―とある場所にて
「ついに目覚めたかな。」
とある空間上に作り出した一軒の家。ちょっとした西洋建築の館といっていい規模のこの家の中、『運命』のローガスはとある世界にある神剣の存在を察知していた
「なら、僕も準備しないとね。」
キィン
「ん?」
突然、自分ひとりの筈の家の中に「門」の気配がしたが、ローガスは特に構えはしなかった。その「門」から感じられる神剣の気配は、自分のよく知った気配だった。
そして「門」の向こうから現れたのは、巫女装束を着た一人の女性であった。
「ただいま戻りました。『運命』のローガス。」
「お帰り。早かったね、『時詠』のトキミ。」
彼女は『時詠』のトキミ。本名を倉橋時深といい、永遠神剣第三位『時詠』『時果』の二つの上位神剣を所有し、予知能力「時見の目」を持つエターナルの女性である。
「ええ、今回はあくまで調査が目的でしたから。秩序側からの干渉もありませんでしたし。」
「それはよかった。で、どうだった?」
「はい。やはりあの「蓋」が無力化してから、エターナルであろう何者かの干渉があったと見て間違いありません。ただ」
「ただ?」
「特にあの世界で何かの工作があったようには感じられませんでした。世界の歴史や人々に干渉した記録もありません。」
「幾らマナに恵まれていても、「あの世界」にもう神剣は無いのだからね。大方世界を放浪しているエターナルが迷い込んだだけだったのかも知れない。」
「そうだと、いいのですが。」
時深はそれでも不安であった。
その世界は、かつてロウエターナルの干渉によって歪められ、崩壊の危機にあった。
時深はその世界を守るため、仲間と共にその世界の存亡と未来を賭けた一大戦争を開始、そして見事に勝利した。
戦争終結後、その世界で「賢者」と称えられた天才学者の協力で、世界に外部からの干渉を防ぐ「蓋」をすることに成功。以後約2周期の間、その世界は完全に外の世界から隔離されたのだった。
しかしその間、内部から外部へ行くことも不可能だったのだ。そしてその世界は、いくつかの因子を抱えていた。
偉大なる十三神剣に数えられ、ロウエターナルが大規模なマナ消失を起こすための媒介として利用した、永遠神剣第二位『再生』。
『再生』の主であり、その世界でスピリットとして生まれ変わったエターナル『リュトリアム』。
時深がカオスエターナルの戦力として、そしてリュトリアムを守護するために創り出した存在『リュトリアム・ガーディアン』。
それらの要素があの世界にはあったのだが、「蓋」はそれらの要素もはらんだまま、世界を隔離してしまった。
今回の任務で時深は、「「蓋」が無力化した後エターナルが干渉した」との情報から、その世界の調査に向かっていたのだ。
―『再生』はあの戦いで砕け、リュトリアムもリュトリアム・ガーディアンもスピリットとして天寿を全うしていた。彼女らが世界の外に出て行った形跡も無い・・・でも、この漠然とした不安は何?
