリットがわが国に進入した
 恐らくはバーンライトの兵だろう」



 二度言わなくてもこちらは既に把握しているんだがな



「今現在、首都ラキオスに残っているのはエスペリア=グリーンスピリットとエトランジェ・ユートのみ
 即座にラースに向かい、施設を奪還せよ。犠牲者が出ても構いません。コンバーターはそなた達の命以上に
 重いものなのですから」

「はっ!この身がマナの塵と消えるまで戦いましょう」
「それでこそ…………我が国のスピリット」



 レスティーナの言葉にエスペリアが返す
 これも演技……だと信じたいところだな



「いや、待つのだレスティーナ」



 王がレスティーナを静止させる



「この任務、エトランジェ一人にやらせてみよ。あれだけの大口を叩いたのだ
 この程度の任務など片手間だろう?エトランジェよ」


「………何?」
「父様!国の存亡に関るのですよ!?そのような酔狂な真似を」

「だからこそだ」



 もったいぶった様に王は続ける



「首都からスピリットを全て送り出し、もぬけの殻にするのが狙いだったらどうする?
 保険はかけておくべきだろう?よってエスペリア=グリーンスピリットには首都の警備を任ずる
 他の都市を哨戒しているスピリットも同じだ」



 確かにその見解は間違いではない
 俺のように未来を知っていなければ
 ラースが囮でこちらが動いたその隙に攻め入るという可能性は思いつくだろう



「これに成功すれば、貴様の言った指揮権の譲渡を行ってやろう
 ただし、スピリットに損害を出してはならんぞ」



 だが、時と場を逸した判断は良策なんてものじゃない
 無駄に命を散らすだけだ



「依存は無いな?」
「…………確かに、俺一人でも殲滅は出来るだろう」

「本当ですか?ユート様」
「あぁ、だが肝心のエーテルコンバーターが破壊されていたとしても応急処置も出来ない
 それにスピリット達が負傷していても俺は治癒系の神剣魔法が使えない。よって、その提案は拒否する」



 そう、生憎俺は治癒系の知識が全くと言って良いほどない
 せいぜい強制的にマナを流し込んで自己治癒力を高めるくらいだろう



「ほぅ。で、それがどうかしたか?」
「聞いていなかったのか?」



 ニヤリ、と王は下品な笑みを浮かべた



「これは貴様の力を大陸に広める為でもあるのだ。バーンライトやダーツィの走狗には良く効くだろう」
「……くだらない。エスペリア、行こう。もう時間が無い」



 時間が惜しかった
 セリアやオルファの実力を信じていないわけじゃないが、いかんせん多対一ではどうしようもないだろう

 だが、王はニヤリと粘っこく笑うと切り札、とでも言うようにそれを口にした



「逆らった場合、貴様の条件とやらは飲めぬな」



「…………レスティーナ」
「なんでしょう?」

「これが終わった後、俺の提示した条件を受けてくれるのか、問いたい」
「父様は既に了承しているようですし、否定する要素はありませんね」
「なら、良い」
「それとは別に、一区切りついた後私の部屋に来てください」
「それは……………父親の援護のつもりか?」



 ドンッ!!



「儂を無視するとは良い度胸だ!!
 貴様なぞ、『求め』が無ければゴミだろうが!!!」



 少ない理性が完全に無くなったのか、王は真っ赤な顔で喚き散らす
 それは単なる子供の癇癪と何も変わらなかった



「その言葉、そっくりそのまま返す
 王と言う肩書きが無ければ、ゴミじゃないか。……人としてな」


「な、何だと!?戦局も見えぬ若造がえらそうな口を!!」

「ラースを抑えられれば、それはラキオスにとって死刑宣告と同義だ
 ……………だがな。
 くだらない自己顕示欲に呑まれ、そのラースを見捨てようとしてるのは貴様だろうが
 それで果たして、戦局は見えているのか?」



 吐き捨てた
 くるり、と踵を返すと俺はそのまま謁見の間を後にする

 後ろで王が歯軋りでもするような音が聞こえてくる
 滑稽だった

 扉が音を立てて閉まる
 そして、完全に閉まったと同時に、俺は全速力で翔けだしていた










 *     *     *










 ドン!!



 突然爆炎が上がる
 広大な森の反対側から……ラースの方角からだ


 ドォン!ドォン!!


