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 頬には冷たい土の感触
 どうやら地面に投げ出されているらしい


(く……………身体が……………)



 体を起こそうとするが四肢がまったく動かない
 それどころか、瞼を開ける事すら出来ない
 魂と肉体をつなぐ糸が切れているみたいな感触だ



(ここは……どこだ?まさか天国とかはないよな?)



 あの世界を巻き込んだ『マナ消失』に巻き込まれた後のことは覚えていない
 ユーフィと一緒にその爆発に巻き込まれてどうなったんだ?
 『門』はまだ開いていなかったしな……………



「……………ッ!そうだ!ユーフィは!?」



 そうだ、俺が此処にいるならユーフィはどうなった!?



【……………案ずるな、死んではいない。場所は解らぬが、この世界に飛ばされた事は確認している】



 頭の中に『聖賢』の咎めるよな声が響く



「無事なんだな!?なら今すぐ合流を―」
【……………案ずるな、と言っただろう。だいたいにおいて、お前は自分が今置かれている状況を理解しているのか?】



 何もわかっていなかった
 ずるずる、と地面を這って巨木の一本に背を預けるとゆっくりと瞼を上げる


 まったく。たったこれだけの動作で体中が痛い。手酷くやられたもんだ


 辛うじて開けられた目には暗い森の光景が映った



「……ん?」



 見える景色はただ一面の森。それだけのはずなのに何処か懐かしさを感じる



(何故だ?デジャビュってヤツか?)



 違う



 自分で自分を否定する
 デジャビュ等ではない。確実に俺は此処を知っている。そんな確信が心の中で生まれる

 葉摺れの音さえ、懐かしく
 俺の心を揺さぶる

 あの大地で過ごした日々が。当に死んでいるはずの仲間達との思いでが蘇る

 違う…………絶対に違う。夢の筈だ、これは
 早く目を覚ませ、俺



【夢などではない。我とお前が契約した世界。お前の言葉を借りれば―――】
「ファンタズ……マゴリア…………?本当なのか?」



 『聖賢』から肯定するような意志が送られてくる



「ハハ……もう来ないと思ってたのにな…………」



 アセリアと出会った地。同時に共に戦った地であり、そして共に旅立った地だった



「くそっ!」



 思いっきり頭を振った。次から次へと際限なく思い出が掘り返されていく
 
 全部復讐を決意した時に捨てたはずの思い出

(ロウだのカオスだのそんな理屈など関係ない。余波だ、故意に世界を壊したわけじゃない、なんてそんな言い訳は通じない。それだけの事をしたんだ。今の俺に幸せを求める権利なんて無い。それなのに……………)

 止まらない、思い出。目を閉じて俯く
 情けなかった。 悔しかった。 憎かった

 未だそんな思い出に縋り付こうとするなんて……………なんて情けない男だ。俺は

(ちくしょう……)



【ユウトよ。……………もう一つ、伝えねば成らぬ事がある】
「…………………………」



【重要な事だ。我の姿を見よ。それで全てわかる】



 俺は動かない
 見かねたのだろう。『聖賢』はひとりでに浮き上がり俺の頭上で静止する


 ゆっくり顔を上げる

 目の前にあるのは見慣れた白銀の優美な剣……………ではなく






「その姿は…………『求め』!?そんな馬鹿な…………!」






 思わず声を上げる

 訳がわからない
 そうだ、ありえるはずが無いじゃないか、『誓い』との闘いで『求め』は砕けたんだ
 そもそも、砕けていなければ俺は『聖賢』を手にしていないはずだ



「どうなってるんだ?……………これは」

【我は今、時果ての間に身を置いている。精神結合が切れていないのが幸いだった
 お前の波長を探しちょうど近くにあったこやつの身体を借りたのだ下級神剣の体を使うのはいささか抵抗があったがな】
「……………と言うことは『求め』を再生させたりとか『聖賢』が化けてる訳じゃないんだな?」



 砕けた神剣は再構成されない
 上位永遠神剣なら話は別だが第四位、それも吸収された神剣が元に戻る事は考えにくい
 唯一考えられるのは、あの時残った欠片を使って誰かがよみがえらせたと言う事だが――


【無論だ。こやつを探ってみたが、お前との記憶は見つから無かった。おそらくはその神剣が砕ける前に時を遡ったという事だ
 お前がエターナルになった際の因子で元の状態とは多少の変更が見られるが】
「ちょ、ちょっと待ってくれ!時を遡ったって……………」



 混乱する頭を必死で整理する
 とどのつまり、あの『マナ消失』と『聖賢』と『悠久』のマナ、もしかしたら『永遠』も関っているかもしれない

 時を遡るのは初体験じゃない。時深の永遠神剣『時詠』がまさにそれを得意技にしていたからだ
 だが、それとてほんの僅かな時間を遡るのみ。何周期分を遡るなど聞いた事も無い