「ところで、トキミに頼みたいことがあるんだけど。」
「私に、ですか?」
「ああ。『濁流』の使い手、荒き流れのオキタは知っているかな?彼が今ある任務に就いているのだけれど、少々予定外の状況になっているらしくてね、早いうちに人手が欲しいそうなんだ。そこで、君にその支援に行ってほしい。」
時深は少々訝しんだ。直接組んで任務に就いたことは無かったが、彼のことは少なからず知っていた。冷静で着実な手段を用いて、任務の成功率、被害の阻止共に非常に優れる男として、それなりに知られていたからだ。
それが予定外の事態に陥った上に、人手まで必要になっているということは、事態は少々深刻なようだと感じた。
しかし
「今からですか?出来ればこれからアセリア達と合流して行動したいのですが・・・別に手が空いているものはいないのですか?」
仲間の危機と私情を混同するのは問題であると判っている。
しかし、このことは自分にとっても、仲間であり友人でもある『永遠』のアセリアにとっても重要な意味を持っているのは確かであった。もし自分以外でも可能であるなら、時深はアセリア達との行動を優先したかった。
「すまないね。さっき言ったようにちょっと急ぎなんだ。それに向こうでは〔八剣衆〕が絡んできている。彼らは“若い”けど手強い。下手な者は送れないんだよ。」
「それはそうですけど・・・」
「それに君一人という訳じゃない。あと少しでもう一人・・・」
キィン
二人の前に「門」が現れれ、そこから今度は若い男が現れる。
「お疲れ。初の一人仕事はどうだった?」
「はい、少し苦労はいたしましたが、ネイティブ現地人の協力もあって何とかなりました。・・・改めて報告します、『救世の焔』ヤマト、無事任務を完了いたしました。」
「もう一人とはあなたでしたか。お久しぶりですね、ヤマト君。」
「トキミ先輩!!どうも、ご無沙汰しておりました!!」
時深から声をかけられ、その青年は勢いよく礼をした
彼の名は『救世の焔』ヤマト。永遠神剣第三位『救世』の契約者で、本名を草薙大和という。時間はずいぶん後となるが、彼もまた時深と同じく「出雲」という組織に所属していた者であった。
といっても彼は確かに男である。彼は「巫女」ではなく「神子」として、そして四大元素の一つ「火」を司る「草薙家」の長男として「出雲」に属し、魑魅魍魎と戦い続けていた。
だが彼の一族は、突如現れた強大な力を持つ炎の妖魔によって、無残にも滅ぼさせられてしまう。
それが時深との出会いで、一族を滅ぼした敵が異世界の存在であることを知り、同時に自分がエターナルになれる資格を持っていることを知った彼は、『救世』と契約を果たすことに成功し、一族の仇を討つと共にエターナルとしての道を歩み始めた。
「あれからずいぶんと経ちますが、変わりないようですね?」
「そうですか?これでも少しは強くなったつもりなんですが・・・」
「それはそうでしょうけど、私から見ればまだまだヒヨッコですよ。」
「うぅ・・・分かりました、もっともっと精進します!・・・・ところで、もう一人って一体何のことです?」
「君と時深に頼みたい任務のことさ。」
ローガスは2人に詳しい事情を説明し始めた。
PROJECT ETERNITY DARKNESS
第四章・・・時詠の巫女、焔の神子
とある異世界―〔神竜殿〕
「何だと、誠か!!」
「はい、この情報に」
「間違いはございません。」
神竜殿の最深部、八剣の祭壇上にて、ユーラは二人の部下『蒼炎』のアーシエと『朱水』のターシエからの報告を聞いていた。報告の内容は、
〔八剣衆〕が一人、『暴風』のイダールが『天冥』奪還の任に就き出撃。当該世界にて『天冥』を発見するも、天冥王キザキの後継者との交戦によって死亡。所有する神剣『暴風』ごと消滅したため、蘇生は困難である。
とのことであった。
「あのイダールが、敗北を喫したと?」
「恐らくは・・・」
