永遠のアセリア二次創作
タタタタタッ
急いで階段を下りたエスペリアは下りたなりに挨拶をされて目を見張った。
「おはようございますエスペリア。」
と挨拶をしたのは―――スピリットの中でも珍しい《白》をその属性に持ち、
本城の自称天才科学者と一緒に研究をして数々の功績を挙げている女性―――イオだった。
「お、おはようございます。えっ?どうしてここに居られるのですか?まさかなにか大変なことが・・・」
と驚いて挨拶をし、併せて疑問を口にするエスペリア・・・その表情には少し不安が漂っている。
確かにイオは本来はここにはなかなか来ることのない人物で、何か起こった時しか来たことがない、しかしイオは笑顔で
「いえ、城の方は皆さん、頭を抑えつつも元気に仕事をしています。それよりもこっちの皆さんの方が今朝は大変だろうと思いまして。」
とエスペリアの不安を吹き飛ばしてくれた。
そして来てくれたことに礼を言うエスペリアだったが、
「すいません・・・あいたた」
と頭痛におそわれる。
そのエスペリアに対し
「やはり二日酔いがひどいようですね。」
とイオが言う。
そういわれて自分の頭痛の原因が分かった、これが二日酔いなのだと・・・
しかし疑問がある、確かイオも自分と一緒で酒を飲まされていたはずだ・・・いや、自分が飲ました記憶もあるからかなり飲んでいる。
それなのに私と違ってこうして平然としていられるのは何故なのだろう。
そう思っているエスペリアの目線は自然にイオをじーーーっと観ていた。
イオはそれに気付いて
「どうかしましたか?」
と聞く。
「いえ、どうしてイオ様は大丈夫なのですか?」
とエスペリアは言うが、その表情は不思議そうなままで、どうしても疑問は払えない。
「私は【理想】で浄化してますから。」
「そんなことが出来るんですか?」
・・・前々からいろんな事に使うことが出来ると聞いていたし、水を浄化していた事もある。
しかしこんな事に使えるなんて素直に驚いた。
それが言葉と(多分)表情になって出てしまった・・・正直言うと少し恥ずかしい。
そうエスペリアは感じて少し頬を赤く染めるが、イオはそれに気にした様子もなくそのまま会話は続く。
「はい、私が知る限りでは【理想】だけしかできませんけど、いつも主人がなった時もしてます、貴方もそこに掛けて。」
「いえ、ご迷惑をかけるわけには・・・いたた。」
と断るがその頭痛にエスペリアは顔をしかめる。
「無理はしないで下さい、さっ、掛けて下さい。」
「すみません。」
と無理をしようとするエスペリアをイオは座らせる。
エスペリアの方も一度は断ったがイオの好意を無下にもするわけにもいかず結局座った。
『相変わらず人の世話になろうとしないところは変わっていない。』
イオはそう感じたがそれも彼女の性格ではある。
それをイオは理解していたが少し寂しく、エスペリアの将来が不安でもあった。
その不安は顔に出ているが幸いエスペリアはイオに背中を向けていて気付いていない。
またそのこと自体彼女に対する好意からくるもので、彼女に人を頼るということを知って幸せになってもらいたいというのがイオの本心である。
そう思っているからこう言った。
「いえ、困ったときはお互い様ですから・・・けど、貴方はもう少し人の世話になり慣れてください。」
「え?でもそれは・・・」
とエスペリアが驚いたのか困ったのかどっちともつかない表情を浮かべるが
「そうしないと貴方に接し難いと思う人も出てきますし貴方自身が可哀想ですから・・・
それじでは始めます、【理想】よここへ・・・」
とイオは続けて【理想】を取り出す。
『いったいどうやって酔いを醒ますんだろう。』
とエスペリアは詠唱が始まるのをどきどきしながら待った。
しかし詠唱はいつまで経っても始まらなかった、始まらずにイオが【理想】を振り、
エスペリアの頭を剣が巻き起こす風が通り抜け、その風の心地よさに爽快感を感じたとき。
「終わりましたよ。」
と言われてエスペリアは驚いた。
詠唱もないのに終わった事が信じられず
「えっ!?っまだ何もしてないんじゃ?」
と言ってしまうが
「いえ、これでもう酔いは醒めてるはずです・・・どうですか。」
とのイオの言葉に
「!!・・・ありがとうございます、けどどうして風だけで?」
と酔いが醒めていることを知り素直に礼を言った。
しかし本当に疑問だった。
詠唱もせずにこんな事が出来る理由が分からなかった。
しかし本当に頭はすっきりしている。
本当にいつものすがすがしい朝・・・だからなおのこと疑問で思わず聞いてしまったのだ。
しかし、その答えはこの世界にお決まりのご都合主義だからというもので
「【理想】だから、ですね・・・それ以上は私にも分かりません。」
の一言で片が付いてしまう。
ちなみに詠唱がないのも同じ理由だと答えられた。
それならそうと諦めるしかない・・・何しろ使っている本人も分からない(ご都合主義の)力なのだから。
しかし、エスペリアにはまだ聞きたいことがあったし、このまま帰すには彼女のポリシーが許さないので、
「そうですか、ありがとうございました・・・あの、お礼と言っては何なんですが、朝食を食べていってくれせんか?」
と朝食を食べないか?とイオに訊ねる。
もちろんイオもこの朝に起こるだろう事の大変さを考え
「大変なのにいいのですか?」
と確認するが、エスペリアも食卓はみんなで囲んだ方が楽しいということと、聞きたいことがあるので、
「はい、それ位はしないと気が済みませんし食事はみんなと一緒の方が良いです・・・それに・・・」
「それに?」