 続けて何度も爆炎が上がる



「広範囲呪文……………。やはり敵の数は削れてないか」



 おそらくはオルファの神剣魔法だろう
 だが、その間隔も爆炎の距離も徐々に狭まっていく

 ぐずぐず地べたを走っている暇は………無い



「よし。リハビリがてら、お前の力がどのくらいのものか試させてもらうぞ!バカ剣!」
【………良いだろう】
「よし、途中でへばるなよ!!」



 そう言うと俺は『求め』を力強く握りなおす

 足元にオーラフォトンの魔法陣を顕現させ
 周りのマナを、自らのマナをオーラフォトンに変換し身体中に漲らせる

 魂は限りなく昂ぶり、だが限りなく澄み切っていた

 足の裏側でオーラフォトンを爆発させ、踏み抜くと同時に遥か上空へと舞い上がる
 そして俺は宙を奔る

 オーラフォトンのフレアを背負い
 一筋の閃光となって

 そのスピードはブルースピリットのソレを遥かに上回っていた



「……………無茶するなよ……………」



 誰にとも無く
 加速して全てが線に見える世界の中で俺は一人呟いた










 *     *     *










 ギィン!



「くぅ………ッ!」
「こっのぉ〜!!いっけぇ〜ふぁいあぼると!!」



 危うく『熱病』を弾かれそうになるが、何とか受け流す
 援護に放たれたオルファのファイアボルトはバニッシュされたが、ひとまず距離を開けることには成功する

 既に戦闘が始まって5時間以上が経過していた

 多数の部隊で波状攻撃を仕掛けてくる敵に対し、
 二人しか居ないラースの守備はあまりにも分が悪かった



「セリアお姉ちゃん!」
「大丈夫、まだ行けるわ」



 抜かれれば、ラースが落ちる
 たくさんの人が死ぬ
 そんな使命感ともいえる気力がかろうじてセリアを支えていた



「くッ!」



 目の前を見据えれば、今凌いだ部隊は交代したが新たな二部隊が進行してくるのが見て取れる
 セリアの『熱病』、オルファリルの『理念』既に両方とも僅かなマナ残量しか無い



「オルファ、良く聞いて。あなたは今すぐ此処からラキオスに戻って」
「え? でも、お姉ちゃんは!?」
「良いから退きなさい!神剣魔法が通用しないならあなたが此処にいる意味は無いの!!」