そう言ったのは『蒼炎』のアーシエ。隣に佇む『朱水』のターシエの双子の姉にあたり、深海のように深い蒼色の長髪と、どこか穏やかさを持つ瞳の美しい女性である。
「あの男には、荷が重すぎたということでしょう。」
続けざまに口を開いたのは『朱水』のターシエ。姉との差異と言えば、燃える様な紅色の短髪、そしてその好戦的な意思の瞳。
「・・・『暴風』のイダールは、忠誠心に固く、また我が出会った戦士の中でも優れる部類であった。それがそう簡単に敗れるなど・・・」
信じられない、と言うのが本音であった。だが『天冥』が目覚めたのならば、それもありえなくは無い。あの力は他とは違いすぎる。恐らく自分自身がそれを一番理解している。
―受け入れるしか、ない・・・
「ユーラ様、『天冥』奪還の任、次はどうかこの『蒼炎』のアーシエと」
「『朱水』のターシエに」
「「御命じ下さいませ」」
二人はここぞとばかりに名乗り上げた。彼女らはこの機会を得るために、いの一番に報告へきたのだ。
「・・・・暫し待て、追って命ずる。」
ユーラはそう伝えると、己の水晶柱の中へと入っていった。
アーシエとターシエは、水晶柱に戻り、今後を話し合うことにした。
二人の水晶柱は、互いの空間を繋げることによって空間自体を広げ、自由に行き来することが出来るようにしてある。この空間の広さと作りは、ちょっとした庭園の様相であった。
「フフフフ・・・ようやく武功を挙げることが出来る。」
「でも甘くは考えないことね、ターシエ。あのイダールが敗れ去ったのなら、確かに油断は出来ないわ。」
「姉様、確かにイダールは優秀な戦士だった。けど、あいつは同時に自惚れていたわ。どうせ油断してやられたのでしょう。自業自得ね。」
「あなたも、その二の舞にならないとは限らないのよ?」
「どうしたの姉様?今回はずいぶん消極的ね。」
「・・・別に、そんなことは無いわ。」
「心配は無用よ姉様。私と姉様が力を合わせれば、例え相手が『天冥』だとしても、勝てるわ。」
「・・・そうよね。でもね、それでも私は貴方が心配なのよ、ターシエ。」
その言葉は、妹に対する愛情に満ちていた。アーシエにとって、妹のターシエは共に長き時を生き、多くの戦場を駆けた何物にも変えられない、大切なものである。だが
「・・・まだ、私が未熟だとでも?」
「違うわターシエ。私はただ・・・」
「“ただ”なんだと言うの!?そうよね、私は姉様のように強くないもの!」
「誤解しないでターシエ、私は・・・」
アーシエは妹が自分に劣等感を抱いていることを、薄々感じとってはいた。妹を気にかけるたび、過剰に反応されてしまう。それでも、妹への気遣いは片時も忘れはしなかった。だからこそ、こういう誤解で、喧嘩になることはよくあった。
「・・・修羅場中だったか?」
そのとき、背後から突然声がした。確かに水晶柱は別に不可侵の領域ということではないが、普段他の八剣が水晶柱を訪れる事などはないため、反応が遅れてしまう。
「誰か!!挨拶も無しに無礼であろう!!」
真っ先にそういったのはターシエであった。だが声の主は臆する事もなく答えた。
「同僚の声色も覚えられんのか?『朱水』のターシエ。ならば名乗ろう、『雷轟』のカイザだ。どうだ、覚えられたか?」
声の主、『雷轟』のカイザの挑発に対して、ターシエは腰に携えた倭刀型の神剣『朱水』を抜き放とうとするが
「やめなさい、ターシエ。」
「姉様・・・」
即座にアーシエから静止を受ける。
相手は『雷轟』のカイザ。過去に「唯一、天冥王に対抗しうる」と帝に称された〔八剣衆〕最強のエターナルである。しかし、過去『天冥』との交戦で受けた損傷により、その神剣『雷轟』は現在不完全な状態であるため、かつてほどの力は感じない。しかし、それでももし剣を交えたとして、この男に敵うものは恐らく八剣衆には居ない。
「それで、ここには何用で来たか、カイザ。」
「・・・帝がお呼びだ、急いだ方がいいのではないか?」