「さっきの言葉の意味も教えていただきたいですから・・・」
と本音というか自分の聞きたいこともポツリと言う。
エスペリアの顔に何かいたずらをするときに見せるような表情が浮かんでいて、
それについては話した後にどちらからともなく
「クスクス」
と笑いが零れた。
そしてその笑いが収まると
「そうですね、ではお言葉に甘えて・・・」
とイオが楽しそうに申し出を受けた。
「ありがとうございます。それでは、今から作りますのでしばしお待ちを。」
「はい、期待して待ってますよ。」
「はい。」
と、こうしてイオの今日の朝食参戦が穏やかに、柔らかな空気の中で決定した。
タンタンタン
階段から誰かが下りてくる
もちろんエスペリアではない。
彼女は今みんなの分の朝食を作るべくキッチンで格闘しているのだから。
そしてイオが誰かと気になって振り向こうとしたとき、その足音の主に声をかけられた
「あ〜イオお姉ちゃん、おはよ〜」
声をかけられたイオが見たのは赤い瞳に赤い髪をピンと立たせ、はだけたパジャマを着て、眠そうに目をかすりながらトテトテと歩いてくる少女
オルファだった。
「おはようございますオルファ・・・顔を洗ってきてはどうですか?」
「うん、そ〜する〜」
というとオルファは洗面所に歩いていく
トテトテトテ・・・じゃばじゃばじゃば・・・たったったっ
「おっはよ〜♪イオお姉ちゃん、何かあったの〜?」
と顔を洗い目の覚めたらしいオルファは開口一番、この天気と同じ様な輝くような笑顔で元気に挨拶をする・・・ちょっと気になることを言ってはいるが・・・
「いえ・・・どうしてですか?」
「だって〜、イオお姉ちゃん用事がないと来てくれないんだもん。」
「まぁ〜用事といえば用事ですけど・・・大したことじゃありません」
という・・・大した問題でもなかったようだ。
それどころかオルファがもっと来て欲しいと言っているようにも聞こえるのは気のせいではないだろう。
実際にオルファにはもっとイオや他のスピリット達と遊びたいという気持ちがある。
だからあの言葉が出るのだ。
ただ聞きようによってはその逆の意味に聞こえることが有るのは彼女の幼さから来る過ちではあるのだが、
それ自体には罪は無いし、逆にほほえましいものでもある。
「え〜何〜?教えてよー」
「いえ、本当に大したことじゃないんです」
「じゃあ教えてよ〜」
「それでは、耳を」
とイオはオルファに秘密の話であるからと、聞こえないように話し始める。
その話を聞くオルファの表情は子供らしく、きらきらと輝いている。
「こそこそこそ」
「うんうん」
真剣に聞くオルファと話すイオ
いかにも怪しい・・・実際少し謀ではある。
そして話は続く
「こそこそこそ」
「それで、うんうん」
「こそこそこそ」
と話が終わりオルファの表情が輝いて
か
「オッケ〜分かったよ〜それじゃ、みんな起こしてくるね〜♪」
「し〜〜〜〜〜!!オルファ声が大きいです。」
と大声で言ってしまったオルファに注意を与えるイオ。
しかしオルファは注意が終わった頃には階段を上り始め
「あはは(笑)ごめんなさ〜い」
といってそのまま上っていってしまった。
全く、朝から元気なものだ。
そう思いため息をつくイオ。
「はぁ〜全く、しょうがないですね。」
と一人言ったところで
「すみません、朝から騒がしくなってしまって。
でも許してあげてください、あの子もこれからが楽しみで落ち着かないんです。」
と合いの手で謝るエスペリア、本当にちょっとすまなそうである。
「いえ、いいんです。
あれは彼女の大きな魅力の一つなのですから・・・それに」
「それに?」
「私たちはあの明るさに何度助けられたのか分かりませんから。」
とイオは言いその明るさに全く罪はなくむしろその明るさは愛するべきものという考えをエスペリアに伝える。
実際にその明るさに何度も助けられているエスペリアもそのことは十分に分かっている。
「それはそうですが・・・」
というのはその証拠であろう。
ただここに来てイオには誤算となる事がエスペリアのの口から放たれる。
「それではどうして溜息を?」
という問いである。
イオにはエスペリアに隠れてやる仕事があった。
それは時深の話を聞いたヨーティアとレスティーナの協議の末考えられたものである。
言ってみれば盛大なドッキリと言えないこともないのだが、その重要さには普通のドッキリと比べては果てしなく開きがある。
何しろそれが決行される日はガロ・リキュアの歴史に残る日になるのだから。
それ故に彼女には絶対知られてはいけないのでエスペリアに悟られる様なことは有ってはいけないのである。
そのことが頭にあるイオは相当に焦った。
悟られる?と冷や汗たらたらなものであったがそこは敏腕助手イオである、焦りをおくびにも出さずにこの場を切り開く一手を繰り出した。
「いえ、ちょっと忘れていたことがありまして・・・」
「えっ?どういうことですか?」
「いえ、大したことではないのですが・・・」
「なんでしょうか?」
と焦らすイオに焦れもせずに素直にエスペリアは聞き返す。
しかしイオの次の言葉を聞いた瞬間にはその平静な態度は混乱に変わる。
「食事を2人分追加しないといけなくなりました。」
「はい?どういうことなのですか?」
「もうすぐここに2人来るみたいですよ。」
というこの会話の間にエスペリアの表情が変わるのも無理はない。
この日は凱旋直後ということもあってただでさえ食料のストックが余計にはないのだ。
はっきり言ってイオにご馳走してストックは底をつく。
つまり食料切れということである。
そういうことでエスペリアの顔には焦りの表情が浮かんでいる。
