作者のページに戻る







第四章  力試し







ここで一つ考えてみよう。
運命について。
運命とは、役割だと考える。
そう、世界という物語を演じるための役割だ。
人間は、その役割を演じるため生き続ける。
何も知らず。
何も思わず。
何も感じず。
しかし、物語から外れたものはどうすればいいのだろう。
道はいくらかあるがここでは三つほど紹介しよう。
一つは、観客になること。
一つは、物語を壊すこと。
一つは、外れたものをすべて滅ぼし、自らも滅ぶこと。
あなたならどれを選ぶ?
物語を在るがまま見ていたい?
すべてを破壊して、物語を無かったことにしたい?
それとも、どちらでもなく物語から外れた存在を消し去ってしまいたい?
選択するのは、あなた。
でも、あなたは物語の上演を賭けたゲームに参加してしまったのだから。
選択したいのなら生き残ってください。
願わくば、あなたの選択した道が、終わりなき道でないことを。









力試しといってもたいしたことは無いと思う。
なぜなら、戦力として求められているのだから死んでしまっては意味が無い。
(さて、どんな相手なのかな?)
『わからん、だがスピリットだろうな』
そりゃそうだろう。
スピリットじゃなきゃエトランジェの相手はできないらしいからな。
(これで普通の人間出てきたらやばいだろ)
『当たり前だ』
レスティーナ(王女の名前さっき悠人に聞いた)の話ならそろそろ来るらしい。
まぁ、誰が相手でもいいけど。
『そうだな、汝の望みを阻むものを消すだけだ』
怖いことを普通に言ったぞ、こいつ。
(消したらこの国のスピリット一人減っちゃうだろーが)
『む、そうかでは倒すのみだな』
こいつの性格がいまいち理解できん。
「テンマ、準備ができました」
準備ができたらしい。
「じゃあ行きますか」
そう呟いて、中央に向かう。




「あれ?」
目の前にいる人影、それには見覚えがあった。
「エスペリア」
こんなときでもメイド服を着たエスペリアが暗い顔をして立っていた。
なるほど、相手はエスぺリアってことね。
「それでは、エスペリア手加減はいりません」
「おいおい、本気でやれってことか?」
さすがに驚いて聞いてしまった。
「この程度でやられるものなど必要ないということだ」
王が答える。
なーるほど、弱いものに生きる価値なしってことかい。
くそジジィが。
「それでは、はじめ!!」