「そのような事、貴様に言われるまでも無い!」
「ターシエ、およしなさい。」
「しかしっ・・・」
カイザの飄々とした態度に苛立ち、ターシエは収まりがつかない。その手はいまだに『朱水』の柄を握っている。
「全く。お前たち二人、顔は同じだというのに、なかなかどうして似つかんものだな?」
「っ!!」
ヒュンッ
一瞬にして抜かれた『朱水』が、カイザの首筋に当てられる、寸前で止められてはいるが、その気になればいつでも首を切り落とせる位置にある。
「その言葉、二度と口にするな!!さもなくばっ・・・」
「フッ・・・」
カイザは全く臆することなく、そのまま首元をずらして、刃から離す。そしてそのまま振り返り、帰ろうとする。
「用件はそれだけだ。」
「待て、カイザ!」
「ターシエ、やめなさい!」
背を向けるカイザに追いすがろうとするターシエ。それを三度、姉のアーシエに止められる。
「姉様、このままでは収まりません!!」
「よしなさい!そこから動いては・・・」
アーシエからの言葉を無視し、足を踏み出すターシエ。そして
ドゴオォォォォン
「つっ!」
「ああっ!」
二人の周囲を囲むように、強烈な落雷が降り注ぐ。
「言い忘れたが・・・・足元には注意したほうがいいぞ。」
その言葉を残し、カイザはそのまま立ち去った。
「くっ・・・」
「あなたが『朱水』に手をかけた時から、カイザはあの罠を仕掛けていたの。あの場から私たちが一歩でも踏み出せば、足元のわずかなマナの動きを察知して雷が落ちるように・・・・」
「・・・・・」
―それに気付いていたから姉様は私を?私は全く気が付かなかったのに・・・どうあっても、私は姉様に追いつけないというの!?
「姉様、ユーラ様の下に」
「ええ、行きましょう、ターシエ。」
湧き上がる悔しさを押さえ、ターシエは姉と共にユーラの元へと向かった。
報告を行った祭壇上に立ち、ユーラは呼び出しに答えて現れたアーシエとターシエに命令を下した。
「改めてお前たちに命ず、イダールの敗れた彼の地へ向かい、『天冥』を
奪還せよ!!」
「はっ、その任、この『蒼炎』のアーシエと」
「『朱水』のターシエが」
「「必ずや達してご覧に入れましょう」」
「油断するでない。お前たちからの吉報を期待する。」
そういうとユーラは姿を消し、アーシエとターシエは水晶柱へと帰り戦の準備に取り掛かった。
―イダールとの戦闘後・工業都市〔フィスタル〕郊外の森
「それにしても、これは・・・」
オキタは戦闘が起こった周囲、元は森であった荒野を見回っていた。
うっそうと木々が生い茂っていた森が、ある部分だけ、見事に草木一つ生えていない荒野と化している。
それどころか、その範囲はマナが一切感じられない。幾らそのような荒野でも、ほんのわずかなマナは感じられるというのに、そこでは一切のマナが消失していた。
「・・・さしずめ〔境域マナ消失現象〕とでも言ったところか。」
恐らくは『天冥』が起こした現象であろう。しかし、周囲のマナを完全に消し去る事など可能であろうか、オキタは疑問であった。
「範囲はゼオンの周囲約40m、前方扇状範囲に約500m、、被害は・・・想像できんな。」
それだけを確認すると、オキタはもと来た道を戻っていく。この現象を起こした張本人、ゼオンの元へ・・・
「僕は・・・・」
ゼオンは何が起こったのか、全く理解できなかった。
―あの戦いの中、僕は竜巻に巻き込まれて、衝撃で気を失って、そして・・・
その先が一切思い出せなかった。気付いたときにはその手に『天冥』を握り、一面の荒野を前に立っていたのだから。
「何か思い出せたか?」
呆然とするゼオンの元に、オキタが戻ってきた。
何も覚えていないと言ったゼオンに、確認するように聞いてみたが
「オキタさん・・・いえ、何も。」
「そうか。」
だが、やはりゼオンは何も覚えてはいなかった。
「いま、神剣からの声は聞こえるか?」