もちろんそれがイオの狙いなのだから焦らないとイオの沽券にも関わる。
そしてこの辺で頃合いとみたかイオは新たな事実を教える。
「一応教えておきますけど、光陰殿と今日子殿ですよ。」
という追撃ともなることである。
しかしそのイオの言葉を聞いたエスペリアの表情の変化はイオの予想とはまた違ったものであった。
「え?それならもう準備している最中ですが、お二人はどこかに行かれていたのでしょうか?」
というものであった。
考えてみれば酔いつぶれてここまで悠人の背中で運ばれてきたエスペリアには昨夜の酒宴で
光陰と今日子が城で酔いつぶれていたことなど分かるはずもないのである。
はっきり言って彼ら2人が館の外にいたことが意外なくらいなのだ。
そんな中なので彼らの食事の用意は既に進んでいたのだ。
そういうことなのでイオ混乱させてうやむやにしようとしたのに自ら墓穴を掘ってしまったのだ。
そのことに気付いたときにはさすがのイオもたまらず後退の意志を固めた。
「城に泊まっていたんですが、知らなかったのならそれでいいです。気にせずに続けてください。私は皆さんを起こしてきますから。」
と皆を起こしにいくと言うイオ、しかしそれに黙っていられないのがエスペリアである。
「いえ、貴方はお客様なのですから座って待っていてください。」
と言ってイオを引き留める。
しかしイオは今はエスペリアのそばから離れないと行けないし気になることもあるので
「いえ、私は手伝いに来ているので客ではありませんしそれに・・・」
「それに?」
と言いエスペリアを話に食いつかす。
そして話に食いついてきたエスペリアにイオは用意しておいた
「ウルカも多分二日酔いですから」
という答えを言ってイオは二階に続く階段を上り始める。
さすがに自分の苦しんでいた二日酔いを出されるとエスペリアも黙るしかない。
「・・・すみません、それじゃあお願いします。」
「おまかせを」
とエスペリアは申し訳なさそうに頼む。
そしてその頃にはイオはもう階段の半分ほどの所にいて、程なくしてエスペリアからは姿も見えなくなった。
タンッタンッタンッ
みんなを起こすためオルファが階段を上り終えた。
そして最初に向かったのは
「ウルカお姉ちゃ〜ん」
ウルカの部屋である。
そして呼びかけたが返事はない。
『あれ?おかしいな・・・いつも早いウルカお姉ちゃんが返事しない・・・寝てるのかな?』
という感想を持つオルファ・・・当然だ、オルファはあの晩の惨状を見ていないのだからウルカが二日酔いなどとは想像もつかない。
「お姉ちゃん朝だよ〜」
といってもウルカからの返事はない。
『これはいつも世話になっているのを返すチャンス!!』
返事がないことにそう思うとオルファの行動は早かった。
「入るよ〜♪」
といって中にはいると
「ウルカお姉ちゃん?寝てるの?・・・よぉ〜し♪」
と意気込んで
「潜入作戦決行〜〜!!」
と嬉しそうにゴソゴソと布団に潜り込む。
そのオルファに対しにウルカは
「うぅ〜」
と気が付くが、オルファは構わずに続け
「潜入成功〜・・・?お姉ちゃん起きないの〜?」
・・・失敗だがこの辺は気にしないで・・・ウルカの横でウルカにぴたっとひっつく。
「お、オルファ殿、どうして手前の部屋に?」
と狼狽を隠しきれないウルカ。
なにしろ起きたら横にオルファがいたのだから驚くのも無理はない。
しかしオルファはそんなことには構わず
「朝だから起こしに来たんだよ〜」
と続ける。
ただ何度も言うがウルカは重度の二日酔いである。
そんな人間が起きた瞬間は最悪なものがあり、ウルカも例外でなく、しっかりと言葉を返せずただ少しうめくのみ。
ただ普通の酔った状態と違うことはオルファの体がひんやりと気持ちいいことだけ・・・
そしていつもとウルカの様子が違うことに気付いたオルファはその顔を見て
「お顔真っ青だけど、どうしたの?」
と驚きながら聞いた。
「うぅ〜頭が痛みます〜オルファ殿、叫ばないで〜、あともう少しこのままで〜・・・」
とウルカがオルファに頭が痛いのでこのままでいたいと言う。
ウルカ自身はそのことが迷惑だろうと思っているが・・・
そのこと自体からして嬉しいオルファは断るはずもない。
「え?それはいいけど・・・」
「すみません」
「えへへ〜ウルカお姉ちゃんと一緒〜♪」
とウルカから礼を言われ、役に立っていると感じたオルファはそのことやスキンシップをとれている事を嬉しがった。
ただ本来の目的を忘れてしまっていたが・・・
さて、イオに視点が変わってみると
『さて、先に行ってもらったもののオルファでは心配ですね』
とイオは思う・・・そしてウルカの部屋にはいると
「やっぱり・・・ミイラ取りがミイラになってます・・・はぁ〜」
と溜息をついた。
心配が的中してしまったのだ。
そしてその溜息に2人は気が付いてイオに声をかける。
「あっ!イオお姉ちゃんだ〜♪」
「あっイオ殿、おはよう・・・ございます」
「ウルカ・・・貴方もですか?・・・はぁ・・・しょうがないですね。」
ウルカの様子を見てイオは心配が二重に的中していることを知り、また溜息をついた。
ただウルカにはそのことが分からないので
「はっ?」
と鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてしまう。
それを見てイオは説明がてらに
「貴方も二日酔いの様ですね、頭は痛くありませんか?」
と聞く。
ただそれが分かっているとは夢にも思わないウルカなので
「なっそれは・・・」
と狼狽えてしまう。