 だが、この『求め』を見てしまった以上否定は出来なくなっていた



「……………頭が混乱してきたよ。で、その変更になったってどういう事だ?」
【お前がエターナルとなり過去の関係が全て失われた。すなわちお前に連なるものはこの世界に来ていないという事だ】
「今日子とか光陰。後は佳織と……………瞬か………」

【いや、『空虚』と『因果』の持ち主は契約により召還されているようだ。お前との記憶は消えているがな
 付け加えれば『誓い』の持ち主……瞬と言ったが、ヤツはエターナル化した上で倒されている。過去全てから抹消されている為
 この世界には存在していない。お前の義妹はお前との関係が消失したため同じくこの世界にはいない】



 要は、佳織と瞬がいないって事か……………







 ぼんやり、と周りを見つめる








 あの時と、初めてこの世界に来た時と何も変わらない








 当然だ。まさしく『あの時』なのだから








 これで全ては……白紙に戻ったのだろうか?








 俺が今までやってきた事も……アセリアを死なせてしまった事も、全部……………









永遠のアセリア

-The Spirit of Eternity Sword Returns-

もう一度、あの場所で


第一章「再開」

第一話「動き出した運命」












「そろそろ、か」



 チャキッと『求め』を構えて立ち上がる
 俺の記憶が正しければ、レッドスピリットの襲撃があったはずだ



【契約者よ。赤の妖精が近づいてくる。用心せよ】
「あぁ、解ってる」



 『求め』から大体の位置が送られてくる
 注意してみれば、その後を一体のブルースピリットが追従しているのを確認することも出来る

 しかし…………あくまでそれだけの情報だ。所詮は『求め』って事だな


【聞き捨てならんな!契約者よ。我は第四位の神剣だぞ!】


 そう、今俺が持っている剣に『聖賢』の意識は無い
 狂える野獣のように凶悪な意識をこちらに叩きつけてくるコイツは間違いなく『求め』だった


 もっとも、今の俺の印象としてはせいぜい怒ったチワワ位だが











 事の発端は、『聖賢』から状況の説明を受けた直後だった




【ユウトよ。最後に一つ話しておかねばならぬ事がある】
「何だ?」
【うむ。我は今後お前と連絡を取ることが出来なくなる】



 ……………どういう事だ?



【我がマナを消費し過ぎた事は知っていよう。故にお前の元へ戻る事はできん。 
出来たとしてもせいぜい第四位程度の力しか出せぬ】


 自身で言うからにはそうなのだろう。俺は黙ってそのまま耳を傾ける



「ん?でも、戻るだけなら出来るんじゃないのか?」
【戻るだけならば、な。だがお前も忘れたわけではあるまい。この世界の結末を】



 そうか…………ロウ・エターナル。ヤツラの持っている剣は最低でも第三位
 第四位程度の力しか出せない『聖賢』ではヤツラから見れば格好の獲物だろう



【そういう訳だ。そこで我はこれから休眠状態に入る。元の力とまでは行かないものの7割以上は補えるだろう】
「なるほどな。まぁ『求め』ならある程度は戦えるか」
【うむ、すまぬが頼む。聖賢者ユウトよ】
「あぁ、安心して眠ってろ」



 ふ、と静かに笑って『聖賢』の声が遠ざかる
 徐々にノイズのようなもの混じらせて、やがて消えてしまった



「さてと、次だな」



 両手で『求め』を持ち上げる
 確か、前はアセリアに起こしてもらったんだよな



 って、あれ?どうすりゃ良いんだ?
 休眠状態、しかも契約してない状態ではどう呼びかければ良いのか俺は当然の如く知らない

 人間で考えれば物理的な衝撃で起きるんだけどな……



「……………よし」


 とりあえず手近な岩にでも叩きつけてみよう
 もちろん剣の刃ではなく腹の部分でだ

 チラリ、と『求め』を見る
 ……………覚醒前でもコイツなら下手な剣より丈夫だろう


 たぶん、岩の方は砕けると思うが、耐えられると思う……………多分



 キィンッ!!



【いきなり我を砕く気か!!】



 焦った声で覚醒する『求め』



「……………」
【ちょっと待て契約者よ。我は目覚めたのだぞ?なのに何ゆえ未だ我を振り下ろそうとするのだ?】



 見つかったか……………仕方が無い
 無言で、『求め』を降ろしてやる。同時に安堵のような感情が伝わってきた

 ちっ……………それにしても目ざとい奴め



「それはそうと。その様子だと話は聞いてたみたいだな」
【まぁ、表層には出てこれなかったが、あの者の会話は聞いていた】
「そうか。ならば、話は早いな。『求め』俺と契約してくれ」