「いえ・・・あの、オキタさん」
「どうしたゼオン?」
「僕を、家に帰してくれる気は・・・」
「・・・残念だが、無い。」
「そう、ですか・・・」
ゼオンもそれは覚悟していた。覚えていないとはいえ、自分は人の命を奪い、一部とはいえ森を殺してしまったのだ。それに、この剣のこともある。
「それに、これだけ派手に戦えば、街のほうでも気付いているだろう。今戻れば、何をしていたのか根掘り葉掘り聞かれるだろう。気が落ち着くまではこの森にいたほうがいい。」
「でも・・・」
「ユイも、探さねばならん。」
「あ・・・」
その言葉で思い出した。
彼女はゼオンと共に竜巻に巻き込まれたはずだが、ゼオンもオキタも、これまで彼女の姿を見ていない。
ゼオンの脳裏に、最悪の想像が浮かぶ。
「まさか・・・彼女も、僕のせいでっ!?」
「いや、『青海』の気配は確かに感じる。ユイも生きている。」
「そ、そうですか。よかった・・・」
ゼオンは胸を撫で下ろす。しかし、もし彼女まで手にかけていたら・・・そう考えるとぞっとする。
「そう遠くからではない。気配を追っていけばすぐにでも見つかるはずだ、行くぞ」
「分かりました。」
オキタの後をゼオンは黙ってついていった
うっすらと朝日の光が指し、空が白んできた頃。荒野と化した戦域から少し離れた、木々の開けた広場のようなところで、気を失って横たわっていたユイは目を覚ました。
「んっ・・・」
〈ユイちゃん、気が付いたかい?〉
「あ、れ・・・『青海』?」
〈よかった、気が付いた。〉
「ここは・・・」
どこなのかを思い出そうとする。まだ意識が混濁していて、いま一つ状況が飲み込めないが、必死に思い出す。
「そうだ・・・あたしは竜巻に巻き込まれて・・・ゼオンが持ち直したのを見て、それからいきなり吹き飛ばされて・・・そうだ、ゼオンは!?」
〈分からない。竜巻が爆ぜて吹き飛ばされた後、物凄い力を感じた。そしてその後に『暴風』とその契約者の気配が消えた。状況から考えてゼオンがやったのだろうけど、正直彼にそこまでの力があったとは思えない。ありゃ恐らく『天冥』が力を解き放ったものだろうね。〉
「でもちょっと待って。ゼオンは神剣と仮の契約しかしてなくって、力の一部しか使えなかったんだよ?」
〈ゼオンが「ゼオン」であったなら、そうだったろうね。〉
「え?」
『青海』の言った言葉の意味が分からずに混乱するユイ。それを『青海』が
説明する。
〈つまり、ゼオンが「ゼオン」であったから、『天冥』はその一部しか力を貸さなかった。でももし、ゼオンが「ゼオン以外の何か」になったのなら、その限りじゃあないってこと。〉
「その「ゼオン以外の何か」って、何?」
〈さすがにそこまでは分からない。でもあの『天冥』に認められる力をもっている存在ってのは、正直そう居ないだろうね。それにこれはあくまで仮定の話だよ。僕も彼の気配は探ったけど、どう考えても彼は普通のネイティブ現地人だよ。特別な感じはしなかった。〉
「そんな・・・」
ユイは初めてゼオンに接触したとき、確かに他とは違う「何か」を感じた。てっきりその感じが関係しているのかと思ったのだが、どうやらそうではないようだった。
―でも、ゼオンは絶対ただのネイティブ現地人なんかじゃない。
〈まぁとにかく『暴風』とその主はやっつけたんだ。取りあえずおやっさん達と合流しよう。〉
「うん・・・よっと。」
〈お、おいおいユイちゃん!〉
「てへっ。ごめんごめん!」
『青海』を杖代わりにして立ち上がり、ユイは『濁流』の気配のする方向に歩き出した。そのとき
キィン
「へ?」
不意に神剣の気配を感じ、ユイはその場に立ち止まった。
「まさか・・・これって?」
〈間違いない。「門」と、神剣の気配だ!ユイちゃん構えて!〉
「う、うん!」
自分の周囲に高密度のオーラフォトンを展開し、ユイは来るであろう襲撃に備える。
―どうしよう『青海』。お父さん結構遠いよ?