イオも予想通りだったので
「やっぱり、隠さなくてもいいのですよ、エスペリアもそうだったのですから。(もっとも、貴方ほどひどくはなかったですけど・・・)」
とイオは(最後の方は心の中で)言う・・・しかしウルカはそれでも恥ずかしいらしく
「しかし、酒に負けるとはお恥ずかしい限りです。」
と恥じ入る。
「いえ、あの状況じゃ誰も勝てないでしょうから、恥じることはありませんよ。」
とイオはそんなウルカに優しく声をかけた。
「しかしイオ殿はっ!つぅ。」
「まだ言いたいことが有るのならする事をしてから言って下さい。」
「はっ???手前が?何をすればよろしいのでしょうか?」
とウルカはイオが何を自分にさせようとしているのか分からずに頭に?マークを付けてキョトンとしているが、イオはそんなことはお構いなしに
「まず起きてください。」
と言ってウルカに起きるように促す。
その言葉に要領を得ずにキョトンとしているウルカもその言葉のままに
「は、はぁ」
と言ってオルファに助けられて体を起こす。
その間も少し頭が痛そうではあるが、それを治す為なのでイオはそのまま
「あちらを向いて力を抜いてください。」
と言ってウルカに後ろを向かせ、エスペリアの時と同じように【理想】を振った。
そしてその効果はすぐに現れた。
エスペリア達に多く飲まされていた為に起こっていた二日酔いの頭の痛みがスゥーと波が退くかのように退いていったのだ。
「!?こっ、これは・・・頭が・・・」
とウルカはその効果に驚いた。
実はエスペリアが沢山飲ませていたからこのことが自覚できたのだが、その事は誰も知らない。
そしてイオは
「これでも何か言いたい事が有りますか?」
とさっきの議論に終止符を打つべく口を開いた。
もちろんウルカもこの業を見た後では反論するはずもなく
「いえ、ありがとうございました。」
と素直に礼を言った。
そして議論も収まりウルカが支度を終えたところで
「それでは、次に行きましょうか。」
とイオが言い、2人も
「は〜い♪」
「分かりました」
と返事をし次の部屋に向かって歩き出した。
次はアセリアを起こすために・・・
コンコンコン
「アセリア殿、アセリア殿」
とウルカがアセリアの部屋のドアにノックをする。
「・・・・・・・・・」
まるで【しーーん】と鳴っているかのように静かな空気が流れた。
というか鳴っていた。
誰も気付かなかったが、オルファの溶けてしまってもう戻らないかと思われていたのに戻ってきた【理念(再生)】がそう鳴っていたのだ。
全くおかしいものではある。
しかしその音が場に合いすぎていてみんなに無視された。
・・・哀れ【理念】・・・合掌
話を戻して、返事が一つも返ってこない。
その沈黙にオルファが
「ねえ入ってみようよ。」
と提案する。
もちろんその一言に人一倍礼節を重んじるウルカは気が引けるのか
「いえ、オルファ殿それは・・・」
とやんわり反対するが
「入りましょう。」
と言ったイオの一言に
「イオ殿それは・・・」
と明らかに反対の意志を示すことになる。
しかしそれも大した意味をなすことはなかった。
「大丈夫です、親切心でやってることですから」
「そうそう、ウルカお姉ちゃんは気にしすぎだよ。」
と言う2人の言葉に押されたウルカ。
「しかし・・・」
というのが精一杯で言葉に詰まる。
そしてその間に2人が
「入りますよ。」
とドアを開けてアセリアの部屋に踏み込んだ。
慌ててウルカも入ろうとする。
しかし先には行った2人から聞こえてくる最初の言葉は意外なものだった。
「いないねぇ〜」
「いませんね。」
と言った言葉が聞こえてきて遅れて入ってきたウルカも
「・・・居られぬですね。」
とアセリアがこの部屋にはいないことを確認した。
しかしそれと共に何か違和感に近いものも感じた。
「アセリアお姉ちゃん、どこに行ったんだろう??」
というのはオルファで、ウルカもそのことは今感じている違和感と共に疑問である。
アセリアの神剣【永遠】の気配は近くにあるので遠いところに行ったのではないということは確認できる。
ただその先は気配自体が大きすぎて、細かいことはどうにも分からなかった。
それでも何処にいるのかとしばらく考えていると
「いない方を起こすことは出来ませんから、時深殿の部屋に行きましょう。」
「そ〜そ〜、こ〜なったら牛歩戦術〜♪♪」
と時深を起こしに行こうと言いだした・・・相変わらずオルファは言葉の使い方を間違えているが・・・
しかしウルカはこの部屋をじ〜と観察しているので気が付かないので誰も突っ込む者はいない。
ウルカは更に考えた。
そして気付いた、この部屋の異常さーーーものが異常に少ないことーーーに。
「無駄なものが何一つ無い?いや最初からこの部屋にあったもの以外は何一つとしてない?」
とぶつぶつと独り言のように自分の世界で推理を展開していくウルカ、その姿はまるで小説の中の探偵のよう。
「ウルカお姉ちゃん、どうしたの〜??早く時深お姉ちゃんを起こしに行こ〜よ〜」
とぶつぶつと何か言っているウルカを心配したオルファがそう言っても気が付きもせずにウルカは推理を続ける。
そしてウルカは一つの答えを導き出した。それは
「アセリア殿はこの部屋を使っていない。!?」
というものであった。
この結論に思い当たった(というか大声で叫んでしまった)ウルカは
「イオ殿、オルファ殿、急いで次に参りましょう、大きなタイムロスです。」
と呼びかけてイオとオルファに視線を向ける。
しかし視線を向けると・・・2人はその場で固まっていた。
その固まり方はというとマナの動き・・・いやその2人の周りだけ時間を止めたような感じで、