「で、でも……………」



 言いよどむオルファ



「足手纏いなのよ。今のあなたじゃ」
「…………」



 オルファリルはまだ幼い。こんなところで死なせるわけにはいかない
 そして、実際オルファをサポートしている分を抜けばまだセリアも僅かな時間闘うことができる

 ズキリ、と胸が痛む
 こんな言い方しか出来ない不器用な自分をセリアは呪った







「―ッ!?」







 目を伏せたその一瞬が命取りだった



 一体のブラックスピリットがこちらに向かってくる

 そして、自分と相手の間にはオルファがいる


 無意識に、反射的にオルファを抱きしめ相手から庇うように立つ
 『熱病』で申し訳程度の障壁を張る


 来るべき衝撃に備え―――



「な、に……………!?」









 だが、それは訪れず









「遅れてすまん。大丈夫か?二人とも」









 暖かいオーラが私達を包み込んでいた

















「一体……これは……………?」

「無事か? セリア」



 呆然とするセリアの目に映ったのは一人の青年
 針金のように硬そうな髪の毛
 白い上着の下から覗く見たことの無い服

 安堵の色を浮かべる顔はまだ少し幼さを残している

 そして―



「その神剣は………『求め』?と言うことは、あなた。エトランジェ?」
<


 手に持つ無骨な青い永遠神剣
 荒々しく力強く、圧倒的なマナの差をセリアは感じ取っていた



「……今頃になって登場ですか。 良い御身分ですね」

「すまない。王城で一悶着あって手間取った
 オルファは無事か?」

「ぶ、無事だよ〜」

「そうか、良かった。エーテルコンバーターの方に被害は出ていないようだな?」

「ええ。もう少し遅ければ出ていたわね。確実に」

「どうにもキツイね。すまないけどもう暫くここで我慢していてくれ
 俺はスピリットを一掃してくるから」



 さり気なくものすごい事を言う悠人にセリアは目を見開いた
 一人であの数のスピリットを倒せるのか、と言う疑問がよぎる



「ちょっ……!」



 忠告しようと口を開いた瞬間
 セリアの目の前で、悠人の姿が揺らめき、その姿が掻き消えた










 *     *     *











 『求め』を無造作に横薙ぎに振る


 軽い抵抗。それと同時に目の前のブルースピリットの身体は四散していた


 『求め』の能力は『聖賢』の足元にも及ばないがそれにも増して目の前のスピリットの動きは単調だった


 「前」は未だ神剣の強制力に怯え、オーラフォトンも使いこなせず、戦術論等無視した攻撃が悠人には多かった


 そんな中でも「前」の俺は生き残ったのだ。戦う為の技術を得た今の俺の敵ではない







 弧を描く様に飛んできたインフェルノをオーラフォトンの弾丸をぶつけ相殺


 目の前で起こる爆風と爆炎


 強烈な光に全てが白く塗りつぶされる。だが、関係ない


 目を瞑ったまま、炎を突っ切り正面にいた三体を切り伏せる




「鋼こそ我が身体、マナこそが我が導き

 母の意志に背きし我、混沌に属する我が命ず


 マナの安らぎこそ大地にあれ―――」



 即座に神剣魔法を詠唱


「―アンリミテッドロスト」


 『聖賢』の時に得た知識を元に構築したソレを地に向かって叩きつける
 五体のスピリットごと周りの空間を飲み込んで爆砕する





 マナを奪われた大地は砂漠のように干乾び、舗装された道はそこのみが没落し
 飲み込まれたスピリット達の姿は無い



 二次的な衝撃波と共に発生した熱がその光景を揺らめかせる




 その光景が、マナを失い枯れ果て砕けた世界……………俺自身が余波で滅ぼした世界と重なる



 あの時の間隔が蘇る。死と言う崖の上で戦う悦楽

 血に、マナに、力に酔う、狂った自分




「後は……アキラィスだけだな」



 誤魔化すように俺は次の標的に目を向ける

 『求め』の柄を握り締める


   そして、アキラィスに向けて走り出す
 後………6体か……………











 *     *     *











「…………………………」
「うわ〜、つよ〜い」


 オルファの無邪気な声だけがその場で流れた

 圧倒的に不利な状況に置かれていた筈のラースはわずか数十秒でその状況を逆転していた



「あっと言う間に9体のスピリットを……常識はずれだわ」



 それが全て悠人一人の上げた成果だった
 精鋭……どころの能力ではない

 まさに鬼神が暴れ狂うような戦い方にセリアがオルファが
 果ては開放されたラースの住人までもが見入っていた



「あっ」



 『熱病』が伝えていた残り6体のスピリットの反応が消えた
 つまりはアキラィスが解放された、と言うことだ



 身体が震える
 圧倒的な実力に、もはや別次元といっても過言ではなかった








 しばらくして








   夕日が赤く染める道を帰還する悠人に向かってセリアは呟いた








「何者……………なのよ…………。あなたは……………」











サポートスキル:アンリミテッドロスト

 『聖賢』から得た知識を元にファンタズマゴリアとは別の法則を元に構築されている神剣魔法
 本質はマナを奪い去る爆風と衝撃波でマナで構成されたエターナルにとっては致命的となる

 瞬時に効果範囲内のマナを奪い凝縮し今度は物理的な衝撃波としてその威力を発揮する
 ぶっちゃけた話、「オーラフォトンブレイク」や「オーラフォトンノヴァ」の派生系

 ただし、上記が自らのマナを炸裂させるのに対し
 爆発は奪い凝縮したマナの総量により変化する為、扱いは難しい
 下手をすれば威力はかなり低下するがエターナルクラスに対しては有効である



 (〜混沌に属する我が命ず)までが特殊マナの構成呪文であり、そこからは

 (マナの安らぎこそ大地にあれ―――)
 と詠唱し、広範囲の効果範囲を誇る『無限消失(アンリミテッドロスト)」』と

 (マナの安らぎを彼の者へ―――)
 と詠唱しその効果範囲を一点に収束させ、同時にその効果範囲に球状障壁を展開し対象を閉じ込める
 その後球状の障壁内部でマナを奪い、炸裂させる『限定消失(リミテッドロスト)』に分岐する






 後書きと言う名の言い訳

 いや〜。もう夏も終わりですねぇ。なのになんで蚊はこれでもか〜〜ってぐらい活発化してやがるんでしょうか?
 神無月です


 大体において何でわざわざ耳元を掠める様に飛ぶかな
 背筋ゾワゾワで折角落ちてた意識があっと言う間に完全覚醒。安眠妨害もはなはだしいですよ

 あ。でも見方を変えれば受験の時に眠気覚ましにはなるかも知れませんね




 って、蚊の有効利用理論をのっけから展開してどうする私
 まぁ、そんなこんなで第三話。ユート君大暴れの巻をお送りいたしました


 しかし、書いてての感想としてはオルファが書きにくい!
 日常はともかくシリアスしかも脇役であの口調を持ち出すのは結構難しかったです

 いやまぁ、作者の力量もありますが……………うぅ・゜・(ノД`)・゜・。

 な、何はともあれさておいて。それではまた次回またお会いしましょう
 今回死に落ちは無しの神無月でした(ぇぇぇ





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