〈何とかやり過ごすしかないね。避けて、守って、逃げて・・・とにかく時間を稼ぐんだ。〉
―うん、分かった。けど・・・
〈けど、なに?〉
―やっぱり出会いがしらに一発ぶちかましてやる!
〈お、おいおい、ぶちかますって何を!?〉
―連中だって、「門」を出ていきなり敵が来るとは考えないでしょ?そこを不意打ちしてやるのよ!
〈いやまぁ確かにそうだろうけどさぁ・・・・・・仕方ない、でもやるからには全力で撃ち込みなよ!〉
―分かってるわよ!
言うが早いか、ユイは『青海』の刀身にありったけのオーラフォトンを集中させる。イダールとの戦闘で力を大きく消耗していたため、普段よりかなり劣るが、これでも破壊力は十分にあるはずであった。
そのうちに「門」からは2人の人影が現れる。
―2人も!?けど、もう引けない!!
〈来るぞ!行け、ユイちゃん!!〉
まだ逆光でよく見えない2人組に対して、ユイは持ちうる最大の攻撃を繰り出した。
「くらえ必殺、ディープシーインパクト!!」
ドゴオオオオオオン!
『青海』が振り下ろされ、巨大な水柱が立ち昇った。
ユイが戦闘を開始した地点から少し離れた場所で、オキタとゼオンは大きなマナの動きと、立ち昇る水柱を確かに発見していた。
「オキタさん、あれは?」
「ああ、『青海』の気配、それと神剣の気配が二つだ!」
「じゃあユイは?」
「恐らく戦闘になったのだろう。〔八剣衆〕とな」
「2人!?じゃあ、急がないと!」
ゼオンは焦っていた。先に現れた『暴風』のイダールでさえ、たった一人でオキタとユイの2人を圧倒していたのだ。
それと同じような力を持つ者が2人、しかも散々消耗しているユイの前に現れたとなれば、最悪の事態が想像できる。
「分かっている!」
オキタの気は逸っていた。なまじ〔八剣衆〕全員を知っているが故に、行動で相手が予測出来てしまう。
「ゼオン、奴らは基本的に単独での行動を好む。だが、たった一つ例外がある。」
「それが、今現れた相手?」
「ああ。『蒼炎』のアーシエと『朱水』のターシエだろう。あの姉妹は必ずと言っていい程二人で行動する。」
「姉妹・・・」
「急ぐぞ。」
「はい。」
ユイは行動を起こせなかった。
手応えは無かった。しかも人影はそこに無く、神剣の気配は周囲の濃密なマナによって隠されてしまった。
―・・・・サイアク。
〈過ぎたことを悔やんでも仕方ないよユイちゃん。それよりも隠れた相手の気配を追わないと〉
―分かってるよもう!