身動き一つないという徹底した固まり方だった。
ウルカはその原因が自分にあるとは分からないので
「どうかなさいました?」
と2人に尋ねる。
そしてその瞬間
「ふにゃ〜〜〜」
とまずオルファが崩れ落ち
「は〜〜〜〜〜」
とイオが溜息と共に肩を落とす。
それも当然である。
今まで散々急かしていた2人がウルカにこんな事を言われては力が抜けるのも無理はない。
しかも本人は急かされていたことには全く気が付いていないようなので怒るわけにもいかない。
だからなおのこと始末に困る。
しかも2人ともウルカに対して怒るような性格ではないのだから、こうなるのは実は当たり前だったりもする。
「ど、どうしたのですか、お二人とも??」
と訳が分からずに狼狽えるウルカ。
こっちもこっちで急かされていることには全然気が付かず、一人考えていたのでこの反応は当たり前だったりする。
「ウルカお姉〜ちゃん気付いてなかったの?」
とようやく立ち直ったオルファが口を開く。
もちろんウルカはなんのことか分からないので
「は?何をですか?」
とお決まりの言葉が出る。
その言葉に再び溜息をつき肩を落とすイオとオルファ。
「どうしたのですか?」
と聞き直すのはもはやお約束といってもいいかもしれない。
さすがにこれ以上続くのもいけないので
「何でもありませんよ、次に進みましょう。」
とイオが言い、オルファも
「そ〜しよ〜」
と力無く同意して3人は次の部屋に向かった。
その時にイオとオルファの体にはこのいい天気の朝に似合わない物がまとわりついていたのは言うまでもないことである。
「時深殿、時深殿」
と戸をたたくウルカ。
しかしその呼びかけもむなしく返事はない。
「時深殿、朝ですがどうかなされたのですか?」
と聞くウルカ。
この部屋の奥からは気配が感じられるのでいないということはないという確信を持った呼びかけ方である。
しかしそれを感じ取ることが出来ないオルファは
「時深お姉ちゃん、居ないのかな〜?」
とつぶやくが
「いえ、居るはずですよ・・・【時詠】も中にありますし・・・」
とイオが答える。
それを聞いたオルファは
「よ〜しそれじゃ、行ってみよ〜♪」
と一気に扉を開けて入っていく。
「おっ、オルファ殿」
とウルカが呼び止めようとするが声を掛けてももう遅い。
「時深お姉ちゃん、朝だよ〜」
と既にオルファは時深に飛びかかっていった。
「う〜〜もう少し・・・あと五分・・・」
と言う時深にも容赦せずオルファは
「だ〜め、起きて起きて〜」
と起こしにかかる。
しかし時深も並みの神経の持ち主ではないのでこの騒がしさにも負けず
「ぐぅ〜〜〜」
とお休みモードを決め込む。
だがそれぐらいではオルファも引き下がらない。
「ぶぅ〜、起きないんなら・・・それ!」
「な、あ〜〜〜〜〜お、オルファ、何するんですか〜」
「起きないから実力行使だよ〜百聞は一見に如かずって言うし〜」
と時深が体制を整えない内に実力行使に入った。
もちろん言葉の使い方を間違えているので
「使い方が違います〜」
と時深に突っ込まれるが
「気にしな〜い気にしない。」
と気にも留めずあっさり流してしまう。
そしてしまいには時深の上に馬乗りになってぽんぽんと跳ね始めた。
当然そんなことをされるとさすがの時深でもたまらず。
「ちょっ、オルファ止めなさい、そこは、やばっ・・・気持ちわるい〜〜。」
悲鳴を上げる。
そして更にオルファの動きにキレが出てきて時深の限界が近くなり再び意識が沈み掛けたとき
「オルファ殿」
とウルカの声が入った。
『果たしてこれは自分の助けになるのか?』
と時深がウルカの方を見たとき
「?どうしたのウルカお姉ちゃん?」
とオルファが無邪気にウルカの話に耳を傾け始めた。
相変わらず跳ねているので時深は苦しいまま目に涙を浮かべながら
『どうでもいいからオルファを止めて〜〜〜』
と心の中で叫んでいた・・・もちろん誰にも聞こえてはいないが・・・
そして時深がそう考えている内に
「やりすぎです、時深殿をしっかり見て、程度を考えてしてください。」
「あ〜〜〜〜時深お姉ちゃん、どうしたの〜!?誰にやられたの〜?大丈夫?」
とウルカの注意でようやくオルファが時深の異変に気付いて上から退いてくれた。
ただオルファはそのことが自分のせいだとは分かってはいないのだが・・・
しかし今頃どいても時既に遅く時深の意識は
「うぅ〜気持ち悪・・・もうだめ。」
と沈み始めた。
それを見たオルファが
「あ〜お姉ちゃんしっかりして。」
と襟を持ってガクガク揺らし始めたので時深は沈むことも出来なくなって
「だからそっとしといて〜〜〜〜」
と言うのみで更に顔色は悪くなっていく。
今にも死にそうな時深の顔を見たウルカが慌てて
「オルファ殿、お静かにしませんと・・・」
と言うがオルファの揺さぶりは弱まることなく続く。
『このままではまずい。』
そう思った時深は最後の力を振り絞った。
「だ〜か〜ら〜揺らすなって言ってるでしょ〜〜〜〜!!!(怒怒怒)」
それは今持てる全てがその中に入っているようでマナの動きが止まったと錯覚するくらいの叫びであった。
その魂の叫び(雄叫び)にさすがのオルファも気押されて
「わっ!?時深お姉ちゃんどうしたの?」
と揺らすのを止めた。
「ど〜したのじゃなくって・・・うぅ〜」
となる時深・・・叫んだせいで意識が鮮明になり更に気分が悪い。
「あ〜分かった〜起こしてもらってオルファに感謝でしょ〜♪」
と言われるが、今にも死ぬところまで追いつめられた時深はそんなこと思ってもおらず