(さて、どうしたもんかね)
『油断するな、相手はスピリット油断はすぐに死に繋がる』
(わかってるって)
望みに語りかけながらエスペリアとの間合いを計る。
だいたい5歩ってとこか。
(しかし、あれも神剣なのか?)
どう見ても槍にしか見えない。
『うむ、我らの中には剣以外の形状をしているものも少なくない』
(ふーん)
そんなことを話していると、エスペリアが突っ込んできた。
「っ!!」
速い!!
「くそっ!!」
何とか左に飛んで避ける、それと同時に後ろに飛んで間合いを開ける。
今度は7歩分あけてある。
でもこれじゃ意味ねーな。
「はっ!!」
エスペリアがもう一度突っ込んでくる。
しかし、それを俺は右足を軸にして回転して避ける。
「くらえ!!」
さらにそのまま蹴りエスペリアの腹に叩き込む。
吹っ飛ぶエスペリア。
「やべっ」
つい力を入れすぎちまった。
しかし、何事も無かったように起き上がる。
おいおいおいおい、普通一日は起きれないくらいの威力だったぞ。
10メートルは吹っ飛んだし。
無言で槍を構えるエスペリア。
『無駄だ、スピリットに効果的なダメージを与えるなら神剣の力を使うしかない』
(つまり、神剣で攻撃しろってことか?)
『・・・・・・・・まあ、そんなところだ』
(なんだよ、今の間は)
『気にするな』
(あっそ)
エスペリアの攻撃は速い。
俺の速さを遥かに凌駕している。
だが、欠点もある。
そこさえ攻めれれば、何とかなるか。
一気に行くしかなさそうだな。
「はぁぁぁぁ!!」
エスペリア目掛けて一気に走る。
神剣の力なのか、一瞬でエスペリアの懐に入ることができた。
「もらったー!!」
一撃目で槍をはじく。
二撃目は、必殺の一撃をエスペリアの肩口に叩き込む。
だが、そこで異変が起きた。
俺の剣がエスペリアの肩口を切り裂こうとした瞬間、はじかれた。
「!!?」
動揺が一瞬判断を遅らせる。
その隙にエスペリアの反撃が来た。
「はぁぁ」
槍が、俺を切り裂こうと振り下ろされる。
俺は、後ろに飛んで交わそうとしたが、当然間に合うわけが無い。
「ぐはっ」
肩に、焼けるような痛みが走る。
何とか痛みをこらえながら、エスペリアから離れる。
肩を押さえながら状況を確認する。
肩はそれ程ひどくない。
血もたいして出ていないから、致命傷ってほどじゃない。
『大丈夫か?』
望みが聞いてくる。
(ああ、それより何で決まらなかったんだ?)
そう、それが問題だ。
肩なんてどうでもいい。
それより敵が目の前にいてこっちの攻撃が決まらない、これは問題だ
『マナによる障壁だ』
(障壁?)
望みに聞きながら、エスペリアを確認する。
まだ、動く気は無いらしい。
『そうだ、あれを破らん限り貴様の攻撃は当たらん』
(じゃあ、どうすりゃいい?)
『それ以上の力を持って破れ』
(できてりゃ苦労しない!!!)
なに言ってんだこいつは、それが出来てりゃさっきで終わってる。
『力を我に集中するイメージだ』
(・・・・それだけ?)
そんだけですか?
え、普通もっといろいろあるじゃん。
なんか、思いを込めろとか、心の眼を開けとか。
『馬鹿なこと考えるな』
(わかった)
なんか知らんが本当らしい。
なら、やってみるか。
「ふぅぅぅ」
眼を閉じる。
肺の中の空気をすべて出す。
この時間は、圧倒的な隙を作っている。
それと同時に、剣に力を集めるイメージをする。
体に力がいきわたるのを感じる。
眼を開ける。
ちょうどエスペリアが、走ってきている。
たぶん、今までの中では最速だろう。
当たれば死ぬ。
俺の中でそれは勝手にわかってしまった。
だからこそ、俺はエスペリアに向かって突っ込んだ。
「えっ?」
エスペリアが一瞬驚きの声を上げる。
その隙を逃さない。
エスペリアの間合いに入る。
「っ!」
エスペリアは、高速の突きを放つ。
甘い。
本来、槍は突きよりもなぎ払うほうが危険なのだ。
詳しくは知らないが、遠心力とあのリーチがあれば剣では話にならない。
しかし、突きならば一点に集中するため威力は上がるが、そのために軌道がすぐにわかる。
二撃目と同じように回転して交わす。
その遠心力を利用して望みをエスペリアの持つ槍に叩き込む。

ガキィィィィン

硬い抵抗と共にエスペリアの壁が崩れた。
そして、槍を吹っ飛ばす。
槍は、あらぬ方向に飛んでいった。
そのまま、剣を突きつけてゲームオーバーってとこだ。
「それまで」
レスティーナの声で俺は剣を収めた。





力試しを終えて、エスペリアは下がった。
「テンマ、あなたの力は、わかりました」
レスティーナが言う。
「うむ、これからもラキオスのため力を尽くすのだ」
今度は王が言う。
「はっ!!この命尽きるまで」
演技でもここはしっかりしないとな。
「テンマには、スピリットに宿舎に住んでもらいます、いいですね」
あそこか、いいところだな。
「ユート」
「はっ!」
俺の隣にいる悠人にレスティーナが言う。
「テンマを案内してください」
「わかりました」
最後に、王が終わりを告げて俺のお披露目会は終わった。
謁見の間から宿舎に続く廊下を悠人と歩く。
これから、ここでの生活が始まるのか。
まぁ、せいぜい利用させてもらうかな。
自然と口元が歪む。
願わくば、数え切れないほどの絶望と、一欠けらの希望をこの世界に。

作者のページに戻る