しかし幾ら探っても、神剣の気配はなかなか感じられない。
―なんでこんなにマナに満ちてるかなぁここ・・・こっちのは違う・・・
「あーもうどこに行ったのよ!?」
つい声に出してしまう。そしてその隙を窺っていたのか、突如背後に気配が現れる。
「うそ!!」
「動かないでください」
「つっ・・・・。」
振り向く間も無く、ユイの背後から首筋に剣が突き付けられる。後ろの声の主は女性らしい。しかし今まで全く気配を見せず、こうしてあっさり後ろを取られるとは・・・
「動かないで、そのまま・・・」
「殺しなさいよ。」
「・・・へ?」
「ユイだってそのくらいの覚悟はあるもん。」
「い、いえあのー・・・」
「さあ!やるならやんなさいよ!!」
背後を取られたまま、ユイは姿の見えない敵に叫ぶが、相手はどうにも困惑している様子なのに気付けないのは、果たして自暴自棄の賜物か。
「ちょっと、落ち着いて俺達の話を聞いて・・・」
今度は若い男の声がした。もう一人にも気付かないうちに背後を取られていたことに、ユイは余計に苛立った。
「うるさい!〔八剣衆〕と話すことなんかないよ!」
「え?あのちょっと・・・」
話の噛み合わないまま、ユイと2人の会話は続く
一方、ゼオンとオキタは『青海』の気配をたぐり、ユイのところまで急いでいる途中であった。
「もうすぐだ、この先にユイの、『青海』の気配がある。」
「この先は、大広場か。」
やがて木々が開け、二人は広い草原に出た。その先にゼオンとオキタはユイの姿を発見した。ユイは剣を持った女に背後を取られ、首に剣を突き付けられていた。
「あの女は・・・・」
「ユイ!!」
ゼオンはユイを助けるために、とっさに腰の『天冥』を引き抜き、そのまま二人の間に割って入ろうと突進するが
「まて、仕掛けるなゼオン」
オキタが静止をかける。だがゼオンは止まらずにそのまま突っ込んでいった
「うおぉぉぉ!」
剣を振り上げて、ユイに刃を向ける女に振り下ろす。しかし
ガキッ
「なっ!」
ゼオンの剣はものの見事に受け止められる。寸前まで女の死角から仕掛けたのだが傍らにいたもう一人に止められたのだ。
「やめるんだ、俺達は敵対するつもりは無い!」
―男!?
オキタの言うことが本当なら、相手は姉妹。2人とも女のはずだが、それでもユイに剣を向けていることに変わりは無い、ゼオンは単に予想と違う敵が来たものと判断した。
「うるさいっユイから離れろ!〔八剣衆〕め!!」
「おい、さっきから何を勘違いしているんだ、君達は?」
男はそう言うが、ゼオンは全く聞く気がない。しかし
「そうだ。ゼオン、それにユイ。彼女らは敵ではない」
「「へ?」」
追いついてきたオキタがゼオンたちに言い聞かせる。ゼオンとユイは何がなんだか理解できなかった。
「君達ほどの者が来てくれるとはな。援軍、感謝する。『時詠』のトキミ、『救世の焔』ヤマト。」
「ええ、よほどの状況だと聞いたので。『荒き流れ』のオキタ。」
「ふっ、その名は長かろう。オキタでいい。」
「なら、そうさせてもらいましょうか。こちらもトキミ、ヤマトで結構ですよ。かまいませんね、ヤマト君?」
「ええ、俺は構いませんよ。」
2人の名前を聞き、今度こそユイは自分の誤解に気付く。
「えっ!じゃあ、味方なの!?」
「ああ、そういう事。分かってくれてよかったよ。」
完全に置いて行かれたゼオンを尻目に、オキタ達と男女の会話は進んでいく。
「あ、あのオキタさん?」
「ゼオン、紹介しよう。彼女らは我々の味方。エターナルの仲間だ。」
「じゃあ、あなた達も、エターナル・・・」
「彼は?」
「ああ、彼は紹介が必要だったな。彼はゼオン。ネイティブ現地人であり、永遠神剣『天冥』の仮契約者だ。」
「ど、どうも・・・」
「ああ、俺はヤマト。『救世の焔』ヤマトだ。」
「私はトキミ。『時詠』のトキミ。オキタさんと同じ、「混沌」の永遠者ですよ。」
オキタに紹介され、ゼオンはしどろもどろに挨拶をした。人見知りするほうではなかったが、新たに現れた彼らもまた人間外の存在だと思うと、いやがおうにも緊張してしまう。
「ところで『天冥』、それに仮契約とは?」
「ああ、そのあたりは・・・」
そのとき、遠くから大勢の人間の声がしてきた
―おーい!!だれかいるかー!!
―ゼオーン!居ないのかー!!
―居るものは返事をしろー!助けに来たぞー!!