「そ〜じゃなくて〜〜殺す気か〜〜・・・う〜〜〜」
と叫んでしまい自爆。
それでさすがにオルファにも分かったのか
「時深お姉ちゃん大丈夫〜?」
と心配してみるが、それで時深の気分が良くなるはずもなく
「うぅ〜気持ち悪い〜〜」
と時深はうずくまるのみ。
「オルファ殿ここは手前が看てみます」
と言ってウルカが診てみるが二日酔いなのは明白なので
「・・・二日酔いのようです・・・しかもかなりひどい・・・頼めますか?イオ殿」
とイオに振る。
「そうですね、とりあえずあれをします。」
とイオも快く承諾したのでウルカも準備しようと
「それがいいでしょう、さっ、時深殿、座ってください」
と時深に座るように促すが
「うぅ〜気持ち悪い〜」
と言って時深は起きない・・・いや起きれない。
それでウルカはその時深を
「しょうがありません、それでは失礼」
と多少無理矢理起こし、イオに背を向けさせた。
「ありがとうございますウルカ、さぁ、始めますのでちょっと抑えといてください。」
と言いながら準備の出来た時深に歩み寄ってくるイオに
「な、なにを?」
とフラフラと問う時深。
そしてその問いに応えるウルカ。
「ご安心を、酔いを醒ましてくれるそうです」
といった後ほどなくして
「はっ!」
とイオが『理想』を振った。
一陣の風が通りすぎ、爽やかな空気が部屋を満たす。
そして時深は
「うぅ〜気持ち悪い〜」
と治っていなかった。
「イオ殿、これはどうしたことですか?」
「分かりませんが・・・失敗でしょうか?」
と訳の分からない2人はただただ首を傾げるばかり。
「しかし手前は更に楽になりましたが。」
「それでは効かないのでしょうか?」
とウルカとイオがで長考し始めたとき
「その通りです」
とイオの頭に澄んだ声が響いた。
「ウルカ、今何か言いましたか?」
「いえ、何がでしょう?」
「いえ、いいのです・・・でもそれでは誰が?」
とその声に訳の分からないイオがウルカに聞く。
しかしその声すら聞いてないウルカは更に訳が分からないので首を傾げるばかり。
そして更に謎が深まろうとしてきたそのとき
「私です、【時詠】です」
とイオの頭に声が響いた。
「【時詠】ですか?」
「はい、【理想】を通して喋り掛けています。」
と聞き返したりしている行為は傍から見れば一人でただ喋っているように見えるのだが、ここにいる彼女たちにはこの行為自体が当たり前なのでそんなに驚くべき事ではなかった。
ただ他人の神剣と接触せずに話していることは特異なことだったが・・・
そしてイオと【時詠】の会話を進む。
「そうですか、それでは質問させていただいてもいいですか?」
「どうぞ。」
という会話を経てイオが質問を始める。
まず第一の疑問でもっとも大きな疑問である【理想】の効果が無いことである。
「何故【理想】の浄化の風が効かないのでしょうか?」
と言うイオの言葉に【時詠】はさも当然そうにこう答えた。
「私が遮っているからです」
と、考えてみれば存在概念が違うとはいえ元々の構成物質が自分たちと同じマナのエターナルに【理想】の浄化の効果がないわけはないのだ。
それを考えると神剣の干渉しか理由は見つからない。
しかしここで新たな疑問がイオの頭をかすめる。
何故そんなことをする必要があるのかということである。
そしてその疑問をイオが放っておくはずもなく質問は続く。
「何故でしょうか?」
「う〜ん、貴方の期待している答えと違うと思いますが、それでも聞きますか?」
という応答が続き能力とは関係ないことを暗に【時詠】は教えるが。
『参考のため一応聞いておきたい』
という意志を送るイオ。
さすがにこの辺はあのヨーティアの助手らしく好奇心満々である。
そしてそのイオの考えを聞いた【時詠】も静かに理由を話す。
「この子はいつも自制が効かなくて周りに迷惑ばっかりかけているので、少しお灸をと思ってですね」
「そうですか、それではしょうがありませんね。」
「いえ、お気遣いを無駄にしてしまって済みませんね」
とその理由に納得したイオ。
実際昨日の暴れっぷりを見ていれば誰でもそうだろう。
そして好意を無駄にしたことを謝る【時詠】。
ここまではみんなが持っていた疑問だった。
しかしこの後イオはしばらく自分たちの研究の事などについて聞きたいことを【時詠】に聞くことになる。
その内容は・・・作者が投げてしまったので不明です。・・・
まぁそんなこんなでイオの質問は終わりアドバイスの礼や別れの挨拶などを述べ始めた。
「ありがとうございました、おかげで研究が早く進みそうです。」
「いえ、これでこの子が動くことも少し減ったのでしばらくは時間も出来ます、むしろこちらが礼を言いたいくらいです。」
「いえ、ご苦労をおかけしました。」
「いえいえ、それではこれ以上の長話もなんなので、また。」
「はい、何から何までありがとうございました。」
「はい、それでは」
と長い会話に終止符が打たれると最初に待ちきれないという表情をしていたオルファが真っ先にイオに飛びついた。
「何だったの〜?」
「一種の試練だそうです」
と言うイオにオルファは要領を得ることが出来ない。
「試練〜〜?」
と言ってしまうのはその証拠。
「まあ、言ってみればここまでならないための予備みたいなものだと言ってました。」
と言うイオの説明にもまだ理解できずに一人考え始める。
まぁあの惨状を見ていないし、二日酔いなんて知るはずもないのだから理解できないのも無理のないことなのだが・・・
そしてその説明を聞いて悔やむ者が一人いた。
「くっ、そうと知っていれば手前も・・・」