 一瞬だけ沈黙して、『求め』は回答を示した
【ふぅ……。何にせよ、我に選択肢は無さそうだな】
「諦めが良いな?」



 少し意外だった
 最悪、契約を破棄したらどうしてくれようと言う算段まで練っていたのだが……



【我は永遠神剣第四位『求め』。汝の求め、しかと受け取った。そういうことだ
言っておくが、情ではないぞ。我を握れば自ずと契約者の強さも解る
 何より、ここでわざわざ契約を放棄しマナの塵へ帰るほど酔狂でもないのでな。せいぜいその力利用させてもらう】
 













(相変わらずだな、バカ剣)

 『求め』の柄から流れ込んでくる力を受けながらそう思った

 成長してない。まぁ、する訳無いけど。過去だし
 キィン!
 抗議の声と一緒に神剣反応が近づいてくるのが感じられる



「さて、行くか。初陣だ、気合入れろよバカ剣!!!」


 バカ剣だと!?という抗議は無視して、俺は飛び出した
 レッドスピリットはそこまで迫っていた





*    *     *





「……………ん?」



 おかしい。追いかけたスピリットの反応が消えた
 『存在』に語りかけてみる。もしかしたら見つかるかも知れない

 リィン

 …………駄目のようだ。あのスピリットはどこに消えた?
 とりあえず、地上に降りて探してみよう










 見つからない。困った。このままではエスペリアにどやされる



「『存在』よ……………」



 もう一度『存在』に語りかける。周囲の様子が伝わってくる
 その中に一つの神剣を見つけた



「……………?」



 強い剣…………。敵、だろうか?

 リィン

 どうやら、違うらしい。『存在』の言う事はいつも正しい
 今回も間違いは無いだろう。とりあえず、その場所に行ってみることにする






*    *    *





「…………………………」



 空に向かって黄金の霧が立ち昇っていく
 苦戦はしなかった
 『求め』もマナを吸い、満足したように沈黙を保っている


 そして、俺は空を見上げていた
 空に浮かぶ銀色の真円。その中に動く影がある



「アセリア……………」



 呟いた次の瞬間にはもうアセリアは目の前に着地していた
 ハイロゥを待機状態に移行してこちらに向かって歩いてくる



「お前は…………敵か?」



 澄んだ水のような声
 思わず、涙がこぼれそうになるのを必死で抑える



「………違うよ。俺は永遠神剣第四位『求め』のエトランジェ、『求め』の悠人だ」



 平静を装って答える
 エトランジェ、の言葉にアセリアが僅かに反応するのが見えた
 そういえば、ハイペリアに興味を持っていたんだっけ



「エトランジェ……………?」
「あぁ、そうだ」



 アセリアは首を傾げて目を瞑る
 『存在』と交信しているのだろう



「ん。『存在』が敵では無いと言っている。連れて……帰る」
「そりゃ、どう……おあぁぁあ!?」



 油断した
 歩いていこう、と提案すれば良かったな
 アセリアに担がれ、空を飛びながらそう思う

 そう思っている間に、木々がどんどん小さくなっていく



『剣よ! 『永遠』よ! 我の力となれ!』



 思い出されるのは、ここを旅立ったときのアセリアの言葉
 あの時もこんな具合に抱えられてたっけな

 心の中で愚痴る

 頭を上げると地平線の彼方から、太陽が昇り始めていた








 全てが白紙に戻った……………確かにそうなのかも知れない





 だが、それで終わりなのだろうか?





 そんな訳は無いだろう





 今度は前とは違う。俺には……あの時にはなかった力がある





 同じ過ちを繰り返すわけには行かないのだから






 前回の・・・過去の二の舞にはさせない






 そんな決意を秘め、俺はラキオスの大地を再び踏んだ












 神無月です。どうもです(ぁ

 とりあえず状況説明を。
 まず今現在『聖賢』は時果ての間で回復中です
 後に多少余裕が出れば会話も出来るでしょうが、今現在では力の大半をユーフィに分け与えた為それも出来ません

 次に『求め』ですが、前回とは逆に悠人に良いように使われてます
 その原因は悠人が永遠戦争の中で人間的に成長したため(最もヘタレ属性は残ってますが)と
 タキオスを倒す為に学んだオーラフォトンの制御や戦い方が関係してます

 まぁ、悠人が『求め』を上回ったと言ったところでしょうか?



   最後に、前の世界では今日子と光陰は死亡しています
 その負い目も背負って悠人がどんな活躍をするかがマロリガン戦の見せ場……………なんですよ?今日子さん

 どうでも良いですけど、ライトニングブラストってノヴァ並の威力があるんですよ?
 人間に使ったら結果は明らか……………え?ライトニングブラストじゃない?サンダーストーム?


 それってなおさら洒落にならんでしょうが!!ちょっと待ってください!ちょっとま……………




 ダスカトロン大砂漠に出張取材中の作者
 季節はずれな雷の嵐が去った後に人影は無く、声ももはや聞こえない


 吹く風にケシズミと化した何かが舞って……………


(幕)

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