「ネイティブ現地人か?」
そういったのはヤマトだった。
「ああ、恐らく。夜分とはいえかなり暴れたからな、気付かれて当然だろう。」
「どうするのですか?」
もう一人の巫女装束の女性、トキミが声をかける。
「このまま見つかるのは得策ではない。我々は一度退散しよう。」
「お父さん、ゼオンは?」
「・・・不本意だが、一度街に帰した方がいいだろうな。」
「帰してもらえるんですか!?」
一瞬パッとゼオンの顔が明るくなるが、またすぐに消沈する。
「でも・・・僕は・・・」
そのとき、ゼオンの肩にオキタの手が添えられる。見上げたオキタの表情はどこかすまなさそうだった。
「やらねばお前がやられていた・・・それにお前はやろうと思ったわけではあるまい?あまり背負うな。」
「でも!」
「・・・ゼオン、お前はその剣を手に取った時から、すでに過酷な運命に足を踏み込みはじめている。」
「え・・・」
「・・・お前は優しい。このような運命に巻き込んだことはすまないと思う。だからこそ・・・」
「なんです?なんなんですか!?その運命って!!」
「せめて後数日は、自分の日常を過ごしてくれ・・・」
「オキタさん!!」
「すみませんが、もう彼らが来てしまいますよ。」
「分かった。」
そういうと、最後にオキタはこう言い残した
「まだゼオンに選択の余地はある・・・最も、かなり厳しいことになるが。本当に、すまない。」
「オキタさん・・・」
それだけいうと、オキタたちは森の中へと退散していった。信じられない速度であり、あれならば追跡は出来ないだろう。
やがてやってきた捜索隊に発見されたゼオンは、何事も無かったように街へと帰っていった。
その手に、『天冥』を持ったまま
その剣が、後の災厄と気付かぬまま
逃れられぬ、運命の始まりと知らぬまま・・・・・・・
後書き
どうも、神威翔矢です。
今回後書きを書いたのは他でもなく、「前書きにいない新キャラが登場した」からです。
まあ、後先考えずに勢いだけで突っ込んだ結果ですね・・・反省。
実は序盤でローガスが送ると言っていた援軍、当初の予定では到着直後に全滅する予定でしたが、ある会議にかけた結果「手ぇ抜くな、キャラとしてちゃんと出せ!」との結論に・・・
ネタ切れで悩んでいた所、切羽詰った自分は永遠のアセリア公式ホームページの同志の方々に「ネタを使わせて下さい」と頼んでみました(他力本願です、またも反省)。
すると「いいですよ」との返事があり、そのネタを今日ここに使わせて頂きました。
今回使わせて頂いたのはタスクさんのアイディアです。タスクさん、本当にありがとうございます。
さて、神剣とその持ち主のそれぞれの案を頂いたのですが、ここでは本文上で書くことが出来なかったヤマト君の性格と神剣『救世』のことを書きます。
性格
直情的で思ったことはすぐ口に出す。正しいことは正しい、悪いことは悪いと、とことんまで追求し、また、他人のために自分のことは二の次にする。強情なところがあり、良くも悪くも一本気である。
「死んでも譲れないことがあるんだ!!」
(タスクさんの契約者案より抜粋)
永遠神剣第三位『救世』
形状:両刃の剣(古代のツルギ)
能力:炎熱
炎を自在に操り、刀身に炎を纏ったり、光弾にして放ったりできる。また、自身に纏いカウンターディフェンスにもでき、サポートでは強力な赤系神剣魔法も使用できる。契約者の感情の爆発に連鎖し、攻撃力が上がる。もちろん消費マナもつりあがる。
性格:クールな話し方をしたり、冷めた反応をしたりするが、根は熱い。非常に突っ走りやすいヤマトの抑止力だが、物事によっては二人して突っ走ることも…。
(タスクさんの神剣案より抜粋)
さて、人からアイディアを頂いたからには、もはや半端は絶対に許されません。これを期に、さらに精進していきたいと思います(と言いつつも、このほかにも幾つかのアイディアを頂いていたり・・・)。
それでは、神威翔矢でした。