という言葉を発したウルカである。
自分を律せず同じ様な状態に陥っていたことを恥じていたウルカはこれが試練だと聞くとさすがに悔しいのだろう。
その証拠に顔が真っ赤に染まっている。
そしてそんなウルカにイオは優しく言葉を掛けた。
「ウルカ、貴方には必要がないものらしいですからそう悔やまなくてもいいですよ」
「そうなのですか、でもしかし」
しかしウルカにはイオの言葉も慰めにならない様子である。
そしてそんなウルカに対して哀れと思ったイオはこういいだした。
「いえ、一種のいじめだと言ってましたから・・・」
「い、いじめですか?」
と呆気にとられるウルカ。
それも当然、神剣がそんなことで契約者をいじめるなんて事は聞いたことがないからだ。
しかしそんなウルカにイオはこう続けた。
「あの惨状の責任を取らすという【時詠】の言葉ですから貴方には必要ないんです。」
この強気な言葉の勢いに負けてウルカも渋々承諾した。
しかしそれで黙っていないのは時深である。
「と〜き〜よ〜み〜」
と【時詠】に迫っていき・・・
「ドサッ」
ベッドから落ちた・・・それも頭から。
「う〜〜〜〜よくも〜〜〜」
という時深、しかしこうなってはもう迫力も何も無しである。
「少しは周りを見たらどうです?」
とあきれ顔でいわれているのもその証拠である。
そして二日酔いの時深はその言葉にいじけてふて寝を始める。
そんな風になるともう手の付けられないのは酔っぱらいの常。
そのことが分かっているイオは時深にはもうすぐ朝食だと伝えてオルファとウルカと共に部屋を後にした。
そしていよいよ最後―――悠人―――の部屋に向かった。
3人が時深を起こしている頃厨房ではエスペリアが料理の仕上げにかかっていた。
「ここで塩をひとふりして、そしてコショウをほんのひとつまみ。」
という風にてきぱきと料理を仕上げていくエスペリア。
ここまで手際がいいとプロの料理人も裸足である。
そして程なくして最後の作業も終わり後はみんなが下りてくるのを待って盛りつけるだけである。
チッチッチッチッチ
『後どれくらいかな』
と待つエスペリア。
しかしまだだれも来ない。
チッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチ
と更に待っても誰も下りて来ないのでさすがに
『大丈夫かな?』
と料理の心配をしはじめるエスペリア。
心配なので時間がたっても大丈夫なように処理をする。
チッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチチッチッチッチッチッチッチッチッチッチッチ
と処理が終わって大分経った頃。
「ドサッ」
という音がした。
『なに?』
と疑問を持ったエスペリアは料理を冷えないようにして厨房を後にした。
そして階段を上ったところでイオ達3人に出くわした。
「なんだったんですか今の音は?」
と部屋を出たばかりの3人に問うエスペリア、その表情には何か大変なことでも起こったのではないかという心配の表情が張り付いている。
しかしその心配は気鬱である。
「いえ、時深殿が酔ってベッドから落ちられただけです。」
というイオの言葉で大したことが起こったのではないということはエスペリアに伝わった。
「えっ、それで時深様は大丈夫だったのですか?」
というもののその表情はイオの話し方から少し安心したものになっている。
「ええ、ちょっと【時詠】殿のせいでご機嫌斜めみたいでふて寝してますけど・・・」
というイオの言葉でそれは更に楽なものに変わり、エスペリアは時深の部屋になだめに行こうとする。
「あっ!今行ってはいけません、今行ったらひどい目に遭いますから。」
とエスペリアの腕をつかむイオ。
さすがに今行かすのはイオには気が引けるのである。
拗ねさせたのは自分なのだから・・・
だからみんなと一緒に食卓に出るようになだめようとしたエスペリアを止めたのだが、理由は他にもある。
「えっ、でも」
「私が行きますから、気にしないでお二人とで先に行っていてください。」
と躊躇うエスペリアに言うイオ。
これが第二の理由、エスペリアに悠人の部屋を回らせるというものである。
それ自体は大したことはないのだが、今朝はある仕掛けをしてあるのでエスペリアに行かす必要があるのだ。
「わかりました、それでは2人は下で待っていて下さい、すぐお起こししていきますので。」
と言うエスペリア、これでイオの策の第1幕は整った。
イオがそう感じ次の策を巡らしている内に声を掛けられた2人が順に返事をする。
「わかりました。」
と同意の返事をするイオ。
「オッケ〜、でも何かやること無いの?」
と同意に付け手伝いもかって出るオルファ、その行為にエスペリアは嬉しそうに口を開く。
「えーと、オルファ、それでしたら盛りつけをお願いします、まだ終わってませんから。」
というその声には途中で放り出してきて恥ずかしいというトーンと、早く食べられるようにと手伝いをしてくれるオルファの行為に対する嬉しさが1:5の比率で含まれていた。
そして笑顔でそういうエスペリアを見たウルカはその笑顔が更にいいものになることを願ってこう言った。
「それなら、手前も手伝います」
しかしその言葉を聞いた瞬間イオが少し慌てて
「やっぱりウルカも一緒になだめてください。」
とウルカに呼びかける。
その心理にはウルカがめちゃくちゃなものを作った時のことがあり、さすがに今そうなるとまずいということが頭にあった。
「はぁ。」
とそのイオの言葉に従うウルカ。
さすがにそのウルカを見ている2人の顔には苦笑いが張り付いていたがそれはそれで少し安心したようでもあった。
こうして役割分担が決まって
「よーしそれじゃあレッツゴーだよ」
という言葉によって4人ともそれぞれの持ち場に歩いて(走って)行った。
悠人の部屋
「ん?朝?」
と少しドタバタしている館の音で目を覚ましたアセリアは目をかすりながら体を起こす。
当然その格好は最初の紹介の時に部屋にいたときのように下着一枚というものである。
そしてまだ寝ている悠人を見て行動を始める。
「ユート、起きて」
と言いながら体を揺すり起こそうとする。
しかし昨日の疲れか悠人の反応も鈍く
「う〜ん、アセリア、もう少し・・・」
と全く起きる気配もない。
「ユート、もうすぐ、朝ご飯」
と更に強く揺すって悠人を起こそうとするが、それでも起きる気配はなく
「それじゃ〜それまで待って〜」
と更に布団に潜ろうとする。
そしてその悠人にこれは揺すっても起きないと判断したアセリアは悠人の上に馬乗りになり
「ユート〜」
とぽんぽんと跳ねる。
しかしそれはハイペリアで佳織がやっていた時のように悠人をさらなる眠りに導く心地の良い振動に過ぎず、悠人を起こすどころか更に深い眠りに導く。
そしてそうしている内にエスペリアがやってきた。
「ユート様お食事のご用意が出来ました」
とノックと共に用件を告げるエスペリア。
それに反応して
「ほらエスペリアが来た」
というアセリア、しかし悠人は起きるどころか
「う〜ん、昨日遅かったんだからもうちょっと〜」
といって更に布団の奥に逃げ込む。
「ユート様、起きてられないのですか?」
というエスペリアの声が響く。
それに反応してアセリアも跳ね方を強め
「ほらエスペリアが待ってる。」
と呼びかけ何とか悠人を起こそうとする。
しかし次に悠人の取った行動はアセリアも予想していないものだった。
アセリアは始め何が起こったのか解らなかった。
何しろいきなり腕を引っ張られたと思ったら次の瞬間には目の前が真っ暗だったのだから。
しかし体全体を覆う温もりを感じて何が起こったか理解した。
アセリアは悠人に抱きしめられていると。
そしてその胸の中アセリアはなおも悠人を起こそうと口を開く。
「ユート、エスペリアが待ってる、起きて。」
しかしその言葉も眠りの中の悠人には届かない。
「も〜ユート〜・・・こういうときは・・・えーと、そうだ!」
と起こしても全く起きない悠人に言葉じゃ無理だと悟ったアセリアは
「ユート、起きないんならこうだ。」
とある(男女が逆だけど)おとぎ話にあるとある行動に出る。
両手を悠人の首に回し唇に自分の唇を重ねて更に・・・といういわゆる目覚めのキス。
「くちゅくちゅ」
と水音が響き、悠人がはっとして目を覚ました。
そして
「失礼します」
というエスペリアの声が響き悠人の部屋の扉が開きエスペリアが中をのぞく。
そして起きたての2人と目があってエスペリアと悠人は硬直した。
そしてそのまま2人は赤くなっていく。
そして2人が固まっている中ただ一人へ依然としているアセリアが口づけを終えて言葉を放った。
「ん、エスペリア真っ赤。」
その言葉のには見たとおり言ったというだけの響きしかなく、2人のように狼狽えたものはなかった。
「えっ!?しっ、失礼しました。」
と我に返りとっさに部屋から出て扉を閉めるエスペリア。
『い、今のは・・・え、でもなんで?』
と状況を把握しきれず扉を背にしているエスペリアは心臓が早鐘を打っててなんだか訳が解らないといった表情をしている。
しかし言わなければならないことを何一つ言っていないことに気が付いて少し大きめな声で中の2人にこう言った。
「お、お食事の用意が出来ておりますので冷めない内にお早めに・・・」
そういってすぐに
「ん、わかった、すぐ行く。」
といった返事が返ってきたのでエスペリアはそのまま階段に向かう。
そして間の悪いことに途中でイオに出会ってしまう。
エスペリアは動揺していることを隠そうとするが直前にあの光景を見せられているのでイオにはばれたのか
「どうかしましたか?エスペリア」
と声を掛けられてしまう。
もちろん今までさらしていた醜態を更にさらすわけにはいかないのでエスペリアは場を取り繕おうとして
「いえ、何でも・・・それより、行きましょう!早くテーブルに座ってお食事を食べないと・・・」
と多少動揺しながら言う。
その言葉だけでイオは何があったかを悟ったのでそれ以上追求することもせずにその言葉に従って下りていった。
不敵な笑みを心の中で浮かべながら。
そしてその後ろについて階段を下りようとするエスペリアの顔には未だ紅潮が残っておりその心は
『なんとか、やりきった・・・でも朝からなんて・・・ラスク様・・・なんで貴方はここにいらっしゃらないのでしょう・・・』
と大きく揺れ動くのだった。
あとがき
久しぶりに投稿したSSで、なんと2月近くぶりというのですから何とも驚きの遅さです。
他の作家さんの爪の垢でも飲んで更正しろといわれても遅くない遅さで、待っていた人がもしいたとすれば申し訳ないです。
それはそうと今回は少し長くなりました・・・それも無意味に・・・
実は加筆修正しながらやったらこうなったのですが、内容が薄いのでこれを最後まで読んでくれた人には果てしなく感謝いたします。
さて今後なのですが、のんびりとした進行はもうしばらく続くものと予想され、話が展開していくのは2・3話後くらいというのがもっぱらの見通しです。
読みにくくて内容の薄いものになっていますが最後までおつきあいいただけると光栄でございます。
それではまた次のお話で・・・